第1話“道玄坂のカフェ”

 4人が集まる時は道玄坂にあるカフェと言うのが定番になっていた。
 みんなの通学経路やバイト先を考えると新宿の方が便利なのだが、ありさと球お気に入りのランジェリーショップが偶然渋谷周辺に集まっていたこともあって遊ぶときは渋谷界隈が多くなっていた。
 俊介と浩一も彼女たちといっしょにランジェリーショップに入ることに最近は抵抗がなくなっていた。
 女性下着には男性下着にはない美しさ、キュートさ、そしてセクシーさがある。
 それらが店内に所狭しと飾ってあるのを目の当りにできるのだから、彼らにとってはまさに目から鱗の心境であった。
 ランジェリーショップという特殊空間は、男性が入店すると冷たい視線を浴びせられることが少なからずあるものだが、屈託がなく明朗さに溢れた彼ら4人に嫌な視線を送る者は皆無であった。

 ありさと球とは高校時代からの親友であり、進学後もその仲の良さは変わることがなかった。
 ありさは2年前にあるスポーツジムで俊介と劇的な出会いを果たした。
 以来2人は急速に接近し、今では誰もが羨むような仲睦ましいカップルとなった。
 1年前、当時元彼と別れて落ち込んでいる球を励ますため、ありさは俊介にコンパ開催を依頼した。
 その時に球の前に現われたのが長身でスポーツマンの浩一であった。
 球と浩一は出会ったその日に双方とも一目惚れしてしまい、その後とんとん拍子に進行し、今ではありさ達に負けないくらいの熱愛カップルになってしまった。

 4人はそれぞれカップルでデートを行なうことが多かったが、時々ダブルデートを愉しんだ。
 特にスポーツ、遊園地、映画鑑賞の時は必ずといって良いほど4人だった。
 今日も封切りしたばかりの映画『ハリハリ・ポッター』を4人で観た後、カフェで正月旅行の打合せを行なった。

 球「にゅう~、それじゃ温泉に行くことで決まりだね?」
 ありさ「にゃんにゃん~、ありさも温泉行きたいな~」
 俊介「あれ?ネコは風呂が嫌いじゃなかったのか?」
 ありさ「もう!ありさはネコじゃないもん!ぷんにゃん、ぷんにゃん!」
 球「でも、ありさは限りなくネコに近いもんね。人間とは呼べないよ。まあネコミミってとこかな?」
 ありさ「もう、球までがそんなひどいことを言うんだからあ~、大嫌い!(バリバリ!フ~~~)」
 球「ひゃあ~!引っ掻かないでよ~!」
 浩一「あ、ちょっと待って」
 俊介「浩一、どうしたんだ?」
 浩一「いや、温泉も悪くはないんだけど、よく考えてみると親父の別荘があったぞ。別荘だったら宿泊賃もいらないし小遣いがかなり浮くことになるぞ」
 球「にゃっ?別荘を持ってるの?」


第2話“旅行計画”

 浩一「持ってると言っても親父のだけどさ」
 ありさ「にゃんにゃん~、別荘どこにあるの?」
 浩一「うん、湘南の葉山ってところにあるんだ」
 俊介「ひぇ~、湘南だって?すごいじゃないか~」
 球「わあ、球、行ってみたいな~」
 ありさ「ありさも行きたい~。白いビキニを着てね・・・サンダルも白にして、それからね・・・」
 俊介「ばかっ。今、夏じゃないんだぞ!風邪引いちゃうじゃないか、全くもう」
 ありさ「あ、そうだったか、でへへ~。湘南って聞くとつい水着を連想しちゃうもんで」
 球「でも、ありさの気持ち、分からなくもないわ。女の子はいつもお洒落して楽しみたいのよね~」
 浩一「ふうむ、そう言うものか」

 正月旅行は温泉でほぼ決まり掛けていたところへ、浩一の提案で急遽湘南と言うことに変更された。

 球「別荘って自炊なの?」
 浩一「うん、まさかメイドさんまではいないよ~」
 球「にゃはは、それもそうだろうけど、上げ膳据え膳を考えていたのになあ~」
 ありさ「でもいいじゃん!わたし達の腕の見せ所かもねえ」
 球「ありさ、料理作れるの?」
 ありさ「もう!失礼しちゃうわあ~、わたし、こう見えても料理は自信あるのよお~」
 俊介「それは楽しみだ。でもオレ達も手伝うよ。みんなでスーパーへ買出しに行くのも楽しいしね」
 ありさ「にゃんにゃん~、ありさ、すき焼きが食べたい~♪」
 俊介「すき焼か。それはいい!」
 球「わたしはバーベキューがいいかも~」
 ありさ「にゃんにゃん、昔々、西洋のある国にキューという美しい娘がおりました。キューはソース作りが大変上手で、街中の評判になりました・・・」
 球「ん?」
 俊介「それで?」
 ありさ「いつの頃からか彼女が作ったソースを人々は『バーベ』と名付けました」
 浩一「ぷぷっ、それで?」
 ありさ「何で笑うのよ!」
 浩一「あ、ごめんごめん」
 ありさ「人々は肉や野菜を串に刺して焼いた時、必ずその『バーベ』というソースを使うようになりました。その頃から串に刺して焼いた食べ物を『バーベキュー』と呼ぶようになりましたとさ。おしまい」
 俊介「わはははは~!す~ごいこじ付け!」
 ありさ「もう!俊介ったら大嫌い!」
 俊介「ああっ、すまない!すごく面白かったよ~」
 ありさ「本当に?」
 俊介「本当だよ。なあ、浩一?」
 浩一「うんうん、即興ですごいストーリー浮かぶんだね~」
 球「にゅ~、ありさはこう見えても頭いいのよ」
 ありさ「こう見えてもってどう言うことなの~」
 球「ええ?いやあのその、ありさはね、本当は賢い子なんだけど、バカっぽく見せてるってこと」


第3話“カフェを出て”

 ありさ「それって喜んでいいのか、悲しんでいいのかよく分かんな~い」
 俊介「球はありさが賢い子だって言ってくれてるんだよ」
 ありさ「そうなの?良かった~」
 球「ほっ」

 ありさは俊介の言うことは何でも素直に受け止めることができた。

 浩一「ぼちぼち、ここ出ようか?ランジェショップに寄るんだろう?」
 球「にゃ?ランジェ~♪浩一?」
 浩一「ん?なに?」
 球「こうして見ると浩一ってハンサムだね~」
 浩一「いやあ、それほどどでも無いと思うんだけどな~。ははは」
 球「ねえ?」
 浩一「なんだ?」
 球「ピーチ・ジョナサンに新しいランジェが入ったんだけど、わたし欲しいの」
 浩一「買えばいいだろう」
 球「え?買ってくれるの?」
 浩一「ご自分でどうぞ」
 球「ひ~!ケチ」
 浩一「そんなこと言ったって。オレだってまだバイト代が入ってないんだからさ」
 球「いいもん。じゃあ俊介に買ってもらうから」
 俊介「バカ言え!何が悲しくて友達の彼女の下着までオレが買わなきゃいけないんだ!冗談言うなよ!」
 ありさ「球、だめえ~!俊介におねだりしちゃだめだよ~!」
 浩一「ほら、ありさが爪を立てて怒ってるじゃないか」
 俊介「とにかく行こうよ。その後まだ行かなきゃならないとこあるだろう?」
 浩一「そうだな。んじゃ行こうよ」
 球「にゃ?どこどこ、ランジェ買った後どこに連れてってくれるの?」
 ありさ「球、そんなの決まってるじゃない~」
 球「どこなの?」
 ありさ「ラブホ~♪」
 浩一「・・・」
 球「・・・」
 俊介「しっ!ありさ、声が大きいよ。周りのお客さんがみんなこっちを向いているじゃないか。ああ、恥ずかしい・・・」
 ありさ「にゃにゃにゃあ~」

 ありさが放った一言で、周囲の客の注目を集めてしまった。
 隣席のカップルはくすくすと笑っている。
 ありさ達はその場に居づらくなって、急いでカフェを出た。

 外はもうすっかり日が暮れて、ビルの灯りやネオンが灯っている。
 ランジェリーショップはこの道を真っ直ぐ進んだところにある。
 ありさ達は道玄坂を下った。

 球「俊介、ところで別荘ってどのくらいの広さなの?」
 浩一「う~ん、洋室が4つあって、リビングルームとダイニングキッチンが確かあったかな?あ、それとロフトもあったよ」
 俊介「4LDK+ロフト付きか。4人だったら十分過ぎる広さだね」
 ありさ「にゃんにゃん~!やった~!」
 球「ありさ、どうしたの?」
 ありさ「広いってことは色ん~な部屋で色ん~な格好でエッチできるねえ~。愉しみだにゃんにゃん~♪」

 またもや放ったありさの一言に3人は唖然とした。

 球「はぁ・・・」
 浩一「ひぇっ・・・」
 俊介「どえっ・・・」


第4話“ランジェリーショップにて”

 球「全くもう~、ありさはそれしか考えてないの~?」
 ありさ「じゃあ、球は興味がないのお?」
 球「いやぁ・・・そりゃわたしだって興味がないわけじゃないけどさぁ」
 俊介「ありさ、オレ達だけで行くんじゃないんだから、ちょっとは遠慮しなきゃあ」
 ありさ「あっ、そうだねえ。じゃあ、いつもみたいにキッチンじゃできないの?俊介」
 俊介「お、おい!ありさ!そんなことをこんな道の真中で・・・まずいよ!」
 浩一「ははは~、まあ、いいじゃないか。正直なんだから、ありさは」

 球「にゅ~、ピーチ・ジョナサンに着いたよ~」
 ありさ「わ~い、どんな下着を買おうかなあ~」
 球「わたしはダルメシアン柄の上下が欲しいな~。もちろんTバックで~」
 ありさ「にゃんにゃん、わたしはシンプルな白コットンがいいなあ」
 球「マジで?この店にはそんなの置いてないよ~」
 ありさ「そうなの?残念だなあ~」
 球「ありさはセクシーなやつや可愛いのが欲しくないの?」
 ありさ「だって、俊介が白のコットンが一番好きなんだものお」
 球「そうなんだ。で、俊介の好みに合わせようって言うのね?ありさって健気だね~」

 ふたりの会話を後から聞いていた俊介が割って入った。

 俊介「オレのことはいいから自分が欲しいのを買えばいいんだよ」
 ありさ「いいの?でも俊介は白のコットンが大好きなんでしょうお?」
 俊介「いいってば」
 ありさ「だって、俊介はわたしがシンプルな白コットンを着けた時一番興奮するもん♪」
 俊介「ま~た、そんなことを暴露して!ここはもう店内だぞ!恥かしいじゃんか」
 球「にゃ?ありさ、一番興奮するって他の下着を着けた時とどう違うの?」
 ありさ「うふふ♪言ってもいいのお?」
 球「小さな声でね」

 球がありさの口元に耳を近づけた。

 ありさ「うふ、あのね」
 球「うんうん」
 ありさ「他の下着の時よりも数段硬くなっちゃうのお~。それがね、ナニが反り返っておへそに付くくらいに(ヒソヒソ)」
 球「うそっ?マ、マジで??」
 ありさ「マジマジ~♪」
 球「へ~、下着でそんなに変わるんだあ。男ってそんな単純なものだねえ。浩一はどうかなあ?あんまり考えたことないけど」
 ありさ「じゃあ、後でチェックしてみる?」
 球「みるみる~♪」

 浩一「おい、ふたりで何をこそこそ話しているんだ?」
 球「えへへ、ナ・イ・シ・ョ」
 ありさ「にゃにゃにゃん、ナイチョ~」
 浩一「ところで球、ダルメシン柄見つけたぞ」
 球「どれどれ?」

 浩一が示した場所にはダルメシアン柄のランジェリーがずらりと飾られている。
 球は早速、ブラジャーのサイズをチェックした。


第5話“お目当ての下着”

『70C』・・・ちょっとキツイかも知れない。
 球はその隣にあった『72.5C』を手にとった。

 浩一「球、この数字がアンダーバストを示しているってことはこの前聞いて分かったけど、アルファベットがワンランク変わる毎にサイズってどれだけ変化するの?」
 球「にゅ~、なかなかいい質問するね~。え~とね、2.5センチ変わるのよ~」
 浩一「ふうむ、そうなんだ」

 ありさ「にゃあ~、球?ねえこれ見て見て~、すごく変わった素材だよ~」

 ありさは白いパンティを手に翳してはしゃいでいる。

 球「ありさ、いいのが見つかったの?」
 ありさ「ほら、これ触ってみて?すごくいい感触だよ~。まるでガーゼを触ってるみたい~」
 球「あっ、これって『オン・ゴサマー』ってブランドだね。少し前まで『オン・ゴザーメ』って名前だったんだけど1、2年前に変わったらしいの」
 ありさ「球、よく知ってるんだねえ」
 球「毎月雑誌を送ってくれるので偶然知っていたのよ。ふ~ん、でも触るの初めてだよ、さわり心地いいね」
 ありさ「そうなんだぁ。肌に優しそうだし、穿き心地が良さそうだねえ~」
 俊介「ふうむ、変わった下着だね」
 ありさ「にゃんにゃん、俊介。ちょっと触ってみてえ?」
 俊介「え?男が触ってもいいのか?」
 ありさ「本当はね、男の人が下着屋さんで触るのはNGなんだけど、今日だけいいことにしよう。どう?触り心地は?」

 俊介は純白のパンティを手にとり、触り心地を指で確かめた。
 それがどういう訳か、わざわざクロッチの表裏を指で擦ったため、ありさと球は爆笑した。

 球「にゃっ!俊介、エッチ~。わざわざクロッチを擦らなくても感触が分かるでしょう?」
 俊介「あ、そうか。つい癖が出て」
 球「きゃははは~!いつもありさにそんなことしてるんだね?」
 ありさ「にゃんにゃん~♪球、どうして知ってるの~?」
 球「やっぱり・・・」
 浩一「ふうむ、俊介にはそんな性癖があったか。いくら友達でも男同士だと分からないもんな」
 球「分かったら恐いわ」

 俊介が手にした下着はガーゼ状の素材でできておりとても薄く、透け防止のためもあってクロッチ部分は裏側に当て布が施されていた。
 俊介も刺繍などないシンプルさがいたく気に入ったようで、ありさにオン・ゴサマーの購入を勧めた。

 結局、ありさは白のオン・ゴサマー上下と、水色レースのGストリングス上下の2着を購入した。
 球はダルメシアン柄のブラ・Tバック・キャミソールの3点セットとオレンジ色で総レースのタンガ上下を購入した。

 4人はランジェリーショップを出てから、駅とは反対方向に歩き始めた。
 目指すのは妖しくネオンきらめくホテル街である。

 球「ありさ、素敵な下着が見つかって良かったね」



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ありさ
















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