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第15話 体育倉庫に呼び出されて テスト期間中の体育館は、ひっそりとしていた。 いつもの放課後に響く、青春色をした歓声も励ましの声も、磨かれた床板に染みこんだかのように冷たい静けさだけが取り巻いている。 治彦は、その中をたった一人で歩いていた。 靴音を控え気味に、四角く囲まれた建屋内の最奥へとゆっくりと進んだ。 『体育用具室』 突き当りの壁の上部に貼りついた表示を、治彦は見上げた。 打ちっぱなしのコンクリート壁に埋めこまれた両開きの扉に、腕を伸ばした。 鍵はかけられていない。 シンプルで重厚な金属製の扉は、思ったよりも軽く開かれる。 乾いた埃の匂いと、染みついた汗の匂いが、半歩だけ足を踏み入れた治彦を包んだ。 「呼び出しておいて、智花のやつ……」 体育館と同様に、人の気配を感じさせない空間に目を走らせた。 怒ってはいない。 ただ愚痴っぽく治彦はつぶやくと、壁の隅に置かれた跳び箱に腰を乗せた。 コツコツと靴音が聞こえてきた。 引きずるようで、ステップするようで、なんとなく不規則なそれは、一応閉ざしてある扉の前で止まった。 「わたし、やっぱり帰る」 「だめよ。絶対に帰さないから」 一人ではなく二人? 治彦が耳を澄ませる中、潜めた声がささやき合っていた。 そして、金属製の扉にトンと柔らかい衝撃音が走り、続いて薄くすき間を覗かせた扉が勢いよく開けられる。 「来てたんだ、治彦」 「智花……どうして山中と?」 ポニーテールな髪の少女と、ショートヘアーな少女と。 はにかむような笑みをこぼす美少女と、消え入るように目を伏せている美少女と。 冬服に衣替えしたばかりの制服を羽織る少年に、丸首の白シャツと高校指定のライトブルーなジャージパンツを履いた彼女たちと。 しばらくといっても数秒の間。 一人対二人は向き合っていた。 次につながる言葉を探るように、口をもごもごとお互いにさせながら目と目を交じり合わせていた。 「えーっとね、このままじゃイケナイと思うの」 口火を切って声を漏らしたのは、智花であった。 「あたしと治彦の関係も。それに、あたしと真由美の関係だって。ついでに治彦と真由美の分も」 「わたしは……別にいいの。だからここから……」 「だから、ダメなの。真由美もここにいないと……あたし、決めたから」 その智花の声のすき間を縫うように、真由美が細い声を差し入れた。 「俺は……」 「治彦は黙ってて!」 置いてけ堀の治彦も口を挟もうとして、智花にぴしゃりと阻まれた。 「治彦、マットを敷いて」 そのくせに、ちゃっかりと指示だけは与える。 明り取りの小窓から陽の光が当てられる埃っぽい床に、尖ったあごをクイクイと向けながら。 「ったく、なにを考えてんだか」 遅れて姿を現し、無茶ぶりな成り行きで主導する智花である。 治彦は跳び箱から飛び降りた。 積み重ねられた六段重ねの木箱とセットで積まれた体育マットに手をかけた。 三つ折りにされた一枚を、男の腕力に物を言わせて引っ張り出す。 粉埃を撒き散らしながら、床の上に拡げた。 「真由美、こっちよ」 額の汗を拭う治彦をよそに、智花はさっさとマットの上へと移動する。 用具室の入り口付近に立ち竦む真由美を、手招きで呼んだ。 「キスしましょ、真由美」 「な、なにを言って……ふむぅっ……」 寄り添うように並んだ途端、智花が真由美を抱き寄せていた。 口づけという予想だにしない行為を迫られ、返事を返す前に真由美の唇は塞がれる。 目を丸くさせたおとなしい少女の顔に、微妙に角度をずらせた快活な女の子の顔が覆いかぶさっている。 「はむ、ちゅぶ……柔らかいくちびる……」 「ちゅにゅ、ちゅる……智花、どうして?」 「真由美はキスが嫌なの? あたしが女の子だから……んちゅぅっ……」 「そんなこと……ちゅむ、ない……わたしは、あなたのことを……」 絡み合う細い喉が、コクコクと鳴った。 唇と唇が柔らかく組み合わされ、その中で舌と舌が戯れ合い、分泌される唾液と唾液が濃密にミックスされる。 お互いの心まで潤すように、ぎこちない女性どうしの口づけは展開される。 「んむふっ、それ以上は言わないで……それよりも……」 智花の手のひらが、抱いていた真由美の背中から離された。 白シャツに包まれた少女の肌を撫でるように下る。 「あ、だめなの……智花……」 「あたしにすべて任せて」 智花の指先が、なめらかな盛り上がりを見せる真由美のヒップに。 色気を封じたジャージパンツの上から、その輪郭をたどるように這いなぞっていく。 (くそっ、女どうしでイチャつくなんて) 男の治彦は完全に蚊帳の外である。 学生ズボンのフロントをパンパンに膨らませたまま、ただ見守るしかないのである。 「真由美のことを、もっと知りたいの。いいでしょ?」 「智花の好きにして……」 智花が、真由美の耳にささやいた。 うなじの肌にふぅっと息を吹きかけながら、ヒップを撫でる指に変化をもたせる。 (脱がせるのか?) 治彦の目が輝きを増すなか、智花の指がジャージの生地を摘んだ。 真由美の下半身から慎重に、焦らすようにライトブルーのパンツを引き下ろしていく。 「はあぁ、恥ずかしい……」 「だったら、あたしのも脱がせて」 「いいの、智花?」 「うん、そうしないと始まらないもの」 前頁/次頁 |
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