第7話 布石~誘導
もう1つの朗報は結花からのLINEだ。
「本日40万円振り込みました。ごめんなさい。」
旦那が女に20万円のバッグをプレゼントしているのだ。それが原因だろう。
「来月の支払いが100万円になってしまいましたが大丈夫ですか?」
「はい。それは何とかする積りです。」
「なんか心配な返事だなぁ。不足すれば保証人の僕が穴埋めしなきゃなりません。どれくらいの金額を用意すればいいのか。また今月の支払予定60万円が40万円になった理由も聞きたいです。明日仕事終わりにあのカウンターバーでお待ちします。」
「前にも言いましたがあのカウンターバーは嫌です。他の場所にして下さい。」
「駄目だ。これ以上我が儘を言うなら僕もはもうこの件から手を引きます。後は被害者と直接交渉して下さい。」
「そんな。途中で投げ出されたら困ります。」
「だから話を聞いてやろうと言ってるんだ。明日7時に来るんだ。待ってるよ。」
LINEはここまでだ。後はスマホの電源を切ってベッドに入る。
翌日は仕事を休む。午後7時まで結花との接触を遮断するためだ。色んな言い訳や泣き言はききたくない。来るか来ないかだ。こういう時の今村の腹のくくり方は歴戦の強者だ。もし来なければ和菓子メーカーを辞めて探偵社に転職する積りだ。結花との縁も断ち切る覚悟で事にあたる。
その覚悟が相手に伝わり鉄壁の防御を打破する一端になる筈だ。
それも彼女が来てくれての話だ。来ると信じて6:40例の二人部屋に入る。
7:10来ない。いつも時間には正確な松井主任の事を思い少し不安になる。
「あんな恐ろしい場所へは行けないわ。」と言っていたな。場所を変えるべきだったかな?
7:20来ない。くそっ、7:30まで待とう。あきらめかけた時背後に人の気配を感じ振り返る。
「決心がつかなくて遅くなっちゃった。ごめんなさいね。」明るい声で詫びを入れる。
アウターの下は黒のニットワンピースだ。肌の露出は少ないが身体の線ははっきり見える。
ひざ下までの長さだが、身体にぴったりフィットしてセックスアピールを強く感じる。
肩部分が露出しこれで胸の谷間が覗ければキャバ嬢と同じだ。
喉元からのファスナーは腹部迄の長さがあり胸元10cm位が開いている。
メイクも普段と違いシャドーが多く入った大人メイクだ。彼女の覚悟が読み取れる。
「またワインでいいですか?」
「いえ、今日は焼酎をロックで頂くわ。」これから起こる事を考えて強い酒を選んだと都合のいいように考える。
笑顔で話すが顔も言葉も無理しているのは明白だ。
腰かけた巨尻は丸椅子からはみ出しニットのワンピースは見事にくびれた細腰を隠せない。
八方塞がりだった結花の救いは今村が自分に惚れている事だけだ。
出掛ける前無意識のうちにこのセクシーな黒のニットワンピースをチョイスしていた。
ある程度のセクハラがあってもそれを逆手にとって上手に切り抜けられる自信の成せる技だ。
今村も結花の覚悟を見抜いていた。
先日の流れからキスまでは覚悟しているだろうが覚悟の度合いが分からない。
今月の支払いが40万円になった理由を至近距離で話始める。
「主人がお財布紛失したらしいの。1泊の課長研修会に招待されて有頂天になっていたのね。新任の課長祝賀会も含まれていて祝い金もいるからって一応20万円も財布に入れていたらしいの。もう情けないわ。」
「そんな事で20万円も用意するかな?旦那が他の事に使っちゃたんじゃないか。」
言いながら手を握る。大丈夫だ。
露出した肩を撫ぜる。一瞬ビクッと反応したが拒否の言葉はない。
肩を愛撫しながら来月の支払いについて尋ねる。
「本当に大丈夫?不足分は僕が用立てるから正直に言って。」
「正直に言うわね。本当は全額は少し無理なの。でも君が駄目だって言うのなら必死で何とかするわ。」
「そんな。僕は君を困らせたくないんだ。不足分が多くなってもいいんだよ。」
言いながら唇を奪う。予想通り抵抗はない。
手は肩から首筋へ移動する。
「駄目よ。それ以上は駄目。」
唇と露出している肩口への愛撫までが限度の様だ。
許された範囲で今村の攻勢が始まる。
ディープキスに持ち込めれば攻撃の基盤が出来る。
再三舌を差し込もうとするが女は許さない。
数分後女の息の乱れを感じ攻撃が加速する。
今村にはディープキスに持ち込み指先の愛撫を胸へ移動出来たら落とせる自信があった。
本城凛々子や谷崎洋子と比べたらセックスレベルには雲泥の差がある。
結花の顔が染まり始めたのは焼酎のせいだけでは無かろう。
「結花さん、舌を下さい。貴方の下僕になります。すべての命令に従います。だからお願いです。舌を~」
「そんな事~そんな事~」
再開したキスで舌は歯の隙間に滑り込む。
舌先だけが触れ合う。
数分後男の舌の動きに合わせる様にチロチロと舌先を交差させる。
それだけで肩の上下が激しくなり鼻息が荒くなる。
「ちょっと待って。」キスを中断して大きく深呼吸。
間髪を入れず吸い付く。
何と女の舌が歯の外側迄進出しているではないか。
完璧なディープキスが続く。
続けながら手は肩から首筋へ移動する。
口を塞がれくぐもった声で拒否する。
当然聞こえない振りして継続させる。
キスしながら首筋への愛撫が続く。
拒否していた女の片手も防御を諦める。
首筋への愛撫を認めた瞬間男の舌はその首筋へ飛ぶ。
ついに性感帯の一部への進撃が許可されたのだ。
舌は耳の後ろを舐めあげ少しづつ下がり始める。
ニットワンピースと肌の隙間に顎を押し込み舌の占領面積を増やしていく。
ネックをグッと広げる。
勢いでファスナーのスライダーが少し下がる。
首元が緩み舌はさらに降下する。
山の裾野に到達して舌先に柔らかい膨らみを感じる。
「駄目よ。」と抑えた手を払いのける。
それどころかファスナーのスライダーを最下点まで押し下げたのだ。
黒のブラが飛び出す。
今村のこの強気には訳があるのだ。
三田村に念入りに依頼して得た成果が結花を従順にさせるだけの威力を持っているからに他ならない。
「何をするの。人が来るじゃないの。」振り返る。
いつの間にか後ろのカーテンがスライドドアになりピッタリ閉じられている。
半個室だと思っていた部屋が完全なる個室になっていた。
結花は何故か強気な今村に気押され左壁に逃げる。
今村は結花の身体を壁に押し付け胸への愛撫を続ける。
「やめなさい。そんな事するなら帰るわよ。」
ディープキスに戻りその口を封鎖し両手をクビレに回す。
今村はここまで広げた占領地区が確実になるまで続けるつもりだ。
あの時三田村に命じたのは松井翔に対する脅迫だ。
多香子との不倫が公になれば課長昇進の話は無くなる。
重役の中には「まだ早すぎる。」と言う人もいるからこの話が消えるのは確実だ。
消えるだけではなく不倫のレッテルは一生付いて回る。
松井翔は簡単に脅迫に応じる。
三田村が松井翔に渡したのは小型盗撮機と吸うやつだ。
欲求不満のど真ん中にいる結花の反応は今村の予想を超えていた。
この録画を待っているからこそここまで強気になれるのだ。
今村はこの盗撮映像を見せるのは双刃の剣だと考える。
なぜならこの映像は夫によって撮影され夫によって拡散されたのがバレてしまうからだ。
結花が夫を軽蔑し家庭不和になると困るのだ。
そうなると自動車事故の件も結花は関わっていないから手を引くだろうし、職場も辞めてしまうだろう。
その状況が今村がもっとも恐れる状況だ。
録画を見せて一気に攻め落とせたら何の問題もないがそうでなければ恐れる状況になる可能性が高い。
だから出来るだけこの最強の武器は使いたくないのだ。
怒って帰る事態になれば仕方ないけどそうでなければ他の方法で攻めたいと考えている。
細腰に回した手は生地の上から尻と太ももへ移動する。
結花は長いレスによる身体の反応を必死に隠す。
が、百戦錬磨の今村がこの変化に気づかない訳がない。
伸縮性に優れたニットの胸グリをグィッと広げ両肩を剥き出す。
尻を撫ぜていた右手がブラへ伸びる。
「止めなさい。今村君こんな事は駄目よ。」
最初と比べたら弱い言葉だ。
ディープキスも激しくなり舌をこねくり回す嫌らしい動きに変わっている。
ブラの上から乳房を揉みたてる。
やがて激しい呼吸音に甘い吐息が混ざり始める。
さらに強気になった今村は両腕をワンピースから抜き去る。
ニットの伸縮性のため骨盤の上で落下が止まる。
腹、背中の地肌への愛撫で女の肉体がくすぶり始める。
「駄目よ。お願い止めてください。」
命令が懇願に変わる。
仕事中の松井主任の男勝りの仕事振りからは考えられない女臭いお願いだ。
自身の肉体の異常を感じ取っているのだ。
快感を受け取り狂ってしまうのが怖いのだ。
彼女の身体が感じ易いのはあの盗撮はビデオで明らかだ。
それは本人も気付いているはずだ。
唇は首筋に沿いながら下がって行く。
鎖骨を舐め始める。
そんなところで感じるとは知らなかった。
思わず「あ〜ん」と声を出してしまう。
頃合いはよしと思い今村が仕掛ける。
ポケットから出したスマホにコンドームの小袋が張り付いて出してしまった体でカウンターの上に置く。
「アッ」大急ぎでポケットに仕舞い込む。
「今村君今のは何?」
答えられない。
「そんなつもりで来たの?」
「いいえ。すみません。でも万一僕の思い通りになった時の事を考えて。」
ぬけぬけとハメるのか望みだと明かした事になる。
それでいいのだ。
惚れているのはもう伝わっているはずだ。
だからただ肉欲のみを満たそうとしている訳ではないのもわかっているだろう。
コンドームを見ても帰らないのはそのためだ。
こんな事があって今村の攻撃は激しさを増す。
ディープキスの口中は嵐のように舞い狂う舌と唾液の交換で女もそれに応じる。
女はさっきまでくすぶっていた煙の中に時々炎が走るのを感じている。
強気の男はブラの上端を捲り上げる。
完全勃起した乳首が飛び出す。吸い付く。
女は大急ぎでそれを隠す。
強引に男と女の腕力の差を見せつける。
舐める。くわえる。吸い付く。全身をくねらせ鼻にかかった声で拒否する。
思いがけなく得た占領地に杭を打つべく攻め立てる。
洋子や凛々子の経験豊かな相手から学んだ舌使いが続く。
結花も戸惑っていた。
ここまで気持ちが高ぶったのは初めてだった。
(なんて気持ちいいの。この子に比べれば夫の愛撫なんて幼稚園並みだわ。あ~駄目~コリコリの乳首を甘噛みしないで。)
時々、そして所々だった肉体の炎が炎上し始める。
男の愛撫の気持ち良さが直接女芯に入り込む。
売り場では凛とした彼女からは考えられない痴態だ。
しかも今村の指一本の動きに素直に反応する敏感乳首の持ち主の様だ。
今村の究極の愛撫は結花の喘ぎを涙声に変える。
肉体の炎は燃え上がり完全に発情させた手応えを感じる。
その手は女の背中に回りブラのホックに向かう。
その瞬間男は右の壁に手をつくほど突かれる。
思いがけない反撃だがそれが女の意思ならばと行為を中止する。
簡単なようでなかなか出来る事ではない。
この場合レイプもいとわない男がほとんどだろう。
ここまで許しておいて急ブレーキを掛けるのは女に非があると思うからだ。
しかし今村は冷静さを保ち他の突破口を探る。
女を立たせ腰に掛かったニットワンピースをずり下げる。
「駄目っ」遅かった。
引っかかっていた骨盤を通過した着衣は落下する。
見事なくびれとむっちりとした太ももが露わになる。
堪らないほどに熟れた下半身が男の欲情を誘う。
パンストに指が掛かった時その手に渾身の力で爪をたてる。
手首に血が滲むほどの激しさだ。
諦めて下着の上からの愛撫とディープキスに集中する。
そして占領した地域の境界線に杭を打つ。
杭を打つとは今村特有の技法で次回の攻撃の時の布石だ。
(前回ここまで認めたのだから今回拒否するのは許さないよ。)と言いたいのだ。
この時点で今日の落城は諦めた事になる。
今村は次回の為の布石を打つ。
判らないよう女の背後に回り自身のパンツを降ろす。
そして後ろ手に握らせる。
はっとして女は振り返る。
怒張を見た途端手を引っ込め視線をそらす。
「何をするのっ。」着衣の乱れを直しながら睨みつける。
「ごめん。でもここまで来たら男は誰でもこうするよ。見ただろ?結花さんを求める強い気持ちを。」
居住まいを正しまだ上気した顔でトイレに立つ。
髪を直しきっちりメイクした結花が戻ってくる。
「今日の事は忘れなさい。私も今日の事は忘れてあげるから。さぁ帰りましょ。」
「駄目だよ。絶対に忘れられないよ。忘れたくないよ。」と言いながら壁に立てかけたスマホの録画を止める。
「とっ、撮っていたの?なんて子なの。貸しなさい。」
「嫌だよ。忘れたくないって言っただろ。」
再生して確認する。
「うん。上手く撮れてる。」結花の甘い泣き声が流れる。
帰宅しても胸の動悸はおさまらない。
(何故あんな事になってしまったのかしら。)
夫が帰ってきて少し後悔の念は薄れたがそれは気が紛れたに過ぎない。
それが証拠に夫が寝た後も思い出して寝られない。
後悔の念もあるが夫の倍はあろうかというあの怒張が脳裏から離れないのだ。
それに触った時の熱さ、ごつごつとしたあの硬さが手に触感として残ってる。
思い出しただけで勃ってきた乳首に指を這わす。
同じベッドの隣で寝ている夫を無視して激しいオナニーが始まる。
勿論、その対象は今村の怒張であり妄想はきっちり根元まで飲み込みまたがった結花のグラインドだ。
これは今村の描いたシナリオ通りなのだが勿論結花が知る由もない。
翌日以後休憩室で今村に会っても今までと変わらず遠くに座って素知らぬ顔だ。
廊下ですれ違っても軽く会釈して通り過ぎていく。
声を掛けるでもなく笑顔を見せる訳でもない。
(どうして?普通あそこ迄追い込んだら吹聴したくなるのが若い男の子でしょう。しかも相手が年上の人妻となれば有頂天になってもいい筈よ。きっと吹聴しても誰も信じてくれないからだわ。でもあの子あの録画持っているからそれはないか。)
色々考えさせられるのは今村の思う壺なんだが結花には判らない。
四六時中考えている相手が彼女の中で巨大化していくのだ。
(もしかしたらあの子こういうことに慣れていて私を追い込んでも感激していないのかも知れない。それならそれでそれは屈辱だわ。)
考えても埒が明く事ではない。考える事を止める。
(考えても仕方ないわ。今後はきっちりガードしていけば自然消滅する筈よ。現に最後の一線だけは守り通したしそれは私の貞操観念が上回った証拠だわ。それにあの子の惚れた弱みが露呈したのよ。密室にペニスを勃起させた男と下着だけの女がいても大丈夫だったじゃない。)
鼻息の荒い若者を御したと認識している様だが実際は今村が一気の攻めを緩和したに過ぎない。
「攻める時は一気に堕とせ。」という達人の言葉に逆らったのには訳があった。
一つは結花の性格をきっちり把握していたことだ。
達人の教えに従って一気に攻めれば失敗の憂き目に合っていただろう。
もう一つは寝物語に言った洋子の言葉だ。
「君のセックスは達人以上よ。性能は元々だし技術でも追い越したんじゃないかな。私こんなに良かったのは初めてよ。」
(達人の言葉より俺の考えの方が正しい。)という自信の行動だったのだ。
後は来月のその日まで女の気持ちを冷やさない事が大事だ。
後ろ手に今村の怒張を握った写メを送る。
もう一枚は男の巨根を見る驚愕の表情だ。
1枚目は手からはみ出すそのサイズを見せつける為、2枚目は雁高のその形状を女の網膜に焼き付ける為だ。
実際この2枚の写メは毎晩結花のオナニーに現れる。
そして考えないでおこうとする女の考えを封じてしまう。
この映像で脅迫してくる訳ではなく外部に漏らすわけでもない。
ただ職務中にすれ違っただけで思い出すほど結花の脳裏にこびりついている。
そしてその記憶が薄れない様に必ず2~3度は会うように心がけている。
就寝時は毎晩夫の隣で鮮明に思い出す。
夫の寝た後の行為ではスマホの写メを見ることも度々だ。
何も仕掛けない平穏な毎日が過ぎていく。
(あそこ迄しながらなぜ何も言ってこないの?本当に私に惚れているの?)
今村が何もしていない筈はない。
ラストチャンスに向けて「細工は流々仕上げをご覧じろ」の心境だ。
給料日、結花からLINE「お金が振り込めないの。きっと銀行のトラブルだわ。」
「そうなんです。会社からも給与を振り込めないって連絡がありました。それに出金も出来ないのです。でも結花さんとの約束を守るためタンス貯金の80万円と親に20万円借りて示談金は何とかしました。そんな訳で手持ちの金が一銭もないのです。結花さんの金が必要なんです。明日ミナミで会えませんか?」
「ほかの口座はないの?」
「沢山あり過ぎて去年全部整理したんだ。引き落としも口座1つの方が便利だからね。」
「それじゃ現金書留で郵送しますわ。住所を教えて下さい。」
「そんな悠長なこと言ってる場合じゃないんです。給与の現金払いも前例がないという事で出張中の部長の稟議がいるんだ。3日後に本社へ取りに行く事になったんだ。俺明日の食事代もないんだ。」
「明日朝一番に会社でお渡ししますわ。」
「俺明日は示談の相手に会って『今後一切の要求は致しません。』という誓約書を交わす予定なんです。先方が休養日の明日を指定してきたのです。だから俺明日百貨店の方は有給休暇になっているのです。」
親に借金し会社を休んでまでも結花に尽くす今村に感謝の念が膨らむ。
「それじゃ明日お会いしましょう。でもあの店は怖いわ。そうだ、自宅へいらっしゃいよ。夕食も用意しとくわ。」
あまりにも簡単に今村の思惑通りに流れるので強い幸運を感じる。
この幸運が明日まで続くように神に祈る。