気持ちいいこと ~乱夢白書~


乱夢子作



第1~4話 第5~8話 第9~12話





第5話


「あっ、いやっ、こんなの恥ずかしい、やだっやだっ!」
 鏡に映っているわたしは、立ったまま脚を大きくがに股に拡げて、うしろから覆い被さってきている、その人のモノを受け入れていた。
 シャワーの滴は、わたしの身体をつたってその人の身体へと、またその逆にも、激しく降り注いでいる。
「……恥ずかしくても、気持ちいいでしょ」
 耳元で囁かれると、思わず小さくうなずいてしまう。
「あ、あああああ……」
 小刻みに腰を揺すられると、身体中が痺れるように気持ちがよくなった。
 そして前に回った手が、アソコの敏感な芽と乳首とを、いっしょにキュッと刺激する。
「だ、だめぇ」
 裏返って、悲鳴みたいな声がでた。
 だって、指もアレも、早く動いて止まらないから。
 あまりに刺激が強くって、身をよじって逃げようとしても、ヒジや腕でしっかり押さえつけられていて、逃げられない。
「あっ、あああん、ん、んんっ……」
 身体中に、電流みたいな強い快感が走り回って、それがちっとも出ていかない。
 苦しくって、逃げたくって、でももっと欲しくって、わたしは自分でも知らないうちに、ぼろぼろ涙をこぼしていた。
「ああっ、あんっ、ああんっ、だめになっちゃうよぉ……」
 泣きながらそういうと、耳元近くでクスクスと笑う声がする。
「じゃあ、もっとしてあげる」
 アレがアソコを、もっと強く突き上げだした。
 もう身体がいうことを聞かずに、こわばって、ぜんぜん動かなくなったみたい。
「あああああーーーっ!」
 アソコの穴がビクビクビクンッと痺れると、自分でも驚くくらいの声が出て、目の前が一瞬まっ白になる。
「いっちゃったかな?」
 身体がだるくて、力がぜんぜん入らない。
 床に座りこんでしまいそうになると、その人は、わたしの身体をバスルームの冷たいタイルに押しつけて、無理矢理立たせた。
「ぼくもイクから、待っててね」
 その人は、わたしのウエストを両腕で思い切りつかむと、めちゃくちゃに腰を振り立てた。
「ああっ、だめっ、壊れちゃうぅ」
 アソコの中が強くこすれて、痛いわけじゃないけれど、これじゃあ刺激が強すぎる。
 でももうわたしはパニックで、何にも考えることができない。
 揺れて、揺すぶられて、噛んでた唇が痛くなったころ、耳元で大きなため息がして、その人はわたしを抱きしめてくれた。


「乾杯!」
 バスルームでのえっちのあと、わたしたちは服を着て、部屋のソファーに座ってビールで乾杯した。
 その人は、コップに並々とついだビールを、おいしそうに飲み干した。
 わたしはあまり飲める方ではないので、ほんの一口だけだ。
「でも、きみはほんとに激しいコだね。こういうこと、けっこう続けてるの?」
「……うーん、今日が三回目なんですけど」
 いやな話だな、と思った。
 どうせわたしたちは、大人と子供だ。
 こういう会話にどういうオチがつくのかは、なんとなくわかってしまう。
 ムカついたけど、相手は『お客さん』だから、顔にださずにニコニコ笑った。
「お金、何に使うの?」
「家賃」
「……家賃って?」
「だから、家賃ですよ」
「ふーん。誰かといっしょに住んでるの」
「一人。親、死んだから。高校もそれでやめちゃったし」
「えっ、それってほんと?」
 相手の人は、ちょっと不愉快そうだった。
 きっと、わたしがウソをついているのだと思ってるのだ。
 心底ムカつく。もう我慢しない。
「なによ。じゃあ、ブランド物のバックが欲しくてとかいえば、満足なわけ? だいたい理由なんて、あんたに関係ないでしょう。もう最低。帰るから、お金ちょうだい」
 思い切りにらんで、立ち上がった。
「いや、ぼくが悪かった。正直いって、そういうヘビィな理由だと、罪悪感がわくからね。ちょっと待ってて」
 その人はうろたえもせず、胸のポケットからサイフを取り出し、一万円札を四枚と名刺を一枚差し出した。
 名刺には、デザイン事務所『コロニー』の代表取締役と書いてある。
「ぼくの名前は、谷口 登(たにぐち のぼる)。よかったら、また来週会ってくれる? できたら、その次の週も。料金は、今日と同じぐらいしか払えないけど」
「えっ、あ、それは、別にかまわないですけど……」
「じゃあ、決まり。ところで、きみの名前は?」
「湯原真由梨」
「いい名前だね。ぼくの会社、できあがったばかりなんだけど……こうやって何もかもが軌道に乗ったら、真由梨ちゃんみたいなかわいいコと付き合いたいって、ずっと前から思ってたんだ」
 谷口さんは立ち上がって、わたしの手をとり、キスをした。
「きみの携帯も教えて」
 さしだされたメモに、携帯番号を書いてわたした。
「ありがとう。じゃあ、ぼくから電話かけてもいいかな」
「はい」
 もう一度、こんどは耳にキスされた。
 はなれるときに、横顔をちらっと盗み見る。
 どうしても、目にするそばから忘れてしまう。
 どうしてだろう。
 谷口さんの、不思議な顔。
「それと……真由梨ちゃんには、彼氏いる?」
「今は、いません」
「そうなの。できればさ、当分えっちは、ぼくとだけにしてくれない?」
「そうですね」
 答えて、ぷっと吹き出してしまった。
 谷口さんは、今は好きでも嫌いでもない。
 これから、好きになっていくのかしら。
 すこし変わった、でも趣味のいいスーツを着た谷口さんのあとから、わたしもいっしょに部屋を出る。
 スーツから樟脳のにおいがしたので、ふと左手を見てみたら、やっぱりちゃんと、薬指には指輪をしていた。


「ウチの店、ロッカーないから。このポールハンガーにコートをかけて、バックは下の網棚に置いて」
「おサイフとかは?」
「レジの脇に小さな手提げ金庫があるから、そこにいれるの」
「あー、そうなんですか」
 この、コンビニの先輩の松井っていう人は、ほんとにまったく無愛想だった。
 茶の髪の毛がサラッとしてて、目も眉毛もビッとしていて悪くはないのに、何かこう、とっても話づらいのだ。
「よっ!」
 そこへ、店長がやってきた。
「松井、ほんとに済まん。あがっていいぞ」
「はい」
 松井さんは首をコキコキ鳴らしながら、タイムカードを押しにいく。
「いやあ、真由梨ちゃんに会いたいもんだから、松井に無理いって、深夜から今まで入ってもらっちゃった。申し訳ない。じゃ、客が来るといけないから、おれ、ちょっと店に出てるね」
 店長はそれだけいうと、バックルームをあとにした。
「あのう」
「何?」
「松井さん、迷惑かけちゃってすみません」
「えっ、何それ。だって、湯原さんのせいじゃないでしょう」
「あ、ええまあ」
「じゃあ、あやまることない。それより制服着て、早く店に出た方がいい」
 そういうと、松井さんは制服を脱いで、帰ってしまった。
 それはたしかに、いう通りだけど。
 ああわたし、どうしても松井さんって、苦手だなあ。



第6話


「んでさ、宅配便はね、一覧表が下にあるから。お客さんに送り状書いてもらってる間に、縦・横・高さをこれで計って金額決めるの。あと、特に重いのは料金が別だから、計るとき、必ずちょっと持ち上げてみてね」
「はーい」
 このコンビニのアルバイトは、けっこう性に合ってたみたいで、わたしは毎日店に行くのが楽しみだった。
 なんといっても、設計事務所の仕事よりぜんぜん楽で責任もないし、お客さんにニコニコするのも、考えてたより気分がいい。
「んじゃ、この表、元に戻して」
 わたしは店長から、ビニールシートにはさまった料金表を受け取って、レジのところのいちばん下の引出に入れようと、身体をぐぐっと折り曲げる。
「あれぇ。真由梨ちゃんって、身体、異様に固くない?」
「ええっ、そんなことないですよぉ」
「ねえ、ちょっと前曲げやってごらん」
 わたしはけっこう悔しくなって、足の爪先に指をつけようと、身体を思いっきり前に曲げてみた。
 指は爪先に、かすりもしない。
「ほれみぃ、固い。おれはちがうぞ」
 店長が前屈すると、手のひら全部が床にくっつく。
「くっ、悔しい~」
「わっはっは、ざまをみろっ。もうこれで、おれのことはオヤジ扱いさせないぞ……んでも真由梨ちゃん、おしりの形がかっこいいね。前屈すると、よくわかる」
 店長の目は、丸眼鏡の奥で糸のように細くなり、垂れ下がる。
「やだあ、店長ったらセクハラオヤジ。いくら身体が柔らかくても、心はりっぱなオヤジじゃないですか」
「えーっ、男だったら誰だって……」
「若いコはね、思ってたっていいません」
「ちぇっ」
 こんなふうに店長は楽しい人だし、気の合わないと思っていた松井さんも、とっつきにくいけど、細かい所まで仕事を教えてくれるいい人だった。
 でも……というか、やはりというか。
 そうそう何もかも、いいことばかりないみたい。
 もうひとつの『アルバイト』の方が、実はけっこうしんどくなってきたのだ。


「あっ……ああんっ、真由梨、気持ちいい……」
 クチュッ、クチュッと小さな音が、シーツの隙間から聞こえて来る。
 谷口さんの右の手が、わたしのアソコをぴったり塞いで、やさしく揉みこむ。
 あの、デザイン事務所の社長をしている谷口さんとは、今夜で会うのが四回目になる。
 谷口さんはやさしいし、えっちの前には、すごい料理もおごってくれる。
 いや、そんなことより「大人の女の扱い」をしてくるのが、とってもうれしい。
 エレーベーターやタクシーとかに乗るときは、必ずレディファーストだし…
…だからといって、いつもデレデレ甘やかすのともまた違う。
 例えばわたしが「アルバイト先で、ちょっと合わない人がいてぇ……」なんて言い出したなら、「そんな話は聞きたくない」ってとたんに顔に現われる。
 とても微妙なバランスを、気をつけながら、とってくれるのだ。
 わたしもそれに答えたいって、会うたびいつも思ってる。
 でも、なのに。
「真由梨ちゃん、自然にしてて、いいんだよ」
 ささやく声が、甘くやさしい。
 そう。谷口さんは、やさしい人。
 抱かれていると、とろんと眠くなるくらい。
「もう、来て……」
 わたしも耳に、ささやきかける。
 もう、いいの。別に感じなくったって。
 谷口さんに入れてもらうと、とても幸せになるんだもん。
「……それが、ちょっとダメなんだ」
「えっ?」
 谷口さんが、身体を離した。
 お腹や胸に、エアコンの乾いた風が吹きぬける。
「ごめんね。もう、終わりにしよう。ちょっと服着てくれないかな」
 谷口さんは、寂しそうに笑っている。
 わたしは黙ってうなずいて、いうとおりに服を着た。
「正直にいう。最近、仕事が忙しすぎて、いつもイライラしてるんだ。きみと会っても、集中できない。それにその……」
 谷口さんは、定期入れから写真を出した。
 三つぐらいのかわいい女の子と、きれいな……たぶん奥さんだろう人が、写ってる。
「きみと会うとさ、どうしても、子供のことを考える。そうすると、何でこんなことしてるんだろうって、思えてくる。きみだって、まだ子供じゃないか。自分がさ、最低のヤツに思えてね……」
 それは不思議な、ながめだった。
 男の人が、こんな大人の男の人が泣くところ、わたしは見るのがはじめてだった。
 泣いている、谷口さんが、ぼやけてく。
 ああ、わたしも泣いてるんだと、人ごとのように考えた。
「……谷口さんの、そういうところ、大好きです」
 わたしは谷口さんにすりよって、ひざに置かれた手をにぎり、しばらく泣いた。
 ふたりで、ただ黙って泣いた。
 それでとてもおかしなことに、ひどく幸せな気分になれたのだ。
「それでその、これはとっても、言いにくいんだけど……」
 谷口さんは、テーブルの上のティッシュをとって、わたしの涙もぬぐっていった。
「あのさ、その、大学時代の友人で……きみに興味があるヤツがいて……」
「はっ?」
「人に勝手にしゃっべたことは、謝るよ。ほんとにごめん。たださ、こういう……援助交際っていうやつは おそらくきみも、止められないでしょ。そしたらさ、いつヤクザにひっかかるとも限らないし。だから……よかったら、そいつのことを、紹介させてくれないかな……なんて思ってさ」
 わたしはとっても驚いて、そしてそのあと安心した。
 たしかにわたしは、この先しばらく、こういうことはやめられない。
 谷口さんの友達ならば、きっといい人だろうと思うし。
「……そうですね。それならわたしも、助かります」
「ごめんね、真由梨ちゃん」
 谷口さんは、おでこにチュッとキスしてくれた。
 そのときはじめて奥さんのことが、とってもとっても妬けてきた。


 一週間後、いわれた通りに、ある中華料理店にやってきた。
 中華料理のお店なのに、そこはちっともケバくなくって、とても高級そうだった。
 一人で入るのに、勇気がいった。
「あの、谷口さんは、どこでしょう?」
「こちらになります」
 チャイナドレスをきれいに着こなした女の人に、店の奥まで案内される。
 そこは、小さな部屋になってるらしい。
 ドアの向こうから、声が聞こえる。
「……いやあ、店に入った女の子でサ、やっぱ似たような境遇のコが、いるのよこれ。かわいいコでさ、仕事もまじめでよく気がつくし……やせてるのにね、ムネとかシリとかりっぱでさ、そういうコだと、おれうれしいな……」
 いやな予感。
 最悪の答えが、頭の中を駆け抜ける。
 いや、まさか。
 でもやっぱり……なんといっても、声が似ている。
「お連れ様が、つきました」
「アーーーーーッ!」
 丸眼鏡で、髪がふわふわパーマの人が、椅子から立ち上がって叫んでいる。
 そう。事態は最悪だった。
「……店長」
 ああ、何もかもおしまいだ。
 わたしは二つのアルバイト先を、今日一日で、失くしちゃうのだ。



第7話


 谷口さんと店長は、美大時代の悪友らしい。
 三人の前にある中華料理店の丸い卓の上には、海老のチリソース炒めやホタテの煮物や牛肉の煮込みが、とろりと光ってきれいだった。
 店長の顔を見るなり、いそいで逃げ出そうとしたのだが、どういうわけだか二人とも、ダッシュで走って来て、わたしのことを引き止めたのだ。
 店長はひっきりなしに老酒を開けていて、もうすっかりグデングデン。
「結婚するのもさぁ、会社を興すのもさぁ、おれが両方先にやって、両方先に失敗したわけでさあ……」
 まるで自分の話じゃないみたいに、店長は昔話をする。
「おい、先にっていうけどね、おれはおまえみたいに失敗しないぞ、両方ともな」
 谷口さんもけっこう飲んで、もうだいぶ顔が赤かった。
「そうね、そうだね。でも、若い彼女はおまえが先で、やっぱ失敗しただろう? おれは今度は、うまくやるから」
 あれ、店長、わたしと付き合うつもりなの?
 そんな二人の会話を聞きながら、食はちっとも進まずに……なんてわけはなくて、エビもホタテも牛肉も、みっともないほどガツガツしながら食べている。

「じゃあ、おれは先に帰るよ。あとの話は、二人で決めて」
 杏仁豆腐が出てきたころ、谷口さんがふいにに立ち上がって、伝票をとった。

「おい、おれが払うって」
 すかさず店長が、不機嫌そうな声でいう。
「いいの。真由梨ちゃんに、最後のごちそうしたいから」
 谷口さんが伝票をヒラヒラさせながらそういったとたん、わたしはひどく悲しく、そして心細くなってしまった。
「いろいろと……どうもありがとうございました」
「いやいや、ぼくの方こそ、感謝してるよ」
 谷口さんは軽く、ほんの少しだけ寂しげに笑って、早足で部屋を出ていった。

 とたんに部屋が、寒々しくなる。
 でも視線を感じて、つっと振り向くと……店長が、恐い顔をして座っていた。

 いや、無表情なだけなのだが、それがほんとに恐いのだ。
 特に、丸い眼鏡の下の目のあたり。
 店長って、こんな恐い顔できたんだ。
「ホテル行こう」
「えっ?」
「おれじゃ、イヤなの?」
「あの、いえ、そんな……」
「じゃあ、行こう」
 店長が、すばやく立ってツカツカこっちへ歩いてくる。
 わたしは、いきなり抱きしめられた。
「おれ、前から、あなたとやってみたかった」
 髪の中に手を入れられ、頭をつかまれ、キスされる。
 長い舌で、わたしの舌はからめとられて、だんだん息ができなくなる。
 店長のことが、なおさら恐くなってきた。
 そして恐いと感じたとたん、まるでおもらししたみたいに、アソコから液がジュンッと垂れてくるのがわかった。
 一度くちびるが離されて、もう一回キスされる。
 店長の手が、蠍みたいに這いだして、スカートのすそに入りこむ。
 パンツの上から、アソコを強くつかまれた。
「すごいなこれ。もう、準備OKなわけ?」
 そんなことをいわれたけれど、ひどいめまいがして、もう、何も答えることができなかった。


 タクシーに乗り、シティホテルに入ってからも、店長はほとんど口をきかなかった。
 昇っていくエレベーターの中で、わたしは窒息しそうな気分。
 部屋にたどり着くまでも、廊下をとっても長く感じた。
「風呂、いっしょに入ろう」
 部屋に入ったとたん、店長はそういって上着やズボンを脱ぎはじめた。
「あ……はい」
 わたしは答えて、店長がシャツとパンツだけになるのを待ってから、おもむろに服を脱ぎはじめる。
 万一先に脱ぎ終えちゃったら、そりゃああまりに恥ずかしすぎる。
「おいで」
 店長は裸になっても、ぜんぜん恥ずかしくなさそうだった。
 アレなんか、もうぶらぶらしないで、まっすぐこっちを向いている。
 胸とアソコをおさえて立ってたわたしの手首をつかむと、引っ立てるようにシャワールームへ大股に歩いていく。
 コックをひねり、シャワーの温度を確かめると、それをいきなりこっちへ浴びせかけてきた。
「彼氏、いるの?」
「今は、いません……」
 シャワーの水圧が強い。こんなふうに質問されると、何だか拷問されてるみたい。
「じゃあ……お金、上乗せするからさ、ひとつお願いがあるんだけれど」
「なんですか?」
「それはね……」
 店長はいいかけるなり、シャワーを放って、わたしに飛びかかってくる。
「ひっ」
 抱きとめられ、腕の中でくるりと回され、小さい子供におしっこさせるみたいに、太ももを持たれて抱き上げられた。
 店長はわたしを抱きかかえながら、二三歩バスルームを歩く。
「やっ、いやあっ」
 正面にある細めの長い鏡には、両脚を拡げ、パックリ丸見えにさせられている、わたしの姿が映っていた。
「ここをね、全部剃っちゃいたいの。真由梨ちゃんがね、気紛れでも、他の男とやらないように」
「いやですっ!」
「なんで」
「だって、そんなの恥ずかしすぎるっ」
「すぐに終わるよ。でもさ、女の子って、顔とアソコが似るらしいけど、真由梨ちゃんはどう思う?」
 店長はわたしを鏡に近づいて、太ももを抱えた手を広げ、皮膚を攣らせて、なおさらアソコが広がるようにしむけている。
 わたしはなるべく見ないようにしてたけど、身をよじるたび、どうしても目に入ってしまう。
 ウワサには聞いていたけど、何ともいえずにグロテスクだ。
「それともあれか、ここにやっぱり他のヤツのを入れたいわけか」
「……そんな、ちがう」
「なあ、いいだろう? おれ、一度でいいからやってみたい」
 甘えたようにいうけれど、店長は、こんなに長くわたしを抱えて、ぜんぜん平気でいるらしい。
 圧倒的な力というのは、やっぱりすごく、恐いものだ。
 出しっぱなしのシャワーの音が、やけに耳についてくる。
 わたしはだんだん……何ていうのか、恐がったり悩んだりするのに疲れてしまって、とうとうコクリとうなずいてしまった。
「よし、決まり! 真由梨ちゃん、ありがとうっ」
 店長はそっと、わたしを降ろす。
「ちょっと、がまんね」
「あんっ」
 わたしはぴったり、壁に背中をくっつけられて、冷たさに小さく悲鳴をあげる。
「脚はMの字っていうのは、お約束だよなあ……」
 脚は、ひどい形に拡げられた。
「はい、じっとしててね」
 ボディソープを泡立てられて、アソコのモシャモシャの上に、円を描くように塗られていく。
「……いやっ」
 カミソリは、冷たくなんかなかったけれど、それでも刃物の感触は、わたしをとっても緊張させた。
 音はしない。けどゾリゾリという感触が、柔らかな肉の丘を伝うのが、はっきりわかる。
「動かないでね。ここは、ちょっとむずかしい」
 カミソリが、おしりの穴の方へ向かって進んでいく。
 入り組んだ場所に、カミソリが当たる。
 ソコに顔を近づけられてて、わたしは思いっきり恥ずかしかった。
「ほら、できた」
 出しっぱなしのシャワーでアソコをきれいに流すと、店長はわたしをひょいと抱き上げて、もう一回鏡の前で、さっきと同じかっこうにした。
「もういいですっ」
 それでもわたしは、ちらっとだけ見てしまった。
 アソコの毛の剃られたわたしは、アンバランスに若返り、一部分だけ子供みたいで、ちょっと痛々しいほどだ。
 やがてわたしは降ろされて、店長に抱きしめられた。
「おれここに、自分の名前を書いちゃおうかな?」
 店長は、顎をつかんでキスしようとした。
 キスする前に笑顔になった店長を見て「あっこの人、二人っきりになってから、はじめて笑った」とわたしは思った。



第8話


 店長はわたしのことを、バスタオルで……耳の裏側から乳房の下側、アソコから足の指の間まで……よく拭いてから、ひょいと(いや実際は、けっこう重そうだったかも)抱きかかえて、ベッドの上に放り出した。
「きゃあっ、乱暴!」
「いっただっきまーす」
 ダイビングするように、ベッドに飛びこんでくる。
 激しくきしむ、ベッド。
 両頬を挟みこまれての、強引なキス。
 剃り上げられたアソコの方に、手がじわじわと伸びてきて、ぷくぷくした肉の合わせ目に、指がつるりと入っていく。
「じゃあ、もうだいじょうぶみたいだから、最初から入れちゃおう」
 店長は身体をおこすと、太ももをこじ開けるように開かせて、アレをアソコにあてがって、いきなりぐいっと進入してくる。
「あっ!」
 脳天までズンッと響くような快感が、身体の奥まで突き刺さる。
 店長のアレは、ほんの二十センチほども、身体の中に入っていないはずなのに、心臓のすぐ下まで、アレが入ってるように思える。  店長が、アソコの敏感な芽をいじくりまわす。
「あっあっ、ソコはダメっ」
「んん? 何よ、ソコじゃあ判らないよ。何がダメなの?」
「あああああ、ソコ、なんていうのか知らない……」
「マジで?」
「ほんと……」
 店長は、プッと吹き出す。
「あのね。ここはね、クリトリスっていうんだよ」
「あ、ああんっ、そんなにいじっちゃ……」
「そう。じゃあ、いってこらん」
「えっ、店長、ああ……クリ……トリス」
「よくいえました。それとおれのことは名前で呼んで」
「細見さん?」
「俊哉でいい」
「呼び捨てって、なんか……あんっ」
 店長が、クリトリスをキュッとつまんだ。
 奥まで入れられてるところが、じんじんと痺れるようによくなってくる。
 背中を丸めた店長が(どうしても、俊哉っていうの、なじめない)、チュクッと音をさせて、乳首の先に吸いついた。
 ああ、もうアソコの奥が、ジュクジュクって熱くなって、腰が勝手にモソモソしちゃう。
「あっ、あっ、あああんっ、ああ……」
「気持ちよさそうな顔して、コイツ」
 店長が、人差し指と中指二本で、ほっぺたをなでるようにたたく。
 そして、もう一度胸を吸われた。
「んっ、んっ、ね、もうしてっ、してよぉ……」
 自分でも、何をいってるのか、もうわからない。
 アソコから、熱い液がとろりと勝手に降りてくる。
「しょうがないな……」
 店長は、わたしの背中に両腕を回して、ギュッとキツく抱きしめると、むちゃくちゃに早く腰を使った。
「あうっ、あ、ああっ……」
 息が止まる。こういうのって、どんな絶叫マシーンより、絶対に興奮するとわたしは思う。
 アソコの奥が、キーンと熱い。
 そこにはきっと、グジュグジュのアメーバみたいな生き物が、たぶんピクピク痙攣してて、そいつがキュッと、縮こまって固まるときに、わたしもイクんだと思う。
 ああでも、男の人に、こうして抱きしめられるのって、いい。
 このままシュワッと、消えてしまいたい。
 店長は、眼鏡をとると、顔がすこし地味になる。
 そういうところも、けっこう悪くないと……と思いかけたとき。
 身体がグジャリとよじれるような感じがして、そのままトロトロ、アソコから熱い液を出しながら、ほんとにふいに、イッてしまった。


 終わったあとで店長は、お金をくれて、タクシーを呼び、わたしを一人で家に帰した。
「送っていって、家とか、はっきりここってわかったら、おれ、きっと入り浸っちゃう」
 ということだそうだ。
 A.M 1:00。
 中華料理屋にいったのが、六時半ごろだったから、もう六時間以上たっている。
 夜のタクシーの窓ガラスは、何でも映す。
 不思議とこれっぽっちも、うしろめたくなんてなかった。
 その前の人までは、何だかすこし、気の引けるとこがあったんだけど、どうしてだろう、店長が相手だと、ぜんぜん悪いという気がしない。
 でもそれは相手のせいじゃ、ぜんぜんなくって、ただ単にわたしが馴れただけかもしれない。


「おはようございます」
「おはよう」
 大学生バイトの松井さんは、相変わらず愛想のない挨拶だ。
 でもそんな、いつもと変わらないぶっきらぼうさが、ちょっとわたしを安心させる。
 やってきた『焼き立てパン』の並べ方を、ていねいに教えてくれるところなんか、やっぱりうれしい。
 店長のこと、ぜんぜん悪いという気はしないけど、この人といっしょにいると、ちょっと心が痛くなる。
「あのさ、店長のことだけど……」
「はっ?」
 あぶないあぶない。
 耳まで赤くなりそうになって、あわてて「だいじょぶ、だいじょぶ」と、平静を装うのには、苦労した。
「……なんか、いいにくいけど、あの人ね、たまにお店の女の子に、いいよるみたいで……」
「はあ……」
「いや、それは別にどうこういう気はないし、店長は基本的にいい人だしね。でも……それで辞めちゃうコも、いるんだ」
「ええ……」
「だからその、気をつけてね。あの、真由梨ちゃんには、辞めてほしくないからさ」
「はい……」
「……うん。また他のコに一から教えるの、たいへんだしね」
 そういった松井さんの方が、耳まで赤くなっている。
 なんだかね、素直にうれしい。
 ちょっと最近、悪いと思わないまでも、普通じゃないとは、思うようになってたから。
 松井さんの普通さが、今のわたしには、とてもまぶしく感じられる。
「あ、おはよう」
 そこへ店長がやってきた。
「松井、あがって。おつかれさん」
 ちょっとバツが悪いのか、松井さんはひょこっと頭を下げただけで、そそくさとバックルームに消えてしまった。
「……なんだよ。松井、真由梨ちゃんに迫ってなかった? ちょっと様子がおかしいぜ、あいつ」
 うわあ、こわい。
 店長って、けっこうするどい。
「別に、何でもないですよ」
「なら、いいけど。でもあいつ、真由梨のココのこと知ったら、どんな顔、するんだろう」
 そういって店長は、カウンターで外からは隠れている、わたしのアソコをジトッと触った。
「……やめてください」
 キッとにらんだつもりなのに、店長はニタニタしている。
「いらっしゃいませ」
 同じ年くらいの女の子。
 今日は高校、休みなのかな。
 それとも、さぼってるのかしら。
 あ、ちょっとヘン。まっすぐこっちへやってくる。
「あのぉ、バイト募集の貼り紙、見たんですけど」
 細いコだなあ。
 それに顔が小さくて、顔立ちがはっきりしてる、今時の女の子。
「んじゃあ、こっちに来てくれる?」
 店長は、そのコのことを、バックルームにつれていった。
 いいなあ。
 ああいうコと、いっしょに仕事がしたいなあ。
 だってわたし、同じ年のコがそばにいること、最近ぜんぜんなかったんだもん。



つづく














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