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第15話 デートという名の……
隼人君は、わたしのことを……
できることなら、隼人君と付き合っているたった一人の女性に……
募る想いは、優子の理性をじわじわと蝕んでいた。
恋に溺れた少女は、その深みへとじわじわと誘いこまれていた。
白昼の日曜日、優子は駅前のロータリー広場にたたずんでいた。
誰かを待っているのか?
すれ違う人の波に目を凝らせながら、時折背伸びまで織り交ぜて、途切れることのない歩行者を見つめていた。
「11時にここで落ち合うって。隼人君、なにかあったのかしら」
バスターミナルに掲げられた時計の針は、すでに午前11時30分を指していた。
案外と時間にルーズな性格なのかも。
いや、彼に限ってそんなことはない。
もしかしたら、何かあったのかも?
身も心も捧げた愛しい人は、何事も完璧にこなして見せるのだ。
その人の否定的な側面は、盲目の恋に犯された優子には見えるはずもないのである。
「ちょっと待たせたようだね。色々と準備をしてたら、遅れちゃって……」
そして、優子が不安に駆られながら過ごした時は、およそ1時間余り。
可憐な女の子をただ一人、平然と待たせた少年は、悪びれることもなく姿を見せた。
「それじゃ、行こうか」
ちょっぴり涙を潤ませる優子をよそに、当の吉村はスタスタと歩き始めた。
手にした大き目の紙袋を軽く前後に揺らせながら、人込みをかき分け、駅のターミナルビルへと向かう。
(そろそろランチの時間だよね。隼人君と一緒にお昼ご飯とか……)
土曜日の深夜になってから、メールが送られてきたのだ。
理由など書きこまれていない。
ただ指定の時間に駅前のロータリーに来るようにと、それだけの簡素すぎるものであった。
「優子、これに着替えてきてくれる?」
それでもこれは、てっきりデートの誘いであると。
勝手な解釈ながら、喜びの余り寝付けない夜を過ごし、身に着ける衣装にも大いに迷い、たっぷりと時を費やしてここに来たのである。
淡い花柄を散らしたワンピースが、年ごろの女の子らしい清楚さを漂わせていた。
なのにそんな優子の手には、使い古された感のある紙袋が手渡されていた。
「そこに証明写真機があるでしょ。僕はここで待っていてあげるから」
「ち、ちょっと?! 意味が……」
「分からなくたって構わないさ。優子は僕の言った通りにすればいいだけのこと。そうしたら、僕がたっぷりと遊んであげる」
見つめる吉村は、口角の端をわずかに引き上げ笑みを作った。
その上であごをしゃくってみせるのだ。
(中に入ってる服に着替えるしか。もし断ったりしたら、隼人君が帰っちゃうかも。わたしをここに置き去りにして)
拒めない。
今の優子には、平然と30分余り遅刻をする男の言いなりになるしか道はないのだ。
(こんな格好って、死ぬほど恥ずかしい……)
着替えには10分くらい費やしたであろうか。
個室と呼ぶには哀しすぎる、頼りなげな覆いが出入り口に掛けられたその中で、優子は大いに驚き、大いに悩み迷った末、紙袋に収められたソレを素肌の上へと。
彼のためにチョイスした乙女チックなワンピースは、折りたたまれ、持ちこんだ紙袋の中へと。17才の女子高生にしてはちよっぴり大胆な薄布と共に。
「さすが僕がコーディネートしただけのことはあるよね。よく似合ってるよ、優子」
「そ、そう……あぁ、ありがとう」
褒められても、顔を上げる勇気はなかった。
靴跡が無数に刻まれた床を、優子は焦点の合わない目で見つめていた。
「ちょっと見て、あの子の服装」
「やだやだ、今の若い子ってのは……」
耳の鼓膜が、聞きたくもない声を拾っていた。
刺々しいまでの視線も、優子の肌に突き刺さるのを意識していた。
(耐えるのよ、優子。せっかく、隼人君が持って来てくれた衣装でしょ)
両肘がすっぽりと隠れる七分袖の上半身は、今や、両肩どころか胸元深くまでも抉られたように露わにされた、ノースリーブのTシャツへと。
両ひざがチラリと見え隠れする程度の下半身は、今や、太腿の半ばどころか、場合によっては付け根近くまでもが露出しかねないフレアースカートへと。
そして、素肌に密着させているはずの上下二枚の下着も取り払われていた。
つまりはノーブラにノーパン。
これが優子に課せられたデートの衣装ということである。
作者とっきーさっきーさんのHP 羞恥と自己犠牲をテーマにした健気な少女たちの作品の数々。 投稿小説も多数あり。 『羞恥の風』 |