官能小説『美人上司 結花 28歳』(05)

著作 優




第5話 盗聴~策略

三田村から1回目の調査報告が入る。
松井の勤務先は大手の貿易商社。
彼は中国貿易課の販売係長30歳でエリート社員。
中国語に堪能で学生時代1年間中国留学の経験あり。
中国貿易の売上増加によって販売実績は社内NO1。
来期に新設される中国貿易二課の課長が内定している。
20人いる課長は全て40代で唯一の30代課長になる。
30歳という異例の若さでの昇進は創業以来初。(30代後半での昇進例はある。)
浮気や不倫の痕跡は見当たらないが結婚前秘書課の女性社員と交際していた。(結婚の前に清算したが女は納得していない。)名は星野多香子24歳。
新居は持ち家で半年前に30年ローンで購入。

押しなべてその生活に欠損は見当たらない。
来季の課長昇進を取り消される事を恐れて飲酒運転事故を示談にしようとしたと思われる。
と締めている。

今村はこの日も松井結花主任の尾行を楽しんでいた。
夕食の食材をスーパーで買い物をし自宅に向かう。
彼女が自宅に入りきびすを返した時携帯が震えた。
あれから3日も経つのにあのライター型盗聴器のボタン電池が生きていたのだ。
タバコを吸わない松井が何かの間違いだと思って自宅に放置したのであろう。
捨てられなかった幸運に何か運命のようなものを感じながらスマホの音に聞き耳を立てる。
遠くでテレビの音が聞こえるからリビングでないのは確かだ。
結花の生活音や蛇口の音も聞こえないからキッチンでもない。
もしかしたらスーツのポケットに入ったままクローゼットの中?
それにしては音が鮮明だ。
自宅へ戻り松井結花の盗撮映像を編集する。
今日はスーパーの明るい照明の下で正面からの撮影に成功したから広瀬アリス似の美顔を楽しむ。
午後10時車で松井家を目指す。
横壁に沿うように停車し盗聴器の音源を入れる。
相変わらず遠くでテレビの音が聞こえるだけだ。
10:45ドアの音がして二人の会話が聞こえだす。
そしていきなりキスの音だ。
運が良けりゃと思っていたが運がよかったようだ。
間違いなくベッドルームだ。
キスの音から盗聴ライターはベッドの枕元に置かれていると推察できる。
「明日も早いの?」
「いや明日は久しぶりにゆっくりだ。」
「じゃ。ねっ。」
「それが昇進のこと以外にもちょっとした事故があってストレスの塊なんだ。」
「私たちまだ結婚して2年も経っていないのよ。まだ新婚だって言う人もいるぐらいよ。なのに4ヶ月もレスなんて信じられないわ。私ってそんなに魅力ない?」
「いや。そうじゃないんだけど駄目なんだ。医者にも行ったんだけど『心因性ED』だからリラックス出来たら戻るよって言うんだ。」
「判ったわ。でも私も生身の女よ。もう我慢できないのよ。このままじゃ浮気してしまいそうで怖いの。」
「ごめん。課長になってしまえば緊張は解けると思うんだ。もう少しの間我慢してよ。」
「だから我慢の限界だと言ってるでしょ。照明消さずに全裸になるから試してみてよ。」
「おお~結花凄いよ。興奮するよ。しゃぶってくれたら勃起しそうな気がするな。」
「フェラは嫌だって言ってるでしょ。娼婦みたいだわ。」
「違うよ。みんなしているよ。同僚から『松井、お前フェラもして貰えないのか。』て笑われたよ。
「わかったわ。仕方ないわね。今日だけよ。それにわたし初めてだから期待しないでね。」
普通はズズズーッ茎を舐めあげる音が聞こえる筈だが無音だ。
舐めあげる茎が存在しないのだ。
だが二人の激しい息づかいで興奮しているのは判る。
数分間、無言で激しい呼吸音が続く。
「ごめん。駄目だ。今日はもう休もう。」
「嫌よ。くわえさせられてその気になってしまったわ。全裸であなたのをくわえたのだから当然よね。貴方も指と舌を使ってよ。」
夫婦の秘め事だとは言えあの清楚な松井結花主任が自分のマンコを舐めろと言った事に驚愕する。
長いクンニの後甘いため息が聞こえたから少しは快感を得たのであろう。寂しい性交が終わり寝息が聞こえる。
帰りの車の中でこの録音を聞きながら僕なら究極のアクメを与えて上げれるのにと思う。
その瞬間から松井結花は憧れの女性から今村のターゲットにランクが下がる。
職場では凛と済ましているが肉体は飢えているのを知ったからだ。
思えば盗聴ライターの電池が生きていた事。そのライターを枕元に置いてくれた事。
この二つの幸運が松井結花との将来を暗示している様な気がする。

翌日は休憩時間まで待ちきれず2階の洋品雑貨売り場まで足を運ぶ。
柱の陰から松井主任を探す。
欲求不満から解放されたからだろうか、いつものポニーテールからCA風夜会巻きに変わっている。
颯爽とそしてキリっとした表情で部下に指示を出す。
襟足が美しくさらに上品な雰囲気を醸し出す。
昨夜「マンコを舐めて」と全裸でお願いした女とは信じられない。
全裸で股間を開く彼女を空想して密かに勃起する。

夕方貿易会社に電話し中国貿易課の松井係長を呼び出す。
「飲酒運転事故の事で相談したいのでどこかでお会いできませんか?」
「どなた様ですか?何のお話でしょう?」一応はとぼける。
「今村と申します。〇月〇日の自動車事故の件です。」
「弁護士さんですか?」
「いえ、被害者の友人です。」
それを聞いて少しは安心したのだろう。
先日の梅田の居酒屋を指定してきた。
酒の力を借りて説得する積りなんだろう。

「松井さんですか?電話しました今村です。」
「はい。松井です。お若い方なので驚きました。」
「ええ、被害者奥さんの同級生なんです。一応法学部を出ていますので相談を受けたわけです。」
「そうですか。ビールでいいですか?」
「はい。中ジョッキと焼き鳥をお願いします。」
「実はあの事故は僕の飲酒運転もあるのですが相手の方も無免許運転で責任は50:50だと思うわけですよ。」
「知っています。でも松井さんは念書を入れられた時点で100:0を認められた事になります。だから念書はよく調べてから入れるものです。示談を急いだ松井さんの負けです。」
「そうですね。判りました。約束は履行します。今日は飲みましょう。」
今、警察や裁判所の厄介になることは出来ない立場にあるからだろう簡単に今村の要求を飲んだ。
「そうですね。約束は念書の記載通りに履行して下さいね。じゃ示談金はこの口座に振り込んでください。」振込先を書いたメモを渡す。

7日後、松井夫婦の家を訪ねる。
二人とも在宅しているであろう午後8時だ。
インターホンで来宅を告げる。
「あら、今村君こんな時間にどうしたの?私の家よくわかったわね。」
「えっ、ここ松井主任のご自宅ですか?僕は松井翔さんを訪ねて来たんです。驚きました。」
「翔は私の夫よ。どうしたのよ?」
松井さんが奥から飛び出してきて「話は外で。」と今村を外へ誘う。
「松井さん。奥さんには話してないのですね。今日は結花さんにも聞いて貰います。」
「そうよ。何があったのか私も知りたいわ。」
リビングに通されソファーをすすめられる。
「ちょっと待ってね。コーヒーを入れるわ。」
話の内容を知らないのでいつもの爽やかな笑顔で今村に話しかける。
「庭の広い立派なお宅ですね。」
「半年前に買ったの。もちろんローンよ。毎月の支払いを少なくしたくて貯金全部頭金にしたから今は素寒貧だわ。」
夫は無言で珈琲をすすっている。
夫の態度からただ事ではないと察する。
「じゃ、今村君話して下さる。」
「判りました。結花さんその前にこの2通の文書を見て下さい。」
念書と詫び状だ。
結花さんの表情がみるみる曇る。
経緯を詳しく説明する。
「判ったわ。この示談金200万円をお支払いすればいいのね。いつまでに払えばいいの?」
「見て下さい。念書の支払期限は今日なのです。」
「今日来て今日なんて無茶でしょう。しかも200万円も。」
「それが1週間前に梅田の居酒屋で念書通り今日までに振り込むってお約束頂いたものだから安心していたのです。」
「あなた、そんな事約束したの?」
夫は元気なく頷く。
「何故私に話してくれなかったのよ?ちょっとした事故でストレスが溜まって出来ないとは聞いたけどこれの事ね。」
「えっ、ストレスが溜まって出来ないってなんのことですか?」
真っ赤な顔で答える。
「ストレスが溜まって仕事がうまくできないっていう意味よ。」
「びっくりした。僕別の意味にとっちゃって。」
「今村君さっきも言ったように今我が家は余裕がないのよ。でも幸い私も夫もそれなりのお給料は頂いているので少し借金をすれば払えるわ。来月の給料日まで待って頂けないかしら?」
「僕の依頼人は念書は無効だと言った翔さんを恨んでいます。無免許運転の罰を受ける覚悟で告訴するっていきまいています。」
「君の友人なのでしょ?何とか説得してよ。お願い。」
「一応説得はしてみます。結花さんが信用できる女性だって説明したら納得してくれそうな気もします。」
「お願いよ。君だけが頼りだわ。」
「電話で話せることじゃないので今から行って説得してみます。」

翌日の休憩時間彼女が同僚たちの待つテーブルに着く前に話しかける。
「報告と相談がしたい事もあるので仕事の後ミナミの居酒屋に来て下さい。」

「遅くなってごめんなさい。売り場でちょっともめ事があって遅くなっちゃたの。」
「大丈夫ですよ。美人には男を待たせる権利があるって思っていますから。」
「お上手ね。私もビール飲もうかな。」
注文のオーダーも男にやらせるのはいい女の特徴だ。
「で、あのお話どうだった?」飲みながら尋ねる。
「その報告の他に相談したい事もあるのですが他人には聞かれたくない事も含まれているので場所を変えようと思います。」
一杯飲んだだけで店を出る。
「どこへ行くの?」不安そうに尋ねる。
「はい。カウンターバーです。今日の松井主任のワンピース素敵ですね。私服姿を見るのは初めてだから新鮮に感じます。」
何度も私服姿を盗み見しながらぬけぬけと誉める。
カウンターバーなら断るわけにはいかないわと内心思いながらついて行く。
お店に入るなり「二人用で」と店員に告げる。
二人用???その意味はすぐに判った。
二人用のカウンター席に通された。
短いカウンターがありその両サイドは壁で仕切られている。
その前に二つの丸椅子が置かれ並んで座る様になっている。
三方が壁で後ろはカーテンが引かれれている。
半個室の状態だが文句を言うのは大人げないし大事な話も聞かなければ帰れないのだ。
「僕はチューハイ飲むけど結花さんは何飲む?」
さっきまでの今村なら松井主任は何を飲まれますか?って敬語で尋ねただろう。
周りの雰囲気がタメ語を容認しているのだ。
下の名前で呼ぶのにも違和感はない。
「そうね、私はワインを頂くわ。」見つめ合った目の近さに驚く。
少し左に寄ったが壁が邪魔をする。
飲み物と肴が来るまでよもやま話が始まる。
「結花さんは何処でご主人と出会ったの?」
「店の女の子たちと一緒の合コンよ。人数合わせで無理やり連れて行かれたの。」
「へ~結花さんでも合コンするんだ。そこで旦那に見初められたんだね?」
「そうなのよ。その後猛烈なアタックの連続だったわ。」
「結花さん相手だったら誰だってそうなりますよ。僕だったら土下座してでもお願いするとこですよ。」
何杯かお代わりした後本題に入る。
いつの間にか結花の席は左の壁に引っ付き今村の席は右の壁から50cm程離れている。
至近距離で目を合わせながら話始める。
「来月の給料日二人の給料と少し借金して払うって聞いていたので何とか結花さんに借金だけはさせたくないと思ったんです。」
「それはありがとう。」
「で、支払いは2ヵ月後、いや3ヵ月後にしてくれって頼んだのです。」
「そうね。2ヵ月後なら借金なしでお支払い出来るわ。でも生活費の事もあるし3カ月後なら助かるわ。」
「ところがご主人は全然信用されていないんです。それは念書を交わしながら不履行だから当然です。『そんな男の女房なんて信用できるか。』が彼の言い分です。1か月も待てない告訴するっていきまいているんですよ。」
「困ったわ。そんな事されたら夫の課長昇進は頓挫してしまうわ。係長と課長じゃ給与は天と地の開きがあるの。ローンの支払いの事もあるしね。」
「そこで僕は説得を諦めて同級生の彼女に訴えたんだ。 
「結花さんって奥さんの事なぜ信用できるって判るの?」
「俺彼女のこと良く知ってるから。」
「表面上だけ知ってても人間って判らないものよ。」
「表面上だけじゃないよ。俺たち付き合ってるんだ。だから彼女の事は何でも判るんだ。」
「付き合ってるって不倫してるってこと?」
「う~ん、そうなんだ。だから信用して欲しいんだ。」
彼女の必死の説得でご主人も折れる。

「私たち不倫してることにしちゃったの?」
「ごめんよ。やむを得なかったんだ。つい本性を現してしまったんだ。」
今夜彼女に会ってからの会話でもう僕が結花に惚れているのは伝わったはずだ。
しかも今、結花と不倫するのが本性だと打ち明けたのだ。
さらに椅子を近づけ至近距離で話す。
すぐにキスさえ出来る距離だ。
「男性から条件を出されました。
1⃣支払いを拒否して法廷で争う。
2⃣来月に支払ってもらえるなら約束通り示談金の10%を今村君に謝礼する。
3⃣2ヵ月後なら謝礼金の20万円は無しだ。
4⃣3か月後なら今村君に保証して貰う。
以上の4点から選べという事です。

「結花さんどうしましょう?返事は今日中にLINEする事になっています。今日中にいや今すぐ4点のうちの一つを選んでください。」
「困ったな。2⃣がベストだと思うけどそれじゃ相当無理しないといけないの。3⃣か4⃣う~ん4⃣がいいんだけどなぁ・・・・・・」
20cmくらいの距離で見つめ合う。
あえて返事はしない。
「駄目だよね。迷惑かかるもんね・・・・・・」
黙って見つめ合う。
ここは彼女がお礼の条件を出すかお願いするまで無言でいいのだ。
長いまつげが揺れる。
「でもやっぱり4⃣で頼んじゃぉーかな。」
無言・・・・・
「松井主任、人にものを頼む時にそんな頼み方ってあるのですか?」
あえて主任という言葉を使った。
今村らしくない1本筋の入った言葉だ。
「今村さん。お願いします。なんとか4️⃣3ヵ月後の支払いでお願いします。」
君付けがさん付けになる。
頭を下げた時彼女の額が今村の肩に触れる。
「僕に保証人になれというんですね。」
「そっ、それは・・・そんな事・・・保証人迄頼めないわよね・・・」
再び無言で見つめ合う。
いつの間にかその距離は15cmに狭まっている。
口臭も鼻息も感じられる距離だ。
ワインのせいで目の周りが赤く染まっている。
ゾクゾクするほどの美しさだ。
(もしこの子に保証人になってくれと頼んだら見返りを要求されるかも知れないわ。でもこの子私に惚れてるから何とかなる筈よ。)
「保証人になって下さい。お願いします。」
男の唇が近づいてくる。
女は目を閉じる。
今村にはそれで十分だった。
ここでキスしても堕とせるとは限らないのだ。
「攻める時は一気に堕とせ。」達人の言葉だが。
「いいよ。結花さんに頼まれたら断れないよ。でも一つだけ条件があるんだ。」
(きたっ。きっとキス以上の事を要求する積りだわ。その時は頬ぺた引っ叩いて帰ろう。夫の昇進も諦めよう。)
「正直に答えて欲しいんだ。昨日言っていたストレスで出来ないってセックスの事だよね。」
予想外の軽い質問に思わず正直に答えてしまう。
「そうか、やっぱりレスなんだ。」つぶやきながらLINEを打つ。
(念書の支払日は3ヵ月後に変更してください。約束通り私 今村 新 が保証します。)
「結花さんこれでいいかな?送信するね。」
何かあった時の為にLINEの交換はしたがそのあと何の要求もなしに梅田の駅で別れる。
この念書は10万円で買い取ったものだ。3ヵ月後の200万円は今村の手元に入る。
それより結花に貸しを作った事の方が今村にとっては大きな出来事だ。
彼女は精神的には唇を許し自分の欲求不満を明かしたような気になっている筈だ。
自宅に帰ってマイクロビデオを見る。
キスを受ける為、目を閉じた表情を静止画にしてスマホに落す。
至近距離からの撮影なのでまつ毛の1本迄鮮明に見て取れる。
欲求不満の美人妻が男を待つ表情と言えない事はない。
異状に興奮した今村は久しぶりに一人で精液を吐き出す。

この日の休憩時間は勿論松井主任の隣のテーブルだ。
「やぁ、松井主任お久しぶりです。洋品雑貨売り場の店員さんは皆美人ですね。」
「ああ、今村君。もう売り場には慣れたようね。女の子にお世辞言える様になったのね。」
「お世辞じゃないですよ。2階の洋品雑貨売り場は松井主任を筆頭に美人ばかりだってみんなの噂ですよ。」
「上野さんも田辺さんもアイドルになればよかったのにって噂されていますよ。」
「えっ、今村君って言ったっけ。どうして私の名前知ってるの?」
「地下の男性店員たちに教えて貰いました。あなた方のプライベートの事まで皆よく知っていますよ。誰かが調べたんでしょうね。」
「ええ~嘘でしょう。プライベートの事ってどんな事よ?」
「色々だよ。例えば彼は学校の教師だとか心斎橋のエステに通っているとか、それに・・・これは言わない方がいいか。とにかくストーカーには気を付けなくっちゃね。」
「当たってるわ。今言いかけた事教えてよ。」
「教えてもいいけどここで話したら君が恥かしい思いをするんだ。嫌だろう?どうしても聞きたければ僕とデイトするんだな。フフフ。」
「今村君。いい加減にしなさい。勤務中にナンパするなんて許しませんよ。」
「判りました。もう止めます。あ、そうそう松井主任の事も噂されていますよ。地下のスケベ親父たちの噂だから根拠のない妄想だとは思うのですが話を聞いたら赤面しちゃいますよ。教えましょうか?」
「要りません。それよりもう休憩時間は終わりよ。上野も田辺も売り場に戻りなさい。君も地下に戻るのね。」
颯爽と立ち去る後ろ姿に笑みを浮かべる。
終業前にLINEを送る。
「今日僕暇なんです。先日のようにミナミで飲みませんか?」
「お断りよ。あの時は大切な用事があったでしょう。そうでなきゃ君のような子とご一緒する事はないわ。私を誘う君の心臓が信じられない。」
本当に相手を見下げた高飛車な返答だ。
確かに有名大学を卒業してエリート社員として百貨店に就職し若くして役職に抜擢される逸材だ。
英語とフランス語に堪能で半年後には外商の外国人担当部署に栄転すると聞いた。
問屋の三流大学出身者が下に見られるのは仕方ないが旦那の秘密を共有する仲間じゃないかと思う。
数日後、偶然を装って帰宅途上で会う。
「偶然じゃないわよね。私にまとわりつかないで。君にはっきり言っておくことがあるわ。会社では君の上司なんだから先日の休憩時間の態度は許せません。プライベートでは私は人妻です。二度と誘わないで。それに意味のないLINEも禁止よ。」
言うだけ言って背筋を伸ばして背を向ける。
会う機会を閉ざされ休憩室での雑談もLINE迄禁止されては結花に接触する機会はストーカーだけになってしまう。
達人の言葉「攻める時は一気に堕とせ。」は無理だと感じる。
並の女ではない。一気に攻めれば全力で守り抜くタイプだ。
遠くから少しづつ輪をすぼめていくべきだ。
中国海警船が尖閣の領海侵入の回数を少しづつ増やしていくあのやり方だ。
そして至近距離に達したら「攻める時は一気に堕とせ。」だ。
しかし今は八方塞がりのみじめな状態だ。
何もしないで3カ月たてば示談問題は解決してしまい6カ月たてば今村とは縁のない外商部へ移動してしまう。
今村は接触する方法を必死で考える。
業務に関する報連相は断れない筈だ。
「松井主任、和菓子売り場の模様替えをしようと思うのです。百貨店側の意向も知りたいし相談にのっていただけませんか?」
「そういう事なら山本課長に相談しなさい。商品の並び替え程度なら自分たちで処理しなさい。」
つっけんどんに言い放つ。
夜はLNEだ。示談書に関する事柄は拒否できない筈だ。
「1か月がたちました。保証した手前不安をなくすため60万円だけでも預からせて下さい。
例のカウンターバーで受け取りたいと思います。」
「駄目よ。あんな恐ろしい場所には行けないわ。60万円は明日にでも振り込みます。」
ガードの硬さは最初から判っていた事だ。
とにかく接触を続け包囲網を狭めていくことが大事なんだ。
百貨店での業務連絡などで接触時間は無理やり作っているし帰宅の尾行も続けているがその包囲網が一向に狭まらない。
ここでも彼女のガードの硬さを思い知らされる。
そんな時今村の元に二つの朗報が届く。



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イラスト提供:みんちりえ様





















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