■第01話
「んっ……は……んむっ……」

 相手の口へ舌をねじ込み、隅々に行き渡るように深くしつこく舐め回す。
 逃げる舌を追いかけ、絡めるようにして舐め上げる。舌が這うのに合わせて身体がビクビクと跳ね、漏れ出る唾液の絡まる音に高揚した感情がさらに煽られ上気していく。
 雄也は梨恵の身体を抱き締めて離さない。初めこそ雄也を押しのけようとしていた梨恵だったが、その手からは徐々に力が抜けていき最後にはだらんと宙に投げ出された。
 その反応に、雄也は我に返って口を離す。

「……梨恵?」

 放課後の図書室――。
 窓から夕日が差し込む中、本棚に押し付けられた梨恵は力なく雄也を見上げた。丸くて潤んだ奇麗な瞳、赤らんで上気した頬、艶のある唇から漏れる吐息――そのどれもが、雄也の情欲を掻き立てる。
 ふっと湧いた罪悪感に躊躇った雄也が、ゴクリと生唾を飲んだ。

「学校……だよ、ここ……」
「ぁ……その……ゴメン」

 目を伏せ、そう呟いた梨恵の言葉が胸に刺さる。しまった――雄也はいたたまれなくなって、つい目をそらしてしまった。
 ただでさえ静かな図書室が、一層静かになった気がした。



**********



 遡ること30分――。

「はぁ……」

 週単位で持ちまわってくる放課後の図書室業務で、図書委員である雄也と梨恵はカウンターに並んで座っていた。基本的には貸し出し作業と本の在庫管理だが、試験前ですらないこの時期に図書室の利用者は稀で、特にやることのない雄也はこっそりため息をこぼした。
 本の状態保存を考慮して空調は整っている。だから環境は良いのだが――いかんせん、そういうものを求める時期でもない。

 パラ――。

 隣に目をやると、梨恵は一人黙々と読書にふけっていた。
 整った顔立ち、さらりと流れる薄茶色の長髪、華奢な肢体――色白でほっそりした指先で本のページをめくる彼女の所作に、思わず見とれる。

(俺たち、付き合ってるん……だよなぁ……?)

 読書好きな――を通り越してジャンキーに近い――梨恵との付き合いは、共に図書委員を続けるうちに親密になった。
 梨恵は外見が良く、その上大人しくて優しい良物件。雄也自身不釣合いに思う相手だ。しかし、「静かに読書ができない」上に「今は興味がない」とのことで言い寄る男をことごとく拒絶し、結果として雄也が付き合うに至ったというから、世の中分からないものだ。
 デートといえば本屋や図書館、良くて漫画喫茶がギリギリそれっぽいが――付き合い始めて3ヶ月、未だにフレンチキスが精々の雄也は、いまいち実感の持てない今の関係に悩んでいた。
 雄也は大人しいから読書の邪魔にはならない。彼氏がいるとなれば、言い寄ってくる男もいなくなる――雄也が受け入れられたのは、結局のところそんな理由ではないかと不安になってしまった。
 そんな性格の娘ではないと分かってはいるのだが――。

「――ふぅっ」

 梨恵が一息ついて、パタンと本を閉じた。読了したときの癖みたいなものらしく、その表情は満足げだ。
「今日中に読み終える本」の山のてっぺんに積み重ね、それらをまとめて持ち上げる。
 たしかその10数冊の山は昨日借りたはずだが――どうやら全部読み終えたらしい。

「んしょ……と」
「手伝うよ」
「ん、ありがと」

 1度に全部運ぼうとする彼女から半分取り上げて、二人で本棚へと向かう。
 梨恵はだいたい同じ系統のものをまとめて借りるので、棚に戻すのに時間はかからない。早々に片付けて手ぶらになった梨恵は、次借りるものの物色を始めていた。

「何読もっかなー。雄也くん、お勧めある?」
「オススメなぁー……」

 特にそんなものは思いつかず、嬉々として本を選ぶ梨恵をぼんやりと眺める。
 本にしか興味がないのかな――そう考えていると、無意識に梨恵の背後に近づいていた。

「よしっ、これで――ひっ!?」

 持ち帰る本を選びぬいた梨恵が振り返ったタイミングで、肩を掴んで本棚に押し付けていた。小さな悲鳴と共に、バサバサと抱えていた本が落ちる。

「あ、ちょ……っ! ……雄也くん?」

 本が落ちたことにだろう。一瞬ムッとした梨恵だったが、無言で真っ直ぐ見つめてくる雄也に目を丸くした。
 何かを察したのか、やや躊躇ってから梨恵は目を閉じて唇を突き出した。心がチクリと痛んだが、それでも受け入れてくれるのだと、その事実に雄也は嬉しくなった。
 雄也はおずおずと、自身の唇を梨恵のそれに重ね――ほんの数秒、唇が触れ合うだけの軽いキスだった。

「もう……本が落ちちゃったじゃない」

 少しふて腐れながらも怒ってはいなさそうな梨恵に、雄也の胸がキュ――と締まる。気がついたらガッと梨恵の身体を抱き締めていて――

「へっ!? ゆ、雄也く……んむっ!」

 タガの外れた雄也は、気付けば梨恵の唇に貪りついていた。



■第02話
「え……と」

 気まずさのあまり、何と言っていいか分からない。気の利いた言葉ひとつかけられないまま、雄也は抱き締めていた手をするりと引き抜く。

「……っ」

 離れきる前に、逆に梨恵が顔をうずめてきた。
 雄也の胸に頭を押し付けるようにして、背中に回された手でぎゅう、と抱き締められる。彼女の柔らかい身体の感触に、雄也の鼓動が早くなった。と同時に、密着したことで彼女の身体の震えがダイレクトに伝わってきた。
――まさか、泣いている……?

「り、梨恵……?」
「ん……」
「ど、どうかした……?」
「……てる……のにっ……」

 震える身体。震える声。
 雄也の不安が大きくなった。
 やっぱり、やりすぎたんだ。嫌われたかも――と。

「ダメ……なの……こんな、ところでっ……」
「……ごめん」

 今にも壊れそうな彼女の言葉に、力ない謝罪で応える。
 その謝罪に、梨恵はふるふると首を振る。

「こんなことしちゃダメだって……分かってる、けど……」
「……?」
「でも、嬉しくて……」
「え…………嫌だったんじゃ?」

 予想外の言葉に雄也が聞き返すと、またもふるふると首を振る梨恵。思わず、抱き締め返していた。

「雄也くん、いつも優しいから……それが好きなところだけど、でも……たまにはって……」
「うん……」
「だからっ……」
「……っ」

 ぐい、と顔を上げた梨恵と目が合った。涙で潤んだ瞳が、もっと――と、訴えかけてくる。
 一瞬、躊躇って――けれど、本能は押さえられなかった。人生で二回目の、ディープキス。

「ん……むぅ……はっ……」

 唾液を吸い、舌を舐め上げ――初めはされるがままだった梨恵も、おずおずと応戦してきた。そこからは激しかった。
 唾液を、舌を――吸って、押し込んで、絡めて、互いに互いを貪りあう。
 ぴちゃぴちゃと、じゅるじゅると、液体をすすり合う音が漏れ出し、その音が二人のボルテージを高めていく。

「む……んふっ!」

 梨恵のくぐもった嬌声を合図に、二人はゆっくりと顔を離した。つつ、と唇同士を繋ぐ糸が伸びて、ぷつんと切れる。
 息が荒いまましばらく見つめ合って――梨恵が膝から崩れ落ちた。「だ、大丈夫!?」雄也は支えながらうろたえる。

「ご……ごめん、大丈夫。ちから抜けちゃった。……その、気持ち良くて」
「……そ、そう」

 頬を上気させ、えへへと笑う梨恵。それを見て、雄也も胸を撫で下ろした。本が散らばった床にへたり込み、顔を真っ赤にしたまま二人で笑いあう。
 思いのほか気力を使ったのか、力の抜けた笑いは長くは続かず沈黙が降りる。
「んしょ……と」梨恵の隣に座り、抱き寄せた。ほんのり甘い香りが鼻にくすぐったい。

「「…………」」
「梨恵……」
「ぇと……ここ、学校だよ……?」
「あー、その……」
「…………ううん、うそ。私も……同じ気持ち、だから」

 梨恵は雄也をじっと見つめて――生唾を飲み込んだ後、こくんと頷いて見せた。



■第03話
 おずおずと、雄也は手を伸ばす。
 服の上から包み込むように、そっと梨恵の胸に触れた。

「あっ……」

 ビク、となって梨恵が小さな声を漏らした。その反応に心配になって、梨恵の顔色をうかがう。

「だ、だいじょうぶっ」

 顔を真っ赤にして、答える梨恵。
 恥ずかしくて、けれど嬉しくて。そんな感情が体温とともに伝わってきて、雄也の胸が高鳴った。好き放題に弄り倒したい――そんな欲求をぐっと抑える。

「じゃあ……続ける、ね」

 小さく頷いたのを同意と見て、胸にあてがった手を揉みこんでいく。
 柔らかい――服の上からなので多少ゴワつくが、それが雄也の感想だった。梨恵の胸が大きいのか小さいのか、経験のない雄也にはいまいち分からなかったが――見てる限りでは、小さくはないはずだ。

「どう?」
「……んっ……うん……」

 胸を揉むかたわら、抱き寄せた手で梨恵の腕をそっとさすり続ける。たまに震える梨恵を励ますつもりで――「大丈夫だよ」と伝えるつもりで。
 そのまましばらく、梨恵の反応を見ながらタイミングをうかがう。

「ね、雄也……」
「ん?」
「好きにして……いいよ」
「……え、でも」
「ふふ……もう。じゃあ、お願い。雄也の好きにしてほしいな」
「……っ」

 まったく、何なのだろう。こんな可愛いことを言われたら――本当に、好きで好きでたまらなくなってしまうじゃないか。いや、元からそうなのだが。
 ともかくも感情が高ぶって、胸がきゅうと締め付けられる。一人だったら悶えていただろう。

「こ、後悔すんなよなっ」

 そう虚勢を張って、梨恵の制服のボタンを外していく。前開きのブラウスが全開になり、可愛らしいブラが顔を見せた。
 まずはあらわになっている部分――わき腹からお腹、胸へと手を這わせて、柔らかい肌の感触と体温を感じとる。同時に、反対の手を腰からブラウスの中に差し込み、ブラのホックに指をかけた。

「あ、待って……はい、どうぞ?」

――なかなかホックが外れないのに気付いた梨恵が、自ら外してくれた。若干嬉しそうにしているのは何故だろうか。
 やや釈然としないものを感じながらも、緩んだブラの隙間から覗く桃色の突起に視線が奪われていた。えぇいやってやる。いろんな思考を振り払って、雄也はその突起へと手を伸ばした。
 滑らかな肌と体温の感触が加わって、柔らかな胸を揉みほぐすと共に自身の股間にも熱がこもる。

「ぁ……はぁ……っん」

 普段聞かない梨恵の生々しい嬌声。雄也もここまで抑えてきた性欲が爆発しそうだった。
 そっと触るようにしていた先ほどとは異なり、少々荒く、時に突起を弾くようにして堪能する。

「あんっ」

 先端を強めに摘むと、梨恵の身体が小さく跳ねた。あの梨恵が感じている――ニヤリと口の端を歪ませて、空いた手をスカートへと持っていく。
 弱々しく閉じ合わせようとした足を優しく払い、膝からその付け根へとなぞるように侵食していく。スカートの裾がめくれ上がり、ブラと同じ色のショーツが見えてくる。そして、秘部と思しき場所に指を這わせ――。

「ひ、ぁん! ぁむっ……ふっ、ん……」

 一際大きな嬌声が図書室に響いた。その声には梨恵自身も驚いたようで、慌てて手で口を抑える。
 今は誰もいないが、だからといっていつ誰が来るとも知れない場所だ。分かっていて行為に及ぶのもどうかとは思うが、今さらやめられない。

「声……潜めててな」
「ん、うん……」

 忠告だけしてショーツに手をかけ、梨恵が腰を浮かせてくれたタイミングでするりと脱がしてしまう。
 一糸纏わぬ秘部があらわになり、雄也はゴクリと生唾を飲んだ。



■第04話
「足、開いて?」
「うん……けど、その、優しくしてね?」

 ゆっくり足を開きながら懇願する梨恵に、「努力するよ」とだけ返して秘部に指をあてがった。
 熱気をまとった割れ目に指を這わせ、くりんとした小さな塊を探し当てて優しく転がす。

「ひぁっ……んっ……」
「そうそう、口塞いでてね」
「……っ……ふっ……ん……」

 一層激しく身体を震わせ、声を潜めて尚くぐもった嬌声が漏れる。
 腕の中で跳ねる梨恵の反応をもっと見たくて、敏感な秘核を執拗に責め立てた。
 なぞり上げ、回すように転がし、そして強めに押し込む。その度に身体が跳ねて、どんどん息が荒くなる梨恵の反応を愉しむ。

「……んむっ……や、ちょ……んんぅぅっ……」
「どう?」
「はっ……はぁっ……はぁ……うん、気持ちい……」

 一際ガクガクと震えたところで手を休め、梨恵の息が整うのを待つ。気付いたらぎゅっと服を握られていて、少し皺になっていた。
 頃合を見て、再び秘部へと手を伸ばす。今度は中への入り口に指をあてがい、ぬるりとした液体をすくいあげる。指の第一関節までを入れて抜いてを繰り返し、溢れる愛液をかき出していく。

「はぁぁ……」
「すっごい濡れてるよ。感じてるんだね」
「あぁ……だって、だってぇ……」

 耐え切れなくなったのか、髪を振りしきって梨恵が胸にしがみついてきた。
 途端に体勢が変わって、秘部から指が離れてしまった。少し残念に思いながら、しかし梨恵の背中をさすってよしよしとなだめる。

「梨恵、このまま最後まで……いい?」
「…………」

 静かにこくり、と。
 無言の合意に、雄也は「よし」と心の中でガッツポーズをとった。ベルトを外し、痛いほど怒張した一物がこぼれる。
 ここまで張っていると、前戯の必要も感じられない。
 はやるように梨恵に覆い被さろうとしたところで、「これ」と梨恵に何かを手渡された。コンドーム――忘れていた。

「あ……ごめん。ていうか持ち歩いてたの?」
「えと、そのほうが良いって本に……」
「そ、そう」

――何の本? とは聞かないでおこう。
 気が変わらないうちに、気分が萎えないうちに。準備を済ませて、先端を梨恵の秘部にあてがった。愛液を塗りつけるようにして、滑りを確認する。

「……じゃあ、いくよ」
「ん、ゆっくり……ね」

 頷いて答え、雄也は少しずつ自身の半身をうずめていく。先端が徐々に梨恵の体内に飲み込まれていくにつれ、滑りと圧力がダイレクトに伝わってきてゾクゾクする。

「っく……い……た……っ!」
「大丈夫?」
「う、ん……そのまま……きて」
「……うん」

 お互い初めて同士なのは分かっている。
 心配で躊躇しながらも、そう言ってくれる梨恵を信じて奥へと進める。何より、あまり我慢できない。
 少しずつ、少しずつ。梨恵の反応を注意深く観察する。

「……ん……あくっ……うぅ……う……」
「全部、入ったよ」
「うん……。ね、雄也くん……ちょっとでいいから、ぎゅってして」

 苦悶の表情を浮かべる梨恵を腕で包み込み、しばし二人は繋がったまま抱き合った。



■第05話
「じゃ……動かすよ」
「うん……ん……はっ……」

 身体を動かし始めると、梨恵は口をピタリと閉じた。それでも抑え切れなかった喘ぎが漏れ出していて、雄也の興奮を高めてくれる。
 下手に大きな声を出せば見つかるかもしれない――その事実があるからだろう。しかしその背徳感は、二人の情欲に混ざってさらなる興奮をもたらしていた。

「あんっ……む、ぅん……んっ、ふぅ……っん」

 慣れてきたのか、梨恵の喘ぎにも熱がこもってきた。
 結合部もこなれてきて、熱い体温を感じながら入れて抜いてを繰り返す。熱い締め付けと、ぬるりとした何ともいえない感覚――これにストロークが加わって、雄也の性感を強く刺激する。
 感じすぎるのか、しがみ付くようにすがってきた梨恵に支配欲が満たされ、自然と身体の動きが激しくなっていく。

「んうっ! あ……はぁっ……ん、あぁ……待っ……!!」
「……しっ。誰か居る」
「!?」

 突然雄也は腰の動きを止めて、声を潜めた。聞き耳を立ててみれば、確かに廊下を談笑しながら歩く生徒がいることが分かる。
 梨恵も気付いたようで、肩で息をしながらも極力声が漏れないようにしている。
 声の主は2~3人。このまま図書室の前を通り過ぎてくれれば良いが、中に来られると見つかるかもしれない。一応本棚の陰にいるので、しばらくは大丈夫だろうが――どうなるかは、その時次第だ。
 もちろん見つかれば、破滅は免れない。

――でも、動いてみたい。

 そんな状況下にも関わらず、怯えた梨恵の表情に嗜虐心がくすぐられる。
 未だに発散できないでいる射精の欲求に、梨恵を乱れさせてみたいという欲求。いくつもの感情がないまぜになって、雄也の身体を突き動かした。

「……へ!? ちょ……ゆ、雄也く……ん……っ!」
「ごめん梨恵。もう我慢できない……!」

 それだけ言って、雄也は腰の動きを早めていく。
 できるだけ音を立てないようにはしているが、それでもネチネチと粘り気のある水音が漏れ出ている。
 梨恵は顔をうずめるようにしてしがみつき、必死に声を抑えているが――荒い息遣いまでは抑え切れていない。バレたくない一心で歯を食いしばる梨恵が健気で可愛らしくて、雄也の感情が一気に昂ぶってくる。

「くっ……梨恵……!」
「は……くっ……ん、んぅ……! ダ……メ、も、声……がっ……」
「はぁはぁっ……! このまま、イクよ……!」
「まっ……て、ダメ、見つか……ダメ……えぇっ。く――あぁ……っ!」

 声を出さないように、叫ばないように。
 我慢すればするほど上り詰めていく梨恵を、雄也は強く抱き締める。
 それでも、腰の動きは止まらない。最後の仕上げとばかりに動きを早め、二人は最後の瞬間へと迫っていく――。

「はっ……はぁ……イク……! 出すよ――っ!」
「ダメダメダメ……や、ん、あぁ――っ……~~~~~っ!!!」

――その瞬間ビクン、ビクンと身体を震わせ、二人して歯を食いしばり、声にならない絶叫を上げていた。
 頭の中が真っ白で現実感が希薄になっていく中、互いを存在を確認するように強く抱き締め合う。この人は自分のものだと、自分はこの人のものだと、主張し確認し合う。

「はぁ……はぁ……梨恵……」
「ん……はぁ……雄也くん……」

 図書室の前を通り過ぎていく誰かの足音を遠巻きに聞きながら、軽いキスを交わした。どうやら、危機は脱したらしい。

「ふふ……」

 疲れた笑みをこぼしながら、二人はそのまま、力なく抱き合った。



**********



「別に……エッチするの、ダメじゃないよ……?」
「へ? そうなの?」

 息も落ち着き、服を着直した二人の話題が「どうして急に?」となるのは自然な流れだった。
 気恥ずかしい想いもあって言葉を濁したかった雄也だが、ここまでやっておいてそれはないだろうと思い直し、結局白状した。
 だから梨恵のこの返事は意外だったのと同時に、かなり嬉しかった。

「うん、雄也くんとなら……。あ……でもたまに、だよ? 本読みたいし」
「う……ん、そう」

 嬉しいやら悲しいやら、そこで本が出てくるかと雄也からは微妙なため息がでる。

「ま、まぁ次はちゃんとベッドでやろうな。今日のは我ながらいきなりすぎたし」
「ふふ、そだね。……あ、でも、やりたいこととかあったら言ってね? 男の子はそういうのあるって、見たことあるから……」
「あ、あぁ……うん、ありがと」

――だから何の本かと。
 先が思いやられるやら、梨恵の健気さにほだされるやら、雄也は静かに笑みをこぼした。
 梨恵も続いて、ほのかに笑う。
 心のつかえが取れた二人の顔は晴れ晴れとしていた。



Fin

















作者:紫月さんのHP 『Playing Archives』


露出・羞恥をテーマとしたオリジナル小説。
女性が徐々に追い詰められていく……そんな展開がお好きな方には絶対お薦め。

















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