第1話 エスパーは僕だ!


念波……男は精神を研ぎ澄ますと、ターゲットに向かって波動を送る。
音でもない。電波の類でもない。
だが、身体から発する目に見えない力が、ターゲーットの深層心理の奥深くにメッセージを刻みこんでいく。

「よし、OKだ」

その男は妖しげな笑みを浮かべた。
これから始まるショータイムに胸を躍らせながら……



「あやめ、勝負よっ!」

「私だって。奈菜、アナタには負けないからっ!」

夕闇に染まる生徒会室で対峙するふたりの少女。
僕はその様子を、扉の隙間から覗き見する。

「ククッ、うまくいったみたいだな」

なおも無言のまま睨み合っているふたりについ嬉しくなって、僕はいつもの癖で喉の奥を鳴らした。
でも大丈夫。彼女たちは全然気が付いていない。

因みに向かって右側で、腕を組んでいるショーとカットの女の子が、磯山あやめ(いそやま あやめ)ちゃん。
そして向かって左側で、窓の外に目をやりながら、チラリと鋭い視線を送るセミロングの女の子が、高山奈菜(たかやま なな)ちゃん。

ふたりとも『私立川野辺学園』で、男子生徒の評価を二分する美少女でありながら成績優秀。スポーツも万能。性格も悪くない。
おまけにこの春からは、まだ2年生なのに生徒会副会長の仕事までこなしている。
まあ例えるなら、双壁の学園アイドルって感じかな。

何? 今話している僕のことも知りたいって……?

ふーん。別にいいけどさ、読者さんも結構ヒマなんだね。
まあ、この物語って短編になるって聞いているからさ。
ちょっとサービスして、ゆくゆくは長編デビューも視野に入れてと……

えーっと、僕の名前は中山宏(なかやま ひろし)
『私立川野辺学園』3年で、生徒会書記を担当している。
学力は中の中。スポーツその他みんな中の中。
要するに誰の記憶にも残らない平凡な男ってわけ。
でもね、人にはひとつくらい取り柄ってものがあるんだよね。
そして僕の得意技は、人の心を操れるってこと。
とは言っても、完全なマインドコントロールなんかは無理だけど、心の隙間にちょっとしたメッセージを植え込むことくらいは、簡単にやってのけられるんだよね。

えっ? これって得意技とはいわない。
お前はエスパーなのかって?

う~ん。どうなのかな?
昔……というか今でも時々やっているけど、お母さんに暗示をかけてお小遣いを月に2度もらうとか。
サンマの塩焼きだった夕食をすき焼きにしてもらうとか……
まあ、このレベルだから、超能力っていうほどでもないと思うよ。ふふふっ。



翌朝……
僕は生徒会長である朝原誠(あさはら まこと)と並んで、校門の前に立っていた。
その僕たちから半歩さがったところに、例の副会長ふたり組が寄り添うように並んで立っている。

毎週水曜日は『あいさつデー』
腕章を嵌めた生徒会のメンバー全員が、校門の前に並んで登校する生徒にあいさつをするという、ある意味馬鹿げた行事になっている。
でも今朝に限っては、ある意味、有意義な行事かもしれない。

「ほら、磯山さんも高山さんも、もっと大きな声であいさつしてよ。でないと、『あいさつデー』の意味がないでしょ?」

僕は登校する生徒が途切れるのを待って、後ろを振り返った。
川野辺学園の制服に身を包んだふたりの美少女が、顔を真っ赤に染めながら突っ立っている。

左胸に金刺繍の校章が輝く濃紺のブレザーに、胸元を飾るエンジ色のリボン。
ライトグレーのギンガムチェックスカート。
これだけで制服マニアなら涎を垂らすところだけど、今朝のふたりの服装はいつもと違った。

「は、はい……中山先輩……」
「すいません。がんばります……」

細くて弱々しい声とともに、どちらともなくお互いの下半身に目をやっては、自分の下半身と見比べている。
僕は追い打ちを掛けるように小声でささやいた。

「それにしてもふたりとも、ちょっとスカートの丈、短すぎないかな? それじゃ、ちょっと屈んだだけでパンティとか見えちゃうかもしれないよ」


ああ、そ、そんなことは……」
「ううっ、気を付けます……」

あやめが太ももに貼り付くスカートを押さえた。
奈菜も我慢できないって感じで、スカートの裾を押さえちゃった。

よくパンチラ投稿されているJKって、みんなミニスカートだけど、彼女たちが履いているのは超ミニミニスカートかもしれない。
ひざ上どころか、測るなら股下からの方が断然早い。
およそ、股下10センチ。
モデルのようなスラっとしたひざ下から、ムッチリとした大人の太ももまで、余すことなくさらけ出されている。

恥ずかしいよね。とっても恥ずかしいんだよね。
顔が真っ赤だし、今にも泣きそうな顔をしているし。

でもね。こんなことくらいでは、ふたりとも許してあげない。
もっともっと僕を愉しませてくれないとね。



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