第1話

『お帰りなさい。今日もお疲れ様!』
 弾けるような声で夫を出迎えるさとみ。35歳のさとみは、6歳の子供がいるようには見えないくらいに若々しい。
 昔から体を動かすのが好きな彼女は、今もジムでのトレーニングを欠かさない。そのおかげもあり、学生時代の洋服は今もすべて着ることができる。
 そして、少し厚ぼったい唇がセクシーな彼女。真っ黒な髪に少し太めの眉毛、そしてぱっちりとした二重まぶたの目は、いつも濡れたようにセクシーだ。
 その見た目は、石原さとみに似ていると評されることがよくある。

 夫を出迎える彼女は、白の清楚なブラウスに淡いグリーンのタイトスカートを穿いている。清楚な感じのするブラウスに対して、スカートは少し丈が短く、彼女のほどよく肉付いた美脚が強調されている。
 いつもは、もっとラフで色気のない格好をする彼女だが、月に一度、金曜日の夜にはこんな姿になる。
 そしてその日は、6歳になる可愛い息子を実家に預けるのが常だ。孫のことを溺愛する祖母と祖父の強いリクエストもあるのだが、さとみと夫にとっては別の理由もある。

「ただいま。今日も綺麗だね。弘樹は?」
 夫は優しげな笑みを浮かべながら、さとみにカバンを渡す。さとみは、そのカバンを受け取りながら、
『もう預けました。どうします? 先に少し飲みますか?』
 と、笑顔で答える。
「あぁ、そうだね。まだ30分くらいあるしね」
 夫もそう答えて家に上がる。さとみはキッチンに、夫は着替えに行き、しばらくしてからリビングのテーブルにつく。

 テーブルの上には、すでにいくつか料理が並んでいて、ビールを飲むためのコップも置かれている。
 さとみは夫の対面に座ると、夫にビールをつぎ始める。
『お疲れ様』
 笑顔で言うさとみ。夫は”ありがとう”と言った後、さとみにもビールを注ぐ。
 そして、軽くグラスを合わせてから飲み始める二人。

 夫の直之は、今年38歳になる。少し年齢差がある夫婦だが、直之は自営をしており、バリバリ働いているので若々しい。今でこそ、経営する不動産事務所も順調で、人並み以上の暮らしをできるようになった直之だが、3年前に大きなピンチがあった。当時、順調に業績を伸ばしていた直之は、市街化調整区域にある5000坪の土地の開発に際し、慢心から見切り発車をしてしまった。

 農業振興地域にかかっていたその土地は、結局許認可が降りないという最悪な結末を迎えた。資金繰りが完全にショートした直之は、金融機関や両親、さとみの実家にまで頭を下げ金策に奔走したが、2500万円がどうしても工面できなかった。
 そして、最終的にその危機を救ったのは、直之の親友の雅治だった。

 雅治は、直之とは大学からの友人で、馬が合った二人はすぐに仲良くなり、学生時代のほとんどを一緒にすごした。雅治は背も高く、ルックスもよかったので、直之とは違って女の子によくモテた。

 だが、雅治は彼女を作る事はなかった。雅治には、心に決めた女がいたからだ。そしてそれは、現在直之の妻のさとみだった。
 もともと3人は、共通の趣味のフリークライミングを通しての知り合いだった。技術的にほぼ同じだった三人は、一緒にトレーニングをする仲になり、岩場へも3人でよく行くようになった。

 3人の男女が長い時間を一緒にすごし、恋が芽生えるのは必然だった。だけど、さとみの心を射止めたのは、すべてにおいて勝っているように見える雅治ではなく、直之だった。

 そんな事があり、ギクシャクするかと思われた3人の関係は、雅治の明るさのおかげもあり、結局何も変わらなかった。そしてその友情は、直之のピンチを救った。

 雅治は、卒業後大手企業に就職したが、1年と経たずに退職し、ネットで色々とやり始めた。

 今でこそ、ネット情報商材や、まとめサイトとかアフィリエイトという言葉も浸透しているが、まだその言葉が知られていない初期からそれを手がけていた雅治は、センスもあったのだと思うが、一山も二山も当てた。
 その結果、あっという間にサラリーマンの生涯年収を稼ぎ出し、直之がピンチに陥った時にはすでに悠々自適の生活を送っていた。

 そんな雅治は、3000万円という大金を直之に与えた。貸したのではなく、与えた。たった一つの条件と引き替えで……。

 その後ピンチを脱した直之の会社は完全に危機を脱し、借金も2年と経たずに完済できた。そして今では、直之に与えられた3000万円以上の年収を得るまでになっていた。

 直之は、何度も雅治に3000万円を返却しようとしたが、それは叶わなかった。”たった一つの条件”のために……。

『今日ね、これ、すっごく安くなってたんだよ! ケースで買っちゃった!』
 さとみは、注いだビールの缶を見せながら言う。ビールと言っても、いわゆる発泡酒だ。そして、安くなったと言っても、たかが数十円という話しだと思う。今の年収なら、そんな事は気にせず、発泡酒ではなくビールでもなんでも買えると思う。



第2話

 でも、さとみはそんな事を嬉々と話してくる。あの時のピンチ以来、さとみは慎ましい生活を守っている。贅沢もせず、なにかをおねだりすることもなく、発泡酒が安く買えたことに喜びを感じるさとみ。
直之は、そんなさとみを本当に愛おしく思う。

「ありがとう……。でも、ビールとか買えば良いよ。もう、苦労かけることはないから」
 直之は、申し訳なさそうに言う。
『そんな心配してませんよ。でも私、発泡酒の方が好きだから』
 さとみは、真っ直ぐに直之の目を見ながら、にこやかに言う。その目には、信頼と愛情があふれ出ているようで、そんな目で見つめられると、直之はより胸が苦しくなる。

 胸がいっぱいになった直之は、
「ゴメン……」
 と絞り出すように言った。

『もう! 謝らない約束ですよ。それに、最近は私も、雅治さんとのこと楽しんでるんですから』
 と、少しイタズラっぽく言うさとみ。

 すると、インターホンが鳴った。
『あっ、雅治さんかな?』
 さとみはそう言うと、玄関に走る。
 すぐに、
「こんばんは〜。今日もさとちゃん綺麗だねぇ〜」
 と、明るい雅治の声が聞こえる。
『もう! 口が上手いんだから! 何も出ませんよ〜』
 さとみはそんな事を言いながらも、顔がにやけている。やはり、誉められて嫌な気はしないようだ。

「お疲れ! これ持ってきたぜ! 飲もうか?」
 雅治は、高そうなワインを手にそんな事を言う。直之は、挨拶もそこそこに、
「いいね! さとみ、グラス持ってきてよ!」
 と言う。

『いつもゴメンなさい。これ、高いんじゃないんですか?』
 さとみはそんな風に言いながらも、すでにワインオープナーで開け始めている。そんな所も可愛らしいと思いながら、直之はさとみを見つめる。

 そして、3人での楽しい食事の時間が始まる。話題は、ほとんどがクライミングの話だ。今度はどこの岩場に行こうかとか、誰それが一撃で落としたとか、そんな会話をしながらDVDも見たりする。
 本当に楽しい時間で、直之はついつい飲み過ぎてしまう。

「じゃあ、そろそろいいかな?」
 でも、雅治のその言葉で場の空気が一変する。
『……はい……』
 少しためらいがちに返事をしたさとみは、椅子から立ち上がると、雅治の横に移動した。
 直之は、その様子を黙って見ている。その直之の目の前で、さとみは雅治にキスをした。なんの躊躇もなく、夫の直之の目の前で雅治の口の中に舌を差し込み、濃厚な大人のキスをするさとみ。

 さとみは濃厚なキスをしながら、時折直之の方に視線を送る。その目は、妖しく挑発でもするような光を放っていた。

 ——直之が3年前のピンチの時、雅治に頭を下げ、彼が出した条件は一つだった。
 それは、月に一度、直之の目の前でさとみを抱くことだった。最初、直之は雅治が冗談を言っているのだと思った。だが、その後の雅治のカミングアウトは、直之にとって衝撃的だった。

 雅治は、さとみと直之が結婚してもなお、さとみのことが好きだった。雅治がモテる身でありながら、誰とも交際をしなかったのは、単にさとみが心にいたからだ。その告白は、直之にとっては青天の霹靂だった。直之は、雅治がもうとっくにさとみを吹っ切っていると思っていた。いくらでも相手がいると思われる雅治なので、もう忘れていると思っていた。それだけに、雅治のカミングアウトを聞いて、直之はただ驚いていた。

 雅治は3000万円と引き換えに、月に一度だけ思いを遂げさせて欲しい……と、逆に直之に頭を下げた。そして直之には、選択の余地はなかった……。

 直之がさとみにその話をした時、さとみは何も言わずに首を縦に振った。何度も謝り、涙まで流す直之に、
『私は平気です。それに、雅治さんならイヤじゃないですから』
 と、明るく笑いながら言ってくれた。でも、さとみは指が真っ白になるくらいに拳を握っていた。イヤじゃないはずがない……。
 さとみは、すべてが夫の直之が初めての相手だった。デートも、キスも、セックスもすべてを直之に捧げた。
 そして、一生直之以外の男を知ることなく、人生を終えるものだと思っていた。

 約束の日に向けて、さとみはピルを飲み始めた。まだ小さい息子を育てながら、他の男に抱かれるためのピルを飲むさとみ。直之は、その姿を見て胸が破れそうだった。
 そして、約束の日が訪れた。直之は、せめて自分がいない場所でさとみを抱いてくれと頼んだ。でも、雅治は同意しなかった。理由は教えてくれなかったが、雅治は直之の前で抱くことにこだわった。

 そしてその日、雅治が家に来た。緊張で3人ともほとんど口をきかない中、息子を風呂に入れ、寝かしつけるさとみ。
 雅治と直之は、二人きりになると、
「本当に、いいんだな」
 と、雅治が短く聞いた。提案した雅治も、やはり緊張しているようだ。
「いいもなにも、もう金、使っちまったし」
 直之は精一杯の虚勢を張って、笑いながら言ったが、脚は震えていた。いくら親友でも、妻は貸せない。貸せるはずがない。直之は、そんな当たり前の感情を持っていた。寝取られ性癖があるわけでも、さとみへの愛が醒めていたわけでもないからだ。



第3話

 心の底から惚れた相手が、自分の失敗のせいで他人に抱かれてしまう……。それは、血の涙が出そうな程の、辛すぎる現実だった。

 息子を寝かしつけたさとみが、バスタオルを巻いただけの状態でリビングに入ってきた。
『お待たせしました……』
 うつむいて顔を真っ赤にしているさとみが、小声で言う。そして、黙って寝室に移動した。その後を追う雅治と直之。

 寝室に入るとすでに間接照明だけになっており、薄暗い中、さとみはダブルベッドに寝ていた。そしてダブルベッドの奥には、ベビーベッドに眠る息子が見える。
 それを見て、直之の後悔は限界を超えるほど大きくなった。大声を上げて、二人を止めようとした瞬間、直之はさとみの視線に気がついた。タオルを巻いた状態で、ベッドの上から直之の目を見つめるさとみの目は、”大丈夫”と語っていた。

 それを見て、腰が抜けたようにへたり込む直之。心の中で何度も愛する妻に謝罪を繰り返していた。

 そして夫の直之が見ている中、雅治がベッドの横に立ち、服を脱ぎ始める。それを見つめるさとみは、緊張で顔がこわばっていた。あっという間にパンツ一枚になると、雅治はベッドの上に上がった。

「そんなに緊張しないで。本当にイヤなら、今日は止めるから」
 さとみは、戸惑っていた。今、この状況でもまだ現実として受け止め切れていなかった。さとみにとって雅治は、クライミング仲間であり、仲の良い友人だ。
 それが今、お金と引き換えにさとみを抱こうとしている。さとみは、冗談だと思いたかった。でも、最後の一枚のパンツを脱ぎ、自分に近づいてくる雅治を見て、さとみは現実だと理解した。

『平気です……』
 さとみは、小さな声で答えた。それが合図だったように、雅治はさとみを抱きしめキスをした。
 唇と唇が触れた瞬間、さとみは直之を見た。そして、直之もさとみを見た。
 さとみは、泣きそうな目で直之を見つめ、直之は実際に涙を流しながらさとみを見つめた。

 雅治は、それに気がつかないように、さとみの口の中に舌を差し込む。そして、舌を絡めるキスをする。その動きは優しく滑らかで、雅治が女性に慣れているのがわかる。
 雅治の中には、ずっとさとみがいたために、特定の彼女は作ることがなかった。だが、排泄行為のような感覚で、たくさんの女性と関係を持った。願いが叶えられない哀しみを、たくさんの女性を抱くことで消そうとしているかのように、感情もない相手とも関係を持った。

 そんな雅治の願いが、長い時間を経て、歪な形ではあるがかなえられようとしている。雅治は、本当に慈しむようにキスをする。さとみとキス出来るのが、嬉しくて仕方ないのが伝わってくる。

 覚悟していたとはいえ、目の前で妻が自分以外の男とキスをする姿を見て、直之は歯を食いしばるようにして拳を握っていた。悔しさ……。そして、自分自身へのふがいなさで、涙が止まらない。

 さとみは、ただ人形のように雅治のキスを受け止めている。自分から舌を絡めるようなこともなく、ただ、じっと耐えるようにキスを受け続ける。

 そして雅治は、キスをしながらさとみのタオルをはだけさせ、胸に手を伸ばした。クライミングが趣味なので、体脂肪が少ないさとみは、胸も小ぶりだった。でも、白く美しいその胸は、乳首も乳輪も薄いピンク色で、どちらも小さい。
 もちろん、夫の直之以外に触れられた事のない胸だが、今まさに雅治の手が触れようとしている。さとみは身を固くしながら、不安そうな顔で夫の直之を見つめる。

 直之は、そのさとみの視線から逃れるように、うつむいてしまった。もう見ていられなくなってしまった直之は、うつむいたまま心の中でさとみに詫び続けた。

 うつむく直之の横で、雅治はさとみの胸を揉み続ける。その動きも慣れたもので、身を固くしていたさとみは、かすかに感じる快感に戸惑っていた。
 夫しか知らない上に、少女のような幻想を持っているさとみは、愛する人以外に触れられても感じるはずがないと信じていた。

 雅治は、しばらくするとさとみの胸に口を近づけた。そして、そのままピンクの小さな乳首に舌を這わせる。その瞬間、さとみはビクッと身体を震わせ、
『あっ』
 と、小さな声をあげた。その声につられるように直之は頭を上げた。夫婦のベッドの上で、雅治に乳首を舐められている愛する妻を見て、やっと直之は雅治が本気なのだと理解した。

 さとみは夫以外の男に乳首を舐められ、どうしていいのかわからず、不安そうな顔で直之を見つめている。本当は、泣き出したい気持ちを持っているのに、夫のためにグッとこらえるさとみ。
 ただ、こんな状況にも関わらず、さとみの頭の中は、夫を裏切ってしまう事への罪悪感があった。けっしてさとみが望んでこの状況になった訳でもないのに、夫への操を守れない事を気にするさとみ……。

 直之は、絶望的な状況の中、今さらこれでよかったのだろうか? と思い始めていた。たかが金だ……。用意できなくても、命までは取られなかったはずだ。周りには多大な迷惑をかけることになったかもしれないが、いっそバンザイして、裸一貫に戻るべきだったのではないか? さとみを 差し出してまで、会社を守る必要があったのだろうか? 
 直之は、今さらこの事に気がついた。金策に奔走していた時は、夜中に何度も目が覚めるほどに追い詰められていた。冷静さを失っていたのだと思う。



第4話

 金策が終わり、ある程度気持ちに余裕が出来た今なので気がついたのかもしれないが、もう手遅れだ。本当は、今すぐ止めればいいだけの話かもしれない。でも、直之も、自分が綺麗事を言っているだけで、実際会社を救えた今、それを捨てることなど出来ないとわかっていた。

 そんな葛藤をする直之の前で、雅治はさとみの綺麗な淡いピンクの乳首を舐め続ける。長年の夢がかない、雅治は童貞の少年のように心が躍っていた。

『ンッ! ンンッ! ン……』
 さとみは、声を出さないように意識しているのに、雅治の舌が焦らすようにさとみの乳首を舐めるたびに、思わず吐息を漏らしてしまう。少しも感じないはずが、雅治の舌が触れた場所を中心に、甘く痺れたような感覚が広がっていく。さとみは、自分が快感を感じていることに、自己嫌悪を感じていた。

 すると、雅治はさとみの股の間に身体を滑り込ませ、お腹のあたりをさとみのアソコに密着させた。さとみは乳首を舐められながら、アソコをお腹で圧迫されて、はっきりと快感を感じてしまった。
 さとみは顔を真っ赤にしながら、直之から視線を外した。感じてしまったことを、直之に気がつかれたくない一心で……。

 直之はそんなさとみの様子を見て、急に不安になっていた。さっきまで緊張で不安そうだったさとみが、頬を赤らめ、イタズラが見つかった子供のような顔になっている。

 もしかして、感じているのでは? 直之の頭の中に、急速に疑念が広がる。そんなはずがない……でももしかしたら……直之は、ループに陥っていく。

『欲しい……です……』
 さとみは、とうとうこらえきれずに言ってしまった。夫のために、他の男性に抱かれようとしているさとみ……。
 でも、女性経験豊富な雅治の焦らしのテクニックに、さとみは根を上げてしまった。

 夫の直之に、さとみはすべてを捧げてきた。ファーストキスも、処女も捧げた。そんな、夫しか知らないさとみなので、愛のない他の男性に何をされても感じるはずがないと思っていた。そんな、乙女のような幻想を持っていた。

 でも、さとみは自分の子宮の奥が、キュンキュンとうずくのを自覚していた。それだけではなく、繰り返される亀頭部分だけの短い焦らしのストロークの前に、奥まで欲しいと言ってしまった。


 欲しいと言った次の瞬間、さとみは深い後悔の念を抱いた。でも、すぐに雅治が腰を突き入れてきたことで、そんな後悔は霧散した。
『はぁあぁぁっんっ! うぅぁぁっ!』
 一気に奥まで突き入れられて、さとみは声を抑えることが出来なかった。さとみは、一瞬で頭が真っ白になった。
(こ、こんな……私、もしかして今イッたの? そんなはずない……)
 さとみは、パニックになりながら、そんなことを考えた。

「さとみ、ずっと好きだった。やっと夢が叶った」
 雅治は、パニックになっているさとみを真っ直ぐ見つめながら、そうささやく。さとみは、雅治の真っ直ぐな視線と、その言葉に胸がドキンとした。こんなにも長い期間、ずっと私を思っていてくれた……。さとみは、そんな雅治の気持ちを、嬉しいと感じてしまった。

 たった今、夫への純潔を汚してしまったばかりなのに、そんな事を思ってしまった自分を、さとみは恥じた。
(私、どうかしてる……。嬉しいなんて、思っちゃダメだ……)
 でも、雅治が動き出すと、そんなことを考える余裕も消えた。

 雅治は、優しく腰を動かし始めた。ゆっくりとした動きで、ソフトにペニスを出し入れする。さとみは、雅治のペニスが抜けて行くときに、身体が痺れるような喪失感を感じ、抜けそうになったところで、雅治のペニスがまた押し込まれてきたとき、頭がボーッとするような多幸感を感じていた。

『うぅ……あっ! んっ! ふぅあぁ……んんっ!』
 さとみは、必死で声を押し殺そうとしている。でも、どうしても甘い吐息が漏れていく。
(ダ、ダメぇ、こんなの……あぁ、感じちゃダメ……声……あぁ、ダメ、我慢できない……)
 さとみは、どうしても漏れる声に、自分自身が嫌いになりそうだった。そして、助けを求めるように愛する夫に視線を送った。

 直之は、雅治が結局そのままコンドームも無しで挿入し、腰を動かし始めるのを、血の涙が出そうな気持ちで見ていた。そして、甘い吐息を漏らすさとみに、絶望を感じていた。
 さとみほどのロマンチストではない直之は、愛する相手以外とでは感じない……等とは思っていなかった。でも、さとみがこんなにあっけなく顔をとろけさせてしまうとは思っていなかった。

 すべて自分の責任だ……。直之が自虐的にそんな風に思っていると、いきなりさとみが直之を見た。
 直之は、とろけた中にも、どこか不安そうな表情を浮かべるさとみと目が合い、狼狽してしまった。



第5話

 さとみは、夫の直之と目が合ったことで、激しく罪悪感を感じていた。どんな理由があるにしても、夫以外の男性の、避妊具も何も付けていない剥き出しのペニスを受け入れている状況は、真面目で純真なさとみには、汚らわしい不貞行為としか思えなかった。
 それなのに、雅治のペニスが出入りするたびに、気持ちとは裏腹に甘い声を漏らしてしまう自分が本当に嫌だった。
『うぅっ! ぅ、あっ! んっ! うぅあぁ、ヒィ……あっ♡』
 さとみは、雅治のゆっくりとした動きに甘い声を漏らしながら、快感を自覚していた。認めたくないのに、自分が快感を感じていることを、もうごまかせなくなっていた。

 直之の目を見たまま、甘い声を漏らしてしまうさとみ。それを見て、固まってしまったように、身動き一つ出来ない直之。直之は、自分が招いた状況にも関わらず、さとみに裏切られたような感情を持ってしまっていた。
 実はさとみも雅治のことがずっと好きで、いま思いが叶って幸せだと感じている……。それなので、性的快感も感じてしまっている……。直之は、そんなありもしない妄想に取り憑かれていた。

『あっ! あっ! ン、ふぅ……あぁっ♡』
 さとみは、必死で声を押し殺そうともがいていた。直之の顔を見つめることで、快感が消えると期待して直之の目を見つめているが、不思議なことにより快感が強くなるような気がした。
 罪悪感や背徳感が、身体に影響を及ぼしているのだと思う。不倫にハマる人間の心理のようなもので、ダメだと思えば思うほど、より深い快感を感じてしまうのかもしれない。貞操観念の強い人間ほど、堕ちるのは早いのかもしれない。

 雅治は、さとみが直之のことを見つめているのが嫌だった。今、夢が叶ってさとみを抱いているのに、心までは抱けていない……。それは、最初から覚悟していたはずだ。でも、雅治はさとみの心まで抱きたいと思っていた。無理だとはわかっていたが、強くそう思っていた。
 でも、さっきからのさとみのリアクションを見て、希望があると感じていた。

 さとみは、間違いなく感じている。紅潮した顔、時折ギュッと拳を握りしめるところ、太ももをピンと伸ばすように力を込めるところなど、感じている女性そのものだ。何よりも、さとみが直之の方を見て目が合った瞬間、膣が痛いほどに締まったのを雅治は感じていた。

 雅治は、その長いペニスでさとみの膣をほぐした。焦る気持ちを押し殺しながらゆっくりと動き、膣に雅治のモノの形を覚え込ませた。雅治のペニスは、いわゆる巨根ではない。だけど、直之のモノよりも長くて上向きに反り返っている。
 ペニス自体の性能差はそれほどないはずだが、豊富な経験から雅治は自分のペニスのことを熟知していた。どう動けば女性が喜ぶのか……。その知識の差が、この後痛いほど効いてくるとは、直之は知るよしもなかった。

 雅治は、さとみの膣がトロトロになってきたのを確認すると、動きを変えた。さとみに覆いかぶさっていた身体を起こし、さとみの両脚を伸ばして抱えるようにする。
 さとみが仰向けで寝て、伸ばした脚を90度上に上げている状況で、それを身体を起こした雅治が抱えている格好だ。
 その体位で雅治が腰を動かし始める。この格好だと、雅治の上反りのペニスが、さとみの膣壁の上側を強烈にこすりあげる。そこは、Gスポットなどと呼ばれる部位で、そこを亀頭でしつこいくらいにこすり続ける雅治。

『んっ! んーっ! ンふっ! ふぅンッ! ンンッ♡ あっ♡ あっ♡ ダ、ダメ、そこ、ダメぇ……あぁっんっ♡』
 さとみは、生まれて初めてした体位に、心の底から驚いていた。雅治のペニスは、さっきから自分の気持ち良いところにしか当っていない。
 夫とのセックスでは、ピストンされているときにまれに当る程度のその場所に、雅治は亀頭を当ててこすり続けている。
(どうして知ってるの? 私の気持ち良いところ、なんで雅治さんが?)
 さとみは、パニックになりながらも、快感で身体に力が入ってしまうのを止められなかった。そして、身体に力を入れて脚をピンと伸ばせば伸ばすほど、爆発的に快感が増えるのを感じていた。
 脚に力を入れれば入れるほど、雅治との身体の角度がより鈍角になり、てこの原理でさらにGスポットを強く押し上げるようになる。そんな、蟻地獄のような状況に、さとみは頭が白くなっていくのを感じていた。

 直之は、射すくめられたようにさとみの目を見続けていた。本当は、目をそらしたい……。そんな気持ちなのに、泣きそうな目で見つめてくるさとみから、目をそらすことは出来なかった。
 さとみは、頬を赤くして上気した顔をしている。そして、脚をピンと伸ばし、足の指をギュッと内側に巻き込むように曲げている。



第6話

 どう見ても、さとみは雅治とのセックスで感じている……。そんな事実に、直之は身体が震えた。でも、二人が一つになったときから、直之はイキそうになるのを必死で抑えていた。もちろん、直之は着衣のままだし、ペニスには指1本触れていない。それなのに、直之は自分が射精してしまいそうなことに驚いていた。
 寝取られ性癖? そんなものが自分にあるとは思えない。でも、直之は自分が興奮しているのを、さとみが他の男に抱かれているのを見て興奮しているのを、認めるしかなかった。

『あっ! アンッ♡ ダメぇ、そこ、こすっちゃダメぇ、ダメ、本当に、あぁっ! あっ♡ アァァンッ♡』
 さとみは、変わらず直之を見つめている。目をそらした瞬間、自分が抑えきれなくなるのをわかっているかのように、必死で愛しい夫の姿を見つめ続ける。

 それなのに、甘い声で泣き続けてしまう自分に、さとみは絶望感を感じていた。そして、さとみはさらに絶望感を感じることに気がついたしまった。夫の直之は、着衣の上からでもハッキリとわかるくらいに、勃起していた。
(そ、そんな……どうして? 私が雅治さんに抱かれてるのに、興奮してるの?)
 純真なさとみは、本当に驚いていた。彼女は、寝取られ性癖というモノの存在自体を知らないくらいにウブだったので、余計に夫のその状況が異常に思えてしまった。

 直之は、さとみの視線が下がったのを感じた。そして、戸惑いとか、不審の表情になったのを感じた。その様子に、直之は自分のいきり立ったペニスを見られてしまったことに気がついた。でも、見られている状況で今さらそれを隠すことも出来ず、恥ずかしさと罪悪感で顔を伏せてしまった。

 さとみは、そんな夫の仕草を見て泣きそうだった。そして、夫から目をそらすように顔を上に向けた。すると、それを待っていたように、雅治の唇が重なってきた。さとみは、一瞬それを振りほどこうとした。でも、自分の立場を思いだし、思いとどまった。

 雅治は、さとみに濃厚なキスをしたまま腰を振り続ける。さっきと体位が変わり、Gスポットへの刺激が弱くなり、さとみは思わず身体を反らすようにした。そうすることで、雅治のペニスが気持ち良いところから離れないようにしようとした。無意識にそんな行動をとってしまい、さとみはすぐに慌てて身体から力を抜いた。
(私、何してるんだろう? 自分から当るようにして……こんなのダメなのに……)
 さとみは、雅治に舌を絡められて、彼のことを好きとか嫌いとか関係なく、身体を痺れたような快感が駆け抜けるのを感じていた。

 口の中をかき混ぜられ、生のペニスで膣を責められると、快感がどうしようもなく大きくなっていく。今回の雅治の件が決まって以来、さとみは一度も夫に抱いてもらっていない。そんな余裕がなかったというのも事実だが、お互いにそんな気持ちになれなかったという方が大きい。

 雅治は、さとみと舌を絡めながら腰を振り、無上の幸せを感じていた。どんな形であっても、思いが遂げられた。そして、さとみも確かに感じてくれている。
 雅治は、経験に基づいて、さとみに覆いかぶさったまま両手をさとみの腰のあたりに差し込んだ。そして、さとみの腰を持ち上げるようにする。
『ンフゥッ!!』
 さとみは、再び気持ち良いところに雅治のペニスが当たり始め、キスしたまま強くうめいた。さとみは、自分が大きな快感の渦の中にいることを自覚した。
 雅治の腰の一突き一突きに、さとみは身体がのけ反るようになり、下半身にギュッと力が入ってしまう。そして、足の指が真っ白になるほど内側に曲げられていて、さとみはオーガズム寸前という感じだ。

 さとみは、すでに当初の気持ちと変わっていた。当初は、夫以外の男性の手で、感じないように……声を出さないように……そんな気持ちだった。それが今、せめてイカないように……夫以外の男性の手で、イカないように……そんな風に変わっていた。

 必死でイカないように全身をこわばらせるさとみ。でも、それが雅治の快感につながっていた。強烈に締まる膣……女性経験が豊富の雅治も、早くもイキそうな感覚に陥っていた。

 さとみは、すがるような思いで夫を見た。でも、夫の直之の表情は、どう見ても興奮した男のそれだった。そして、その股間も、見てすぐにわかるほど盛り上がっていた。
 さとみは、考えるのを止めた。

「あぁ、さとみ! イクっ!」
 雅治は、キスを解くとそう叫んだ。そして、ペニスを一番奥まで押し込みながら、身体を震わせた。
 さとみは子宮の奥に、熱いほとばしりを感じた。それは、ただの気のせいなのかもしれないが、確かにさとみは熱を感じた。
『んんっーっ! ンフゥッ!!』
 さとみは、雅治が身体を震わせると同時に、大きくうめいた。間違いなく、さとみはオーガズムを感じていた。でも、それを夫に気取られないように、歯を食いしばるようにして耐えた。

 直之は、目の前で雅治の中出しを受けながら、必死で歯を食いしばってうめいているさとみを見て、信じられないほどの快感を感じていた。もう少しで射精してしまうほどの快感の中、直之は、自分が開けてはいけないドアを開けてしまったことを自覚した。



第7話

 その日は、そこで終わった。雅治はすぐに身体を離すと、シャワーも浴びずに帰って行った。そして、さとみはすぐにシャワーを浴びに行った。

 シャワーから出てきたさとみは、
『ゴメンなさい……』
 とだけ言った。直之はすぐに自分も謝罪して、さとみを抱きしめた。何度も謝りながら、さとみをギュッと抱きしめた。
『あなた……すぐに抱いて下さい……』
 さとみは、潤んだ瞳で直之に訴える。直之も、当然そのつもりだった。さとみの中の雅治の肉の記憶を消すため、すぐに抱くつもりだった。

 直之は、さとみにキスをした。激しく舌を絡めるキスをすると、すぐにさとみの舌が絡みついてくる。雅治としたときとは違い、さとみも舌を絡めていく。

 そして、直之は脱ぐのも脱がせるのももどかしく、半着衣のままさとみに挿入しようとした。でも、直之のペニスは硬度を失っていた。焦れば焦るほど、どんどん柔らかくなっていくペニス……。そのまましばらくあがいたが、結局硬度ゼロになってしまった……。
「ゴ、ゴメン……」
 直之は、情けなさで泣きそうになりながら謝った。

『……私が……』
 さとみはそう言うと、直之のフニャフニャのペニスを口に含んだ。そして、あまり上手とは言えないながらも大きくしようともがいた。でも、ダメだった……。

 この時以来、直之とさとみはセックスをしていない。しかし、直之は、完全にインポになってしまったわけではない。さとみが雅治に抱かれているときだけは、おかしなほど勃起することが出来た。直之は、ある意味では壊れてしまったのかもしれない。


 ——そして今、食卓の椅子に座る雅治に、さとみは自分からキスをしている。そのうえ、さとみは挑発的な目で直之を見つめる。
 直之は、自分のペニスが固さを取り戻すのを感じていた。あの一件以来、直之はさとみとセックスをするために、なんとか勃起させようと努力をした。バイアグラも試したし、さとみと雅治とのセックスを盗撮した動画を見ながら、なんとかさとみを抱こうとしたこともある。でも、どれもダメだった。

 不思議なことに、この目でさとみが抱かれる姿を見ないと、どうしても勃起してくれなかった。雅治とのセックス中に、割り込む……それしか方法はないのかもしれない。でも、夫として、男として、それだけは出来なかった。

 さとみは、直之の目を見つめながら、雅治と唾液を交換するような濃厚なキスをする。初めは、インポになってしまった直之を、なんとか治すためにしたことだった。挑発することで、直之の興奮が増し、治るのではないか……。そんな気持ちだった。
 でも、今はそれもわからなくなっていた。さとみは、直之を興奮させるという名目で、単に自分が楽しむためにそれをしているのではないか? そんな風に思っていた。そしてそれは、半分以上は正解のはずだ。

 さとみは、キスをしたまま雅治の服を脱がせていく。アメリカンポルノの女優のような事をするさとみ。ウブで純真なさとみが、こんな事をするまでになっていた。3年間、毎月一度雅治に抱かれ続けてきたさとみは、すっかりと開発されてしまっていた。
 たかが月に一度のことなのだが、最初の時こそ一度イッたらお終いだった雅治のセックスは、一日中に変わっていった。
 ほぼ24時間、仮眠を取りながら身体を交わす二人。食事も、トイレでさえ二人は身体を繋げたままするようになって行った。
 食事も、雅治が口移しで食べさせ、飲み物もそうした。仮眠状態でも、柔らかいままのペニスを挿入したままだった二人。
 さとみが開発されるには、充分な時間だった。

 さとみは、雅治の上半身を裸にすると、その乳首に舌を這わせた。そして、舌を乳首に絡ませながら、ズボンの上からペニスをまさぐる。
 そんな事をしながらも、時折直之に視線を送るさとみ。

 今では会社の危機も乗り越え、息子と3人なに不自由ない生活を送っている。さとみは、毎月雅治に抱かれながらも、純真さを失わずにいる。そして、夫への愛も失っていない。逆に、日に日に強くなっていると感じている。でも、夫に抱いてもらえない日々は、さとみにとっては辛いモノだった。そして、その辛さを雅治で紛らわそうとする事は、けっして責められるものではないはずだ。

 だが、さとみは不安だった。月に一度のその日だけではなく、さとみが雅治のことを考える時間が増えていた。それは、身体を交わし続けることで、気持ちまで移っていってしまうということなんだろうかと……。

 でも、さとみはさらに雅治のことを責める。ズボンも脱がしていき、剥き出しになったペニスに、舌を這わせていく。そして、雅治のカリ首や茎を舐めつくすと、大きく口を開けて雅治のペニスを口に含んだ。

 さとみは、今では雅治のペニスを口に含むのが密かに楽しみだった。もともと、夫の直之も求めてくることがないので、フェラチオ自体ほとんどしたことがなかった。
 でも、雅治は必ず口での奉仕を求めてくるし、30分以上舐めさせられることもある。でも、さとみはそれを楽しみと思うようになった。口の中で、より固くなったり、ビクンビクンと脈打つ感覚、そして、焦らすと切なそうな表情になるのを見ていると、とても愛おしくて、可愛いと思ってしまう。それはペニスに対しても、同じだった。





















































投稿官能小説(2)

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