ジャック






第9章「初めてのキス」(1)

(・・・秋のバカ・・全部剃っちゃうなんて、信じられない・・)

 藍は、バスタオルを巻き付けただけで、自分の部屋に戻った。
 まだ興奮が冷めていなかった。秋に剃られて、クリームが洗い流された下から現れた、あのつるつるになった股間を初めて目にした時のショックから、まだ立ち直っていなかった。
 大事な部分の毛が、すべて無くなっている・・藍は頬が熱くなるような思いだった。

(でも、わたし・・どんなになってる・・の?)

 ふと思った。それは、最初は単なる好奇心だったかも知れない。
 しかし、一度そう思うと「見てみたい」気持ちが、強く膨らんでくるのを意識した。

 藍は鏡の前に立った。いつも仕事の練習の時に使う、全身を映す大きな鏡の前だった。
 鏡の前で、藍はゆっくりとバスタオルの裾を開いた。少しずつ、少しずつ、ゆっくりとタオルを開いていった。

(あっ、いやっ!)

 バスタオルの下から股間がチラリと見えた瞬間、慌てて藍はタオルを元のように閉じてしまった。
 しかしホンの一瞬、鏡に映った衝撃的な姿が目に焼き付いていた。
 そこは、まるで幼女のようにつるっとしていた。それでいてフックラと盛り上がり、その真ん中を筋が、割れ目がクッキリと切れ込んでいた。

(でも・・・どうなってるの?)

 再びバスタオルをゆっくりと開いた。好奇心だけではなかった。何か得体の知れない衝動が、隠したままにしておくのを許さなかった。
 藍の目は、鏡に釘付けになっていた。目をそらすことができなかった。

 割れ目の下から、ピンクの襞が僅かに覗いていた。それを見つめたまま、藍はバスタオルをはらりと落とした。全身を鏡に、自分の目に晒した。
 藍の目から見てもとてもセクシーだった。

(どうすんのよぉ・・・こんなの見られたら・・・)

 藍の脳裏に様々な思いが巡っていた。
 仕事で、着替えるときに見られたら・・もし写真に撮られでもしたら・・

(あっ、真里さん・・)

 その時、ふいに真里とのことが頭をよぎった。
 真里の部屋で拘束されたこと、拘束されたまま股間を剥き出しにされ、そのまま弄ばれたこと・・・。

(またあんなこと・・されたら・・・)

 真里の部屋で、鏡に映っていた自分の姿を思い出していた。
 あんなことされたら・・・今度は何も隠すことができないのだ。そのことに気が付くと、藍の頭はボーっとなってしまった。

 頭の中で、拘束されている自分が、あの時の姿が朧気に浮かんでいた。一瞬ハッキリと見えた気がした。しかしすぐに、ボンヤリと霞んでしまった。

(真里さん・・・やめて・・・)

 藍は、あの時されたように、両手を万歳の形に伸ばしてみた。が、すぐに降ろしてしまった。

 あの時は、恥ずかしい水着だった・・・。藍は自分の部屋を見回すと、隅に転がっていた学校の手提げ袋の処へ行った。
 そして袋から体操服・・Tシャツとブルマーを取り出すと、全裸の上に着けた。
 再び鏡の前に立ち、もう一度万歳をした。



第9章「初めてのキス」(2)

 今度は、あの時の記憶が鮮明に蘇った。あの時の水着・・・薄い布で、股間の形が浮き上がっていた・・・
 藍は、両手でブルマーの両脇を掴むと、グーッと引っ張り上げた。そのまま藍はブルマーを、自分の腰骨にかけるようにした。

 あの時の恥ずかしいビキニのように、ブルマーの足の付け根のラインが切れ上がり、股間にくい込んだ。
 そして左右から藍の秘丘が、半分ほどはみ出していた。

 藍は、再び万歳をしてみた。あの光景の続きを、思い浮かべながら・・・。

(お願い・・・許して・・・)

 胸が苦しいほど高鳴っていた。
 あの時は、水着の股布をずらされ、剥き出しにされたのだった。
 片手をそろそろと降ろすと、ブルマーの股間の部分にそっと触れた。ビクンと身体が震えた。

 ブルマーの股布を掴むと、持ち上げてみた。そのまま片側にずらし、すっかり剥き出しにすると手を離してみた。

(あぁっ・・・信じられない・・・)

 藍は驚いていた。
 その「セクシー」な雰囲気は、水着が透けるどころではなかった。まるで、何かを期待しているように、苛められるのを、弄ばれるのを誘っているように見えた。

 藍は、ジッと鏡を見つめていた。そして、手を股間に持っていった。
 そこには・・・陰毛がすっかりなくなったつるつるした感触・・・今まで感じたことのない妙な感触が手に伝わってきた。

(あぁ・・なんかヘン・・・)

 いつもなら毛を分けて、初めて触れる性器・・・それが直に指に触れる・・
 藍は少し怖くなった。指がク○○○スに触れた瞬間、思った以上に身震いがしたからだ。

 腫れ物に触るかのように、もう一度ゆっくりと藍の指がク○○○スに触れた。

(うっ!)

 藍の体は感電したかのようにビクッとして、指をすぐに離した。

(・・・す、すごい・・こんなに感じるなんて・・)


 いつしか藍の頭は、学校のことを思い浮かべていた。
 それは今、鏡に映っているのが体操服姿だったからかも知れなかった。

(えっ、あっ、明日・・・学校・・で・・)

 学校のことに気が付くと、藍は急に心配になってきた。
 学校に行くと・・いや、部活に出ると・・必ず恥ずかしいことをされてしまう。
 もしこんな姿を見られたら・・・きっと今まで以上に酷いことされてしまう。

 酷いこと?・・・今度はどんな?・・・

 藍はハッとした。

(あ、あたし、なに考えてんだろ・・やっぱり・・されたい・・の?・・)

 ふいに、高科の顔が浮かんだ。

「藍ちゃん、苛めて欲しいんだろ・・」
 高科が囁いた。

「いやっ、いやっ、やめてっ」
 藍の胸は、破裂しそうだった。
 しかし、もう藍は「本当の藍」ではなくなっていた。

「だってさぁ、自分からこんなカッコしてるし・・みんなにも見て欲しいのかな?」

 藍は、高科の前に立たされていた。いや、いつの間にか吉田や伊東たちも藍を取り囲んでいた。

「せっ、先輩・・・み、見ないで下さいっ・・やっ、やだっ!」



第9章「初めてのキス」(3)

「藍ちゃん、見ないでって、こんなにつるつるにしちゃってさ。ほんとは見せたいんだろ?」
「違います・・そ、そんなこと・・・ありません・・」

 高科はまじまじと、藍の股間を覗き込んで言った。

「そうだよなぁ、剃っちゃえばしっかり見えるしねぇ。」
「そんなこと・・」
「じゃあ、藍ちゃんのご希望どおり、ここを苛めてみようかな?」
「えっ? あぁっ! だめっだめです。触っちゃだめっ!」

 しかし高科は藍の言葉に耳を貸さず、手を藍の股間に近づけてゆく。

「あぁっ! だめっ! 触らないでっ・・あっ!」

 藍の手は、またゆっくりとク○○○スを捕らえた。

「あああぁぁぁぁぁっ!」

 高科がにやにやしながら言った。

「藍ちゃん、ほんとはこんな風にされたくてしょうがないんだろ? ちがう?」

 藍は指を休めることなく、声を上げた。

「ち、違います・・そんなこと・・ありません・・あぁぁぁ!」

 藍の指は、何度も何度もク○○○スを弾くようにしていた。その度に体が波打っていた。
 何者にも遮られることなく触られているク○○○ス・・藍の指は自分のク○○○スをいたぶるかのように弾きつづけた。

「いや、や、やめてください・・」
「やめてくれだって? ほんとにやめちゃうよ? いいのかなぁ?」

 藍は悶えながら言った。

「や、やめ・・ないで・・・」
「やっぱりな。藍ちゃんはエッチだなぁ。今度はもっと恥ずかしいコト、しようね?」

 藍はすぐに返事をした。

「は・・い。もっと・・・もっと恥ずかしいコト・・・して・・ください・・」

 それを聞くと高科が吉田に指示する。

「ようし、じゃあ吉田、藍ちゃんの乳首、摘んでやれよ。」

 藍は遊んでいたもう片方の手で乳首を摘んだ。

「あぁぁぁぁ! やめて、吉田君、やめて・・・」

 高科が吉田に言う。

「おい、吉田、もっとやってくれってよ。もっと強くだと!」

 藍は乳首を思いっきり摘んだ。

「えっ?・あああぁぁぁぁぁぁっ! い、痛いっ! やめてっ!」
「はははは。藍ちゃんはうそつきだからなぁ、ねぇ先輩。やめてってことはもっとってことですかね?」
「そうだよ、吉田。わかってきたなぁ。おまえも。もっと、つ・よ・く、だってよ。」

 藍は思いっきりの強さで乳首を摘むと、ちぎれんばかりに引っ張った。

「あぁぁぁっ! 痛いっ、痛いよっ! 引っ張らないで・・お願い・・」

 高科はますます激しく藍のク○○○スをいじっている。

「ああぁぁっ! いやっいやあぁぁぁ・・・いじらないでぇ・・・ヘンになっちゃうよぉ・・・」
「藍ちゃん、まだまだこれからだよ。伊藤、おまえ、藍ちゃんに咥えてもらえよ。」

 藍は乳首を摘んでいた手を自分の口に咥えた。

「えっ? いやっ、あっ! むぐぐっ・・」

 藍は上と下の口を同時に責めた。激しく責め続けた・・・。

「ああぁっ! ああぁぁっ! ああああぁぁあぁぁっっ!!」
「許してっ、もうヤメテッ!!・・壊れちゃうよっ!」

 ふと藍の手が止まった。藍の頭の中を、それまで感じたことのない何かが通り過ぎた。
 その影を感じた途端、藍の胸は早鐘のように波打った。



第9章「初めてのキス」(4)

 高科が、不気味な声をだした。

「藍、またか? ほんとはやめて欲しくないんだろ?」
「・・は・・い・・・・やめないで・・ください・・」
「ウソついたんだネ?・・ウソツキは、うんと痛い目に遭わせるよ」

 自分の鼓動が、ドキドキと聞こえていた。

「ウソじゃ・・ありません・・・」
「じゃ、やめるよ。いいんだね?」

「いや・・やめないで・・・」
「やっぱりウソツキじゃないか? 悪い子にはバツだよ、いいね」

「は・・い・・・」

 もう藍は、止めることがきなかった。
 夢遊病者のように机に行くと、フデ箱から透明なプラスチックの定規を取り出した。15cm程の、小さな定規・・・。

 鏡の前に戻ると、藍は股間の割れ目に指をあてると、思い切ったようにそれを押し開いた。

「悪い子は、ここにお仕置きしよう。いいな」
「ああぁっ、やめてぇっっ・・・いやあぁっ!!」

 藍は押し拡げたままの割れ目に、もう一方の手に持った定規を当てた。
 定規が当たった瞬間、ひんやりとした冷たさをク○○○スに感じた。

「さあ、いくぞっ! せーのっ」
「あぁぁっ! やめてぇ・・・・・い、いたっ!」

 定規がピチッとク○○○スを弾いた。一瞬、全身が硬直するほどの衝撃が走った。そのあまりの痛さに、藍は我に返った。
 次の瞬間、高科も、吉田も消えていた。

(あぁ・・・あたし、なにしてんだろ・・・おかしくなっちゃいそう・・・)

 藍はびっしょりと汗をかいていた。そして疲れたのか、そのままベッドに倒れ込むと、いつのまにか眠っていた。


 次の朝、藍はいつもより早く起きると、シャワーを浴びた。シャワーを浴びてから学校へ行った。
 学校の門をくぐろうと歩いていると、後ろから呼ぶ声が聞こえ、振り返った。

「・・・藍ちゃん!」
 藍が振り返ると、そこには高科がいた。

「・・せ、先輩!」
 藍は昨日の夜のことを思いだし、顔を赤くした。

「おはよう! やっぱ、風邪か? 顔赤いし。まだ熱があるの?」
「い、いや、そんなんじゃないんです。・・元気ですよっ!」
「だって部活来ないから藍ちゃんのクラスの奴に聞いたら、二日も学校休んだって。どしたん?」

「えっ? あっ、し、仕事で・・」
「あっ、そうか! 仕事だったの・・なんか心配して損したかな?」

「あ、ごめんなさい・・何にも言わないで部活休んで・・」
「こないだの撮影、ハードだったからさ。水かけたりしちゃったし・・それで風邪引いたのかと思ったよ。でもよかったよかった。」

 この前の撮影・・高科の言葉に、その時の事が頭を過ぎった。

(・・・恥ずかしい格好、みんなに見られたんだった)

 しかし高科の何事もなかったかのような笑顔を見ると、藍はすぐにそのことを忘れた。それどころか、高科が自分を心配してくれていたことが嬉しかった。

「あ、今日は部活、来れるよね?」
「大丈夫・・です。ちゃんと行きます。」
「じゃ、待ってるから。放課後に、ネ。あ、藍ちゃん、今日はそのままの格好で来てね。」
「あ、はい・・またあとで。」

 高科は笑顔で手を振ると、藍を追い越していった。
 藍は高科と別れると教室に向かった。まだ頬が、赤いままだった。



第9章「初めてのキス」(5)

 藍は授業など上の空で考え事をしていた。高科にはあんなに恥ずかしいことをされたのに、どうしても嫌いになれない。
 とても複雑な気分だった。

 それに、昨日の夜の妄想・・あんな風にされている姿を想像しながらオナニーしてしまうなんて・・
 藍は高科への恋愛感情を確信していた。
 信じられないけれど、信じている。これが、恋なのかな、と思った。
 それから藍は、放課後が待ち遠しくて仕方なくなった。


 まだ一日の最後の授業も終わらぬ頃、高科と吉田は屋上でサボっていた。

「吉田、例のモノ、買ってきたか?」
「先輩~、ひどいっすよぉ。あんなもの、オレ買えっこないじゃないっすか。さちとゆうこに頼んどきました。」

「はは、まぁいっか。で、買ったのか。」
「二人とも喜んで行きましたよ。そんで、すんごいの選んじゃって・・スケスケのギチギチッ。ばっちりっすよ。」

「そりゃおもしれぇや。・・で、小道具のほうはどーした?」
「それもついでに買ってきてもらいましたが・・・ほんとにいいんっすかねぇ。ありゃ、きついっすよ。」

「だいじょうぶだって。例の切り札、ばっちりだからな。・・・それよか吉田、今日はおまえとゆうこは早めに部室行ってろ。で、中で抱き合っててな。」
「いいっすけど・・またどうして?」

「ば~か、あいつぁ部屋入ろうとしたとき、中でおまえらがいちゃついててみろよ。ビックリして、ポーッとなっちゃうだろ。それでワケわかんないうちに、かまそうっつーのさ。」
「なるほどっすねぇ。しっかし先輩も、結構知的に責めてきますねぇ。がぁっとやっちまえばいいのに。」

「まだ青いなぁ、おまえ。プロセスが大事なんだよ、プロセスが。そんなしたらそれこそ大変だろ。ここ使うんだよ。ここ。」

 高科は得意げに指で頭を指しながら言った。

「了解っす。けどゆうこに、ちゃんと言っといてくださいよぉ~。やらせだって。」
「ははは。わかったよっ。ゆうこも嫌がったりしねぇよ。あいつをハメるためだったらな。・・それにおまえら、どうせできてんだろ?」

「てへっ、知ってました?・・でもアイドルものにできるなんて、めちゃすごいっすネ。これからも先輩に付いて行きますよ~。」
「ば~か。いつまでもやってられっかよ。バカやんのもこれが最後よ。最後だからな、上物狙ってるってわけ。」
「な~るほどぉ。」

 高科と吉田はそう言って笑った。


 放課後になった。
 藍は教室を出ると、一目散に部室に向かった。
 高科に逢える、そう思うと嬉しくて仕方なかった。

 部室の前にきて、藍は扉を開けようとした。が、すぐに躊躇った。
 少しだけ扉が開いていたからだ。
 そして、部室の中からなにやら声が聞こえる。

「・・・あっ、あぁ。いいっ・・」

 藍は扉の隙間から、恐る恐る中を覗いた。
 そこには吉田とゆうこが抱き合っていた。

(・・えっ?、何してる・・の?・・)

 吉田は机に座り、体操服姿のゆうこを膝の上にのせていた。そして吉田の手はゆうこのTシャツの中でもぞもぞと動いている。



第9章「初めてのキス」(6)

「・・あん・・あっ、ああ・・みんなくるよぉ・・」
「だぁいじょうぶだよ。そんなすぐこねーよ。気にすんなよ。それよりも・・」
「あぁぁぁ! だめだったらぁ・・・・」

 ゆうこは甘ったれた声で悶えている。
 吉田はゆうこのTシャツを脱がした。ゆうこの豊満な胸があらわになり、吉田と唇を重ねた。
 藍はどきどきしながら、息を殺してその光景を覗いていた。

(・・・あ、あんなこと・・・ああ・・)

 吉田の手はゆうこのブルマーの上から股間を触りだした。

「あっ! あぁぁぁ!」

 その瞬間、ゆうこの声が大きくなり、気持ちよさそうに目をつぶっている。
 藍は覗いているうちに変な気持ちになってきた。顔を赤くして、目はうつろになってきた。
 そして、廊下であることも忘れ、胸に手を持っていった。

 吉田はゆうこのブルマーを下ろすと、ク○○○スを触りだした。

「あぁぁぁ! いいっ! いいよぉ!」

(あぁ、すごいっ。あんなところ、触られてる・・あぁ・・)

 そして、藍の期待通りの展開となっていった。

「ああぁぁ! いれてっ! いれてぇ!」

 ゆうこがそう言うと、吉田がズボンを脱ぎ始めた。
 そしてあっという間に吉田の下半身があらわになった。

(・・・あぁ! す、すごく大きくなってる・・)

 藍の心臓は破裂しそうな勢いだった。はぁはぁと息が苦しくなってきた。

 吉田はゆうこを床に寝かすと、その上に乗りかかった。そして、ゆうこの中に挿入した。

「あぁぁぁぁぁ! いいっ。いいよぉ、もっと、もっと激しくしてぇ・・」

 ゆうこは悶えながら吉田に催促していた。吉田もスピードを上げていった。
 藍は知らす知らずのうちに手で股間を触っていた。スカートの前を捲くり、パンティに手を入れて・・

(・・すごい・・気持ちよさそう・・あぁぁぁ!)

「藍ちゃん?」

 藍はその声にハッとして、急いで手を戻した。

「藍ちゃん、何してんの? そんなとこで。中にはいんなよ。」

 高科だった。藍は慌てて、部室に入ろうとする高科を止めた。

「あ、だ、だめです。今は、ちょっと・・・」
「だめ? どうして? いいじゃん。入ろうよ。」
「だっ、だって・・これじゃ・・・」

 藍は高科に扉の隙間から中の様子を覗かせた。

「またやってるな・・まぁあいつら付き合ってるからさ。しょうがないけどな。」
「で、でも・・部室でなんて・・」
「なに言ってるの、藍ちゃん。藍ちゃんだって抱き合ったりするだろ?」

 高科の質問に藍は顔を真っ赤にして反論した。

「し、しませんよ。そんな・・まだ・・」
「まだ?」

 藍は「経験ないから・・」といいそうになったが、すぐに詰まった。
 藍は自分が処女であることが遅れていて、恥ずかしいことのように思えた。

「・・い、いや、こんなところでは・・しません・・」
「いいじゃないか。別に。あのくらいするさ。」
「・・・せ、先輩も・・スルんですか?」

 藍は思わず高科にそう聞いてしまった。

 高科はドアの隙間から覗きながら、
「俺は付き合ってるヤツ、いないからさ・・」
 高科の答えに、藍は何故かホッとしていた。



第9章「初めてのキス」(7)

「・・・あ~あ、それにしてもやりすぎだな。学校の中であそこまでしちゃあまずいよなぁ。なぁ、藍ちゃん?」

 高科はそう藍に振ると、ここから覗いてみろ、というしぐさで藍を扉の隙間から中を覗かせようとした。
 藍はそれに誘われるように再び中を覗き込んだ。
 中では吉田とゆうこが全裸で抱き合い、キスしている。

(あぁ、あんなこと・・してる・・)

 藍はドキドキしながら覗き込んでいた。


「藍ちゃん!」

 真剣に覗き込む藍に高科が声をかけた。
 藍ははっと我に返り答えた。

「・・・えっ? あっ、先輩、なんです・・・うっ!」

 無防備に振り返った藍に、高科は突然唇を重ねた。

(・・・うっ、うっ・・あっ・・・・)

 藍は何がなんだかわからなかったが、少しして目を閉じていた。
 高科のキスは、いままで藍が経験したことがないほど激しかった。

 高科は藍を抱きしめた。
 藍は吸い込まれるようにして高科に身を委ねた。

 やがて高科は舌を藍の口の中に潜り込ませてきた。
 藍はされるがままに受け入れていた。

 それは一瞬の出来事だったのかもしれない。でも藍には長い、長い時間に思えた。

 高科が唇を離した。しかしまだ抱きしめられたままだった。

「・・・せん・・ぱい」
 藍は高科の胸に顔を埋めた。

 藍はそれまでキスをしたことがなかったわけではないが、ほんの一瞬唇を合わせる程度のものだった。
 この前、真里に唇を奪われた記憶が、一瞬頭に浮かんだ。しかしあれは、まったく別のものだった。不快ではなかった。
 が、高科とのように、胸が張り裂ける思いではなかった。
 藍にとって、それはファーストキッスだった。


 藍はこのまま時間が止まってしまえばいい、と思った。が、すぐにその幸せな時間は過ぎ去っていった。

「あれ? 先輩! 今日は遅くなるんじゃ・・あっ」

 伊藤がさちと向こうからやってきて、藍はすぐに高科から離れた。
 さちが伊藤に「バカッ、余計なこと言わないの」と言いたそうに肘鉄をしたが、藍はそんな様子には気が付かなかった。

「おう、今日はな、用事がなくなったんだよ。さぁ入るか・・」

 高科がそう言うと藍が慌てて 「えっ? まだ、だめ・・」と止めた。
 が、高科はさっさとドアを開け、中に入っていった。
 藍も下を向きながら高科に続いた。

 藍が顔を上げると、まるで何もなかったかのように、吉田もゆうこも着替えて座っていた。

「・・あれ?」
 藍は不思議そうに思わず声を出してしまった。

「ん、どうした?」

 高科が藍に聞くと、「えっ? あっ、何でも・・ないです。」と答えた。
 何がなんだか、わからなくなっていた。


「さぁ、今日もハードだぞ!気合いれて行こうな!」
 高科がそう言うと、皆が立ち上がり、準備をはじめた。

「今日は頼むよ、藍ちゃん。休んだ分、取り戻してな!」
 高科はそう言うと藍を肩をぽんと叩いた。

 藍は、なんともいえない連帯感に嬉しくなった。
 さっきの熱いキスが、高科への思いを強めていた。
 同時に高科が、もしかしたら自分のことを好きでいてくれてるかも、と期待に胸を膨らませていた。



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