第9話    なれの果て……怨鬼


ピシッ! ピシッ! ピシッ! 

生木を引き裂くようなラップ音が、部屋のあちこちでする。
室内を暖かく照らしていた照明がチカチカって震えて、蝋燭を吹き消したように消えた。
残されたのは、重なり合う身体を薄明るく照らすベッドライトのみ。

「な、なんだ?! て、停電? それにあの音?!」


わたしと深くつながったまま、淳二さんの腰が止まった。
霊感に乏しい普通の人でも、五感が刺激されるような変化にはさすがに気付いちゃうよね。

「だめぇ、やめないでぇ。淳二さん続けてっ!」

「でも……やっぱりこれが……ああ、ああああぁぁッッッッ!!」

「うっぅぅっ、お、重たい」

まるで幼い子供みたいに淳二さんがしがみついてくる。
何も見たくない。何も聞きたくないというように、おっぱいの狭間に顔を埋めてイヤイヤをしている。

彼女が唇の端を上げて笑った。
首だけで宙に浮いていた姿が上半身をリアルに再現して、愛する彼の背中に貼り付こうとする。
愛らしい花柄のワンピース。
その右半分も、真っ赤なモノで染め上げて……

でも、こんなの見慣れていて全然怖くないんだから。
どんなにあなたが実体化しても、指一本触れることさえできないんだから。
その程度の霊力ではね。

わたしは彼の頭を撫で撫でしながら、そっと聞こえるようにささやいた。

「大丈夫よ、淳二。大丈夫だからね♪ だから、さあ、神楽のエッチなお肉を刺激してぇっ! もっとぉ神楽をあいしてぇ。もっとぉ深くぅ、淳二のおち○ちんでぇっ!」

「はあぁ、う、うん」

さっきまでの欲情に取り憑かれた表情が消え去っている。
残っているのは、臆病で純真な少年の面影。
そんな彼をわたしは年下なのにリードしていく。
なんとなく可愛くて、守ってあげたいって気にさせられて……

だから、おっぱいに埋もれた顔を引き離すと、お互いの唇を吸い合った。
濃厚な唾液の交換をしながら、促すように腰を揺らせてあげた。

ズニュズニュ、ジュチュ、ジュチュ……ズズゥ……

「ふあぁ……あぁぁ。淳二、じょうず……んんっ、神楽ぁ気持ちいいぃぃっ!」

「はあ、お、俺も……神楽の膣(なか)って、今までの誰よりも熱い。それなのに、うぅっ、締め付けられてっ!」

初めてなのに……彼とは一夜限りの初めてなのに……
熱くて硬い肉の棒が、神楽の膣にフィットしている。
優しくて刺激的な挿入に、敏感な壁が悦んでエッチなお汁が溢れてきちゃう。

(……淳二……さん。私の……淳二。ううっ……うっ、ううぅっ……ゆ、許さないッ! あんたぁッ! 許さないからねぇッッ!!)

ピシッ! ピシピシピシィッッ!

大気が振動する。
彼の背中に頬を寄せている、この世の人でない女性。
その人をめがけて、部屋に残る無垢な気が吸い寄せられて邪へと変化していく。

わたしはその様子を観察しながら、淳二さんの腰に足を絡めた。
自分の世界に閉じ籠ったまま一心不乱に腰を振る彼と、更に深く深くつながった。

「ふああぁっ、出してぇ。神楽のあそこに射精してぇっ……淳二ぃっっっ!」

(殺すッ! あんたを喰い殺してやるッ!!)

彼女は直接わたしの精神に訴えかけながら本性を露にする。
顔半分にべったりと貼り付き、頭頂部から後頭部にかけて逆立たせた長い髪。
額を縦に走る瘤のような青筋。
カッと見開きながら斜め上に吊り上がった濁った瞳。
耳の下まで裂け、血のように赤いくちびる。
そして、その端から覗く鋭い牙。

怨鬼!!

「ううっ、はあ……神楽ぁ、で、出るぅっっっ!!」

その時だった。背中に彼女を背負った淳二さんが、合わせた肌を通して振動を伝えた。
同時に硬くなった分身が、神楽の膣で爆ぜるのを感じる。

どぴゅうぅぅ……どぴゅぅ、どぴゅどぴゅどぴゅ……

「はああぁぁんんっ、はげしいぃっ! 淳二のぉ……ふあぁっ、でてるぅっ、噴き付けられちゃうぅぅっっ!!」

(ヒイィィィッッッ! おのれェェッッ!!)

背中に貼り付いた彼女の首が伸びる。
引き伸ばされた首筋に蛇の鱗を纏わらせて、どす黒い血に染まった口を開けた。

人間のものではない鬼の牙。
それがギラリと光る。
集約した邪気に寒々しいまでに青白く染まり、一直線に落ちてくる!
神楽の喉元めがけて喰らい付こうとする!

ボォォッッッ!!

「待ていッ!」

突然、部屋に響き渡る凛とした声。
それと符号さたように、ワードローブに貼られた祈札が紅の炎を上げて燃え上がる。

「遅いよっ、お父さんっ!」

(なにものッ!)

ゴムのように伸びた女の首が、芝居じみた声の主を探る。
文字通り首の皮一枚のところで、怨鬼の動きが止まった。
わたしは、淳二さんのモノを挿れたまま身体を起こすと、鬼となった彼女を見つめた。

「ごめんなさい。でも……こうするしかないの。ふたりの今後のためには……さあ、あとは任せたわよ。四巡!」

(四巡……? まさか、輪廻の霊媒術師?!)

お父さんの名前を耳にした彼女に動揺の色が浮かぶ。
わたしにしがみ付いたまま離れない恋人に憂いの眼差しを向け、さっと表情を引き締めると部屋の端を睨んだ。


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