第2話「失恋後、自分を見つける旅に出た加奈子」

 高校を卒業し運も手伝ってか全国的に名前の知れ渡った企業に就職できた。 あれから10年、27歳になった加奈子に焦りがないといえば噓になる。

 恋愛は何度かしたが長くは続かなかった。 そういったことは好きなので様々な手を使って秘かに相手探しをした。 合コンも社の内外を問わず誘われれば素直に応じた。 だが、年数を経るにしたがって居心地が悪くなった。 相変わらず会社側は加奈子を宣伝広告に使ってはくれるが、それとていつまでもこんな調子で年齢を経ててもいけないことはわかっていた。 わかってはいたがちやほやしてくれる人が周囲にいるというだけでこういった自堕落な生活を止められなかったのだ。

「今度紹介する相手はイケメン」
などと誘われると、まだ見ぬ将来の旦那像を求め、つい出かけてしまうのだ。 社内で異性と恋愛問題でトラブルを引き起こせば、もうそれだけで居づらくなるので、加奈子は表面上は極力社外の男との出会いを求めた。 見栄っ張りゆえに、いわゆる3高と呼ばれる男たちが来てくれることを期待し、合コンを繰り返した。

 しかし、見た目が良いからと言って、心までそうとは限らない。 ちやほやされ育ってきたがゆえに他人の痛みを感じたこともない。 そんな奴らは平気で無神経な言葉を口にする。
それゆえ加奈子は、こういった出会いで逆に傷つくこともあった。 もうこんなバカなことは止めたいという気持ちと、周囲の女たちに負けない男を早く見つけなければと焦る気持ちの板挟みになり、加奈子の心はほんの少しづつ蝕まれていった。 だが、彼女自身周囲に比べどちらかというと一見きれいなものだからそのおごりゆえか周囲の人を傷つけていることに気づくことはなかった。

 たまたま出かけた先で知り合った年上の女性に紹介してもらった男がいた。 職業は不動産何系と、仕事内容は別としてそれ相応に稼ぎは良く、ルクスもガタイも良かったので、加奈子はもうそれだけで夢中になった。 この先何かあっても男がやらかすであろう責任の一端は紹介してくれた彼女にあると思っていたからだ。

 その彼にデートに誘われ有頂天になり、全身を加奈子としては過去、これ以上ないほどめかしこんで出かけた。 映画を見た後、ホテルのレストランが予約してあり、加奈子はもうそれだけでうっとりしてしまった。 彼の話しの中に出てくる、高級マンションに住む新婚夫婦を夢に描いた。 友達にも自慢できるし、そうなればしつこく躰の関係を求めてくる部長だって袖にできる。 すっかり虚栄心の塊になっていた。

 しかしそんな夢も希望も彼の勝手な振る舞いと、加奈子の思い込みの強さでご破算になってしまった。 レストランでの食事のあと、その流れで予約してあった部屋に誘われひとつになった。 加奈子にとって計画は順風満帆に思えた。 ところがそれからというもの男の態度は変わっていった。 加奈子のどこが悪かったのか、彼は加奈子を抱こうとしなくなったばかりか加奈子の誕生日すら忘れどこかをほっつき歩いてた。

「私への興味が失せたってこと? 他に好きな人でもできたってこと? 私の誕生日を忘れるなんて、最低」
加奈子の背に向かって彼は意味不明な言い訳をしたが、その時にはもう訊く耳を持たなかった。 幾人もの男と関係を持った加奈子だったが、結婚を真剣に考えたのは彼が初めてだった。 それだけにいたくプライドを傷つけられたような気になった。

 周囲の目もそうなら、加奈子自身も本当に3高の男が好きなのか、それともライバルの女どもに向かっての見栄だったのか、自分でもわからなくなっていった。

 男のために通い詰めた料理教室も、そして全身脱毛やジム通いも無駄だと知って一切止めた。 残り少ない20代を振り返り、いったいこれまで何をやっていたんだろうと、ふと虚しさを覚えた。 そんな時立ち寄った本屋さんで手に取ったのが対馬の本だった。 山を真っ白にし咲き乱れるヒトツバタゴを見ている、ほんのわずかな時間の間に、もう旅に出ようと決めてしまっていた。

 トンネルだの隧道の類は開通した折には記念碑のような扱いをする。 比田勝トンネルもそうだったようで、入り口付近の道路わきに桜の木が植えられていた。 しかし、周囲の山の木が生い茂り、樹勢はすっかり失われ、そこここにわずかばかり花が咲いている程度だった。 時が経ち、誰も桜の木など見向きもしなくなったからだろうと思われた。 そんなだから、トンネルを出た辺りなど植えられていただろう桜は貧相過ぎて、まるで雑木に見えたほどだ。

「あれ~……いつの間にこんな道……変だなあ~……どこで間違っちゃったんだろう……」
加奈子はふと立ち止まり、周囲を見回した。 それまで舗装だった道も次第に狭くなり、ほんの少し先で地道に変わり、更にその先では道そのものが藪のようになっている。 暗くてじめじめしたトンネルを一刻も早く出たかったものだから、トンネルを抜けた瞬間、見通しの良いほうへ良いほうへと足を進め、どうやら脇道に逸れてしまったようなのだ。

 だが、その地道の周辺は小山になっていて、振り返ると本道と思われる辺りは今いるところと違い聳え立つ山々。 普通に考えればこちらが本道に思えたが道が途絶えてしまっている。 果たしてこの道をずんずん進んで良いものやら迷いはしたが、これも旅だと歩を進めた。

 わずかばかりの小藪を抜けると目の前に大海原が広がっていた。 真っ白な砂地の浜に 「美宇田浜海水浴場」 の立て看板が立っていた。 海は透き通るような美しさだが、このあたりの人たちは海水浴など興味ないのか人の入った気配がまずもってない。 しかしその分手つかずの大自然の美しさが残されていた。



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