俊の部屋。
今二人きり。
今まで何度か来たけど、俊の部屋はいつも飾りっ気がなくてシンプルだ。
俊の大好きなコーヒー。
この部屋で淹れてあげることが私の役目なの。
いつの間にか用意されていた私専用のカップがすごく嬉しくて。
つい笑みが零れてしまった。
「カップ買ってくれたのね?ありがとう……」
言おうと思って振り向くと、そこにはじっと見つめる黒い瞳が。
私と目が合うと少し逸らして「ああ」と少しぶっきらぼうに言った。
俊がテレてる……
ううん。
俊も喜んでる。
いいね。こういう感じって。
私にとって嬉しいことが、俊にとっても嬉しいことで。
二人こうして気持ちを共有できるって、とてもいいね。
香ばしいかおりが漂ってきた。
俊の大好きなキリマンジャロ。
淹れたてのコーヒーを両手で包んで俊に渡す。
「ありがと……」
そういうと俊の唇が頬に触れた。
キス……されちゃった……
赤くなる私を見て、俊もだんだん赤くなる。
「イヤ……だったか?」
私は首を思い切り横に振るので精一杯。
嫌なわけないじゃない。
大好きな俊のキスだもの。
初めてしてくれたキスだもの。
この身体中が熱くなる感じはなんなの?
「どうした……?メルモ……?」
名前……呼ばれ慣れてたはずなのに、なんだかドキドキしちゃう……。
見あげた俊の瞳に吸い込まれそうになる……。
(コトリッ……)
俊がカップをテーブルに置いた。
そしてふわりと私を包み込んで耳元で途切れ途切れい呟く。
「そんな顔……されたら……オレ……」
「え……?」
ごめん……その意味……わかってた。
だけど私……わかってたから……
俊の顔覗き込んでねだったの。
見たこともないくらいの真剣な瞳にドキドキしながら……
瞳を閉じて静かに待った。
さっきまで私の名前を呼んでいた唇が静かに私の唇に触れる。
温かくてやわらかな……
そしてちょっぴり苦いコーヒーの味。
「苦い……」
私はわざと顔を顰めてみせた。
すると少し驚いた顔をしてから優しく微笑んでくれた。
「メルモ……おまえは……甘い……」
「そうなの……?」
「チョコレートよりも……甘い……」
「チョコより……?」
「だから……」
せつなそうに呟く唇を私が迎えにゆく。
触れた唇はさっきよりも熱を増していた気がした。
ほんの数センチの距離で、
ほんの数秒のタイミングで、
したり……されたり……のキス……
俊と私……終ることを知らない。
キスも……
そしてこの気持ちも……
コーヒーが冷めても、冷めないふたつの心。
キス……キス……キス……
チョコよりも甘いキス……
そして
まもなく部屋の灯りが消えてしまった……
完
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