なほ 作

官能小説『彼のシャツ。』



新一のしなやかな指が、襟元までしっかりと留まったわたしのシャツの釦をゆっくりと外していく。
下着に覆われた双丘に視線を感じ、わたしは恥ずかしさに彼から視線を逸らした。

いつの間にか脱がされたシャツとスカートは、パサ…と乾いた音と共にベッドの下に落とされ、背中に手を回される。
新一がわたしの下着を外そうとしている事を理解して、ぎこちなくそれに協力する。
いよいよ下の方まで取り払われ、暗い中とは言え恥ずかしすぎてまともに彼の顔を見ることができない。
何度経験しても慣れる事がない。

そんなわたしの気持ちを読み取ったのか、唇に軽く触れる新一の唇の感触。

「綺麗だ…蘭…」

彼と身体を重ねるようになってもう半年。
幾度この言葉を聞いただろう。

新一は軽く上半身を起すと、自らのシャツも脱ぎ捨てる。
目の前にやはり決して見慣れない肌色が現れ、意外にも筋肉のついた胸板に視線が釘付けになる。
「何見惚れてんだよ?」
「…馬鹿。」


クスクスと笑う彼の指が、わたしの身体に最後に残された紺色のソックスにかかった、その時。




ppppppppppp…と暗い部屋に鳴り響く電子音。

新一の携帯の着信音だ。

「…わりぃ。」

新一は短く謝ると、ベッドから下りて机に置いてあった携帯に手を伸ばした。
「ハイ、工藤です。」

わたしの方をチラッと見ると、少し申し訳ないような顔をして「今ですか?ええ、大丈夫です。」と言いながら静かに部屋を出て行った。
何を話しているのかは判らないけど、時々ドアの向こうから聞こえる「証拠」とか「被疑者」とかの言葉で、電話の相手が恐らく目暮警部辺りである事が判った。

新一はわたしに事件の事はあまり話さない。
「蘭には血生臭い事件とは全く別世界の人であって欲しい」
そんな事を言われた事がある。
でもこんな時には置き去りにされた気分になってしまう。

よくよく考えてみると今のわたしの姿って…

ソックス以外何も身に着けてないじゃない。
何て恥ずかしい格好なんだろう。

5分経ち、7分経ち…込み入った話なのか新一が戻ってくる気配はない。
なんか所在ないな…
自分からソックス脱ぐのも待ってるみたいで何だかヤだし…だからってまた服を着るのもヘンだし…どうしよう?

シャツだけ着てしまおうとそっとベッドの下に落とされたままだったシャツを拾い上げ、腕を通した。

…あれ?おっきい?コレ、新一のシャツだ。
何となく身を隠したいだけで着たシャツだから、別にどっちでも構わないんだけど。

だけれど。
この匂いに包まれてると凄く安心する。
新一は此処にはいないのに、新一にギュって抱き締められてるみたい―――










釦を留める前に上半身だけ脱いだ格好の新一が「さみー」と呟きながら帰って来た。
「そんなカッコで電話してるんだもん。風邪ひいちゃうよ?」

そう諭したわたしをジッと見てる新一。
「ん?」
わたしが首を傾げると、「オメー…」と言い掛ける。
「何?」
「…そんなに脱がされるのが好きなわけ?」

予想もしていなかった新一の台詞に顔が熱くなる。
「何言ってんのよ、馬鹿!アンタがいつまでも戻ってこないから…!」
「だからオレのシャツ着てたって?そーゆーカッコってすげー男心そそられるって知ってっか?」


Hする度に何度か目にしてきた新一の不適な笑み。

「オレのシャツ着たオメーとヤルってのも悪くねーよな…」

そう言ってわたしに圧し掛かってきた新一。
「…バ、馬鹿じゃないの?」
恥ずかしさで声が裏返ってる。
「今日はこのままで、な?」


…何で男の人ってこういうヘンなシチュエーションが好きなんだろう?
結局ソックスもシャツも脱がされる事なく、新一を受け入れる事になった今夜のわたしだった。

















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