第7話 露出願望は危険な香り 「ふ~ぅ。お陰ですっきりしました。ありがとうございます」 「雪音さん、ごめんなさいね。シャワーまでお借りして……」 「いえいえ、そんな……気になさらないでください」 肩にタオルを掛けた美帆さん夫婦を見ながら、あたしは微笑んで会釈した。 正式には、上に寄ったまま硬直しているほっぺたのお肉を利用して、作り笑いを浮かべただけなんだけど。 その隣では、顔じゅうに何枚も絆創膏を貼ったお父さんが、あたしに習って会釈した。 こちらはきっと、可愛い子猫ちゃんに顔を引っ掻かれたのに違いない。 うん、たぶんそうよ。 「それにしても、ピンクの傀儡子様の撮影技術は最高です♪ 私……毅とあんなに……うふふ、あんなに燃えたのって新婚旅行以来かしら?」 「おい美帆、よさないか。こんな可愛らしいお嬢さんの前で……」 「はぁ~い。あなた♪」 美帆さんが、紅い舌を覗かせて笑った。 旦那様は、元のシャイな感じに戻っちゃったのに、彼女の方はなんだか肩の荷が下りたように顔全体を輝かせている。 「でも、正直に話すと……あっ、気を悪くしないでくださいね。実は、ピンクの傀儡子様のことを疑っていたんです。友人の律子に紹介されて、あなた様のブログを拝見したときも、なんだか怪しいなって……」 美帆さんの言葉に、あたしもうんうんって頷いた。 そうよ、あんなブログを信じてお父さんに会いに来る女性って、詐欺師に全財産持っていかれて、それでも詐欺師さんラブ☆っていう、絶滅危惧種みたいな人だけよ。 「だけど……ごめんなさい。私の思いすごしでした。撮影中に響くシャッターの音に、あんなに身体が疼くなんて、思ってもみませんでした。うふふふっ。もしかしたら私って、露出の気があるのかしら?」 「で、でしたら今度は、夜の学校での撮影などいかがかと。とりあえず、娘の通う高校など、うってつけの環境かと……うぅッ!?」 あたしは、調子に乗り始めたお父さんの足を踏んずけた。 そして、囁いてあげた。 「今度は縦横に引っ掻いて、オセロゲームでもしてあげようか?」って…… いひひひひひ…… それなのに、まさかまさか、お父さんの案が実現するなんて……?! 1週間後…… 「お父さぁ~ん! 大変たいへん、たいへんよぉ!」 「落ち着きなさい。雪音」 あたしは店の奥から飛び出すと、ショーウインドの陰から外を覗いているお父さんの元へ走った。 「はあ、はあ、はあ……それが、今、美帆さん……ううん、小野寺さんから電話があって……はあ、はあ……」 「はあ~、ダメだ。数え直しだ」 「お父さん、並木のそば屋さんの行列なんか、後でいいから。それよりも聞いて、小野寺さんからお仕事の依頼なのよっ!」 いつも行列のできるお店『そば屋並木』のお客さんを、指折り数えていたお父さんが、恨めしそうにあたしの方を見る。 な~んか、いつもと真逆の光景。真逆になった親子の関係。 でもでもいいの。そんなこと、どうでもよくなっているの。 「それで、小野寺さんはなんて……?」 「それが、今度は公園で撮影して欲しいって。そ、その……愛し合うところをだけど……もちろん、夜のそれも深夜で人通りがなくなってからなんだけど……でも、そんなこと……」 「あはははっ。ほら、ごらん。僕の提案が早速通ったじゃないか。それに雪音。『でも』も『そんなこと』も関係ないさ。公園での屋外セックスだろ? ああ、あれだよ。露出プレイってやつだろ? ふふふふ……はははは……ピンクの傀儡子の腕がなるなぁ」 「その割にはお父さん。ヒザが震えてるわよ。は~ぁ。大丈夫かしら?」 雪音の脳みそが、危険だよって赤色灯をクルクル回転させている。 でもその日から、やる気まんまんのお父さん主導で撮影の準備が始まっちゃった。 外で使用する機材の選定に始まって、撮影する公園の下見。 最後にあたしの提案で強制採用させた、大量の虫よけスプレーに蚊取り線香まで。 だって、盗撮マニアさんのサイトに書いてあったもん。 夏場のお楽しみでの必需品って…… あっ、言っておきますけど、雪音はエッチな写真は覗いていませんから。 公園のベンチで男の人のアレを口に含んで、うっとり顔の恋人が写っていて。 ベンチの背もたれに手を突いて、アソコをお見せしたままおねだりする恋人も写っていて。 息をハアハアさせて次のページをクリックしたら、合体! ドッキング! していたなんて。 な~んて絶対に絶対に知りませんからね。ホントだよ。 前頁/次頁 |
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