第1話

 わたしは現在無職だ。
 無職といっても、なってから間もない。
 今年、新卒ではいった一部上場企業の大手電機メーカーを一週間前に退職したばかりだ。
 両親や友達、彼氏までもったいない、馬鹿なことをなどと退職するのを引き止めてき たが、ともかく辞めた。
 もちろん五月病とも言われたけど、そんなんじゃない。パソコンのデータ入力作業にコピーにお茶くみ、雑用がかりのような評価されない仕事に嫌気がさしたからだ。
 別に、キャリアウーマンを目指しているわけではないけれど、やりがいのある仕事をしてみたい、満足感が欲しいと思っていた。
 そう、鐘をついたら、鐘の音が鳴り響くような仕事がしたいと思っていた。もちろん、いい音が鳴るか、悪い音が響くかはわからない。
 だけど、確実に音を鳴らせることができる、そんな手応えのある仕事がしたいと思っていた。
 実は、面接する会社は既に決めてある。
 大学四年のときにベンチャー企業を紹介している経済誌で注目していた会社。ネット 通販やSNSなどをてがけているいわゆるIT企業だ。
 創業三年で、年商も五億円ほどの会社だけど、業績を視ると会社設立時の年度からわ ずか三年にしておよそ千パーセントの伸び率だ。これだけ、発展している会社だから、年間を通じて随時正社員を募集しているのもわかる。
 ただ、ホームページの採用ページにも書いてあったが、三ヶ月間は契約社員としての 勤務ということだ。
 つまり使い物にならなかったら、やめてもらうということだ。
 また、派遣社員も積極的に正社員にしているようだ。実力主義! 面白いと思った。
 これこそ、わたしが求めていた自分の力を試すことができる会社だ! とわくわくしながら、採用応募フォームに必要事項を書き込み、送信ボタンをおした。




 そして、ついに面接の日がやってきた。
 駅から歩いて五分くらいで十階だてのオフィスビルにつき、早速エレベーターに乗り 、会社のある七階へ向かった。エレベーターを降りると、ほぼ正面に入口がある。
 緊張を覚えながら、ガラスのドアの横にあるインターホーンを押すと、用件を訊ねる 女性の声が聞こえた。
「あ、本日、面接にお伺いしました。松崎と申しますけど」「はい、伺っております。少々お待ち下さい」
 三十歳くらいだろうか、びっしとスーツを着こなして、インテリメガネをかけたいか にもキャリアウーマン風の綺麗なお姉さんがドアを開けてくれて、パーテーションで仕 切られた小部屋に案内された。
「ただいま、社長がまいりますので、席におかけになってお待ちください」
 キャリアウーマンは事務的に対応してドアを閉めた。
「ふぅぅっ」
 緊張で大きな息が出てしまう。
 ガチャリとドアの開く音が耳に入り慌てて立ちあがった。「本日、面接に……」
「いいよ、いいよ、そんなに畏まらなくっても。ほらっ、座って」
 社長は笑顔を向けて椅子をひいてくれた。
 面接官が着座してから座るのが常識である。だけど、この場合は社長が椅子までひい てくれているので、素直に受け入れるのがいいのだろう。わたしが座らなければ、社長 も席に座らないだろうし。今までの面接とは違う社長の行動に戸惑いを感じながら椅子に腰をおろした。
「ははっ、そんな緊張しなくてもいいんだよ。僕は、そんなにたいした人間ではないんだから」
「はは」
 どう対応していいのかわからない。ただ愛想笑いするだけで精いっぱいだ。 「さてと、じゃあ、まずはお決まりの質問をさせてもらうね」



「最後に何か質問したいことはあるかな?」
「あのぉ、こんなこと聞くのは失礼なのかもしれませんが……」
「はは、気になることはなんでも聞いていいよ」
「はい、では、失礼します。採否については、いつ頃ご連絡をいただけるのでしょうか ?」
「うん、普通は三日後と決めているけど……僕はね、君を気に入ったから、検討する必 要がない。だから、即、採用するよ」
「え!」
 まさか、即決してくれるとは思いもよらなかったので、驚きでどう反応してよいのか 戸惑った。
「もちろん、君が考えたいというならば、待つけど……でも、一週間が限度だな。なに しろ人手が足りなくて、みな、大変なんだ」
「いえ、いぇ、とんでもないです。わたしみたいな右も左もわからないようなものを気に入っていただき、とても嬉しいです。わたし決めました。頑張りますのでどうか宜しくお願いします」
「よしっ、決まりだ! だったら、事は早い方がいい。早速、戦力になってもらいたい から、今週の土曜日は時間大丈夫? その時に仕事の概要を教えるから。あと細かいことは、来週から同僚たちが君に教えていくから」
 土曜日、彼氏とデートの約束をしていたが、今はそんなこといってられない。ちゃんと彼に理由を話せばわかってくれるはずだ。
「はい、大丈夫です!」
「よし、いい返事だ! 三か月後、見事に正社員となれるようお互いに頑張ろう」
「はい」



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