時代SM連載小説 『牢獄の美姉弟』 ~捕われの志乃と菊乃助の屈辱の日々~ 作者:縄吉及びShyrock(リレー小説) |
第2話「捕えられた菊乃助」
夜が明け、二人は街道を江戸へと急いでいた。
その頃、志乃と菊乃助が家にいないことがわかり、追っ手が編成され藩を出た。追っ手を率いるのは家老の一人息子黒崎進十朗であった。進十朗は志乃に惚れていた。家老から志乃へ嫁の話が何度もあったが志乃は頑なに断っていた。志乃には好きな人がいたのだ。沢辺藩の家臣で宮本鉄乃進という幼なじみの若者であった。
追っ手は腕の立つ数十人の家臣で編成され用心棒の浪人も数人混じっていた。
それだけではない、志乃達が行く先々へ用意していたのであろう賞金付の似顔絵が貼られた。
もはや二人は天下の追われ者になっていた。
夜も寝ず歩き続けた二人も疲労には勝てなかった。
「姉上、もうこれ以上歩けません、どこかで休ませて下さい」
「ああ、そうね、歩き続けだからねぇ、ごめん、じゃああそこの神社の裏あたりで一休みしましょう」
「はい、姉上」
二人は小さな神社のお堂の裏に隠れるように腰を下ろした。
「菊乃助、まだ先は長いのよ、大丈夫?」
「大丈夫です、姉上、それより姉上こそ……」
「私は大丈夫、剣術で慣らした足腰は菊乃助、あなたには負けないわよ、ホッホッホ」
「そうですね、姉上は男勝りですからね、このままでは嫁に行けなくなりますよ」
「なにを言うの、私だって女らしい所もあるのよ、宮本様がこの間褒めてくれたわ」
「姉上は宮本様に嫁に行くのですか」
「そのつもりだけど、宮本様次第ね」
「姉上、今回江戸へ行くことは宮本様は知っているのですか」
「出てくる前に手紙を書いて置いてきたから今頃見ていると思うわ、あっ、静かに、誰か来る」
神社の参道を数人の男達がなにやら話しながら近づいて来る。二人はお堂の床下にもぐりこんだ。
「賞金三百両だってよ、すげぇな、そろそろこの辺を通るらしいぜ、みすみす逃せねぇな、武家娘とガキらしいから簡単なもんだぜ、でもあの似顔絵の女いい女だぜ、早く会ってみてぇな、見逃すんじゃねぇぞ」
「大丈夫だよ、こちらには先生方もいるし、道の向こう側にも見張りを立てておいたから」
用心棒の浪人も二人つれてきているらしい。
「賞金は生け捕りじゃないと出ないらしいから、先生方くれぐれも殺さないでくださいね」
「わかってるよ、心配するな」
床下で聞いていた二人は男達の会話に自分達に賞金までかけられていることがわかった。これから先々宿に泊まることも茶屋によることもできないのだ。二人はこみ上げてくる絶望感と必死に戦っていた。
男達は地元のヤクザらしい。襟に笹川一家と染められている。
男達は境内に座り込んだ。このままでは志乃達も動くことができないのだ。しかし、ここで時間を費やしているわけにはいかないのだ。志乃は悩んだ。
その時、突然菊乃助がくしゃみをしてしまったのだ。
「おっ、誰かいるぜ」と男達が素早く立ち上がってお堂の方に目を向けた。
「姉上、ごめんなさい」
「いいの、こうなりゃ腕づくで突破するしかないわ、菊乃助、私から離れないのよ」と志乃は床下から出た。
「おっ、こいつらだ、似顔絵の二人、逃がすんじゃねぇぞ」と男達は二人を取り囲んだ。
志乃は小太刀を抜いて構えた。菊乃助も刀を抜いて構えた。
先生といっていた用心棒の浪人が志乃の前に立ち刀を抜いた。
「おんな、お前、できるな、しかし容赦しないぜ」と浪人の刀が宙を切って火花が散った。浪人二人は志乃の方ができると見抜き「おんなは俺達にまかせろ、お前達はそのガキを捕まえろ」と志乃に向かってきた。
「女にしてはなかなかできる、フッフッフ、しかし俺達の相手じゃねぇ、覚悟しろ」と志乃をじりじりと追い詰めていく。もはや志乃の後ろは小高い崖になっていた。
その時「先生方、小僧はひっ捕らえたぜ」という声が聞こえた。志乃はハッとした瞬間足を滑らし崖下へと滑り落ちていった。
「姉上!逃げて下さい、私のことは気にしないで逃げて下さい」という菊乃助の声が轟いた。
志乃は足首をくじき、このままでは戦うことはできないと思い、二人でこのまま捕えられるよりは菊乃助が言うとおりこの場は自分だけでも逃げ切ろうと這うようにして必死に逃げた。
浪人たちが崖下に来たときには志乃の姿は見えなくなっていた。
「畜生、あの女、……でも大丈夫だ、このガキを必ず救いに来る。その時ヒッ捕まえてやるさ、心配するな」
菊乃助は後ろ手に厳重に縛られた。
「おい、小僧、お前は大事な人質だ、絶対逃がさねぇからな、ほら、さっさと歩け」と菊乃助は縄尻を持たれ参道の階段を追い立てられていった。