Simpson 作

『Twin's Story 5 "Liquor Chocolate Time"』

《1 遠距離》

 地元を離れ東京の大学に進学したケンジは、急激に変化した生活になかなか馴染めず、講義や実習、水泳のサークル活動などで精神的にも肉体的にもくたくたになって余裕のない日々に追われていた。そんなケンジの心の支えが、必ず夜、寝る前に届くマユミからのメールだった。

 マユミは地元の経理・経営、マーケティング系の短大に進学した。家から通える学校なので、両親はもちろんケンジも要らぬ心配をしなくて済んだ。やはりケンジにとってはマユミが今、どうしているか、ということが一番気がかりなのだった。ケンジはマユミとのメールの最後に必ず『会いたい』と送り、ベッドに入るのだった。そのケンジの一言が、その日の二人のメールのやりとりの締めくくりになっていた。


 夏が近づいたある日、サークル活動の時間、プールから上がったばかりのケンジに一人の競泳水着姿の女子学生が近づいてきた。
 「海棠君、最近調子でてきたんじゃない?」
 「あ、ミカ先輩。」

 兵藤ミカはケンジの二つ上の学年だった。小柄でショートカットの髪、大きな瞳は、どことなくマユミに似た雰囲気をたたえていた。

 「何かいいことがあった?」
 「え?いや、別に・・・。俺もやっとここに慣れてきたかな、って感じですかね。」ケンジは頭を掻いた。
 「そ。」ミカはそれだけ言うとケンジから離れていった。

 実は7月最後の日曜日に、マユミがケンジを訪ねてくる、というメールをケンジは昨晩受け取ったばかりだった。ケンジの身体の中に湧き上がる熱い気持ちが、自ずと生活のあらゆるシーンで彼に変化を与えていた。


 「マユっ!」ケンジは電車から降りてきたマユミに駆け寄り、マユミが持っていた荷物もろとも抱きしめた。

 「ケン兄!ケン兄!会いたかった。」
 「俺も!」

 プラットフォームの人の列が、そんな二人をちらちら見ながら通り過ぎて行った。
 「こ、ここに人がいなければ、今すぐお前にキスしてた。」
 「キスだけで済むかな。」
 「済まない。ベンチに押し倒して、それから、」
 「もう、ケン兄のエッチ。」

 ケンジは笑ってマユミの荷物を持った。そして二人は肩を並べてフォームの階段を降りた。


 ケンジの住んでいるアパートを見上げて、マユミは言った。「けっこうきれいじゃない?」
 「うん。家賃が安い割にはな。でもちょっと古いかも。」
 「ふうん。」

 ケンジはマユミを部屋に招き入れた。
 「いつまでいられるんだ?」
 「2泊しかできないんだ。ごめんねケン兄。ほんとはもっと長くいたいんだけど。」
 「え?たったそれだけ?」ケンジは思い切り残念そうな顔をした。
 「ごめん、夏の補習とかアルバイトとかで忙しくて。」
 ケンジが冷蔵庫から麦茶のボトルとコップを二個運んできて、マユミの前の床に置いた。「お前バイトしてるのか?」
 「うん。ケニーんちで。」
 「へえ。お前には最適じゃないか。ケニーの店で働かせてもらってるのか。」
 「そうなの。あ、これそのケニーんちからのお土産。」マユミはバッグからチョコレート・アソートの箱を取り出した。「今夏の新製品なんだって。」
 ケンジはその箱を手に取った。「へえ。『Summer Rainbow』夏の虹、か。なかなか洒落たネーミングだな。」
 「そう?あたしがつけたんだ。」
 「へえ!お前そんなことまでさせてもらえてんの。」
 「ケニーが、うちの一家はネーミングセンスないから、ってお願いされた。」
 「なるほど。納得。」
 「去年の夏のこと、思い出してつけたんだよ。」
 「去年の夏かー。行ったな、そう言えば海に。」
 「懐かしいね。」
 「ほんとにな。」

 ケンジは目を閉じて去年のマユミとの一時を懐かしんだ。

 「一年で、ずいぶん変わったね。あたしもケン兄も。」
 「高校卒業したら、一気に全てが変化した、って感じだ。」
 「大学は楽しい?」
 「ああ。毎日大変だけど、充実してるよ。」
 「良かった。」
 「お前も?」
 「うん。ちゃんと勉強してるよ。でも短大はずっと授業や補習がつまってて、高校の時と忙しさはあんまり変わらない。」
 「そうか。身体壊さないようにな、マユ。」
 「ありがとう、ケン兄。」

 ケンジはマユミの両頬にそっと手を当て、優しくキスをした。マユミがケンジの首に腕を回した。ケンジはさらに唇を押しつけ、マユミの舌を吸った。「ん、んんんっ・・・。」マユミが小さく呻いた。

 ケンジはマユミの白いピッタリしたTシャツをめくり上げ、ブラのフロントホックを外した。白い乳房がこぼれた。ケンジは夢中でその乳房を吸い、もう片方の乳房を手でさすった。「ああああん・・ケン兄・・・。」
 ケンジは少しごわついたカーペットの床にマユミを横たえ、短いショートパンツから伸びる白い太股に唇を這わせ始めた。そして彼女の両脚をゆっくりと開き、ショートパンツ越しにマユミの股間に顔を埋めた。

 「あ、いやん、ケン兄・・・・」

 ケンジはそのまま彼女のショートパンツを脱がせることなく鼻と口をこすりつけながら喘ぎ始めた。「ああ、マユ、マユ、いい匂いだ。」
 「だ、だめだよ、ケン兄、あああ・・・」直にではなく、着衣越しに刺激され、マユミはもどかしさと期待が入り交じった不思議な快感を覚えていた。

 「濡れてきちゃった、ケン兄、脱がせて、お願い。」

 ケンジはマユミの着衣を全て脱がせた。そしてあらためてマユミの秘部に唇を当てた。「ああっ!」マユミの身体がびくん、と跳ねた。着衣越しにじらされた分、刺激が強かった。「あああ・・ケン兄、ケン兄、気持ちいい・・・。」
 ケンジはその行為をずっと続けた。マユミの身体はどんどん熱くなった。ケンジが舌を谷間に這わせ、舐め上げながらクリトリスを細かく刺激した。「や、やだ!イ、イっちゃう!ケン兄、あたし、もうイっちゃうっ!イくっ!」びくびくびくっ!マユミの身体ががくがくと震えた。

 肩で息をしているマユミを見下ろしながら、ケンジはズボンのベルトを外した。そして黒いTシャツを脱いだ。彼は黒いビキニの下着姿になり、マユミにゆっくりと身体を重ねた。そして下着越しに大きくなったペニスをマユミの秘部にあてがいこすりつけ始めた。「ああ、ケン兄、ま、また・・・・。」

 「マユ・・・。」ケンジはマユミにキスをした。そっと口を離した時、マユミが囁いた。「あたしもケン兄の、咥えたい。」
 ケンジは動きを止めることなく返した。「だめ。」
 「え?なんで?」
 「俺のはいいよ。汗かいてるし、シャワーで洗ってからな。」
 「そんな・・じゃああたしのも汚いよ・・・・」
 「お前のはいいんだ。俺、お前の匂いが大好きだから、全然平気だ。」
 「ごめんね、ケン兄。」
 「夜にまた、ゆっくりとやってもらうよ。」
 「うん。」マユミは上気した顔で微笑んだ後、手をケンジの下着に伸ばした。
 ケンジは自分でビキニを脱ぎ去った。

 「入れるよ。」
 「うん。来て、ケン兄。奥深くまで・・・・。」

 ケンジはペニスをマユミにゆっくりと挿し込んだ。「あ、あああああ、ケン兄!」
 「う、ううっ!」

 マユミの身体を強烈な快感がまた駆け抜けた。「ああ、ケン兄、ケン兄!」
 「マユ、マユ!」ケンジは激しく腰を動かし始めた。部屋の床がぎしぎしと音をたてた。「好きだ!マユ、会いたかった・・も、もう俺、あ、ああああ・・・。」
 「あたしも、ケン兄、大好き、イ、イって、イって!あたしもイくから、あああああ!」

 二人はお互いの指を絡ませ、握り合った。

 「で、出る、出るっ!マユっ、マユーっ!」びゅるるっ!びゅくん、びゅくん!「イっちゃうっ!またあたし、イく、イくっ!」びゅくっ、びゅくっ、びゅくっ!
 それまでの時間を埋めるように、二人は身体を今までになく大きく脈打たせ、いつまでも離れようとしなかった。「マユ、マユっ!俺の大好きなマユ!」「ああ、ケン兄、ケン兄!」


 二人はケンジの大学のキャンパスを歩いていた。
 「すごい!やっぱり四年大は違うね。何もかも立派。」マユミはきょろきょろとあたりを見回しながら目を丸くして言った。
 「ここがプール。入ってみるか?」
 「うん。」

 高校のものとは比較にならないぐらい立派な屋内プールだった。併設されたジムも、更衣室も、ジャグジー付きのシャワー室も、休憩室も、全てが広く、設備が整っていた。

 プールの中やプールサイドに何人かの水着姿の男女がいた。「お、海棠!」反対側のプールサイドから男子学生が声をかけた。「それ、彼女かー?」
 ケンジはひらひらと手を振って応えた。「妹ー。」「なんだー、つまんねーの。」その男子はじゃぼんとプールに飛び込んだ。

 「海棠君。」
 「あ、ミカ先輩も来てたんですね。」
 水着姿のミカが二人に話しかけた。
 「これが噂の妹さんね?」
 「はい。妹のマユです。」ケンジが微笑みながら言った。
 「よろしく。あたし、ケンジ君の二つ上の兵藤ミカ。」ミカはぽかんと口を開けたままのマユミに手を差し出した。
 「あ、はい、あたし妹のマユミです。い、いつもケン兄がお世話になって・・・・。」

 ミカは笑い出した。

 「ど、どうしたんです?先輩」
 「あなたたち、とっても仲良しなんだね。」
 「え?」
 「人に紹介するのに『マユ』『ケン兄』なんてね。」
 「あ・・・。えっと・・・・。」ケンジは口ごもった。
 「双子なんでしょ?」
 「はい。」
 「ということは、ケンジ君とマユミさんは同い年。当たり前か。」
 「はい。」
 「かわいいね。マユミさん、ケンジ君よりずっと年下に見えるよ。」ミカは腰に手を当て、身を乗り出して声を落としてウィンクをした。「そうしてると、まるで恋人同士みたいよ。」
 「えっ?!そ、そんな・・・・」マユミは赤くなってうつむいた。
 ふと、ミカは眉をひそめてマユミの顔や身体をじろじろと見始めた。「マユミさんて、」
 「えっ?」マユミは顔を上げた。
 「あたしとちょっと似てない?」
 「お、俺もそう思います。」ケンジがすかさず言った。
 「背丈もあんまり変わらないし、ショートだし、顔も何となく、他人とは思えないんだけど。」
 「で、でも、ミカさんの方が、ずっと大人だと思います。」マユミが言った。
 「ま、確かに年増だけどね。あっはっは・・・。」ミカは豪快に笑った。「じゃ、ごゆっくり。」そしてミカはあっさり二人から離れていった。


 学生食堂のホールは白い壁の清潔感溢れる建物だった。ケンジとマユミはサンドイッチをつまみながらテーブルをはさんで向かい合っていた。
 「ミカさんていい人だね。」
 「お前もそう思う?」
 「うん。何か頼れる、みたいな・・・。」
 「俺が大学に入りたての頃、いろんなことになかなか馴染めずに悩んでた時にミカ先輩、いろいろ心配してくれたんだ。」
 「そうなんだー。」
 「お陰ですっかり大学にもこの生活にも慣れた。」
 「ほんとにいい人。」

 ケンジはコーヒーの紙コップを持ったまま言った。「ここのサンドイッチ、うまいだろ?」
 「うん。なんだか懐かしい。いろいろ思い出す。」
 「何を?」
 「去年の誕生日、ケン兄と街でお昼ご飯に食べたじゃん。」
 「そうだったな。プレゼントにお金使いすぎて、仕方なく食べたな、そう言えば。」
 「ペンダント、ちゃんと着けてくれてるんだね。ケン兄。」
 「当たり前だ。肌身離さず。マユも・・・。」
 「もちろん。ほら。」マユミは首に掛かったペンダントを取り出して見せた。射手座の矢がきらきらと輝いた。
 ケンジが声をひそめ、マユミに身を乗り出しながら言った「今夜は、あのおそろいのショーツで・・・。持ってきた?」
 「うん。もちろんだよ。」
 ケンジは満足そうにまたコーヒーを口にした。


《2 揺れる心》

 季節が代わり、街の木々がその葉を落とし始めた。

 「どないしたんマーユ。」ケネスが生クリームのボウルを持ったまま訊ねた。「元気ないな。」
 「寂しいんだ、あたし。」
 「ケンジに会えへんからか?」
 「うん。それもある。」
 「それも、って、他に何かあるん?」
 その質問に答えることなくマユミは言った。「でも、あたし、ケニーがそばにいてくれてすっごく助かってる。精神的に。」
 「わいが?」
 「そう。あなたとケン兄が親友で、ほんとに良かった。ケニーは今のあたしの心の支えなんだ。」
 「心の支え・・・、光栄やな。」ケネスは生クリームをかき回し始めた。「マーユ、あんさんこの先どないするん?」
 「この先って?」
 「短大出てからの話や。」
 「まだ、はっきりとは・・・・。」
 「経営やらマーケティングやらの勉強しとんのやろ?」
 「うん。」
 「自分に合ってると思てる?」
 「うん。勉強は楽しい。」
 「ほたら、」ケネスはクリームのできあがったボールを氷水に浸して、手をタオルで拭きながらマユミに向き直った。「この店に就職せえへんか?」
 「えっ?!」
 「わい、ここの跡継ぎになんのやけど、親父もおかんも経営に関してはちょっと弱くてな。マーユが力を貸してくれると助かるんやけど。」
 「そ、そんな、いきなりそんなこと言われても・・・。」
 「わかっとる。わいもまだ修行中やし、すぐにっちゅうわけやあれへん。けど、もし、マーユが短大卒業する時、その気になってたら、ここに来てくれへんか。」
 「あ、あたし・・・・。」マユミはうつむいた。
 「ごめん、マーユ。かえって元気なくさせてしもたな。」ケネスはマユミの手をとった。「ケンジとも相談し。」


 「海棠君、いるー?」どんどん、ケンジの部屋のドアがノックされた。
 「はい。」ケンジはドアを開けた。「あ、ミカ先輩。」
 「ごはん食べた?」
 「いえ、まだ・・・。」
 「いっしょに食べよ。肉まんだけど。」
 「え?そんな、悪いですよ。」
 「だってあたし、こんなに食べきれないもの。食べて手伝ってよ。」ミカはドアを閉めてケンジの部屋に勝手に上がり込んだ。

 「おお!なかなか片付いた部屋じゃん。男子学生の部屋とは思えない。」
 「そ、そうですか?」
 「新聞か何かない?」
 「チラシならいくらでもありますけど。」ケンジが郵便受けに入れられていたチラシの束を手に取った。
 「二、三枚持ってきて。」
 「はい。」

 ミカはごわごわしたカーペットの上にケンジが広げたチラシの上にどさどさと肉まんを積み上げた。
 「こ、こんなにたくさん、どうしたんです?」 
 「いやあ、友だちがバイトしてるコンビニでね、賞味期限が迫ってたんで、無理矢理持って帰らされたらしいのよ。いろいろあるよ、カレーまん、中華まん・・・。」ミカは着ていたスウェットの腕をまくった。
 「そうですか。じゃ、いただきます。」
 「飲み物はないの?何か。」
 「え?あ、そうですね。忘れてた。」ケンジは狭いキッチン横の冷蔵庫を開けた。「麦茶とか、ミネラルウォーターとか、あ、缶コーヒーもありますけど。」
 「ビール、入ってたりしないよねぇ。」
 「え?ビ、ビールですか?」
 「そ。」
 「あいにく・・・。買ってきましょうか?」
 「いいよ。麦茶で。ごめん。海棠君が未成年だってこと、ころっと忘れてたわ。あっはっは。」

 ミカはケンジが麦茶のボトルと二つのコップを運んできた時にはすでに一つの肉まんにかぶりついていた。
 「うまい!あつあつだよ。君も早く食べなよ。」
 「は、はい。」ケンジも肉まんをひとつ取り上げてかぶりついた。
 「最近元気ないね。どうしたの?」
 「え?そ、そんなことないです。」
 「あたしの目はごまかせないからね。絶対元気ない。何かあったんでしょ?」
 「もうすぐ冬ですから。」
 「はあ?!」ミカはひどくむせて、麦茶を一気に飲み干した。「お代わり。」そしてコップをケンジに差し出した。
 ケンジはミカのコップに麦茶を注ぎながら言った。「意味、わかりませんよね。」
 「わからないね。でも、君がなかなかのロマンチストだってことだけはわかった。」そしてミカは二個目の肉まんにかぶりついた。「ごめんね、あたし、こんなで。」
 「い、いえ・・・。」

 「よしっ!あたしが話を聞いてやろう。」ミカは身を乗り出した。「吐け!何もかも。吐けばすっとする。飲み過ぎといっしょ。」
 「何ですか、それ。」ケンジは笑った。
 「君は飲み過ぎだ。」
 「は?」
 「言い換えれば、自分だけの思い込みと妄想と不安の飲み過ぎ。」
 ケンジはミカの言葉にうろたえた。「思い込みと妄想と、不安・・・・。まさに。」
 「だろ?あたしの眼力をなめちゃだめよ。ずばり、マユミさんがらみでしょ。」ミカが人差し指を立てて言った。
 「そ、それは・・・・。」
 「図星だよね?わかってるって。君と妹のマユミさんとは、実は恋人同士なんでしょ?」

 ケンジはアリバイが突き崩された罪人のようにうなだれた。「ま、参りました、ミカ先輩。もう何でも白状します。」ケンジは床に手をついて頭を下げた。
 「それがいい。そうしなよ。」
 「でも、なんでわかったんです?」
 「いくつか証拠がある。一つ目、君たちが駅のプラットフォームで抱き合っているのをサークルの人間が目撃していた。」
 「えっ!」
 「二つ目、大学のキャンパスを肩を組んで歩いている君たちを見ていたヤツがいた。」
 「あ、あの・・・。」
 「三つ目、」ミカが声を潜めた。「ある夏の日の夜、あたしの部屋の上の住人の部屋から、床の軋む音と何やらお互いの名前を呼び合う声が聞こえた。」

 ミカの部屋はケンジの部屋の丁度真下だった。

 「ええっ!」ケンジは真っ赤になった。
 「このアパート、意外に安普請だからね。どうだ?もう言い逃れはできまい。参ったか。あっはっはっは!」
 「お、俺・・・・。」
 ミカはケンジの肩をぽんぽんとたたきながら言った。「心配しないで、誰にも言わないからさ。」
 「す、すみません・・・・。」
 「しっかし、臆面もなく、人前で大胆なことだわ。ま、若い頃は突っ走るもんだけどね。あたしもそうだったからわかるわかる。」ミカは大きくうなづいた。
 「ごめんごめん、海棠君。まじめにいこうか。話して聞かせて、君の今のもやもやの中身。」
 「俺、マユが大好きなんです。妹としてではなく、一人の女のコとして。それに、先輩が言うように、もう一線を越えてます。高二の時から続いてるんです。」
 「へえ!すごいね、相当想い合ってるんだね。君たち。」
 「恥ずかしい話ですけど・・・・。」
 「別に恥ずかしがることないんじゃない?」
 「でも、冷静になって考えてみると、俺たちの関係って、異常です。」
 「まあ、世間一般の考え方でいけばね。」
 「このまま、こんな関係を続けられるはずがない、そう思うんです。」
 「理性が成長してきたってわけだ。それでも、マユミさんを目の前にすると愛しくてたまらないから抱いてしまう。一人になると、このままではいけない、って思っちゃうんだね?」
 「そうです。」

 「結論は一つ。君たちは結婚できないから、ある位置まで引き返す必要がある。」
 「ある位置?」
 「そう。いわゆる兄妹の関係まで。」
 「そうですよね、やっぱり。」
 「でもま、兄妹でセックスしちゃいけないっていう決まりはないから、あんまり深く考えなくてもいいかもしれないけどね。」ミカは麦茶を一口飲んだ。「問題はそのプロセスだね。」
 「プロセスですか?」
 「いくつか考えられるね。一つ目、マユミさんに彼氏を作ってやる。君があきらめがつくような彼氏をね。でもそれは辛いだろうね。二つ目、君が彼女を作る。君が惚れ込んで、マユミさんへの想いを忘れてしまうような彼女を。これもなかなか実現できないかー。三つ目、マユミさんの情報を絶つ。会わないのはもちろん、メールも電話も、彼女を想起させる全てのアイテムを処分する。」ミカはため息をついた。「それもやっぱり無理か・・・・・。」
 「でも、先輩の仰るとおり、その方法しかないと思います。」
 「でもさ、海棠君、あんまり無理しない方がいいと思う。」ミカが優しく言った。「人の気持ちって、そう簡単に割り切れるもんじゃないよ。君たちもまだ若いんだし、マユミさんの気持ちも大切にしなきゃいけないでしょ?君だけであれこれ悩んで、それこそ突っ走るのは考えもんだと思うよ。」
 「・・・ありがとうございます。」
 「めそめそすんな!悩んだら呼びなよ。あたし、いつでも下から食料持って来てあげるからさ。」
 「ミカ先輩・・・。」
 「ただ、ビール二、三本冷蔵庫に入れといてね。」

 ケンジは久しぶりに笑った。「わかりました。買っときます。」

 「そうそう。笑ってな。少しは気が晴れるからね。」
 それから二人は目の前の肉まんを食べ続けた。ケンジも久しぶりに満腹になるまでそれを食べた。
 部屋を出る時、ミカは振り向いて言った。「君を見てると、何だか頼りない弟みたいな感じがするよ。じゃあね。」


《3 それぞれの誕生日》

 今年も12月1日がやってきた。マユミは一人、部屋でベッドに腰掛けていた。小さなフォトブックをそっと開けてみた。写真の中でケンジがコーヒーカップを片手に微笑んでいる。ビーチでマユミと肩を組んでケンジが赤くなっている。ケネスの家での誕生日パーティで、暖炉を背に三人で写っている写真の中で、一人だけケンジが目をつぶってしまっている。

 「ケン兄・・・・。」マユミはその写真の中の動かないケンジの身体に人差し指をそっとあてた。「寂しい、寂しいよ・・・・。」
 マユミはケータイを取り出してボタンを押した。何度かの呼び出し音の後、『おかけになった電話は電源が切られているか、電波の届かない・・・』というメッセージが流れ始めた。マユミは電話を切った。彼女は別の番号のボタンを押した。
 「おお、マーユ、誕生日おめでとうさん。今電話しよう、思てたところや。」
 「ケニー、今から行っていい?」
 「ええで、」電話の向こうでケネスはマユミの沈んだ声に反応した。「どないしたん?マーユ。」
 「すぐ行くから、待ってて。」マユミはそれだけ言って電話を切った。


 ケンジは一人、アパートの部屋の真ん中に座り込んでいた。小さなフォトブックを恐る恐る開いた。ケンジの部屋でチョコレートを頬張っているマユミがいる。ビーチで水着姿のマユミがピースサインを作って笑っている。ケネスの家でマユミがケーキを食べながら幸せそうな顔をしている。

 「マユ・・・・。」ケンジは小指の先で、冷たい写真の表面をなぞった。「誕生日、おめでとう、マユ・・・・。」
 ケンジはケータイを手に持つと、ボタンを長押しして電源を落とした。そしておもむろに立ち上がり、冷蔵庫から缶ビールを取り出し、その場でプルタブを開けた。


 「マーユ・・・・。」ケネスがやってきたマユミを出迎えた。
 「ケニー、ごめんね、いきなり来ちゃって。」
 「かめへん。さ、中に入り。」ケネスはマユミを離れの部屋に招き入れた。

 暖炉に火がぱちぱちと燃えていた。白い絨毯が少しオレンジ色に染まっていた。そして広いテーブルの上にピザとチョコレートケーキが置かれていた。

 「急いで間に合わせたんやけど、ごめんな、気きかせられへんで。ちょっと両親今忙しくてな、てんやもんやけど、めっちゃうまいピザなんやで。」
 「うん。ありがとう。ケニー。ごめんね、ごめんね・・・。」
 「ケーキは、わいの初挑戦や。後でマーユんちに届けよ思てたところや。あんまりデキはようないけどな。」
 「ううん。すごいよ、ケニー。あたしのために・・・・。」
 「大好きなマーユのこと考えながら、一生懸命作ったんや。」ケネスは笑った。

 「ケニー・・・。」マユミはケネスの目をじっと見つめた。「あ、あたし・・・。」

 「マ、マーユ・・・、ピザが、冷めてしまうで・・・・。早よ・・・食べんと、」ケネスがそこまで言った時、マユミはいきなりケネスに抱きついて、唇を無理矢理合わせた。「む、むぐっ!」ケネスは驚いて目を見開いた。マユミはなかなか口を離そうとはしなかった。ケネスの身体が熱くなってきた。ようやく唇を離したマユミは、ケネスの胸に顔を埋め、背中に手を回してきつく抱きしめた。
 「マ、マーユ・・・・。」
 「ケニー、ケニー、あ、あたしを抱いて、お願い・・・・。」
 「そ、そんなことできへん、マーユにはケンジが、」
 「ケン兄の名前を口にしないで!お願い、ケニー、抱いて!切ないの、あたし、切なくて壊れそうなの。」

 ケネスはそのまま長い時間身動きせず、唇を噛みしめていた。やがて彼は決心したようにマユミの身体を抱き返し、ゆっくりと横たえた。

 彼が着衣を脱がせている間中、マユミは固く目を閉じ、顔を背けていた。マユミをショーツ一枚の姿にしてケネスは自分の衣服を脱ぎ、黒いビキニの下着一枚になった。
 「マーユ、ほんまに後悔してへんか?」
 「来て、ケニー、大丈夫。大丈夫だから・・・。」マユミはずっと目を閉じたままだった。

 ケネスはマユミに優しく、そっと口づけをしたあと、唇を彼女の首筋、鎖骨、そして柔らかな乳房に這わせていった。「あああ・・。」
 ケネスはマユミの両脚を静かに開くと、おもむろに彼女の秘部に顔を埋め、鼻と口をこすりつけ始めた。「ああ、あああっ、ケン兄・・・。」ケネスはその行為をしばらく続けた。マユミの身体が熱くなっていくのが彼にもわかった。

 ケネスはマユミの着衣を全て脱がせた。そしてあらためてマユミの秘部に唇を当てた。「ああっ!」マユミの身体がびくん、と跳ねた。「あああ・・ケン兄、ケン兄、気持ちいい・・・。」

 ケネスに抱かれながら、マユミはケンジの名を連呼していた。

 ケネスはその行為をずっと続けた。マユミの身体はどんどん熱くなった。「や、やだ!イ、イっちゃう!ケン兄、あたし、もうイっちゃうっ!イくっ!」びくびくびくっ!マユミの身体ががくがくと震えた。

 肩で息をしているマユミを見下ろしながら、ケネスはマユミにゆっくりと身体を重ねた。そして下着越しに大きくなったペニスをマユミの秘部にあてがいこすりつけ始めた。「ああ、ケン兄、ま、また・・・・。」
 「マーユ・・・。」ケネスはマユミにキスをした。マユミは手をケネスの下着に伸ばした。
 ケネスは自分でビキニを脱ぎ去った。「入れるよ。」
 「うん。来て、奥深くまで・・・・。」
 ケネスはペニスをマユミにゆっくりと挿し込んだ。「あ、あああああ、ケン兄!」
 「う、ううっ!」

 マユミの身体を強烈な快感が駆け抜けた。「ああ、ケン兄、ケン兄!」

 「マ、マーユ!」ケネスは激しく腰を動かし始めた。「好きや!マーユ、抱きたかった、こうして、・・も、もうわい、あ、ああああ・・・。」

 「あたしも、ケン兄、大好き、イ、イって、イって!あたしもイくから、あああああ!」
 ケネスもマユミもお互いの身体を強く抱きしめた。
 「で、出る、出るっ!マーユっ、マーユーっ!」びゅるるっ!びゅくん、びゅくん!「イっちゃうっ!またあたし、イく、イくっ!」びゅくっ、びゅくっ、びゅくっ!

 二人の身体は大きく脈打ち、いつまでも離れようとしなかった。

 静かに開けられたマユミの目から、大粒の涙がこぼれ始めた。「ケニー、ケニー・・・ごめんなさい、ごめんなさい!あたし、あたし・・・・・。」
 「マーユ・・・・。」脈動が収まったペニスを、ケネスはゆっくりとマユミから抜いた。「まだマーユにはケンジのことが忘れられるわけあれへんのにな・・・・。無理もない・・・・。ごめんな、マーユ、勢いであんさんを抱いてしもうた・・・・。」
 「いいの、いいの、ケニー。あたし、あなたが好き・・・・。」
 ケネスはソファに折りたたまれていたケットを手に取り、泣きじゃくるマユミを座らせると優しくその身体を包んでやった。
 「さあ、マーユ、いっしょにケーキ食べよか。」
 「うん。」マユミはこくんとうなづいた。


 どすん!という大きな音が上の部屋から聞こえた。ミカは胸騒ぎを覚えて、急いで部屋を出た。

 「海棠君!」どんどんどん、「海棠君!何かあったの?」ミカはノブに手をかけた。ドアに鍵はかかっていなかった。ミカは躊躇わずケンジの部屋に入った。
 「な、何これ?!」ミカは立ちすくんだ。ケンジの部屋は散らかり放題だった。教科書やノート、バッグ、着替え。缶ビールの空きかんが三、四本転がっている。ミカは床にだらしなく座り込んでベッドに突っ伏しているケンジを抱き起こした。
 「海棠君!」
 「あ、ああ、ミカ先輩。」うつろな目でケンジはミカを見た。「どうしたんすか?なんれこんな汚いところに?」ケンジの舌はもつれていた。
 「飲んだんだね?どうしたんだ、一体?」
 「もうほっといてくださいよ。いいでしょ、飲んでも。今日、俺の誕生日なんすから。ははは~。」
 「大丈夫なの?気分悪くない?」
 「気分・・すか?全然平気っす。それより、なんか、暑くないっすか?」ケンジはよろよろと立ち上がると、シャツを脱ぎ始めた。上半身裸になったケンジはズボンのベルトに手を掛けた。しかし、ベルトだけを外したところで、そのままベッドに倒れ込んだ。

 ミカはケンジをとりあえずそのままにして部屋を片付け始めた。「まったく・・・。でも、ま、こいつが何を思っていたか、だいたい想像はつくけどね。」

 あらかた片付けが済んで、ミカはベッドにうつ伏せで寝ているケンジを見下ろした。枕元に小さなフォトブックがページが開かれたまま伏せられていた。
 「・・・・だいたい想像は・・・つくけどね。」ミカはそう独り言を言って、それを取り上げた。

 開かれたページにはケンジとマユミがビーチで水着姿のまま肩を抱き合っている写真が貼り付けられていた。写真の中のケンジはまるで子どものように真っ赤になって照れ笑いをしている。「こいつ、こんな顔することがあるんだ・・・・。ん?」ミカはその足で何かを踏んでしまったのに気づき、足を上げた。「ペンダント・・・。」
 そのペンダントは鎖が引きちぎられていた。ミカはそれを自分の手のひらにのせた。ケイロンが弓を引いているが、矢はついていない。小さな星が散りばめられた愛らしいペンダントトップだ。「この矢の持ち主への想いを断ち切りたかった・・・ってとこか。」

 ミカはベッドの上のケンジの身体を乱暴に揺さぶった。「おい、海棠!海棠ケンジ!起きろ!」
 「んあ?」
 「服を着ろ。風邪ひくだろ!」
 ケンジは寝返りを打って仰向けになった。かすんだケンジの目に映っているのは、自分をのぞき込んでいる・・・・マユミではないか!
 「マユっ!」ケンジは突然、身体を起こした。
 「え?!」ミカは小さく叫んだ。
 「マユっ!」ケンジはもう一度その名を叫ぶと、いきなりミカの身体を抱きしめた。「ちょ、ちょっと待て!海棠、あたしはマユじゃなくて、むぐうっ!」酒臭いケンジの口がミカの口を塞いだ。ミカは抵抗したが、すさまじい力でケンジに抱きすくめられていて身動きとれなかった。

 ケンジのキスは執拗だった。しかし、彼の唇が自分の唇をこすり、口に舌を差し込み、また舌を強く吸い込んだりされるうち、ミカの身体はだんだんと熱くなっていった。
 ケンジの腕から解放されたミカは、放心したようにぺたんと床に座り込んだ。ケンジはさっき脱ぎかけていたズボンを脱ぎ去り、黒いビキニショーツ一枚になった。そしてベッドに再び仰向けになり、目を閉じたままため息交じりに言った。

 「マユ、おいで・・・。」

 ミカの身体の中の熱いものが激しく湧き上がってきた。「マユ、早くおいで。」ケンジがまた言った。ミカは立ち上がり、ゆっくりと上着を、ジーンズを、シャツを脱いでいった。彼女がブラに手を掛けたのを見たケンジは言った。「ああ、それは俺が外してやるよ、マユ。こっちにおいで。」

 ミカはそのままケンジの身体に重なった。ケンジの手がミカの背中に回され、ホックが外された。肩ベルトが弛み、ミカのバストがこぼれた。ブラを乱暴に取り去ったケンジは、下からミカの乳首を吸い始めた。「あ、あああっ・・・」ミカの身体はますます熱くなった。「か、海棠君・・・・。」
 おもむろに口を離したケンジが言った。「『海棠くん』?マユ、お前も海棠だろ?何言ってんだ。俺たち兄妹なんだからな。」そして再びケンジはミカの乳首を咥えた。「んっ!んんっ!」ミカは身もだえした。

 ケンジはミカの身体を抱いたまま寝返りをうった。今度はミカが仰向けにされた。ケンジはミカを見下ろしながら言った。「マユ、きれいだ・・・相変わらずきれいなカラダだ・・・。」そしてミカの脚をゆっくりと開くと、ショーツに鼻をこすりつけ始めた。「あ、ああっ、いやっ!や、やめっ!やめろ!か、海棠っ!」
 「いい匂いだ、マユ。俺の大好きなお前の匂い・・・・。」ケンジはそれから下着をつけたまま、自分のペニスをミカの秘部にあてがい、こすりつけ始めた。「あ、あああ・・・。」ミカのカラダが疼き始めた。「も、もうい、入れて、」
 「まだだめだ。マユ・・。」

 ケンジはミカのショーツをはぎ取った。そしてまた脚を開くと谷間に舌を這わせ始めた。「あ、あああああっ!」
 クリトリスと谷間のヒダを舌や唇で愛撫され、ミカは身体をよじらせた。「い、いいっ!熱い、熱くなってくるっ!」いつしかミカの秘部からはたっぷりと愛液があふれ出し、ケンジのベッドのシーツをしっとりと濡らしていた。「い、入れて!お願い、あたしに入れて!あなたと、繋がりたい・・・ああああ・・・。」

 「よし。マユ、入れるよ。」ケンジは下着を脱ぎ去った。そしてゆっくりとミカのカラダに入り始めた。
 「あ、ああああ!だ、だめ、もうイ、イきそう!」ミカがひときわ大きく喘いだ。
 ケンジは腰をゆっくりと動かし始めた。「イ、イってしまうっ!が、我慢できない、ああああ!」ミカが叫ぶ。「お、俺も、もうすぐ、あ、あああああ!マユ、マユっ!」ケンジの腰の動きが激しくなった。「イって!イって!あたしの中で、あああああ!海棠っ!イくっ!イくーっ!」びくびくびくびくっ!ミカのカラダが痙攣を始めた。!「海棠ーっ!」

 「『海棠』?!」ケンジが目を見開き、身を起こした。「だ、誰っ?!」

 自分のペニスにその秘部を貫かれ、激しくイきながら身体を震わせているのは・・・!

 「ミ、ミカ先輩っ!」ケンジは慌ててペニスを抜いた。
 「ぐうっ!」ケンジはとっさに自分の手でペニスを握りしめた。

 びゅるるっ!びゅるっ!びゅくっ!びゅくっ!
 ケンジの身体の中から迸り出る精液が、ミカの腹と乳房に何度も大量に放たれた。
 びゅくっ!びゅくびゅくびゅく・・・・・びくっ・・・・・びく・・・・・。

 「ミカ先輩っ!」ケンジはベッドから転げ落ちた。そして耳まで真っ赤になり、土下座をして頭を床にこすりつけた。「すっ!すみません、すみません!ミカ先輩!俺、俺っ!と、とっ、とんでもないことを!」
 ミカは呼吸を整えながら、身体を起こして言った。「バカ!途中で抜くやつがあるか!もっと余韻を楽しませてくれてもいいでしょ?」
 「すっ、すみませーん!」ケンジはまた床に頭をこすりつけた。

 ミカの胸や腹に掛けられたびっくりするほど大量のケンジの精液は、だらだらと流れ落ち、ミカの太股の間の茂みに吸い込まれていった。彼女は、腕を伸ばしケンジを鋭く指さした。「海棠ケンジっ!」
 「は、はいっ!」
 「この責任は、いずれきっちりとってもらうからな!覚悟してろよ!」
 「ごっ!ごめんなさいっ!お、お許しくださーい!」

 
《4 決心》

 「おまえいつ帰ってくるんだ?ケンジ。」父親が珍しく息子に電話をしていた。「正月も帰って来なかったじゃないか。」
 「いろいろと忙しくてね。でも、月末には帰れそうだ。」
 「帰ってこい。母さんも寂しがってる。」
 「わかってるよ。」
 
 駅に降り立ったケンジを迎えたのはマユミとケネスだった。
 「お帰り、ケン兄。会いたかったよ。」マユミはケンジに抱きついた。
 「俺もだ、マユ。元気そうだな。」ケンジもマユミの身体を抱き返した。
 「人目も憚らず、あいかわらず大胆なやっちゃな。」ケネスが笑った。
 「どうだ、マユ、バイト、まだやってんだろ?ケニーんちで。」
 「うん。夕方ちょっとの間だけだけどね。」
 「もう、大助かりやねん。マーユはもはや手放せん戦力や。」
 「へえ、すごいじゃないか、マユ。」
 「えへへ。」
 照れて頭を掻くマユミを見て、この妹を愛しいと強く思う気持ちがケンジの中に甦り始めた。


 『Simpson's Chocolate House』の喫茶スペースで、マユミとケンジ、それにケネスは久々の再会を喜び合っていた。
 「マユ、お前あと1年で短大出るわけだけど、その後のことは何か考えてるのか?」
 「う、うん。あたしね、」マユミがケンジの目を見て言った。「ここで働かせてもらおうかな、って思ってる。」
 「え?ここで?」
 「そう。ここで。」マユミはココアのカップを手に取った。
 「わいを始め、親父もおかんもマーユのことが気に入ってしもてな。今マーユが勉強してるマーケティングのことや経理の知識がこの店には必要なんや。」
 「そうか。マユも役に立ってるんだな。」
 「自分ではそうでもないって思うんだけどね。」
 「お前の好きなチョコレートに囲まれて過ごせるなんて、夢のようじゃないか。」

 マユミはにっこりと笑った。「うん。」

 「しっかり勉強しな。ケネスに迷惑かけないようにな。」
 「わかってる。」
 「ほんで、ケンジ、お前うまくやってんのか?大学で。」
 「ああ。いい先輩もいて、親切にしてくれるし、大学に入ってタイムも伸びた。フォームも安定してきた、ってコーチにも言われた。」
 「そうか、やっぱ専門機関やと違うんやな。」
 「この前、新聞に出てたね、ケン兄。」
 「え?ああ、あれな。そ、そんなに大きな大会じゃなかったんだけど。どうにか結果が出せた。」
 「嬉しい。あたし、ケン兄があっちでがんばってる、ってことがわかるだけで嬉しい。応援してるからね。」
 「ありがとう、マユ。」ケンジはコーヒーのカップを手にとって笑った。

 「そうや、ケンジ、ちょっと二人だけで話がしたいんやけど。」
 「え?」ケンジはカップをソーサーに戻してちょっと意外な顔をした。「い、いいけど・・・。」
 「すまんな、マーユ、ここでチョコでも食べて待っててな。」
 「う、うん。」

 ケネスとケンジはテーブルを離れ、店の奥に消えた。マユミは少し不安な表情をして二人の背中を見送り、テーブルにほおづえをついた。


 店舗の裏にある別宅の前で、ケネスとケンジは向かい合った。
 「ケンジ、」
 「どうした、ケニー。」
 「わい、マーユと付き合いたい。」
 「なに?」
 「お前からマーユを譲り受けたいんや。」

 ケンジは唇を噛みしめた。そして絞り出すような声で言った。「お前にマユは渡さない。」

 「このまま関係を続けるつもりか?ケンジ。不毛な関係を。」
 「どこが不毛だ!俺たちは純粋に愛し合ってるんだ!お前に何がわかる!」
 「わかってるから言うてんのや。このままお前ら二人、付き合い続けられる思てるんか?いずれ結婚しようやなんて思てるんか?そないな夢みたいなこと、まさか本気で考えとるんとちゃうやろな?無理やろ?そないなこと、できるわけあれへんやろ?ええかげん目え覚ましたらどうやねん!」

 しばらく黙っていたケンジは、決心したように顔を上げ、まっすぐにケネスの目を見た。
 「俺と勝負しろ!ケニー。」
 「しょ、勝負やて?」
 「お前、俺のライバルだろ?お前が俺に勝ったら、俺はマユを諦める。」
 「何あほなこと言うてんねん、そないなことして何になる。遊んでる場合とちゃうやろ!」
 ケンジはケネスを睨み付けて大声で言った。「マユが欲しかったら、勝負を受けろ!ケネス!」


 ケンジの母校のプールには三人の他誰もいなかった。

 「どうしたの?いきなり勝負だなんて。」マユミが言った。
 「昔を思い出したんだ。ケニーと競い合ったことが懐かしくなってね。」ケンジがゴーグルを目に当てながら言った。ケネスもキャップを押さえ直し、ゴーグルを装着した。

 「マユ、スタートの合図を。」
 「わかった。」
 「100mバタフライ。」スタート台のケンジが叫んだ。

 「よーい、」マユミの声が響く。ケンジとケネスの身体が静止した。

 ピッ。笛の音とともに、二人は身体を翻らせてプールに飛び込んだ。
 バサロでみるみるうちにケネスを引き離したケンジは、最初のプルで頭を水面に出した。ケネスはケンジと身体半分の差を縮められないまま、50mを泳ぎ、ケンジに一瞬遅れてターンした。

 「がんばってーっ!二人とも!」マユミが手をメガホンにして叫んだ。

 ケンジとケネスの差が次第になくなってきた。そして折り返しの半分のラインを過ぎたあたりで、二人は完全に横に並んだ。マユミは固唾を呑んで二人のゴールの瞬間を見守った。残り5m。コースロープの色が変わったところで、突然ケンジが泳ぐのを止めた。

 「えっ?!」マユミが小さく叫んだ。ケネスはそのままゴールした。


 「何のつもりや!ケンジ!」先にプールから上がったケネスがケンジに掴みかかった。「なんで勝負せえへんかってん!」
 「俺の負けだ。あのままいっても、たぶん・・・。」

 「なめたこと言うんやない!あほっ!」バシッ!ケネスの平手がケンジの左頬を直撃した。

 「なに?何なの?どうしたの?二人とも!」マユミが駆け寄った。
 「マユは口を出すな!」
 そのケンジのあまりの剣幕に、マユミは途中で凍り付き、その場に佇んだ。

 「お前、マーユのこと、真剣に愛してるんやなかったんか?!そんな簡単に諦められるんか?!」
 「諦められない!諦められるわけがないだろ!」
 「ほたら、なんで、」
 「これしか方法がないじゃないか!俺の代わりにマユを幸せにできるやつが、お前以外にいるか?」

 ケンジの目から涙が溢れ始めた。その様子を見ていたマユミも口を押さえ、涙を溢れさせた。

 「ケ、ケンジ・・・・。」
 「お前以外に、妹は渡さない。渡せないよ・・・・・。」ケンジは乱暴に涙を拭った。
 マユミがケンジに駆け寄った。「ケン兄っ!」そしてケンジを抱きしめ、彼の濡れた胸に顔をこすりつけ、泣きながら叫んだ。「ケン兄、ケン兄!」ケンジはマユミの身体を抱き返すことなくただうなだれて涙をこぼし続けた。


 マユミは膝を抱えて長いこと暖炉の前に座っていた。彼女は燃える暖炉の火を、泣きはらした目で見つめ続けていた。

 「ケニー、」やっと口を開いたマユミに、ケネスは顔を向けた。「マーユ・・・・。」
 「あたしが好き?」
 「・・・・好きや。」
 「本当に?心から?」
 「好きや。もちろん心から。一年ぐらい前から、マーユのことしか考えられへんようになってた。」

 「あたし、変なのかな・・・。」マユミはケネスの目を見て言った。「あたしも、ずっと前からケニーのこと、気にしてたのかもしれない。でも、ずっとケン兄のこと一番好き、この人しかいない、って思ってた。」
 「知ってる。」
 「絶対どっちか選ばなきゃいけないのかな・・・・。もう一人を好きなままでいること、許されないのかな・・・・。」
 「わいは平気やで、マーユ。マーユがケンジのこと好きなままで、わいはマーユを好きになれる。」
 「そうなの?」
 「ケンジへの想いごと、わいはマーユを好きになったんやから。無理してケンジを遠ざける必要なんかあれへん。そう思うけどな。」
 「ケニー・・・。」
 「マーユ、自分に嘘ついて苦しまんでもええ。今の気持ちに正直になり。」
 「ありがとう、ケニー。」マユミの目に再び涙が宿った。「あたし、ケン兄とお別れするのに、あなたがいなければ本当に壊れてた。受け止めてくれる人があなたで本当に良かった。」
 「マーユ・・・・。」

 マユミは涙を拭って顔を上げた。「びっくりしないでね、」
 「え?何やの?」

 「あたし、あなたと結婚したい。」

 「ええっ!」
 「驚かせてごめんね。でも、もう決めたんだ。短大出たらすぐ、結婚して。」
 「け、結婚やなんて!わいら、まだ19やんか。」
 「ケニーがあたしのこと、これからもずっと大切にしてくれるなら、約束してほしいんだ。」
 「マ、マーユ・・・・・。」
 「ふふ。驚くのも当然だよね。あたしも今初めて口にしたことだから。今から両親やケン兄と相談しなきゃいけないことだし。」
 「わ、わいはもちろん、マーユと結婚できれば、こんなに嬉しいことはあれへん。き、きっとわいの両親も賛成してくれる。そやけど、答を出すのん、も、もうちょっと待ってくれへんか。」
 「いいよ。待ってる。でも、」
 「でも?」
 「あたし、今夜ここに泊まっていい?」
 「な、何でそうなるねん。」
 「ケン兄と顔合わせるの、つらいから・・・・。」
 「そやけど、マーユ・・・・。」
 「お願い。」

 ケネスは少し考えてから言った。「・・・・ほな、おかんに頼んで、うまいことマーユのご両親には説明さしたるわ。」
 「ごめんね、わがまま言って。」
 「気持ちが落ち着くまでここにいたらええ。」


 「ケンジ、」母親が部屋のドアをノックした。
 「何だい?母さん。」
 母親はドアを開け、顔だけ出して言った。「マユミ、今夜はケニーくんちに泊まるんだって。ケニーくんのお母さんとバイトのことで話が長くなるからって。」
 「ふうん。」ケンジはベッドにごろんと横になった。
 母親の足音が階下に消えると、ケンジはベッドの隙間からマユミのショーツを取り出した。そしてその匂いをちょっとだけ嗅いだ後、呟いた。「マユ・・・・。ごめんな。俺のせいで遠回りさせちゃったな・・・。」


《5 最後の夜》

 シャワーの後、パジャマ姿のマユミは、二階への階段を上がっていった。そしてケネスの部屋のドアをノックした。「ケニー、開けていい?」
 マユミがドアを開ける前に、それはケネスの手によって開けられた。「どないしたん?マーユ。」

 マユミはいきなり無言でケネスに抱きついた。「マ、マーユ!」そして何も言わずに唇を重ねた。
 「んっ、んん・・・。」ケネスは赤くなってうろたえた。マユミはそのままケネスの左の手首をつかむと、ブラをしていないパジャマ越しの自分の胸に強くあてがい、こすりつけ始めた。「んんっ、ぷはっ!」ようやく口を離したケネスは言った。「マ、マーユ、ど、どないしたん?」
 「ケニー、抱いて、もう我慢できない!」マユミが叫んだ。
 「ちょ、ちょっと待ちいや、」ケネスは部屋のドアを閉めた。マユミはケネスに抱きついたまま離れない。「あ、あのな、マーユ、あっ!」マユミはケネスの股間に手を伸ばし、パジャマのズボンに差し入れて、ビキニの下着越しに彼のペニスをさすり始めた。「あ、あああ、マ、マーユ・・・・。」

 マユミはケネスをベッドに突き倒した。そして彼女はケネスをねじ伏せて、パジャマをはぎ取っていった。そして自分もショーツ一枚の姿になると、ケネスの身体を仰向けて身体を重ね、キスをした。舌を使った激しく濃厚なキスだった。そしてマユミはケネスの乳首を唇で刺激しながら手でケネスのペニスをさすった。「あ、あああ、マーユ、激しい、激しすぎや・・。」

 マユミは黙ったままケネスの下着をはぎ取り、すぐに自分も全裸になった。そして彼女はケネスの両腕をベッドにしっかりと押さえつけたまま、彼のペニスを咥え込むと荒々しく口を上下させ、ケネスの興奮を高めていった。「あ、マ、マーユ、マーユっ!ど、どないしたんや、マーユ!」

 まるで下になったケネスを征服するかのように、マユミはケネスに自分の身体に触らせることなく、彼を興奮の海に突き落とそうとしているのだった。

 マユミはケネスに馬乗りになり、大きく反り返ったペニスを両手でつかんで自分の谷間に導いたかと思うと、一気に腰を落として自分のカラダを貫かせた。「あうっ!」ケネスが呻いて身体を仰け反らせた。
 「あ、ああああん!」マユミがようやく声を出した。「ケニー、イって!あたしの中で、イって!お願い!」マユミは激しく腰を上下に揺すった。ケネスの性的興奮は一直線に高まった。「マーユ!マーユっ!も、もうイ、イく!イくっ!」彼が叫んだ。

 「ケニーっ!」マユミも大きな声を上げた。
 「ぐううっ!」びゅるるっ!どくっ!どくどくっ!びゅるっ!びゅくっ!どくっ!どくっ、・・・・どくっ・・・・・・どくどく・・・・・どくん・・・・。


 明くる日、ケンジが翌日東京に戻ることにしていた、その夕方、マユミは家に帰ってきた。食卓を囲んで、海棠家の家族は夕餉の時間を過ごしていた。
 「ここんとこ、シンプソンさんのところに世話になりっぱなしだな。マユミ。」父親が言った。
 「あたしね、たぶん短大卒業したら、ケニーんちに就職する。」
 「聞いた。いい話だ。」
 「母さんたちも賛成よ。あんたが今勉強していることがすぐに活かせる訳だしね。」
 「ありがとう、ママ、パパ。」
 「ところで、ケニーくんとはおまえ、どういう関係なんだ?」
 マユミはちらりとケンジを見て言った。「付き合ってるよ。」
 「そうか、まあ自然の成り行きってところだろうな。」
 「あれ、パパ反対しないの?」
 「反対する理由がないじゃないか。」

 「もしかしたら、結婚するかも。」

 「えっ?!」父親の箸が止まった。
 「ま、まだ早いわよ。」母親も慌てて言った。
 「いいんじゃない?」ケンジだった。「いずれそうなるだろうしさ。今すぐってわけじゃないんだろ?マユ。」
 「うん。うまくいって短大出てからの話ね。」
 「大丈夫だよ、ケニーなら。」ケンジが両親に向かって言った。「あいつならマユをきっと大切にしてくれるよ。心配ない。」そう言ってケンジはマユミの方に向き直って微笑んだ。「心配ないよ。」


 「ケン兄との、最後の夜だね。」
 「そうだな・・・・。」

 ケンジの部屋で、二人は灯りを落としてベッドに背もたれしたまま、並んでカーペットに座り、メリーのアソート・チョコレートを口にしていた。 

 「ケン兄が初めてあたしに食べさせてくれたチョコ・・・・。」
 「お前が喜ぶ顔を見ている時が、あの頃俺は一番幸せだった。」
 「ケン兄、」
 「ん?」
 「今まで、本当にありがとうね。」
 「こっちこそ・・・。」

 マユミはケンジの肩に頭をもたせかけた。ケンジはマユミの髪をそっと撫でた。

 「あたし、きっとまたケン兄に抱かれたくなる。」
 「俺も、きっとそんな気になる。」
 「あたしがケニーと結婚しても、時々抱いてくれる?」
 「ケニーと、俺の彼女がいいって言ったら・・・・。」
 「いるんだ・・・彼女。」
 「・・・・・。」
 「誰?」
 「マユ、俺、大学で、」「待って!やっぱり言わないで。」マユミがケンジの言葉を遮った。
 「今はまだ、言わないで。」
 「うん。」
 「ケン兄、」
 「何だ?」
 「愛してる・・・・。」
 「俺も、マユ、お前を、ずっと・・・・。愛してた・・・。」
 ケンジはマユミと唇を合わせた。「んっ・・・。」マユミの目から溢れた涙が頬を伝って、ケンジの頬も濡らした。

 「上になる?」ケンジがマユミの頬を両手で包みこんで言った。
 「うん。」
 ケンジはベッドに仰向けになった。白い、マユミとおそろいのショーツだけを穿いて。
 マユミも黒い、ケンジとペアで買ったショーツ姿で、ゆっくりと彼に自分の身体を重ねた。二人は長く熱いキスをした。ケンジの口から自分の唇を離したマユミは、そのまま彼の首筋、鎖骨、そして乳首へとそれを移動させた。「う・・・。」ケンジが小さく呻いた。

 しばらくケンジの乳首を舌で愛撫したあと、また唇を這わせ、腹、へそ、そしてショーツ越しのペニスへ移動させた。「んんっ・・・」ケンジがまた呻いた。マユミはそっとショーツを脱がせた。飛び出して跳ね上がったケンジのペニスは、すでに先端から透明な液を漏らし始めていた。マユミはためらうことなくそれを舐め取り、そのまま深く、しかしゆっくりと咥え込んだ。「あ、あああ・・・・。」ケンジの呼吸が速くなった。マユミは口を上下に動かし始めた。「マ、マユ・・・。」ぴちゃぴちゃと音を立てながら、マユミはその行為を続けた。

 やがて、ケンジは両手を伸ばして、マユミの頭を撫でた。「マユ、ありがとう、もう十分だ。」
 マユミはケンジのペニスから口を離した。「うん。」
 「本当に上手くなったな、マユ。ケニーも喜ぶだろう。」

 マユミはとっさに身体を起こした。「なんでケニーの名前を出すの?いやだ!あたし、今はケン兄のことしか考えたくない。ケン兄のことしか・・・・。」

 「ご、ごめんマユ。悪かった。」ケンジはベッドに向かい合って座ったままのマユミを抱きしめた。「無神経なこと言っちゃって、ごめん・・・。」
 「来て、来てよケン兄。初めての時のように、夢中であたしを愛して。」
 「わかった。」ケンジはマユミを仰向けに寝かせた。そしてたった今、マユミが自分にしてくれたように、唇、首筋、鎖骨、そして乳房へと舌を這わせていった。乳首をケンジの唇が捉えると、マユミは喘ぎ声を上げた。しばらくの間、ケンジは彼女の両乳首を唇と舌で愛撫し続けた。「ああ、ああん、ケン兄・・・・。」

 やがてケンジの口は彼女の腹、へそを経て黒いショーツへと到達した。そしてケンジはベッドに挟まれていたあの白いショーツを引っ張り出し、それをマユミの股間にあてて鼻をこすりつけ始めた。「ああ、ああああ・・。ケン兄・・・。」
 「マユ、このショーツに穿き替えてくれないか。」
 「うん、わかった。」

 マユミは、ケンジが隠し持っていた自分の白いショーツに穿き替えた。「ケン兄があたしを想いながら一人エッチしてくれたショーツ。」
 「お前がこれを穿いているところを想像しながらイってたんだ。」
 「うれしい・・・。」
 「ようやく、これをお前が穿いている姿を見られた。」
 そしてケンジはまたそのショーツ越しに鼻をマユミの谷間にこすりつけた。「ああ、マユ、マユ・・・お前の匂い・・・・。」
 「ケン兄、あたし、あたし、もう、濡れてきた・・・。」
 「知ってる。もうびしょびしょだ。」ケンジはそのショーツをゆっくりと脱がせ、マユミの両脚を抱え上げた。そして自分のペニスをそっと谷間にあてがい、少しずつ中に入り込ませた。

 「あ、あああ・・・ケン兄、い、いい。いい気持ち。」
 「マ、マユ、痛かったら、いつでも言いなよ。」
 「だ、大丈夫。痛くない。大丈夫。」はあはあと荒い呼吸を繰り返しながらマユミは固く目を閉じ絞り出すような声で言った。
 やがてケンジのペニスがマユミの中にしっかりと入り込んだ。

 あの時と同じ・・・・・。

 「ああ、ケン兄。あなたが、あなたが好き。大好き。」
 「お、俺も。マユ。お前がこの世で一番、あああああ・・・・。」ケンジはすでに絶頂間近だった。
 「あたしの中で、イって、ケン兄。」
 「マユ!」
 ケンジは腰を動かし始めた。始めから激しい動きだった。マユミはそれを受け止めようと同じリズムで腰を動かした。二人の興奮はぐんぐんと高まっていく。

 二人の時間が高二の夏に戻っていく・・・・。

 「ケン兄、ケン兄!」苦しそうにマユミが叫ぶ。
 「マユ!あああああ・・・お、俺、もうすぐ!」ケンジも叫ぶ。
 「ああああ、ケン兄、イっていいよ、あたしの中で、ああああああ・・・。」
 「で、出る・・出るっ!」ケンジの身体がひときわ大きく脈動し始めた。
 びゅるっ!びゅくびゅくっ!
 「あああああ!ケン兄ーっ!」マユミの身体も大きく痙攣し始めた。
 「マユ、マユっ!んっ、んんっ!」ケンジの身体の中から熱い想いの迸りがマユミの中に注がれ続けた。

 二人は身体を重ね合わせ、一つになったまま・・・・。

 ケンジはマユミの胸に顔を埋めて泣いた。

 マユミも顔を両手で覆って泣いた。

-***********-


《6 赦し》

 こうして私マユミと双子の兄ケンジとの約二年半に及ぶ蜜月には終止符が打たれました。

 後で兄に聞いた話によると、私たちが最後の夜を迎えた時点では、兄にはまだ交際中の女性はいませんでした。私との区切りをつけたかった兄は、嘘を言って私をある意味突き放したのです。最後まで私のことを想い、本当の幸せを願い、大切にしてくれた優しい兄ケンジでした。

 その後私はケネスと結婚しました。予定よりも早く、私が短大を卒業する前に籍を入れました。妊娠していたからです。12月に私は子供を産みました。偶然ですが、男女の双子です。そう、私と兄のように。
 短大はがんばって卒業しました。出産で単位が危なかったのですが、なんとかぎりぎりで卒業できました。お腹の大きくなった私を友だちはみんないたわってくれました。ケネスと結婚することを割と早くから公言していたからです。

 息子の名前は健太郎、娘は真雪(まゆき)です。彼らは来年、私と兄が初めて結ばれた年齢になります。健太郎はあの頃の兄ケンジに驚くほどそっくりで、小さい頃から兄に水泳を習っていることもあり、当時の兄のような体格、兄のように優しい男の子に育ってくれました。兄ケンジを心から慕っていて、兄はまるで二人目の父親のようだ、とみんなから言われています。真雪は私に似て小柄で、歳の割には幼く見られているようです。これもあの時の私によく似ています。この子たちを見ていると、おのずと私と兄ケンジとのあの甘い日々が思い起こされ、身体が熱くなることもあります。

 健太郎と真雪は双子なのに血液型が違います。それには訳があります。実を言うとそれは私の密かな企てでした。私の血液型はO型、夫のケネスはAB型です。生まれた娘、真雪はA型ですが、健太郎はO型です。つまり、健太郎は私とケネスとの子供ではないのです。

 私は、あの最後の夜、兄ケンジとのセックスで妊娠する可能性が高いことを知っていました。その前日のケネスとのセックスでも。私はどちらかの子供をその時に授かりたかった。自分では決められず、ある意味天に任せたのです。思えば兄ケンジへの未練が相当強く残っていたのでしょう。兄ケンジとの日々の証が何らかのカタチとして欲しかったのかも知れません。
 もちろんケネスには思い切って正直にそのことを話しました。すると彼は笑って赦してくれました。ケンジの子供だとしても、自分の子として変わりなく育てる、と言ってくれました。もしかすると、それはある程度ケネスも覚悟していたことだったのでしょう。ケネスも私の気持ちを本当に大切にしてくれる、優しい夫です。そしてもう一人、それを理解し、赦してくれた人がいます。ミカさんです。

 兄は大学を卒業してすぐ、兵藤ミカさんと結婚しました。彼女は兄より二年早く卒業し、大学のある町の企業に就職していましたが、兄との結婚を機に、私たちの住むこの町にやってきて、今は兄と二人でスイミングスクールを経営しています。結婚してすぐから二人が勤めていたこの町唯一のスイミングスクールの経営を前の経営者から受け継いだのです。健太郎も真雪もそこに通って、二人から指導を受けています。
 ミカさんも、私と兄の関係についてはすべて知っています。健太郎が私と兄の子であることも。彼女は兄との交際中からそのことを理解していて、それを知った上で結婚したのだから、自分が二人を責めることはできない、また責める気持ちもない、と兄に言ってくれたそうです。考えてみれば私たち兄妹は、本当にいい人たちに囲まれて誰よりも幸せに暮らしていけているんだなあ、と思います。感謝の毎日です。


 「いつかはマユミさんがあなたの子を宿すと思ってた。」
 「ミカ・・・・、俺、おまえに何て言ったらいいのか・・・。」
 「話を聞けば、あれだけしょっちゅう抱き合ってたんでしょ?あなたたち。しかも避妊なしで。」
 「一応計算はしてた。マユの身体は比較的規則的だったから。」
 「マユミさんの最後の計算、見事に当たったってわけだ。」
 「そ、そういうことだな。」
 「でもさ、あたし、赦せる。」
 「え?」
 「あなたたちの間には、もはや誰にも入り込めないつながりがある。それはたとえあなたがあたしと結婚したところで揺るがないだろう。そしてそれはきっとマユミさんの夫ケネスも同じように感じているはず。」
 「・・・・・・。」
 「だけど、それを知っててあたしはあなたと結婚するわけだし、ケネスもマユミさんを選んだわけでしょ?だったら赦すしかないじゃない。赦せなかったら結婚なんてしないよ。というか・・・」
 「え?」
 「あなたたちの関係ってさ、第三者が赦すとか赦さないとかの関係を超越してるよね、実際。兄妹と恋人が別の次元で強烈に融合した、って言うか・・・・。」
 「た、確かに・・・・・。」
 「兄妹の絆を誰にも壊せないのと同じ、ってとこかな。」ミカは続けた。「あたしさ、自分がマユミさんに似てることだけでケンジがあたしを選んでくれたんじゃない、って思ってる。」
 「それはそうさ。マユへの想いとミカへの想いは、何て言うか、質が違う。」
 「だよね。わかる。」
 「俺、思うんだ。」
 「ん?」
 「マユとの日々の中で、俺たちがお互いに感じていたのは『恋』だったんだ、って。」
 「恋、か・・・・。」
 「そう。お互いが相手を欲しくてたまらない、っていう感情、みたいな。」
 「わかる。特に若い時はそういう傾向が強いよね。」
 「ミカへの感情は、ちょ、ちょっと照れくさいけど、あ、『愛』だと思う。」
 「ふふ、確かに聞いてて照れる。でもわかる。それはケンジから感じる。あたしあなたに守られる、優しくされるだけじゃ、きっと付き合ったりしなかった。」
 「え?」
 「あなたは気づいていないかもしれないけど、なんか、お前と一緒に暮らしていこう、っていう強さを、ケンジからは感じるんだ。」
 「そうなのかな・・・・。」
 「つき合った年齢にも依るのかも知れないけどさ、それまであたしがつき合った男は、あたしを大切にするとか、優しくする、ってことには熱心だったけど、お互いに支え合おう、みたいな同等の主張っていうか、要求ってものが感じられなかった。今思えばね。」
 「んー、俺、別にそんなこと意識してなかったけど・・・。」
 「いやなこともあるかもしれないけど、それでもいいから一緒にっていう、きれい事だけでないものも全部含めて一緒にっていう、そういう心の広さや決意みたいなものをケンジからは感じる。」
 「そうなんだな・・・・。」
 「でなければあなたと結ばれようとは思わなかった。」


 兄の言うとおり、私と兄を結びつけていたのは『恋』という感情だったと思います。お互い相手が欲しくてたまらない、だからその欲求のままに行動した。それがたまたま二人とも同じ量、同じ向きでぶつかり合っていたから、あるときは燃え上がり、あるときはひどく傷ついたりしたのだと思うのです。私たちはお互いに対して「好き」という言葉は数え切れないぐらい発していましたが、「愛してる」という言葉は、あの最後の夜に面と向かって初めて私たちの口から自然に出てきたのです。思えばあの時に初めて、私たちはお互いを愛するという感情を持てたのだと思います。でもそれは当然許されないことでした。

 あの頃の二人は、セックスの時ほとんど避妊をしていませんでした。最初に私と兄が一つになった時は、お互い夢中だったので避妊のことまで考えが及びませんでしたが、幸い排卵後の安全期だったので、それから数日間、毎日セックスしても妊娠する心配はありませんでした。
 実際ほとんど毎日私たちは求め合いました。でも、さすがにいつでも彼の精子を受け入れるわけにはいきません。私は毎日基礎体温を計り、兄に排卵の時期についてはこと細かく知らせていました。彼も慎重にそれを守ってくれていました。一度だけコンドームを使ってセックスしたことがありましたが、何しろ最初に経験したのがありのままでのセックスでしたから、私自身に違和感や嫌悪感があって、それ以降、私は兄にはゴムを使わせませんでした。
 兄は時々申し訳なさそうに言っていました。俺はお前の中にいつも出しているけど、本当にお前はそれでいいのか?と訊いてくるのです。私は彼の身体の中で作られた精液を自分の身体の中に受け入れる、ということが性感を増す要因にもなっていましたし、何より兄との絆がそれでより深まる感じが強くしていたので、かえってゴムなんか使ってセックスされると、なんだか自分が一人エッチの道具にされているようで、相手の愛情を感じることができなかったのです。
 でも、それは本当に危険を孕んでいました。

 高校二年生の冬でした。私の月経が少し遅れてしまったことがあります。その時の兄の落ち込みようは、それは目を覆いたくなる程のものでした。毎晩毎晩ひたすら私に謝り続けるのです。そして月経が始まるまで、彼は私を抱こうとしなかったばかりか、手を触れようともしませんでした。もうセックスはしない、とまで宣言したぐらいです。
 それだけに、ようやく月経が始まった夜は、兄は狂ったように、自分の口のまわりやペニスを血まみれにしながらも私を愛してくれたことを思い出します。
 優しく、思いやりのある兄、でも子供のように些細なことにおろおろしたりひどくはしゃいだりと、一喜一憂する兄を、私は本当に愛しく思っていました。

 私の兄ケンジに対する気持ちは今でもあの頃とほとんど変わらない、と言ってもいいかもしれません。彼に抱かれれば心から癒され、満ち足りた気持ちになる。
 実は、今も私と兄は一年に一度、会って身体を求め合います。それは兄弟や友達が時々会って食事をしたりお茶を飲んだりするのと同じ感覚です。そしてそれはケネスやミカさんが勧めてくれたことでもあるのです。彼らは私と兄の関係が安定したものであるように気を遣ってくれているのです。私たちにとって夫、妻同様なくてはならない相手だとわかっているのです。


 「え?今何て言った?ミカ。」
 「だから、マユミさんを抱きたい時には抱いてもいいんじゃない?って言ったんだよ。」
 「お、お前平気なのかよ、それって立派な不倫じゃないか。」
 「不倫じゃないね。だって、ケンジがこの後マユミさんを抱くことになっても、そのまま突っ走ることはないってことがわかってるもの。」
 「ううむ・・・・。」


 実際そうなのです。あの頃の私たちの関係は、先々結婚に結びつくような感情で成り立っているわけではなかった。お互いのカラダで癒し、癒され、今になって私が兄ケンジに抱かれたとしても、それは郷愁や懐かしさに近い感情に変容しているだろうからです。


 「ケ、ケニーは平気?」
 「わいは全然かめへんで。むしろマーユがケンジと愛し合えば、マーユの精神安定につながるやんか。今更マーユがケンジと駆け落ちしたり、脇目もふらず燃え上がったりすることはない、とわいには解ってるよってにな。」
 「で、でも、それって不倫じゃ・・・・・」
 「不倫、とは違うわな。ケンジとマーユの間にある不動のモノは、わいらには突き崩すことはできへん。いや、突き崩すことを考えること自体、無意味やと思とる。」
 「ケニー・・・・。」
 「マーユのわいへの想いはケンジへの想いとはタイプが違うやろ?」
 「うん・・・。」


 結局私と兄は、その後も愛し合うことを許されました。ミカさんもケネスも、いつでも好きなときに会ってセックスしたら、と言いますが、私たちはルールを決めています。毎年8月3日にだけは昔のように会ってお互いを求め合える。そう、一年に一度。こと座のミラとわし座のアルタイルのように。

 8月3日・・・・。その日は高二の時、私たちが初めて結ばれた記念日なのです。


《7 懐古》

 「この店すっごく懐かしいね、ケン兄。」
 「本当だな。17年ぶり、だっけ?」
 「あたしたちが18の誕生日だったからね。」

 ケンジとマユミは街の一角にある喫茶店の小さなテーブルをはさんで向かい合っていた。

 「このサンドイッチの味、変わってない。そう思わないか?マユ。」
 「そうだね。あの時もとってもおいしいって思って食べたよ、あたし。」
 「俺も。」
 「お金が足りなくて、仕方なく食べたんだよね。」
 「そうだったな。」
 「でも、ケン兄、なんで今日は紅茶?いつもはコーヒーなのに。」
 「急に思い出したんだ。」
 「何を?」
 「高二の時、俺がお前に初めてチョコを食べさせた時のこと、覚えてるか?」
 「覚えてる!そうか、あの時はあたし、下で紅茶淹れて持って来たんだったね。」
 「そうさ。」
 「ケン兄紅茶はあんまり飲まなかったよね。」
 「渋いのが苦手でね。でも今は大丈夫。結構飲むようになったんだ。ミカも好きだし。」
 「そうなんだ。じゃあ、あの時は無理して飲んでくれてたんだね。」
 「味なんて覚えてないよ。あの時はもうすでに俺、前に座ったお前にどきどきしてたからな。」

 「本当に?知らなかった。」マユミは嬉しそうに言った。

 「あの時お前、俺の部屋にハンカチ忘れてったろ?」
 「そうだったね。」
 「お前が部屋を出た後、俺さ、お前の座ってた場所に座って、お前の温もりを感じてどきどきしたり、」
 「わあ!ケン兄純情っ!」
 「高二の男子だぞ。そんなもんだ。」ケンジは少し赤面した。「お前の使ったカップに唇をくっつけて、ますます興奮した。」
 ケンジはそう言って、飲みかけのマユミのティーカップを手に取り、マユミの口紅がうっすらとついた縁に、あの時と同じように唇を当てた。「こんな風にさ。」
 「今もどきどきした?」
 「ちょっとだけ。」

 二人は笑った。

 「その晩、あたし夜中にケン兄の一人エッチ見ちゃったんだ。ハンカチといっしょに鼻をこすりつけてたの、あのショーツだったんでしょ?」
 「もう、お前のショーツ、どんな雑誌やビデオより興奮するアイテムだったぞ。」
 「ケン兄のエッチ。」
 二人はまた笑った。
 「でもさ、マユ、おまえあれからずっと俺に付き合ってコーヒー飲んでたけど、かなり無理してたんじゃ?」
 「始めのうちはね。でも、好きな人と一緒にいられる時間だったから、その内砂糖やミルクなしでもとっても美味しく感じられるようになったんだよ。このサンドイッチみたいにね。」
 「そうなのか。」ケンジは嬉しそうに微笑んだ。

 「あたしたちのお部屋デート、楽しかったね。」
 「うん。楽しかった。」
 「考えてみれば、あたしたちさ、」
 「うん?」
 「夜はずっとどっちかの部屋で暮らしてたよね。」マユミがおかしそうに言った。
 「そうだな。あれ以降それぞれの部屋で寝ること、ほとんどなかったからな。」
 「勉強さえ、どっちかの部屋でやってたもんね。」
 「お前と一緒にいると、本当に癒された。心が落ち着くっていうか・・。」
 「あたしも。そして最後は一緒に抱き合って眠った。」
 「もう、最高に気持ちのいい時間だった。」
 「おかげで二人とも早起きの習慣がついたよね。」
 「そうだったな。もし母さんが起こしに来たら、って思ってたからな。」

 「そう言えば、危なかったこと、一回だけあったね。」
 「そうそう。母さんの階段を昇ってくる足音が聞こえたときは、飛び起きたな。」
 「抱き合ってたもんね。二人ともハダカで。」
 「あの時の俺の早業は伝説もんだ。」
 「うん。ケン兄飛び起きて下着も穿かずにジャージの下だけ穿いてママが上がってきたとたん、ドアを開けたよね。」
 「その間、ほんの数秒。」
 「あたし、ベッドの陰にちっちゃくなってた。」
 「あの時、ちょっとでも遅かったら完全にアウトだったな。」
 「それからベランダの鍵を開けたまま寝るようにしたんだったっけ。」
 「そうそう。いつでも自分の部屋にベランダから戻れるようにな。」
 「ケン兄、あの日の朝ご飯の時、ママにくってかかったよね。勝手に上がってくるな、って。」
 「くってかかったっけ?」
 「そうだよ。あたし覚えてる。すごい剣幕だったよ。『俺たち、ちゃんと自分で起きられるから、余計なことすんなよな!』って言った。」
 「そんなにきついこと言ったかな・・・。」
 「言った。」
 「で、でもまあ、それ以後、母さんが朝から二階に上がってくることはほとんどなくなったから・・・。」
 「知らないと思うけど、ケン兄が先に出かけた後、あたし、しょんぼりしていたママに言ったんだよ。」
 「え?何て?」
 「あたしたち、もう子どもじゃないから、自分のことは自分でやるし、寝坊したら自分で責任とるから、心配しないで、って。」
 「そ、そんなに落ち込んでたのか?母さん。」
 「当たり前だよ。ケン兄がママにあんなにきつい口調で言ったの初めてだったじゃん。」
 「そ、そうだったのか・・・。悪いことしたな・・・。」
 「でも、それが最初で最後だったからね。」マユミはにっこりと笑った。「普段はとっても親思いのケン兄だったから。」
 「ちょっと反省。俺、自分のことしか考えていなかったんだな。あの頃。」
 「そんなもんだよ。思春期だったんだから。」
 「さてと、」ケンジは紅茶を飲み干すと、テーブルの注文票を手に取った。「出ようか、マユ。」


 「ケン兄、まだあたしを抱いて満足する?」
 「するする。当たり前だろ。年に一度のお前とのこの時間は俺にとっては今でも最高の癒しだ。」

 街なかのシティ・ホテルの一室でケンジとマユミは語らっていた。

 「あの日のプレゼント、まだ持ってる?」
 「あのペンダントはお前んちだろ?」
 「そうか、そうだったね。結婚する時あたしたちの思い出の品は全部ケネスが引き取ってくれたんだった。」
 「まだとってあるのか?」
 「天井裏の箱に入ってるよ。」
 「そうか。」
 「そのうち、健太郎と真雪にあげようかな、って思ってる。」
 「そりゃあいい!」
 「あの子たちに、私たちの昔話を話せるのは、いつになるかなあ・・・。」

 「まさかさ、マユ、」
 「ん?」
 「健太郎と真雪も俺たちのように内緒でつながってたりしないだろうな・・・。」
 「そうなってたら、どうする?」
 「さりげなく訊いてみるかな、今度のスクールの日あたりに。」
 「え?何て訊くの?」
 「『お前、妹をどう思ってるんだ?』とかさ。」
 「そんな訊き方じゃ、ホントのこと言わないよ。」
 「それもそうだな。大人には本当のこと、言うわけないか。」ケンジは頭を掻いた。
 「あたしたちといっしょだよ。」マユミもケンジも笑った。

 「そうそう、あの箱にはチョコの空き箱も山ほど入ってるんだよ。」
 「え?」
 「ケン兄があたしに買ってくれたチョコの空き箱。」
 「そんなものまでとってたのか。」
 「だって、捨てられないよ。」マユミが微笑んだ。そして続けた。「もう一つの誕生日のプレゼントは?」
 「今穿いてる。」
 「嬉しい。実はあたしも。」
 「じゃあ、見せ合って確認しよう。」
 「もう、ケン兄のエッチ。」

 二人は着衣を脱ぎ、ショーツだけの姿になった。

 「ケン兄の体型、全然あの頃と変わらないね。」
 「お前も。」
 「えー?無理があるよ。あたしたちもうすぐ36になるんだよ。それに二人の子持ち。」
 「俺の中では、お前はあの時のままだ。」
 「ケン兄・・・。」

 ケンジはマユミの身体をそっと抱き、広いベッドに横たえた。そして身体を優しく重ね、キスをした。「でも、よくもまあ、あんな一人用の狭いベッドで抱き合ってたもんだよな。」
 「ほんとだね。あたしはともかく、ケン兄は身体が大きかったから、無理してたんじゃない?」
 「あの頃はほとんど気にならなかったよ。お前に夢中で。」

 マユミは下からケンジの首に腕を回した。

 「お前のこの動作が、スタートの合図だったな。」
 「え?そうなの?」
 「そうさ。え?わざとやってたんじゃないのか?」
 「ううん。でも、ケン兄と始める時に、無意識でやってたのかも・・・。」
 「俺、ずっとそう思ってた。」
 「来て、ケン兄・・・。」
 「うん。」
 「あたしといっしょにいこ。」
 「あの頃のように・・・・。」


 ケンジはまたマユミと唇を合わせた。「ん・・・。」マユミがキスをされて小さく呻く声はあの頃のままだった。ケンジはいつもその声でだんだんと身体を熱くしていったものだ。ケンジはマユミの唇を舐め、舌を吸い込んだ。「ん、んんーっ・・・。」ケンジの身体が熱くなってきた。彼はそのまま手をマユミの乳房に伸ばし、人差し指と中指で乳首を挟み込み、刺激した。「んんんっ!」

 やがてケンジは唇を彼女の首筋、鎖骨、乳房へと移動させ、乳首を捉えた。「ああっ!」マユミはのけぞった。長い時間、ケンジはマユミの二つの乳首を交互に舌と唇で愛撫した。マユミの息が荒くなり、その白い身体を波打たせ始めた。

 ケンジはマユミの脚を広げ、ショーツ越しにその陰部をこすりつけ始めた。「あ、あああん・・・。」

 「マ、マユ、今になってこんなこと訊くのもなんだけど、」
 「なあに?」
 「こうして下着を穿いたままでこすりつけ合うのって、どうなんだ?」
 「最初は変な感じだったけど、ケン兄が毎回してくるからあたしも何だか好きになってた。というか気持ちよく思えるようになってたんだよ。」
 「早く入れて欲しい、って思わなかった?」
 「そのもどかしさが、ちょっといい感じだった、かな。」
 「そうか。」
 「ケン兄はショーツフェチだからね。」
 「違うね。俺はお前のショーツにしか興味ないから。」
 「ベッドに隠してた興奮アイテムのあのショーツ、どうしたの?」
 「おまえんちにあるよ。あの箱の中に。」
 「え?そうなんだ。まだ持ってるって思ってた。」
 「それじゃロリコンだ。あれはキホン一人エッチのアイテムだ。お前が抱けるのに持っている必要はないだろ。」
 「でも、最後まで隠してたじゃん。あたしとのお別れの夜にはあたしに穿かせたりもしたし。」
 「いずれにしても、俺にとっては特別なものだったのさ。」

 ケンジはマユミの黒いTバックショーツをゆっくりと脱がせた。そしてマユミの秘部に顔を埋めた。「あああ・・・・。」
 「お前の匂い・・・・あの頃と全然変わらない・・・。」
 「ケン兄・・・。」
 ケンジは舌を谷間に這わせ、中に差し込み、縁を舐めあげてはクリトリスを唇をすぼめて吸った。「ああ・・だめ、ケン兄・・・あたし、もうイきそう・・・・。」マユミの興奮が急に高まり始めた。ケンジは長い腕を伸ばし、小柄なマユミの乳首を指でつまんで愛撫した。マユミはさらに身体を激しく震えさせた。「イ、イっちゃうっ!ケン兄、ケン兄っ!」びくびくびくびくっ!
 マユミの身体が大きく波打ち、彼女は興奮に呑まれたかに見えた。しかし、マユミは自分の息が収まるのを待たずに、ケンジから身を引き、身を翻して雌豹のようにケンジを組み敷いた。そして仰向けに押さえつけたケンジの口を自分の口で包み込んだ。ケンジの口の周りはマユミの愛液で光っていた。彼女は獲物を味わうように、ケンジの顔中をなめ回した。「んんっ!マ、マユっ!んん・・・。」ケンジが何か言おうとしたが、その都度マユミに口を塞がれて言葉にならなかった。

 マユミはケンジの両腕を手で押さえつけ、太股にまたがり体重をかけた。はあはあと収まりきれない荒い呼吸を繰り返しながら、マユミはケンジの目を見つめてにっこりと笑った。

 「マ、マユ、お前今日は何だか激しいな。何というか、こう、動物じみてるって言うか・・・。」
 「ケン兄を征服したいんだ。」
 「征服?」
 「あたしね、あの頃も、実はこういう欲求があったんだよ。」
 「ほんとか?」
 「ケン兄をいじめてみたい気持ちが。ちょっとね。」
 「へえ。」
 「だって、いつもあたしケン兄のペースでセックスしてたような気がしてたから。」
 「お前が上になってイくのは、俺好きだったよ。」
 「あたしも好き。でも、あれってケン兄はもどかしくない?思うように動けないでしょ?」
 「いや、あのポジションはお前のきれいなハダカが上気して、赤く染まって、少し汗ばんだりして、俺のペニスに感じながら喘ぐ姿が見られるから大好きだった。」
 「あたしもケン兄に見られることで興奮していたのかも・・・。」

 「で、ここからどうするんだ?マユ。」上になったマユミを見上げながら、ケンジがにやりと笑って言った。
 「こうするんだよ。」マユミはケンジの白いTバックを荒々しくはぎ取った。そして彼のペニスを手で力いっぱい握りしめた。そして薄いピンクのマニキュアが塗られた爪を立てた。

 「あっ!い、痛い!」ケンジは眉を寄せて呻いた。

 マユミはそのままペニスの先端を舐め続けた。そしてしばらくして亀頭に軽く歯を立てた。「いっ!」ケンジは激しく仰け反って呻いた。
 マユミが口を離し、強く握っていた手を離すと、ケンジのペニスの先端から透明な液がぴゅっと迸った。

 「いつもより興奮してない?ケン兄、意外にMだったんだね。」
 「ち、違うよ、俺は、ううっ!」マユミがペニスを激しく吸い込んだ。そして根元に手を添えて大きく口を上下に動かし始めた。「マ、マユっ!」ケンジの身体がじんじんと痺れ始めた。「だ、だめだ!マユ、マユっ!」マユミはさらに大きく口を動かした。

 「イくっ!マユ、マユーっ!」
 マユミはケンジのペニスを握りしめたまま口を離した。

 びゅるるっ!びゅくん、びゅくん、びゅくん!・・・マユミはケンジのペニスを自分の顔に向けた。「あああああーっ!」ケンジが叫び続ける。びゅくん、びゅくん、びゅくっ!・・・大量の生温かい精液がマユミの顔や髪にまつわりついた。マユミは脈動を続けているペニスを再び咥え、滲み出る最後の液を舐め取った。

 「な、何てことするんだ!マユ!」ケンジは真っ赤になって抗議した。
 「ふふっ。やってみたかったんだ、こういうの。」
 顔と髪をケンジの精液でどろどろにしたまま、マユミは微笑んだ。「でも、相変わらずいっぱい出すね、ケン兄。思春期の高校生並みだよ。」
 「は、早くふけよ。俺、見てらんない、お前のそんな姿。」
 「えー?オトコの夢じゃないの?顔射や髪射って。」
 「俺はいやだ。特にマユにはかけたくない。AVそのものじゃないか。」
 「あたし、夢の中でケニーにこういうことされてから、ずっと興味があったんだ。」
 「え?あの夢の?」
 「そうだよ。でも今、実際にやってみたら、意外といいかも、って思っちゃった。」
 「やめてくれ~。」ケンジは泣きそうになった。
 「いつまでたってもシャイなんだから、ケン兄。」


《8 思い出と共に》

 二度目のシャワーを浴びたケンジとマユミは、ソファに並んで座った。ケンジがテーブルに置かれたワインのボトルを持ち、手際よくコルクを抜いて二つのグラスに注ぎ、一つをマユミに手渡した。

 「俺たちさ、」
 「ん?」
 「酒には手を出さなかったよな。」
 「そう言えばそうだね。まじめだったよね。」
 「ま、お前はチョコさえあれば満足なヤツだったし、」
 「ケン兄もコーヒーで十分って感じだったしね。」

 ケンジはワインを一口飲んだ。

 「でも、ケン兄、」マユミが少し睨んだようにケンジを見た。
 「な、何だよ。」
 「あなた、ミカ姉さんと初めてエッチした時、泥酔状態だったんだって?」
 「えっ?な、なんでそれを?」
 「ミカ姉さんが教えてくれた。ひどいよ、ケン兄。」
 「反論していいか?マユ。」
 「言い訳?一応聞いてあげる。」
 「あの時俺、酔っ払ってて、コトの最中ミカをお前だとずっと思い込んでたんだ。」
 「え?あたし?」
 「そうだぞ!ほら、ミカってお前にちょっと似てるじゃん。だから酔っ払って感覚が鈍っていたあの時は、ずっとお前を抱いているつもりでいた。」
 「ミカ姉さん、かわいそう・・・・。」
 「最後の瞬間に気づいて、慌てて抜いた。」
 「抜いた?」
 「結局、彼女の腹や胸に出しちまった。」ケンジはうつむいて赤くなった。「さっきみたいに、た、大量に・・・・。」
 「最低!」

 ケンジは最後の一口をぐいっと飲み干した後、グラスをテーブルに置いて大声で言った。「俺、謝ったぞ、死ぬ程恥ずかしくて、申し訳ない気になって、何度も土下座した。もう、酔いなんかいっぺんに吹っ飛んじまった。」
 「それって、あたしたちの19の誕生日の話でしょ?」
 ケンジは静かな口調に戻った。「そう・・・俺、一人で誕生日を迎えるの、初めてだったから、お前がいない誕生日、初めてだったから、寂しくて、切なくて、お前が恋しくて・・・・。」
 「実はね、あたしもその日、ケニーに抱かれたの、っていうか、抱いてもらったの。」
 「知ってる。ケニーに聞いた。」
 「あたしは酔ってはいなかったけど、ケニーがあたしのカラダを愛してくれる、その方法が、ケン兄とほとんど同じで、あたし、ケン兄、ケン兄ってずっと叫んでた。」
 「ケニーはどんな気持ちだったんだろうな・・・。」
 「あたしも後でケニーに対して、とっても申し訳なく思った。それでも彼は嫌がることもなくあたしを抱いて、最後までいってくれたんだよ。」
 「そうだったのか・・・・。」
 「あの時は本当に・・・・寂しかった。」
 「俺もだ、マユ・・・。」

 ケンジはマユミの持っていたグラスをそっと取り上げ、テーブルに戻した。そしてマユミの身体を抱き寄せ、キスをした。マユミの身体に巻かれていたバスタオルがはらりと落ちた。

 二人はそこに立ったまま、全裸で抱き合った。胸を合わせ、唇を合わせ、ケンジはマユミの身体を強く抱きしめた。そしてそのままベッドに倒れ込むと、自ら仰向けになってマユミを促した。

 唇へのキス、首筋へのキス、乳房へのキス・・・・・。下になったままケンジはマユミの身体を愛撫した。マユミはケンジの唇に合わせて身体を移動させた。「ケン兄って、本当にキスが好きだね。」
 「好きだ。お前を味わうのが、大好きなんだ。」
 「あたしもケン兄のキスは大好きだったよ。」
 「今も?」
 「もちろん、今も。」

 ケンジはマユミの頭を手で引き寄せ、ゆっくりと味わいながら彼女の唇を舐め、吸った。

 静かに口を離したケンジはマユミの頬を両手で包みこみながら言った。「マユ、俺の顔に跨ってくれないか。」
 「えー、ケン兄窒息しちゃうよ?」
 「死なない程度に。俺、Mだし。」ケンジもマユミも笑った。
 「わかった。」マユミは身体を起こし、ケンジの口に後ろ向きで自分の秘部をあてがった。「んんっ・・・。」ケンジが少し苦しそうに呻いた。マユミは少し身体を浮かせて、ケンジの舌が自由に動かせるようにした。「あああ・・・。」

 ケンジの舌が谷間の入り口を舐め始めた。マユミは腰を動かしながら、ケンジの舌を自分の感じる部分に導いた。ケンジは一生懸命になってそのマユミの中心を愛撫した。まもなくマユミの谷間から雫が溢れ始めた。ケンジの口の周りはぬるぬるにされていった。それでもケンジはマユミの腰を両手で押さえ、自分の口に彼女の秘部を押しつけながら舌や唇を懸命に動かし続けた。

 やがてマユミは身体を倒し、ケンジのペニスにそっと手を添えた。そしてひとしきり舐め上げた後、ゆっくりと口の中にそれを含んだ。「んんっ!」ケンジが身体をよじらせた。しかし彼はマユミの谷間から舌を離すことなく刺激し続けた。マユミの口の動きが激しくなった。
 お互いがお互いを高め合い、二人の動きを激しくしていった。「んんんーっ!」「んんっ!んんん・・・。」二人は言葉の代わりに大声で呻き続けた。

 はあはあはあ・・・・マユミがケンジから身体を離した。ケンジは起きあがり、マユミを仰向けにした。そして彼女の両脚を持ち上げ、荒い呼吸のまま言った。「マユ、お前に入りたい、入っていい?」
 「うん。いいよ。入ってきて、あたしに。」

 ケンジはゆっくりとペニスをマユミの谷間に埋め込ませ始めた。「ああ、あああああ・・・、ケン兄・・・。」
 「マ、マユ・・・・」
 「あ、あたし、この瞬間がと、とても好き・・・・。」マユミが喘ぎながら言った。
 「お、俺もだ、マユ。」
 「あ、あなたと一つになる瞬間が、とても好き。」
 「マユ。」

 ほどなくケンジはペニスを彼女の中に埋め込んだ。そして静かに腰を動かし始めた。「ああ、ああああ、感じる、いい気持ち、ケン兄・・・。」

 「んっ、んっ、んっ・・・・」ケンジは次第に動きを速く、大きくしながら、ますます息を荒げてマユミを愛し続けた。
 はあはあはあはあ・・・マユミの身体が熱くなり、ケンジ同様呼吸も速くなっていった。「も、もうすぐイきそう、ケン兄・・・。」
 「よし、マユ、イこう、いっしょに。」
 「うん。」マユミは固く目を閉じて大きくうなずいた。

 ケンジの腰の動きがさらに激しくなった。「ああああ!イく、ケン兄!イくよ、イっちゃうーっ!」「ああ!お、俺も、マユ、マユっ!」

 ケンジの身体の中から熱いものが一気にわき上がってきた。「ぐ、ぐうっ!」

 びゅるるっ!びゅくっ!「ああああ!ケン兄!ケン兄!イってる!あたし、イってるっ!」マユミは身体を痙攣させ叫んだ。

 びゅくっ!びゅくびゅくっ!びゅるるっ!「ぐううううっ!マ、マユっ!」ケンジも身体を硬直させながら何度も何度も脈動し続けた。どくっ!・・・・どくどくっ!・・・・・どくん、・・・・・・どくん・・・・・・・・・どく・・・・・・。


 毎年、夏が来ると、私たちは二人だけで会い、過去を懐かしみながら温もりを確かめ合います。兄妹の関係としては少し、いえ、かなり特異ですが、そのときだけは誰にも邪魔されずにあの頃の心のアルバムを開いて、さまざまな思い出といっしょに甘い時間を共有し、味わうのです。そう、兄が昔買ってくれたアソート・チョコレートのように。









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