時代SM連載小説 『牢獄の美姉弟』 ~捕われの志乃と菊乃助の屈辱の日々~ 作者:縄吉及びShyrock(リレー小説) |
第24話「戸板大の字縛り」
土間のほうで人の気配がした。
「やめろ、辰蔵。水責めなど無駄だ」
突然現れたのは、家老黒崎大善の嫡男黒崎進十朗であった。
「これはこれは、進十朗様。これは異なことをおっしゃいますね。お父上から夜明けまでに必ず白状させるようにと厳命を受けておりますが」
「たわけ。おぬしは二人が末永謙信の子であることを忘れたわけではあるまいな。末永の子ならばたとえ身を引き裂かれても口を割らぬわ。水責めなど無駄じゃ。すぐにやめい!」
「へい、分かりやした」
「もっと頭を使え、頭を」
「へい、すみません。おい、てめえたち、水責めをやめるんだ」
「近う寄れ」
「へい……」
進十朗が辰蔵を呼び寄せ耳打ちをしている。
辰蔵は数回うなずくと、ニヤニヤとしながら手下に小声でなにやら指示をした。
「進十朗様、どうして私たちをこんなひどい目に遭わせるのですか」
志乃が口惜しそうな表情で進十朗に抗議をした。
「ほほう、志乃どのではござらぬか。日頃口も聞いてくれぬ志乃どのが、いきなり全裸で現れるとは驚きました」
「よくもそんな白々しいことを……すべてあなたかお父上の命令による所業であることは明らかです」
「ほほう、そこまで言うならはっきりと言って差し上げましょう。あなたの父上である末永謙信が、わが父が奥方様と共謀し大殿に薬を盛り殺害せしめたと虚言をかたり切腹を迫ったこと。さらにその虚言をしたためた密書を江戸表に届けようとしておるとのこと。たとえ志乃どのであっても断じて許さぬぞ」
「虚言ではありません。真実です」
「まだ言うか!」
進十朗が血相を変え怒りをあらわにした。
「おい、辰蔵、すぐに取り掛かれ」
「へい」
辰蔵が合図すると部屋の中央に縦六尺横幅三尺ほどの戸板が運び込まれた。
戸板の四隅には棒杭が打ち込まれている。
辰蔵が志乃の顔を覗き込んだ。
「お嬢さんよ、その戸板の上に仰向けで寝な」
「何をするつもりですか!?」
「へへへ、おさなごのようにしてやるよ、楽しみにしてな」
「……!? 妙なことはやめてください!」
「おい、てめえら、お嬢さんを戸板に寝かせてやりな!」
「許してください!」
「姉上に手を出すな! 貴様たち許さぬぞ!」
菊乃助がわめき散らす。
辰蔵が顔を顰めた。
「うるさい小僧だな。おい、小僧に猿轡を噛ませてやれ!」
「へい!」
「やめろ!」
菊之助の口に手拭いの猿轡が噛まされてしまった。
「うぐうぐうぐ……!」
菊之助の口を封じた手下はふたたび志乃の戸板縛りにとりかかった。
「やめてください!」
「じたばたするなって」「大人しくしてな」
手下の男たちが脚をばたつかせる志乃の周囲を取り囲み無理やり押さえ込む。
懸命の抗いも空しく、志乃は戸板の上に寝かされ、四肢を大の字に伸ばした姿で仰向けに縛りつけられてしまった。
「や、やめてください!」
志乃の美しい瞳に怯えが走る。
何をされるのか 先程の辰蔵の言葉でおおよその想像がつく。
辱めを逃れるため舌を噛んで自害をしたくても、使命を果たすまではそれが許されない。
何が何でも生きのびて江戸表に密書を届けなければならないのだ。
しかし姉弟揃って捕縛されてしまった今、どうすればよいのだろうか。
そんなことを想い巡らせていると、お松とお米が道具一式を盆にのせて運んできた。
盆にのっているのは一本の剃刀と糠袋(ぬかぶくろ)である。
剃刀を目にして志乃の表情が強張った。
お松が志乃に語りかける。
「びくつかなくてもいいよ、あんたを切り刻もうというわけじゃないんだから。これから下の毛を剃らせてもらうだけだよ。今よりもっと若くなるから喜んで。それにしてもあんた、色白だしきれいな身体をしているじゃないか。女の私が見ても惚れ惚れするよ」
お松はそんなことをつぶやきながら水分を含んだ糠袋で陰毛とその周辺を拭っている。
剃り落とした陰毛を受けるために手拭が敷かれ準備は万端だ。
この頃すでに石鹸は存在していたが大変な貴重品で、手にすることができるのは将軍や大名などに限られていた。
そのため一般庶民が使用するのは糠と相場が決まっていた。
。
志乃としては戸板に大の字型に縛りつけられ、大勢の前で剃毛されることは死にたいほどの屈辱であった。
「おや、震えているのかい? うふふ」
「……」
志乃はお松と会話を交わす気持ちになれなかった。
大人の女になった証ともいえる陰毛を削ぎ落される悲しみに堪えるのに必死であった。
一方、進十朗や辰蔵たちは腕組みをしながら、志乃を童女のような姿にできる悦びに淫靡な笑みを浮かべている。
剃刀の冷たい刃先が肌に押し当てられると志乃は裸体をブルブルと震わせる。
「あまり震えると切っちまうよ。お武家さんの娘さんでもやっぱり恐いんだね」
「恐くなんかありません」
「ふん、口だけは一人前だね。素直に恐いといえばかわいらしいのにさ」
お松がふっくらとした大陰唇の肉をギュッとつねった。
「いたいっ……」
「ふん、口ごたえはしないほうが身のためだよ」
「……」
お松が剃毛を押す進め、陰毛が削ぎ落されていくと、志乃は嗚咽の声を洩らし始めた。
「毛がなくなることがそんなに悲しいのかい?」
「いいえ、違います。憎き相手に捕らわれてしまったことが悲しいのです」
「なんだと……憎き相手だと?」
淫靡な笑みを浮かべていた進十朗の表情が突然一変した。