後編(7)


「朔羅が起きるまで待つか…」

ったく、牛鬼なんかに関わるんじゃなかった。そもそも朔羅に関わったのが問題だったのか?

(けど…)

今更かもしれない。俺から声をかけたあの日から、俺達の運命は決まっていたのかもしれない。

*---

少女にしか見えなかった朔羅は、あの頃はしょっちゅう寝込んでいたっけ。
よく遊びにいってたはずなのに、俺は五歳くらいまでこいつの存在を知らなかった。
病弱で、人見知りが激しくて、霊感がとても強い、寂しがりやの従兄弟。

小さな女の子だと思った俺の、初恋だった。
無口な朔羅を外に初めて連れ出した時、朔羅は浮遊霊を集めてしまってすごく苦しんでいた。
親父に怒られるより、朔羅の息苦しそうな瞳がつらかった。
だけど、俺がそんな風にしてしまったのに。

…………また、遊びにこい…

初めて聞いた朔羅の声を、俺は今でも忘れない。
苦しいのを堪えて、消えそうな声でそう、言ってくれた。

野郎だと知ったのは小学校に上がるときで、俺の初恋は無残に散った訳だが…。

(叶ってるのか? 初恋…)

いやいや。体だけだし。男同士だし。
ものほんの女の子だったら…性格我慢して付き合ってたかも。

眠る朔羅を見るのは久しぶりで。俺はこんな状況なのに笑っていた。
少なくとも、兄弟みたいには楽しくやってるんだから…まぁ、いいか。って。

*---

朝日が昇る。
風が、少し冷たかった。

こんな辺境地で始発に乗ろうとしてるのは、俺達くらいのものだろう。
朝日が眩しい。朔羅はあの後体の汚れだけ軽く拭い、さっさと民宿に戻った。俺の上着を勝手に着て、だ。

「…普通起こすだろっ」

うっかり寝てしまった俺を放置したのは、八つ当たりか照れ隠しか…どっちも微妙だ。
ただなんとも情けない恰好で民宿まで戻った俺への出迎えは、「バーカ」という冷たい朔羅のにやけ顔だったわけで。
始発分の金は何故か朔羅が差し出してきて、何とか帰れることにはなったけど。
持ってるならさっさと帰りたかった…牛鬼なんかの相手しないでっ!

「…朔羅」
「…。」

電車を待つ横顔は少し虚で、乾いた風の中でも濡れた薄い唇が少し震えている。
まだ眠いのか、けだるそうだ。

「…あんま馬鹿なことさせるなよ?」

そういうと、やっと瞳だけこちらを向いてくる。そして不意に唇をひらいた。

「…お前の運命ってやつさ。その馬鹿なことがな」
「運命…?」
「今じゃなくても必ずいつかは当たる。だからいいんだよ」

時々言う朔羅のよくわからない言葉に、俺はいつもはぐらかされる。けど結局は、まぁいいかと諦めて同じことをするんだろうな。
やってくる列車を見つめながら、俺達は東京行の列車にのった。
着いたらきっとしこたまみんなにどやされるだろうと、俺は大きめの溜息をついたけど、多分朔羅には聞こえなかっただろう。






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