ファンタジー官能小説『セクスカリバー』

Shyrock 作



<第43章「決戦ムーンサルト城」目次>

第43章「決戦ムーンサルト城」 第1話
第43章「決戦ムーンサルト城」 第2話
第43章「決戦ムーンサルト城」 第3話
第43章「決戦ムーンサルト城」 第4話
第43章「決戦ムーンサルト城」 第5話
第43章「決戦ムーンサルト城」 第6話
第43章「決戦ムーンサルト城」 第7話
第43章「決戦ムーンサルト城」 第8話
第43章「決戦ムーンサルト城」 第9話
第43章「決戦ムーンサルト城」 第10話
第43章「決戦ムーンサルト城」 第11話
『セクスカリバー世界地図』




<登場人物の現在の体力・魔力>

シャム 勇者 HP 1350/1350 MP 0/0
イヴ 神官 HP 1050/1050 MP 1140/1140
アリサ 猫耳 HP 1080/1080 MP 0/0
キュー ワルキューレ HP1210/1210 M680/680
マリア 聖女 HP 880/880 MP 1260/1260
チルチル 街少女 HP 840/840 MP 0/0
ウチャギーナ 魔導師 HP 930/930 MP 1210/1210
リョマ 竜騎士 HP 1450/1450 MP 0/0
エンポリオ アーチャー HP 1070/1070 MP 0/0
メグメグ 武術家 HP 1250/1250 MP 0/0
エリカ ウンディーネ女王 HP 890/890 MP 1250/1250
シャルル 漁師・レジスタンス運動指導者 HP 1420/1420 MP 0/0
ドルジ 騎馬戦士 HP 1280/1280 MP 0/0
サラーナ 赤魔導師 HP 1000/1000 MP 1070/1070
モエモエ 竜魔導師 HP 950/950 MP 1250/1250
ジュリアーノ 剣士 HP 1300/1300 MP 0/0

⚔⚔⚔

ユマ 姫騎士 HP 700/1120 MP 0/0
ソニア 侍女(幽霊) HP -730/-730 MP 550/550
ジン 将軍 HP 1150/1150 MP 0/0
トマーゾ 幽霊騎士団団長 HP -1200/-1200 MP 0/0



⚔⚔⚔



第43章「決戦ムーンサルト城」 第1話

看守A「おい、あの男か? 捕らえられた光の魔導師というのは?」
看守B「そうだ。何でもスケルトン5体の頭を一瞬で吹っ飛ばしてしまったらしいぜ」
看守A「ちょっとちょっと、やばいじゃねえか」
看守B「心配するな。MPを全部抜いてある」
看守A「MPって簡単に抜けるのか?」
看守B「ネクロマンサーのエレジー様なら簡単さ」

 がいこつ姿の看守2人が雑談している。
 
 彼らの視線の先には、鉄格子に囲まれた薄暗く湿っぽい牢獄がある。
 囚われの身ルシウスは薄汚れた床に膝を抱えて座りこみ、うなだれ思案に耽っていた。

ルシウス「ああ、俺は光の魔導師失格だよなあ。もうおしまいだなあ、アンデッドなんかに捕まってしまうなんて……」

 と、ため息混じりに独言を漏らした。

 そもそもなぜ光の魔導師ルシウスが捕らえられたのか。
 ユマ姫の配下としてリッチに楯突いたわけでもない彼が……
 これにはネクロマンサーのエレジーが大きくかかわっている。
 ネクロマンサーとは、死者や霊を介して魔術を行う職業である。
 つまり死体を操りゾンビやスケルトンを作り出す魔術師なのだ。
 リッチは悪霊の中でも最強であり最高位の存在だが、残念ながら死体を操る能力はなく、それはすべてネクロマンサーのエレジーに委ねていた。
 ところがそのエレジーもかなりの高齢者になってしまった。人である限りはいつかは死が訪れる。アンデッドになってまで行える職業ではない。
 つまり早期に後継者の育成しなければならなかった。

 ネクロマンサーになるには並外れた高い知能が求められる。
 エレジーが探したところ、この地域で眼鏡にかなう若者が3人いた。
 その中でもとりわけ優秀だったのがルシウスだった。
 彼は魔法学校で光の魔法を学んでいた。その実力は図抜けておりいつもトップの成績をおさめていた。
 そんな彼を誘拐するため、エレジーとスケルトン兵が学校の帰り道を待ち伏せした。
 彼は奮戦したが、エレジーにMPを奪われ、いとも簡単にスケルトン兵に捕らえられてしまった。

 MPを奪われたとはいえ、魔物最弱と言われているスケルトンに負けるとは、何という屈辱だろうか。
 ルシウスは自分の弱さを嘆いた。

ルシウス「こんなに力がないなら、魔導師になってもどこも雇ってくれないなあ……」

 実にネガティブである。実に悲観的である。実に弱気である。

 ルシウスは、ぐっと拳を握りしめる。
 何の魔力も蘇らない。
 ただのなまっちろい小さな拳だ。

ルシウス「あのエレジーというじいさん、変なことを言ってたなあ……将来育成してネクロマンサーにしてやるとか……冗談じゃないよ、死者復活の仕事なんて嫌だよ。絶対にイヤ。イヤ、イヤ、イヤ~」

 ぶつくさ言っていると、ガイコツ姿の看守が食事を運んできた。
 トレイにはパンが1個とスープが乗っている。
 今朝の食事は、イモムシの盛り合わせだったので気持ち悪くて食べられなかった。
 パンならと齧りついてはみたものの、やたら酸っぱくて、よく見ると緑色のカビが繁殖している。

ルシウス「うえっ……こんなの食べたら絶対に腹をこわすよ……」

 スープを飲んでみたが、こちらもぬるいし、水臭いし、何のスープかよくわからない。

ルシウス「おい、看守、もうちょっとましなものを持ってこれないのか?」

 看守に文句を言うと、返ってきた言葉は一言。

看守A「嫌なら食べなくてよい」

 はぁと大きく溜息をつくルシウス。
 せめて魔力が残っていたらこんな牢獄など壊してやるのに、再び拳を握るが魔力の「マ」の字も出ない。
 魔法学校では優等生で通っていたし、なんてざまだと落ち込むことしきり。

ルシウス「ああ、腹が減った……」

 ぶつぶつとぼやいていると、暗い牢にふっと声が落ちてきた。

?「静かにしてくれない? いい加減うんざりしてるんだけど」
ルシウス「……っ!?」

 あまりに突然の声に、ルシウスは驚きを隠せなかった。
 明らかに若い女性の声だ。

?「ああ、私は隣の牢の者よ」
ルシウス「……女の子?」

?「うん、女子よ」

 まだ若い感じだが、落ち着いた声。
 だけど、どこか気品が感じられる。
 牢獄には似つかわしくない声音だ。

 ルシウスは壁の向こう側の人物に問いかけた。

ルシウス「あんたも囚われているのか?」
?「うん、捕まっているの」
ルシウス「何をやらかしたんだ?」
?「何だろう? 何もしてないのに捕まったの」
ルシウス「何もしてないのに捕まるわけないだろう……?」
?「ねえ、それはそうとご飯食べた?」
ルシウス「あんな物食えるわけないだろう。ムシとか腐った物ばかり」
?「いい物あげようか? お腹の足しになるかも知れないよ」
ルシウス「あんたが食べればいいじゃないか」
?「私が食べても意味がないので食べない」
ルシウス「何だ、それは?」
?「青キノコ。MPが増えるだけで、お腹は膨れないけど、よかったら食べる?」
ルシウス「何だって? 青キノコを持っているのか!?」



第43章「決戦ムーンサルト城」 第2話

?「うん、保存食用にと思ってポケットに入れたつもりが、間違って青キノコを入れたみたい。間抜けだよね、私。アハッ」
ルシウス「この悲惨な状況でよく笑ってられるなあ。なあ、その青キノコ、食べないなら俺にくれないか?」
?「いいけど、もしかしてあなたは魔導師なの?」
ルシウス「うん、俺は光の魔術師ルシウスっていうんだ。でもMPを全部奪われてしまって魔法が使えないんだ。青キノコを食べれば魔力が少しだけ回復するので、絶対にここから脱出してみせる」
?「私はユマ。脱出してみせるっていうけど、大きな問題が2つあるわ」
ルシウス「それはなんだ?」
ユマ「まず1つめは、青キノコをどうしてあなたに渡すか? だって牢は壁で仕切られてるんだもの。2つめは、青キノコを食べてあなたの魔力が回復したとしても、看守が持っている牢のカギをどうして手に入れるか? もしあなたがその場所から魔法を放って看守を倒したとしても、カギを奪うことはできないわ」
ルシウス「ふむ、確かにそのとおりだ。どうしたものかなあ……?」
ユマ「その2つの問題が解けないとここから出るのは無理だわ」
ルシウス「ふうむ……何か方法がないかなあ……?」
ユマ「私に良い考えがあるわ」

 その時、見回りがやってきた。
 ルシウスの牢に接近する。

看守B「おまえ、今、隣の女と会話をしていただろう? 何を話していた?」
ルシウス「飯の話だよ。腹いっぱい食いたいな~って」
看守B「おまえたちは囚人だ。1日2食与えてもらえるだけでもありがたく思え」
ルシウス「ふん、何が2食だ。ろくな物しか与えないくせに」
看守B「つべこべ言うな。あまり文句を言うと拷問だぞ。とにかく静かにしろ」
ルシウス「……」

⚔⚔⚔

 時を同じくして、竜騎士リョマと竜魔導師モエモエは飛竜ワイバーンに乗り、上空からムーンサルト城を偵察していた。
 飛竜ワイバーンはドラゴンと似ているが、4本足のドラゴンとは違い、2本足と大きな翼を持っていることが特徴だ。
 なお、ワイバーンは、毒のある尾を持ち、炎を吐く力を有しているため、竜騎士が苦境に陥った際にはその能力を発揮し彼らを援護することができる。

 現在真昼であり、太陽が城の真上に昇っている。

リョマ「さすがに昼間だとアンデッドの姿がないですね」
モエモエ「アンデッドは暗闇を好みますからね。暗闇だと昼間の2倍力が発揮できるので、できるだけ明るいうちに攻めたいものですね」
リョマ「でもこれだけ扉を閉ざし城内の各部屋に籠られたら、攻めにくいのは確かですが、それでも彼らが力を発揮できる夜よりも、昼間に攻撃を仕掛ける方がよいと思います」
モエモエ「それは私も同感です。早速、この状況をシャムとジュリアーノに伝えましょう」

 上空で手紙をしたためたモエモエは伝書鳩を飛ばした。

⚔⚔⚔

 ジュリアーノ国王指揮のもと、3,000名の兵士たちはムーンサルト城に向かって進軍を開始していた。
 リッチが唱える死の呪い対策として、シャム隊はあらかじめ『デスワームの角』を準備している。
 シャムは、ジュリアーノにも『デスワームの角』の欠片を渡したが……
 ジュリアーノはモエモエの分は受け取ったが、自身の分は受け取りを拒んだ。
 兵士3,000人を危険にさらしておいて、自分だけ身の安全を図るのは国王として恥ずべきこと、と述べ頑として受け取らなかったのだ。

シャム「相変わらず潔癖な男だなあ。そこがおまえの良いところでもあるけど、悪いところともいえる。もしおまえがリッチに呪い殺されたら、国はどうなる? モエモエはどうなる? 3,000の兵士たちはどうなる? おそらくリーダーを失って混乱し敗北を喫するだろう。それにだ、リッチは先ずおまえを狙ってくるはずだ。おまえ自身を守らずに国を守れるのか」

 シャムは珍しく熱く語る。
 ジュリアーノはこっくりとうなずいた。

ジュリアーノ「よく分かりました。シャム王子のおっしゃるとおりです。今、私は死ぬわけにはいきません。ありがたく『デスワームの角』を頂戴します」
シャム「それでいい。それはそうと、シャム王子と呼ぶのはやめてくれないか。おいらは今王子ではないから」
ジュリアーノ「じゃあどうお呼びすれば? シャム勇者……とか」

 シャムはずっこけた。

シャム「あのなあ……シャムでいいよ、シャムと呼び捨てで上等だ。ジュリアーノ国王」
ジュリアーノ「やめてくださいよ。シャムさんには今までどおり、ジュリアーノでお願いします」
シャム「ところで、モエモエとはうまくいってるようで何よりだ」
ジュリアーノ「おかげさまで円満に行っています。ただ一つ気にかかるのが『チンヒール』のことです。いまだに時々懐かしく思い出すのか、当時のことをちらりと語るのです。つい妬けてしまって……」
シャム「男は女の過去に妬けると、つい激しくその女を責める傾向があるので、あの美しい肉体にあんなことやこんなことを、たっぷりとして楽しんでいるのだろうなあ」
ジュリアーノ「シャムさん! 言ってよいこととよくないことがありますよ!」

 ジュリアーノは目を吊り上げてシャムに抗議した。

シャム「こんなエロトークを楽しんでいられるのも今のうちだけ……左右の林に敵がうじゃうじゃ潜んでいるようなので気を付けて」
ジュリアーノ「ただならぬ殺気が漂ってきましたね。みんな気をつけろ! 敵が来襲するぞっ!」



第43章「決戦ムーンサルト城」 第3話

 樹々の間からちらほらと見え隠れしている白い骨。
 隠れている敵はおそらくスケルトンだろう。少なく見積もっても50体はいるようだ

シャルル「闇を好むアンデッドがなぜ昼間に俺たちを狙うのか?」
キュー「この辺は樹々が密生していて太陽光が届きにくく暗いからじゃないかしら」
アリサ「こんな大勢の兵士さんといっしょに戦うのは初めてええええ」
イヴ「今までたくさんの戦いを経験してきたけど、これほどの大戦は経験してないものね」

 ムーンサルト城はすでにリッチの占領下にあるが、城の周辺までも彼らの勢力は及んでいるようだ。
 城に潜むリッチを倒すためには、当然ながら城外戦もすべて勝利しなければならない。

 シャムたちは樹々の繁みに向かって突き進んだ。
 
スケルトン「げげっ! 潜伏しているのがやつらに見破られているぞ! くそっ!」

 一斉に武器を構えるスケルトン兵士たち。
 シャムたちは敵と距離を詰め、彼らの目の前まで近づいた。
 先頭にシャムとジュリアーノ、その後からキュー、アリサ、メグメグ、シャルル、ドルジ、サラーナ、イヴとつづく。
 魔法部隊、弓矢部隊も、敵が雑魚のスケルトンということもあり魔法等を消費せず白兵戦を挑んだ。

(とりゃ~~~~!)

 最初に仕掛けたてきたのは長槍を装備したスケルトン兵士だった。
 真っ直ぐに突進しながら、シャム目掛けて槍を突く。

(カキィィンッ!)

 シャムのミラクルソードがキラリと輝き、スケルトンの槍を弾いていなす。
 さらに、その勢いのまま剣を素早くひるがえし、スケルトンの首を一振りで斬り落とした。

(ドヒュッ! ドスッ……)

 それを見た他のスケルトンたちは、一歩後ずさりしながらもギュッと武器を握り直し迎え撃つ構えだ。
 そんな彼らめがけてジュリアーノたちがシャムにつづいたからひとたまりもない。

 後方から、エリカが杖を振りかざしスケルトンたちに近づく。

エリカ「どれ、新しい魔法の威力を試してみましょうか?」

 エリカは最近覚えたばかりの『ウォーターカッター』を唱えた。

 ブシュ~~~~ッ!!

 川の水がまるで刃物のように変化し、3体のスケルトンを襲った。
 スケルトン兵士たちは、骨を細断され、無残な光景が広がった。

ウチャギーナ「うわぁ……エリカさん、すごいわ……私も負けてられないわ」

 ウチャギーナもエリカに負けじと新しい風の魔法『トルネード』を唱えた。

スケルトン「うわ~~~~っ!!」

 まもなくスケルトン数体の中央に竜巻が発生し、周囲の樹々もろとも空中に巻き上げてしまった。
 2つの強力魔法を浴び、さらに後ずさりするスケルトンたち。
 追い討ちをかけたのはチルチルと兄のトマーゾだった。

チルチル「いいな~、まとめて敵を倒せる人は。私は堅実に1人づつ倒すでピョン♬」

 チルチルがナイトメアのバトンを振りかざしスケルトンに一撃を浴びせると、妹に負けじとばかりトマーゾが躍り出て2体のスケルトンをなぎ倒してしまった。

 勢いづくシャムたち。ジュリアーノが兵士に向かって号令を下す。

ジュリアーノ「よしっ! この勢いでどんどん倒せっ!」

(おおおおお~~~~っ!!)

 スケルトンたちの背後から新手が100体現れた。
 新手のスケルトン兵士たちは一斉にジュリアーノ軍に挑んでいき、シャムとジュリアーノ軍もまた息の合った連携で迎え撃ち、乱戦のような形となって戦いを繰り広げた。

 剣と剣がぶつかり合う金属音に、甲冑を打ち砕くハンマーの音。
 砕け散るスケルトンの骨が空中に飛散し、地面には折れた刃や骨の欠片、割れた盾などが散らばっていく。
 そこへさらにエリカが放つ火の魔法によって、まるで全てを焼却するかのように戦火が広がっていった。

 気が付けば、辺り一面は焼け野原と化し、殆どのスケルトン兵士を殲滅してしまった。
 戦意を喪失したスケルトンには、あえて刃を向けることはせず、その場から立ち去るシャムたち。
 しかし、ダメージを負って倒れていたスケルトンの1人が、ガクガクと震えながら立ち上がり、シャムたちの後ろから大声で叫んできた。

スケルトン「おい! 待ちやがれ! 俺はまだ戦えるぞ!」

 そのスケルトンは歯こぼれした剣を震える手で握り、シャムたちに戦いを挑んでいる。

エンポリオ「リッチなんかに従わないで、どこかの墓場で静かに眠っていればいいのに」

 エンポリオはそうつぶやきながら弓を絞り、スケルトンに照準を合わせた。
 矢は見事にスケルトンに命中した。
 矢を受けたスケルトンは地面に倒れこみ動かなくなってしまった。

エンポリオ「もう立ち上がらないかな? まあいいか……」

 エンポリオはすまし顔で、隊列へと戻っていった。

ジュリアーノ「シャムさん、いよいよ城攻めですね」
シャム「二派に分かれようか? ジャノバ軍は正面から突入する。おいらたちは裏から入って内部をかく乱し敵の注意を引く」
ジュリアーノ「よい作戦だと思いますが、危険性も高いので無理しないでください、何しろ敵はリッチですから」
シャム「大丈夫だって、心配するな。真正面から正攻法で攻めるだけだと味方の被害もでかいぞ。おいらたちに任せろって」
ジン将軍「別動隊作戦は私も賛成です。幽霊騎士団団長トマーゾはジャノバ軍に加わらせ、私と数人の配下の者はシャムさんの隊に加わりたいと思うのですがいかがでしょうか? 了解していただけませんか?」
ジュリアーノ「将軍がそうおっしゃるならその作戦で行きましょう。いいですね? シャムさん」
シャム「うん、いいよ。じゃあ、おいらたちは今から裏口に向かうことにするよ」
ジュリアーノ「シャムさん、どうかご武運を!」
シャム「ジュリアーノもがんばれよ!」



第43章「決戦ムーンサルト城」 第4話

 いかにして看守から鍵を奪い取り、牢獄から脱出するか……
 ユマは一天井を見詰めたまま考え込んでいた。
 ルシウスも膝を抱えて思い悩んでいる。

 そんな中、ユマの脳裏に1つの名案が浮かんだ。
 かつての王女であった頃のユマであれば、おそらく思いつかなかっただろう。
 シャムたちとの旅でさまざまなことを経験し成長してきたからこそ、思いついたのだろう。

 その頃城内は、敵軍来襲ということもあって、にわかに慌ただしくなっていた。
 牢獄の看守も半数が城の守りに駆り出され、かなり手薄になっている。
 ユマたちの牢も、運よく看守が1人体制になっていた。

ユマ「いたたたたた……痛いよぉ……看守さん、おなかが痛いの……お願い、腹痛のお薬を持ってきて……」
看守C「腹が痛いだと? 罪人にやる薬などあるものか。我慢しろ」
ユマ「そんなひどい……あいたたた……ああ、我慢ができないわ……じゃあせめておなかをさすって」
看守C「俺の手でか?」
ユマ「あなた以外頼める人いる?……痛くて痛くて我慢できないの……早くさすって……」
看守C「俺の手は白骨だぞ、気持ち悪いとか言わないならさすってやっても構わないけど」
ユマ「あなただって元々私と同じ生ある人間だったじゃないの……誰が気持ち悪いなんて思うものですか。ねえ早く来て! 痛くてたまらないの」

 ユマが放った『同じ人間』という一言が、看守の心に刺さったようで、看守は牢の鍵を開けて中に入ってきた。

看守C「どのあたりが痛いのだ?」

 ユマは下腹部を指し示した。

ユマ「この辺が……」

 看守は彼女が押さえていた下腹部を、骨ばった指で撫で始めた。

看守C(人間の女に触れるのはいつ以来だろうか……ああ、久々の感触だ……あの頃の彼女が懐かしいなあ……)

ユマ「いたたた……もう少し下の方なの……」
看守C「ん? まだ下だと……?」

 ユマの指示した個所は恥丘のさらに下であった。

看守C(俺は何と運が良いのだろう。まあか死後にお姫様のこんな場所を触ることになるとは……)

 看守は言葉には出さなかったが、嬉々としてユマの下腹部をさすった。

ユマ「そうそこそこ……ああ、あなたのたくましい硬い手が痛みを和らげてくれるわ……」
看守C「そんなにいいのか?」

 気をよくした看守はいきおい屈みこんでユマの下腹部を懸命にさすった。
 スケルトンの弱点は頭である。
 スケルトンに限らず多くの敵に共通することだが、頭部に攻撃すると大きなダメージを与えることができる。
 
 ユマは素早い動きで、看守の後頭部に手刀を浴びせた。
 大きく振りかぶったわけではないが、無駄のない動きからの鋭利な一打。
 これもシャムから教わった攻撃方法の1つである。
 あっさりと意識の糸を断ち切られた看守はその場に崩れ落ちた。

 ユマは看守が持っていた鍵を奪い取った。
 ユマは牢から出ると隣のルシウスが囚われている牢の鍵を開けた。

ルシウス「あんたやるな~! まじでここから出られるとはびっくり! 感謝するよ、ユマ!」
ユマ「青キノコを食べて魔力を回復させて」

 ルシウスは青キノコを受け取るとすぐにかじりついた。

 ルシウスの魔力が100回復した!

ルシウス「よし、これで魔法が使えるぞ!」
ユマ「わずか100回復しただけだから大切に使ってね。あ、そうそう、あなたは剣を使える? 戸棚に剣があったから2本拝借したわ」

 ユマは『鉄の剣』を手に入れた!
 ルシウスは『鉄の剣』を手に入れた!
 ユマは『鉄の剣』を装備した!
 ルシウスは『鉄の剣』を装備した!

ルシウス「ところで看守は死んだのか?」
ユマ「アンデッドなので死んだという言葉は当てはまらないわ。気絶しているだけよ」
ルシウス「ところで、ユマ、あんたはいったい何者なんだ? 一発で看守を仕留めるなんて凄すぎる」
ユマ「今はしゃべっている暇はないわ。さあ、行くわよ!」

⚔⚔⚔

 ジュリアーノ国王から信頼の厚い猛将レオニード将軍は、ムーンサルト城を攻める準備を整えていた。
 彼の軍勢は3,000人の兵士で構成され、勝利を信じていた。
 ムーンサルト城を守るのはアンデッドの軍団で、その頂点には死霊リッチが君臨している。彼らの数はジュリアーノ軍より少ない2,000人だが、その力は強大だ。
 レオニード将軍は兵士たちに勇気を与え、城壁に迫る。
 ジュリアーノ軍の矢が城壁を打ち続ける中、リッチ側も矢で応戦する。
 ときおり城の中から魔法が放たれ、兵士たちが次々と倒れる。
 しかし、レオニード将軍は決して諦めなかった。
 彼は剣を抜き、最前線に立ち、兵士たちを鼓舞した。
 激しい戦闘が続く中、ジュリアーノ軍は魔城を徐々に突破していく。

 レオニード将軍は勇敢にも突如現れたリッチに挑む決意を固めた。

ジュリアーノ「待て、レオニード! リッチとの一騎打ちはするな! 一旦退くんだ!」

 だがジュリアーノ国王の声はレオニード将軍の耳には届かなかった。
 魔城の門前で、彼らは激しい戦いを繰り広げる。将軍の剣がリッチの魔法に対抗し、激しい戦闘が続く。

 しかし、リッチの邪悪な力は強大であり、将軍は次第に追い詰められていく。
 最後の一撃を狙い、将軍は全力で攻撃を仕掛けるが、その瞬間、リッチの呪術『死の呪い』が唱えられ、レオニード将軍は倒れた。



第43章「決戦ムーンサルト城」 第5話

 ジュリアーノ軍は、有能な将軍レオニードの戦死によって深い悲しみに包まれた。彼の存在は計り知れないほどの価値を持ち、軍勢をまとめる力と戦略眼は誰もが認めるところだった。その喪失により、ジュリアーノ軍は不安と動揺の中で戦いを続けることになった。
 押し気味だったジュリアーノ軍は、レオニード将軍の死によってリッチ軍に押し戻される現実が目の前に迫っていた。
 はたして、ジュリアーノ軍はこの困難な局面を乗り越えることができるのか。ジュリアーノ国王は軍勢を立て直すことができるのか。未来は不透明であり、戦場での運命の行方は誰にも予測できない。

⚔⚔⚔

 シャムたちによる、裏口からの侵入は難なく成功を治めた。
 リッチ軍が、ジュリアーノ軍の正面攻撃に対応するため、大半の兵士を正門と城壁に集中させている間に、別働隊のシャムたちは門番やわずかな手勢の敵兵を沈黙させ、静かに城内に侵入したのであった。
 敵の姿が見えるたびに、シャムたちはその場で敵を倒しながら進んでいく。
 哀れユマ姫はいずこに捕らえられているのか。そして宿敵リッチはいつ彼らの前に現れるのか。

ジン将軍「牢は地下にありますが、もしかしたらリッチの目の届くところで捕らえられているかもしれません」
シャム「城内に詳しいジン将軍がいるから安心だ。まずは地下牢を探そうか」
ジン将軍「いいえ、地下牢に行く必要はありません」
シャム「なんだって……?」

 一行が地下へとつながる階段の踊り場に差し掛かった時、事態は一変した。
 突然、隊列の後方から女性の悲鳴が聞こえてきた。
 シャムたちが振り向くと、アリサがジン将軍の配下の兵たちに捕まり、首にナイフを突きつけられていた。

シャム「ジン将軍、これはいったいどういうことだ!?」

 ジン将軍が冷たく微笑みながらシャムたちに告げた。

ジン将軍「シャムさん、皆さん、剣を捨ててください。従わないとあのネコミミを殺しますよ」
シャム「ジン将軍、おまえはユマ姫の配下ではなかったのか……?」
ジン将軍「申し訳ありませんがユマ姫はもはや廃城の姫君ですからね。リッチ閣下に敵うはずもありませんからね。私は姫君を見限りました」
イヴ「汚い男が……」

(パチンッ!)

イヴ「うっ……!」

 イヴの頬にジン将軍の平手打ちが飛んだ。

ジン将軍「口は慎みなさい。さあ、早く武器を捨てなさい。ネコミミさんが殺されてもいいのですか?」

 シャムたちはためらいながらも剣や杖を地面に落とし、無念の表情を浮かべた。
 ジン将軍の配下がシャムたちを縄で拘束してしまった。
 
ジン配下の兵士「シャムたちをどちらの牢に連れて行きましょうか?」

 ジン将軍は兵の耳元でささやいた。

ジン将軍「ユマ姫は西牢なので、反対側の東牢にぶち込んでおけ」
ジン配下の兵士「了解しました」

 シャムたちは地下の東牢へと連行され、男子牢と女子牢に振り分けられた。
 理由は不明だが、アリサだけが独房に収監された。

 東牢男子部屋:シャム、エンポリオ、シャルル、ドルジ、
 東牢女子部屋:イヴ、キュー、マリア、チルチル、ウチャギーナ、メグメグ、エリカ、サラーナ
 独房:アリサ

 地下牢は、湿気臭い石の匂いとともに重たい空気が漂っている。
 松明の炎が壁に揺らめく影を映し出す。

シャム「くそ、こんな薄暗いところに閉じ込めやがって」
シャルル「ジン将軍め。まさか裏切るとは……」
ドルジ「もしかしたら最初からユマ姫に従順を装って潜入していたスパイかもしれませんね」
エンポリオ「アリサちゃんだけが独房って、なぜだろう?」

⚔⚔⚔

 飛竜のリョマとモエモエが城内の様子を窺うため、高度を少し下げて飛行していた。

リョマ「変ですね。裏口から侵入したシャムさんたちがユマさんを救出したら合図を送ってくれることになっているのに、いまだに誰も姿を現しません。救出に手間取っているのかもしれませんね。あるいは……いや、不吉なことを想像するのはよしておきましょう」
モエモエ「たとえ強敵リッチでも、シャムたちが簡単に敗れるとは考えられないわ。不慣れな城内ということもあってきっと手間取っているのだと思う。彼らを信じましょう」
リョマ「そうですね。もう少し監視を続けましょう」

 その時、1本の矢がモエモエの真横を通過した。

リョマ「危ない! モエモエさん、高度を上げよう!」
モエモエ「はい!」

 低空飛行に切り替えていたため、スケルトンの放つ矢が届く位置まで下がってしまっていたようだ。
 ふたりは急いで上昇した。
 矢が届かなくなってしまってスケルトンが悔しがっている。

リョマ「この高さまでくれば大丈夫でしょう」
モエモエ「油断していたわ。お返しをしなくては」
リョマ「いいですね。彼らの注意を分散するのは。モエモエさんのお手並み拝見と行きましょうか」

 モエモエは呪文を唱えた。

モエモエ「セガコキヤ、ツヤイルワ! ファイアボール!」

 地上に向かって火の玉が発射された。
 火の玉はスケルトンを直撃し、たちまち燃え上がった。
 もだえ苦しむスケルトン。

リョマ「さすがですね!」
モエモエ「これ最弱の魔法ね♪」
リョマ「最強の魔法も見たくなってきました」

 燃え盛るスケルトンの周囲に、空に向かって弓を構えるスケルトン兵が数名現れた。

リョマ「今度はワイバーンの力を拝見しましょうか」

 リョマが乗っているワイバーンの口から轟音とともに激しい炎が吐き出された。

 地上の数名のスケルトンはまともに炎を食らい炎上する。
 のたうち回るスケルトンたち。
 まもなくスケルトンは灰と化してしまった。

モエモエ「ものすごい火力だわ。私のファイアボールとは温度が違い過ぎる」

 モエモエは目を丸くしている。



第43章「決戦ムーンサルト城」 第6話

 城内に待機していた多くの敵兵がジュリアーノ軍に対応するため正面に回り、幸いにも地下の牢獄区域は手薄になっていた。
 その結果、西牢獄から脱出したユマとルシウスが出入口のある東牢獄に向かう途中、遭遇した敵兵はわずかであった。
 時折牢の中から「俺もいっしょに連れて行ってくれ」と懇願する囚人もいたが、ユマたちは彼らを尻目に廊下を駆けた。
 ユマたちに彼らを救う余裕など全くなかったのだ。

ユマ「ごめんね。薄情だけど今は無理なの。リッチを倒したら必ず助けてあげるから。それまで待っててね」
ルシウス「危ないっ! 敵が襲ってきたぞ!」

 ルシウスはユマの背後まで迫ったスケルトン兵を鉄の剣で叩き切った。

ユマ「ありがとう、助かったわ! ルシウスって魔導師なのに剣の腕も一流ね。どこで覚えたの?」
ルシウス「親父から教わったんだ。この国では名の通った騎士だったんだ」
ユマ「お父さん、今は?」
ルシウス「先のムーンサルト城の戦いで戦死したんだ……」
ユマ「そうだったの。辛いことを思い出させてしまってごめんね」
ルシウス「気にしなくていいよ。でも俺の本職は魔導師だ。あんたに魔法の実力を見せてやりたいところだけど、強敵が現れた時のためにMPを残しておきたいので、ザコ相手だと鉄の剣で十分さ。そういうあんたこそ滅法強いじゃないか。剣をどこで覚えたんだ?」
ユマ「子供のころ近衛兵から……ゴホン……近衛兵をしているおじさんが近所に住んでいて、教えてもらったの」
ルシウス「そうか、かなり筋がいいと思うぞ」
ユマ「そう? ありがとう。それじゃ先を急ぎましょうか」

 ユマたちは東牢獄エリアに向かって一歩一歩慎重に歩を進めた。

⚔⚔⚔

 まるで檻に入れられた虎のように、牢の中をうろうろと歩き回るアリサ。
 両手首には鉄製の枷が填められている。

アリサ「どうして私だけ独房なんだろう?」

 アリサは、仲間の女性たちが雑居房なのに、自分だけ独房というのが不思議でならなかった。
 おりしもジン将軍が牢に現れてその理由を知ることになる。

ジン「どうだ? 居心地は?」

 赤いアーマーの肩当を付けたブロンドで長髪の男が現れた。ジン将軍だ。
 赤ら顔で、にやりとした歪んだ笑顔を浮かべていて、一度見ると忘れられない個性的な容貌の持ち主だ。

アリサ「よいわけないでしょう……こんな陰気臭い牢に閉じ込めておいてええええ」
ジン「心配するな。すぐに明るい所に連れて行ってやる」
アリサ「あなたユマ姫の配下だったよね? 裏切って恥ずかしくないのおおおお?」
ジン「うるさい、うるさい、うるさ~い! おまえのその減らず口を黙らせてやる!」
アリサ「どうせ殺されるなら1つだけ教えて? あなたは裏切ってリッチに付いてどんなメリットがあるのおおおお?」
ジン「いずれリッチ閣下はメドゥサオールや地上の国王どもをぶっ殺して地上界を征服することになる。大きな仕事を成し遂げれば私を将軍にすると閣下は約束してくださった。今回おまえたちを捕らえた理由は……もう分かるだろう? 勇者を倒せば私の株が上がるわけだ。おしゃべりが過ぎたかな? さあ、ここから行くぞ」
アリサ「いやああああ! 拷問いやああああ! 処刑いやああああっ!」
ジン「1つ言い忘れていた。今回おまえたちを捕獲したら褒美に、好みの女を1人だけ選んで好きにしてよいとお墨付きをもらっているのだ。選んでもらえたことを喜べ! なははははは~~~~!」
アリサ「冗談じゃないわ! 誰が喜ぶものですか! このまま牢獄暮らして結構よ! ここから動かないも~んんんん!」
ジン「おい、スケルトン兵! ぼんやり見てないで手伝え! この猫耳娘を拷問部屋に連れて行くのだ!」 
アリサ「いやああああ!!」

⚔⚔⚔

 レオニード将軍を失ったジュリアーノ本隊は一時劣勢に立たされたが、国王の指揮のもと次第に勢いを盛り返していた。
 敵の主力部隊はゾンビ。噛まれるとゾンビ化してしまうという厄介な敵だが、弱点もちらほらと散見される。
 まず知能が低いこと。ゾンビは梯子を登れなかったり扉を開けられなかったりと知能は極めて低く、人を襲うのも思考してというより反射に近いものといえる。
 さらにゾンビの最大の弱点は協調性に欠けること。指揮者がいてもフォーメーションをとれず個々が自由に動くため組織的な強さがない。
 ジュリアーノ本隊はそんなゾンビたちを組織力でもって徐々に撃破していく。
 ゾンビはかなり減ったが、背後からゾンビよりも上級のグール隊が現れた。彼らは武器を扱えるのでゾンビよりも脅威だ。
 正門が完全に壊れ入口付近で激しい攻防が巻き起こる。
 ジュリアーノ国王も剣をふるいグールをなぎ倒す。
 ところが背後からグールの一体が接近していることに気付かなかった。
 ジュリアーノ国王めがけて剣を振りかざした。
 次の瞬間、グールが「グッ……」と声を上げて灰と化してしまった。
 それは明らかにヒール魔法のなせる業だった。
 しかしヒール魔法を放った味方の姿はなかった。

ジュリアーノ「ありがとう、ソニアさん、おかげで命拾いしました」
ソニア「あら、国王には私の姿が見えるのですか? 幽霊の私が……」
ジュリアーノ「心の瞳ならあなたの姿が見えます」
ソニア「ユマ姫に会える時まで、私はあなたの背後をお守りします」
ジュリアーノ「ありがとう。ユマ姫は必ず生きています。私は信じています」
 



第43章「決戦ムーンサルト城」 第7話

キュー「皆がまとめて捕まるなんて思ってもみなかったよ」
エリカ「しかも男子もいっしょに捕まってしまったから助け船も期待できないし、最悪ですね」
チルチル「わぁ~ん、私たちここから出られないんだ。泣きたいでピョン」
イヴ「アリサちゃんはどこに連れて行かれたのかしら?」
マリア「彼女をいったいどうするつもりでしょうか。とても心配です……」

 牢の外にはスケルトンの看守が退屈そうに椅子に座っている。
 彼女たちの考えることは、西牢に閉じ込められていたユマたちと同様だった。

ウチャギーナ「あの看守魔法でを倒すことは簡単だけど、問題はその後ね」
イヴ「鍵をどうして奪うかちうことね」
メグメグ「食事を運んできた時、看守を倒して鍵を手に入れるとか?」
サラーナ「それはかなり難題ですね。彼らは私たちを警戒して牢の中には入ってきませんからね。30センチ四方の開口部から食事を運び入れるだけ」

 脱出方法をあれこれと模索してみたが、なかなか良い方法が浮かばない。

 まさにその時、牢の外がにわかに騒がしくなった。
 何者かが看守の詰所に現れて大騒動になっているようだ。
 看守のスケルトンが応援が駆けつけて揉み合っている。

イヴ「あれは……? 看守と戦っているのはユマちゃんじゃないの!?」
メグメグ「ユマさんといっしょに戦っているイケメン男性は誰かしら?」

 男性が看守と剣を合わせた時、背後から別の看守が今まさに槍で突こうと構えているところだった。

マリア「危ない!」

 とっさにマリアがヒール魔法を唱えた。
 ゾンビと同様にスケルトンにもヒールは効果的だ。
 白い霧が聖なる刃となって看守の背中を襲う。
 もんどりうって倒れる看守。
 看守の身体は薄れていき、まもなく消えてしまった。

ルシウス「誰か知らないけど、助けてくれて感謝するよ!」

 最後まで奮闘していた看守も、ユマの剣の前になすすべもなく倒れてしまった。

ユマ「皆が捕まっていたとはびっくりだわ。理由は後から聞くので、とにかく早くここから出ましょう!」
メグメグ「その男性はどなた?」
ユマ「お隣さん!」
メグメグ「え? おとなりさん??」
ユマ「隣の牢にいた人よ、協力して脱獄したの」

 ユマは女子牢の仲間を解放すると、すぐに男子牢のシャムたちを救出した。

シャム「ユマ、よくやった! 褒美のチンヒールは後でゆっくりと注入してやるからな!」

 各々の武器の保管場所が見つからなかったので、そこらに転がっている看守たちの剣や槍を拾い間に合わせに装備した。

シャルル「こんな安物でもないよりましだな」

 シャムたちは独房に監禁されたアリサのもとへと向かった。
 しかし独房にアリサの姿はなかった。

シャム「アリサはどこに連れて行かれたのだ……」

⚔⚔⚔

「はぁ…はぁ……」

 薄暗い森の中を6人の騎士と1人の少女がとぼとぼと歩いている。
 両手を後手に縛られた猫耳娘を、体格のよい騎士が縄尻を持ち連行している。
 少女の名前はアリサ。騎士はジン将軍と彼の配下たち。
 ジン将軍はアリサを独房から拷問部屋に移動させたが、思いのほか戦闘が激化し、勢いづいたジュリアーノ軍が一気に城内になだれ込んでくる気配が漂っていたため、ジン将軍は早々と身の安全を優先し城外への脱出を選んだのであった。

配下A「将軍、リッチ閣下の援護をしなくてもよいのですか?」
ジン「死んでは元も子もないわ。命あっての物種ではないか。序盤の戦いは互角だったが、次第にリッチ軍の旗色が悪くなってきた。あれは人間とアンデッドの頭脳の差じゃ。あのままリッチ閣下を援護していたら、おそらく我々は今頃あの世にいるよ」
配下A「見事なご推察感謝します。ただ、このまま逃げたとしても 裏切ろと捉えられリッチ閣下の報復が恐ろしいです」
ジン「心配するでない。これからどこに行くと思ってる?」
配下A「リッチ閣下の目につかないような島国でひっそりと暮らすとか?」
ジン「ばかもの。まだまだ隠居などしとうないわ」
配下A「ではどこへ?」
ジン「北の大陸にあるカミルナという町じゃ」
配下A「もしや!? 地獄最強の剣士と噂のセルペンテが住んでいるという町ではありませんか?」
ジン「おお、よく知っておるな~。そのとおりだ。今から向かう先はセルペンテの居所じゃ」
配下A「それなら少し長旅になりますな。それと、あの猫耳娘をセルペンテに奪われないよう注意しなければなりませんな」
ジン「そのとおりだ。セルペンテという男、めっぽう強いだけでなくかなりの色好みと聞き及ぶからなあ」

 ジン将軍たちは、船でひそかに北の大陸に渡り、ピエトラブルを経由して、カミルナへと向かうつもりらしい。

アリサ「あのぉ……」
配下B「なんだ?」
アリサ「草むらに行きたいのおおおお……」
配下B「小便か? そこの草むらでしろ」
アリサ「縄を解いてくれない? 後手に縛られたままだとしにくいのでええええ」
配下B「ダメだ。縛られたままでするんだ」
アリサ「でも脱げないのでええええ」
配下B「じゃあ、俺がパンツを下ろしてやるから」
アリサ「やだよぉ、恥ずかしいよおおおお」
ジン「どうした? 小便か? それなら私たちの目が届くところでしろ。見ててやるから」
アリサ「そんな酷い……見られたら出ないよおおおお」
ジン「ではしなくていいではないか」
アリサ「いじわる言わないでよ。分かったよ、じゃあ、言うとおりにするからああああ」

 配下の騎士がアリサの紺色のショーツに手をかけた。



第43章「決戦ムーンサルト城」 第8話

アリサ(漏れそう……)

 ずっと尿意を我慢していたので、アリサは限界まで来ていた。
 アリサのショーツを下げた騎士が股間を見つめ目を丸くしている。

配下B「おまえ、ここの毛を剃ったのか? 全然ないじゃないか」
アリサ「生まれつきよ……そんなことより、早く向こうに行ってよ、できないじゃないのおおおお」

 ショーツを下げた騎士は後退したが、入れ替わりに他の騎士たちが輪になってアリサを取り囲んでいる。
 こんなに大勢から見つめられると、出るものも出ない。

アリサ「もう見ないでよおおおお」
騎士C「おまえは捕虜だ。要望は聞かない」
アリサ「そんなああああ……」

 排尿を我慢できなくなっていたアリサ。

アリサ「ん……んんん……ああああ……」

 脂汗が滲んでくる。

(もう無理…………)

そう思った瞬間。
ついに我慢していたものが決壊して、小水が流れていく。
排尿音がいつもより長く響く。
男たちの突き刺すような視線を下半身に注がれている。

アリサ(ああぁっ、出てる出てるっ! おしっこがこんなに大勢の敵に見られながらお漏らししちゃってるっ! ああっ、穴があったら入りたい……)

「んん……あぁ……はぁはぁ……」

腹の中で温まった尿が体外へと排出されていった。
男たちから歓声が上がる。

排尿が止まったところで、拍手が沸き起こり、疲れがどっと押し寄せる。
秘所は騎士によって大きな葉っぱで清拭され、顔を赤らめるアリサ。

ジン将軍一行はわずかな休息をとった後、再び薄暗い森の中を歩きだした。

⚔⚔⚔

ジュリアーノ軍はよく戦い優勢のうちに進み、正門の敵を全滅してしまった。

ジュリアーノ「よし、正門付近の敵は倒したぞ! 夜になるとアンデッドの力が2倍になるので、陽が沈むまでに城内に潜伏している敵を全て殲滅するのだ! ただしリッチが現れた場合は無理をするな! ヤツは滅法に手強いので、私かシャム隊に任せるだ!」
兵「国王、ご報告します! 一時行方不明だったシャム隊の無事が確認できました! 詳細は不明ですが、現在1階の西側で敵と激戦中とのことです!」
ジュリアーノ「分かった。ご苦労であった。全軍、城内に進め!」

 一斉に鬨の声があがり、ジュリアーノ軍が城内の深部へと突入する。
 彼らを迎え撃つべくゾンビが30体現れるが、空からワイバーンに乗ったリョマとモエモエが現れ次々に駆逐していく。
 彼らの支援に歓声をあげるジュリアーノ軍の兵士たち。

 そんな中、城内の中央扉が開き、鎧を身にまとったスケルトンが10体現れた。
 スケルトンウォーリアと呼ばれ、彼らはリッチを警護する近衛兵であり、まもなくリッチが現れる予兆といえた。
 ジュリアーノ軍に緊張が走る。

 その前に、スケルトンウォーリアが兵を蹴散らし、ジュリアーノ国王に向かって突進してきた。
 斧を振り下ろしてきた。
 剣のような速度で迫る斧を、ジュリアーノは剣で正面から防御する。
 意外と重い一撃だ。
 ジュリアーノ王は腕にビリビリとかすかな痺れを感じた。
 骨だけの身体なのに、かなりの腕力である。
 しかし類まれな剣豪ジュリアーノにとっては、押し返すことなど造作もない。
 ジュリアーノ国王は力任せに斧を弾き、のけぞったスケルトンウォーリアを蹴り飛ばす。
 スケルトンウォーリアは転がりながらもむくりとすぐに起き上がった。
 肋骨の何本かが折れているが、気にする様子もない。
 当然、痛みもないか。
 果たしてどこを潰せば急所になるのか。
 それなりに厄介そうなアンデッドである。

「ジュリアーノ国王、大丈夫ですか!? 援護しましょうか?」

 後ろから姿は見えないがソニアの心配する声がする。

 ジュリアーノは跳びかかってきたスケルトンウォーリアの斬撃を防ぎつつ、ソニアに告げる。

「大丈夫だ。私の周りの注意だけ、頼む」

 返事を待たず、スケルトンウォーリアの斧を奪い取ってその兜を付けた頭部に叩きつけた。
 斧は硬い音を立てて頭蓋を砕き割り、鼻の辺りにまでめり込む。
 しかし、スケルトンウォーリアは平然とジュリアーノ国王に掴みかかってきた。

ジュリアーノ(本当にタフなやつだな……!?)

 頭部へのダメージでも効かないようだ。
 普通の生物やアンデッドなら致命傷だろうに。
 なかなか強い魔物と遭遇したものだ、ジュリアーノは思った。

ジュリアーノ「だからと言って打つ手がないわけではない」

 さっさと仕留めようか、とジュリアーノが思った矢先、疾風のごとく加勢が現れ、またたく間にスケルトンウォーリアを倒してしまった。
 スケルトンウォーリアはもう起き上がらなかった。

ジュリアーノ「誰……!?」

 ジュリアーノの視線の先には、剣を掲げにっこり微笑むシャムの姿があった。

ジュリアーノ「おお、シャムさんだったか。援護をありがとうございます」
シャム「相変わらず剣の腕前はすごいけど、国王になって実践から遠ざかっているせいか、相手の弱点が見えていないようだな。スケルトンウォーリアの弱点は膝なんだよな~」
ジュリアーノ「相変わらずはっきりものを言う人ですね。まあそこがシャムさんの良い所なのですが。何はともあれ弱点を教えてくれて感謝します。この調子で他のスケルトンウォーリアを倒してしまいましょう」
シャム「でもスケルトンウォーリアだけにかかってられない様子だよ」
ジュリアーノ「むむ、ウォーリアの背後の見える頭巾のかぶった敵はっ!」
シャム「リッチ……」



第43章「決戦ムーンサルト城」 第9話

 投獄前に奪われた武器と防具は、牢獄近くの倉庫で見つかり、すでにシャムたちは装備を完了していた。
 ただし装備が原状回復したとしても、リッチに勝利できるかどうかは分からない。
 もっぱらの噂では、彼にはほとんどの剣が通用せず、ほとんどの魔法に耐性があると言われている。
 つまりほぼ無敵なのだ。
 そんなリッチに弱点はあるのだろうか。

イヴ「リッチの弱点は聖属性だと言われているの。試してみないと分からないけどヒール魔法は効くはず。マリアさん、エリカさん、サラーナさん、私の4人が一斉にヒールを放てばかなりの効果が期待できると思うわ」
シャム「ヒールで倒せるのか?」
イヴ「それは分からないわ。やってみなければ……」
ジュリアーノ「剣では絶対に倒せないのですか?」
イヴ「以前女神チルさんから聞いた話によると、特殊効果で聖属性が付与された武器であれば倒せる可能性があると言っていたわ」
ジュリアーノ「聖属性が付与された武器だなんて……伝説の聖剣セクスカリバーでもあればよ別ですが、あくまで伝説ですからね……」

 シャムは真顔でつぶやいた。

シャム「本当に伝説か? どこかにあるんじゃないのか?」
ジュリアーノ「それは私にもなんとも……」

 シャムの背後からサラーナが一歩進み出た。

サラーナ「故郷の司祭の話によりますと、このエンハンスソードは聖属性が付与された剣だと言ってました。伝説のエクスカリバーには及びませんが、リッチ打倒は可能だと信じています。そのために長い歳月ずっと訓練をしてきましたので。リッチ打倒を私に任せてもらえませんか?」
シャム「いくら聖属性の剣を持つサラーナでも、おまえ1人に任すわけにはいかない。ここはみんなでタッグを組んで総がかりしよう! おいらたちには呪いを無力化できるデスワームの角がある。『死の呪い』を恐れることなくリッチに立ち向かおう!」
イヴ「こうして話している間にも兵士の皆さんが犠牲になっているわ。早速、取り掛かりましょう、リッチ打倒を!」
ジュリアーノ「おおっ、望むところです! 私もシャム隊の中に入れてください!」
シャム「デスワームの角を持っていない兵士を後退させてくれ。おいらたちが前面に立つ!」
ジュリアーノ「兵士に告ぐ! 私の後ろに後退せよ!」

 シャムたちが前線に進み出ると同時に、スケルトンウォーリアがシャムたちに襲い掛かってきた。
 前列左端にいたキューの横から声が聞こえ、とっさに右方に跳ぶ。

キュー「ぬっ!」

 するとキューの左胸の辺りに、剣の刺突が繰り出されていた。
 瞬時に対処するキュー。
 すぐさまキューは剣で突き込む。
 しかしその突きはあっさりと回避され、逆に距離を詰めてくるスケルトンウォーリア。

スケルトンウォーリア「……!」

 再び無言での剣による刺突。
 と思っていたら、今度はもう左手の剣をキューに振るう。
 二刀流とは珍しい。

キュー(危ないっ!)

 何とか剣でそれを受け止める。
 剣を合わせた瞬間、敵にわずかな隙が生じる。

キュー「今だ!」

 キューの剣が的確にスケルトンウォーリアの膝を貫く。

スケルトンウォーリア「……!!」

 スケルトンウォーリアは苦しみながら地面に伏してしまった。

キュー「よし! ゴーレム出でよ!」

 キューは召喚魔法を唱える。
 突然空間に現れたゴーレムを見て、新手のスケルトンウォーリアは戸惑っている。
 ゴーレムはスケルトンウォーリアに向かって突進する。

リッチ「ふむ、岩石男ゴーレムを召喚しおったか。なかなかやりおるな。では岩には岩で……」

 リッチが歯を嚙合わせる不気味な音を響かせ何やら呪文を唱え始めた。

メグメグ「みんな注意して! リッチが呪文を唱えているわ!」

 まもなく空から多くの岩石がシャムたちめがけて降り注いだ。
 リッチが唱えた魔法はメテオ魔法『メテオストーム』であった。

シャム「まずいぞ! 頭上に気をつけろ!」

 岩石の落下で戦場が阿鼻叫喚となる中、エリカとウチャギーナそして新入りのルシウスがそれぞれの魔法を駆使し落下する岩石を次々に破壊していく。

ウチャギーナ「これがメテオ魔法なのね。壊しても壊してもキリがないじゃないの……ん? でもかなり減ってきたんだけど……」

 ルシウスが空に向かって指をさしている。

ルシウス「あれを見て! 飛竜が炎を吐いて岩を溶かせているけど、飛竜に乗っている人たちって誰なんだ?」
エリカ「ワイバーンに乗っちるのは私たちの仲間なんです。彼らは空から援護してくれています」
ルシウス「すごすぎる! なんと凄い部隊なんだ!」

リッチ「おのれ、小生意気な真似をしおって。それなら邪魔者は消えてもらおうか?」

 リッチは空に向かって再び呪文を唱えだした。

リッチ「エスピラーレ……ケダブラ……エスピラーレ……ケダブラ……」
リョマ「……?」
モエモエ「何の魔法?」



第43章「決戦ムーンサルト城」 第10話

イヴ「その呪文は『死の宣告』です! リョマさん、モエモエちゃん、気を付けて!」
モエモエ「気を付けてと言われても、どうすればいいの……?」

 不安な表情で地上を見下ろすリョマとモエモエ。

マリア「だいじょうぶですよ! 『デスワームの角』があなたたちを守ってくれるはずです!」

 マリアの言葉は的中した。

リッチ「……」
モエモエ「……!?」

 リッチが唱えた『死の宣告』を受けても、飛行中のモエモエとリョマは平然としていた。
 ちなみに飛竜ワイバーンにも影響がなかった。元々ドラゴンには呪いのような精神系の魔法は通用しないのである。

 呪いの魔法『死の宣告』は相手にとってとてつもない恐怖だが、唱える側のリッチも大量のMPを消費する。
 高いMP値を誇るリッチだが、持てるMPの10%を消費するので失敗するとダメージも大きい。
 ただし人間や魔物と違って彼のMPは時間の経過とともに自然回復するので、シャムたちにとっては厄介な敵といえる。

リッチ「おのれ、おまえたちは『デスワームの角』を持っているのか……」
シャム「ああ、持っているとも! おまえのせいでデスワーム退治までさせられたけどな! だから死の呪文なんてへっちゃらさ! さあ唱えてみろよ!」
リッチ「むむむっ……」

 シャムとエリカたち魔法部隊がリッチと対峙している間、シャルル、キュー、メグメグ、ドルジ、ジュリアーノが数体のスケルトンウォーリアと火花を散らしている。

 そんな中、イヴが掛け声をかけた。

イヴ「さあ、反撃よ! ヒールをリッチに浴びせるのよ!」

 イヴをはじめ、マリア、エリカ、サラーナが四方向から、リッチに向かって聖なる魔法ヒールを放った。
 確実にヒールはリッチに命中した。

リッチ「うっ……」

 効果はあったのか?
 まもなくリッチが歯をカチカチと鳴らして笑った。
 
リッチ「カカカカ、MPの無駄遣いじゃ、やめておけ。私をゾンビのような下等な死者だと思っておったのか? 心外だなあ」
イヴ「ヒールが効かないわ……」

 次の瞬間、エンポリオが矢を放ち見事にとらえた……はずだが、どういうわけか矢はリッチの身体を通過してしまった。

リッチ「そんなに驚かなくてもよいぞ。私の身体には肉がない。矢は骨と骨との間をすり抜けて行ったわ。カカカカ、どれお返しじゃ」

 リッチが杖を動かし呪文を唱えた。
 炎の球がエンポリオめがけて飛んで行った。

エンポリオ「うぎゃっ! アチチチッ!」

 転倒し激痛に顔を歪めるエンポリオに、急いでマリアがヒールを唱える。

リッチ「今の魔法はほんの挨拶代わりじゃ。今度はもうちょっと強くなるぞ。耐えられるかな?」
シャム「そうはさせないぞ! おいらが相手だ!」
サラーナ「待って、シャムさん! ここは私に任せてください! 私には聖なる剣エンハンスソードがあるので!」
シャム「いいけど、おいらも援護するから!」

 その時、2体のスケルトンウォーリアが2人を襲ってきた。
 1体は戦士系で、もう1体は杖を持っているので魔法系のようだ。
 戦士系は斧をシャムに振り下ろす。
 危うく斧をかわし押し返すシャム。
 魔法系のスケルトンウォーリアが『ウォーター・ウォーリア』という水系の魔法を唱えた。
 水流が沸き起こりサラーナを急襲する。

サラーナ「キャッ~~~~!」
エリカ「アンチ・ウォーター!!」

 水に関して彼女の右に出る者はいないだろう。
 たちまち『ウォーター・ウォーリア』は阻止されサラーナは一命を取り留めた。

サラーナ「エリカさん、ありがとうございます!」

 サラーナは魔法系スケルトンウォーリアの頭を叩き切り、その勢いでリッチに剣を向けた。

サラーナ「リッチめ、地獄に帰れっ!」

 サラーナはエンハンスソードで渾身の突きを放った。
 その速度もかなり早い。
 しかしリッチの俊敏性は相当なもの。難なく剣をかわす。

サラーナ「意外にスピードがあるわね、この悪霊め! これならどう、馬龍雷鳴~~~~!」

 サラーナは今度は、無数の突き技を放った。
 前の突きの残像が残るほどの連続の突き。

 するとリッチは、どんどんと後方に下がっていく。

サラーナ「逃げないで! 卑怯者!」

リッチ「カカカカ……」

 リッチは後退りしながら呪文を唱えた。

リッチ「エスピラーレ……ケダブラ……エスピラーレ……ケダブラ……」
サラーナ「呪いの魔法を唱えても無駄よ! 私には『デスワームの角』と『呪いよけの指輪』があるんだから!」
リッチ「そうかな? 先程スケルトンウォーリアが放った水の魔法が偶然だと思っていたのか?」
サラーナ「なんだって……!? ウウッ……ウウウ……ッ……」

 サラーナは地面に崩れ落ちた。

シャム「サラーナ!!」
イヴ「サラーナさんっ!! しっかりして!!」

 イヴはすぐにヒール魔法を唱えた。
 マリアとエリカも懸命にヒールを唱えた。
 それがイヴたちが直ちに行える唯一の救命措置であった。

 しかし……
 サラーナは二度と立ち上がることはなかった。
 血が一瞬にして凝固してしまったのだ。
 死の呪いからサラーナの身を守っていた『デスワームの角』はスケルトンウォーリアの水魔法によっては流失し、もう1つの『呪いよけの指輪』も壊されてしまっていたのだ。

 スケルトンウォーリアと戦っていたドルジが戦闘を放置し、一目散にサラーナの元へと駆け寄った。

ドルジ「サラーナっっっっ!!」

 抱き起こしてみたがすでに息がなく、ドルジは悲嘆にくれるばかりであった。
 
ドルジ「許さんっ!!」

 ドルジはサラーナの持っていた剣を握ると、リッチに立ち向かおうとした。

シャム「早まるなっ! おまえも死んだら誰がサラーナの仇を討つのだ! ちょっと待て!」

 シャムは身体を張ってドルジの暴走を阻止したのだった。
 頭に血が昇った状態で強敵と戦っても、犬死するだけだとシャムはドルジに説いた。

シャム「スケルトンウォーリアと雑魚はほとんど倒した。残った敵はリッチだけだ。みんなで掛かれば必ず倒せるはずだ。だから無茶をするな」
ドルジ「うううっ……リッチめ!! サラーナを返せっ!!」



第43章「決戦ムーンサルト城」 第11話

 ドルジはエンハンスソードを握ると、シャムの制止を振り切ってリッチめがけて突進する。
 だが、リッチの杖はあっさりとエンハンスソードをはね返す。
 リッチの杖から剣先が現れにわかに槍と化す。

シャム「まずいっ! 皆、ドルジを援護するぞ!」

 いうが早いかシャムの剣が杖を食い止める。

リッチ「シャムよ、ついに私の前に現れおったか。すぐに地獄に送ってやる!」
キュー「そんなことはさせないわ! ゴーレム、リッチを倒すのよ!」

 キューが召喚したゴーレムは彼女の声にのみ反応する。
 ゴーレムはリッチめがけて片足を振りかざす。
 いくらリッチが屈強であっても、巨大な岩の怪物にまともに踏まれたらひとたまりもないと思われたが、アンデッドの王を倒すことは用意ではない。
 踏まれる前にリッチが杖を突き出す。

リッチ「雷魔法『ボルト』!」
ゴーレム『%&$!?』

 リッチの杖の先端から電撃が放たれ、ゴーレムの振り下ろした足に命中する。
 人間や並の魔物ならば感電し即死するだろうが、あいにくゴーレムの身体は生身の肉体ではないので感電はしない。
 しかし電撃を受けたことで攻撃の軌道が狂い、足底が地面に衝突した衝撃で、周囲に激しい振動が走る。

シャム「うわぁっ!」
メグメグ「きゃあっ~~~!」
シャルル「すげえ威力だ……こんなの喰らったら、ピツァになっちまうぞ!」
キュー「明らかに成長しているわ、ゴーレムちゃん」

 皆が慌てふためく中、召喚者のキューだけが悦に浸っている。

ゴーレム『ゴオ~~~ッ!』

 ゴーレムの怪力は魔人の中でも卓越しており、直撃されたら人間などひとたまりもない。
 ゴーレムは容赦なくリッチに襲い掛かり、今度こそ踏みつぶそうと右足を振りかざす。

ゴーレム『ゴアッ!』

 ゴーレムが右足を踏みつけた瞬間に護衛のスケルトン兵が巻き込まれ、一撃で潰されてしまう。
 攻撃をかわしたリッチは反撃に転じ、水の魔法『ウォーターアロー』を唱えた。
 空間に鋭い水の矢が現れ、ゴーレムめがけて飛んでいく。

ゴーレム『グァ~~~~~~~~!』

 見事に矢はゴーレムを射抜き、彼の巨体は木っ端みじんに砕け散ってしまった。

キュー「うそ……何という威力なの……」
マリア「あのゴーレムがいとも簡単に倒されるとは……リッチの魔法の威力は半端じゃないですね」
チルチル「クスン……ゴーレムが死んじゃったでピョン」
キュー「大丈夫、彼は必ず再生して戻ってくるから。というか、壁がなくなって、皆、やばいんだけど!」

 リッチの放った火の魔法がキューの近くをかすめた。

キュー「この~~~~! ゴーレムの仇~~~!」
シャルル「一気倒してしまおう!」
ドルジ「リッチめ! 覚悟しろっ!」
シャム「周囲を取り囲んで、輪を狭めていくんだ! 必ず倒す!」

 シャムたちの攻撃に、空で旋回していたリョマとモエモエも呼応した。
 空中から攻撃を仕掛けるつもりらしい。
 その時……

モエモエ「あれ……? 視界がかすんできたわ……どうしたのかしら……」

 霧が出てきたようだ。
 次第に視界がかすんでいく。
 深く、濃く、もう二度とその中から抜け出す事ができなくなるような……そんな霧であった。
 刻一刻と霧は深まり、辺りを白く覆い、シャムたちの視界を奪っていく。
 もし、突然リッチやその手下が攻撃してきても、この霧の中では気付けないかもしれない。

シャム「皆、防御態勢をとるんだ! 攻撃を察知したら素早く逃げろ!」
エンポリオ「そんな無茶な。そんなの無理だよ」
ジュリアーノ「皆、シャムさんの言うとおりにするんだ! これ以上死者を増やすな!」
 
 実際のところ、霧はネクロマンサー・エレジーが唱えた幻影魔法が原因だった。
 つまり霧は幻想なのである。霧など本当は発生していなかった。
 エレジーは死者をアンデッドとして蘇らせることが本職だが、一方、幻影魔法『フォグ』の専門家でもあったのだ。
『フォグ』は直接的な攻撃能力は皆無だが、夜間や深い霧の中などの視界が悪い場所では強力な効果を発揮することができる。
 
 まもなく霧が晴れた。
 自然の霧ならば、これほど早く晴れることはないだろう。
 周囲にいたはずの宿敵リッチの姿はもうそこにはなかった。
 どこに消えたのか。

マリア「リッチは身の危険を感じ、ネクロマンサーに命じ幻影魔法『フォグ』を唱えさせたのでしょう。卑怯な男です」

 周囲は屍の山であった。
 その中には、サラーナの亡骸もあった。
 彼女は勇敢に戦い敵の牙を受け、そのまま帰らぬ人となった。

 シャムたちは悲しみに暮れた。
 サラーナの戦死……その事実をなかなか受け止めきれなかった。

ドルジ「シャムさん、あなたのチンヒールでサラーナを生き返らせてくださいよ……」
シャム「それができるなら、おいらだってそうしたいよ。でも無理なんだ。死んじゃったら無理なんだ……。ドルジ、サラーナの仇は必ず討つからな。だからこれからもいっしょにがんばろう!」
ドルジ「はい……うううっ……」

 ドルジは泣き崩れた。
 そんなドルジを励ます仲間たち。
 海の向こうに沈んでいく夕陽を見つめながら、シャムたちは誓った。
 仇敵リッチの打倒を。そして地上に蔓延る魔物たちの殲滅を。



第42章/第44章




騎馬民族族長の娘サラーナ


ムーンサルト国王女ユマ姫


火の魔導師モエモエ(ジャノバ国王妃)


ジャノバ国王ジュリアーノ











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