気持ちいいこと ~乱夢白書~


乱夢子作



第1~4話 第5~8話 第9~12話





第9話


「それでね、棚に残っているヤツを手前の方にもってきて、新しいのは奥から入れるの」
「そっかあ」
 新しい女の子は、藤木 純(ふじき じゅん)っていう名前だ。
 はじめは気づかなかったけど、仕事中に長い髪の毛を束ねていると、耳がけっこう大きくて、小さな顔とアンバランスでかわいらしい。
「ふふふふふ……」
「クスクスクス……」
 彼女といると、ほんの些細な……例えば、お客さんの髪の毛がオバQみたいに立ってるとか、一つしかない菓子パンの取りあいで、ケンカになった小学生とか……何もかもがおかしくて、ともかく笑ってばかりいた。
「あーあ、ほしいなあ」
 お客さんがふっととぎれる時間があると、すぐにおしゃべり。
「何が?」
「たまごっち」
「ああっ、それはいわない約束でしょう」
 おおげさに泣き真似をして見せたけど、内心けっこう本気だった。
 きっと純ちゃんも、同んなじ気持ちだと思う。
「四月には、いっぱい売り出すみたいだけどねぇ」
「どこにでも売ってるようになっちゃったら、きっと欲しくなくなる気がする」
「『今すぐ』でないと、意味ないよね」
「そうそう。『今すぐ』でないと、意味ないよ」
 わたしたちは、ため息をついた。
 そこへバックルームから、店長が顔を出した。
「ねえ、ちょっと手伝ってくれない。えーと、純ちゃん来てくれる?」
「はーい」
 純ちゃんは、わたしに小さく手を振ると、バックルームに消えていった。
「いらっしゃいませーっ」
 手が足りないと混んでくる……というのジンクスは、必ず当たる。
 あっという間に、お客が五人も列に並んだ。
 ああ、遅い。
 純ちゃんたち、何してるんだろ。
 なるほど、入ったばかりの純ちゃんは、まだ一人ではレジは打てない。
 だから彼女の方を呼ぶのは、しょうがないことなのだ。
 でも、なんだかジェラシー。
 それも店長じゃなくて「純ちゃん返せっ」っていう感じの、ジェラシーだ。
 わたしはイライラカリカリしながら、ブスッたれてレジを打った。
 こういうときに限って、弁当を暖めろだの、宅配便を出したいだの、ぐずぐずいうお客が多い。
 それでもそのうち、お客さんがふっとひいて、また店に人がいなくなる。
 でも純ちゃんは、まだバックルームから出てこない。
 もう、三十分以上たつのか。
 バックルームで電話がなった。
 一回、二回、三回、四回……五回を過ぎても、まだ出ない。
「あれ?」
 ちょっと変だ。
 しょうがないから、お店を空にしてバックルームへ顔を出す。
「店長、電話が鳴ってますけど……」
 何だ?
 このふたり、何してんの?
 店長はズボンのジッパーを開き、そこからアレをむき出しにして、壁にもたれて立っている。
 純ちゃんは、店長の前に立てひざをついる。
 彼女の目の前には、店長のアレがそそり立つ。
 店長の手に、たまごっち。
「だってこの人、しゃぶったら『たまごっち』くれるっていうんだもんっ!」
 そういうなり純ちゃんは、店長が持っていたたまごっちをひったくると、制服も脱がないで、裏口から駆け去った。
「真由梨ちゃん、ごめん……」
 店長は、困り切った顔をして、こっちをじっと見つめている。
「いいから早く、その気持ち悪いものしまってくださいっ!」
 こんなに大きな声が出るのかと、自分でも驚くような怒鳴り声だった。
「あっ、ああそうか……」
 店長があわてていると、店の方から「誰もいないのっ!」とおばさんの声がする。
「はーい、すいません」
 いそいで、店に戻った。
「わたしは別にいいけどさあ、お店に誰もいないなんて、もうけっこう、万引きされちゃってるかもよ」
 おばさんの、いう通りかもしれない。
 でももう、どうでもいいや。
 あんな店長の店なんて、つぶれちゃえばいいんだわ。
 その日わたしは松井さんと交代するまで、一言も話さずに笑いもせずに、ただ黙々と仕事をした。


 次の日、純ちゃんはアルバイトに来なかった。
 わたしはイヤな、悲しい気持ちで仕事を終える。
「もう、来てくれないかと思ったよ……」
 帰り際、バックルームで店長がそういった。
「わたし、お金いりますから来ます。ねえそれより、純ちゃんは……」
「辞めるって。さっき電話でいってきた」
「最低っ!」
 床に制服をたたきつけると、こんな店にもう一秒もいたくなくって、外へ走って出て行こうとした。
「あっ、ちょっと待って」
 店長は、ユニホームを脱いだわたしの手首を引いて、引きずるように店を出る。
「わたし、うちへ帰りますっ」
「……」
 店長は、何もいわずにぐいぐい手首をひっぱって、表通りへつれていく。
 手をあげて、タクシーを止めた。
「うちへ帰るって、いってるじゃないですかっ!」
「……いいから、来てくれ」
 声はかすれて小さかったけど、店長はとても恐い顔でそういった。
 わたしは思わずそれに怯んで、タクシーに乗ってしまった。


「だからさ、もう他の女の子は、絶対に相手にしないから……」
 ホテルの部屋に入るなり、店長はそういってわたしのことを抱きしめた。
「さわるな、このブタッ!」
 突き飛ばすと、店長はひどく驚いた顔をしていた。
「ぜんぜん、判ってないよ。あんたみたいな最低のエロオヤジの代わりなんて、いくらでもいるんだよっ。でも友だちの代わりなんて、ほんとうに見つからないんだ。あんた大人のクセに最低だっ。純ちゃん返せよっ。返してよっ!」
「真由梨ちゃん、それ本気かよ。おれって、そんな程度の男?」
 店長が、わたしの肩を強くつかむ。
 振り払っても、びくともしない。
 あ、不覚……。
 絶対に泣くまいと思っていたのに、あとからあとから涙が出てきて、ぜんぜん止まらなくなった。
 それどころか、もう立ってることできそうにない。
「んな、泣くなよ」
 店長が、わたしのことを抱きしめる。
 ひどくイヤだったが、もう逆らう気力もなかった。
 でも不思議に、汗臭い店長の胸で泣いていると、ほんとはずっと、こうされたかった気がしてくる。
 しばらくの間そうして泣くと、すごく気持ちが落ち着いて、ほんとにとても楽になった。
 純ちゃんのことは寂しかったけど……。
 これでほんとに、いいのかどうか疑問だけれど……。
「もう、いいのか?」
 うなずくと、涙とハナでぐちょぐちょになったわたしの顔を、店長はティッシュでていねいに拭いてくれた。
「いっしょに、風呂でも入るか」
 わたしは手を引かれて、バスルームに向かっていった。


 脱衣所では、まるで小さな子みたいに、一枚一枚ていねいに服を脱がされた。
 店長はわたしの服を、その場でいちいち畳んでいて、なんだか笑える。
「はい、こっち」
 そのあとお風呂場で、念入りに洗われた。
「ここ、自分でも剃ってるんだ」
 ツルツルのアソコの丘を、泡でヌルヌルの手で触りながら、小さな声でたずねてくる。
「だって、生えかけってチクチクして、すごく痛いから……」
 もうすごく、恥ずかしい。
「剃るとき、おれのこと、考えた?」
 わたしは黙って、うなずいた。
 くやしくて恥ずかしいけれど、ほんとだったから。
「あ、うれしいな」
 店長は、お湯をかけたあと、わたしにキスをした。
「ねえ、真由梨ちゃんは、しゃぶってくれない?」
「え……」
「ヤなの?」
「あ……やったことないから」
「なんだ、そうだったんだ。ねえ、できない?」
「わかんない」
「やってみて」
 わたしの前に、店長が立ち上がる。
 口の前に、元気に立った店長のアレがある。
 目をつぶって、口に入れてみた。
 石鹸のにおいがする。
「手をそえないと、やりにくいよ」
 いわれて、根元の方に手をそえると、確かにやりやすくなった。
「口をすぼめて、そう。舌で擦り上げるようにして。あ、いい、そのまんま……」
 店長が、わたしの頭をそっとつかんだ。
 ほんとうは、強くつかみたいけれど、がまんしてる……そんな感じだ。
 でも口の中で、アレがいきなりひどく大きくなってしまい、わたしはノドの奥をついて、すごい吐き気におそわれた。
「グッ……グッ」
「おい、だいじょぶか」
「……あ、なんとか」
「うん、口でやるのはもういいや。それよりも、今日はベッドに入ってちゃんとやろう」
 わたしは店長に抱えられるようにして、ベッドルームへもどっていった。



第10話


「真由梨ちゃん……」
 ベッドに寝かせられたわたしに、店長が覆いかぶさって見下ろしている。
 生まれてから今までに会った誰よりも、死んだ親より、やさしそうに微笑んでいる。
 うれしいし、感動するし、でもちょっと恐い気もする、笑顔。
「かわいい。ほんと、愛してる」
 かわいいっていわれると、心底うれしい。
 店長は、チュッと短いキスをすると、わたしの胸に吸いついた。
 乳首の上を、舌が小さなヘビみたいにうねうね動いて、指が、もう片方の乳首をしごく。
 もう、どうしようもなく気持ちよくって、アソコが熱く濡れるのが、自分でもよくわかった。
 店長の脚が、わたしの脚の間に割って入って、太ももがアソコへぴったりと押しつけられる。
「びしょびしょじゃない」
 耳元でささやかれると、顔がカッと熱くなる。
 店長はもう一度、唇と指で、わたしの乳首を弄んでいる。
「あっ、んんっ」
 もう気持ちよくって、どうしようもない。
 早く、早く何とかしてほしい。
 でも店長は、そのままわたしの胸をいじくっていて、わたしは気が昂ぶって、ほんの少しだけど泣いてしまった。
「んんんっ、ああんっ」
 そうしたらやっと、店長がクリトリスをいじってくれて、わたしは気持ちよくって、いやらしい声が止まらなくなった。
「あっ、あっ、いいっ、あああああっ……」
 すぐにアソコがじんじんしだして、もうイキそうになってしまう。
「まだ早いよ」
 そういって、店長はソコから指を引きあげた。
「……だめぇ」
 するとかわりに、ソレが中に入ってきた。
 すっごく、いい。
 ここ最近、するたびエッチがよくなるけれど、今日のはちょっと、異様すぎ。

 こんなよかったこと、今までない。
 店長が動き出すと、ほんとよくって、うれしくって、それが恥ずかしくて、おかしくなりそう。
「どうしたの、まだ悲しいの?」
 涙を指で拭い上げて、店長が聞いてくる。
 わたしは、首を横に振った。
「そんなにいいわけ?」
 首をタテに振ったらば、店長はわたしの膝の裏に手をいれて、膝小僧をグッと肩先まで近づけた。
「なんだ、身体、柔らかいじゃない」
「あ、いつもはこんなに曲がらないのに」
「それ、貪欲な証拠じゃない。やだぁ、イヤらしい」
 クスッと笑うと、店長はぐいぐいと早く動きはじめる。
 あ、こういう格好にされると、お腹の奥までアレが届いて、たまらない。
 わたしは、信じられないほど大きな声をはりあげて、店長のモノをうけいれる。
 そのうち指が、もう一回クリトリスをいじりはじめて、わたしはまぶたの裏が真っ白になって、またイキそうになっている。
「今日、真由梨ちゃん、感じ過ぎ」
 店長はそういって、クリトリスから指を引きあげる。
 わたしは、欲しくて欲しくて、もうぐちゃぐちゃになってしまった。
「イヤッ!」
 でもいきなり、今までの気分が吹き飛んだ。
 身体がグッと反り返りそうになり、でも膝を肩先まで曲げられているので、そうならない。
 恥ずかしい。
 店長が、おしりの穴に指を入れたのだ。
「ヤダッ、ヤダヤダッ、とってよぉ、痛いよぉ」
「ほんとにイヤ? ほんとに痛いだけ?」
「痛いしイヤなのッ! とってってばっ」
「どうしてもイヤ?」
 店長は肘も使って、片腕でわたしの脚を押さえて、身体をそのまま曲げながら、しつこく聞く。
「イヤだよッ!」
「何でもいうこと聞くっていうなら、とってあげてもいいけどなあ……」
 そういいながら店長は、もうぴったりと差し込まれて、まったく動かないはずの指を、無理にグイグイ動かして、わたしのことを脅迫する。
「イヤダァ!」
 もう、気持ち悪くて吐きそうだった。
「いうこと聞くなら、とってあげる」
「……きく」
 こんな人にこんなこといったら、どうされるかと思ったけど、そういうしか方法がなかった。
「よぉし、おれ、ちゃんとおぼえているからね」
 笑いを含んだ店長の声が、わたしをいくぶん不安にさせる。
 でもまた店長が、激しく動きはじめたから、わたしの不安のあらかたは、消し飛んでしまった。
 だけどどこか、身体の真ん中の深いところで、丸く小さな真珠みたいに、不安な気持ちは完全には消えずに残って、わたしはそのあとすぐにイッたんだけど、あんまり気持ちよくはなれなかった。


 それからレジに立つわたしに、寂しい気持ちは消えずに残った。
 来ないってわかっているのに、気持ちは、純ちゃんを待ってしまってる。
 純ちゃんには、電話をかけた。
 電話には、おかあさんが出た。
「真由梨ちゃんね。ちょっと待っててくださいね……」
 やさしいそうな、おかあさんの声のうしろから、純ちゃんの悲鳴が聞こえた。
「わたしなら、いないっていって!」
「あら、ごめんなさいね。純はどこかへ、出かけてるみたい……」
 困り切った、おかあさんの声。
 純ちゃんの悲鳴は、耳にとっても痛かった。
 きっとすごく、傷ついているんだと思う。
 かわいそうだ。
 大人はいつも、わたしたちが絶対に勝てないのを知っているから、すぐに利用しようとする。
 でも純ちゃんは、この前のこともわたしのことも、すぐに忘れてしまうだろう。
 だって純ちゃんは本物の高校生で、学校には同じ年の女の子が、山ほどいるもの。
 バックルームから、店長が笑って出てきた。
 わたしも、微笑み返す。
 寂しい。
 どうしようもなく、肌寒い。
 コチコチと時計は動き、お客は出たり消えたりで、わたしはただロボットのように、決められた仕事をこなした。
「じゃあおれは、あがって家で、夜まで寝てる」
 店長は松井さんと入れ代わりに、ルンルン顔で店を出て行く。
 松井さんと、レジに立つ。
 この人は、あいかわらず無口だった。
「……なんだか、寂しそうだね」
 入ってから二時間もして、松井さんが、ぼそりという。
「純ちゃん、もう来ないから」
「店長と、何かあったの」
「うん」
 松井さんは、いったいどんなことがあったとか、それ以上は聞いてこない。
「桜、好き?」
「はっ、何が?」
「あ、桜」
「え、ええ。好きですけど……」
「見に行かない?」
「えっ」
 いけない。思わず、びっくり顔になってしまった。
「……あ、あの、桜って、もう咲いているんですか?」
「神無月公園に、彼岸桜が咲いてる。四月に咲くのとくらべると、ちょっと貧相なんだけど」
「わたし、行きます」
「じゃあ、明日。おれ仕事昼間で、三時にはあがれるから」


 次の日の三時、お休みだったわたしとバイトを終えた松井さんは、店の近くのバス停から、四つ目にある神無月公園にいった。
「こっち」
 有料ボートの浮かんでいる、大きな池のすぐそばに、その桜は咲いていた。
 池にむかって地面が張り出しているところに、水面を覗きこむように三本、すこし傾いて木が生えている。
 きれい。
 本物の桜よりは、やっぱりちょっと劣るけど、でも花が薄いピンクのレースみたいで、空に透けてていい感じだ。
「今日、けっこう寒いね」
 わたしたちは、池の周りの低い柵に腰かけて、桜の木を見上げていた。
 木たちも、寒そうだ。
 風に花が細かく震えて、ときおり二三枚の花びらが、はらはらと枝から離れる。
 わたしも、寒い。
 でもお店で感じた肌寒さより、こっちの方がはるかにマシだ。
 松井さんは、缶入りココアをおごってくれた。
 暖ったかい。
「おれには、真由梨ちゃんは、こういう風に見える」
「はっ?」
 なんだなんだ? この人、今すごいこと、いわなかった?
 でも松井さんはそれからずっと、缶入りココアを飲みながら、ただ黙って風に震える桜の木を見上げていた。
 わたしも、何にもしゃべらなかった。
 だんだん日が暮れてきて、空が夕焼けに染まってくる。
 こんなところでボーッとしてるの、何だかバカみたいだけど、でも誰かが黙ってそばにいてくれるなんて、そんなにないことだから、こういうのもいいかもしれない。
「寒いから、いいかげんに帰ろうか」
 柵からおりた松井さんが、わたしに手を差し出した。
 松井さんの暖かい手を握って、わたしも柵から、ポンッと降りる。
「あっ!」
 気がついたら、松井さんの胸の中に抱かれていた。
 唇が触れるだけの、小さなキス。
 とたんに何だか安心しちゃって、身体中の力が抜ける。
 そしたら松井さんの舌が、口の中に入ってきた。
 動きのぎこちない、熱い舌。
「おい……いいのかよ?」
 キスが終わると松井さんは、わたしを抱きしめていった。
 いいのか、どうか?
 そんなこと、わたしにだって、判るわけないじゃない。



第11話


 キスしたからって、即、恋人になるわけじゃない。
 お花見にいった明くる日からも、松井さんとわたしとは、おたがいいつも通りだった。
 ただふたりで店で仕事をしてても、気まずいわけじゃないけれど、なんかその……独特の緊張感っていうのがでてきちゃって、ちょっとおかしな感じだった。
 そのくせ、ほんのふとした拍子に、手や身体の一部が触れ合ってしまう。
 そのたびわたしはドキッとして(きっとそれは、松井さんも同じだと思う)、身体を固くしてしまう。
 気の利いた冗談のでもいえればな、と思うんだれど、今日に限ってダメなのだ。
 困ったような、困らないような、いったいどうしたらいいんだろう。
「なんだか、松井といいムードじゃん」
 その日仕事をあがるとき、バックルームで着替えていたら、入ってきた店長が、後頭部をいきなりたたいた。
 けっこう痛い。
 この人、本気で嫉妬してるの?
 振り返った店長は、笑っていた。
 その笑いは、愉快そうにもみえるけれど、いつもの通り、どこか恐そうにもみえる。
「そんなこと、ないですよぉ」
 わたしも笑ってふりむいたけど、もしかしたらデートしたのがバレたのかもと、顔が引きつる。
 別に、松井さんとなんかあったって、店長にとやかくいわれる筋合いは、ないような、でもあるような……うーん、いったいどっちだろう?
「ねえ、明日、ちょっと早めに出てきてくれない? そう、一時間くらい」
「いいですけど……」
「ね、約束だよ」
 店長は、やっぱりちょっと、恐いのだった。
 うーん。


「おはよう!」
 七時十五分に店についたら、やたら元気な店長が、バックルームで待っていた。
「ともかく、制服きちゃってよ」
 なんだかとっても、うれしそう。
 制服を着はじめると、外への出入口と、店との出入口の、両方の鍵をカチャリと閉めた。
 すっごく、ヤな予感がする。
 今の時間に店にいるのは、タイムカードで名前だけは知ってるけれど、一度も会ったことのない人だ。
 フリーターの人らしくって、名前は……えーと、なんだっけ。
「着終わったら、椅子に座って靴ぬいで」
 店長は、デスクの前に立っている。
 わたしは、いわれた通りにした。
「……キャッ!」
 椅子に座るなり店長は、わたしのパンツをストッキングごと引き降ろした。
 わたしは思わず息を飲みながら、誰にも聞こえないような、かすれた声の悲鳴をあげる。
「何でもするって、いったよね……」
 店長は独り言のようにつぶやきながら、わたしの脚を持ち上げるように開かせて、太ももの裏を、ヒジかけに引っ掛けた。
 あられもない、大股開きにされてしまった。
「……何、するんですか」
「見てればわかる」
 そういうと店長は、ポケットから鮮やかなピンク色をした、プラスチックの細長いタマゴの形をしたものを出した。
 ピンクのタマゴは、わたしのアソコの割れ目に挟みつけられ、クリトリスにぴったりとあてがわれる。
「ダメェ、そんなのぉ……」
「ダメェ、じゃないの」
 わたしのことをまったく無視して、店長はピンクのタマゴを幅の広い白のテープで、アソコにしっかり張付けた。
 そして脚をヒジかけからゆっくりはずすと、パンツとストッキングを、店長自身の手で引き上げる。
「気持ち悪いから、とってください……」
 わたしは、泣きたい気持ちでいった。
「ダメだよぉ。何でもするって、いったでしょ?」
 店長は、わたしの肩を抱き寄せて、耳元でそうささやく。
 わたしは、何でもっと強く「いやだ」といえないのだろう?
 どこかで店長に、松井さんのことが負い目になっているのかしら。
「ときどきスイッチを入れるから、今日は一日楽しんで」
「……あんっ!」
 低い振動が伝わると、アソコにピリピリとするような刺激がして、わたしは思わず小さな声をあげていた。
「……いやぁ」
 甘い刺激を、両手を握ってがまんする。
「だいじょぶだよ。それぐらいのリアクションなら、声を出さなきゃ、外からはわからない。たぶん」
 店長は、目を細めてわたしを見てる。
 その目つきは、まるで犬や猫を見つめる目のようでムッとする。
「あっ、そうそう。おしっこついても、感電なんかしないから」
 わたしはそれに、返事もしないでバックルームを出ていった。
 入れ代わりに、店に出ていた男の人が帰って行く。
 初対面だけど、タイムカードや、その人の仕事の仕方をしっているから、わりと親近感がある。
 むこうも、そう思ってるみたいだった。
 軽く挨拶をかわして、交代。
 店に店員は、わたし一人だ。
「あっ!」
 さっそく、ピンクのタマゴが振動しだす。
 その刺激を、無視しようとしたんだけれど、うまくいかない。
 無視しようとすればするほど、アソコに気持ちがいってしまって、下半身が熱くなる。
 店の中には、立ち読みをしてる男の人と、お菓子を選んでる女のコが、ふたりだけ。
 わたし、外からおかしく見えないかしら。
 チラッチラッとお客さんを観察したが、わたしのことは、気にしてはいないみたい。
 顔が、熱くなる。
 アソコからも、熱い液がトロトロと溢れ出して、もうヒクヒクと動きだしてる。
「いらっしゃいませ」
 お菓子を選んでいた女のコが、レジに来た。
 その瞬間に、タマゴが止まる。
 いやだ、店長、ジュースの棚から覗いてるのかな。
「ありがとうございました」
 タマゴの動きが止まっても、アソコの熱さは引いていかない。
 動いたときは、イヤでイヤでたまらないのに、止まるとけっこう欲求不満だ。
 ああ、いやだ。わたし、変態になっちゃったのかな。


 三時をまわるころには、もうヘトヘト。
 店長はときどき、思い出したようにタマゴを動かし、一分もしないうちにまたスイッチを切ってしまう。
 最初のうちは、身体の方が気持ちを裏切り、もっと刺激を欲しがったけど、そのうちに気持ちの方も、タマゴの動きを待つようになった。
 わたし、もう絶対におかしくなってる。普通じゃない。
 店長に、めちゃくちゃに抱いて欲しいと思ってる。
「おはよう」
 そんなとき、松井さんの声がして、ビクッとしてわたしは振り向く。
「あ、おはようございます」
 あ。
 その途端、アソコに貼りついているタマゴが動く。
 低い振動の音が、松井さんに聞こえていたら、どうしよう。
「どうしたの。なんだか、顔が赤くない?」
「あ、ちょっとわたし、熱っぽくって……」
 うそ、じゃない。
 ああっ……熱っぽいのは確かなことだ。
 原因は、身体の具合じゃないけれど……あっ……。
 ……ああ、でもイヤッ、もうイキそう……と思ったところでタマゴが止まった。
 息が、荒くなってしまう。
「つらいなら、上がらせてもらえば」
「でも、どうせもうすぐ時間だから」
 ニッコリと笑いかけたら、松井さんは照れていた。
 きっと、わたしが松井さんに会うために、無理してるんだと思っているんだ。
 でも今は、店長に奥まで入れられ、めちゃくちゃにかき回されて、それで終わりにしたいと思ってる。
 そんなことを考えてたら、松井さんが、わたしのおでこにスッと手を当ててきた。
「やっぱり、あがりなよ。ずいぶん熱いよ」
「じゃあ、そうします」
 わたしはコクリとうなずき、バックルームに下がっていった。


「おい、どうした?」
 机にむかっていた店長が、ごく普通の顔で話しかけてくる。
 憎たらしい。
 それにしても、今日一日ここにいるなんて、この人もヒマな人だ。
「熱があるみたいだから、今日は上がらせてもらえって」
「熱、あるの?」
「……ない」
 どうしたんだろう。自分ではそんな気ないのに、店長の首に腕を巻きつけて、抱きついている。
「今日、抱いて」
「ええっ、今日はダメだよ。深夜、店に入んなきゃなんないから」  薄笑いして、店長はいう。
「今日じゃなきゃ、イヤ」
「いまここでなら、してあげる」
「ここでなんて、イヤ」
「そうでも、ないだろう」
 店長は、わたしの身体を抱きとると、上半身を机に押しつけて、スカートをめくりあげた。
「……イヤンッ」
 信じられないことだけど、わたしは抵抗らしい抵抗もしないで、店長にされるがままになっている。
 パンツが引き降ろされて、ベルトの金具の音が聞こえると、すぐに中に入れられた。
「ああっ……」
 店長は、早いペースで突き立ててくる。
 ものすごく気持ちよくって、声を出さないようにするのが、たいへんだ。
 RRRRRRRR……。
 そのとき、机の上の電話がなった。
 電話は、机の端のすごく微妙な場所にあって、店長もわたしも、受話器には手が届かない。
 それでも受話器を取ろうと、わたしも店長も、少しずつ身体の位置をずらそうとする。
 九回、十回目のコールで、突然ドアがバタンと開いた。
「店長、電話鳴ってますよ」
 うそ。
 まさか自分が、純ちゃんと同じ目に会うとは。
 電話が、鳴り止んだ。


 松井さんの、顔が引きつる。
「おい、そんなとこに立ってないで、松井も来いよ」
 わたしは、耳をうたがった。
「こいつさあ、しゃぶるのヘタでさ、練習させたいんだ」
 冗談でしょ。
 松井さんは、来ないよね?
 でも、松井さんはゆっくりゆっくり、こちらに向かって歩いてくる。
 そして、机の端から首が飛び出しているわたしの、前に立ってズボンを降ろす。
「だって、お店がカラに……」
 しゃべりかけたら、口の中いっぱいに、松井さんのを頬張らされた。
 と同時に、店長が激しく動く。
 ああわたし、信じられないほど、気持ちいい。
 わたしは、松井さんのモノを、吸い上げる。
 そしてふたりは、ほとんど同時にわたしの中にぶちまけて、わたしもそのとき、思いっきりイッてしまった。



第12話(最終回)


「最近はね、けっこう求人も増えてるんですよ」
 職安の受け付けのオバサンは、パソコンのキーをたたきながらいう。
 まわりを見回すと、茶髪のオニイサンから、頭の薄いおじさんまで、ほんとうにいろいろな人がウロウロしてる。
 職安は、ずいぶん明るい場所なのだ。
 でもみんな、せっぱ詰まった表情だ。
 わたしもきっと、同じ顔をしてるだろう。
 このままじゃ、ダメになっちゃう……そう思ったから、ここへ飛んできたのだもの。
「三ヶ月前は、ぜんぜんなかったみたいですけど」
「新年度でしょう。中途採用もね、それで採るとこ多いのよ。あと、新卒ですぐに辞めちゃう人もいるから、これから三ヶ月くらいは多いわ。そのあとは、ちょっと切れるんだけれども……あら、ここなんかどうかしら」
 オバサンは、パソコンの画面をこちらに向けて微笑んだ。
「会社の規模は小さいけれど、どう?」
 画面には、合田設計事務所とある。
 細かいことも書いてあるけど、だからどんな会社かなんて、わからない。
 わかるのは、前の会社とお給料がそう変わらないことと、家から遠くないことだけだ。
「あ、早く勤めたいので、そんなことはどうでもいいです」
「そう。じゃあ今ちょっと、電話してみるわね」
 オバサンは、パソコンの横の電話をひょいひょいっとかけている。
「……ええ。はい。そうなんですか。じゃ、ちょっと聞いてみますね……あのね、ここの社長さん、今時間があいているから、ちょっと来ないかって」
「あ、行きます。すぐに行くって、いってください」

「あのう……」
 合田設計事務所には、いろんな人が働いていた。
 わたしより五つぐらい上のショートカットの女の人と、完全なオバサンと、あと男の人が三人ほど。
「なんでしょう」
 五歳ぐらい年上の人が、つかつかこっちへやってくる。
 てきぱきした口調すぎて、ちょっとコワイ感じもする。
「職安でいわれて来たんですけど、社長さんいらっしゃいますか」 「社長、職安から女の子です!」
 女の人が振り向いて、奥のドアにむかって叫ぶ。
「入ってもらえ」
 野太い声に、わたしはビビッた。
 奥の部屋へ通されたら、もっとビビッた。
 社長は、スキンヘッドだったのだ。
「はじめにいっとくけど、おれはやくざじゃないから」
 ギャグだろうか。笑ったほうがいいのだろうか?
「はい」
「君が今まで何をしてきたかは、問わない。三ヶ月の試用期間中、やる気があって使えるようならいてもらうし、使えなければ辞めてもらう。それでいいかな?」
「はい」
「いつから来れるの?」
「来月からにしてください。バイト先を辞めてきますから」
「わかった。何か質問は?」
「あの、ここはつぶれないですよね……」
「なんだとぉ!」
「すみません。でも前の会社、朝行ったら、いきなりなくなってたんです」
 スキンヘッドの社長は、お腹をかかえて大笑いをした。
「安心しろ。永久にとはいわないが、十年ぐらいはまあだいじょうぶだ」


 家に帰ってから、TVをつけたまま、ベッドでぼーっと天井を見上げていた。
 ダウンタウンが何かいってるみたいだけれど、ぜんぜん耳に入ってこない。
「店長とは、別れなきゃ」
 口に出してそういってみると、そうしなければならないような気がしてくる。
 決めた。
 もう、何もかもを終わりにするのだ。
 そう思ったとき、電話が鳴った。
「はい……」
「あの、松井ですけど」
「あ、はい……」
「よかったら、今からウチに、来る気ある?」
「いいですけど……」
「そんなに、遠くないんだよ。場所いうから」
 そうだ。この人も、いたんだった。
 どうしよう。わたし、行くっていっちゃた。


「こんばんぁ」
「どうも。あがって」
 松井さんは、どてらを着ていて、とてもよく似合っていた。
 部屋の中にはこたつもあって、松井さんは、こたつにもよく似合っていた。
 バックルームにいたときとは、別人のように温かい雰囲気がある。
「飲む?」
 奥から、缶ビールを出してくれた。
「じゃあ、ちょっとだけ」
 こたつに入って、ふたり沈黙が続く。
「あの」
「あの」
 同時だった。
「真由梨ちゃん、いって」
「あ、わたし、コンビニやめようと思って」
「……おれのことが、あったから?」
「ううん。就職先が見つかったから」
「そっか。真由梨ちゃん、社会人だったもんな」
 松井さんは、わたしがやめるっていったら、がっかりした顔してた。
「ほんと、あの時はゴメン。自分でも信じらんないよ。あやまってすむのかどうかは、わからないけど。でも、あんなことショックだったでしょ。なんていうのか……恋人に身体、貸されちゃって」
「恋人って?」
「……店長」
「あの人は、恋人じゃないの。コンビニのアルバイト代だけじゃ、暮していけないから、『契約』してる。でもじゃあ、ぜんぜん気持ちのつながりがないかっていうと、そうでもなくて、なんていうか、そこんとこ説明しづらいんだけど」
「あ、そうなの」
 松井さんは、のどをそらしてビールを飲み干す。
「もう一本、もってくる」
 そういって、松井さんはたぶんトイレにたった。
 しばらくたって、戻ってくる。
「真由梨ちゃん……」
 うしろから、抱きすくめられた。
「抱いてもいい?」
 わたしは、うなずいた。
「もうおれ、どうかしちゃってる……」
 こたつから身体を出されて、松井さんはわたしのことを、ていねいに脱がしていく。
 キスをして、松井さんは胸に顔をうずめている。
 こどもみたいに、乳首を吸って、ぎこちない指使いで、アソコをさわる。
 すごく気持ちいいわけじゃないけれど、とってもいい感じだった。
「真由梨ちゃん、毛がない……」
「ソラれちゃったから……」
「ひでえな」
 松井さんは、そのあと、そのことにはもう触れなかった。
 スキンをつけて、中に入ってくると、すぐに激しく揺すりはじめる。
 足が触れているのか、こたつがガタガタ鳴った。
 松井さんは、すぐにイった。
 ふたりして、ティッシュでダルそうに始末する。
「あのさ」
「うん?」
「しゃぶってくれない?」
 だまって、あぐらをかくように座った松井さんの、下半身に口をつける。
 終わってスグなのに、もう少し固くなっていた。
 頭の上から、気持ちよさそうなため息が聞こえて、わたしはうれしくって、ゴムくさい松井さんのソレを、奥まで口に含んだ。
「すごくいい……」
 しばらくシャブリ続けると、松井さんは、わたしを上にのせて入れて、下から突き上げるように、揺すぶった。
「あああああ……」
 とても気持ちよくって、泣いてしまった。
 そのままずっと揺さぶられて、アソコがぐじゅぐじゅになって、ぎゅっとちぢんで、わたしは泣きながら、松井さんの上でイッてしまった。
 わたしはその晩、そのまま、松井さんの家に泊まってしまった。
 お布団はせまかったけど、気持ちがとても安らいだ。
 夜明けのころに目を覚ますと、松井さんがわたしの上に乗っていて、そのままもう一回して、アルバイトが早番なので、わたしが先に外へ出た。


「ちょっと、もう一回いって」
 仕事が終わると、わたしは勇気を持って、バックルームで店長に、店を辞める話をした。
「就職先が決まりましたので、アルバイトを辞めたいんです。それから、あの、お付き合いのほうも……」
「なんで」
 店長は思いっきり恐い顔をしていたが、わたしは我慢して、店長の目を見ながらいった。
「このままじゃ、わたし、ダメになるから」
「なんで……つらかったのなら、つらいっていってほしかったのに」
「いえ、別につらくはなかったんです。でも気がついたら、なんかもうこれ以上はダメだなって……」
 店長は泣いていた。
 大人の男の人が泣くところを、わたしははじめて見た。
 胸が痛い。
 わたしは店長のことが、やっぱり好きなのだ。
「たまんないな。別れた女房と、同じこというんだから」
 店長は泣きながら、ちょっとだけ笑っていた。


 新しい仕事は、ものすごく忙しかった。
 書類の整理やらおつかいやら、雑用が山ほどあったし、ひまをみては会社の人が、かわるがわる図面の引き方も教えてもくれたのだ。
 会社が終わると、設計のスクールにもかよった。
 みんなちょっとキツいけれど、いい人ばかりで、毎日が楽しかった。
 でも、結局……。
 わたしは、店長とは別れなかった。
 だって「どうしてもダメか?」っていって、家に来たりしちゃうんだもん。
 当然、もうお金はもらってないけど、会うたびに高いお店とかでおごってくれて……いいけど、ちょっとうんざりしてる。
 そんな思いがしたいから、店長と会うわけじゃないのに、そこんとこ何回いっても、ちっとも聞いちゃあくれないのだ。
 ただコンビニをやめて、しょっちゅう会わなくなってから、この人の濃ゆい愛情が、なんていうのか、けっこう毎日の心の支えになってる。
 あと……松井さんとも付き合いが続いてる。
 休みの日に街をうろついたり、平日に家に泊まりにいったりする。
 松井さんといっしょにいると、とても心がやすらいだ。
 ゆっくりお風呂に入っているみたいに、すごくリラックスできるのだ。
 でも信じられないことに、店長も松井さんも、相手がわたしと付き合ってるのを知っているのだ。
 店長は「その話はするな」という。
 松井さんには「店長とは結婚しないの?」と一度だけ聞かれた。
 わたしは「結婚するなら、松井さんとだよ」といおうとしたが、それはあまりにずうずうしいので「そんなこと、ありえない」とだけ返事をした。
 わたしは「別れるなら、ふたりともと別れなきゃ」と思っている。
 でも今は、とてもそんなことはできない。
 これってやっぱり、いけないことなのかしら。
 いったい、どうしたらいったらいいと思う?
 あ、そうそう。
 万万が一、会社の人と温泉旅行でもいくことがあるかもしれないから、アソコの毛は、もうわたし剃ってないよ。


















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