官能小説『赤いつるバラ』




ふゆ 作










第1話

 今日は一重の赤い蔓バラを二輪だけ活けた。ガラスの細い花瓶から、真っ赤 な花が二つ垂れている。大きく花を活けることはしなかった。そんなことをし たら、なんだか宮内さんの負担になってしまうような気がしたから。
「あっ」
 思いがけなくチャイムがなった。早い。約束の時間までまだ三十分もあるは ずなのに。
 だけど私はテーブルの上をかたずけもせず、ウサギのようにまっしくぐらに 玄関へと走っていった。
「やあ」
 ドアを開けると、宮内さんが立っていた。スーツ姿で、コートを腕にかけて いる。
 私は「いらっしゃい」と笑って、「散らかってますけど」なんていって部屋 へ通すつもりだったのに、顔を見たとたん、靴も脱がない宮内さんの首に、い きなり抱き付いてしまった。
「……会いたかったんです」
 顔をうずめた胸のあたり、紺のスーツからウールのにおいがした。ホテルの 営業をしている宮内さんはいつも隙のない格好をしていて、それがなぜだかち ょっと癪にさわる。
「あ、いやっ」
 宮内さんは返事をせずに、黙って私の耳たぶを引っぱるように噛んで、両手 でおしりの肉をぎゅっとつかんだ。
「君はいつもこんなふうに、男をたぶらかしているんだ」
 耳元でそんなひどいことをいう。
「そんな……私、男の人を部屋に入れるのはじめてなんですよ……」
 ウールのにおいと、ごくかすかなオーデコロンの香りが混じった宮内さんの 胸の中で、私は息をつまらせていた。
「じゃあ、その部屋の中を案内してもらえる?」
「どうぞお上がりください」
 まあ。キスもしてくれないなんて。
 一瞬ひどく傷ついたが、悟られないように笑顔をつくって宮内さんを家の中 へ案内した。


「……さすがに、きれいに活けてあるね」
 宮内さんが花に目を止めて微笑んだ。
 テーブルの上には圧力鍋で煮たイワシを白い皿に盛ったものと、田舎風の茶 色の鉢に入ったほうれん草のゴマ和えがならんでいる。 褒められて、うれし かった。
「でも、もっと大きく花を活けてあるところも見たかったな」
「ええ。そうしようかとも思ったんですが、なんだか恥ずかしくて……」
「はっはっは。じゃあ、今度は思いっきり活けたところを見せてもらおうかな」
「はい」
 また来てくれるんだ、と思えば自然と顔がほころんでくる。前もって宅配便 で送ってもらったロゼワインをそそいでもらい、軽く乾杯をかわすと、ふたり の少し早い晩餐がはじまった。
「クラブの仕事はこれからもずっと続けていくつもり?」
 宮内さんは、じつに聞きとりやすく話をする。
「うーん、そうですね。実はあんまり性にあっているとは思ってないんです。
収入の割に支出も多いし、その、お客さんをめぐって密かに争っていく世界っ ていうのは、正直つらいです」
「そうだよね。で、アレンジメントの先生をする気はないの?」
「それも考えたんですけれど、先生をやっていくだけで満足しそうで、こわくっ て……」
「うん。そこだけはたしかに注意しなければいけないけれど、でもね、たとえ センスや技量が未熟な人の集まりでも、同じことに熱中している人たちの中に いることは、意義のあることだと思うよ」
「そうかもしれませんね」
 宮内さんとは、あまりたくさんおしゃべりをしたりしない。だけどなにかを 語るときには、それは話題が仕事や生活の核心にふれることが多かった。私は 全身を耳にするくらい話を懸命に聞きながら、しかし一方では、イワシをきれ いにほぐして口に運ぶ、その上手な箸使いをする手に見とれていた。
 体格はがっしりしているのに、宮内さんの指はそれほど太くはない。その指 がむだのない美しい動きをするのを見るたびに、私は体の芯がキューンとして、 胸がどきどきしてしまうのだ。


第2話

 今まで男性とは何人かとつきあったことがあるが、一度だってその人の肉体 にまで執着したことはなかった。ほんと、性的には淡白な方だと思う。だけど 宮内さんの手を見ていると、どうしてもその手で触れてもらいたくなってしま う。その手が私の髪をなで、背中をすべり、ウエストのくびれをたしかめて、 胸やおしりやもっと恥ずかしいところを探って味わってくれたらどんなにいい だろうと考えてしまって、椅子に座ったまま倒れてしまうんじゃないかと思う くらい、気持ちが高ぶってしまうのだ。
 私はのどがカラカラになって、半分ほど残っていたワインを、つうっと飲み 干した。
「どうかしたのかね?」
「はい? いいえなんにも」
 へんな目で宮内さんを見ていたことがバレてしまっただろうか。私はごまか しながら微笑んで、二杯目のワインをついでもらった。
 お酒を飲むのだからと濃いめ味付けにした料理のせいだろうか。いくらでも ワインがのどを通ってしまう。そうしてアルコールを口に運ぶたび、だんだん と肩の力がぬけ、頭がとろんと重くなってくる。まぶたが勝手に下りてきて、 宮内さんが次第に遠ざかっていくように感じられた。
 いけない。ちょっと飲みすぎたかもしれない。
「そろそろ食器をさげてくれないか」
 どことなく遠く聞こえる宮内さんの声に、立ち上がったときすこしよろけた。 「やだ、すこし酔っちゃったみたいです」
 そういって、テーブルの向こうへと歩こうとしたときだった。
「あっ」
 宮内さんの食器をさげようとそばによったとき、大きな手がまよわず私の体 に伸びてきて腰を抱きしめ、ストンッとひざの上に座らされてしまった。
「いいんだよね?」
 宮内さんが唇を首すじにかすかに這わせながらながら、そっとささやいた。
「……はい」
 返事をしたとたん、大きな手がふたつ生き物のように私の体をまさぐりはじ めた。片方の手は、スカートをたくし上げて太ももの内側の一番柔らかいとこ ろをさすり、もう片方の手は、ブラウスの二番目のボタンをはずして、ブラジ ャーの中の乳房をゆっくりと揉みしだいている。
「ああ……」
 高い熱を出したときのように、全身に鳥肌がたった。太ももをさすられるた び、恥ずかしい部分がポタポタと滴るように熱くなってきて、宮内さんのどん な要求にも答えたいという、ひどく従順な気分になってくる。
「どんなふうに犯されたい?」
 耳の中にひそやかに流し入れられる声に、私は頬に火照った血が一気に上が ってくるのを感じた。
「え、やだ、そんな……」
「ね、どんなふうに入れられるのが、いちばん好きなの?」
 執拗に耳に入ってくる宮内さんの声に、閉じているまぶたの裏が真っ赤にな って、ひどく狼狽した。それなのに、いちばん恥ずかしい部分はどうしようも ないほど熱くなってしまって、はやく宮内さんに触れてもらいたくて地団駄を 踏みたいほどなのだった。
「それは……宮内さんの好きに」
「ほんとうに、いいの?」
「……はい、いいです。宮内さんの、望む通りににしてください」
「じゃあ、こっちにおいで」
 宮内さんは、私をわきから支えるようにして抱きかかえると、ベッドの方へ むかった。
 そしてベッドのすぐ脇へひざをつくようにいい、背中をポーンと押して、上 半身だけをベッドカバーの上にうつぶせに横たえた。
 そのあと、スカートを勢いよく胴の方へすべてめくりあげると、すばやくス トッキングとパンティを引き降ろし、私の下半身を丸裸にしてしまった。
「真っ白な肌をしている。それに、おしりも脚もすんなりとしていて、とって もきれいだよ」
 宮内さんはベッドに腰かけて、私のおしりと脚を何度もさすりながらいった。
 私はこんなかっこうにされたことが恥ずかしくって、返事をすることもでき ない。


第3話

「あっ!」
 宮内さんの指が、閉じた太ももの間からいきなりスルッとすべりこんできて、 おそらく親指だろう、爪でクリトリスをごく弱く引っ掻きはじめたのだった。
「ああんっ」
 快感が下半身からざわざわっと巻き起こって、つんっと鼻孔へぬけていった。
 恥ずかしくて切なくって、どこかへ消え入ってしまいたいような気持ちと、 もっともっと強い快感を得たい、という獣じみた気持ちがぶつかりあって、私 は激しく混乱していた。
「君はみかけよりもずっとエッチなんだね。指が、こんなに濡れてしまった」
 宮内さんは、枕許にあったティッシュで手を拭くと、また私の恥ずかしいと ころに指をすべりこませてきた。
「ああんっ、あ、あっ」
 宮内さんは、また親指でクリトリスを引っ掻きはじめた。一度中断されてま た刺激されたためだろう、私の下腹部は、さっきよりもより深い快感を味あわ されていた。
 そして人差し指が、穴の中に入り込んでくる。
「あ、いい、気持ちいいですぅ……」


 さっきまでの恥ずかしかった気持ちがだんだん消えてきて、私はよりいっそ う貪欲に、快感をむさぼりたくなってきていた。
 もっと、もっと太い物を入れて、穴の壁を激しく刺激して欲しい……心の中 は、これまで意識にのぼってきたことのない、淫らな気持ちでいっぱいだった。 私は、そんな気持ちを宮内さんに悟られたくなくって、ベッドカバーに顔を伏 せて、声を押し殺してあえいでいた。
 でも、宮内さんの指や手が、びしょびしょに濡れていることが伝わってくる。 穴の後ろの方の、柔らかい皮膚にふれている中指までも、液が垂れてくるほど に濡れてしまっているのだ。
 ときどきその指が、ツルッツルッとうしろの方の穴をなでるのが、たまらな く恥ずかしい。
 それに、自分だけがこんなに感じてしまっているのもまた恥ずかしくって、 私は宮内さんの腰に腕をまわして、ズボンの上から彼の性器に手をかけてしま った。
 こんなことをしたのは、はじめてだった。
 宮内さんの性器はだいぶ大きく固くなっていて、私はびっくりして、手を引 っこめてしまった。
「そんな遠慮しないで、ちゃんとかわいがってよ」
 宮内さんは自分からズボンのファスナーを開けて、私の手を中へ誘った。
「あ、は、はい……」
 大きな性器ではなかったけれど、頭の部分と、棒の部分の段性が高くて、こ れが自分の穴を押し広げて中に入ってくるのかと思うと、よりいっそう胸がど きどきしてくるのだった。
「いいよ、気持ちいい、もっとはげしくこすってごらん」
 そういわれて、私はよりいっそう早く、宮内さんの性器をこすった。
「だめっ、ああっ、だめですぅ!」
 突然に、まぶたの裏に金色の火花がパチパチッと散った。
 今までうしろの穴を時折なでていた中指が、その穴にツルッと入ってしまっ たのだ。
「ああんっ、恥ずかしいっ、恥ずかしいですぅ、堪忍してください!」
 私は宮内さんの太ももに頭をすりつけて、懇願した。
「そうか、恥ずかしいのか。でも恥ずかしいだけで、いやじゃないんだろう?」
 宮内さんはクスクスと笑いながら、中指をグリグリと回して、えぐるように 突き立てた。
「あああああああっ、だめえぇ!」
 まぶたの裏では、金色の火花がよりいっそう大きく弾ける。
 うしろの穴に指を入れられるのは、はじめてだった。
 そこは前の穴とはくらべものにならないほど敏感で、入っている宮内さんの 指の、大きさや形や動きが、目で見ているようにはっきりと感じられてしまう。


第4話

 ……ひょっとしたら、そんなにたいしたことをされている訳では、ないのか もしれない。
 でも、宮内さんの中指は、まるで昆虫採集の標本が虫ピンのように、体と心 の最も敏感な部分を刺し貫いてかき回しているのだ。
 私は、理屈からいちばん遠いところで、その指からのがれようと、必死でも がいた。
「お願いです、お願いですから、おしりの穴から指をぬいてくださいっ」
 私はもう一度、宮内さんの太ももに頭をすりつけて懇願した。
「じゃあ、僕のものをうまくしゃぶれたら、ここの指は堪忍してあげる」
 宮内さんはそういって、おしりの穴に入っている指を、なおも奥へと突き立 てた。
 私はそれを合図に、恥も外聞もなく、宮内さんの性器にむしゃぶりついた。
 そして、わなないている神経を奮い起こし、宮内さんの性器をのどの方まで 咥えこみ、下を棒の裏側に押し付けるようにして舐めあげ、全身の神経を集中 して、必死で奉仕した。
「……ずいぶん巧いね。きっと、いろいろな男から教え込まれたんだろう」
 宮内さんはやや声をふるわせながらも冷たい調子でそういうと、私の恥ずか しいところを刺激している三本の指を、イソギンチャクのようにすぼめたり開 いたりしながら、クシュクシュといやらしく刺激しはじめた。
「ううう、うぐんんん……」
 のどの方まで宮内さんの性器を咥え込んでいるので声を出すことはできなか ったが、私は心身ともに完全にパニックに陥らされた。
「ほら、そんなにいやがらないで、ちゃんと味わってごらん。とっても気持ち いいはずだよ。そして、僕に最初にここをいじられたことを、ちゃんと覚えて おくんだよ」
 指でいじられているところが、ピチャッピチャッ、クチュックチュッと音を たてているのが聞こえてくる。
 そう、たしかに宮内さんのいうとおり、うしろの穴に指を入れられていると、 クリトリスや前の穴をいじらるのが、いつもより数段気持ち良かったのだ。
 私はだんだん、宮内さんの指の動きにあわせて、腰を振りたて、首上下させ ておしゃぶりをするようになった。
「はうっ」
 いきなり宮内さんが、私から指と性器をすべて引き抜いた。
「ちゃんとやるから、裸になって」
「……は……い」
 私は荒い息をしながら、いわれたとおりに服をすべて脱いだ。
 陰毛に、いやらしい液が玉になってついているのが恥ずかしかった。
「服はちゃんとたたんで」
 さっきまで行為に熱中していた心と体が、日常の中に放り出されてしまった。
身の置きどころがないような、心細い気分だ。
「僕の服も、脱がせて」
 私はいわれたとおり、宮内さんのスーツとYシャツを脱がしてハンガーにか け、下着も脱がして、きちんとたたんだ。
 まるでこうして宮内さんに奉仕するために生まれてきたような気がしてきて、 なぜだか恥ずかしいところがカッと熱くなった。
「ベッドの上に、四つ這いになってごらん。あ、ベッドカバーは外さなくてい い」
 私は犬のようなかっこうで、宮内さんを迎え入る姿勢をとった。
 あんなにいろいろ命令されて、こんなポーズをとらされているのに、私は宮 内さんの性器を前の穴に入れてもらえるのがうれしくてたまらないのだ。
 つい、ほんの前の、昼間までの自分とはあきらかに別人になっていた。
「あああんっ」
 人差し指と中指で数回、私の恥ずかしい溝をなであげたあと、性器の頭で入 り口をたしかめて、宮内さんは前の方の穴に押し入ってくれた。


第5話

 前の穴を押し広げられた快感が、背中を走って脳天まで突き抜ける。
「さあ、自分で体をゆすってごらん」
 いわれて私は身を乗り出したり引いたりして腰を前後に動かし、宮内さんの 性器を自分の穴に出し入れさせた。
 快感が波のように、全身を走り抜けていく。固いベッドカバーでひざがすこ し痛んだが、私は夢中になって体を動かし続けた。
「はぐううっ」
 自分の体が、とつぜん弓なりになって硬直した。
 宮内さんが、またうしろの穴に指を入れたのだ。こんどは二本も。
 私は強い快感に刺し貫かれて、体をそれ以上動かすことができなかった。
「だめだよ。あのね、男のものを受け入れる時は、思いっきり穴をギュウッと 締めつけなくては。さあ、ちゃっと締めつけてごらん」
「……はい……あううっ」
「ほら、もっともっと」
「あ、ああん、ああ、ああっ」
 ただでさえ前の穴もうしろの穴も刺し貫かれているのに、そこを締めつけさ せられると、もうどうにかなってしまいそうな快感が全身を駆けぬけていった。
 私は涙を落としながらも、快感に押し流されないように、きちんと宮内さん のいいつけにしたがった。
「さあ、もう一度自分で動いてごらん」
 私はもう、押し入られている穴のことしか考えることができなかった。
 体を動かすたびに、ピチャッピチャッと液の滴る音が聞こえてきて、光の束 のような快感が、内臓を震わせて頭のてっぺんまで駆けていく。
「ああ、宮内さんっ、私、もう、あ、ああ!」
 そうして、雷のような快感に体中を打ちのめされ、私の意識は、スウッとど こかへ逃げ出してしまった。


「また、来るからね」
「はい!」
 宮内さんは、寝るにはまだ早すぎる時間に、笑顔で手をふって帰っていった。
 行為が終わるとすぐに、あの人はいつものやさしい宮内さんにもどってくれ たのだ。
 私も精一杯の笑顔で、彼を送った。
「ふうっ」
 パタンッとドアがしまった後、玄関の壁にもたれて、大きなため息をついた。
 宮内さんと結婚したい、なんていう気はさらさらなかった。私はこれからも 花をずっとずっと追い求めていきたいと思っている。かえって結婚なんてうっ とおしい制度に足を引っ張られるのなんか、まっぴらだ。
 それに宮内さんとの関係は、いつ終わってしまうかわからないような、スリ リングなものにしておきたかった。これから家にもどって宮内さんを待ってい るだろう人のことにも、関心はない。
 だけど、この虚脱感はいったいなんなんだろう。私はひとり、部屋に足音を 響かせながらベッドルームへと戻った。
 ほとんど乱れていないベッドを見ると、宮内さんは本当はここには来なかっ たのではないか、というへんな妄想さえわいてくる。
 それでも宮内さんがここにいたことを示す、壁のポスターの跡をぼんやりと 見つめながら、もしかしたらつらい恋がはじまったのかもしれないというかす かな予感を、私は感じはじめていた。




















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