第1話

 いざとなると複雑だ。
 こうなることは学校説明会や受験者向けのパンフレットでも言われていた。受験前から事前に知っていたことなので、自分では覚悟を固めているつもりがあった。
 だけど、本番を前にして緊張がぐっと高まり、今になって後悔の気持ちが沸いてしまう。
 ああ、どうしてこんな学校を選んだのだろう。
 と、心のどこかで思わずにはいられない。

 裸の写真を撮られるからだ。

 私は小さい頃から絵が好きで、幼稚園の頃なんかはクレヨンで何枚もの画用紙を使い、幼児の落書きを繰り返してきた。小学生になると鉛筆や絵の具を使ったり、色々な画材を経験しながら少しずつ上達する。漫画のキャラクターを模写していき、あるいは物や風景をデッサンや絵画の形で絵に収め、着実に画力を高めていった。
 ――すごく上手! 将来は漫画家?
 そんなことをクラスメイトや先生達によく言われた。
 大人の場合は冗談めかして言う場合が多かったり、尋ねるような口調であったり、本気で人を漫画家に仕立て上げようとはしていない。しかし、友達からは割りに本気で漫画家になるべきだと思われていた。
 中学の美術部ではコンクールで賞を取り、表彰式にだって出席した。
 ――いや、画家でしょ。
 ――デザイナーじゃない?
 そういうことも言われてきたが、別に何でも構わない。
 私はまだ、絵を描くことによってどんな仕事をしたいのかは決まっていない。本当に漫画を描くのか、あるいは芸術家でも目指してみるか。どこぞでデザイナーを務めるのか。一口に絵を仕事にするといっても、その種類は様々だ。
 具体的な将来の夢は決まっていない。
 だけど、私は絵を仕事にする。これだけは決定事項だ。
 だからこそ高校も美術学校を選択し、デッサンなどで画力を審査するような受験を通して現在の学校に合格した。
 そこまではいい。
 問題は今だ。
 事前にそういう事を実施しているのはわかっていたし、その上でも、実績や進学率なんかを考えて、この学校に来る意義は大きいと思っていた。
 だけど、それでも緊張する。
 時間をかけて覚悟を決め、この日のために心の準備を続けていた。
 ちょっと脱ぐだけ、大丈夫、すぐに終わる。
 そういう言葉を何度も何度も心の中で唱え続け、精神的な今日への備えは万全にしたつもりでいた。
 下着だって、なるべく恥ずかしくないように柄物は避け、地味な純白を身に着けている。
 だというのに……。

 私は恥ずかしくて死にそうだ。

 この学校ではヌードデッサンや裸婦画などのモデルを生徒の中から選出する。少しでも美しい体を審査するため、入学した生徒は必ず全裸撮影を行うのだ。写真を見ながら教員同士で審議を行い、すぐれた肉体の持ち主をヌード担当者に決める仕組みになっている。
 これは男女平等らしい。
 撮影自体は男子だろうと女子であろうと行われるが、それぞれ個別に呼び出され、個室でカメラマンと一緒になるため、女の子は不安と緊張で押し潰される。
 目的はわかっているし、何もエッチをされるわけではない。
 外部からモデルを呼ぶための予算を削減し、少しでも絵の授業へ費やす意味があるのは理解しているが、どんなに頭でわかっていようと羞恥心や緊張感は決して消えない。むしろ理由が用意されていることで束縛され、拒否することも逃げ出すことも許されない、逆らえない命令を受けるような強制感が私の肩に圧し掛かる。
 カメラマンとそのアシスタントは二人とも男なのだ。
 しかも、個室の出入り口を見張るかのようにして、二人の男性教師が戸の両脇に立って険しい表情で私を見ている。女の子が途中で逃げ出さないための見張りだそうだが、やや皺のある顔つきが厳格な空気を漂わせ、厳しくて怖い先生という印象を与えてくる。
 男の人数は合計四人。
 こんな環境の中へ私は撮影のために呼び出され、さっそく指示を受けたのだ。

「それでは全ての衣服を脱いで全裸になり、直立不動で背筋をピンと伸ばしなさい」

 ――と、
 生真面目かつ厳しい口調で教師に言われ、さっと体がこわばった。事前に脱いだ状態でカメラの前にでるのではなく、つまり少しずつ素肌を曝け出していく瞬間を四人の男に見られなくてはいけないのだ。
 体が震える。
 心臓が激しく鼓動し、鼓膜の内側がうるいほどに胸が鳴る。
 ――脱ぐあいだだけ向こうを向いてもらえませんか?
 と、言ってみたい。
 けれど、カメラマンもアシスタントも真剣な面持ちで私が脱ぐのを待っていて、二人の教師も厳しい顔でこちらを見ている。余計な口を開けば怒られるか、注意されるかしそうな気がして、とてもでないがそんな要求はできなかった。
 なので、私は脱ぎ始める。
 首に巻かれたリボンを引き抜き、ブレザーを畳んで脱衣カゴへ置くまではいい。ワイシャツ姿になる程度で抵抗も何もありはしないが、しかし、ここから先は肌が露出されていく。この場で改めて決心を固め直す必要があった。


第2話

 ――あ、そうだ。靴下。
 靴下を脱ごう。
 そう思いついた私はニーソックスを足から引っ張り、片方ずつ脱ぎ、裸足で床をぺったり踏んだ。ひんやりとした冷たさが床に伝わり、背筋がゾクっとしてしまう。
 あとは肌を出すだけだ。
 ――大丈夫。下着だって選んできた。
 純白の無地を身につけているのだ。特別な柄はなく、ショーツの手前にリボンが付いていることもない。正真正銘の単なる白だ。真新しいのでおりものの跡もついていない。見せたところで問題のない普通の下着だ。
 なので、思い切ってワイシャツのボタンを外し始める。
 一つ、二つ。
 険しい視線を感じながら、首元から胸元にかけてを外気に晒す。
 三つ、四つ。
 ブラジャーが見えてくる。
 目の前のカメラマンとアシスタントは既に私の下着を凝視しているのだろうか。いやらしい顔つきはしていない。ただ純粋に仕事をこなそうと被写体の準備を待つだけで、卑猥で不快な目つきをしているわけではないが、それでも胸元を観察されている気がしてならない。
 本当に胸を見ているのか、それとも私が意識しているだけなのか。
 わからない。
 とにかく、ワイシャツに閉じ込めていた肌を少しずつ解放し、自分自身の手で露出面積を増やしていくのは、なんともいえない心もとなさというものがある。まるで自ら階段を下りていき、低い立場へ身を投じているような嫌な心地だ。
 ボタンを一つ外すだけでも、この嫌な心地に対する抵抗感をその都度押しのけなくてはいけない。
 それも、男に裸を撮られるために精神的に頑張るのだ。
 わざわざ身を落とす努力をしているかと思うと泣けてくる。
 外したボタンの数は今、いくつか。
 もう数えるのはやめてしまったが、私の手はブラジャーの位置を通過して、今はみぞおちから腹部へかけてのボタンを外し始めている。未だワイシャツの布が乳房の山に垂れかかっているとはいえ、山の狭間はとっくに見えてしまっていた。
 ヘソが出て、お腹周りは丸出しだ。
 ここまで見られてしまっていれば関係ない。お腹は恥ずかしい部位ではない。残りのボタンを取り去り、最後の一つを外すことに途中から抵抗はなくなっていたが、本当に問題なのはボタンを外し終わったあとなのだ。
 ここでワイシャツを脱いでしまえば、上半身はブラジャーだけになる。
 確実に全裸へ一歩近づくこの瞬間にこそ、自分の立場を低めるような例の嫌な心地、それに対する抵抗感が強く生じて、それが服を脱ぐための私の手を鈍らせる。
 それでも脱ぐのだ。
 私はまず、両肩をそれぞれ剥き出す。
 露出面積は一気に広がり、後ろに立つ教師からはブラジャー付きの背中が見えていることになる。視姦されているのかいないのか。振り向かずにわかることではないのだが、背中を出して男が背後に立っているという状況だけでも、熱い視線愛撫を感じ取るには十分だった。
 ワイシャツの裾から腕を抜き出すと、いよいよ上は本当にブラジャーのみ。
 緊張が一段階強まった。
 このまま脱いだワイシャツを畳み、脱衣カゴへ置いてしまえば、次に脱ぐのはスカートということになる。まるでステップを移行する手続きのように思えて、今度は畳んだ服を片付けるというちょっとした動作に対して抵抗が生まれた。
 抵抗感との戦いだ。
 私は抵抗を押し退く気持ちでワイシャツをカゴへ片付け、スカートを脱ぐというステップへ移り進む。
 ――大丈夫、大丈夫。
 深呼吸をして、息を整え、まずは腰横にあるホックを外す。
 外すと同時にゴムが緩み、脱げやすくなってしまって、私はドキッとして慌てかけた。ただ家で着替えるだけなら意識すらしないことでも、視線に囲まれていると些細なことさえ気にかかる。
 ドクン、ドクン。
 私の胸で心臓が鳴っている。鼓膜の内側からそれが聞こえる。
 ドクン、ドクン。
 自分の緊張を耳で聞きながら、すーっと息を吐いてからジッパーを下げる。
 これで太ももとパンツの一部がちらりと覗ける状態だ。
 そして、手を離す。
 バサッ、
 と、スカートは床へ落ち、私の足元でいびつな円形を成す。
 いよいよ下着姿になった私は、安全圏から放り出された気持ちに襲われた。今までは制服が盾となって私の体を隠してくれたが、残る防壁はたったの二枚。これを失えば全てが曝け出されてしまうのだ。
 スカートを折り畳み、脱衣カゴへ。
 いよいよ、下着を脱ぐステップへ映った事になる。大切な部分を守る防壁を自らの手で手放さなくてはいけないのだ。
 私は両手を背中へやり、ホックを外してブラジャーを緩める。いきなりポロリと落ちないように片腕で前をガードしながら、肩紐を一本ずつ順番に横へ下ろした。
 私の顔はきっと赤い。
 恥じらいながら肩紐を下げる瞬間は、カメラマンとアシスタントの目には一体どのように映っただろう。ガードを固めたまま脱ぐなんて、それはそれで官能的演出を凝らしてしまったのではないかと気づき、どちらにせよ気恥ずかしい思いがした。
 顔が染まる。体内を巡る血流が上へ集まり、頬がじわじわ変色する。
 私はいきなり胸を見せないために、腕で乳房を隠したまま、隙間から引き抜くような形でブラジャーを引き抜いた。
 私は片腕によるガードを崩さないまま、もう片方の手でショーツを脱ぐ。指先をゴムに絡めてゆっくり引き下げ、お尻に強い視線を感じた。


第3話

 背後の教師二人の位置なら、私のお尻がよく見えるはずなのだ。脱ぐためには腰をやや折り曲げる必要があるため、後ろへ突き出す形になって、ますます鑑賞しやすいはず。まだ尾てい骨のやや下までしか下げていないが、こうしてお尻が少しずつ顔を出していく様を眺めるというのは、男からすればどれくらい楽しいものなのだろうか。
 恐る恐る肩越しに振り向くと、やはり険しい視線を私に向けている。
 確実に見られている。
 いやらしい気持ちがあるのかないのか。どちらにせよ教師の目は私に向き、ショーツが脱げていく瞬間を確かに視界に捉えている。
 一度そう意識してしまうと余計に顔が赤くなり、熱さのあまりに風邪でも引いた気分にすらなってきた。
 耐え切れず、ついつい履き直そうとしてしまう。そんな自分を私は抑えた。
 ――駄目、やらないと終わらない。ここから出れない。
 ぐっと息を飲み込みながら――えい! 心で掛け声を入れて一気に脱ぎ下ろす。大切な秘所が空気に触れ、あまりの恥ずかしさにクラクラと頭が揺れる。耳まで熱い。どうにかなってしまいそうだった。
 両手を使えば胸を隠していられないので、ショーツは畳まずに脱衣カゴへ置き、すぐにアソコを手で隠す。
 防壁を失った私には手だけが頼りなのだ。
「脱ぎ終わりましたね? では撮影を開始しますので、気をつけの姿勢で背筋はピンと伸ばして下さい」
「……はい」
 私は真っ直ぐ両手を下さげ、直立不動のまま全身に視線を受け入れる。素肌に感じる涼しさが自分の状況を実感させ、寒くもないのに体が震える。せめてショーツだけでも履かせてくれても体つきの審査には何ら支障はないだろうに、下の部分さえ隠させてもらえないなど、どこまでもどん底に立場へ貶められた気持ちがする。
 本当にどうにかなりそうだ。
 四人の男はみんな服を着ている中で、私だけが何も身につけることを許されない。
 中学生の頃に読んだ小説の中では、奴隷はちょうどこんな姿で衆人環視の中でオークションへかけられ、商品として売り出されていた。今の私はまさに奴隷商人に売られる哀れな奴隷と変わらない状況下だ。
 そう思うと泣けてくる。
「これから撮影を行いますので、指示がない限り動かないようにして下さい」
 カメラのレンズを向けられて――パシャリ。
 フラッシュが一瞬輝く。
 やや離れた距離からシャッターを押されたので、今のは間違いなく全身が映っている。足から胸まで、そして顔まで、直立不動の私の姿が記録されてしまったのだ。
 恥ずかしい! 恥ずかしい!
 顔つきが歪んでくる。きっと私の表情には羞恥の色がありありと浮かんでいる。
 パシャ! パシャ! パシャ!
 連続でシャッターを下ろされ、フラッシュが輝く。
 これで四枚は全身を撮られた。
 カメラマンは私へ歩み寄り、今度は乳房へレンズを近づけシャッターを切る。何度も何度もパシャパシャと、角度を変えて横乳や下乳まで撮影し、私の胸は余すことなく記録に撮られていく。
 アソコも撮られた。
 性能の良いカメラなら肌質まで鮮明に写せるはず。下の部分を接写されては、間違いなく毛の具合まで正確に写真にされてしまう。
 パシャ! パシャ! パシャ!
 大事な場所へ無遠慮にフラッシュを焚かれ、耳まで熱く染まり上がった。首から上の体温が上昇し、じわじわと温まる。自分の顔がどれほど赤いのかなど、鏡を見たくとも想像できるほどの火照りようだ。
 せめて顔は見ないで欲しい。
 私の恥じらいきった表情にだけは目を瞑り、人の惨めさを楽しまないようにして欲しい。
 お願いします……。
 パシャ! パシャ! パシャ!
 それでも顔にカメラを向けられ撮影された。
 酷い、ここで泣き崩れてもいいのだろうか。
 パシャ! パシャ! パシャ!
 シャッター音を聞くのがここまで辛い瞬間なんて二度とない。
「後ろを向いてもらえますか?」
 カメラマンに背中を向けると、二人の男性教師が私の体をじっと見ていた。教師側の位置では今まで背面しか見えなかったが、これで私は乳房も秘所も両方拝まれた。
 四人もの異性に恥ずかしい部分を全て見られた。
 パシャ! パシャ! パシャ!
 初めは全身を撮られたのだと思うが、続けて背中、そしてお尻のすぐそこまでカメラの気配は接近し、シャッターが鳴らされる。
 早く終わって欲しい。
 羞恥に歪んだ私の願いはそれだけだ。
「腰を折り曲げ、前屈のような姿勢で両手を床へ伸ばして下さい」
 カメラマンの指示。
 そんなことをしたら、お尻の穴まで……。
 だけど、承知の上で入学してしまった私は逆らえない。事前に全裸撮影の実施は明らかにされていたというのに、わかった上で来ておきながら文句を言えば、私の方が怒られる。
 そうだ。これさえ終われば解放される。
 これだけ撮ったのだから、次で最後に違いない。
 私はそれだけを希望にして屈辱をぐっと堪え、強く目を瞑りながら腰を折り曲げ前屈姿勢を取ってみせる。これでお尻の割れ目は広がって、自然と肛門が見えているはずだ。
 パシャ! パシャ! パシャ!
 肛門を取られている。
 パシャ! パシャ! パシャ!
 お尻に感じるレンズの気配は割れ目へ迫り、確かに恥ずかしい穴を撮影していた。
 こんな場所に向かってシャッターを連射するなんて、一体何を考えているのだろう。
 こんな場所の絵なんて描かないはず。
 こんな場所の写真なんて、本当に必要だろうか……。

「終了です」

 ようやく解放された私は、安心のあまりに脱力し、裸なのも忘れてその場でべったりと座り込んでしまうのだった。
 やっと終わった。
 よかった……。
 よかったけれど、全然よくない。
 顔入りの裸の写真を握られて不安を覚えるなというのが無理な話だ。さすがにバラ撒かれるような心配はないにしても、果たしてカメラマンや教師陣が女子生徒の写真を個人的に利用しないなどありえるのか。きっと、使うのではないだろうか。
 解放感と同時に来る新たな不安に締め付けられ、なかなかすっきりしない終わりであった。


































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少女に恥ずかしい検査や診察を行う羞恥系小説と自作のイラストがメイン。
筆者・作者は黒塚さん。

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