Simpson 作

『Twin's Story 9 "Almond Chocolate Time"』

《1 バースデーパーティ》

 風薫る5月。『Simpson's Chocolate House』のプラタナスの木は、今その鮮やかな緑の葉をいっぱいに広げていた。そしてそれは心地よい風にさわさわと一斉に揺らいでいた。
 店の入り口脇に立てられたインフォメーション・プレートには、オリジナルのアーモンド入りチョコレートの写真が貼られている。

「このアーモンド入りチョコレートはね、」マユミがドアのガラスを磨いていた真雪に話しかけた。「うちの一番古い商品の一つなんだよ」
「へえ、そうなんだ」真雪は手を止めた。
「あなたのグランパが日本で修行していた頃から、彼とグランマが一番力を入れて作り上げてきたものなんだって」
「おいしいよね、確かに。このアーモンド入りチョコレート」
「あたしも感動したよ、初めて頂いた時」マユミは懐かしそうに言った。「もう40年近くも変わらない味、それにパッケージなんだってよ」
「歴史を感じるね」
「でも、お店やっていくには、古い物と新しい物とを上手にミックスさせていかなきゃいけないの」
 真雪は腰を伸ばして、建物正面に掛けられた大きな店の看板を見上げた。「あたし、この店、そのままでも十分だと思うけどね」
「『古い伝統にばかり捕らわれてはいけない』っていうのは、グランパの口癖。でもグランマの口癖は『古くて価値のある物をないがしろにしてはいけない』」
「正反対だね」
「だからうまくいってるんだよ、きっと」



 シンプソン家の離れ-店の裏にある別宅-では、二人の人物のためのバースデーパーティの準備が進められていた。

「ルナの誕生日が父さんのの二日後だったなんてね」健太郎が言った。
「ほんまに奇遇やな。で、春菜さんは、何時頃来はんねん?」
「六時頃に来るって言ってたよ」
「そうか。もちろん泊まっていくんやろ? うちに」
 健太郎は少し照れたように言った。「そのはずだけど」
 ケネスは時計を見た。「もうすぐやな。ほたらわい、アトリエに行ってケーキ仕上げてくるよってにな」
「うん。よろしく」


 この街の老舗スイーツ店『Simpson's Chocolate House』の現在のメインシェフはケネス・シンプソン(39)。この店を開業した彼の父アルバートとシヅ子の一人息子だ。アルバートはカナダ人。来日して大阪でショコラティエの修行をしている時にシヅ子と知り合い結婚した。一時祖国カナダでチョコレートハウスを開いていたアルバートとシヅ子は、息子のケネスが17歳になった時、日本のここに店を新たに開店し、たちまち評判になって、今では押しも押されもせぬ名スイーツ店に成長していた。
 それから22年が経ち、今は息子のケネスも39歳。一人前のショコラティエとして妻のマユミと共に店を切り盛りしていた。

 そのマユミとケネスが知り合ったのは、彼が17の時。カナダでも優秀なスイマーだったケネスが、部活留学生として一時来日していた時に、マユミの家にホームステイしたのが最初の出会いだった。マユミには双子の兄ケンジがいた。そのケンジも高校水泳部でかなりの活躍をしていて、ケネスはその高校で数週間ケンジと一緒に水泳指導を受けていたというわけだ。
 出会った当初からケンジとケネスは意気投合し、すぐに親しくなった。であるから、ケネスはもともとケンジの友人という立場だった。
 高二の夏、留学期間最後の3日間、ケンジ、マユミ兄妹の住む海棠家にホームステイしたケネスは、その後一度カナダに帰国したが、明くる年の春に父アルバートの決意でケンジたちの住む町に家族で引っ越し、店を構えて永住することになったのだった。

 ケネスとマユミの間には双子の兄妹健太郎と真雪(いずれも18)がいる。この3月に同じ工業高等学校を卒業し、健太郎は家業を継ぐべくお菓子作りの専門学校、真雪は動物飼育のノウハウを学ぶ学校に通い始めたところだ。
 健太郎には高校三年生の時から付き合っている月影春菜という眼鏡娘がいる。彼女も健太郎兄妹と同じ工業高校でデザイン科に在籍していて、今はインテリア・コーディネーターの専門学校に通っている。
 その春菜とは高校時代からの友人である、健太郎の双子の妹真雪は、母親マユミの兄、つまり本人にとっては伯父に当たる海棠ケンジと妻ミカの息子の海棠龍(14=中三)と恋人同士。龍は真雪にとってはいとこにあたるわけだが、昨年、龍が中二の夏に真雪から告白して交際が始まった。

 今日のバースデーパーティの主役の一人である春菜は、たびたびこうしてシンプソン家に呼ばれ、恋人の健太郎のみならず、両親のケネス、マユミとももうすっかり顔なじみになっていた。


「よく来たわね、春菜さん。待ってたんだよ」マユミが笑顔で春菜を迎えた。
「すみません、私まで呼んでいただいて……」
「いや、ルナがメインゲストだから。父さんはついでだ、ついで」
「何やて?」健太郎の背後から声がした。
「あ、いたの、父さん」
「ついでやと? わかった。もうお前にはこのケーキ、食わしたらへん」ケネスの手には二段重ねのチョコレートケーキが抱えられていた。
「ご、ごめんごめん。どっちもメイン。メインだから」
「さ、あがって、春菜さん」マユミが春菜を促した。

 その時、表で声がした。「来たよー」
「おお、龍、それにケンジおじにミカさんも。遅かったね」健太郎が言った。
「ごめんごめん、母さんの着替えに手間取っちゃって」
「イブニングドレスにでも着替えてたんか? ミカ姉」ケネスがウィンクしながら言った。
「そ、あんたとダンスしなきゃいけないかと思うと、最高におしゃれしたくもなるだろ」ミカはいつものラフな格好だった。
「変わったドレスやな」
「俺と踊る時はいつもこんな格好だぜ」ケンジが笑った。
「早くあがりなよ、みんな」中の真雪が言った。

 こうしていつも家族に温かく迎え入れられている春菜は、この明るく、活気があって妙に楽しげなシンプソン家と海棠家の家族の雰囲気が大好きだった。



 食卓の大きなバースデーケーキのろうそくを、春菜とケネスが一緒に吹き消した。
「おめでとー!」
 大きな拍手が巻き起こった。
「おおきに、みんな。ここまで生かしてもろうて」ケネスが言った。
「ありがとうございます」春菜も小さな声で言った。
「春菜さんは花の19。ケニー叔父さんは幾つになったの?」龍が早速テーブルのチキンに手を伸ばしながら訊いた。
「ケネスは39だよね」ミカが言った。「一番の働き盛り、ってとこだな」
「男盛りやんか、ミカ姉。色気ムンムンやろ?」
「いや、パパから色気出されてもねー」真雪が横目で父親を見ながら言った。
「そやけど、わいもいつお迎えが来るかわからんな」
「いや、早すぎるから」健太郎が言った。「男盛りじゃなかったのかよ」
「そういう気持ちでおらなあかん、っちゅうことやんか。人間」
「そうだぞ、」ケンジが口を開いた。「もし、今自分の身に何かあったら、と思うと、お前ら子どもたちをしっかり一人前に育てなきゃいけない、って改めて思うってもんだ」
「龍くんはしっかり育ってるじゃない」マユミが言った。
「健太郎も真雪もな」ミカが言った。「どうだ、健太郎。お前ケーキの専門学校に通ってるけど」
「ケーキだけの学校じゃないよ。一年目はもちろんいろんな生地の勉強や焼き方、デコレーションの仕方なんかを学ぶけど、二年目からはチョコレートや砂糖を使ったお菓子の専門の勉強をすることになってる」
「ちゃんとこの店の後を継ぐんだ。ケン兄。えらいよね」龍が言った。
「わいとしては、早う実践力を身につけさせたいところなんやけどな。なにしろわい自身親父直伝のテクニックしか知らへんやろ? 健太郎にはもっと広い知識が必要や、思てな」
「嬉しいもんだろ? 自分の後を継いでくれるってさ」ミカが言った。
「この店も健太郎で三代目、っちゅうことになるからなあ。ようもまあ、潰れもせんと続いてるもんや」
「大丈夫だと思います」ウーロン茶を飲んでいた春菜が言った。「こういうチョコレート専門店って、客足が途絶えないから長く続く、って言うじゃありませんか。カナダのトーマス・ハアスなんか、もう100年ぐらいお菓子を作ってるそうですし」
「春菜さん、よう知っとるな。そうなんや。トーマス・ハアスのチョコレートハウスはバンクーバーにあるんやけどな、ハアス家は今の三代前にカフェをオープンしてんねん。トーマスのひい爺さんの代にやで」
「この街には唯一だからな、こんな店」ミカが言った。「いっつも女子高生や暇な主婦連中で賑わってるじゃないか」

「わいにはな、野望があんねん」ケネスが目を輝かせて言った。
「野望?」
「そや。客層を広げたい。そのためにやな、」ケネスが怪しげな笑みを浮かべた。「春菜さんを利用すんねん」
「えっ? 私?」春菜はびっくりして顔を上げた。
「若い男ゲット大作戦や」
「若い男?」
「それもアキバ系オタクの男連中」
「何だよそれ」ケンジが呆れて言った。
「知らんのか? お前、アキバ系オタクは、一つのモノに惚れ込んだらとことん時間と金を使いよる。それを利用せん手はないやろ?」

「だんだんわかってきた、あたし」真雪がにやにやしながら言った。
「え? 何、なに?」春菜がケネスと真雪の顔を交互に見てそわそわし始めた。
「何も春菜さんじゃなくても、お前んちには真雪がいるだろ?」ミカが言った。
「真雪はあてにならん」
「何でだよ」ケンジが言った。
「こいつは将来、動物の世話師になるつもりやんか」
「確かに。今は動物相手の専門学校に通ってるからな」
「家畜臭い娘に萌えるオタクはおれへん」
「悪かったね家畜臭くて」真雪が言った。
「おまけに、真雪はいずれは龍のモンになってまう。既になっとるけどな」
 龍は頭を掻いた。

「そやから、春菜さんに白羽の矢を立てたっちゅうわけや」
「春菜さんはデザインの専門学校に通ってるんだよね」ケンジが訊いた。
「はい。やっぱり絵の勉強は続けたいし。先々インテリア・デザイナーになるのが今の一番の夢なんです」
「みてみい、役に立つやろ? この店の内装も、春菜さんに頼んでもっと垢抜けたもんにしよう、思てるねん」
「ちょっと待て。アキバ系オタクの話はどうなったんだ?」
「おお、そうやった」ケネスが手を打った。「あのな、春菜さんにメイドの格好をさせて、客を引く」
「ええっ!」
「賛成!」真雪がすかさず手を挙げた。「あたしも前から思ってた。高校ん時から。春菜ほどメイド服が似合う女の子、いないって」
「真雪自身がいわゆるオタクだからなー。その見解はあんまり参考にならないかも……」龍がつぶやいた。
「何であたしがオタクなんだよ、龍」真雪は隣に座った龍を睨んで言った。
「俺の乳首に絆創膏貼りつけて喜んでたのはどこの誰だい?」
「やだ、そんなことしてたの? 真雪」マユミが口を押さえて恥ずかしそうに言った。
「えへへ。だって、いじりたくなるじゃん、龍を見てると」

「そんな訳でや、春菜さんがうちに来てくれはった暁には、可愛いピンクのメイド服着てもろうて、店内にいてもらうことにしとる。何ならすぐにでも、バイトっちゅうことで」
「父さん、勝手にそんな……」健太郎が心底呆れて言った。「何だよ、ピンクのメイド服って……。うちはいつからそんな怪しげなメイド喫茶になったんだい?」
「ええやんか。わいの夢や、夢。死ぬまでに実現させたい」
「つまり、ケニー叔父さんもメイド好きのオタクの一種だったってことなんだね」龍が笑いながら言った。
「大丈夫。春菜なら絶対ウける。客層が広がること間違いなしだよ」真雪が楽しげに言った。「だいいち、春菜の『月影春菜』っていう名前からして、美少女アニメの主人公的じゃん」
「それもそうだな」ケンジが言った。「何だかかっこいいな。日頃は地味だが、いざとなったらすごい力を発揮する、って感じがするな。で、どうなんだ? 健太郎」
「え? どうって? 何のこと?」
「春菜さんのすごい力、って、何だ?」
「絵の才能に決まってるじゃん。別にルナはそれを日頃隠してたりしないけどね」

「ところで、何でお前春菜さんのコトを『ルナ』って・・・、ああ、そうか!」ミカが言った。「『はるな』の『ルナ』な。なるほど」
「それに名字の『月(luna)』の意味もかけてあるんだ」
「おお! 深いね」ミカが賞賛の拍手を贈った。


「ところでさ、」龍がテーブルの真ん中のケーキに身を乗り出して言った。「このケーキ、」
「何や? 龍。ケーキになんかついとるか?」
「うん、ついてる。ここに、ケニー叔父さんと春菜さんの名前が書かれているのはわかるんだけどさ、」
「今日は二人のバースデーパーティやないか。何か文句あるんか?」
「いや、その二人の名前の間に、何でハートマークがあるのさ」

「ほんとだ」健太郎もケーキをのぞき込んで言った。「これじゃまるで、二人が愛し合ってるみたいじゃないか」
「いかんのかい、愛し合ったら」
「いや、駄目だろ、普通に」健太郎が反抗的に言った。
「お前、いやらしことするだけが愛し合うんとちゃうねんぞ。わいは、いずれうちの娘になる春菜さんを、義理の父親として、愛しとるんやないか。何考えとんねん。ほんま。ケンのエッチ」
「何言ってるんだ、まったく」
「それにな、自分のバースデーケーキを自分で作らなあかんむなしさが、お前にわかるか? そのハートマークはな、お前に対するささやかな当てつけのしるしやんか」
「だって、父さん手伝わせてくれないじゃないか。いつも」
「当たり前や。みんなに食わせるケーキはお前にはまだ作らすわけにはいかん」

「ほんとに頑固なんだから」隣に座っていたマユミが笑いながら階段下のキッチンスペースに立った。真雪も立ち上がった。二人は湯を沸かし、コーヒーを淹れ始めた。
「私、こんな芸術的なケーキ、初めて見ました」春菜が言った。
「え?」健太郎が春菜の顔を見た。「芸術的?」
「切り分けるのがもったいないぐらい。お父さまのセンス、素晴らしい……」
「みてみい、さすが芸術家や。このケーキの素晴らしさは誰にでもわかるもんやないんやなー。あーむなし」ケネスは腕を組み、目を閉じて言った。

「俺、食べたい。食べようよ」龍が元気よく言った。
「よー言うた! 龍。ケーキは食ってこそ華や。見て楽しんだ後、味わって感動する。それがほんまのケーキの取り扱い方やで」ケネスは腕まくりをして、ケーキナイフを手に取った。
「あ、私、切ります」
「あかん。人には切らせられへん」
 真雪がキッチンに立ったまま言った。「任せとけばいいんだよ、春菜。パパ、そこまで自分でやんないと気が済まないんだ」
「どこまでも頑固な職人なんだね、ケニー叔父さん」龍が感心したように言った。
 きっちり等分に切り分けられたチョコレートケーキが全員の前に配られた。
「さあみんな、召し上がれ」マユミと真雪が8客のコーヒーカップをトレイに載せて運んできた。


「このケーキ、何だか香ばしい香りがする」切り分けられたバースデーケーキを一口食べた龍が言った。
「それはアーモンドパウダーのせいだよ」マユミが言った。
「へえ。そう言えば、アーモンドそのものもいっぱい載ってるじゃん、このケーキ」
「アーモンドを使うたチョコレートはな、龍、この店で最も古くから商品になってたものの一つなんやで」
「どうして?」
「たかがお菓子。されど、人の口に入る以上、健康のことも考えなあかん。これは親父の口癖や」
「さすがグランパ」真雪が言った。
「アーモンドの効能はビタミンEによる美肌効果や老化抑制、マグネシウムやトリプトファンの精神安定・安眠効果、食物繊維の整腸作用」
「そうなんだ」
「一日23粒で、マグネシウムの日本の成人女性の一日摂取量をまかなえるらしいで」
「いや、けっこう大変だよ、毎日23粒ってさ」

「この中に、夜眠れなくて困ってる人、いる?」マユミがそこにいるメンバーを見回した。
「ああ、俺、時々眠れなくて困ることがあるなあ……」健太郎だった。
「そうなの?」隣に座った春菜が意外そうに言った。
「最近、あんまり夢もみないし」
「そう。じゃあ、健太郎には特別にカモミールティを淹れてあげようか」マユミが言った。「アーモンドとの相乗効果で、リラックスしてよく眠れるらしいから」
「ほんとにー?」
「信じて飲まないと効かないよ」マユミが笑ってまた立ち上がった。「ちょっと待っててね。他に欲しい人、いる?」
「あ、私も手伝います」春菜が立ち上がった。
「春菜さんは大切なお客様だから、座ってなきゃだめ」
「え? でも」
「そうだよ。座ってて、春菜」真雪が言った。「ここはママに任せて」
「あなたが手伝うの、真雪」
「やっぱり?」

「俺が手伝うよ、マユミ叔母さん」龍が言って立ち上がった。
「え? 何で?」真雪が言った。「珍しいこともあるもんだね」
「何たくらんでるんだ? 龍」健太郎も龍を見上げて言った。
「なんだよ。俺が手伝ったら、何か問題でもあるの?」龍はちょっとむっとしたように言った。
「嬉しい」マユミが言った。「たまにはいいよね、甥っこと一緒にお茶淹れるのも」

 マユミは龍とともにキッチンスペースに向かった。

 健太郎は並んで睦まじくお茶の準備をするマユミと龍の姿を見て、肩をすくめた。
「健太郎」
「え? なに?」ミカに呼ばれて健太郎は振り向いた。
「お前が眠れないのは、」ミカはにやにやしながら続けた。「寝る前に何か興奮することやってるからじゃないのか?」
「なっ、何言ってるんだ、ミカさん」
「かえって眠れるか、そんなことした後は。くたびれ果てて、いつもよく寝てたからな、お前」
「あーっ! ミカさんっ! それ以上は言っちゃだめっ!」健太郎は真っ赤になって大声を出した。


《2 健太郎と春菜》

 健太郎の部屋。
「ごめん、ルナ。父さんたちやたらと盛り上がっちゃって……」肩に掛けたタオルで濡れた髪を拭きながら健太郎は言った。
「いいの。気にしないで。すっごく楽しかった。ケンの家族も海棠家もみんなとっても生き生きしてる。いつも何か面白いことを見つけようとする。私ここのみんな大好きだよ」
「ほんとに?」
「うん。ところで、」
「なに?」
「さっきは何で大声出してたの?」
「え? い、いや、何でもない。何でもないから」
「そう?」
「はい。気にしないでください。春菜さん」
「変なの」

「そうそう。父さんの言ったことも、気にしないでくれる?」
「え?」
「メイド服がどうとかって、言ってたじゃん」
 春菜は少しうつむきがちに上目遣いで言った。「私、メイド服、着てみてもいいよ」
「ええっ?!」
「私がメイドさんになったら、ケンは萌える?」
「や、やめてくれよー」健太郎は赤くなった。

「ルナはさ、」
「ん?」
 健太郎がベッドに並んで座った春菜の肩に手を置いた。「正直なところ、学校を出たらどうしようと思ってる?」

 春菜は?を赤らめて小さな声で言った。「ここに……住みたい」

「ホントに?」健太郎は目を大きく開き、春菜の顔を見た。
「だめ?」
「君がずっとここにいてくれたら、俺、めっちゃ嬉しい」健太郎は春菜の手を取り、顔をほころばせた。「でも、うちに来たりしたら、本当にメイド服着せられて、接客させられるぞ、きっと」
「私、やるよ。喜んで」
「本気?」
「もちろん本職はデザイナーだから、そっちの仕事の方も任せてもらえたら嬉しいけど」
「うちとしては大いに助かるよ。みんな美的センス、ほぼゼロだからね」
「それはない。だって、お菓子職人は立派な芸術家だよ。今日のケーキのデコレーションのセンス、私、やられたって思ったもん。お父さんが作られたんでしょ?」
「うん。ケーキを一つ作る時は、父さん誰にも手伝わせない。一から全部、自分の手で作るんだ。クリームさえ俺たちにかき回させてくれない」
「そうでしょ? それが職人であり、芸術家ってもんだよ。仕事場のことも『アトリエ』って言うじゃない」
「君にも通じるところがあるね」健太郎は嬉しそうに赤面した。

「俺、ルナとここにこうしていられることが、嬉しくてしょうがない」
「どうしたの? 急に」
「俺さ、君のような人をずっと渇望してたような気がするよ」
「そんな……。私の方がケンみたいな人をずっと探してた」
「ジグソーパズルの隣同士のピースみたいに、ぴったりはまる人、それでようやく完全にできあがる、っていう人、みたいな感じかな、俺にとってのルナってさ」
「私もだよ、ケン」
「無理してない? 俺とつき合うことに」
「全然。私もあなたが今、隣にいることで完全体になれた気がする。もっと早く知り合っていればよかったな」
「ルナ……」

 春菜は少しだけ不安そうな顔を健太郎に向けた。「ケンこそ、隣にいるのが私でいいの?」
「言っただろ、君は俺の隣のぴったりはまるピースだって」
「で、でも……」
「何? 何か気掛かりなことでも?」
「ケンは高校の時、夏輝のことが好きだったんじゃないの?」
「昔話を始めます」健太郎は笑った。

「高校三年生のある日、俺は修平と一緒に窓からグランドを眺めてました。そこでは陸上部の連中が大会に向けて練習をしてました」
「その中に夏輝がいたんだよね」
「そう。そもそも、うちの学校の陸上の女子のユニフォームが原因だと言えなくもない」
「あれ、セクシーだよね」
「自分の部活で忙しかった修平と俺は、もう一度あのユニフォームが見たくて、うちの学校であった陸上の大会の日にわざわざ学校に行って、窓から見てたんだ」
「いかにも年頃の男の子のとりそうな行動だね」
「だろ? その時一番目立っていたのが夏輝」
「夏輝のユニフォーム姿、様になってたもんね。それに、脚もきれいでセクシーだし」
「俺も修平もその姿にくらくらきたのは事実だね」健太郎が笑った。「思春期の男って、世の中で一番スケベな動物だからね」
「ケン、その夏輝に告白するつもりでいたんじゃないの?」
「今思えば、告白しなくてよかったと思う」
「どうして?」
「勢いで告白しても、きっとうまくいかなかった」
「でも、夏輝だって修平君に告白したのって、ほとんど勢いだったんじゃない?」
「そうかなあ。夏輝はかなり前から修平を狙ってたんじゃないの?」
「読めなかったなあ、彼女の気持ち。確かに私も夏輝に頻繁につき合わされたけどね、剣道場に。でも彼女があそこまで真剣に修平君のことが好きだったなんて思っていなかった」
「そんな感じだったよね。でもあれが夏輝なりの想いの醸成の仕方だったんだと思うよ」
「醸成か……。彼女なりのね。あなたはどうなの?」
「俺も夏輝はそれまでずっと気にしてたけどね。あの明るさとかわかりやすさとか」
「わかる。それ」
「それであのユニフォームだろ、臨界点に到達!」健太郎は笑った。「やっぱり勢いだね。告白したとしてもさ」

「それにしても、絶妙なタイミングだったよね、あの時。夏輝が修平君に告白したの」
「そうだよね。俺が夏輝に告白しようと決意した瞬間、夏輝が修平にコクったわけだからね。あっという間の失恋だ」
「傷心のケンは、その痛手をどうやって克服したの? 誰かに慰めてもらったりしたの?」
「え?」健太郎は固まって、顔をこわばらせた。
「どうかした?」
「き、君と出会って、こ、克服したんじゃないか」
「そうなの?」
「そうさ。君の魅力を知った途端、夏輝への想いは吹っ飛んじまったよ」
「ほんとに?」春菜は懐疑的な目をして言った。
「だから、もともと勢いだったんだってば。本気で夏輝に恋してたわけじゃないって」
「私には本気で恋してた?」
「君への想いは、ちょっと例外的かも」
「例外的?」
「怒らないで聞いてくれる?」
「うん。聞く」

「初めて君と出会った時も、その後も、俺、君のことは別に親しくならなくても困らないレベルの女の子だったんだ」
「うん。わかるよ。自分でもそう思う」春菜は少しうつむいた。
 健太郎は春菜の肩にそっと手を置いた。「でもさ、あの初めての日にも言ったけど、君の中からあふれ出すすごさに圧倒されて、この子、こんなに真剣で激しくて、それでいて繊細で柔らかいんだ、って感じることができたら、もう、一気呵成って感じ」

「ケン、大げさすぎ」春菜は?を赤らめ、肩に載せられた健太郎の手に自分の手を重ねた。

「ほんとだって。一見地味に見える君の本当の姿を見ることができた俺って、すごくラッキーだって思ったしさ、誰も気づかないそんな君を俺だけのものにできる、って感じたら、もう君のことが抱きたくて抱きたくて仕方なかったんだ。早くこの子と一つになりたい、?がりたいってね」
「うそー」春菜はますます赤くなった。
「知ってた? あの時、俺、必死でセーブしてたんだよ。君が俺の身体を求めてるってわかった途端、それこそ野獣になってた可能性もあった」
「何でセーブしたの? 私は別にケンが野獣化しても平気だったのに」
「そうはいかないよ。そんなことして君がもうたくさん、って俺から離れていっちゃったら、また元に戻っちまう」
「……本気だったんだね。ケン……」
「そうさ。あの時からね」健太郎は春菜の身体をネグリジェ越しに抱きしめた。「君のこと、ずっと大切にしたい、そう思った」そして二人はそっと唇を重ね合った。


 健太郎は春菜の身体をベッドに横たえ、ゆっくりとネグリジェのボタンを外していった。ピンクのブラとそれとお揃いの小さなショーツ姿になった春菜に健太郎は胸を熱くした。

「ルナはほんとにピンクが好きなんだね」
「うん。ケニーお父さんもピンクのメイド服なんて言ってたけど、私、龍くんにも言われた」
「え? 龍に?」
「うん。春菜さんはピンクがよく似合うね、って」
「あいつめ、いつの間に俺のルナにちょっかいかけたんだ」
「そんなんじゃないよ」春菜は笑った。そして両手を健太郎に向けた。「来て、ケン」

 健太郎は来ていたスウェットを脱いだ。黒い下着姿になった健太郎はゆっくりと春菜に覆いかぶさり、髪を優しく撫でた後、また唇を重ねた。「んん……」春菜が小さなうめき声を上げた。そして彼女は健太郎の首に手を回し、唇をとがらせて彼の上唇を吸った。健太郎は春菜の両?を両手で包み込み、首を傾けて大きく口を開き、春菜の口を塞いだ。「あ、んんっ……」健太郎の舌が春菜の舌を探し求めた。春菜はそっと健太郎の舌を舐めた。健太郎はそのまま春菜の舌に自分それを絡ませ、激しく吸った。

 春菜の鼓動は既に速かった。

「ケン、ごめんね、あたしいつまでもキスが下手で……」
「え? 誰がそんなこと。ルナのキスは俺にとっては最高だよ」
「そうなの?」
「君が唇をとがらせる仕草、俺、萌える」健太郎は微笑んだ。
「やだ、恥ずかしい」
「それ見ると、いてもたってもいられなくなって、絶対吸い付きたくなる」
「吸い付くだなんて」春菜は笑った。

 健太郎は春菜の目を見つめながら背中に手を回しブラのホックを外した。そして彼女の手からブラを抜き取った。春菜は慌てて自分の乳房を両手で覆った。

「またやってる。胸見られるの、恥ずかしいの?」健太郎が訊いた。
「だって、私の、大きくないし」
「そんなこと気にしてるんだ……」
「だって、私のに比べたら真雪のなんか、すっごく大きくて形もいいじゃない」
「あのね、何でマユのと比べる必要があるんだよ。だいいち俺、あいつの胸をいっつも見てるわけじゃないから」健太郎は赤くなった。
「兄妹だから、何度か見たことはあるんでしょ?」
「そ、そりゃ、何度か、ぐ、偶然ね。って、な、何の話だよ、まったく」健太郎はますます赤くなっていた。「それに、あれはもう龍のものなんだから」
「龍くん、彼女のおっぱいにめろめろなんだよね」
「そうらしいね。ほら、いいから手をどけて」健太郎は春菜の手を取って、胸から外させた。「俺、ルナのおっぱいは大好きだよ」そう言って舌先で少しだけ彼女の左の乳首を舐めた。「ああん!」
「感度いいから」
「ケンったら……。ああああ……」健太郎はそのまま乳房を大きく咥え込み、春菜の乳首を口の中で弄んだ。「だ、だめっ! あああ、か、感じる、感じる、ケン……」


 やがて健太郎は口を春菜の肌の表面で滑らせながら、彼女のショーツを脱がせた。そして股間の茂みに到達させると、谷間とクリトリスを交互に舐め始めた。「んんんっ!」春菜は苦しそうに呻いた。健太郎はその行為をずっと続けた。「ああ、ケン、ケン……」春菜の身体が大きく動き始めた。いつしか春菜の谷間から泉がたっぷりと湧き出し始めた。健太郎はその行為を続けながら自分の下着を脱ぎ去った。既に大きくなったペニスが跳ね上がった。

 健太郎は身体を起こし、膝立ちになった。そして春菜を見下ろした。「ルナ、」

「ケン、」春菜の眼鏡の奥の瞳がうっすらと開けられた。春菜は一瞬健太郎のペニスを見たが、すぐに目を閉じた。
「きて、来て、ケン、私に……」
 健太郎は再び春菜に覆いかぶさった。「入ってもいい? ルナ」
「うん」春菜は目をしっかりと閉じたまま大きくうなずいた。

 春菜の身体を抱きしめたまま、健太郎はペニスを彼女の谷間に埋め込み始めた。
「ああ、あああ、ケン、ケン……」春菜の身体がのけ反った。健太郎はゆっくりと腰を前後に動かた。「んっ、んっ、」

「ああ、ああん、いい、熱い、熱いよ、ケン……」
 春菜は健太郎の動きに合わせて身体をリズミカルに動かし始めた。

「あ、ああ、お、俺、もう……」健太郎の身体の中から熱いものが沸き上がってきた。加速度的に健太郎は腰の動きを速くし始めた。激しく彼のペニスが春菜の中心を何度も貫く。「あっ、あっ、ああっ!」春菜の身体が細かく震えた。「イ、イっちゃうっ!」びくびくっ!

 その瞬間、健太郎は上り詰めた。
「ああああああっ、ルナ、ルナっ!」「ケン、ケン、イってるっ! ああああああ!」


 身体の火照りと動悸が収まるのを、二人は抱き合ったまま待った。
「ケン、ごめんなさい……」
「え? どうしたの?」
「あたし、臆病だよね」
「何が?」
「咥えて欲しいんだよね?」
 健太郎はふっと笑った。「今日はもしかしたら、って思ったけどね。いいよ、無理しなくても」

「今度は……がんばるからね」春菜の目がとろんとしてきた。

「だから、無理しなくてもいいって。自然とできるようになるまで、俺、待てるから」
「ごめんね……ケン……ケン……」

 春菜はそのまま小さな寝息を立て始めた。健太郎も急に疲労感を覚え、うとうとと眠り始めた。


《3 母マユミ、妹真雪》

 夜中、健太郎は喉の渇きを覚えて目を覚ました。愛らしい表情で静かな寝息を立てている春菜の眼鏡をそっと外し、ベッド脇のサイドテーブルに置いた。そして健太郎は彼女を起こさないようにそっと起き上がると、下着だけを穿いて部屋を出た。

「ん?」健太郎は、階段の下から声が聞こえてくるのに気づいた。

 彼はそっと部屋のドアを閉め、階段の上までやって来ると、何気なく階下を見下ろした。
「あれ?」
 広いリビングの隅にあるテーブルを挟んで母マユミと誰かが向かい合っている。健太郎は立ち止まって、その様子をうかがった。

「そうか、ありがとう。マユミ叔母さん」
「気にしないで」
「ごめんね、遅くまでつき合ってもらっちゃって」

 それは龍だった。彼は向かい合っているマユミの手を取った。

「(こんな遅くまで何してたんだ? 二人で)」健太郎は思った。

「それじゃあ俺、帰るね」龍は明るく言って立ち上がった。

「(帰る? 今夜はマユの部屋に泊まるんじゃなかったのか?)」

 マユミも立ち上がり、玄関口まで彼を案内した。
「じゃあ、気をつけて帰ってね」
 先を歩いていたマユミがそう言って、今から帰ろうとするその甥の方に顔を向けた途端、龍はマユミを背後から抱きすくめた。
「え?」マユミは突然のことに一瞬絶句した。

「俺、マユミ叔母さんのことが前から好きだったんだ」
「だ、だめよ。放して」

 健太郎はその光景を目の当たりにして何か叫ぼうとしたが、声が出なかった。あろうことか、龍が自分の母親を口説いている。健太郎はなぜかそこから動くことができなかった。心臓が速打ちを始めた。

「俺のことが嫌い?」
「そう言うことじゃなくて……」そこまで言った時、マユミの唇は龍の唇に押さえ込まれてしまった。

 健太郎は、それまで緊張していた母マユミの身体がいきなり弛緩し、脱力してしまったのを見た。
「(ど、どうしたんだ、母さん。)」健太郎は心の中でそう叫んだ。

「マユミさんが好きです」龍はもう一度マユミの耳元で囁き、彼女の唇に自分の唇を重ねた。

 いつしか二人は貪るようにお互いの唇を求め合っていた。健太郎の心臓はますます速く打ち始め、息をひそめたまま、これから始まるであろう二人の情事を見続けることになったのだった。


 マユミの背中に回された龍の手は、彼女のヒップを撫で、更にブラウスの裾から肌をはい上がり、片手の指で手際よく背中のブラジャーのホックを外した。そしてそのままマユミが上に着ていたものを全て、あっさりと脱がせてしまった。
「だ、だめ……」マユミの声はその言葉とは裏腹に甘いため息混じりだった。

 龍は上半身がすっかり露わになったマユミをまたきつく抱きしめ、そのままリビングのカーペットの上に押し倒した。そしてあお向けになったマユミに覆いかぶさるようにして、彼は再び濃厚なキスを浴びせた。
「むぐ……んっ……」マユミはもう言葉もなく、瞳を閉じてその甘美な感触を味わっているようだった。

 スカートがはぎ取られ、黒いショーツ一枚になった母マユミの姿は美しく、健太郎は息を弾ませた。
 情熱的なキスを続けながら、龍は器用に自分のシャツを脱ぎ去り、あっという間に上半身裸になった。そして続けてズボンも脱ぎ去り、蒼いぴったりとした下着姿になった。その小さな下着の前の部分は大きく膨らんでいる。

 龍の口がマユミの唇から離れ、大きく豊かな乳房に移動した。そうして左手で彼女の右の乳房を愛撫しながら左の乳首を吸い始めた。「ああっ!」マユミの身体が大きくのけ反った。彼女はその快楽の刺激に苦しそうな表情をして喘いだ。龍はそのまま下着越しに自分のペニスをマユミの股間にこすりつけ始めた。
「ああ……だめ、身体が熱く……熱くなってくるわ」
「俺、マユミさんと?がりたい……。一つになりたい」
「ああ、そ、それは……」

 彼女の身体は明らかに受け入れる準備ができていた。

 龍はマユミの背中に両腕を回して彼女の上半身を起こし、自分は脚を伸ばして腰の上に座らせた。マユミは両脚を広げて彼の腰の上にまたがって向かい合った。しかし二人ともまだ下着をつけたままだ。そしていつしかマユミの方が積極的に腰を前後に動かし始めていた。大きく揺れる乳房を龍は口で捉え、吸った。

「ああ……、熱い……」
 マユミがその秘部をショーツ越しに龍の股間にこすりつけるたびにくちゅくちゅと音がし始めた。
「叔母さん、感じてるね。いっぱい濡れてる……」
「も、もうだめ、あなたのモノをちょうだい」

 龍は黙ってあお向けになった。そしてマユミの身体を自分の上に載せたまま、下着を脱ぐことなく脇からペニスを取り出した。

 健太郎は目を見張った。龍のペニスの大きさが尋常ではない。彼の足首を掴んでのけ反っているマユミの、その腕ぐらいの太さである。あんなものが母を貫くのか……。

 マユミは自らショーツを脱ぎ捨てた。そうして龍の太いペニスを握りしめ、自分の秘部にあてがった。
「入れさせてくれるんだね? マユミ叔母さん」

 龍はマユミの腰に手を回し、狙いをつけて自分のペニスの上に導いた。マユミもそれに合わせて彼のペニスを手で握って挿入を手助けした。
「あ……ああ……は、入ってくる!」マユミが悲鳴に近い声を上げた。

 あの太い龍のペニスがずぶずぶとマユミの中に入っていく。そして二人の腰は完全に密着した。

「さ、裂けそう……も、もうだめ、ああ……」
「父さんとのセックスよりも、ずっと気持ち良くしてあげるよ、マユミ叔母さん」
「ケ、ケン兄よりも? あああ・・・」

 マユミは激しく腰を上下に動かし始めた。龍もそれにリズムを合わせた。ぬちゃぬちゃと淫猥(いんわい)な音が部屋中に響いた。

「マ、マユミ叔母さん、俺、そろそろ……」
「イくの? い、いいよ、イって。思い切り、イって!」

 更に激しさを増した二人の動きが最高潮に達した時、
「イ、イく、イくっ! マユミっ!」龍が叫んだ。「あたしも、あああっ! 龍くん、龍くんっ!」

 龍とマユミは同じように激しく脈動しながらイった。

「ううっ!」その瞬間、息を殺して見ていた健太郎も下着の中に激しい射精を繰り返した。

 突然龍は起き上がり、マユミをあお向けに押し倒した。そしてペニスを抜いた。ところが、そのペニスは極太の大きさを失わず、更にあろうことかどくんどくんと射精を繰り返し続けていた。

 精液を噴き出し続けるそのペニスを龍はマユミの顔に向けた。大量の精液が彼女の乳房や腹部にも浴びせかけられた。そして龍はそのまま彼女の身体をはい上がり、半ば無理やり、射精を繰り返しているペニスをマユミに咥えさせた。マユミの顔は龍の精液でドロドロに犯され、口に突っ込まれたペニスの脈動を苦しそうに受け止めながら彼女は呻いた。しかしマユミの腰は相変わらずびくんびくんと痙攣(けいれん)している。まだ絶頂が続いているのだ。口から精液を溢れさせながら、マユミは恍惚の表情で龍のペニスを味わい続けていた。


 一部始終を目にした健太郎は、それ以上母マユミと龍との情事を見るに堪えなくなり、背を向けてその場にしゃがみ込んだ。
「はあはあはあ……」彼自身も荒い呼吸を繰り返しながら、たった今放出した自分の精液でどろどろの下着に手を当てた。「着替えなきゃ……」その時、
「健太郎」母マユミの声が下から聞こえた。
「えっ?!」

「そこにいるのはわかっているわ。こっちにいらっしゃい」少し上気しているが、さっきの喘ぎ声よりはトーンが落ち着いていた。

 振り向いた健太郎はそこに白い肌を無防備に曝(さら)した母の肢体を確認した。しかし、龍の姿がない。

「え? ど、どうして?」
「いらっしゃい、健太郎」再び母が息子の名を呼んだ。


 健太郎は母に促されるまま、階段を降り、彼女に駆け寄った。「か、母さん……」
「ふふ、興奮した?」マユミは上体を起こして微笑んだ。
「ど、どうして龍と・・・」
「私も女だもの。若いコとのセックスは嫌いじゃないよ」
「でも母さ、」突然マユミは健太郎の口を自らの唇で塞いだ。「むぐ……」健太郎はそれ以上の言葉を続けられなかった。そのキスはかぐわしいアーモンドの香りがした。そしてその香りを嗅いだ途端、健太郎の身体から力が抜けていき、同時に目の前の美しい女体への熱い衝動がこみ上げてきた。

「母さん、俺……」
「嬉しい。抱いて、健太郎」

 たった今大量に放出された龍の精液で、マユミの身体はどろどろになったままだった。健太郎はマユミの身体を強く抱きしめた。乳房や腹部を押しつけ合っていると、まるでローションプレイをしているようにぬるぬるとした感触が肌を刺激し、二人の興奮を高めていった。二人は固く抱き合ったまま乱暴とも思えるほど荒々しい口づけを繰り返した。

 下着を脱ぎ捨て全裸になった健太郎は、幼い時にそうしたように母の胸に顔を埋め、その頬をこすりつけ始めた。

「ふふ、健太郎、可愛い、幾つになっても」

 しばらくして健太郎は母に促されあお向けに横たわった。
「たくましくなったね、健太郎」マユミは健太郎のペニスをいとおしむように手で包み込んだ。そして口に含んで吸い始めた。「あ、ああ……か、母さん」

 母の妖艶な舌遣いで、健太郎の身体を今まで感じたことのなかった強烈な快感が貫いた。

「う、ううっ! も、もうイく、イくよ母さん」

 マユミはその行為を続けた。特に速度を上げるわけでもなく淡々と続けた。じわじわと湧き上がってくる性的快感がついに頂点に達し、健太郎は射精してしまった。「イ、イくっ! 母さん、あああっ!」実母の口中に大量に自分の精液を放出してしまったのだ。マユミは息子の精液を一滴残さず飲み干した後、ペニスを下から上までなめ回した。

「さあ、これできれいになったわ。でも、」マユミはおかしそうに言った。「まだおとなしくなってないようね、健太郎」
 健太郎は呼吸を整えようと努力しながら答えた。「も、もっとイけそうだ、母さん」
「わかってる。今度は健太郎がリードしてちょうだいね」
 そう言うと母マユミは横になり、健太郎を招き寄せた。

 健太郎はマユミの乳首を舐めた。何度も舐めた。「あ、ああん……健太郎、久しぶり、あなたにおっぱい吸われるの」健太郎は夢中になってマユミのまだ張りのある乳房を吸い続けた。「んっ、んっ、ああ、母さん……」

 マユミも次第に喘ぎ始めた。「あ、ああ……」

 しばらくして彼女は手で健太郎の頭を押さえた。
「入ってきて、健太郎。私の身体の中に、戻ってきて」

 健太郎は母の乳房から口を離すことなく、ペニスをゆっくりと谷間に沈み込ませていった。
「あ、あああ、いい、健太郎」
 途中まで挿入されたペニスは、いきなり母の谷間に強く吸い込まれた。秘部どうしが固く密着し、身動きがとれない状態になってしまった。「あ、ああ、母さん、そ、そんなに強く締めないで、あ、あああ……」

「動かなくてもいいよ、健太郎。母さんがそのままイかせてあげる」

 実際健太郎のペニスはびくともしなかった。抜くこともかなわない。しかし、包み込む温かく柔らかなヒダの感触は真綿のように、しかし容赦なく彼のペニスを攻め続けた。「だ、だめだ、母さん、あ、ああああ……」急激に高まり始めた健太郎は、マユミの唇を求めた。「むぐっ、んっ、んっ!」マユミも健太郎の唇を吸った。

「あ、健太郎、イく、母さんも、あなたと一緒に、あ、あああ……」口を離した途端、マユミはのけ反った。反射的に健太郎のペニスは更に奥深くまで吸い込まれ、それと同時に二人に絶頂がやってきた。

「イ、イっちゃう! 母さん! イ、イくっ!」
「私も、健太郎、イくっ!」

 繰り返し繰り返し健太郎はマユミの奥深くに、その濃い精液を放ち続けた。


 二人が息を整えるのには随分時間がかかった。健太郎は長い間母マユミの胸に顔を埋めて目を閉じていた。

「健太郎、すっかり大人になったね」
「な、何だか、恥ずかしいな」
「あなたがイく時の様子、ケン兄そっくり」
「え? ケンジおじに?」
「あなたの父さんでしょ。もう一人の。似てるわ。反応も、声も」マユミは少しおかしそうに言った。
「何だか、照れるな……」

「さあ、春菜さんのところに戻りなさい。今夜のことは二人だけの秘密ね」そうしてウィンクをして健太郎を座らせた。
「う、うん」健太郎は赤くなってうなずき、立ち上がった。
「おやすみ、健太郎」
「うん。母さんも」



 マユミは一階の奥の寝室に姿を消した。健太郎はそれを見届けると、再び階段を上り、自分の部屋のドアのノブに手を掛けた。その時、
 がちゃり。「ケン兄」妹の真雪が自分の部屋のドアを開けて、小さな声で言った。
「ど、どうしたんだ、マユ」健太郎は自分が下着だけの姿であることを思い出して慌てて股間を隠した。
「ふふ。平気だよ、あたし。それより、ねえ、ちょっと来てくれない?」
「え? な、何か用か? ちょ、ちょっと俺、服着てくる」
「いいよ。そのままで。って言うか、そのままの方がいいかな」
「え?」
「いいから、早く来てよ、ケン兄」
「あ、ああ」

 健太郎は恐る恐る真雪の部屋に入った。
「あれ? 龍は?」
「龍? ああ、彼は今シャワー」
「え、シャワー? 何で今頃?」
「汗かいた、って言ってた」
「じゃ、じゃあすぐに戻ってくるだろ。お、俺がこんな格好でこんなところにいたら、お前、」
「誤解される?」
「そ、そうだ」
「じゃあ、誤解じゃなきゃいいんだ」 
「え?」健太郎は真雪の言葉の意味がよくわからなかった。

 とまどっている健太郎に真雪は近づき、首に手を回して唇を彼のそれに押し当ててきた。「むぐ……。ま、」
 健太郎は驚いて何か言おうとしたが、真雪はそれを許さなかった。

 真雪の舌が健太郎の口に侵入してきた。健太郎の鼓動は速くなっていた。そしてついに健太郎も押し寄せる欲情の波に飲み込まれ、真雪の舌を吸い、絡ませ始めた。

 口を離して真雪は少し赤面して言った。「ケン兄のキスって、最高だね。龍のキスより、ずっといいよ」

「マ、マユ……」
「もっと早くからケン兄にこうしてもらえばよかった。ずっと一緒に暮らしてたのにね」そして微笑みながら真雪はパジャマを脱ぎ、続けてブラもショーツも脱ぎ去り、全裸になった。
「マユっ!」
「抱いて、ケン兄」

 真雪はベッドにあお向けになり、兄を誘った。健太郎は真雪の豊かな乳房を見て、ごくりと唾を飲み込んだ。「き、きれいだ、マユ、お前の、胸……」
「ふふ、いいよ、どうにでもして、ケン兄」

 健太郎は我慢できなくなってその豊満な胸に顔を埋め、?をこすりつけ、乳首を舌で、指でころがした。
「あ、ああん、ケン兄、いいよ、いい、とっても」

 健太郎がその行為をずっと続けているうちに、真雪の手が彼の股間に伸ばされた。しかし下着を脱がせるには少し距離があった。それを察知した健太郎は自分で下着を脱ぎ去った。ずっと真雪の乳房を吸いながら……。
「ケン兄もおっぱいフェチ?」
「マ、マユ、お、俺、も、もう……」
「いいよ、ケン兄。あたしももういっぱい濡れてる。準備OKだよ」
「い、入れたい、入れていい? 入れるよ、マユ」
「うん。来て、遠慮しないで」

 健太郎は焦ったようにペニスを真雪の谷間に押し込み始めた。
 真雪はくすっと笑った。「ケン兄、慌てないで」
 健太郎はそれでもすぐに真雪の奥深くまで自分のものを突き刺した。「あ、ああん! ケン兄、」
「マ、マユ!」
「マ、ママとケンジおじもお互いのこと『ケン兄』『マユ』って呼び合ってるよね」
「そ、そうだな」
「きっと、ずっとあの双子の兄妹もこうしてお互いの名を呼びながらセックスしてたんだね。あ、あああ! ケン兄!」

「マユ、マユっ!」健太郎は激しく揺れている真雪の二つの乳房を両手で鷲づかみにした。
「イって、ケン兄、イって、あたしの中に出して。あなたが欲しい、全部。あ、ああああああ」

「イ……くっ……! ぐううっ!」健太郎の精がはじけた。

「ああああああーっ! ケン兄っ!」真雪が激しくのけ反った。「うああああああっ! マユ、マユっ!」健太郎も絶叫した。

 健太郎の反射のたびに二人の身体は同じように大きく揺れ動いた。


「初めてだったのに、まるで昔から愛し合ってるみたいだったね」
「そ、そうだな……」
「ケン兄とあたし、実は身体の相性がいいのかも」
「そ、そんな感じ、した。確かに」
「双子って、そうなのかな」真雪は健太郎の胸に?を寄せて目を閉じた。

 しばらくして健太郎は言った。
「俺、戻るよ、部屋に」
「そうだね。春菜が待ってるからね」

 真雪から身を離した健太郎は、ドアを開ける前に一度立ち止まり、振り向いた。「マユ……」
「またいつか、抱いてね、ケン兄」真雪は健太郎にウィンクをした。


《4 寝取られ》

 健太郎が真雪の部屋のドアを閉めた時、隣の自分の部屋から春菜の叫び声が聞こえた。「いやーっ! ケン! ケンーっ!」

 健太郎は部屋のドアを開け、弾かれたように駆け込んだ。そしてベッドに目をやった途端、その場に立ち尽くし、絶句した。ベッドの上にいた春菜は全裸で両手首をそれぞれベッドの脚にロープで?がれている。そして彼女の両脚にまたがっている一人の男。そう、ついさっき母マユミとの情事を繰り広げた、いとこの龍が春菜の身体にまさに覆いかぶさろうとしていたのだ。

「やめろーっ!」健太郎はそう叫んでベッドに駆け寄った。

 ベッド上の龍は振り向き、自分の肩を掴んだ健太郎の手を振り払った。

「龍! 何でお前、ここにいるんだ!」

 龍はベッドから降りると健太郎と向き合った。
「そんなこと言う権利ある? ケン兄」
「え?」
「たった今、真雪を犯してたじゃん」
「お、犯してなんか!」
「だから俺が春菜さんをいただいても、それはおあいこってことだろ?」

 春菜は真っ赤な顔で脚をじたばたさせながら叫んでいた。「ケン、早く、早くきて! あたし、レイプされちゃう!」
「え? ルナ、俺はここだよ、ルナ、ルナ!」
「ムダだよ、ケン兄。彼女にケン兄の姿は見えないし、声も聞こえない」
「な、何だって」
「ついでにケン兄は彼女に触ることもできなくなるよ」
「お、お前、一体何をした?!」

 龍は肩をすくめてとぼけた表情で言った。「催眠法を使ったんだ」
「催眠法だと?!」
「写真でモデルを撮る時、必要な技術。人をその気にさせるための技術だよ。俺、ずっと勉強しているからね」
「どうしてルナを!」
「春菜さんに俺は以前から恋していた。だから今夜思いを遂げにきたのさ」
「な、何だと! お前さっきは母さんともセックスしてたじゃないか! 今すぐ出て行け! 俺の部屋から、この家から出て行け!」
「ケン兄にそんなこと言う権利はない!」龍が強い口調で言った。「ケン兄もマユミ叔母さんとやってたじゃん。親子なのにさ。それに、」龍の顔が険しくなった。「俺の、俺の大事な真雪を犯したくせに!」

 健太郎の足がすくんだ。その隙を突いて龍は健太郎に近づき、自分の口で彼の唇を覆った。アーモンドの香りが健太郎の身体の中を駆け巡った。

 油断して龍にキスをされてしまった健太郎は、その瞬間身体の自由が利かなくなってしまった。その場に硬直したまま、指一本動かすこともできない。
「どう? 俺の催眠法。効果てきめんでしょ?」龍は続けた。「楽しみを邪魔されたくないからね。ケン兄にも見せてあげるよ。俺たちの情事を。さっきと同じようにね」龍はそう言うと、いつの間にか天井からつり下がっていたロープに、健太郎の両手首を括りつけた。

 そうして健太郎は、ベッドのすぐ近くに自由を奪われたまま、ロープによって天井からつり下げられ、否応なくベッド上の自分の恋人がレイプされる姿を見せられることになったのだった。

「このままでは楽しくないな。ケン兄も興奮したいだろ?」龍はそう言うと健太郎の穿いていた下着を脱がせ、全裸にした。「おやおや、もうこんなに……」龍はつぶやいた。健太郎のペニスはむくむくと大きくなり、天を指して脈動を始めた。龍はそれを乱暴に握ったまま、不敵な笑いを浮かべながら言った。「自分の恋人が寝取られることに興奮するんだね」
「や、やめろ! 触るな!」
「さ、じっくり見て、俺たちと一緒にイこうよ。健太郎兄ちゃん」


 その後の健太郎の悪態は全て無視して龍は再び春菜に挑んだ。

「いやーっ! やめてーっ!」
「本当は春菜さんもその気になって、俺とのセックスを楽しんで欲しいんだけど、嫌がる姿もちょっと萌えるね」
「ケン! ケン! 早く来て!」

 健太郎にはなすすべがなかった。春菜が自分の名をいくら叫んでも、その目の前の恋人を助けることができないのだ。

 龍はおもむろにショーツを脱ぎ去り、あの巨大なペニスを露わにした。
「まず、咥えて欲しいんだけど……」そう言いながら龍はそれを春菜の顔に近づけた。

「や、やめろ、やめてくれ……」健太郎の叫び声は次第に力を失い始めた。

「冗談じゃないわ! 絶対にいや」春菜は顔を背けて吐き捨てるように言った。
「無理やりっていう手もあるけど、食いちぎられたら困るから、後でね」
「後で?! だと?」健太郎は目を?(む)いた。
「仕方ない、まだそう言う段階じゃないけど、春菜さん、中に入るよ。いいね」
「やめてーっ!」春菜はまた脚をばたつかせて激しく抵抗した。?がれた手も必死でロープを解こうと暴れた。「絶対にいや! 離れて! あっち行って!」春菜が激しくかぶりを振った拍子に掛けていた眼鏡が外れて飛んだ。

 龍は春菜に馬乗りになった。「けっこう跳ねっ返りなんだね。意外な一面。でもそれも春菜さんの魅力かも」挑発的にそう言い放つと、春菜の両脚を無理やりこじ開けた。「それに、眼鏡を掛けてない方が可愛いよ。俺、こっちの方が好きだな」そして龍はその極太の持ち物を秘部に押し当てた。
「いやーっ! やめてーっ!」春菜は最高に暴れた。だが、龍の腕力にはかなわない。

「んっ!」龍は勢いをつけて春菜の中に自分のものを一気に押し込んだ。めりめりっと音がした。「いやあーっ!」春菜は絶叫した。

 その凶暴な龍の行動と、哀れな春菜の姿をこれ以上正視できなくなった健太郎は、固く目を閉じた。そして弱々しく言った。「や……めてくれ……」

 龍はお構いなしに春菜を犯し続けた。「どう? 気持ちいいでしょ?」
「お願いだから、やめてーっ! も、もう許してーっ!」春菜は大声で叫びながら涙を流しかぶりを振った。

「それじゃあ、一緒にイこうか。春菜さん。そろそろ」
 龍は春菜の顔に自分の顔を近づけ、彼女の唇にそっと自分の唇を重ねた。すると、今まで暴れていた春菜は急におとなしくなり、身体の力を抜き去ったようだった。龍が唇を静かに離すと、春菜は目を閉じ深い吐息を吐いた。その春菜の突然の異変に気づいた健太郎は、目を見開いてベッドの上の二人を見た。
「え? ど、どうしたんだ、ルナ! ルナ! しっかりしろ!」

「ああ……。身体が……熱い。もっと奥に……入れて」春菜はうっとりとした声を出した。

「な、何だって?! ルナ! 目を覚ませ! おい、何をした! ルナに何をしたんだ!」

 例によって龍はそんな健太郎の悪態を完全に無視して、じらすように一度ペニスを抜き去ると、龍はふふっと笑みを浮かべて全身を愛撫し始めた。
「ああ……抜かないで……、入れて、お願い、中に……」春菜は懇願した。

 龍は春菜の乳首を口で捉えた。春菜はビクンと身体を反応させ、呻(うめ)く。龍は再び春菜の顔に巨大なペニスを近づける。春菜はためらわずそれを口で捉え、深く咥え込み、貪るようにじゅるじゅるといやらしい音を立てながら味わい始めた。

「ル、ルナ……。ど、どうしちゃったんだ……」健太郎は悲しい顔をしてそうつぶやいた。しかし、その言葉とは裏腹に更にペニスを硬直させ、先端から透明な液体をしたたらせさえし始めた。

「ロープを解いてあげようか?」龍が春菜に言った。春菜は龍のペニスを深く咥えたまま首を横に振った。「そのままがいいんだね? 春菜さん」春菜は今度は大きくうなずいた。

 龍は春菜の口からペニスを引き抜くと、彼女の両脚をもう一度ゆっくりと大きく開き、彼女の秘部に春菜の唾液で濡れ光っているその巨大なものをあてがった。「入れて欲しい?」龍が意地悪く訊ねた。
「入れて、早く入れて、お願い、龍くん……」
「ふふ……正直だね、春菜さん」

 龍は自分のペニスをゆっくりと挿入していった。ずぶずぶ、ぬぷぬぷと音が聞こえた。春菜の谷間は愛液で溢れていた。
「あ、ああああ……」

 もはや健太郎に言葉を発する力はなかった。しかしそれと反比例するかのように身体は興奮で熱くなり、大きく脈動しているペニスからだらだらと透明な液を溢れさせていた。

「もう一度奥まで……入れるよ」龍はそう言うと腰を打ち付け、深々とペニスを春菜の中に入り込ませた。「ああっ! だ、だめっ! も、もうイっちゃうっ!」
「気持ちいいでしょ? でも今からだよ、春菜さん」龍は腰を前後に動かし始めた。そしてそのテンポを次第に速くした。
「あ、ああああ! い、いいっ! 熱い、熱い!」春菜が叫ぶ。
「ケン兄とどっちがいい? 春菜さん」龍は腰を盛んに動かしながら訊いた。
「あああ……」
「答えて、ねえ、どっちの方が感じる?」
「りゅ、龍くん。龍くんの方がいい。あ、あああああ!」
「そう。じゃ」龍は更に激しく腰を動かし始めた。
「ああああっ! 龍くん、龍くんっ!」

「う……くっ!」龍も次第に快感で顔をゆがめ始めた。「も、もう少し。春菜さん」
「龍くん、ああ! も、もうだめ、どうにかなりそう、ああああ……」春菜も腰を激しく上下に動かし始め、思い切りのけ反った。

「うううう……」拘束された健太郎も絶頂を間近にして呻(うめ)き始めた。「だ、だめだ! ど、どうして、こんな……」

「イ、イくよ、春菜さん!」
「一緒に、一緒にイって、龍くん、お願い一緒に!」
「わかった。さあ、イくよ!」
「イって! イって!」
「ううううっ、うっ!」
「ああああああ!」

 重なった二人は絶叫しながらついにイった。

「あああああーっ!」春菜が大きく海老ぞりになった。龍はその背中に腕を回し、強く締め付けた。

「あああああ! イ、イく! イってしまうっ!」そしてロープで天井からつり下げられた健太郎もついに激しい射精を繰り返し始めた。「ぐううっ!」びゅびゅっ! その精液は宙を飛び、まるで狙いを定めたかのように春菜の顔に、髪に、首筋に次々とかかった。そのたびに春菜は更に大きく興奮してイき続けた。そして最大級の快感が健太郎の身体を貫いた。「ルナっ! ルナーっ!」


《5 春菜と健太郎》

「ルナっ! ルナーっ!」

 健太郎の叫び声に、横で眠っていた春菜が飛び起きた。
「ケン、ケン、どうしたの?」彼女は健太郎の身体を揺すった。
「はっ!」健太郎は大きく目を開いた。

「何か、悪い夢でもみた?」
「夢? 今のは全部・・・夢?」健太郎は放心したようにつぶやいた。「え?」
 健太郎は自分の股間に手を当てた。「ル、ルナ、ごめん、お、俺、出しちまった!」

 全裸で寝ていた健太郎の大量の精液が腹、股間はもちろん、触れ合っていた春菜の腹や胸にも放出されていた。

 健太郎は慌てて起き上がり、ティッシュを何枚も手に取り、それを拭き取り始めた。「ごめん、ルナ。本当にゴメン」
「大丈夫? ケン」春菜も身体を起こし、ティッシュを取った。その時ドアが小さくノックされた。「ケン兄、ケン兄、どうかしたの?」真雪の声だった。

 健太郎は下着を穿き、スウェットを着直して春菜に目配せをした後、ドアに向かった。春菜はネグリジェを羽織った。

「何かあったの?」健太郎によって開けられたドアから真雪が心配そうに顔を覗(のぞ)かせた。彼女の後ろに、龍も眠そうな目を擦りながら立っていた。

 健太郎は笑いをこらえながら言った。「二人とも、入れよ」



「強烈っ!」健太郎の話を聞き終わった龍が言った。「俺、いっぺんに目が覚めたよ」
「お前のせいで、俺、安眠できなかっただろ! 何てことをしてくれたんだ! お前は!」
「ちょ、ちょっと待ってよ。お、俺何にもしてないし」龍は困惑したように言った。
「そうだよ、ケン兄が勝手にみたんでしょ? 変な夢。でもあたしも以前強烈な夢、みたことあったな。龍がケン兄を縛り上げて犯しちゃう夢」
「ああ、あれも強烈だったよね。でも何でいつも俺ばっかり?」
「龍くんって夢の中では極悪人なんだね」春菜は笑った。「でも、もしかしてケンって、真雪やお母さんを抱きたいって思ってるんじゃないの? 夢はその人の願望を表すって言うし」春菜はカモミール・ティのカップを口に運んだ。
「そ、そ、そんなわけないだろ! お、俺、母親や妹とセックスしたいなんて思ってないからな!」健太郎はちらりと真雪を見て赤くなった。
「妹って言っても同い年、同級生だしねえ。着替えを覗(のぞ)いてムラムラしたりしない?」
「ほ、本人が言うなっ! それにな、俺、お前の着替え覗いたりしないだろっ!」

「じゃあさ、ミカさんはどうなの?」真雪が健太郎にだけ聞こえるように囁いた。「母親みたいなものじゃん。彼女だって」
「ばっ!」健太郎は慌てた。
「何? どうしたの? ケン」春菜が反応した。

 健太郎はだらだらと冷や汗をかき始めた。

「秘密のこと? 私に言えないことなの?」微笑みながら春菜は追い打ちをかけた。
「こっ、怖いよ、ルナ。その微笑みが余計に」
「え? 別に他意はないよ。純粋に聞きたいだけ」
「もしかして、ケン兄のどきどき初体験のこと?」龍が真雪に訊いた。真雪は微笑みながらうなずいた。
「い、言っていいもんかな? マユ」
「何であたしに訊く? 自分で判断して、ケン兄」
「こっ、こっ、この話をしたら、ルナが二度とここに来なくなるんじゃないか、って今思ってる」
「そんなショッキングな初体験だったの?」
「ショッキング、かもしれないね、確かに」龍がアーモンドを口に放り込みながら言った。「普通じゃないことは確かだ」
「私、きっと大丈夫。何を聞いても驚かない。あんな夢をみるケンだから、これまでにいろいろあったんでしょ?」

 健太郎はまただらだらと冷や汗をかき始めた。

「最初に謝っとく。ごめん、ルナ」
「はい、わかりました。で?」春菜が促した。健太郎は恐る恐る口を開いた。
「お、俺の初体験の相手はミ、ミ、ミカさんなんだ。高二の夏……」そしてうつむいた。

「ほんとに? 素敵っ!」春菜が叫んだ。

「『素敵』?」残りの三人が同時に叫んだ。
「予想外の反応!」龍が言った。
「萌える萌える! 高校生と人妻との恋!」
「春菜にもオタクの気があったんだね」真雪が言った。
「見たかったなあ……」春菜が夢みがちな目で言った。「想像するだけで興奮する。見たかったなあ……」
「な、ルナ、何だよ、『見たかった』って。君はいやじゃないのか? お、俺が違う女の人を抱いたっていう事実を聞いて」
「それとこれとは別。それとも、今も抱いてるの? 時々、ミカさんを」
「そんなこと、あるわけないだろっ! い、今は抱いてない」健太郎が叫んだ。

「今は?」

「やばっ!」健太郎は口を押さえた。
「その後も何度かあったってこと?」
「も、もう勘弁してくれー」健太郎は泣きそうになった。
「そっかー。だから食事の時慌ててたんだ、ケン。そう言うことだったのね」
「ごめんなさい、ごめんなさい!」健太郎は春菜にぺこぺこと頭を下げた。

「今度、もしそう言う機会があったら、言って。私、絶対見に行くから」
「ええっ?!」
「素敵じゃない。私、ケンがミカさんに抱かれるのだったら許せる。何だか絵になりそうだもの」
「知らなかった。ルナがこんなにぶっ飛んだ娘だったなんて……」
「ついでだから、」真雪が口を開いた。
「なに?」春菜が真雪を見た。
「夏輝に失恋した傷心のケン兄を慰めてくれたのもミカさんなんだよ」

 健太郎は真っ赤になって縮こまっていた。

「慰めてくれた、って、心も身体も?」
「もちろん」
「素敵、素敵っ!」春菜はベッドに腰掛けたまま上下に跳ねた。
「マユー、覚えてろよ……」健太郎は真雪を睨(にら)んだ。
「えっ?! でも、」春菜が口を押さえた。「ミカさんって、龍くんのお母さんだよね?」
「そうだけど」龍が涼しい顔で言った。
「ど、どういう気持ち?」
「何が?」
「だ、だって、自分の母親が、あなたにとって兄弟同然のいとことセックスしたんでしょ? 龍くんの方がショックだったんじゃないの?」
「あんまりショックじゃなかったなー。だって、二人とも俺ちっちゃい頃からよく知ってるし、」
「当たり前だ。特にミカさんはお前を産んだ人なんだからな」
「二人ともそのことで俺に対する態度が変わったりしないし」
「そんなものなんだ……」

 健太郎が言った。「それに、そのことを知った時、龍はマユに目がくらんでたからなー。母親が俺に抱かれたことなんて、どうでも良かったんじゃね?」
「くらんでたの? 龍」真雪が訊いた。
「はい。仰る通り。あの時は既にもう貴女しか見えてませんでした」龍は真雪の手を取って笑った。
「ごちそうさま」春菜も笑った。


「そう言う龍もさ、」真雪だった。「ママを抱いてみたい、なんて思ったことないの?」
「マユミ叔母さんを?」
「そう」
「うーん……」
「お、考えてっぞ」話題が自分から遠ざかった健太郎が、安心して楽しげに言った。
「あるとすれば、真雪に似てるからふらふらと、っていうシチュエーションかな」
「だけど、龍ったら、ママを思いっきりイかせてたんでしょ?」
「いや、だからそれはケン兄の夢の中の俺でしょ?」
「春菜も激しく昇天させてたみたいだし。ケン兄を縛り上げてさ」
「俺、迷惑だよ」龍がまたアーモンドをつまみながら言った。「その俺って、超性格ワルだよ」
「龍ってテクニシャンなんだねー」真雪は笑った。

「でも、」龍が真雪を睨んで言った。「真雪、俺よりケン兄のキスの方がいい、って言ったんだって?」
「なに怒ってるんだよ。変なの」真雪もカップを手に取った。
 龍は健太郎に向き直った。「ケン兄、真雪がそう言ったんだよね?」
「確かに言ったなー」健太郎は面白そうに言った。「でもお前、ルナに『龍くんの方が感じる』って言わせたんだぞ。おあいこじゃないか」
「そ……」龍は言葉を詰まらせた。

「二人ともなに夢の中の話を本気にしてるんだよ」真雪が言った。「それともなに? 現実に春菜のこと、気にしてるの? 龍」
「ああ、気にしてるよ」龍はあっさりと言った。
「えっ?!」健太郎が眉間に皺(しわ)を寄せた。
「被写体として、とっても魅力的だ」
「え? どんな風に?」
「気を悪くしないでね。春菜さんはピンクがよく似合うから、その名前通り春に『シンチョコ』をバックに撮ってみたい。ピンク系の服、着てもらって」
「なるほど」健太郎はとりあえずほっとして肩の力を抜いた。
「別にメイド服でなくてもいいからね」龍は笑った。
「メイド服もまんざらでもないんだってさ、ルナは」
「へえ、ホントに?」真雪が言った。「いつか実現させようか」
「うん」春菜がこくんとうなずいた。

「萌えてきたっ!」真雪が力強く言った。
「真雪はオタクだからなー」龍がまたアーモンドに手を伸ばした。「ケン兄も食べたら? 安眠できるよ。アーモンド」
「俺、もう眠るのが怖い」
「じゃあ起きてたら? 春菜と一緒に。いろいろやることあるでしょ」真雪が言った。
「ばかっ!」例によって健太郎はひどく赤面した。



 龍と真雪が部屋を出て行った後、健太郎と春菜は寄り添ってベッドに横になった。春菜はネグリジェを脱いだ。さっき真雪たちがここに来た時には、下着をつける時間がなかったので、既に全裸だった。健太郎もスウェットを上下とも脱ぎ、下着一枚の姿になった。

「楽しいね」春菜がくすくす笑い出した。
「え?」
「私、ここの人たちと話してると、心がいっぱい広がっていく気がする」
「広がる?」
「今まで心の奥に沈んでた自分が、いっぺんに解放されて弾け出すような感じがするよ」
「確かにルナ、今日うちに来た時と比べても、随分大胆なこと言ったりしたりするようになったような……」
「だよね。私も自分でそう思うよ」
「変わりモンだろ? 俺の家族や親戚」
「確かに変わってる。あんなにオープンにセックスの話ができるって、ある意味すごい。中三の龍くんでさえそうなんだからね。もう私よりすっかり大人、って感じさえするもん」
「ごめんな、ルナ」
「私、あなたとおつき合いをし始めて、自分がどんどん変わっていくのが嬉しい」
「変わっていってもいいけど、俺をどうでもいいって思わないでくれよ」
「絶対思わない。だって、それもこれもケンのお陰だもん。ある意味、あなたは私の心の解放者。恩人だから」
「ルナ……」

 春菜は健太郎の首に手を回し、唇を突き出してキスを迫った。健太郎はすぐに応え、春菜の口全体を自分の口で覆った。舌を絡ませながら春菜は手を健太郎の下着に伸ばした。「んっ……」健太郎は小さく呻いた。春菜は口を離し、彼をあお向けに押し倒した。

「ルナ?」
 春菜は健太郎の小さな下着をためらわず脚から抜き去り、髪を?き上げた。

「私、もうできるよ」

 そうして春菜は既に大きくなって脈動している健太郎のペニスを一気に咥え込んだ。
「ああっ! ル、ルナっ!」健太郎はのけ反った。
 春菜はその根元を両手で持って、口を上下に動かし始めた。「んっ、んっ、んっ!」
「や、やめろ、ル、ルナっ! よ、よせ! 俺、あ、あああああ!」

 身を引くこともできず、健太郎は一気に高まった興奮の波に飲まれた。「は、離せ! 口を、ぐうっ!」

 びゅるるるっ!

「んんっ!」春菜は呻いた。しかしそのまま口を離すことなく、動かし続けた。「うああああああっ!」健太郎が身体を痙攣させた。健太郎のペニスを咥えたままの春菜の口から大量の精液があふれ出した。

 ようやく春菜は口を離し、また髪を?き上げた。しかし一度収まったかに見えた健太郎のペニスはまたぐっと反り返り、再び脈動を始めた。

「あああっ! また……で、出る、出るっ!」健太郎は叫んだ。そして勢いよく噴出するそれは春菜の顔や髪や眼鏡に次々に絡みついた。

「ルナ! ルナっ!」健太郎は身体を起こした。「だ、だめだ! そんな、お、俺、俺っ・・・・」

「あんまり大声出すと、また真雪たちを起こしちゃうよ」春菜は手にティッシュを取って、口元を拭いながら言った。
「ルナ! ごめん、君に、いっぱいかけちゃって……」
「やっとできた。嬉しい」春菜は健太郎の精液でどろどろになった顔をほころばせた。「もっと早くからやっとけばよかった」春菜は眼鏡を外した。「とってもよかったよ、ケン」
「そんな、無理しなくても……」健太郎は真っ赤になってまたサイドテーブルからティッシュを何枚も何枚も手に取り、春菜の顔や髪を拭き始めた。
「だって、やって欲しかったんでしょ?」
「出すまでやんなくてもいいよ。もう……」
「全然イヤじゃなかった。口でやるのって、あなたの温かさが直(じか)に感じられて気持ちいい。充実感がある」
「だから、出す前に口、離してよ」
「ケンはいやなの? 私の口に出すの」
「イヤです」
「どうして?」
「ルナがとってもかわいそうになる」
「だから平気だってば」
「もう勘弁してくれよ」健太郎は泣きそうな顔で言った。
「わかった。そうする」春菜は笑った。「ケンが嫌がることはやんない」
「よかった……」健太郎はほっとため息をついた。

「だめだ、ティッシュで拭いたぐらいじゃ。ルナ、シャワー浴びよう」
 健太郎は立ち上がった。
「そうだね」春菜も立ち上がった。
「一緒にシャワーって、考えてみたら初めてだね」
「ケンのハダカがまたじっくり見られる」春菜が嬉しそうに言った。「眼鏡も持ってかなきゃ」

 春菜は再び眼鏡を掛けた。健太郎はその笑顔を見ていると、またその唇に吸い付きたくなるのだった。二人は下着を着け直してそっとドアを出た。


《6 メイド・ハウス》

 10月。葉を黄色に染めたプラタナスの枝のあちこちに丸い愛らしい実が付き始めた。日本名で「鈴掛の木」と呼ばれる所以(ゆえん)だ。

「いよいよ来週の月曜日に『採れたてアーモンド限定品』の発売開始やで」ケネスが言った。
「今年は発売40周年の記念すべき年やな」シヅ子が今までと同じアーモンド入りチョコレートのパッケージに『40th. Anniversary』と特別に書かれたものを一つ手にとって感慨深げに言った。
「お義母さん、どうして毎年10月の第2月曜日に発売開始なんですか?」
「それはな、マユミ、その日がカナダの感謝祭やからや」



 『シンチョコ』の店内には、ピンクのメイド服を着た春菜が客の相手をしていた。数人の若い男が彼女を取り巻いている。

「わいの思惑通りやったな、」ケネスが全面ガラスで隔てられた自分のアトリエに入ってきて、その様子を見ながら、満足そうに言った。
「いやあ、あれほどだとは……」健太郎がステンレスボウルのチョコレートを湯煎にしながら言った。
「そやけど、愛想ええで、春菜さん。よう似合うとる」
「確かに」
「普通、あんなん着てたら浮くもんやけどな。見事にうちの店にはまっとるやんか」
「新たな看板だ。だけど、」健太郎が、もう一人のメイド服の娘に目を向けた。
「あれもなかなかだね」
「ほんまやな。まさか真雪もあんなカッコするとは思わへんかったわ」

 真雪は鮮やかなスカイブルーのメイド服姿で、違う男たちに囲まれていた。

「いよいようちもメイド喫茶の看板を上げる時がきた?」
「客があの娘らに、いやらしいことせえへんようにちゃんと見張っとくんやで、健太郎」
「大丈夫。そんなこと、俺が許さない」
「ほな、レジ頼むわ。わい、ザッハトルテ仕上げてしまうよってにな」
「わかった」

 健太郎はネクタイを締め直してレジに立った。春菜がちらりと健太郎の方を振り向いた。健太郎は小さく手を振った。春菜はにっこりと笑った。健太郎はその愛らしい表情を見て、またその口に吸い付きたくなる衝動に駆られるのだった。
 真雪は顔を少し上気させた健太郎を見て、やれやれと一つため息をついた。彼女は、発売間近の今年の新作、期間限定採れたてアーモンド入りチョコレートの試食品が乗せられたトレイを持っていた。


 健太郎の前にビームサーベルスタイルでバンダナを頭に巻いた若い男が立った。
「いらっしゃいませ」健太郎は笑顔で言った。
「あ、あの、ピンクのメイド服のあの子、何て言う名前ですか?」
「『春菜』と申します」健太郎は笑顔で言った。
「じゃ、じゃあ、あっちの蒼い服の子は?」
「『真雪』と申します」健太郎は笑顔で言った。「お気に召されましたか?」
「は? え、い、いや……」
「いつも店にいるわけではございませんが、これからも、どうぞご贔屓にお願いしますね」健太郎は満面の笑顔で言った。

 男はそっと恥ずかしげに二つのアソートチョコレートの箱を差し出した。その箱の片隅にはピンクのメイド服の眼鏡をかけた少女のキャラクター『ルナ』が印刷されている。そしてもう一つには蒼い服のキャラクター『マユ』。

「中身が微妙に違いますが、よろしいですか?」健太郎が笑顔で言った。
「は、はい。知ってます」男はうつむきがちにそう言った。「でも、どちらにもアーモンド入りチョコ、入ってるんですよね」
「よく御存じですね」
「ぼ、僕の母が好きなんです。ここのアーモンド入りチョコ」
「それは光栄です!」健太郎は心から嬉しそうな顔で言った。

「じゃ、これ」男は代金を支払った。
「どうもありがとうございました」健太郎は深々と頭を下げた。

 包装され、かわいらしい紙袋に入れられた二つのアソート・チョコレートを受け取った男は、そそくさとレジを離れた。そして店の玄関で立ち止まり、ちらりと春菜と真雪を見て、少し赤くなってすぐに出ていった。



 夜の8時。店の前に「Closed」の木の札が掛けられた。

「経済効果、抜群!」店の中に戻ってきた健太郎が言った。
「客層が一気に広がったな」店の喫茶スペースに座っていたケネスも言って、コーヒーカップを手に取った。
「昨日の折り込み広告の効果だね、きっと」
「そやな。『シンチョコ』の新しい二人のイメージキャラクターもそれでデビューしたからな」
「けっこう素敵な人たちだったよ、あの人たち」春菜が椅子をテーブルに入れ直しながら言った。
「素敵?」
「うん。みんな『オタク』って呼んでるけど、あの熱さは尊敬できるな、私」
「あたしも、ちょっといやらしい人たちかと思ってた」真雪がフリル付きのカチューシャを外しながら言った。「全然そんなことない。純粋だね」

「お前らのイラスト付きの商品、飛ぶように売れてたな。今日だけで30ぐらいはいったんじゃ?」
「『シンチョコ』のイメージキャラクター付き。早速ファンをゲットしたね」
「わいは満足や。これでいつあの世からお迎えに来てもろてもええってもんや」
「まだそんなこと言ってる」健太郎が横目で父親を見てコーヒーをすすった。そして春菜に向き直った。「ルナの初めてのデザイン商品、手応えありだね」
「うん」春菜は満面の笑みでうなずいた。

「みんな、晩ご飯だよー!」店の奥からマユミの声が聞こえた。
「わかった、今行くよ、母さん!」
「あー、お腹すいた」そう言って自分の腹を押さえた春菜の身体に腕を回し、自分の方に引き寄せながら健太郎は店の奥に向かった。

 真雪とケネスはお互い顔を見合わせて笑った。「ケン兄、ずっと春菜に触りたくてうずうずしてたんだよ、きっと」
「そうみたいやな」

 ケネスはテーブルのカップをトレイに載せて、真雪と一緒に二人の後に続いた。






《Almond Chocolate Time あとがき》

 最後まで読んで頂いたことに心より感謝します。
 アダルト小説の原点に返ろう、という意図で書いた作品というのは、もうバレバレですね。
 例えば歳の離れた甥とのセックス、母子相姦、兄妹相姦、従兄弟に恋人を寝取られる、と、ちょっとマニアックなモノが立て続けに……。夢落ちですけどね。
 ただ、それで終わるわけにはいきません。『Chocolate Time』の主幹である本編である以上、物語性をしっかり持たせなければならない、という僕自身の矜恃があるのです。
 健太郎とその恋人春菜との関係は、ともすれば他のカップルの派手な活躍に比べると、影が薄い感じがしていました。龍と真雪はほぼ第二期の主役級にまでなっていますし、修平と夏輝の何が起こるか解らない的な行動にも目がいきます。そんな中、比較的冷静で紳士的な健太郎と、落ち着いた芸術家である春菜との時間は、燃え上がる情熱とは少し違う、静かな慈しみ合いという風情に彩られています。
 それはそれで、二人の愛のカタチですから、無理なことを要求する必要もないし、想い合う強さは他のカップルに勝るとも劣らないとも思っています。しかし、だからこそ、少し背伸びをした春菜の姿と、とまどいながらもそのことでますます彼女のことが好きになっていく健太郎の姿を描くことで、もっと深く、彼らの世界を掘り下げたいと思ったのでした。
 春菜は眼鏡を掛けています。それだけでまじめでおとなしい感じがします。そういう娘が乱れる姿を見たい、とか、メイド服を着せて奉仕させたい、と思う人もいます。メイド服姿に関しては、それでアダルト奉仕をさせる場面は、今回ありませんでしたが、いつかはこの格好の春菜が「ご主人様」に奉仕する話もあってもいいかな、と思ったりもしています。









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