最終話


美桜と翔吾が婚姻し、それから一年余りの月日が流れていた。

「お待たせ、美桜」

「……」

「おーい、眠っちまったのか?」

美桜の背中越しに、翔吾が呼んだ。
柔らかなベッドに横たわる新妻の肩を、太くて節だった指が突いた。

「もう、あなたったら、驚かさないでよね。お腹の赤ちゃんもびっくりしちゃうでしょ」

「びっくりって。お前、起きてただろ。分かるんだよな、俺には」

ちょっぴり拗ねた顔をして、そんな美桜を背中越しに翔吾が覗いた。
この数か月で逞しさを更に増した男臭い顔を、美桜の脇腹へと寄せていく。

「さきこも悪い子だな。ママと一緒になってお父さんを騙そうなんてさ」

「ひゃ、はぁんっ……くすぐったいから、んん……ダメぇ」

少し剃り残しの見える翔吾のアゴが、美桜の肌を撫でた。
真横のまま自己主張するように張り出した美桜の腹部を、愛おしさを隠しきれずに何度も往復させて。

「あなた……して……」

美桜が笑いに涙を溜めながらおねだりをする。
横を向かせていた身体を仰向きにさせる。

「いいんだよな、しても?」

翔吾は訊き返しながら、ベッドへと上がった。
勇んで震える指先を、美桜の胸元へと向ける。
緩く結ばれたバスタオルの端を掴ませた。

「お医者様がね、大丈夫だって。セックスしても、赤ちゃんには影響はないって。だから今夜は、プチ贅沢なホテルで二人一緒に……うふふっ」

「そ、そうだよな。俺たち夫婦になって一年だよな。あれから色々あったけど、こうしてまた美桜とセックスしてさ……はあぁ」

感慨染みた声を漏らすと共に、翔吾の指は巻き付いたバスタオルを解いた。
プレゼントされたケーキの包み紙を開くように、緊張させた指先が、愛する新妻の肌を露わにさせる。

「嫌ぁ、なんか恥ずかしい……」

「おっ、剃っちまったのか? ツルツルじゃん」

「だから、そんなに見ないで……恥ずかしいの……」

ゆったりとしたベッドの上で、美桜の乳白色な裸体が揺れた。
思わず両手で顔を覆いながら、翔吾の目が注がれる股間を隠そうと太腿を強く閉ざさせた。

「でもなぁ、パイパンのマンコが目の前にあって、見るなって言われても……それじゃ、こっちはどうかな?」

「ひくぅ、はあっ……急におっぱいなんて……あぁんっ」

くっきりと刻まれた女の縦筋を前に、翔吾の指はターンをする。
結ばれた頃よりも一回りは膨らんで並んだ、乳肉に乗せられる。
焦らされて汗ばませた指の腹で、柔らかな触感に満たされた部分を揉みしだいていく。

「柔らかいな、美桜のおっぱい……お乳とかまだ出ないのか?」

その翔吾の指が、冗談交じりに赤く色づいた乳首を摘まんだ。
背伸びして尖らせた根元の処を、挟んだ指でキュッキュッと扱いた。

「はあっ、んくはぁっ……出ないよぉ、まだ……それにね、ンンッ、あなたには飲ませてあげないから……これは大切な赤ちゃんのぉ……あぁ、気持ちいい」

久しぶりに感じる男の指使い。
不器用で、驚くほど繊細で、けれども美桜の性感は、あっという間に高められていく。

「あなた……欲しいの……」

「ん、なにが?」

「もう、今夜のあなたは意地悪なんだから、オチンチン……翔くんのオチ〇チンを、美桜のオマ〇コに入れて……」

そして美桜は、閉じ合わせていた足を開いた。
控えていたセックスを再開させる記念に、パイパンにさせた女の恥部を露わにさせる。

「おい、子供が聞いたら教育に悪いだろ。もっと上品な言葉使いをしないと」

「そんなぁ、翔くんが聞くから、美桜は答えただけなのにぃ……意地悪、意地悪、イジワル」

恥じらって、甘えて、心と心をじゃれ合わせて……
結婚して一年と一か月の少し遅れた結婚記念日を、美桜も翔吾も堪能していた。
故郷にいる二組の両親が呆れ返るなか、通っていた大学を退学し、厳しい社会の荒波の中へとその身を捧げてきたのだ。
生きる希望と、明日へと繋ぐ夢をお互いの胸に秘めさせて、ここまで……



「わたしが上になるけど……ね、いいでしょ?」

「もちろん構わないさ。俺はかえってその方が好みかも……ぐふふっ」

「なーんか、いやらしい笑い方。翔くんって、ホントにスケベなんだね」

新妻な美桜の口は、『あなた』から『翔くん』へと呼び名を変えた。
その美桜が慎重に身体を起こすと、入れ替わりに仰向けに寝そべる翔吾を跨いだ。

ニタリと口元を緩めながらも、すかさず両手を差し出しては、妻の身体を支える夫。
そんな仕草に、美桜も赤いほっぺたを綻ばせながら、ゆっくりと腰を落としていく。

「はあぁ、入ってくるぅ……翔くんのオチ〇チンがぁ、美桜の中にぃ……んふぅっ」

「んぐ、美桜のオマ〇コ……熱い、それに凄く絞めつけて……」

膣肉がヌルリと沈んだペニスに絡みつく。
幼女のように無毛にされたスリットを大きく割り裂き、直立した肉棒が根元まで埋まった。

「翔くんはじっとしててね。今夜は……ふぅ、美桜が気持ちよく……んんっ、してあげる」

漏らされる美桜の声が身震いしていた。
愛する夫を前に、恥ずかしいセリフを口にして。
控えめな自慰でごまかしていた瑞々しい肢体が、愛おしいペニスとの再会に歓喜してみせて。

じゅにゅ、にちゅ、ちゅにゅ……

いやらしすぎる肉音が漏れ出してくる。

「あふっ、はぅ……翔くんのオチ〇チン、どんどん硬くなってぇ……ふぅぁぁっっ!」

艶やかな女体が上下にピストンされて、淫らな息遣いも吐き出されてくる。

(翔くんが見てる。美桜がエッチしてる姿を、嬉しそうに眺めている)

美桜は愛する人の胸板に両手を突いていた。
短髪で少し子供っぽく見えて、なのに凛々しい男の顔をした翔吾と向き合ったまま腰を上げ下げしていた。
新しい命を宿したお腹をリズム良く弾ませながら、騎乗位セックスに勤しんでいた。

ピン、ポーン……♪

そんな時である。
閉め切られた客室ドアの向こうから、軽やかにチャイムが鳴った。

「翔くん、まさかルームサービス?」

「そんなわけないだろう。今夜のホテル代だって、美桜に前借してだな」

紅潮させた顔で見下ろして。
鼻息を荒くさせたまま両手を広げて、首を傾げてみせて。

「失礼します」

可愛らしい女の子の声が、二人の耳にも届いた。
許しもないままにドアノブが回転し、カラコロとキャスターの転がる音が床に響いた。

「これは当ホテルのサービスでございます」

全裸のまま固く結ばれた男女をよそに、そのホテル従業員は淡々と語る。
唖然としたまま人形のように硬直した美桜と翔吾を、その若くて美少女なホテル従業員はマジマジと眺めて、それから手押しワゴンに乗せられたドーム型の蓋を開けた。

「カ、カツカレー?!」

果たして、美桜なのか?
翔吾なのか?

区別もつかないまま、一音の乱れもなく同じ単語を口走っていた。
プーンと香るスパイシーな匂いに、性器どうしを繋げたまま、小鼻をヒクヒクとさせた。

「それではお客様、お愉しみのところを失礼致します」

まるでフランス人形を思わせる美少女なホテル従業員は、ホテル従業員にあるまじき態度と言動を残して、部屋を去っていく。
空になった手押しワゴンと共にドアの前に立つと、ペコリとだけ頭を下げて退出した。

『こっちの世界も悪くないわね。うふふっ』

そのささやきが、いつ聞こえたのかは定かでない。
けれども美桜は、懐かしくて嬉しくなるその声を、大切な記憶として心の壁に染み込ませていた。

「わたしね、翔くん。さっきの女の子と会った気がするの。そんな遠くない昔に、とっても楽しいことと、とっても辛いことを経験したような……」

「俺も……」

美桜と翔吾は、お互いの目の奥を眺めた。
そして、グルルとお腹の虫を鳴かせた。

「セックスの途中だけど、翔くんいいよね?」

「当たり前じゃん。腹が減っては……」

「『セックスは出来ぬ』でしょ。うふふっ」

小さな食卓を囲んで、全裸なままの男女はカレースプーンを口に運んだ。
『おいしい♪』の一言を、芳醇なカレールーに包みこんで、二人してほっぺたのお肉を落とした。












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