官能小説/鏡の中のアリス




ふゆ 作










第1話

「それでいいわ、、あ、ちょっと待って、これも3本お願いね。」

今夜は特別な日でもなく、夫も出張で留守だったが、
玄関とリビングを花で飾り、花冷えと雨の週末をせめて晴やかに過ごしたいと
花屋で足を止めたのだった。そして寝室の出窓用に追加の
カサブランカを指さした。

小泉祥子。彼女は笑わないと少し冷たい印象を与えるような美人だ。
色白の透明な肌にひいた赤いルージュが似合う、おそらくひとまわりは若い男
でもハッと振り返らせるような顔立ちとスタイル。
媚びているようで笑顔をたやさずにいるのは好きではなかったが、
会社ではしかたがない。白い歯がこぼれ、顔がほころびると
アーモンド型の大きな瞳の目尻が下がり、親しみやすい優しい雰囲気に変わる。
旅行会社に勤める祥子の部署は大口の顧客をかかえる営業部だ。
そして電話口でにこやかに笑う祥子をいつも見ている長谷川亮一がいた。

部屋に帰り暖房を入れて風呂の湯が溜まるまでの間、
コーヒーで身体を温める祥子は、亮一とのつい1時間前の出来事を
思い出していた。

(どうして、あんなことを....ひどいわ..)

祥子の髪は少し茶色に染めていてレイヤーにカットしてあり、
毎朝出勤前には外巻きにカールするので肩にかかるくらいの長さになるが、
こうして髪を濡らすと、もう少し長く背中に伸びる。
シャワーを終えて寝室に入り、一部が鏡張りになっているクロゼットドア
の前に立った。
いつもは通りすぎるその鏡の前で立ち止まり、胸に巻いたバスタオルを
するっとはずし、ベッドに放り投げた。
見慣れた自分自身の身体ではあったけど、隅々まで目を凝らして見るうちに、
意識がだんだんと離れていき、誰か別の人の視線にすり返られていく
妙な感覚がした。
すっきりと鎖骨の浮き上がった首筋、そのクールな顔に似合わないほど豊かに
ふくらんだ乳房、そして腰のくびれから尻のなだらかなライン。
30歳を少し越えた祥子のプロポーションは、入社当時のまま少しも衰えず、
むしろ年齢に相応しい充分な色気を増していた。
腰から伸びた2本の足の付け根には、柔らかそうな陰毛がシャワーの湯で
少し湿めって、茂みの中のひとすじのラインを浮き出していた。
程よくふくらんだ太股、長く伸びた腿の先端の足先に赤いペディキュアが
みえる。

(亮一さん..どうしたっていうの...)

長谷川は祥子と同期の入社以来、何度かの人事異動を経て、現在は同じフロアに
ある別の部署の課長職についていた。
1時間前、廊下にある給湯室で、残業の合間に入れていたコーヒーの香りの中、
雑談の言葉を封じていきなり祥子の唇を奪った。びっくりして後ずさりする祥子
の腰を引き寄せ、自分の股間に強く押し付けながら言った。

「君が欲しいよ...祥子。」

慌てて出て行く祥子の背中に向かってかすかに聞こえるくらいの小さな声で
呪文を吐くように、俺の女になれと呟いていた。

鏡の中の視線は舐めるように身体を這いつくばり、まるで犯すように迫ってくる
気がした。そして誰のものかわからないその視線は、いつのまにか亮一の
黒い吸い込まれそうなあの瞳に変わっていた。
身体が熱いシャワーで温まってそれがだんだんと冷めていくはずなのに、
火照りはなかなかおさまらない。



第2話

祥子はいつか観た映画の主人公のように、長い真珠のネックレスを宝石箱から
取り出して首につけてみた。ひんやりとした感触が熱い首筋に気持ちいい。
両手で乳房をそれぞれに軽く掴んでみた。
ふわりとした乳房をゆっくりと動かしてみる。
指の間からはみだした乳首はだんだんと硬くなり、まるで柔らかい舌を
欲しがっているようだ。
自分の指を舐めて唾液をつけそれを乳首に軽くおしあてた。
触るか触らないか微妙な力でゆっくりと回す。唾液のついた指先はすぐに乾いた。
真珠の束を持ち上げ丸い小さな粒でまた乳首を軽く押す。
冷たい真珠はすぐに体温で温まり、ころころと乳首を刺激する。

「ぁ.....」

溜息と同時に身体が動く。まっすぐに鏡に向かって立っていた祥子の
頭はのけぞるように天井をみあげる。
鏡に映った自分自身は、厭らしくなく、むしろ美しいと思った。
ネックレスを持つ反対の手を乳房から離し、そのままずらすようにお腹を這って
いく。ウエストのくびれを確認するように流線型に動いた手は、今度は
たっぷりと脂肪のついた片方のお尻を掴んだ。
真珠を離しもう片方の手も身体を舐めながらもうひとつの尻の肉を掴む。

「あぁ....もうだめ...止まらないわ...」

鏡から少し後ずさりし、ベッドの際に座ってまた鏡に向かう。
鏡の向こう側にいる視線を感じながら祥子は自分の姿を確認する。
艶かしい顔をした自分がいた。
背中をぴんと張り、胸を突き出し、両足を軽く開いた。
そして両手で両腿を静かに何度も撫でてみる。
赤いマニキュアがキラキラと白い肌の上を転がった。

真珠の束も乳房の上で踊っているように動く。祥子は鏡の中の視線に
まるで見せるように、両足をだんだんと大きく広げていき、陰毛の中から
祥子自身の秘肉をさらけだした。
無意識の中の素直な意志に反して、口から出る言葉は羞恥に満ちていた。

「ぃゃ....」

身体中の血液が踊るように巡った。
じとっと溶けた蜂蜜のようなものが入り口でこぼれそうになるのを感じるが、
太腿を行ったり来たりして指は陰部をかすめてビキニラインを、
陰毛に触るか触らないかの距離を保って、ゆっくりと這っている。
触りたいけど我慢しているような、じらされている感覚がいっそう祥子の行ないを
高めていった。
自分の口に運んだ中指がぬるぬるとした舌に絡みつきながら奥へはいっていく。
長谷川の唇が祥子の赤い唇をとらえ、唾液が絡みつく。
そしてその舌を吸い込み舐めあげる。
鏡には自分の指にしゃぶりつく姿が映っている。
暖かい舌が音をたてていた。
もう片方の指で我慢の限界にきている祥子自身を愛し始めた。
すでにたっぷりと濡れ、唾液と同じようにぬるぬると熱い。
蜜で濡れて光った指が、クリトリスをくるくると回る。
鏡の中の顔は歪み、見えるはずのない長谷川を見つめていた。
青白い指が股間で動いているのが写る。
一本の長くて細い指の赤い爪先がゆっくりと沈んでいった。

「あぁぁぁ.......」

指をくわえたままの唇から、歓喜の声が漏れる。
柔らかくかき回す、もうすでに自分の指でないその指が、
感じる部分を探し回る。時々ひくひくと動き、
探し当てるとざらざらとした感触が指の腹いっぱいに膨れる。

「あぅぅぅ......」


声にならない声。そして吐息とベッドカバーの擦れる音。
カサブランカが視界から消えて、ベッドにそのまま背中から倒れ込む。
きっと今鏡に写っている私の腰は淫らに動いているのだろう。
意識が遠のき、悦楽の波が祥子を飲み込んで、そして沖へ沖へと連れて行った。

寝室の空気の中に溶けるように達しながら鏡の中の視線にむかって、
激しく呟いた。

「.....亮一.......」



第3話

高層ビルのエレベーターは10階ごとに一箇所8機づつに別れている。
祥子の会社はその3番目のエリアで上がる35階に位置している。
いつもの事だが、朝のエレベーターフロアは人で溢れていた。
また今日から一週間が始まる。週末降っていた雨はすっかりやんで朝の光は
ビルのアナトリウムに降り注ぎ、巨大な吹き抜けに植えられた高木は緑の葉を
反射させてキラキラと霞んだ空気の中で必死で呼吸をしているようだった。
眩しそうにエレベーターを待つ間、高木を見上げていた祥子に声がかかる。

「おはよう、今日もまた麗しいですねぇ。特にそのぴったりとしたスカート。」

「だめよ修ちゃん、そんな事を新人の若い子に言ってごらんなさい、
 セクハラだって 責められるわよ。」

祥子より5歳若い同じ部署にいる飯坂だった。前から祥子に言い寄っているが、
いつも冗談でかわしている仲だ。それが冗談なのか本気なのか、
会社帰りの飲み会で皆の前で平気で「好きだ」なんて言う、
確かに若い男らしい魅力はあるのだが、今の祥子は笑ってごまかしてあげること
しか出来なかった。

「今日も残業になりそうね。」

「そうですね、でもそれだけ長く祥子さんといられる。嬉しいなぁ。」

飯坂はいつもの屈託のない顔で笑った。
課長代理の役につく祥子は、結婚退社をするつもりが、かわいがってもらって
いた上司にひきとめられ、ずるずると仕事を続けていた。
何よりもそのずば抜けた客あしらいと、女であるという武器を最大限に利用し、
大口の顧客をいくつも増やしてきた実績を買われ、1年前に今の役職についている。
オフィスの壁一面に大きな開かない窓がL字に並ぶ。片方の窓辺には隣の
高層ビルが迫って見え、もう片方の窓はすっきりと開けて東京湾が見える。
夕陽はこの隣のビルの方へと落ちる。
そのビルは今、落陽の逆光で黒いシルエットになっていた。

「それじゃ、帰りに一件寄って直帰しますからまた明日ですね。」

「うん、ごめんね修ちゃん、頼むわね。あ、電話..」

ぞろぞろと帰っていく同僚達に向かって片手を振りながら受話器を取った。
フロアを見渡すと遠く窓際からかけている長谷川の姿があった。

「もしもし?あと4人だね。皆が帰るまで待っていられるかな。」

「今夜は主人も帰る日だし、これだけは明日に残したくないのよ。」

祥子は書類を高々に上げて少しきつい言い方で答えた。

「君の旦那さん出張って聞いてたからさ、どこか食事でもと思ったんだよ。」

祥子は何も答えずガチャリと電話を切った。
電話機の上でわざとらしく両手をひろげ肩をあげる仕草をしてみせた。
遠くで苦笑いしている亮一がこっちを見ていた。
かまわず書類を持ちフロアを出て、廊下を歩き反対側にある電算室へ
向かった。まだ3人ほど画面に向かっている。その中の一人に書類を渡しながら
話をしていた。その少し後、亮一が部屋に入ってきた。

「あ、、ここにいたのか小泉君。ちょっとやっかいな事が起きたよ、
 今電話がはいってね...」

大きな声でここまでいうと、奥の会議室を指差して

「ちょっとここ借りるよ。」

祥子をうながし二人で部屋に入っていった。
会議室といっても重役達のそれとは違い長い大きなテーブルがひとつ
置いてあるだけの簡素なミーティングルームだ。
窓からは繁華街側の夜景が少しずつ始まっていた。祥子は椅子に座る。
亮一は電算室側の窓のブライドが閉まっているのを確かめ、そして
祥子に気づかれないように鍵をかけた。

「どうしたの。どこから電話だったの。」

亮一は祥子に近づきながら言った。

「嘘だよ...ごめん..」

心配そうな顔で亮一を見つめていた祥子の顔が一瞬止まった。
そして両手で抱き寄せようとした亮一の顔にむかって手を振り上げた。
しかし、その手を逆にとられると簡単に亮一の腕の中におさまってしまった。



第4話

「声をだしちゃだめだよ、気づかれる。じっとしていて。」
(あの夜の君の自慰は素敵だったよ...)

「ぇ..どうして...」

スーツの上から胸をまさぐり唇で祥子の言葉を封じながら続けた。

「大丈夫..鍵はかけたから...」
(ずっとみていたよ..)

祥子は目眩がして倒れそうになる。スーツの上着はみるみるまに脱がされ
少しワイン色がかった赤いシャツのボタンをじょうずに上からはずしていく亮一。
ブラジャーが見えその豊かな谷間が覗いた。
胸を掴み、祥子の唇に舌をねじ込むと、身体を壁に押しつけて抱擁を続ける。
ブラジャーからつかみ出された乳房に吸い付く亮一を感じながら、閉まったドアの
向こうの様子を見るが、快感の中で目はゆっくりと閉じて行った。
抵抗で固くなった身体がだんだんと緩んでいくのがわかった。
亮一は乳首に吸い付きながらスカートの中に手を入れた。
太股のストッキングの感触を楽しみ、上に向かって手を這わせて行くと、
ストッキングはレースで終わっていてガーターの紐がついていた。
レースとショーツまでのわずかな隙間の素肌の感触が、亮一の欲情の火に
油を注いだ。ぴったりと腰を覆っていたタイトスカートを一気にたくしあげると、
ハイヒールにおさまったすらりと伸びた足、それを隠すストッキングの光沢と
10センチほどのレース部分、ウエストで止まっている白いレースの紐、
そして秘部を隠している小さな布が、あらわになった。

「ぃゃ....みないで...」

「嫌じゃないだろう..身体がそうは言ってないよ..」

祥子は恥ずかしそうな顔をしながら隠れていた欲望をさらけだそうとしていた。
壁にもたれかかったまま片足を上げると、椅子の座にヒールをのせて亮一に
見せるように腿を大きく開いた。両腿の付け根の白い布の中央はすでに湿って
濡れていた。

「厭らしい祥子も..すごく綺麗だよ..」

湿った布に亮一の手がのび、その生暖かい感触と祥子自身の形がはっきりと
指に感じるように、手をぐいぐいと押し付けて動かすと湿り気はどんどんと
増していく。祥子の顔を覗くとその美しい顔の口元は緩み、少し開けた唇の中
に濡れた舌が覗いていた。
その舌に吸い付きながら、片手で乳房を揉みまわし、ショーツに手を滑り込ませる。
茂みを掻き分け蜜の溢れ出ている秘密の場所をまさぐった。
たっぷりと濡らした指で、口を開けた襞の上部の固く膨れたクリトリスを捕らえ
押すと、祥子の溜息が大きくなった。わざと動かさないでいると腰を微妙に
動かしまわしてきた。亮一はたまらなくなり指をヴァギナに沈めた。
奥へ入れたり出したり、クリトリスをまた刺激して、そしてまた奥へ突っ込む。
祥子の中で生き物の様に動く亮一の指が、ざらざらした場所を探り当てると
そこを突き、指の腹でぐいぐいと撫でる。
祥子は唇を噛み、声を必死で堪えている。
ドアの向こうでは電算のプリントの音に混じり時々話し声や笑い声が聞こえる。
一点に集中していた熱い血液がぐるぐると身体中を駆け巡ると、
倒錯した意識の渦の中で祥子は果てていった。

倒れそうになる祥子を抱え椅子に座らせる。
そしてまだ息の荒い唇にいきり立った亮一自身を咥えさせた。
ぬるぬるとした舌が絡みつき、亮一の粘液と唾液が混じりあう。
我慢の限界までくると、今度は会議テーブルにうつぶせに上半身を乗せた。
祥子は両肘で自分の身体を支え、尻をつんと出す。
かろうじて尻の割れ目を隠していた小さな布切れを剥がすと、
布はガーターの紐の場所にひっかかりとまる。
ピンク色に高揚している尻の肉をわし掴みにすると、一瞬指の形にくっきりと
白い肌に戻る。そしてぐっしょりと光った秘部を親指で広げ、亀頭を押し当てて
ゆっくりと沈めていった。抵抗感が亮一を締め付ける。
堪えてうめく祥子の頭が左右に揺れた。
華奢な背中でカールした髪が乱れるの見ながら真っ白な意識の奥で叫びながら
亮一は果てるのだった。



第5話

亮一の望み通りになった。
何事もなく凛と仕事をする祥子を遠くから眺めながら、今日もまた
どんな風に抱こうかと考えるのは至福の時だった。
会社の中のあらゆる場所で愛し合った。
二人だけの秘密は守られ、誰にも見られず悟られず、何度も愛し合った。
飲み会を抜け出してもホテルではなく、必ず会社に戻り抱き合った。
この日もそうだった。誰も居ない会社のデスクの上で激しく突かれていた。
祥子は尻を乗せ両足を大きく開き、亮一の固いペニスをそのヴァギナに咥え
こんでいた。ばさばさと書類が落ち、ペンが散らばる。
誰かがいる時と違い、声を出せる開放感で祥子はいつにも増して大胆になる。

「いぃ...すごくいぃ...あぁ..もっと..」

しんと静まりかえった室内に祥子の吐息と声が響く。
しかし今夜、その秘密は破られた。
ひとりの男が唾を飲み込みながらその様子を見ていたのだ。
祥子の部下の飯坂だった。
シャツのボタンがはずれ乳房を揺らし、天井を見上げのけぞっている祥子。
亮一の肘に乗せている両足の先のハイヒールが暗闇の中で揺れている。
初めて目にする祥子の淫らしい姿態に、声も出せずに立っていた。
きびきびと働く祥子の姿を思い出す。さっきまで仕事で座っていたそのデスクに、
今こうして女の部分を曝け出し泣くように叫んでいる祥子がいる。
飯坂の股間は膨れ、ズボンの上から摩るのがやっとだった。
亮一は祥子から抜き取ると今度は後ろにさせた。
月の明かりが差し込んでいる部屋の隅、閉じられたいたはずのドアが少し開いて
いるのに気がついたのは亮一だった。
その顔を確認すると何を思ったのか、手を振り招き入れる仕草をした。
飯坂はまたごくりと唾を飲み込み、うろたえるが素直に身体が動く。
亮一は後ろから祥子の股間に指を入れ、掻き回すように激しく動かしている。
夢中になっている祥子の背後に飯坂が迫ってくる。
亮一は指を抜いた。どろどろと蜜が暗闇で光っている。
飯坂の舌がその蜜をすくうように這うと、淫靡な音が喘ぎに交じる。

「あぁ..もぅだめ..また入れてぇぇ..」

祥子の声に催促されてズボンを下ろし、両方の尻の肉を強く掴む。
そして初めて見るいつもはスカートで隠されてる形の良い尻に夢中で沈める飯坂。
激しく何度も抜き入れする姿を横目で見ながら亮一はデスクの反対側に歩いていく。
声を荒げて息をする祥子を正面にとらえると言った。

「素敵だよ...祥子...」

目を開けた意識が遠のく視界に、亮一の顔が迫って見えた。
はっとして一瞬凍りつく祥子。
何事が起きたのか悟ったが、悦楽の中で感覚が麻痺すると後ろの飯坂がもう
誰でもいいと思った。二人の男が見つめる中で、祥子は達するのだった。

「誰なの....」

うつぶせにデスクにしがみついたまま呟いた。
萎えたペニスを抜き取り飯坂は黙って出て行った。

「今夜は最高だったね..いつもは見れないバックから突かれてる君の顔を
 たっぷりとおがませてもらったよ。」

桜の季節は過ぎ、日増しに暖かくなっていく。
幾度となく繰り返してきた二人の行いも、一人の男が加わるとよりいっそうと
秘密めいたものになるものだ。
しかも、まだ祥子はあれが誰だったのか、どんな男なのか知らないでいるのだ。
そして今夜も亮一との密会の約束がある。あの男はまた来るのだろうか。
下着を入念に選び、スカートをたくし上げ、ストッキングをするすると履いていく。
最後にガーターのベルトを止めながら鏡を覗く。
あの日から鏡の中の瞳は4つに増えていた。
二人の違う男の顔がこちらを獣のように見ている。
祥子はそれだけでもう自分自身が溢れそうになるのを感じるのだった。

「今夜は幹部が接待だよ..重役室で待っててくれ..」

いつものように内線電話で知らせてきた。
身体が疼く。亮一の声を聞くだけで、亮一の目を見るだけで、
亮一とすれ違うだけで、もう身体の芯が熱くなる祥子だった。
重役の机は大部屋と違いマホガニー、椅子も茶色の皮張りだ。
確かにシックだが絵に描いたようななんの変哲もない部屋。
こんなところにお金をかけるくらいなら、コーヒーマシーンとコピー機を
新しいのに変えて欲しいわ。応接セットのソファーに腰掛け部屋を見渡し
ながら考えていた。



第6話

「おまたせ..」

うとうとしていた祥子の目に亮一の手がかかった。

「あ...びっくりしたわ..」

「ちょっと待って、そのまま目を瞑って..」

真っ黒な安眠マスクを取り出すと祥子の目にかける。

「いいこだね..今夜は面白いことを考えたからね」

「わかったわ..言う通りにするわ..」

これもするんだと、耳栓を渡す。祥子は黙ってつける。
真っ暗で何も聞こえない世界。身体が不安定に揺れてしまう。
亮一は抱きかかえるようにしながら、少しづつ服を脱がしていった。
ブラジャー、ショーツ、ガーター、ストッキングとすべてが黒のレースだった。
ヒールも黒で、真っ白な肌に良く似合っていた。
そのままの姿で皮張りの椅子に座らせ、肘掛に片足づつ開いてのせた。
そしてポケットの中からロープを出して、それぞれに縛る。
両手も腿のロープにしっかりと結ばれ、身動きが出来なくなった。

「恥ずかしい...私の格好...痛い..」

「ねぇ..どうするの..怖いわ..」

いつものようにその赤い唇を舌でこじあけ優しく愛撫する。
首筋を、肩を、乳房の谷間を、知り尽くした亮一の舌先が身体の線をなぞっていく。
祥子の吐息が微かに漏れる。それを合図にしたかのように、ドアのノブが
静かに音をたてながら回った。あの飯坂だった。
そしてその後ろには数人の男達が靴音をたてないように忍び足で入ってくる。
男達の熱い視線、溜息と小声が小さな部屋に響いた。

男達の気配に気づくはずもない祥子はショーツの股間に指をあてて静かに動かす
亮一にこたえて、自分の声が聞こえないせいなのか、
いつにも増して荒々しく喘いでいる。

「こんなの..はじめてよ.......たまらないわ..あぅ....いぃ...」

男達の目の前でよく見えるようにショーツの上から指を押し付ける。
薄いレースが濡れて割れ目に食い込んでいく。
身動き出来ずにいる祥子は、肩と髪を揺らしながら唇を噛んだ。
飯坂は我慢できなくなり、亮一の変わりにショーツの脇から指を入れる。

「あぁぁぁ....」

亮一が飯坂にかわって耳元で言う。

「すごいよ..こんなにいっぱい濡れてるよ..」

「あぁん..そんなにうごかしちゃうと..だめぇ..」

飯坂の指は止まらずにゆっくりと上下している。亮一が椅子の後ろに回り込み
胸を掴んだ。しばらくブラの上から揉んだ後、フロントホックをはずすと乳房が
こぼれおちた。乳首を摘み指を押し付ける。
股間の指の感触と、乳房を愛撫する手の感触の不自然な感覚に、やっと気づく祥子。

「だれなの..もしかして..あの夜の.......」

亮一は男達に向って音をたてないよう言い、祥子の耳栓をはずす。

「そうだよ 祥子...あの晩の..誰だと思う?」

「わからない...あぁぁ...だめぇ..」

飯坂は激しく指を動かしながら呟くのだった。

「僕ですよ..祥子さん...」

羞恥心の中で気が狂いそうになる。頭を振ってマスクを必死で取ろうとするが、
とれない。

「僕のが欲しいんだね..ここが欲しいっていってるよ...」

「いやぁ...ん.....」

椅子のきしむ音、祥子は抵抗しようとするが、ロープが食いこんでいくだけだ。
亮一はデスクの中から鋏を取り出す。

「この前は後ろからだったから今度は前からよく見せてあげるんだよ」

鋏の冷たい感触で声がつまりそうになる。小さな布切れは簡単に切れた。
大きく広げられた祥子自身が男達の目の前にさらけだされた。
飯坂は尻を引き寄せて、舌を這わせる。淫靡な音が男達を挑発するようだ。

「あぁ...いやぁぁあああ...」

言葉とは裏腹に快感で身がよじれそうになる祥子の頭の中に、あの寝室の
鏡の前の自分をだぶらせていた。二人の男の視線をかんじながら、
何度もいってしまう自分。この時をまるで望んでいたかのように、
亮一と飯坂、そして男達の目の前で悦びに震えている。

「いぃぃ...すごいぃ...あぁぁ...」

二人の男の舌と指が祥子の真っ白な肌の上を舐めまわす。
寝室の鏡の中には、二人の男の視線がこちらをみてる。
マスクで見えない真っ暗な世界に、鏡だけが写っている。
その鏡の中の4つの瞳が祥子を襲う。そして手が伸び鏡を突き破る。
ベッドの上で自慰をする祥子の腕を取り引きずり込もうとする。
やがて力尽き鏡の中に連れ込まれ、舌で、指で、ペニスで、獣のような
二人の男に犯されていく。

「あぁぁ.....こんなの....はじめて...いぃぃ...」

やがて瞳は4つが6つに、6つが8つに、
そして10、12、14、16...............。
混乱した感覚の中、真っ黒な闇に身体はどんどんと宙に浮き、
そして今度は底知れない奈落に落ちていくのだった。
果てる時の祥子の最後の声が小さく響く。小刻みに震える身体。
傾く肩と頭。ふわっと髪が宙に舞う。

亮一はそっと、マスクをはずした。
美しく歪んだその顔、閉じていたまつげが濡れている。
瞼に明るさが戻るのを感じ、祥子は少しづつ開いていく。
亮一の顔、飯坂の顔、そして二人の肩越しにはじめてみる男達の顔を
確認すると、弱々しくふっと微笑んで、また瞼を閉じていった。
祥子は完全に気を失った.......。






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