4.悪魔からの連絡

 再び佐々木からの電話が掛かって来たのは、大胆にも翌日の夕食時だった。やつはあえて家族団らんの時間を狙って来たのだろう。全く忌々しい。電話に出たのは奈々だ。

「パパ、佐々木さんからだって」
「もしもし」

 今のは娘か、娘もチェリーちゃんに似てスゲえ別嬪さんらしいじゃねえか、と最早下劣な品性を隠しもしない馴れ馴れしい口調で始まった佐々木の話は、とても千恵利達の前で応答など出来ないと思い、俺は携帯の番号を教えて時間を指定し、明日掛け直してくれと言った。佐々木はそれを予測していたのだろう、アッサリ承諾したのだが、切り際にやつが呟いた衝撃的な言葉で俺は眠れない一夜を過ごす事になってしまった。

「チェリーちゃんとのエッチは良かったかい? 明日感想を聞かせてくれよ。じゃあな」

ーー何でそんな事をコイツが知ってるんだ?

 千恵利が佐々木にしゃべったとしか考えられないではないか。だが、電話を切った直後、どちら様? と真顔で尋ねる千恵利の様子に、俺の頭は混乱する。もししゃあしゃあと知らないフリをしてるのならとんでもない性悪女と言う事になるが、とてもそんな風には見えない。いかなる事情があったにしても、千恵利が夫婦の秘め事について他人に口外するわけはないし、佐々木が口から出任せであんな事を言い俺をからかっているのではないかと思った。

 電話で話しただけの俺は佐々木の事をすっかり忘れていたわけだが、千恵利はやつにしつこくアプローチされていたのだ。もし佐々木に再会していればわかる筈だし、むしろやつの方が黙っちゃいないだろう。だがカフェの仕事について尋ね、昔の知り合いに会わなかったか、と聞いても、千恵利からは一言もそんな事を聞かされていない。では奴に何かの弱みでも握られて、俺に隠してるのか? 本当に楽しそうに職場に通い、生き生きと若返ったような千恵利に、そんな暗い影など微塵も感じられないのだが。

 俺はその日も千恵利に、仕事中何か困った事はなかったか、俺に隠してる事はないか、としつこく迫ったのだが、何の収穫もなし。どうしても彼女がとぼけているようには見えないのだ。そして情けないが、俺の方から昔彼女にフラれた佐々木について切り出す勇気もなかった。もし真実がわかったら、千恵利との幸福な生活が壊れてしまうかも知れない。そんな予感が俺を怯えさせ、行動を縛っていたのである。そしてその予感は残念ながら的中していたのだが、この時点で早くも俺は狡猾な佐々木のペースにはまり、身動きの取れない蟻地獄に足を踏み入れてしまっていたようだ。

 翌日佐々木に告げられた話は、予想だにしない意外なものであった。

「チェリーちゃんが教えてくれたんだよ。お前とセックスした内容の一部始終をな」
「嘘を吐くな」
「すぐには信じられねえだろうが、彼女はそんなプライベートな話を俺に話した事はまるで覚えちゃいない。それどころか俺と会った事すら記憶にねえんだからな」
「どういう事だ」
「自白剤ってのを知ってるだろう……」

 自衛隊を除隊していかがわしい商売に手を染めた佐々木は海外の人脈にモノを言わせて裏社会と通じ、一般には流通していない危険な麻薬類も手に入るのだと言う。その一つが外国でスパイの尋問などに使われる事があると言われる自白剤で、俺も耳にした事はあるが、そんな薬物が本当に存在するのか半信半疑であった。

「そんな薬物を使うなんて犯罪じゃないか」
「マジでヤバい自白剤なら麻薬だからそうだな。注射して意識を混濁させ、本人もわかんねえ内に真実を聞き出す、ってやつだ。下手すりゃ命にも関わるらしい。だが、最近じゃもっと手軽な飲み薬タイプの自白剤っつうんがあるんだよ。チェリーちゃんを危険な目に遭わせたりしやしないさ」

 佐々木の話によれば、効果の薄い自白剤でも効果的な尋問方法と組み合わせれば、完璧に本音を聞き出す事が可能なのだと言う。その「効果的な尋問方法」こそ、佐々木の編み出した真に危険な手段だったのだが、この時点では何の事やらサッパリだった。

「日本じゃ流通してないってだけだからな」
「それでも勝手に他人のプライベートを聞き出すなんて犯罪だろう。それに、千恵利の記憶にないって……俺は許さんぞ、そんな酷い仕打ちを彼女にしたんだったら」
「別にいいんだぜ、警察に訴えたって。だけどチェリーちゃんは本当に何も覚えちゃいない。無駄だと思うがな。それに今だって、コソコソしてるのはお前の方じゃねえか」
「それは……知らなかったからだ」
「ハハハ、この一ヶ月お前はカワイイ嫁さんが何をやってたか、とんと気付かなかったんだろ? チェリーちゃんを問い詰めたっていいんだぜ。お前は佐々木に薬を使われて、夫婦の夜の生活についてベラベラしゃべりやがったんだ、このバイタッ、とでもな」
「ああ、言ってやるさ。そして千恵利の記憶を取り戻して、貴様を訴えてやる」
「そうか。じゃチェリーちゃんと別れてもいい覚悟なんだな」
「おい、一体何を言ってるんだ!」
「実はこれまでにあった事は全て録画してある」
「何だって?」
「チェリーちゃんを抱いて、何も気付かなかったか? 俺に教えられた気持ち良くなる方法、いろいろタカ君とのセックスで試してみます、って嬉しそうに言ってたぜ。かわいそうにな、お前AVばっか見ててチェリーちゃんを抱いてやらないそうじゃねえか」
「やめろっ!」
「今晩、チェリーちゃんに教えて貰ったお前のメルアドに、一番いい場面を音声付きで送ってやるから、よく見て考えるんだな。彼女を問い詰めるなり、警察に訴えるなりは、その後にした方がいいと思うぜ。じゃあな」

 佐々木の話しぶりは自信タップリで、嘘を吐いているようには思えない。佐々木の言葉が本当なら、千恵利はやつに抱かれて、しかも俺との性生活について語る程の仲になっていたと言うのか。今日も千恵利は佐々木の待ち受けるカフェへと通っているのである。彼女の事ばかり考えて俺は何一つ仕事も手に付かない状態だった。今すぐ佐々木の店に駆け付けて、千恵利を救い出すべきではないのか。だが、佐々木が言い捨てた脅しに、俺はどうしても勇気が持てないでいた。何も細かい事情を知らないまま、軽率に動くべきではない、と自分を正当化したが、その実俺は最愛の妻を守ってやれない弱虫に過ぎなかったのである。この悪漢に見透かされているようで悔しかったが、結局俺はその夜問題の動画が届くまで怖くて何も出来なかった。

 先に帰宅していた千恵利はいつもと何ら変わりなく、玄関先で熱烈に出迎えてくれたし、彼女の得意な手料理で奈々も一緒に家族三人食卓を囲む、一見平和で幸福な家族団らんの時が過ぎる。だが俺の心の中だけはどす黒い雨雲が広がっているようで、何を食べても味がしなかった。そして「仕事があるから」と言い訳をして、俺は早々に夕食を切り上げ自分専用の書斎にこもる。

 本当は仕事など持ち帰ったわけではないので、ノートパソコンを開き佐々木からのメールを待つ間、俺はエロビを見てしまった。佐々木にからかわれたように、俺はあんな美形の妻を抱きもせず、娘には絶対バレないようにコソコソとAVを鑑賞しながらシコシコとせんずって一発抜くのが常だ。男のクズみたいだが、彼女との性生活が乏しい代わりにこれが日課のようになっており、他に何の趣味も道楽もない俺なので、優しい千恵利は寛大に許してくれているのである。こんな時まで本当にどうしようもないやつだと自分を卑下しながら、始まった動画に目を凝らした俺はホームウェアとしてはいているジャージズボンの中に手を入れた。最近のAV女優はレベルが高く、テレビタレント並の美人であるのは当たり前だ。このビデオはハタチ前後と思われる、まだ幼い感じの美少女がセーラー服だのメイド服だのナース服だのに扮しては複数の男の相手をする、無修正のコスプレ物だったが、千恵利や奈々に一寸似た感じの外見だったので、つい重ねて見てしまう。幼児体型のいわゆるロリ系女優なので、千恵利はもちろんの事、奈々だってこの娘より乳も尻も大きそうだ、などと思っていると余裕がなくなってしまい、俺はビデオの視聴をやめる。するとようやく佐々木からのメールが届いたのだが、添付されていた音声付き動画の内容は、無修正エロビも顔負けの予想以上に酷く悪質なものであった。




前頁/次頁






















作者二次元世界の調教師さんのブログ

女子校生を羞恥や快楽で調教するソフトSM小説が多数掲載。
また、詰め将棋、お勧めの単行本、懐かしのJ-POP紹介、広島カープ情報などコンテンツは多彩。


『新・SM小説書庫2』










COVER

投稿官能小説(3)

トップページ
inserted by FC2 system