第4話


「どうして私が幼女のような身体になってしまったのか、その理由は――」

 亜理紗は核心を語る前に一呼吸置いた。
 それは話を勿体振るためというよりも、手の内を全て明かしますよ、という前
置きのようだった。

「――わかりません」
「え?」
「本当にどうして身体が小さくなったのか、私にもわからないんです」

 そこで亜理紗はぶん投げ気味に微笑んだ。
 まるで鳥かごに囚われた小鳥が逃げ出した時のような喪失感と、それから開放
感とが綯い交ぜになったような亜理紗の微笑みに、俊介は二の句が継げなかった。

「雪女は語られる伝説の通り、見初めた相手と肌を重ね、精を吸いに吸い、やが
ては命ごと吸い尽くした後は呪いの息吹で凍え殺して参りました。
 俊介さん、私もそのつもりであなたに近づいたこ――」
「大丈夫だよ、わかってる。それでも僕は君に逢いに来たんだ」

 喰い気味に俊介は語った。

「僕は君を怖いとは思っていないよ、今もずっと君を――」
「『日本の幽霊妖怪大全集』という番組でしたよね、拝見させてもらいました」
「あっ……」

 『日本の幽霊妖怪大全集』という番組企画のため、俊介は雪国入りしたのだっ
た。
 そして雪女伝説を取材する最中に亜理紗と出会い、艶やかな夜に愛を交わした
のだったが、そんな俊介と亜理紗の燦めく思い出とは打って変わって、放送され
た当番組のトーンはおどおどしく暗いものだった。
 深夜帯に放送された知育番組で、日本各地の幽霊や妖怪の伝承・伝説を念入り
な取材で相当掘り下げた生真面目な内容だったが、その生真面目さは科学万能の
時代において改めて幽霊や妖怪への畏怖の念を終始一貫して語っていた。
 俊介はルポライターとして取材資料を提供したまでだったが、番組制作に関わ
っている立場なのは間違いないのだ。

――だから亜理紗は僕に恐れられていないか、何度も試していたのか……

「亜理紗、ごめんっ」
「あ、俊介さんっ」

 俊介は勢いで幼い身体の亜理紗を都会の暗がりに押し倒すと、己の下腹部で著
しく固くなった性器を取り出した。
 精と命を吸う雪の妖怪と知ってなお亜理紗を抱くということが、彼女を恐れて
などいないという証明になるだろうという想いのまま、俊介は性器の先端を亜理
紗の固く閉じた秘所に宛がった。
 小さな割れ目は破瓜の血と少しの愛液で濡れているとは言え、未発達な大陰唇
は閉じたままだし、同じく未発達な小陰唇は挿入の導きを手伝ってくれることも
なく、小さいばかりの亜理紗と交わるのは難しそうだった。
 先端と割れ目が挑戦する度に擦れて焦れったく、しかしそれはそれで亜理紗は
感じているらしく頬が赤い。

「……ぁ、俊介さん、このままお続けになりながらでも構いませんので聞いて下
さい」

 湿気った吐息を間に挟みながら。

「私は産まれながらに雪女で、俊介さんが制作された『日本の幽霊妖怪大全集』
に語られる伝説の中で生き存えてきました。
 そうして雪女伝説のままに俊介さんを殺してしまうところでしたが、私は愛す
る俊介さんを殺すことなんかできないと思い、雪女伝説から逸脱してしまったの
です。
 それまでは語り継がれてきた雪女伝説の中を生きて来ましたが、気付けば私の
身体は幼い少女のものに成り代わっていて、その理由はわからないままですが、
それはきっと私は別の物語の中を生きている、別の物語の中を生きて良いという
ことなんだと思うのです」

 幼女とセックスしようと悪戦苦闘している僕はそこで顔を上げた。

「別の……物語?」
「すみません、気取った言い回しでした」
「いや、そうではなくて……」

 ルポライターという不安定で自負心が強く試される職業に就いている俊介だか
ら、『物語』というキーに惹きつけられるのだろうか。
 そんな俊介の反応などお見通しだとばかりに亜理紗が微笑んでいる。

――ではその『物語』の書き手とは誰なのだろうか?

 何かと話の主導権を握りたがる節のある亜理紗が都会の暗がりの中、肌身隠す
ことなく横たわる。
 俊介の下、微笑む亜理紗のまなざしが柔らかい。

「君は僕の描く物語の中にいるんだね?」
「そうはもう、幼女とは言え女ですから。
 男の物語の中に生きることは女の幸せでしょうに」

 その言葉に俊介は亜理紗を強く抱き締めた。
 亜理紗も俊介を抱き返す。

――亜理紗が僕の物語の中を生きてくれているというなら、諦観に囚われて再び
訪れた雪国では亜理紗に再会できなかったこと、少ない情報を手繰り寄せてO女子
大学付近を探せば亜理紗に会えるんじゃないかと望みを繋いだことで再会できた
理由も納得がいく。

 雪国でさえ再び会えると物語を夢想していれば亜理紗は現れたはずなのに、な
んと馬鹿な奴だろうと俊介は亜理紗を抱き締めながら自嘲した。
そうしながら亜理紗を抱き締め、その幼女の若さと生命力の漲りを胸一杯に感
じ取る。
 あれだけ望み薄の人待ち顔ばかりだった俊介の自嘲が微笑に変わっていく。

しかし、それにしたって、どうして亜理紗は幼女になったのだろうか?

――それについては物語の書き手の僕にもわからない。

 筆を握る指に破瓜の血を宿しながら、俊介は再び微笑んだ。


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本作品は『亜理紗 雪むすめ』(Shyrock作)のリレー小説として

お読みいただくと、より一層お楽しみいただけます。











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