第六話

 他人の精液を膣から溢す女を見て、その女に欲情できない雄の遺伝子は弱い。
 いくらその雌が他の雄の精液に塗りたくられていようと、決して負けぬ子種を
植え付けることができると猛ることができる雄は、やはり周囲から一目を置かれ
るほどに強かった。
 巨漢にたっぷりと種付けされたまま、呆然と股を開いたままでいる小坂井あや
めを眺めながら、俺は思う。
 処女信仰、処女崇拝も理解できないわけではないが、処女を崇め、処女にのみ
欲情する野郎は、どこかひ弱だ。
 小坂井あやめの処女を散らしたいと猛っていた巨漢も、それほど強大な肉体を
有しているというのに精神的に歪ずなところが散見される。
 俺たちが住処にしていた洞穴では、誰かが攫ってきた女を皆で輪姦し、誰の子
かもわからない子供を産ませて、皆が父親として子を育ててきた。
 俺も狐顔も巨漢もその他全員が父も母も誰だかわからないまま兄弟として生き
てきた。
 そうして同じ女を輪わし合うようになり、穴兄弟となり、やがて父親となり、
死んでいく。
 住処の洞穴が爆撃を受け、なし崩し的に飛び乗った夜行列車。
 夜果てに向かう夜行列車の中で、蟻地獄のように俺たちは罠を張り、華やかな
都へ向かう少女を犯し続けている。

「小坂井さん、気分はどう?」

 ベッドに倒れたままでいる小坂井あやめに、俺は淡々と尋ねた。
 小坂井あやめは顔だけ持ち上げて俺を見遣った。
 俺は慰めるように精液に溢れる女の割れ目を撫でてやる。
 巨漢の精液を指ですくい上げ、未熟な性器に塗り込めるように、優しくねっと
り撫でる。

「どうせ恋愛ができる世ではありませんから……」

 望まない性行為を受ける覚悟はあったのだろうが、その瞳には、恋に夢描いて
いた痕跡が涙として滲んでいた。

「……尾島さんが最初だったら良かったのに」
「………………」
「そうじゃありませんか?」
「……そんなことに意味なんてないさ」

 不毛な会話をする俺と小坂井あやめに、狐顔が近づいてくる。
 狐顔は俺の方をちらっと見ただけで何も言わず、仰向けの小坂井あやめの身体
を反転させてうつぶせにした。
 姿勢を変えられても小坂井あやめは何を言うまでもなくじっと俺を見上げてい
た。
 そんなことなど意に介せず、全裸になった狐顔が小坂井あやめの下半身にのし
掛かった。
 ひひひひっ、と下卑た笑いを溢しながら、小ぶりで柔らかそうな尻の肉を揉み
ほぐすようにしながら左右に開いていく。
 そして露わになった菊門に指一本を突き入れる。

「はぅぅ……っ」

 媚薬と偽って氷塊を詰め込まれた菊門。
 とっくに氷塊は内臓温度によって溶けてしまっているだろう。
 狐顔が指を回すと、クチュクチュと水音が鳴った。
 まるで子供が蟻の巣に悪戯するかのように狐顔は菊門に指を突っ込んで、好き
放題に掘り広げる。
 そのうちに、やたら下品な色合いの玩具を取り出してきたかと思えば、躊躇な
く肛門の奥へと沈めていく。
 沈めては引き出し、すぐに沈めて引っこ抜く。
 その度に小坂井あやめの身体はビクビク震え、頼りない背筋が引き攣っている
のが見えた。

「ぅぅっ、はぅぐ……尾島さん……尾島さんっ……っ!」

 助けを求めるように手を伸ばしてくる小坂井あやめを俺はただ見下ろしていた。
 小枝のように細い指が俺のズボンを掴み、引っ張ってくるのだったが、俺はそ
れを払い落とした。
 尻の穴から不気味な青紫色の連結パールを長々と吐き出している小坂井あやめ
に、俺は冷たく言い放つ。

「俺に泣きついてもどうにもならねぇよ……
 諦めて明日の朝まで耐えるんだな」
「尾島さ……んっ、尾島…さ、んっ」

 手術中の開腹部のように様々な器具を突っ込まれて広げられている肛門。
 狐顔が自分の唇を噛み切り、そこからの出血を唾液とともに肛門内に注ぎ込む。
 たった数十分前まで潔癖であったろう小坂井あやめの身体の中に、巨漢と狐顔
のさまざまな体液が注がれていく。
 生娘だったはずの自分の体内に異物が注ぎ入れられる感触に身震いしながら、
小坂井あやめは切々と俺に訴える。
 言葉ではなく表情で。

「俺に助けなんか求めるな」
「ぅぅ……ちが……違う、の」
「違う? なにがだ?」

 肛門周辺を狐顔の血に染められ、まるで少年が無理矢理なアナルファックを喰
らった事後のようだった。

「どうせなら……どうせなら私……」
「はん?」
「尾島さん……に……」

 今にも絶えてしまいそうな細い声で小坂井あやめは俺に言う。
 言いながら華奢な手を伸ばしてきて、それは俺の股間に触れた。

「きひひひひっ、こいつぁいい!」

 唇を噛みちぎった血と唾液を散らしながら狐顔が醜く嗤いあげた。

「わかるぜ、わかるぜ嬢ちゃんっ!
 さっきみてぇな大男にヤられるくれぇなら、尾島の旦那にヤられた方がいいっ
て考えたんだろっ?」

 それまで黙々とアナル掘りに勤しんでいた狐顔が突然嗤い出したものだから、
小坂井あやめもようやく後ろを振り返った。

「ひっ!」

 振り返ったそこではいろいろな器具が自分の肛門に挿入され、醜顔の男が血と
涎を垂らしながら不気味に嗤っているのだから身の毛もよだつ。
 まさか自分の尻からの出血だろうかと疑うほどに周囲を血に染めた中、全身に
ひどい傷跡ばかりの醜男が流血しながら嗤っている様は、さながら悪魔か悪霊の
類いに映ったことだろう。
 小坂井あやめは金切り声の悲鳴を上げながら俺にしがみついてくる。

「尾島さんっ、尾島さんっっ!」

 もちろん俺は助けない。
 高笑いを続ける狐顔は乱雑に小坂井あやめの肛門から玩具類を抜き取る。
 そして狐顔は己の勃起性器を小坂井あやめの血塗れた肛門に宛がった。

「いやっっ!! いやぁぁ゛! やめでっ! 入ってこないでっっ!! いやぁぁぁ
ぁっっ!」
「いいぜいいぜ、嬢ちゃんに泣き叫ばれると俺っち興奮しちまうぜ」

 ずん! と体重を掛けると狐顔の先端が小坂井あやめの肛門にめり込んだ。

「ひぅぅ゛っ!!」

 さらに体重を掛けて深くまで挿入を果たした狐顔は、そのまま後ろから小坂井
あやめを拘束してみせると、ぐるりと体勢を入れ替えた。
 小坂井あやめを仰向けにして、狐顔は下からアナル挿入。
 脚を絡ませて無理矢理に小坂井あやめの股を開かせた。
 巨漢の精液をとっぷり詰め込んだ膣口が俺の方に向けられ、これ以上なく誘っ
ているようだった。

「尾島……さん……」

 普段なら膣とアナルの二本差しをする時にはアナルが狐顔で膣が巨漢の担当だ
ったのに、この日ばかりは俺が膣を担当しろということらしい。
 涙を流す小坂井あやめの後ろで狐顔がしたり顔で嗤い、巨漢は萎え知らずの陰
茎を擦りながらいるだけで、自分の出番を主張しないでいた。

「尾島、さん……」

 醜悪な狐顔に全身を絡まされている小坂井あやめは、鈴の音のような声で俺を
呼ぶ。
 小坂井あやめは俺たちのように色狂いなわけでもなければ、俺に恋をしている
わけでもないだろう。
 巨漢や狐顔のように一言も言葉を交わしたことのない男に抱かれるくらいなら、
せめて一時言葉を交わし、少しだけでも心を許した相手に抱かれたいとの思いだ
ろう。
 どうせ夜行列車を降りた先の世の中だって、いつどこで見知らぬ男に組み伏せ
られて種付けされるか知れたもんじゃない。
 小坂井あやめとて、両親と思っている人物が本当に血のつながりのある父母な
のか定かではない家庭に育ち、なぜか自分を本当の我が子のように可愛がってく
れる人たちに囲まれ、愛されて育ってきただろうから、いつ誰に犯されるかもし
れないという覚悟くらいはあっただろう。
 しかし、それでもしかし、少しでも情を交わした相手の子供を身籠もりたい―
―そんな小坂井あやめの想いを理解できないわけでもなかった。

 俺は自分のズボンに手を掛け、ベルトを外していく。
 その様子を目にした小坂井あやめの表情にはたっぷりの諦観が色濃くあったが、
少しだけ、すべてを受け入れ、すべて許してくれてしまいそうな慈愛が目元を緩
めていた。

――――だが、

「……っっ!」

 俺が性器を露出させると同時に、小坂井あやめの顔が一気に青醒めた。


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