|
<第1話:1年の始まり> 秋も深まりつつある10月の暮れ、千葉県内のベイエリアにある中堅高校、県立第二高校の文学研究部では、二人の部員が調べ物をしていた。 一人は1年B組の山田太郎、一人は2年F組の加藤純也である。 「何かここんトコ幽霊部員が増えてないか?もう俺ら二人しかいない日ばかりじゃん。」 純也が太郎に向かって口を開いた。 「そうですね。まぁ及川先輩が引退した辺りから、そんな傾向が続いてましたから、なるべくしてなったみたいな感じもしますけど。」 調べ物を続けながら太郎が応じた。 「お前、随分と冷たい言い方だなぁ。まぁ確かにそうだけど。てか、及川先輩と言えば、一昨日は先輩を予備校まで送って行ってたけど、あれからどうなった?」 「どうなったって、、、何も。だって、及川先輩は俺の事、単なる2コ下の後輩としか思ってませんし。」 「なんだ、つまんねぇなぁ。折角二人切りになったってのに。」 そうである。一昨日、1993年10月20日、本来なら引退した筈の3年A組、及川祐佳先輩が突然部室を訪れ、ひょんなことから太郎は彼女を予備校まで自転車で送ることになったのだ。 太郎にとっては、この部活に入るきっかけとなった憧れの先輩。二高のアイドル的存在。才色兼備を絵に描いたような人であった。 そんな先輩との二人きりの時間。たかが予備校に送るだけとは言え、そんな時間があったのだ。 しかし、太郎にとって憧れの先輩でも、祐佳にとっては単なる2コ下の後輩。何も起こる訳がない。 憧れつつも、二人切りの場で何も出来なかった自分に嫌悪感すら持った太郎であったが、2日経った今では、仕方無いと心の整理をつけたところであった。 「そっか。それで昨日とか、あまり元気無かったんだ。」 流石は毎日のように部室で顔を合わせている純也である。些細な変化であれ、太郎の心の内を感じ取っていたようである。 「ところでさ。今日から幕張でモーターショー始まってるじゃん。明日一緒に行かない?」 純也が突然話を切り替えた。 「モーターショー?入るのに金かかるじゃないですか。」 何を突然言い出すのか?という顔で太郎が純也に応じた。 「金の心配はいらないよ。俺が招待チケット2枚持ってるから。」 「はぁ。」 喜々として話し掛ける純也であるが、太郎の方は気乗りしない。 「お前知ってるか?モーターショーと言ったら、他のイベントとは全然コンパニオンのレベルが違うんだぜ。 だから、目の保養でもして少しは及川先輩と何も無かったショックを癒せっての。俺が連れて行ってやるから。」 「はあ。まぁ明日なら時間ありますから行けますよ。」 気乗りしないながらも、純也の言葉に背中を押されて、太郎はモーターショーへ行くことになった。 --*--*-- 1993年10月23日。太郎は純也と共に、海浜幕張の駅に降り立ち、モーターショーの会場へ向かった。 それにしても凄い人混みである。土曜日だからということもあるのだろう。太郎は、その人の多さに圧倒された。 太郎は、純也に案内されながら、会場内を歩き回っていった。 確かに、普段はそうそう見かけることの無いような、綺麗でスタイルの良いコンパニオンがそこら中に立っている。 しかも、衣装からして露出度が高かったり、キラキラ光っていたりと、顔・スタイル・衣装それら全てに目を奪われる太郎であった。 「あれ!?あそこ何か凄い人だかりですけど。」 太郎が見咎めた場所、そこには他とは比べ物にならないくらいの人が集まっていた。 「あぁ、アソコはαメカって部品メーカーだな。あれだけ人が集まってるってコトは、、、おい、山田。行こうぜ!」 突然、純也は太郎の腕を引っ張りながら、人だかりの中に入り込んで行った。 少しずつ、少しずつ、人の間を縫うように進んでいった純也と太郎が集団の前まで出た時、目の前に一人のコンパニオンがポーズをとって立っていた。 サラサラとしたストレートのロングヘアーに輝くような美しい顔。特に目の周りなんかはキラキラ光って見えるし、唇も赤く輝いている。 白を基調としてブルーのワンポイントが入った光沢ある衣装が首の後ろから両肩を通って胸に至り、その衣装の中には水色のカップと思しき物が乳房を寄せながら包み込み、綺麗な谷間を作っている。 とは言え、両肩から胸のラインにかけては白い衣装とブルーのカップが覆っているものの、首の下から胸元、所謂デコルテは鎖骨がくっきり見える程に開かれ、乳房を寄せて作られた谷間に向かって綺麗な素肌を見せている。 そして、衣装は乳房だけを隠すように覆っているだけで、腹やヘソは出したまま。ウェストから再び白にブルーをあしらったミニスカートがヒラヒラと巻き付いている。 スカートは膝上30cmくらい、いやもっと短いだろうか。その裾から下へ太腿が細く伸び、膝頭を隠すように光沢ある白いブーツらしき物が脚にピッタリと張り付くように足元までを覆っている。 太郎は、このキラキラと輝く美しい女性に思わず見とれてしまった。 そして、これが太郎のこれからの1年間を運命づけるスタートの瞬間でもあった。 次頁 |