第8話 美術室の誘惑

呼び出されたのは昼休みのことであった。
吉村からのメールを受け、優子は昼食を終えたばかりの教室を抜け出した。

(隼人君がわたしを呼んでいる。富永さんではなくて、わたしだけを……)

一度きりの肉体関係。
優子の方から身体を差し出すことを申し出た、夕暮れ時のセックス。

それから丸2日が経っていた。
普通のクラスメイトに戻され、胸の中にどうしようもない焦燥感を漂わせながら過ごしていたのだ。

「特別棟の美術室」

5時限目が始まるまで、まだいくらかの余裕がある。
人の気配を感じられない校舎の中を、優子は急いだ。
半ば駆け足で、連絡を受けた教室へと向かった。

「ずいぶんと早かったね。メールの方は直ぐに見てくれたんだね」

「はあ、はぁ……わたしのことを隼人君が呼んでくれたんだもの。とっても嬉しくて」

曇り空の美術室は薄暗く、どこか寒々しく感じた。
なのに窓際に立つ吉村の姿だけは、バックライトを浴びたかのように輝いて見える。
少なくとも優子の瞳には。

「こっちへ」

その吉村が手招きをする。
誘われ、フラフラとした足取りで、優子は引き寄せられていく。

「むぅっ……ちゅぶ……」

それは不意打ちのようであった。
吉村の唇が、優子の唇に吸いついたのである。

手を掴まれた瞬間に抱き寄せられていた。
背中と首の後ろに手を宛がわれ、男女の身体を密着させながらのキスであった。

「この前のセックスの時、優子の唇を味わえなかったから」

少し硬めの唇の肉が、柔らかくてプニョプニョとした唇の肉を弄ぶ。
男の舌が真っ直ぐに伸ばされ、たじろぐ少女の舌に絡みついていく。
そして、唾液も注がれる。
結びついた唇どうしの中を通されるようにして、男の体温を感じさせる液体がトクトクと優子の口の中へと侵食する。

(これがわたしのファーストキス。初体験よりも遅れちゃった隼人君とのキス)

優子もまた舌を伸ばしていた。
ほんのちょっぴりお弁当を食べたばかりの口臭を気にしながらも、吉村の舌に負けじと交わらせていく。
少女の口の中に浸された男の唾液に、分泌したばかりの唾液を混ぜ合わせ、舌の上に乗せた。
不器用な舌使いで、それを送り返していく。

ゴク、ゴク……

優子の喉元が小さく鳴った。
吉村の飛び出た喉仏も、微かに鳴った。そんな気がした。

「そこに手を突きなよ。ここでエッチをしてあげる」

リードするのは、常に男の側である。
初めてのキスの余韻に浸る間もなく、吉村が次の指示を与えた。

「こんな感じ?」

「膝を伸ばして、もっとお尻を高く」

美術用具の収まった資材棚が、壁に添わせて並んでいた。
その棚板を掴む要領で、優子は命じられるままに下半身を差し出した。

ファサッ……

「や、やだ……」

なんの前触れもなく、スカートがまくられた。
太腿の肌にダイレクトな風を感じて、優子は身を固める。

「ふーん、今日は白なんだね。でも、この前のよりもお洒落かな」

無防備に差し出された下半身を覆うのは、薄っぺらい布地のショーツのみである。
それを吉村の目がまじまじと見つめた。
そして片手を伸ばすと、意図も呆気なく乙女の下着はめくり下ろされていた。

「んん、恥ずかしい……」

男の目に触れさせた丸いヒップが震えた。
むき身の卵のように染み一つない桃尻が、小刻みに揺らされる。

「なんだ、怯えているの? 僕が怖いの?」

「うんん、そんなこと……ただ、ちょっとびっくりしただけ」

「ふーん、びっくり? だったら今日は、もっと優子が驚くようなことをしてあげる」

「それって……なんのこと?」

「さあ、なんだろうね。くくっ」

吉村が発した意味深で曖昧過ぎる答えに、優子の心は期待と不安を交差させる。

もう一度、この人に愛してもらえる。
セックスをしてもらえる。

ただ、なにか嫌な気もするのだ。
それがどういうものなのか?
優子の恥を忍んだ期待の前に、どんな性の行為として訪れようとしているのか……?




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作者とっきーさっきーさんのHP

羞恥と自己犠牲をテーマにした健気な少女たちの作品の数々。
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