佳奈子はプランシェを見た。
 先ほどの赤い唇の女は、隅で横たわっていた。
 男のほうには、他の女が絡もうとしていた。
 その新しい女はプランシェで鑑賞していた一人らしかった。

 女は佳奈子と同じくらいの年齢だろう。
 少なくともさっきの赤い唇の女よりは年齢が上だった。
 やや大柄で、肌はそれほど白くはなく、やや艶を帯びた褐色に近かった。
 太ってはいないが、張りのある体つきであった。

 男女の営みをまじかに見て、たとえ自分で慰めようと、体のほてりが増すばかりであったのだろう。
 男に挑むその姿は、性急さを感じた。

 男が、その女の足を広げる。
 女の腕は男の体を捕まえようとする。
 男は下半身を少し前に進める。
 女は下半身を受け入れる態勢にする。

 女はもう震えている。
 男がゆっくりと挿入を始める。
 女は受け入れる準備は十分にできているのだが、一か所だけ準備ができていなかった。
 それは、男を受け入れる肉の道が十分に開いていなかった。
 女は男を徐々に受け入れて行くにしたがって、苦痛の表情を浮かべる。
 男は挿入を少し逆方向へ戻す。
 女の表情から苦痛が減ったのを見計らって、再度挿入の深さを増していく。

 挿入の深さを、増減を繰りかえしながら、ついに男のすべてが女のなかに挿入された。
 男の前後運動が始まった。
 女の顔にまたさっきとは異なる苦痛の表情が浮かぶ。
 女の口から悦びの声が漏れる。
 女は苦しげに絶頂へと、短く上り詰め始めた。

 女は快楽をなるたけ長い間享受しようと努めているように見える。
 しかし、男の前後運動が、一気に絶頂へと導いてしまった。
 女の体が小刻み震え始める。
 もう少し、もう少しだけこのまま感じていたいのだろうか、我慢する苦痛の表情がありありと見える。

 女の躯の震えが止まらない。
 ついに女は、大きく体をのけぞらせ、絶叫とともに果てる。
 一つの山を上り詰めた。
 しかし、男の動きは、相変わらず、規則正しい前後運動を継続させている。
 女の体は力が抜け切ってしまい、男の前後運動に合わせて、何にも逆らうことなく、動きに身を任せている。

 女の顔に表情が戻る。
 そして、吐く息が荒くなる。

 「あああ、、、、」女の声が徐々に高い音になって切れる。
 顔を左右に振った。
 そして、男の体に手を延ばす。
 この女は男の体に腕を巻き付けるのが癖らしい。

 女に再び快楽の波が襲いかかり始めているようだった。

 「あの人、もう一度いくつもりだわ。」
 佳奈子は、身を乗り出して、プランシェを凝視した。

 男の動きが、リズミカルである。
 女ははその男の動きに併せて腰を左右に振っている。
 時に腰を競り上げることさえある。

 「あの人、2度目は大胆だわ。余裕が見られる。今度は男のほうが辛そうね。」
 佳奈子は、自分の右の中指が、もう一度真珠を探り当てていることに気が付き、自分ながら、ドキッ、とした。
 しかし、そのままゆっくりと、プランシェの女の動きに合わせるかのように、中指を動かした。

 女は男に突かれて前後に揺らされている。佳奈子も中指をそれに併せて上下に動かした。

 女は腰を左右に振っている。
 佳奈子は指をゆっくりと真珠を中心に指の腹を回した。
 佳奈子の指紋のかすかなでこぼこが、真珠に微妙な刺激を与える、そんな角度にはまった。

 「う、う、う、、、」
 佳奈子の口から快楽の声が漏れる。
 「い、い、い、、い、く、、、」

 佳奈子の興奮は絶頂に達しつつあった。

 プランシェの女も、ゆっくりとした速度から、早さを増して、絶頂の坂道を、一気に上り詰めようとしている。

 「いくううう、、、」
 佳奈子は、ピリエのなかで声を出して、そして果てた。少し、震えが残った。
 そしていつもよりも倦怠感が残った。

 プランシェの女も、絶叫とともに昇り終えた。
 もう、女は震えていない。
 その顔には、満足に、そして穏やかな表情だけあった。

 佳奈子はピリエからそれを見たとき、今の自分には、完全な満足がまだないことに気がついた。

 「なぜ。2回もオナニーでいったのに。いつもと違うわ。」
 佳奈子は、今晩サラマンドルから声を掛けられたのが、自分の中で引っ掛かっているのが原因だと思った。
 「今晩は、勇気を出してプランシェに行っていたら、あの女が受けた快楽が、この渡しのものであったのかもしれない。」
 そんな後悔が佳奈子にはあったのだろう。

 佳奈子はピリエを出て、地下から1階へ上がり、着替えを済ませて、外へ出た。














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