第1話


 車井原俊介は、いつしか人待ち顔が常になっていた。
 それはルポライターを生業とする彼が、なにか書き物の種を探し続けているが
ためのものと捉えることもできたかもしれない。
 けれど、彼の端正な顔立ちをつぶさに観察すればするほどに、彼の人待ち顔に
は来もしない誰かを待っているかのような憂いの色が読み取れるのだった。
 なまじっか観察眼の鋭い自称霊媒師や占い師に捕まれば、

「あんた、何か悪いモノに取り憑かれてるよ」

 そう囁かれてしまうほどに。
しかしそれは間違ってはいなかった。
 今も胡乱げに駅のホームの人々を眺めている俊介の心を支配しているのは、艶
麗の美少女・亜理紗だった。
 雪女伝説を求めて訪れた雪の国で連日連夜、それこそ精根尽き果てるほどに激
しく交わった一人の少女に俊介は今もなお心奪われてしまっていた。
 その少女がたとえ件の雪女だったとしても、それは揺らがない。
 雪女はその美貌で男を虜にすると、夜の床で冷たい肌を重ねて精を吸い上げ、
やがては男の命すら吸い上げ、凍え殺してしまうのだという。
 語られる雪女伝説に習うように亜理紗は最後の夜に俊介を殺そうとしたものの、
それを成し遂げることができずに姿を消した。
 俊介は亜理紗を愛していたし、その想いが通じたからこそ拾った命なのだろう。
雪女に殺されていたかもしれないという恐怖も本当だったが、亜理紗への恋情
も嘘ではなかった。
 もう一度亜理紗に会いたい。
 話をしたい。
 無論、肌も重ねたい。
 命を凍らせられるかもしれない――けれど。

 俊介が亜理紗と出会った雪の国に再び訪れたのは、すでに桜が雪のように咲き
散る季節になってからだった。
 まだ一ヶ月と経っていないのに、雪女伝説を擁した雪の国は桜の幻に包まれ、
消え去ってしまっているようだった。
 亜理紗が現れた旅館に宿泊してみても夜の床には誰も現れず、三日の晩には旅
館から追い出され、塩を撒かれた。
その後数日間、車中泊の形で滞在してみるも亜理紗は現れず、カーステレオが
関西地方で今年初めての夏日を記録したと伝えたのを聴いて、俊介は雪の国を後
にした。
 関西の気温上昇によって俊介の心が溶けるように折れてしまったかのようだっ
たけれど、実のところ、そうではなかった。

――亜理紗は東京のO女子大学に通う学生だと言っていたな……。

 無論、俊介とて亜理紗が女子大生だと信じているわけではない。
 最後の夜、亜理紗は俊介を東京へは帰したくないとさめざめ泣いたことを踏ま
えれば、亜理紗は雪の国から離れられない存在なのかもしれない。
 だが、亜理紗との東京談義はどうだったか。
 お互いに絶頂を迎えた後、寄り添って語った東京の話に矛盾点はあったろうか。
 射精後の気怠さが手伝って明瞭ではなかったかもしれないが、俊介には亜理紗
が耳学問ばかりで話を紡いだとは思えなかったのだ。
 亜理紗の話はどうにも今を生きる東京の学生らしさに満ちているように感じた。
 その可能性に気付いた俊介は、時間が許す限りはO女子大学周辺を散策するよう
になった。
 あれほどの美少女なのだから東京雑踏の中からでも探し出せるという自信と、
もうそれしか方法が無いという切迫感が俊介を奮い立たせていた。

 そうして季節は巡る。
 O女子大学は幼稚園から小学校、中学校、高校などを附属する一大教育機関であ
るだけでなく、その周辺にも様々な教育施設を擁する学生街の中心とも言える場
所である。
 ならばその周辺を平日からうろつく俊介は警察、警備員からマークされ、夏を
迎える頃には職質の回数は五回を超えた。
 フリーとは言え、出版経験もあるルポライターであることを名刺と共に説明し
てもなお、である。
活気溢れる夏の学生街において、諦めの憂いが漂う人待ち顔の俊介はやはり景
色の中で一番に浮いた存在だったのだろう。

 今日も取材の空き時間に学生街を訪れた俊介は、それとなく景色に溶け込む努
力をしながら雑踏の中に亜理紗を探していた。

――もう……亜理紗には会えないのだろうか。

 その日、東京は真夏日に達し、いよいよ雪女伝説とは地球の反対側ほどに縁遠
くなってしまっていた。
 俊介は止めどなく流れ落ちる汗を拭いながらいたが、ふいに視界に飛び込んで
きた小学生ほどの少女の姿に手が止まった。

「コートにマフラー……?」

 唖然と声が漏れた。
 この暑さだというのに冬用コートを着て、なおマフラーを首に巻いた少女が涼
しげな顔で歩いていたのだ。
 そして俊介の視線を感じてだろうか、ふいに立ち止まると俊介を振り返る。
 二人の視線が交わり、なぜか見つめ合った。

「あ……」

 先に口を開いたのは少女だった。

「俊介……さん……」

 その声には覚えがあった。
 俊介はまじまじと冬格好の少女を観察した。
 そのショートカットの髪の具合、色白の素肌のなめらかさ、厚い服装の下まで
全てを知っている気がした。

「あ……亜理紗?」

 冬格好の少女は少しの逡巡の後に、その小さな顎をコクンと頷かせた。
 にわかには信じがたい事だったが、女子大生のはずだった亜理紗が小学生ほど
の幼女になって俊介の目の前に現れたのだった。


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本作品は『亜理紗 雪むすめ』(Shyrock作)のリレー小説として

お読みいただくと、より一層お楽しみいただけます。











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