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「女の子は身だしなみ」と女子高生のめぐみは思っている。
だから体育は嫌い。
汗をかいて汚れるのは許せない。
まして今日は持久走の後だから特に大変。
身体中が汗で自分でも嫌になる。
さわやかで清潔な女の子でいつもいたいの……
短い休み時間に身だしなみを整えるのは並大抵のことではない。
体育で疲れた顔から、学校中の男子から人気のメグスマイルを早く取り戻せないといけない。
(もうチャイム!)
もっとしっかり手入れをしたいのに非情なチャイムが鳴り響く。
慌てて髪に櫛を入れると女子更衣室からダッシュ。
階段を掛け登るしかない。
放課後、めぐみは職員室に呼ばれた。
悪いことをした覚えがない。
職員室では25才の担任が黙々と採点をしていた。
めぐみをちらりと見ると、
「落とし物だそうだよ」
と引き出しから学校指定の紺の袋を出すと机の上に置いた。
「階段で落ちていたそうだ……」
めぐみの顔も見ずに採点を続けている。
「拾ったのがクラスの生徒で良かったな」
と淡々と続けた。
抑揚のない口調が癖だ。
悪く言うなら歳の割に若さがない。
「ありがとうございました」
礼儀正しく礼を言いながらめぐみは内心焦った。
女子更衣室に忘れたとばかり思っていたのに。
(どうして私のって分かったのだろう?)
めぐみは廊下を歩きながら袋の中を覗いた。
袋には名前が書いていない。
中に入っている衣類も名前を書いていない。
衣類の畳み方が少しゆがんでいる。
体育のハーフパンツに隠すように入れてあったスポーツブラが奧に押し込んである。
泥で汚れた靴下もタオルで包んであったのに無造作に入れてある。
(誰かが中を見たんだ。クラスの誰だろう?もしかして男の子?)
それにしてもめぐみのものって分かったのはどうしてか疑問だった。
(ああ、最低!)
めぐみはため息をついた。
小学校の頃から使っているエチケット袋が入っていた。
小学校の頃の下手な字で裏に名前が書いてあった。
体操着も、ハーフパンツも、スポーツブラもめぐみのものっていう動かぬ証拠になっている。
めぐみの顔が耳まで真っ赤になった。
持久走の後のように心臓がどきどきした。
見えない拾い主への不安が広がる。
かわいいめぐみのイメージが崩れていく。
(噂になったらどうしよう)
幸い何かを持って行かれた形跡はない。
でも拾い主はめぐみのことを知っている。
Bカップのスポーツブラを使っていることも、某社のナプキンを使っていることもばれてしまった。
明日には男の子たちの噂になっているかも知れない。
先生だってめぐみの方を見なかったのは中を見たためとも考えられる。
(しばらく学校休もう)
めぐみは真面目にそう思った。
相手には非がないだけに、気持ちのやり場に困り果てた。
完
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