第3話「目撃者」

「悪いことをしたのは僕たちの方だよ。めぐみを家族扱いしなかったんだもの」
「そうでしたね。でも私は家族じゃないから仕方がありませんわ」
「いや、同じ屋根の下でずっといっしょに暮してきたのにあの扱いはいけないよ。絶対に」
「そのお言葉だけでも嬉しいですわ」
「めぐみ……」
「はい」
「君が好きだ」
「……」
「どうしたの? 僕から好きだって言われるのが嫌かい?」
「いいえ、決してそれはありません。それどころかとても嬉しいです。だって私も俊介さんのことを……」
「僕を好きだと言ってくれるの?」
「はい」
「ありがとう、めぐみ……」

 プールに下半身を沈めたまま、俊介はめぐみを抱き寄せ、そっとキスをかわす。
 そんなふたりの甘いみそかごとを、獲物を狙うハゲタカのようなまなざしで見つめている男がいた。
 それは執事の磯野であった。
 めぐみと俊介がまもなく織りなす艶やかな世界を余すところなくしっかりと目に焼き付けていた。

◇◇◇

 めぐみは着衣のまま後手に縛られ、椅子にどっかと陣取る泰三の前に立たされていた。
 胸元を絞めつける二本の縄の間からは、みずみずしい乳房がはみ出している。

「そんなことしてません……。俊介さんとはそんな関係ではありません……」
「そうか。何もしていないのか? ふっふっふ……」

 ペチョペチョと乳房を舐めるいやらしい音がする。
 泰三はめぐみに問い掛けながら、執拗に乳房をなぶる。
 乳房を入念に揉みしだきながら、時折絞るようにギュッと強く握り、飛び出した乳頭を舌先でしゃぶりあげた。

「ひぃ……! 旦那様ぁ、や、やめてください!」

 向かって右の乳房を口に含んで舌で乳首を翻弄する。
 絡めたり……舐めたり……
 向かって左の乳房は左手で全体的に揉みながら乳首を刺激する。
 時々、つねったりもする。
 さすがに泰三のテクニックは堂にいっている。

「うまいぞ、めぐみ。うまい乳をしておるぞ。ふっふっふ」
「ああっ……許してください……旦那様……お願いです……」
「まあ、そう嫌がるな。それにしてもよいオッパイじゃのう。磯野、お前もそう思わんか?」

 めぐみが泰三に責められる様子を、先程から無言で見つめている執事の磯野に泰三は問いかけた。

「はい、おっしゃるとおりでございます。誠に美しい乳房でございます」
「やはりお前もそう思うか」

 泰三はめぐみに意外な質問を浴びせた。

「ところでめぐみよ、胸のカップはどのぐらいある?」
「そんなこと言えません……」
「いいではないか。教えなさい」
「Cです……」
「ほほう、磯野、聞いたか? Cカップらしいぞ」
「はい、大きさとしては平均的かと思いますが、形状が実に美しいと思います」
「磯野、さすがに女のことは詳しいな。かつては『百人切りの磯野』と異名をとったのも伊達ではないだろう。はっはっはっはっは~」
「旦那様、私の古いことなど、どうでもよいではありませんか。それよりもめぐみに例のことを……」
「ああ、そうだったな」

 口元に淫靡な笑みを浮かべた泰三はめぐみの乳首をギュッとひねった。

「い、痛い! だ、旦那様、どうかお許しください……」
「では、めぐみ、もう一度聞く。正直に答えるんだぞ。今、正直に答えたら、酷いことはしないと約束しよう」
「本当です! 信じてください! 俊介さんとはそんな関係じゃありません!」
「まことか?」
「は、はい……」
「ん? 返事をするとき、なぜ目が泳ぐのかな?」
「そんなことは……」
「嘘をついているからだよ」
「嘘なんかついていません!」
「まだしらを切るつもりかね!? では、磯野、例のことをめぐみに話してやりなさい!」

 磯野は眼鏡をキラリと光らせて数日前の出来事を語り始めた。

「旦那様が出張されてから二日後のことでした。私はその日、俊介様がめぐみを伴って庭の方に向かう姿を見かけました。メイドのめぐみが仕事を放棄している訳ですから、管理職の私としては黙って見過ごすわけには行きませんでした。それでこっそりとふたりの後をつけることにしました。
 脱衣室で水着に着替えて出てこられた俊介様はプールサイドで柔軟体操をされていました。まもなくめぐみがプールサイドに現れました。めぐみが着用していた水着はかなり刺激的なビキニでございました」
「ふむふむ、なるほど」

 磯野の詳細にわたる報告を聞いていためぐみは、全身の血が凍りつくような気がした。

(まさか磯野さんに見られていたとは知らなかったわ……大変なことになったわ……)

「で、その後は……?」

 磯野の報告をめぐみは針のむしろに座る心地で聞いていた。

(あぁ。俊介さん……助けて……)

 運悪く俊介は現在執筆中の『紀行』を取材するため、北海道に出かけ留守をしていた。
 あと三日は帰ってこないだろう。

 磯野はつづきを語り始めた。

「俊介様とめぐみはプールサイドでしばらくの間、何やら会話を交わしていました。しかし残念ながら私がいた場所からは話の内容は分かりませんでした。まもなく二人は水の中へ入っていきました」



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