「どうして動物って裸なのかな?」

 僕は恋人の惠に聞いた。
 ここは動物園。
 お盆休みということもあって子供たちがたくさん来ている。
 この時期にクルマでデートをしても大渋滞に巻き込まれるだけだ。
 ふたりのデートは市内の動物園に行こうということになった。

「動物には、本物の毛皮があるからでしょう? お店で買うと本物の毛皮は高いわ」

 僕の疑問に惠が冗談っぽく答えた。
 檻の中のオランウータンがバナナを食べている。

「人間は?」と僕。
「服を着ないと恥ずかしいじゃない」惠は言った。
「でも君は喜んで裸になるよ」僕は惠の耳元で、声を潜めて囁いた。
「昼間っからエッチね」惠が、僕の耳元で返事した。
「動物って恥ずかしくないのかなあ?」僕は普通に惠に話しかけた。
 惠にだけは、この問いの“主語”が分かるはずだ。
「でも自然界の中では、それって当たり前でしょう?」惠がわざと真面目に答えた。


「そうだよな。君が裸の猿だったら面白いな」オランウータンが檻を昇っていく。

 ちょうど人の群がとぎれた。
 僕たち以外、誰もいなくなった。

「今、変なこと考えていない?」
「いや、別に」

 僕の言葉に、惠が意見を言った。

「私思うんだけど、女がみんな裸だったら、男って近づかないんじゃない?」
「そうかな?」
「ホモサピエンスの裸のメスって、服を着ないときれいじゃないわ」
「オスは君の裸を見たら前を押さえるよ。裸だと歩きにくくなるから困るな」

 僕は冗談めかしていった。
 オランウータンのメスの赤い性器が僕の目に入った。

「バカね。ヒトは服を着ているからこそヒトなのよ」
「そうかもね。最初から裸だと、脱がせる楽しみも見る楽しみもなくなるね」
「エッチね。女は恥ずかしがるからいいのかしら?」
「どうかな。でも君は、服を着ても着なくても、可愛くて素敵だよ」


 僕は耳元で囁くと、惠の口に速攻でキスをした。
 惠も僕に応えてくれる。
 ちょうど家族連れのホモサピエンスの声が聞こえた。
 僕たちは慌てて離れた。

「こういうのも進化の結果なんだろうね」僕は惠に囁いた。


























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