祭りのあとに。。。




yuu作













祭囃子の 笛の音が 追憶にのみ 響くのは
輪廻の記憶 耳鳴りか ノスタルジックに 浸りつつ
あぁ来ぬ人を 待ち侘びて 永久に祭りの 指切りに
庭の景色は 移り行くのに


「夏祭りには、きっとお前を迎えに行くからね」

そう言うとくぐもった咳を必死に押し殺し、あなたは小指に私の小指を絡め、愛しそうに唇を押し付けておりました。
私は溢れそうになる涙を堪えながら、着物の袖から見えるあなたの青白く痩せた手首を、ただ黙って見ているだけでした。。。

蝉の鳴く声と、遠くの方でお祭りのお囃子の笛が聞こえる、とても暑い夏の日の事でございました。

私は親の決めた方に嫁いで行きます。
あなたに逢いに来ることが出来るのも、恐らくこれが最後になるのでしょう。

抑えきれない咳に顔を背けながら、それでもあなたは私の小指を離そうとはなさらず、苦しげな息の合間に『迎えに行くから。。。』と繰り返すばかり。。。

お別れの最後にあなたが下さったお人形を抱いて、あなたの『迎えに来る』という言葉だけを信じて私は嫁いで行くのです。




目を閉じれば、少しはだけた着物から見えたあなたの青白い胸元が、痩せた手首が横切っては消えてゆきます。
せめて小指ではなく、唇に接吻をして下さったのなら良かったのに。。。 そして一度でも抱きしめて下さっていたなら。。。

心はあなたに置いて来ました。
嫁いだ方に抱かれながら、あなたを思い出して目を閉じているのです。




迎えにきて下さるあなたの姿を、もうどのくらいの歳月を待ちつづけているのでしょう。
あなたが唇を押し付けた小指にそっと唇重ねながら、何度となく湿り気を帯びた場所に指を這わせたのでしょう。
罪な事とは思いながらも、あなたを思いながら私は火照るからだを静めるために、その行為に耽ってしまうのです。。。

絡めた小指の感触を信じ、迎えに来て下さるのを待ち侘びながら、気の遠くなるほどの長い時間を過ごして参りました。

時代は変われども、今年もあなたと聞いた祭囃子が聞こえてきます。
あなたは迎えに来て下さらないのでしょうか?

来る。。。来ない。。。来る。。。来ない。。。

あの日あなたが下さった、お人形と供にただ移り行く庭の景色を見つめております。
私の体は既になく、お人形の中であなたを待つ。。。
祭りのあとをいまも夢見て。。。




-完-


















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