なほ 作

官能小説『Sweet Temptation』



第1話

「え…?一泊旅行…?」

オレの家の居間で夕食後のコーヒーを飲んでいた蘭が、顔を真っ赤に染めて、吃驚した様子でオレの言葉に訊き返して来た。

…そりゃそうだよな。
オレ達は「恋人同士」とは言え、つい先月のバレンタインにやっと初めてキスしたばかりだ。

蘭と交わした初めてのキスは、少しほろ苦い、チョコレートの味だった。

以来この一ヶ月、何度か唇を重ねる事はあったが本当に数えるほどの回数。
行き成り旅行へ行こうと言われて頷ける筈がない。

「あ…じゃあ園子達も誘って…」
「蘭。」

蘭の名を呼ぶオレの声に、蘭はビクッと小さく震えた。
…判ってて言ってる、きっと。

「…一応さ、こないだのバレンタインのお返しのつもりだから…出来れば二人だけで行きたいんだけどさ…オメーがイヤなら無理にってワケじゃねーけど…」

それがどういう意味なのか、流石に鈍い蘭にも判るよな…?
すっかり顔を真っ赤に染め上げて俯いてしまっている。
多分オレも赤面しちまってるだろう。


「…」
「……」
「………」
「…………」

蘭とオレの間にたっぷり30秒の沈黙。
…やっぱダメなのか…?

「…全部…」
「…ん?」
蘭の小さな声にオレが訊き返すと、蘭はスーッと深呼吸をして口を開いた。
「…費用は全部新一の奢り?」

やっと顔を上げた蘭は恥ずかしそうにしていたものの、笑っていた。
その笑顔にそっと安堵の溜息が漏れる。

「あ…ああ、いいぜ?交通費も宿泊費も食事代も全部出してやっから。バレンタインのお返しだしさ。」
「またおじ様のカード使うの?」
すっかりいつもの調子に戻った蘭がオレよりも少し背の低い位置から悪戯っぽく上目遣いに訊いてくる。

この視線は反則だ。
オレがこの視線に弱いって、コイツ知ってんのか?

「バ、バーロ。オレだって小遣い位持ってるっつーの。大体オメーがなけなしの金叩いて買ったチョコのお返しに父さんのカードなんか使うかよ?」
「あーっ!酷い新一、アレ手作りだったのよー?気付いてなかったの?」


気付いてねーワケねーだろ。
あんなに美味いチョコ、どこの店に売ってるっつーんだよ?


「そっかそっか。あまりにも上手に出来たから高級ブランドチョコだと思っちゃったのね?」
蘭は納得したようにうんうんと頷いた。
「ま、そーゆー事にしといてやるよ。」
「何よ、それー?」

ふざけるように笑いながらオレを殴るフリをする蘭の手首をギュッと握って、オレは蘭の耳元に囁く。
「旅行、楽しみだな…?」
「…うん。」

蘭はまた頬をほんのりと染めて小さく頷いた。


勿論、下心がない訳ではない。
…下心しかない訳でもない。

蘭が嫌だと言うなら、部屋も別々に取る気でいた。
蘭に触れたいと言うのは本音だが、ただ一緒に行けるだけでも良かった。

「ところで何処に行くの?」
「ああ、この辺り…房総半島なんてどうだ?」
オレは手元にあった雑誌のブックマークしておいたページを開いて蘭に見せた。
「今の時期だとそこそこにあったけーし…ほらココ、フラワーパークとかオメー好きだろ?」
オレの指先が示す写真を蘭の視線が追う。
「うん!いいね!」

笑顔で頷く蘭にオレは小さく窺った。

「…あのさ、部屋…一緒でもいいか?」

蘭が息を呑んだのが判った。

そして真っ赤な顔しながらも微笑んで小さくコクンと頷く。

それを確認したオレはホッと小さく息を吐くと、恥ずかしそうにしている蘭の唇に自分のそれを軽く重ねた。




旅行当日の朝、見事なまでに空は晴れ渡った。
小五郎のおっちゃんは依頼で数日間出張に言っている事は調査済み。
だからこそ巧く蘭を誘い出せたワケだが。
「迎えに行ってやっから家の前で待ってろよ。」というオレの言葉通りに、蘭は小さなボストンバッグを足元に置いて、毛利探偵事務所の外階段の下でソワソワと落ち着かない様子で立っていた。

その前に車を停めると、オレは運転席から降りた。

「オゥ、待ったか?」
「…え?え?え?アレ?コレ新一の車ーっ?」
車で迎えに来ると思っていなかったのか、蘭は車を見て目を丸くしていた。
「父さんのだよ。以前はバッテリー外しっぱなしだったんだけどさ、免許取ってからは父さんの了承を得て乗らせて貰ってるんだ。」
「へー…免許取ったのは知ってたけど…乗ってたなんて知らなかったし…それよりコレ外車でしょ?すごーい高級そう…」
「あの『工藤優作』が普通の車に乗るワケねーだろ?何よりも母さんが許さないって。ま、たまにはこんなのも悪くねーだろ?」
オレの問い掛けに蘭はパァッと笑顔になる。
「悪くない処か凄い素敵!お嬢様になったみたい!」
「お嬢様、お手荷物をお預かりしましょうか?」
はしゃぐ蘭の手荷物を受け取ると、後部席に積み込む。
「それでは…どうぞ、お嬢様?」
遊び半分で言いながらオレは助手席のドアを開け、蘭の手を取ってシートに誘導する。
蘭は少し照れながら車に乗り込んだ。
シートに蘭がちょこんと収まるのを確認したオレは静かにそのドアを閉めて運転席に向かう。

「ちゃんとシートベルトしろよ?」
「うん。」
カチッと音を立てて蘭がシートベルトをするのを見届けると、車を米花インターチェンジに向かって走らせた。





第2話

「ここってどの辺り?」
地図を覗き込んでいた蘭が運転席のオレに訊ねる。
「九十九里辺り。そろそろ海が見える頃だな…地図見てっと酔うぞ?」
「大丈夫だよ、私三半規管強いんだから。」
「折角の天気だぜ?地図は頭ン中入ってっから迷う心配ねーよ。景色見ろって。」
オレのその言葉に蘭が窓の外を見ると、丁度海が見えてきた処だった。
「わー、海だ!海だよ新一!」
まるで子供みたいに蘭がはしゃぐ。


やっぱ連れてきて良かったな。
こんなに喜んで貰えるなんてさ。

きゃらきゃらと耳に心地好い声ではしゃぐ蘭に、オレも知らずの内に口元が緩んでいた。


「今日の予定はとりあえずシーワールド。フラワーパークは明日な?あと2、30分も走れば着くからさ。」
「うん。」
「寝ててもいーぞ?」
「ううん、勿体無いもん。」

可愛い笑顔で言う蘭にドキンと胸が鳴る。


何が勿体無いんだ…?
折角の良い天気の中でのドライブで眠ってしまう事なのか、それともオレとのドライブで眠ってしまう事なのか。

訊きたい。
訊いてしまおうか。
いつもの調子ではぐらかされたりしないか。

などと思案しているウチに、助手席から小さな寝息が聞こえてきた。



…結局寝てんじゃねーか…


悪気はないのは百も承知。
こんな天気だ。眠たくもなるだろう。
掛かっていたラジオのボリュームを絞る代わりに、その小さな寝息をBGMにしてオレは車を走らせた。




シーワールドの駐車場に車を停めて助手席を見ると、彼女は相変わらず規則正しい寝息を立てている。
「らーん、着いたぞ?」
すっかり寝入ってしまった蘭は起きる様子もない。
このままこの可愛い寝顔を見ているのも良いが、蘭に楽しんで貰うには起こさなくてはいけない。
「おい、蘭ってば。」
軽く頬を抓ってやると、「んー…」と眉を顰めた。
「起きろって。」
「ん…アレ?」
蘭は重そうな瞼を開けると、軽く目を擦った。
「ほら、着いたぞ?」
やっと起きた蘭は、きょときょとと、窓の外を見てからオレの方に向くと、申し訳なさそうに小さく笑った。
「…ごめん、結局新一に運転任せっぱなしで寝ちゃったね?」
「起きてたって運転代われるワケじゃねーだろ?さ、とりあえず行こうぜ?」

オレが先に車から降りると、蘭は少し慌てて「待ってよー。」とドアを開けた。


「昼飯は中のレストランでいいか?」
入り口に向かいながら訊くと、蘭はバスケットを掲げた。
「…実はね、作ってきたの。どんな場所で食べられるか判らなかったからサンドイッチなんだけど。」

こういう事に気が利く蘭の事だ。もしかしたらそうじゃねーかと思っていたが、サンドイッチと言っても思いがけない処で蘭の手料理が食べられる事と、蘭の気遣いに少しばかり感動する。
「じゃ、天気も良いし、ちょっと早いけど入場する前に浜辺で食うか。」
「うん!」

駐車場の奥から海に出られるようになっているので、そこから浜辺に下りる。
「足元、気をつけろよ?」
段差がある所で蘭に手を差し出すと、蘭は照れたように笑ってオレの手を握った。
「今日は妙に優しいんだね?」
「んな事ねーよ。いつだって優しいだろ?」
おどけたように言うと、蘭は「よく言うー!」と声を立てて笑った。

蘭の手作りのサンドイッチを堪能した後にシーワールドに入場した。
水族館は水族館だけど、ここは海獣のショーがメインらしい。
巧く時間を使わないと、あれもこれもと見られそうにない。

「何が一番見たい?」
館内を歩きながら蘭に訊ねると、蘭は入り口で貰ったガイドを見ながら「うーん…」と首を傾げた。
「シャチのショーとイルカのショーは外せないなー…あとベルーガ、これ見たい!ペリカンのお散歩も!」
笑顔でオレを見上げる蘭に、今更ながら胸が鳴ってしまう。
「シャチのショーは屋外か…丁度1時からのがあったな。じゃ行こうか。」


わざとらしく思われないように、極自然にそっと蘭の手を握ると、蘭は少し驚いたような顔をした後、頬を桜色に染めてフワリと微笑んだ。




スタンドに着いた時にはもうショーは始まっていた。
シーズンオフの所為か、客はそう多くないので中段位のベンチに座れた。
「前、空いてるのに。」
席に腰を下ろすと蘭が少し残念そうに言う。
「バーロ、こういうショーってのは大抵前よりの席は水掛けられるんだぞ?プールの縁に注意書きしてあるだろ?夏ならいいけどさ。この辺の方が全体見られるし。それともオメー、水被りてぇ?」
オレが言うのと同時位に前よりの席から女性の悲鳴が聞こえてきた。
どうやらタイムリーにも、見事シャチに水を掛けられた処らしい。
「…遠慮する。」
「だろ?」
可愛く言う蘭に、思わずクスリと笑みが零れた。

席に着いてもその手は離さない。
蘭もそれに気付いてるのか、時々オレの顔と握られた手を交互に見て嬉しそうに微笑ってくれる。


観客の視線が集まる中、シャチたちは次々に技を決めていく。
「すげーダイナミックだなー。」
「うん、迫力だね!」
やはり体の大きさの違いか。イルカのショーより迫力がある。
野生のシャチなら体長10メートルはあるだろうが、水族館のシャチはせいぜいその半分以下。と言ってもイルカとは比べようもない大きさだ。


「次は夏に来たいね?暑い日だったら水掛けられてもいいもん!」
「そんなに近くで見たいか?」
「うん、そりゃそうよ。滅多に見られないし。」
「じゃ…夏になったらまた連れてきてやるよ?」



オレの言葉に蘭は「うん!」と笑顔で頷いてくれた。

次の約束。
それはこの後も変わらずにオレの隣にいてくれる…そういう意味だと思っていいのか。
今夜オレが蘭をを求めたとしても、それを受け入れて変わらずその笑顔を見せてくれるのだろうか…

賑やかなショーの横に見える静かな海に、オレは今夜の事を思いながらそっと視線を移した。





第3話

シーワールドを後にしたオレ達は、一路今日の宿を目指した。

「ほら、そこのホテル。」
車が向かう先は夕日に照らされ、薔薇色に染まった白亜の建物。

「嘘、アレがそうなの?わぁ、外国のお城みたいー!」

それを確認して、助手席で蘭が瞳を輝かせた。

「何でも西洋の城をそっくり移築したっつーシロモノらしいぜ。」

よく高速道路の脇にある…所謂ラブホテルなども割と外国の城をイメージして作られている物もあるようだが、ここのホテルは本物の城を移築しただけあって重厚さが違う。
かなりの年代物で、日本に移築されてからももう30年は経っているそうだが、その分重みがある。

「素敵ー!凄い気に入っちゃった!」
「やっぱな。オメーこういうの好きだと思った。」
「何よー、いいじゃない。」

オレがからかうように笑って言うと、蘭は口先を尖らせた。

「悪いなんて言ってねーよ。ただオメーらしくて可愛いなって。」
「え?」
「…あ。」

…やべ。自爆。

「…………」
「…………」

蘭は真っ赤になって俯いてしまった。
オレも言葉が見つからず、真っ直ぐに正面だけを見て黙ったまま運転を続けた。

「…………」
「…………」

話す事が見つからないまま、車はホテルの敷地内に滑り込んだ。
エントランスにはホテルの従業員が出迎えの為に5~6人並んでいる。
オレはエントランス正面に車を停めて、ドアを開け、蘭もオレに続いて車を降りた。

「いらっしゃいませ、工藤様。お待ちしておりました。」
総支配人が深々と頭を下げると、従業員もそれに続いた。
「差し支えなければお車をこちらでお預かり致しますが?」
「ああ、お願いします。」
「裏のガレージにお入れ致しますので、何か御座いましたらお申し付け下さいませ。」

従業員が荷物を車から降ろして中に運んでくれ、車はホテル専用の運転手だろうかが裏に持って行った。

「遠い所を有難う御座います。長旅でお疲れでしょう?こちらへどうぞ?」
エントランスからロビーを通り、ラウンジのソファに案内された。
ゆうせんだろうか、バロック調の音楽が流れていて雰囲気が落ち着いている。
「只今お飲み物をお持ち致しますので、少々お待ち下さいませ。」
総支配人が頭を下げて下がると、蘭がオレにこっそり耳打ちをした。
「ねぇねぇ、新一。随分ココってVIP対応じゃない?」
コーヒーを持ってこちらに来る総支配人の姿が見え、蘭は慌てて姿勢を正す。
総支配人はコーヒーをオレ達の前のテーブルに置きながら、ニコニコと笑顔で話し掛けてくる。

「遠い所をようこそお越しくださいました。ご立派に成長されて…どんどんお父様に似ていらっしゃいますね?坊ちゃま。」
「…坊ちゃまは勘弁して下さい。」
総支配人の言葉に、オレは苦笑した。

蘭が隣できょとんとした顔をしている。

「ココ、会員制のリゾートホテルなんだよ。父さんがココの名誉会員ってヤツでさ、総支配人には顔パス。」
「工藤様にはいつも御贔屓にして頂いております。坊ちゃまも以前はご両親様とよくいらしてました。」
この総支配人―北橘さんが蘭に言う。

北橘さんは、歳の頃は40代後半。このリゾートホテルの総支配人。
このホテルは会員以外は一切立ち入りできない、超高級ホテル。
流石は財界の大物や芸能人などを客に相手しているだけあって、落ち着きのある人だった。

「だから、坊ちゃまはやめて下さいよ、北橘さん。」
相変わらず蘭はきょとんとした顔をしていたが、やがて含み笑いをし始めた。
「やだ、新一が坊ちゃまだって…!」
「笑うなっつーの!」
蘭のあまりのウケように、流石に北橘さんもそれ以上言おうとはしなかった。

「落ち着かれましたらお部屋にご案内致しますので。ごゆっくりどうぞ。」

そう言って下がっていった。



「こちらで御座います。」

案内された部屋はオレが頼んだ通り、このホテルのロイヤルスイート。
滅多に客を通さないVIPルームらしい。
「わぁ…!」
レディファーストよろしく蘭を先に部屋に通すと、蘭は部屋を見渡して感嘆の声を上げた。

三間続きの洋風の部屋。
主寝室の他にゲストルームと居間もあり、バスルームと隣接している洗面所の他にパウダールームもある。
約百数年前、この城のお姫様が使っていたという部屋をホテル用に改造したそうで、ここだけの話、母さんのお気に入りの部屋だ。
窓の外には海も見える。

今日は更に特別に無理を言って少しばかり演出させて貰い、居間と主寝室には薔薇をふんだんに飾らせて貰った。
蘭に似合いそうな淡いピンクの薔薇。

親の七光りを使うのもみっともないかも知れないけど、蘭が喜んでくれるならそれで良い。


「お気に召して頂けましたか?」
北橘さんの言葉に蘭は笑顔で「ハイ!」と頷いた。
「お花がいっぱい飾ってあるし、お洒落なお部屋だし、景色は良いし、凄く素敵ですね!」
「この薔薇は新一様のプロデュースですよ。」
「え…?」
北橘さんの言葉に蘭がオレに振り返った。
「…ま、ホワイトデーだしさ。」
蘭は吃驚した顔を赤く染めて、ポカンと口を開けている。

蘭の反応は予想していたが、流石に照れるな、コレは…



第4話

「…凄い嬉しい…新一、有難う。」
「…いえいえ、どういたしまして。」

照れ臭いのもあり、オレはポケットに片手を突っ込んだまま、窓の外を見て答えた。

「それでは私はこれで失礼します。ディナーは夕方6時30分、一階のレストランにご用意致しますので。どうぞごゆっくりとお寛ぎ下さいませ。」

流石ホテルマン、引き際を判っているのか、それともオレすら自分でも甘いと思うこの空気に耐えかねたのか、一礼すると静かにドアを閉じた。

「疲れたんじゃねーか?夕飯までまだ時間あるからこっちで少し休めよ?」
オレは主寝室のドアを開けながら言った。
この部屋にも薔薇がたくさん飾られている。

ちょっとばかりサービスしすぎなんじゃねーか…?
オレは飾られた薔薇の量を見て、そっと苦笑した。

中央にキングサイズのベッドが置かれているのを見止めた蘭は、カァッと頬を染める。

…だよな?もしかして今夜このベッドで蘭と…

釣られたようにオレも顔が熱くなるのを自覚した。

「…し、新一も疲れたんじゃない?ずっと運転してたし…」
「あ、ああ…気にすんな。オレはあっちのゲストルームのベッド使うからさ…オメーはこっちの部屋でゆっくりしてろ。」
オレが親指でゲストルームの方を指すと、蘭は小さく頷いた。
「ん…じゃあ少し眠らせて貰うね?やっぱりちょっと疲れちゃったみたい…」
「じゃ、夕飯前には起してやっから。」
オレは蘭を主寝室に入れると、そのドアを閉めてゲストルームに向かった。

こちらにはシングルベッドがあり、流石に薔薇は飾っていなかったがそれなりの部屋だった。
万が一今夜蘭に拒まれてしまっても、同じベッドで悶々と一夜を明かさずに済みそうだ。

疲れていても今夜の事を思うと眠れる筈もなく、バッグの中から文庫本を取り出すとオレはそれを読み始めた。




最初は文面の上を視線がすべるだけだったがいつの間にか真剣に読んでしまっていたらしい。
気が付くと6時20分。窓の外を見るとすっかり日は傾き、辺りは薄暗い。
蘭を起さなくては。


主寝室のドアを軽くノックする。
「蘭、そろそろ夕メシの時間だぞ?」
「………」
反応はない。

仕方ねぇ。

そっとドアを開けると、蘭は大きなベッドの中央で小さな寝息を立てていた。


無防備なその姿にドキリと心臓が跳ね上がる。
ほのかに香る、甘い薔薇の香りに軽い眩暈を覚える。

オレは一歩一歩、静かにベッドに近づいた。

「…蘭。起きろよ?」
昼間の車の中と同じで起きる様子もない。
「らーん?」
「…ん…」
蘭は軽く声を上げると、コロンと寝返りを打ったが起きる気配が全くない。

オレはベッドの端に腰掛けると、引き寄せられるように蘭の上にそっと覆いかぶさった。
閉じた瞼と少し開いた唇が、まるでキスを強請っているようにも見える。

「蘭…」
その頬にそっと手で触れる。


やはり起きはしない。

桜色の艶やかな唇の誘惑に抗う術もなく、軽く唇を重ねた。


暫しその感触を堪能した後でそっと唇を離すと、閉じられていた蘭の瞼がゆっくりと開き、彼女はフワリと微笑んだ。

「…物語のお姫様みたいだね…」

こんな事で起きると思っていなかったので、少しばかり狼狽した。
「…タヌキ寝入りかよ…?趣味わりーぞ?」

バツが悪くて、オレは身を起こすと軽い憎まれ口を叩く。

「違うわよ、ホントに今起きたの。人の寝込み襲っておいてその言い草はないよね?」
蘭は悪戯っぽくオレの顔を上目遣いに覗き込む。

…だからその目は反則だってば。

「ほら、夕飯の時間。行くぞ?」
「うん。」

オレ達は部屋を後にすると、一階のレストランに向かった。
エレベーターに乗り込んだ所で蘭がオレに訊いてくる。
「ね?わたしこんな格好で良かったのかな?ここって凄い良いホテルなのに。」
「大丈夫だよ、ここって財界の大物や芸能人とかが客に多いけどさ、息抜きする為にお忍びで来る様な所だから結構みんな軽装だったりするんだ。」
「ふーん…」


蘭は頷きながら自分の服装を見下ろした。

久々に遠出のデートと言う事もあってか随分と可愛らしいワンピースを着ているが、やはり気になるのか。
カクテルドレスの一つでもプレゼントしてやれば良かったかも知れない。



下のレストランに入ると、数名の客が既にそれぞれの晩餐を楽しんでいた。
「ねぇ、ほら新一!あの人時々テレビで見るよね?」
席に着きながら、その客の中に有名人を見つけてこっそりと耳打ちしてくる。

楽しんでる蘭には申し訳ないが、芸能人に全く興味と言うものがないオレにはさっぱりだった。

「わー、女優の瀬小野みさき!テレビよりも綺麗ー!」


その「綺麗」がオレには判らない。
蘭の方が全然綺麗だと思うんだけどな…


「一緒にいるのって土岐克行だよね?噂って本当だったんだー!」
意外にミーハーなのはおっちゃん譲りなのか。有名人を見つけてはキャーキャー言ってる。
「らーん…ちょっとは落ち着けよ?折角のディナーなんだからこっちはこっちで楽しもうぜ?」
「あ、うん…ごめん一人ではしゃいじゃって…」
蘭はいたずらっ子のように肩を竦めて言う。

ホームズの話をしているオレといる蘭もこんな気分なのだろうか?



第5話

オレはいつもの逆のパターンだな…と口の中で呟いて苦笑した。

そこへ食前酒が運ばれて来た。

「あ、あのお酒は…」
「軽いアペリティフだよ。」
生真面目な蘭が食前酒を断ろうとするのを、オレが遮る。
「アペリティフって?」
「食前酒の事。飲みすぎは流石に良くねーけど、コレくらいの軽さと量だと食欲を増進を促し、リラックスさせる効果があるんだ。」
「ふーん…」
ボーイが蘭の前にグラスを置いた。
「スプモーニで御座います。酸味があって胃を軽く刺激するので、食前に飲まれるとお料理がより一層美味しく召し上がれますよ?」
そうにこやかに言うと、一礼して下がっていった。
「綺麗な色…」
「まぁ、飲んでみろよ?」
「…イタダキマス。」


慣れないアルコールを飲む緊張か、ちょっと神妙な顔をして蘭がグラスを口に運ぶ。
チロリと舐めると少し考えるように視線を泳がせ、「…美味しい。」と呟いた。
「だろ?」
「なんか大人な気分。」
蘭がクスクスと耳に心地好い声で笑いながら残りを口に運んだ。
「アペリティフ一杯で大人になれるなんて随分手お軽だな?」



こっちは今夜どうやって大人の階段を登ろうか試行錯誤してるのになー…




アペリティフがスプモーニなら料理はイタリアンのコースだった。
普段も食べ慣れているパスタなどが並んだので、コース料理に慣れていなくても気楽に食べられる所為もあってか、蘭のおしゃべりは留まるところを知らない。


やれおっちゃんがどうした、園子がどうしたと楽しそうにはしゃいでいる。

デザートと食後のコーヒーまで平らげた所で、「さて、部屋に戻るか。」と腰を上げた。




「――――――…っ!」




蘭が息を呑む声が聞こえた。

「…へ?」

「う…ううん…何でもないの。」

…もしかして…緊張してる…のか…?

「蘭…?」
「…ん、戻ろう。」

蘭が立ち上がるがその足が微かに震えているのが判る。




…怖がっている…?




そんな蘭にどうしてやったらいいのか判らず、オレは蘭の数歩先を歩いた。
蘭は少し離れてついて来る。

今日一日、ヤケに元気だと思ったら、カラ元気だったのか…?
わざと明るく振舞っていたのか…?

やべーな…こっちにまで緊張が伝染してきた。

途中、エレベーターの中でも話す事も見つからず、無言のまま部屋の前についた。

アンティークな造りのドアはやはり鍵もアンティークな造りで、緊張の所為か指先が震えて一度鍵を落としてしまった。

…カッコわりー…
何で今時こんな鍵なんだよ?

「新一…?」
「あ、ああ、何でもねー。」

気を取り直し、拾い上げた鍵を差し込んで回すと、ガチャッと重い音を立てて錠が上がる。

ドアノブを回して扉を開けると、その中に足を踏み入れた。




食事の後から会話が見つからない。
張り詰めた空気の中、部屋の扉の鍵を閉める音がヤケに大きく響いた。




「…えっと…テレビでも見るか?」
「…うん。」

居間のソファに腰を下ろし、リモコンに手を伸ばす。
プチッと軽い音を立てて画面が明るくなると蘭も続いてオレの向かいのソファに座り、何かに縋るようにクッションをギュッと胸元に抱き締めた。

「…映画でいいか?」
「…うん。」

チャンネルをBSに合わせると、丁度推理物のサスペンス映画をやっている。

「…あ、これオレ前から観たかったんだよなー…コレ見てもいいか?」
「いいけど…何か怖いよソレ…」
始まったばかりの映画の画面では最初の悲劇が起きた所らしい。


現場の状況や容疑者らしき人物が無意識にも自分の頭にインプットされる。
クセというか職業病というか…

「そうか、この状況だと容疑者はこの4人の中から2人に絞られるよなー…」

オレがブツブツと独り言のように呟いていると、蘭がソファから腰を上げた。
「新一、それ見てていいよ。わたし先にお風呂入って来るから。」
「おー…」

いつの間にか既に思考はテレビに奪われていて、生返事を蘭に返しながら画面に集中してしまっている。
蘭が吐いた小さな溜息にさえ気付かなかった。




「アレ…?もうこんな時間か…」
ふと気付くと時計は既に午後10時を回っていた。
そう言えば蘭が風呂に行ってから一時間以上経過しているんじゃないか?

我に返ってふと心配になる。

女の風呂は長いって言うけど…こんなに長いモンなのか?
声、かけてもいいのか。
それとも出るまで大人しく待ってた方が良いのか…


しかし幾らなんでも遅すぎねーか?
まさか中で倒れてたりしねーよな…

流石に心配になってバスルームの方に足を運び、そのドアの前に立ってノックをしようと手を上げた時。
ガチャッとドアが開いてTシャツとスウェットパンツを着た蘭が肩からバスタオルを掛けた格好で出て来た。
「…あ…えっと、何?」
蘭は恥ずかしそうに困ったような顔をして目の前のオレを見上げて訊いた。

オレの視線が気になるのか肩からかけたバスタオルを前で併せて胸を隠すような動作をするが、かえってその仕草の所為で胸元に目を奪われてしまう。
湯で温められた肌はほんのりと薄いピンクに染まり、濡れた髪に絡むシャンプーの香りが鼻腔を擽る。



第6話

「…いや、おせーから…湯アタリでもして逆上せてんじゃねーかって思ってさ…」
オレはしどろもどろになりながら、自分がここにいる理由をまるで言い訳するように言った。
「…そっかな、一時間位普通じゃない?」
「普通じゃねーだろ…」

女ってよく判んねー…風呂で一時間も何してんだ?

「映画はもういいの?」
「…ああ、トリックも犯人も読めちまって…思ってたより単純でさ。」
「ふーん…」

どうもうまく会話が続かない…

「それ…持ってきたのか?」
「え?」
「スウェットとか…」
「あ、うん…」
「バスローブとかパジャマとか用意されてんのに。」
オレがからかうように言うと、蘭は赤くなって俯いてしまった。
「だって…こっちの方が着慣れてるし…それに…は…恥ずかしいんだもん…」

恥ずかしい…って…
そんな事言われるとこっちまで恥ずかしくなるじゃねーか…
確かに、バスローブ姿の蘭なんて想像しただけでも興奮材料になり得るし、ホテルのパジャマも大きく出来ているから、ダボッと大き目のパジャマを着た蘭はオレの男心を擽ってくれそうだ。

そう思うと蘭の気回しが少しだけ憎い反面有り難くもある。
そんな格好した蘭を目の前にしたら、情緒もムードもなくこの場で襲い掛かっちまうかも知れない。

「…あー…、オレも風呂入っちまうかな…?」
「…ん、どーぞ?」

蘭と入れ替わりにオレはバスルームに入った。



湯に浸かりながら、先程の蘭の姿を思い出す。

濡れた髪。
少し火照った桜色の肌。
シャンプーの香り。

お気に入りのシャンプーを持参したのだろうか。いつもの蘭の香りだったな…

スウェットなんて色気のない格好でも、風呂上りってだけで充分そそられる。
一度湯は抜かれているものの、ついさっきまで蘭がこのバスタブの中に裸で入っていたと思うとそれだけで身体が熱くなってしまう。
それを誤魔化すように、オレはザパッと水音を立てて頭から湯に潜った。


蘭と違って余計な荷物を持って来ていないオレは、当然ここに用意された物しか着る物がなく、バスローブを羽織った。
風呂から上がって居間に行くと、テレビをつけっぱなしにして、蘭はソファでクッションを抱きかかえた格好で眠っていた。
いつの間にかチャンネルはサスペンス映画から流行りのアーティストのライブ映像に変えられている。
それにしても今日の蘭は何だか寝すぎじゃねーのか?

「蘭?風邪ひくぞ?」

声を掛けるがやっぱり反応はない。
「蘭。」
肩を揺すってみるものの全く目を覚まさない。

…もしかして今日はこのままオアズケになるのか…?

オレは溜息を一つ吐くと、主寝室のドアを開け、ソファで眠ってる蘭を抱き上げた。
思っていたより軽い事に少し驚く。

抱え上げても起きない。
そんなに疲れてんのか…

手足も腰も、すっげー華奢な造りしてるよな…
こんな腕でどうやって瓦割ってんだよ?
少しでも乱暴に扱ったら壊れちまうんじゃねーか?

蘭の身体を寝室に運んでそっとベッドに横たえ、毛布を肩まで掛けてやった。

あ~あ、まだ髪湿ってんじゃねーか…

その髪の一房を指先に絡める。
極上のシルクのような綺麗な黒髪。
まだ乾ききっていない髪がしっとりと指に馴染む。
先程と同じく、キスを強請っているような唇に誘われるが。

唇に触れたらまた起してしまいそうな気がして、オレはその代わりに指に絡めた髪にそっとキスを送った。


「おやすみ、蘭。」



ドアを閉めると、居間に戻った。



…今日はもう無理だな。



つけっ放しになっていたテレビを今日のニュースに変えながら、何度目になるか判らない溜息を吐いた。

蘭だって悪気があるワケじゃねーもんな。
疲れてるだけだ。
それだけが目的の旅行だってワケでもねーし…

まるで自分に言い聞かせるように心の中で何度も唱えた。





「…新一?風邪、ひいちゃうよ?」

…蘭の声?

ハッと目を開ける。
どうやらオレはニュースを見ながらあのままソファで寝てしまったらしい。
テレビは蘭が消してくれたのか、いつの間にかスイッチが切られていた。

「へ?蘭?」

寝室で眠っている筈の蘭が上からオレの顔を覗き込んでいた。

「新一、ベッドに運んでくれたでしょ?ありがと。」
ふと時計を見ると11時半。

「オメー…寝てたんじゃなかったのか?疲れてんだろ?」
「疲れてるっていうか…夕べあまり眠れなかったから……緊張、してたのかな…?」
オレの問いに、蘭が恥ずかしそうにオレから視線を逸らせて言った。

…緊張してたって……蘭も意識してくれていたのだろうか。
その覚悟を持って、ここまでついてきてくれた…そう思っても自惚れではないのか。
夕食の後のぎこちない態度もその為と思っていいのか。

「…何で緊張?」
半分判っていながら、その答えを蘭の口から聞きたくて敢えて訊ねてみる。
「…だ、だって…小さい頃ならともかく、付き合い始めてから泊まりだなんて初めてだし…そ、それって…つまり…」
「ん?」
「…えっと…し、新一は…つまり、その…わたしの事を…」
「蘭の事を?」

わざと判らない振りをして訊く。



第7話

突然、蘭の目から大粒の涙が零れた。

「へっ?」
「…意地悪!」
蘭は涙を零しながら真っ赤になって嗚咽を堪えている。

思わずソファから立ち上がってその華奢な身体を腕の中に納めると、蘭は吃驚したように身体を竦めた。
「ごめん…判ってる。」
蘭は小さく震えて言葉を失ってしまったようだった。


…言ってもいいか?

頼む、拒まないでくれ…

オレを受け入れてくれ…


祈るような気持ちで大きく息を吸い、オレは蘭を抱き締める腕に力を入れた。
更に蘭が身を固くする。


「…オレ、オメーが欲しくてここまで連れてきた。今夜オメーを…抱きたい…」
「……っ」

蘭が息を呑む音が聞こえた。

ついに言ってしまった…

「……」

蘭は何も答えてはくれない。

やっぱり自惚れだったのか?
蘭にそのつもりはなかったのか?

「…蘭?」
「………」

苦しそうな呼吸をしながら、カタカタと蘭が小さく震えている。

やっぱり嫌なのか…
…だよな?そんな都合のイイ話ねーよな…?

「…わりぃ、オメーにはその気なかったか…?ついて来てくれたから、てっきりオメーもそう考えてくれてるって思い上がってたかも…」
「……」
やはり蘭は何も言わない。
オレは諦めにも似た気持ちで小さく息を吐いた。
「…っし、ん…ぃち…」
苦しそうな呼吸の中、蘭が何かを言おうとオレの名前を呼ぶ。

優しい蘭の事だ。
オレを気遣って何か言葉をかけてくれようとしているのか…

「…気にすんなよ。オメーがその気になるまで全然待てるからさ…ちょっと焦りすぎたな、ごめん。今夜はオレ、さっきのゲストルーム使うからオメーは主寝室使えよ?」
オレはそっと蘭の身体を腕の中から解放してやった。

…このまま進展ナシ…ヘタしたら幼馴染に逆戻りか…?

自嘲にも似た笑いが零れる。
蘭はオレの腕にしがみついてフルフルと小さく首を振った。

「…がう…」
「…ガウ?」
蘭の小さな呟きに訊きかえす。

「違うのっ!」
「…へ?」
「…わ、わたしだってその気がなかったらここまで来ないもん!軽い気持ちで来たワケじゃないよ?新一だったら…新一とだから構わないって思って…でも、やっぱり、こ、怖いし、恥ずかしいし…どうしたらいいのか判んなくて…」

俯いている蘭の目から零れた透明な雫が、下の絨緞に小さな染みを作っていく。

マジで…?
…抱いてもいいのか…?

考えるより先に身体が動いた。
気付くとオレは再び蘭を抱き締めていた。

「…もう待たなくていいか?」
「…ん。」
「…後悔しねぇ…?」
「…しない…」

睫を伏せて震えながら答える蘭の瞼にチュッと軽くキスをすると、蘭が目を開けてオレを見た。
上目遣いにオレを見つめる、潤んだ蘭の瞳にゾクゾクする。

止まんねー…

涙を唇で拭ってやるとオレの唇が頬や目元に触れる度に、ピクンピクンと蘭の身体が小さく震えるように反応する。

更に強く蘭を抱き締めて、唇を合わせた。
次第に熱を帯びていくキス。

チュッ、チュッ、と何度も角度を変えながら、啄むように蘭の唇を味わう。
「…ん…っ」
蘭が無意識にかキスから逃げるように身を捩るが、それを許す筈もなく逃げる唇を追って更に深いキスを与える。
「…ま、待って…しん…んんっ」
息継ぎの合間に蘭はオレの身体を押し返しながら制止を求めるがそれを無視してキスを続け、グッと蘭の身体に腰を押し付けた。

「……っ!」

昂ぶった欲望が伝わったのか、その仕草に蘭はビクンッと震えた。
「…ごめん、蘭…もう止めらんねー…」
蘭の耳元で搾り出した声は、自分でも驚く程に低く掠れた甘い囁きだった。

「…し…いち…」
蘭がまだ震えてるのが判るのに。
欲望はどうしても止められない。

「…出来るだけ、優しく、する…から…だから……いいか…?」

一つ一つ言葉を紡ぐように訊くと、蘭は少しの躊躇の後に小さく頷いた。
「…後悔しないって…言ったじゃない…」

こんなにも震えてるのに。
泣きそうな笑顔で。

「…なぁ、ベッド…行こう?」
オレが誘うと蘭は頷いた…が、震える足は先に進まない。
さっきと同じように蘭の身体を抱き上げると、蘭は少し驚いた様子だったが大人しくそれに従った。




寝室のベッドに蘭を横たえると、その上に覆いかぶさるようにして口付けを与える。
だんだんと激しくなっていくオレのキスに、蘭は戸惑いながらも応えてくれる。
初めてのキスを交わしてから一ヶ月。
かつてない程に激しく求め合う。

暫くは互いの吐息を少しも逃したくなくて、貪るように口付け合っていた。
やがてそれは更に激しいものへと進化していく。
舌で蘭の唇を撫でると、蘭は唇を閉ざしてしまった。
「…蘭、怖くねーから…」
言い聞かせるように囁くと、蘭は小さく頷いて少しだけその入り口を解放した。
少しずつ、蘭が怖がらないように舌を差し込んでいくと、蘭はビクッと震えてオレの舌から逃げようとしている。
中で逃げ惑う蘭の舌を追って舌を動かし、自分のそれに絡め取る。
自分の舌を蘭の口中に押し込み、また蘭の舌を吸い上げ、その感覚に夢中になった。

段々と互いの舌に慣れて来た頃には蘭ももう逃げようとはせずに、オレの背に手を回して、しがみつくようにギュッとオレのシャツを握り締めていた。

互いの唾液が絡む音と激しい呼吸音だけが静かな部屋に響いている。



第8話

息継ぎの為に唇を離すと、光る糸がオレと蘭を繋いだ。

「蘭…」
少し荒い呼吸と共に愛しい名前を呼びながら再び唇を求めると、蘭の手にそれを阻まれた。
「…ん?」
「…灯り、消して…?」
眉を寄せ、やっと聞こえるくらいの小さい声。

せっかく蘭がこんなに色っぽい顔をしているのに、消してしまったら勿体無い。
「ヤダ。」
「…恥ずかしいよ…お願いだから…」
オレが蘭の申し出を一言で却下すると、目に涙を溜めて可愛い声で更に懇願してくる。

『泣く子と地頭には勝てぬ』
…そんな諺があったっけな…

そんな事を思いながらベッドボードについているつまみを絞ると、部屋の照明が暗くなる。
「これでいいか?」
オレがそう訊くと、蘭はチラリと視線を横に移した。
「…足元の電気、ついてるよ…」
蘭の視線を追うとベッドの下でフットライトが淡い光を放っていた。
「真っ暗になっちまうじゃねーか。」
「…真っ暗でいいの。」
口を尖らせて言う蘭に「間違ったトコに入れちまうぞ?」と冗談で答えると、蘭が両手で挟むようにオレの頬を軽く叩いた。
「下品な事言わないでよ、バカ!」

蘭はムードとかロマンとかってヤツが好きらしい。
自分の失言をを少し反省しつつ、フットライトのスイッチも消した。

「今度こそこれでいいか?」
「…ん…」
オレとしては幸いな事に、決して厚すぎないカーテンを通して月明かりが部屋の中に差し込まれている。
流石に月明かりまではどうにもできない事を蘭も承知しているらしい。

再びキスを再開する。
唇から顎、首筋と唇を移動させていき、白い肌に少し強く吸い付くと赤い跡がうっすらと残る。

コレがキスマークってヤツか…
蘭がオレの想いを受け止めてくれた証。
オレが蘭に触れた証。

そう思うと嬉しくて、その白い肌のあちらこちらに跡を刻んでいく。
そうしながら、右手でそっと蘭の左胸をTシャツの上から包み込んだ。

すっげー柔らけー…

「…あ…」
その事に気付いたのか、薄く目を開けた蘭が怯えたような不安げな表情をした。
「…蘭…愛してるから…だから…な…?」

…なんつーエゴイズム。
愛してるから…なんて理由になってねーじゃねーか…
まるで自分の欲望の為に蘭に触れてるみてーな言い方だ。

それでも蘭は泣きそうな顔で微笑ってくれた。

「ごめん…蘭、何て言ったらいいか判んねーけど…オメーに触れたかった…ずっとこうしたかった…」

…やべーな。かなりいっぱいいっぱいだ。

何が「冷静沈着な名探偵」だ。
誰だよ、そんな事言ってんのは。
蘭の前では不器用に恋する只の男でしかない。

自分でも何言ってるのか判んねーのに、蘭は微笑んで頷いてくれる。
「…し、新一の…したいように、して…?わたし、ちゃんと信じてる…から…」

…抱かれているのはオレの方かも知れない。
蘭の柔らかい、あたたかい気持ちに。

「…ありがとな、蘭…愛してる…」
精一杯の想いを籠めてその唇にキスをした。

「…ん…んふ…っ」
愛撫を再開すると蘭の口から鼻にかかった甘い吐息が漏れる。

すっげ色っぺー声…

その声をもっと聞きたくて、蘭の耳元に口を寄せると、チロッと舌先で耳たぶを舐めあげた。
「…ふ…っ」
ビクンと蘭が肩を竦める。
わざとクチュクチュと音を立てるように舌先を動かすと、蘭は「やぁ…ッ!」と可愛くオレの肩にしがみついて来た。
耳たぶを甘く噛んで舌でチロチロと愛撫する。
「…ん…や、ダメ…ッ」
無意識なのか、蘭は必死にオレの身体を手で押し返そうとしていた。
「蘭…可愛いな…」
耳元で囁くように言うと、オレの身体を押し返そうとしていた手で、今度はギュッと抱きついてくる。
「…しんいちぃ…っ」
「可愛い…オメーすげー可愛いよ…」

意識せずに口をついて出る言葉。
馬鹿の一つ覚えのように「可愛い」を何度も繰り返しながら、そっと蘭の着ているTシャツの裾から手を入れた。
「…んン…っ」
肌に直接オレの手を感じてか、甘い吐息を吐くと同時にビクッとその身体が震える。

腹部や脇腹を指先で撫で、徐々に胸へと移動させていくと、指先がブラジャーの裾に当たった。
その上からそっと胸を包み込み、軽く手を動かす。
「…ん…っ」
一旦愛撫を中断すると、オレは思い切って蘭のTシャツを捲り上げて下着に包まれた胸を曝け出させた。
「あ…っ」
展開について来られないのか、蘭はオレの行動にいちいち声を上げる。

勝負下着ってヤツかどうかは判らないが、可愛らしいレースがついたパステルピンクの下着。
これってやっぱりオレに見て欲しくて用意した…ってヤツか?

…こういうのは誉めた方が良いんだろーな…

「…可愛い下着だな?」
「…この旅行の為に買ったおニューの下着なんだよ…?」

やっぱりな。
可愛くてクスッと笑みが零れる。

「でもさ、中身の方がもっと可愛いけどな?」
「…中身?」

グッと下着を押し上げると、プルンッと蘭の豊満な乳房がその下から零れ出た。
「キャッ!」
蘭が驚いて小さく悲鳴を上げて両腕で胸を隠そうとするのを、オレはその華奢な手首を封じる事で阻止した。
ベッドに手首を押し付けると、イヤイヤと頭を振る蘭の髪がシーツの上を舞う。

―――絶句。
想像以上に綺麗すぎて…言葉も見つからない…
目が離せない。



第9話

「…見ちゃ…ヤダ…」
恥ずかしさに耐えかねてか、蘭はオレから視線を外して震えながら泣きそうな声で訴えた。
「…ホラ、中身の方が…ずっと…可愛い…」

ヤバイ。興奮しすぎて言葉も巧く出て来ない。
オレの下に組み敷いた蘭の髪はシーツの海に黒い模様を描き、Tシャツとブラジャーを胸の上まで捲り上げられて胸を露にさせられ、手首をオレに封じられ…

まるでピンで留められた蝶の標本。

「ね…?新一…手首痛い…離して…?」
蘭のお願いに、オレは我に返る。
妖しいまでに美しい蘭についつい魅入られてしまう。
「…あ…わりぃ…」
掴んだ手首をそっと解放してやり、蘭をそっと抱き起こすと捲り上げたTシャツを脱がせた。
「……」
蘭は恥ずかしそうにしているが、もう抵抗はしてない。
ベッドの上で半身を起したまま抱き締める。
背中に回した手で、ブラのホックを探り、それを外そうとするが緊張と興奮の所為か指が震えて言う事を聞いてくれない。

くそ、単純な造りなのにどうして外れねーんだよ…?

「…新一…」
蘭は揺れる瞳でオレを見上げた。

カッコわりー…
何でもっとスマートにできねーんだ…

「…し…新一、…わたしが…」
蘭はオレの腕を手でそっと優しく払うと、自らの背に手を回してプツッとそのホックを外した。
「…蘭…」

その気持ちが嬉しくて、オレは上半身裸になった蘭を強く抱き締めた。

「ごめん…オメーにそんな事させちまう気、なかったのに…」

自らそれを取り去るのは、決心の要った事なんじゃねーのか…?

「…いいの。新一だから…わたし、新一に愛されたいから……ちょっとはお手伝いになれたかな…?」
可愛い蘭の物言いに、クスッと笑が零れてしまった。
「充分だよ…後はオレに任せて…?」
オレの笑みに釣られたのか、蘭も微笑んでくれた。
再び蘭をベッドに横にすると、オレは蘭の下衣に手を伸ばした。
ゆっくりとスウェットを下ろしていき、完全にそれを蘭の足から取り払う。

少し身体を浮かせて蘭を見下ろす。
最後の一枚のみを身につけた蘭の身体は壮絶に綺麗だった。
雪のような白い肌の首筋や胸元には、先程オレが刻んだ刻印が赤く浮かび上がり、ふっくらと盛り上った双丘の頂には花の蕾のような乳首が置かれている。

「すっげ…きれー…」

まるで吸い寄せられるかのようにオレは蘭の乳房に顔を埋めた。
蘭がギュッとオレにしがみつく。
顔を埋めた胸の谷間にチュッとまたキスマークを刻む。
「…ん…っ」
右の掌に蘭の胸を包み人差し指と中指の間に乳首を挟んで軽く揉むようにしながら、白い肌にキスマークを散らしていった。
「…ああ…ッ」
初めて聞く蘭の嬌声に、オレの欲望は更に止まらなくなってくる。
「蘭…蘭…」
愛しい名を呟きながらチュッチュッと乳房にキスを繰り返し、指先に赤い蕾を捉えた。
「…は…あ…ん…っ!」
蘭がピクンと仰け反る。
親指と中指で摘んで、人差し指でクルクルと擦ってやると、蘭の声は一層甘く切なくなった。
「あっ、あぁっ」
オレの指の動きに合わせて、蘭の口から嬌声が零れ出る。
「…蘭…?大丈夫か…?」
蘭の顔を覗き込むようにして訊くと、蘭は潤んだ目をオレに向け、甘い吐息交じりの声で「…ダメ…かも」と呟く。
「バーロ…もう止めらんねーてば…」
言いながらチュッと赤い蕾に唇を寄せた。
「や…!」

蘭の反応を伺うように、時々蘭の顔を見上げながら舌先で蕾を探る。
甘い声で鳴きながらも蘭が慣れて来た頃に、それを口の中に納めてチュパチュパと音を立てて吸った。
「やぁ…っ、あっ、しん…ちぃ…っ」
オレの愛撫を感じて固くなった両方の蕾を指と唇で攻め立てていく。
蘭は自分の胸元に顔を埋めるオレの頭を必死に抱き締めていた。
唇で挟み込み、時に軽く甘噛みし、舌の先で転がす。
「あ、あぁ…あん…」

そろそろと指先で、掌で、蘭のすべらかな肌を愛撫していき、やがて腰の下のふくらみに到達した。
「…ん…んふ…」
オレの手が蘭の臀部を撫でるたびに、蘭は可愛い声で鳴いてくれる。
蘭の足の間に自分の身体を置いて、その足が閉じないようにしながら、オレの指先は蘭の身体を彷徨った。

「…あ!」

ついにオレの指は、恐らくまだ蘭以外の誰も知らない場所へと辿り着いた。

下着の上から指先でそっと撫でると、ジワリと湿った感触がした。
「やぁ…っそこ…ダメ…っ」

泣き声でダメと言われても止まる筈もない。

蘭の抗議の言葉を塞ぐべく、オレは蘭に口付けながら指先で下着の上から執拗に攻めた。
「んん…、んふ…っ」

これが「濡れる」って事なのか…
下着を通しても溢れ出てくる蘭の蜜に、言葉にできない感動がこみ上げる。

舌を絡ませ、キスを激しいものして蘭の声を抑えると、オレは蘭の下着の上の方から指先を入れた。
「んっ!」
蘭の身体がビクンと大きく跳ね上がった。
震えるその手は必死にオレの腕にしがみついている。
下着の上から触れた時よりも、はっきりと熱く濡れているのが判る。



第10話

「…すげ…」

思わず蘭の唇を解放して呟いた。
「…や…やだぁ…」
「…ごめん、蘭…もう止まんねーんだってば…」
オレの声に蘭はギュッと閉じていた目を開けてオレを見た。
「…オレだからいいって言ってくれたろ…?オレも…オメーだから触れたいんだ…」
「…新一…」
蘭はオレの目を見つめた一瞬後に再び目を閉じるとコクンと小さく頷いた。

指先を蘭の下着にかけると、ゆっくりとそれを下ろしていく。
蘭は自分の手で顔を覆って表情を見られまいとしていた。

完全に最後の一枚を蘭の身体から取り去ると、蘭の綺麗な白い身体がうっすらと月明かりに浮かび上がった。

ヤバイ位に心臓がバクバク言ってやがる。
全身がアツイ。
オレは自分の着ているバスローブの紐を解きながら、意図せずに熱い吐息を吐き出した。
「…わりぃ、蘭…もう持ちそーにねー…」

オレの言葉を理解しているのかいないのか、蘭は少しきょとんとした顔でオレを見た。

もう挿れたい…
蘭と一つになりたい…

「…いいか?」
オレの問い掛けに蘭はやっと理解できたのか、少し目を丸くして恥ずかしそうに視線を彷徨わせた後で、小さく頷いた。


…って、やべー…ゴムあっちの部屋だ!

蘭との初体験を考えて来た旅行だ。
勿論用意はして来たが、うっかりバッグの中に入れっぱなしだったのを思い出した。

「…ごめんな、ちょっと待っててくれな…?」
「…新一…?」
ベッドから下りたオレを不安そうに蘭が呼ぶ。

情けなくて言えるかよ…「ゴム取って来る」なんて…

「ごめん、すぐ戻るから。」

チュッと蘭の唇にキスをすると慌てて部屋を出てゲストルームに置きっぱなしだったバッグを探った。

確かこのポケットに入れた筈…

ガザガザとバッグの内側のポケットからそれを探し出してバスローブのポケットに入れて大きく深呼吸をすると、蘭の元に戻った。

「…どうしたの?」
寝室に戻ると、胸元まで毛布を引き上げた蘭がベッドの中で不思議そうに訊いてきた。
「…いや、何でも…ごめんな?」
オレは再びベッドに戻りバズローブを脱いで蘭の上に重なった。
「…こんな時に秘密はイヤ。」
蘭は泣きそうな顔でジッとオレを見た。

…仕方ねー…

「オレ、蘭の事すげー好きだから…何よりも大事にしたいから…」
「…ん?」
「だから…さ、ちゃんと避妊…しないといけねーと思って…」
バスローブを脱いだ時にそっと手に隠し持ったそれを蘭に見せると、蘭は少し吃驚したような顔をして赤面した。

「…そ、それって…もしかして…」

…もしかして見るのさえ初めてなのか。

「…ちょっと待ってろ?」
オレは上半身を起して蘭に背を向けてそれを包んである包装を開けようとするが、これ自体つけるのも初めてだし、やはり緊張の所為か手が震えて巧くいかない。

ダッセー…何やってんだよ、オレ…

オレが自己嫌悪しつつも四苦八苦していると蘭がそっと身体を起し、後ろからオレに抱きついてきた。
背中にプニッとした二つの柔らかい物が当たる。

「…蘭?」
「いいよ…そのままでも…」
「…へ?」
「…いいの。」

もしかして今日は安全日って事なんだろうか。
…でもなぁ…

「蘭…完全な安全日ってないんだぞ?もし出来ちまったらどうすんだよ?」
「新一は…責任取らされるのがイヤなの?」
「そういう事じゃねーだろ?」
「…新一だからいいんだよ…?ううん…新一の赤ちゃんならすぐにでも欲しいくらいよ…」

言葉が出ない。
そんな風に思ってくれていたなんて…

「新一は…そう思ってないの…?」
「…バーロ。」
オレはベッドサイドに手にしていたそれを置き、背中に張り付いていた蘭の手首をギュッと握るとその身体をベッドに沈めた。
「んな事言ってると一生離してやんねーぞ?」
「…離しちゃ、イヤ…」

下着を脱ぎ捨てると、限界まで勃ち上がった己の熱が天井を向いてる。
蘭はそれを直視できないのか、恥ずかしそうに顔を逸らして目を閉じた。

小さく震える蘭の両膝をグッと掴むと、外側に開かせる。
「………!」
オレの行動に、蘭がビクッと震えた。
「…怖いか…?」
「………」
オレの問いに蘭が目を開けオレを見て、フッと微笑んだ。
「…へ…き…」
掠れた声は泣きそうに滲んでいる。

全然平気じゃねーじゃねーか…

「ごめんな…?愛してる…」
オレは自分の肉棒に手を添えて、そっと蘭の秘所に宛がった。
「…ん…っ」
それを感じてか、甘く鳴く蘭の中に誘われるようにグッと腰を進める。

「や…!」
蘭が大きく身体を震わせた。
「…ごめん、ちょっと大人しくしててくれな…?」
言い聞かせ、腰を進めようとするが、蘭がイヤイヤと暴れて巧くいかない。
「…た…いや、痛い…っ!」
少し先端が入っただけで異様に痛がって暴れる。

濡れていれば大丈夫ってワケでもねーのか…

「…蘭…」

仕方なくオレは上半身を起して蘭のそこから肉棒を離した。
「……ごめ…ね?新一…」
「仕方ねーよ…」
泣きながら謝る蘭にオレは苦笑して返した。

仕方ないと言いつつもここでやめるワケにもいかねーよな…
もしかしてもう少し慣らした方が良いのかも知れない。

オレは指先を蘭のそこに伸ばした。
「…あぁ…」
涙の余韻を残した甘い声で鳴く蘭のそこに、ゆっくりと中指を埋め込んだ。
「…んぁ…ああ…っ」

随分と狭いんだな…
これでアレを入れようとしても入りそうにねーよな…
つーか…すげー柔らかくて気持ちイイ…

ビクビクと内壁がうねるように収縮しているのが差し入れた指に伝わってくる。
それに合わせて蘭の下腹部がピクピクと無意識だろうが震えていた。

オレの指に感じてくれているのか。

差し入れた中指で、蘭の肉壁を解していく。
指の動きに合わせて、蘭が可愛い声で鳴いた。
蘭が少し慣れて来た頃に指を二本に増やして、中を探り出す。
「あん…あぁ…ん…」
痛みは感じてないのか、蘭は切なそうに眉を寄せているもののさっきみたいに痛みを訴えたりはしていない。
少し激しく抽出すると、蘭の声がそれに合わせて高くなっていった。

指で中を探りながら、赤く腫れた肉芽を擦り上げる。
「ひぁ…っ!」
蘭の身体が大きく戦慄いた。
「蘭…ここ気持ちいいのか…?」
「や…!判んない…けど…っ、ダメ、おかしく、なりそう…!」
そう訴え泣きながら必死にオレにしがみついた。

すげ…たまんねー…

早く蘭の中に挿れたいが、こんな蘭から目を離してしまうのも勿体無い。
「や、あ、あぁ…っ、あん…っ」
ビクビクと蘭の身体がオレの指の動きに反応し、その可愛い口からあられもない嬌声が零れ出ている。
もしかしてコレって「イキそう」ってヤツなのか?




第11話

オレは更に激しく指を動かした。
「や…!ぃやぁ…っ!しん…ち、もう、ダメ…ッ!あ…んんんっっ!!」」
肉芽を指で転がしながら中に入れた指で肉壁を擦り上げると、蘭は身体を大きく反らせてその直後に脱力した。

「…蘭…?」
「…し…ぃち…ぃ…」
大きく肩で息をしながら、舌ったらずの甘い声で蘭がオレを呼ぶ。
灯りを消した薄暗い中でも判るほどに、全身を桜色に染め上げていた。

「あ…わたし…?」
「イッた?」
「…?え…?」

オレの質問に蘭はきょとんとした顔で答える。

「もしかして…オメー…イッたの初めて…か?」
「…行くって?」
「自分でした事とかもねーのか…?」
「…何を?」

…やべ…可愛すぎる。
自分でもした事がないって事は、イッたのもオレの指でが初めてって事だよな…
そう思うと蘭が愛しくて愛しくて堪らない。

「ホントやべぇって…オメー…可愛すぎだよ…」
今度こそオレは蘭の中に入るべく、蘭の足を大きく開かせた。
「…ん…」
蘭は甘い声をあげるものの、オレのする通りにしてくれている。
「わりぃ…蘭、今度こそ限界…」
いきり勃った肉棒を手で支えると、オレはそれを蜜が溢れる蘭の秘所に宛がった。
クチュ…と濡れたそこが卑猥な音を立てる。

「ごめんな…?また痛くしちまうかも知んねーけど…」
極力優しくキスをしながら言って蘭を見ると、蘭は瞳に涙を湛えて頷いた。

それを確認すると、オレはグッと腰を進めて蘭の中に侵入した。
「ひぁ…っ!」
蘭の口から声にならない悲鳴が上がる。

「く…すげ…」

あまりの気持ちよさに思わず声が出てしまう。
まだ半分も入ってないのに、堪らなく気持ちイイ。
「わりぃ…蘭、もう少し力抜いててくれな…?」
オレは更に腰を進めて蘭の奥を目指した。

一回達していた所為か、蘭のそこはさっきよりスムーズにオレを受け入れてくれる。

それでも…
「痛…いや、いたぁい…っ」
蘭は痛みしか感じていないのか、泣きながら訴えてくる。
「…ごめん、蘭…ごめんな…?」
どんなに謝っても罪の意識は消えない。
蘭はオレに快楽を与えてくれているのに、オレは蘭に痛みしか与えてやれない…
どうしたら蘭の痛みを除く事ができるのだろうか。

オレは動きを止めると、精一杯の愛しさを籠めて蘭の唇にキスをした。
「…ん…」
額に、瞼に、目尻に、頬に、鼻筋に、そして再び唇に…顔中にキスの雨を降らせる。

「…しんいち…」
蘭がギュッと固く閉じていた目を開けた。
「蘭…」
「…しんいちぃ…」
「まだ痛いか…?」
耳に口を寄せ囁くように訊くと、少しの間を置いて蘭はフルフルと首を振った。
「嘘、言うなって…」
更にグッと蘭の奥に進むと、蘭は「ああっ!」と声を上げた。
「ごめんな…?もうちょっと我慢しててくれ…?」
ジリジリと未開の領域を目指して進んでいくと、更にキツイ場所に到達する。
「ひゃあぁんっ!」
グッと突き上げるようにすると、蘭が大きく身体を反らして掠れた悲鳴を上げた。

すげー…堪んねー…

根元まで入れ込むと、どうやら一番奥に到達したらしい。
「蘭…目、開けろよ…?」
オレの呼びかけに、蘭は涙の溢れる瞳でそっとオレを見上げた。
「オレとオメー…繋がってるんだぜ…?」
そう言って腰を揺すると、蘭が甘く鳴いた。
「しん…ぃちぃ…」
蘭はオレの名前を呼び、泣きながらオレの首に腕を回してギュッとしがみついてくる。
「…痛いのか…?」
オレの問いに蘭はオレにしがみついたまま小さくと首を振った。
「だってまだ泣いてるじゃねーか…?」
「ううん…嬉しいの…今、新一と一つに…繋がってるのが…嬉しくて…幸せで…痛みなんて、もう…判んないよ…」

涙声でそう言った蘭の言葉は決して嘘ではなく…

「ちょっと…動くからな…?我慢してろ…?」

さっきまでまるでオレを拒絶していたかのようだったそこは、ジワリとオレを受け入れるように包み込んでくれている。
柔らかく、熱い蘭の胎内。
もうジッとしていられない。
激しく蘭を突き上げて、絶頂に導いてやりたい。
蘭の中に全てを吐き出してしまいたい…

オレは蘭の足を抱え直すと、律動を始めた。
「あん、あぁん、あ…あぁ…ん、あぁ…」
動きに合わせて蘭の口から甘い声が漏れ出る。
「蘭…蘭…!」
開かせた蘭の足を肩に抱え上げ蘭の身体を二つに折ると、腰を浮かせて上から蘭の中心目掛け激しく突いていく。
「やぁっ!や!ああっ!しん…ぃちぃ…!」

やべ…もう…!

「蘭…!」
「新一ぃ…!」

互いの名を呼び合うと二人同時に達して、オレは蘭の一番奥に己の欲望を全て吐き出した―――




「…蘭?」
「…ん?」
「平気か…?」
「…ん…」

半分は夢の中なのか、オレの声に短い返事で蘭が答える。
蘭の中に全てを吐き出して力を失ったそれを引き抜くと、「…あん…」と蘭が甘く鳴いた。

んな声出されるとまた勃っちまうっつーの…


「蘭…言いにくいんだけどさ…」
「…ん?」
「血が…」
「…血って…?」

オレは身を起こすと、シーツを蘭の血で染まったシーツを指差した。

「え…っ?」
「ごめんな…?こんなに出血するって思ってなくてさ…」
勿論初めてでも出血しないって女性もいるが、蘭がそうだとは限らないし、多少は判っていたがコレほどまでとは思ってもみなかった。
「え…これって…わ、わたしの…?」
蘭が半身を起し、真っ赤になって両手の指で口元を押さえた。
「やだー!どうすんのよ、これホテルのシーツでしょ?誰かに見られたら…っ…やー!恥ずかしい~!」
両手で頬を押さえてイヤイヤと首を振る。

「…持って帰っちまう?」
「…ホントに?」
「だってよ、オレも蘭の血他人に見られるのヤだしさ…記念って事で。」
「…何の記念よ?」
「オレと蘭の初えっち記念。」
「…バカじゃないの?」

オレは頬を押さえたままでいた蘭の両手を掴むと、その身体をベッドに沈ませた。

「『バカ』で結構。オレは『大バカ推理之介』で『蘭バカ』だからさ。」
「…何よ、それ…『蘭バカ』って。」
「園子がよく言ってる。」

オレが笑って言うと、蘭もクスクスと笑った。

「蘭バカだからさ…もう止まんねーんだけど…」
「…え?…んっ!」

オレは自分の下に組み敷いた蘭の唇にキスをした。

「…新一、元気すぎ…」
「しゃーねーだろ?オメーが好きなんだから…」


「今夜は寝かせねーから…」と呟くと、「ドラマの台詞みたい」とクスクス声交じりで蘭が答えた。




夜はまだ始まったばかり―――







翌朝―
出発を北橘さんを始めとする従業員の人たちに見送られるオレのバッグは、一回り大きくなっていた。
ぎゅうぎゅうに小さくして詰めてもキングサイズのシーツだ。

…もしかしてバレているだろうか。
完全犯罪は存在しない…いつものオレの台詞だが、この際は見逃して欲しい。




蘭はと言うと、一晩中愛し合った所為かいつもの姿勢の良い蘭ではなく、歩くたびにフラフラしていた。
二日連続で殆ど眠れず車中ではずっと眠っていて、予定のフラワーパークに行っても花を見る処ではなかったとか…




















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