時代SM連載小説
『牢獄の美姉弟』
~捕われの志乃と菊乃助の屈辱の日々~
作者:縄吉及びShyrock(リレー小説)





第37話「菖蒲の咲く頃」

 離れまで進む途中両手をひろげ利定たちの進入を阻止しようとする侍が現れた。
 進十朗の配下で若党の宇田川友之助である。

「たとえお奉行様でございましても、家老邸を土足で踏み込むような真似はおやめください!」

 鉄乃進が前に進み出て対応する。

「このお方をどなたと心得えますか。本日はお奉行様ではなく、旗本松平利定様が江戸表代理人として参上仕りました。お控えなされ!」

 旗本と聞き竦みあがる宇田川友之助は一歩下がると、その場で地面に膝をつき深々とこうべを垂れた。

「面目次第もございません! ひらにご容赦くださいませ!」
「気にするな。さあ、行くぞ」

 さらりと躱したのは利定であった。

☯☯☯ 

 利定たちは離れの表に集結した。
 外の異変に気づいた進十朗は急いで着物だけを肩にかけ内玄関に向かった。

「誰だ!?」
「松平利定が参上つかまつった。表玄関を開けてくだされ」
「奉行か。奉行が私に何の用だ?」
「本日は奉行にあらず。徳川家旗本松平利定が江戸表代理人として参った。殿殺害の嫌疑にて貴殿を吟味致す! 早々に表に出られい!」
「な、なにっ!!」

 進十朗はあわてふためきそのまま扉の内側でへたり込んでしまった。
 利定の配下が内玄関から入り表玄関の扉を開放し松平利定たちが一気になだれ込んだ。

「私は何も知らんぞ!」
「弁明はのちに聴く。進十朗を捕らえろ」

 うずくまっている進十朗に早速縄をかける。

「末永志乃と末永菊乃助の二人はいずこにおる?」 
「志乃は奥の部屋にいる……。菊之助は屋敷内の牢屋だ……」

 あられもない姿で後手に緊縛され布団に横たわっている志乃が発見されたのは、それからまもなくのことであった。
 すぐに縄は解かれ、裸体に羽織がかけられた。

 利定が志乃にそっと問いかけた。

「私は奉行の松平利定じゃ。そなたが末永謙信殿のご息女の志乃殿か?」
「はい、末永志乃にございます」
「ひどい目におうたな。怪我はないか」
「うううっ……お奉行様……大丈夫です……お助けいただきありがとうございます……」
「そなたのお父上が江戸表に宛てた直訴状を読んだぞ。黒崎親子の悪事やそなたの危機は鉄乃進から聞いた。鉄乃進の働きに感謝するがよい」
「鉄乃進様、何とお礼を申せばよいやら」
「水臭いことを申すな。幼少からの仲ではないか」
「して、鉄乃進様、菊之助は無事でございましょうか?」
「菊之助殿は屋敷内に閉じ込められているようです。今、お奉行様のお付きの方が救出に向かっておられます。それからお父上も必ずお救いしますのでご安心ください」
「ありがとうございます!よろしくお頼み申します」

 利定は自身の危険を顧みず身を挺して家老黒崎大善たちの企てを暴いた末永謙信の勇気を褒め称えた。

「そのように申してくださると、父もきっと喜ぶでしょう」

 その後しばらくして末永謙信と菊之助が無事に救出された。

☯☯☯

 沢辺藩主殺害事件が地方奉行の手限仕置権(てぎりしおきけん)を超えると判断される重大事件であったことから、松平利定は江戸に赴き老中と協議を行ない、最終的に将軍の決裁を待った。
 その結果、黒崎大善・斬首刑、黒崎進十朗・切腹、沢辺ゆきの(奥方)・遠島、梅安・斬首刑、(以下は沢辺藩奉行所にて裁定)笹川勝蔵・手鎖十日間、辰蔵・手鎖十日間、お松・お咎めなし、お米・お咎めなし、という裁定が下された。
 なお、志乃を助けかくまった農家のお里、吉助、お婆さん一家には、褒美として金五両と米十俵が贈られた。

 また、新たな沢辺藩主として沢辺義信の実弟である沢辺源之丞が後を継ぐこととなり、家老に松平利定、奉行に末永謙信の昇格が決定した。
 それから一年後、菖蒲の咲く頃、宮本鉄乃進と志乃の祝言が執り行われた。






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