官能小説『父親の面影を追い求め』

知佳 作



桂子(image)





1、明けても暮れても水仕事の日々

バツイチの母に育てられた桂子。 母子家庭で生活保護を受けていたにもかかわらずこの母は男にだらしなく、ろくに働きもしない男を引き込んでまるで夫婦のような暮らしをしていた。 法的には許されていない。 おまけに博打好きで年中パチンコ屋に入り浸っていて、しかもアルコール依存症。 絵に描いたような育児放棄の中で育てられた。 お金がないから中卒で働かされた。 どこの職場でも懸命に働こうとしてくれているのにバカにされこき使われるものだから長続きしない。 だから職を転々とした。
 佳子がこの頃務めていたのはガソリンスタンド。
仕事の多くは何と言っても水仕事。
朝から晩まで車の窓拭きと給油、灰皿の洗浄で
しかも、このとき使ったタオルの洗濯は女というたったそれだけの理由で桂子の役目に回されていた。

屋根があるとはいえ1日中外仕事、当然日焼けもしたが、それ以上に水仕事で手はまるでお百姓さんの野良仕事の手のようにボロボロ、爪の根元付近は常に逆剥けが出来て血が滲んでいたし、深く刻み込まれた皺には洗っても落ちないほどの汚れが付着して皸(あかぎれ)ていて手首から先は年中霜焼けのごとく腫れていた。

おまけに着る服は常に油が付着するためドロドロで、替えがないため雨の日でも洗濯をしなければならなかった。
真っ黒な顔、ボロボロの手に油がにじんだツナギとくれば男が嫌う要素が充満しているように桂子には思え、自然と接客態度も暗くなったし、同僚にはほとんど無駄口をきかなくなっていた。
男性客や従業員に笑顔を振りまくことをかたくなに拒否し続けていたわけである。

彼女は生まれや育ちが上述の如くだから多少ネクラな面はあるものの、実際には穏やかで働くこと自体苦と思っていない。
体型は女性としては少し背が高く、お尻や胸はどちらかと言えば豊かだったがそれを惹きたてる何かをまだこの時は持たなかった。
この双方が災いしてか、今の旦那以外口説こうとしてくれた男はいなかったのである。 旦那と出逢うまで未通だったのである。

父親の面影を追い求め
 旦那は桂子より12歳年上、そう一回りも歳上の 190センチ近い一回りも巨躯の男、しかも彼も中卒で土木関係の仕事についていた。
彼女がたまたま喫茶店のアルバイトをしているときに出逢い、というより声を掛けられ父親のような見た目に気を許し口を利くようになり口説かれるがまま変なところに連れ込まれ、躰の関係を持たされ疑念を抱くことなく結婚に至っている。

桂子が犯され孕まされたのは未だ18の時のことだから、もしも現代にそのような淫行の事実があれば結婚どころではなかったろう。

大人びた男性に焦がれるところもあったが普通に恋愛をしてみたいという気持ちも心のどこかにあった。
桂子ははだから、結婚を機にというより父親のような男に孕まされ、オンナにされたことにより恋愛感情が芽生えたと言ってよい。

あれほど母の振る舞いを嫌っていたはずなのに、この夫となる男も仕事以外家事の手伝いなどまるでせず、酒は浴びるほど呑んだ。
結婚すれば働かなくても食っていけると思っていたのに、酒代と博打代捻出のため益々働かされた。
意志薄弱がゆえの早婚で、しかも誰にも相談できず男勝りのように働かされたことで、自身体型から来てると勘違いし一層ネクラに拍車がかかり周囲から毛嫌いされ、皮肉なことに逆に婚外恋愛に焦がれるようになっていったのである。

ちゃんと化粧して明るくふるまえばかわいいのに、このネクラな態度がいけないと久美に言われ、帽子を目深にかぶって表情を隠すようにしていたがこれをまず止めた。 化粧を久美に習い、見様見真似で始めてみた。
車の出入りに際しのゼスチャーは大きな声を出し、満面の笑顔で、大きな動作で行った。
こうして少しずつ女磨きを始めて数日後、同僚が声をかけてきてくれるようになった。

その同僚に桂子は思い切って洗濯を一緒にしてくれないかと頼み込んでみた。 久美がそうしろと言ったからである。
男も洗濯ぐらいやるもんだという下目線じゃなく、あくまで「お願い」で通した。
反応は上々で、その同僚は自分の仕事をかまけ桂子のサポートをしてくれるようになっていったのである。

言い方変えれば独身男が人妻と知りつつ桂子のあとをつけまわすようになっていったのである。
このことは桂子の作業量をぐっと減らす効果もあったしきれいに装うことの大切さも伝わってきたが、頑張ってくれる同僚に素直に感謝の気持ちを伝えるきっかけも自然に作れたのである。
手に手を取るような、まるで意気投合したカップルがお互いを意識しつつ もつれ合いながらの作業を楽しむかのような日々が続いた。

休憩時間など、必ずと言っていいほど彼からのささやかな差し入れがあった。
そのことで佳子はお返しにと懸命になって彼のために久美からの頂き物で装ったのである。 仕事時間がデートの時間。
作業服のボタンをキッチリ上まで閉じ豊かな胸が見えないようにしていたものをTシャツだけで作業したりして彼の反応を探った。

他人とは言え独身男性の、既婚女性に対してでも懸命になってくれる姿に、つい夢中になってしまっていた。
結婚し、子を生したことで忘れかけていた女の男性への意識が再び芽生え始めていた。
「・・・あと一押し、もう一押し・・・」祈るしかなかった。

久美の忠告を聞き入れ、女性として装う努力をしてきた。
望んだ結果に近づきつつあったものの、今度はそれまで意識すらしなかったオンナの部分が苦しいと訴えてきている。
若く、しかも周囲の女性に比べ健常そのものということがどれほどの苦しみを我が身に与えるかを考えもしなかったからであった。

久美の忠告を懸命に守り続ける日々が続いたある日 事件は起こった。 一台の高級車が予約洗車に入ってきたのである。
洗車などの、いわゆる水仕事は桂子の役目と暗黙の了解があったし、この高級車は業界 つまりスジの車で担当者を指定されていた。 桂子は車を洗車機のある場所に、休憩する運転手さんに代わって高級車のハンドルを握り移動させた。
手洗いの洗車だろうが自動洗車だろうが、その時間 つまりスジの車を手入れする時間だけは洗車にかかりっきりになってよかった。 
洗車中は乗ったまま待機し、終わると拭き取りにかかり室内の掃除を済ますのが通例だったのだが・・・

その車を洗車機に固定しスイッチを入れる、ブラシが回ろうとする直前、突然助手席のドアが開き同僚が乗り込んできたのである。
洗車が始まりブラシが車を洗い始めると、泡で外からよく見えないことを幸いに同僚は桂子を引き寄せコクってきた。コクるというより言葉と同時にいきなり手が伸びていたといったほうが正解かもしれないと桂子はのちに述べたが・・・時間が限られているからだろう、焦りもあったのだろう、すごい騒音の中返事も聞かぬうちに次々と桂子の中に手が割り込んできて、洗車が終わるころには心までも丸裸にされてしまっていたという。



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<筆者知佳さんのブログ>

元ヤン介護士 知佳さん。 友人久美さんが語る実話「高原ホテル」や創作小説「入谷村の淫習」など

『【知佳の美貌録】高原ホテル別版 艶本「知佳」』



女衒の家系に生まれ、それは売られていった女たちの呪いなのか、輪廻の炎は運命の高原ホテルへ彼女をいざなう……

『Japanese-wifeblog』










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