益荒男 作

官能小説『蛇の毒』



第1章 蛇に噛まれて

 夏の昼下がり、栄治は木陰の隠れ家でうたた寝をしていた。ようやく高校も夏休み
に入り、昨日から信州の山の家に姉の靖子と二人で来ているのである。山の家と言っ
ても別荘などとは程遠い、たった六坪の小さなもので、屋根裏が寝室として使われて
いた。トイレは外の別棟、風呂はドラム缶を利用した五右衛門風呂で、家から少し離
れた庭先に置かれている。
 敷地だけは広かった。値段に釣られて栄治の父親が千二百坪の山林を坪五千円で購
入したのである。千二百坪と言っても平らな部分はせいぜい二百坪。残りはやっと降
りられるかどうかの急斜面が谷底の小川まで続いている。おまけに北斜面なので値段
が安かったのだろう。二百坪が六百万で残りの斜面はおまけ、そんなところだ。そう
は言っても、斜面の坪数は平地に換算するので実際の地表はかなりな広さである。土
地を衝動買いして建物を自力で建てるまでは熱心だった父親も最近は殆ど来ない。一
番よく利用しているのが栄治と姉の靖子だった。
 裏の斜面は栄治には格好の遊び場だった。ひとたび斜面を降り始めればそこは周り
から完全に隔離された別世界になる。斜面には一抱えもある楢やクヌギ、山桜等が生
い茂っていた。深い森の上に北斜面だから下草は殆ど生えていない。この斜面に栄治
は丸太の切れ端で階段を付けて下の小川まで降りられるようにした。いずれは下の河
原にもドラム缶風呂を据えようと思っている。この斜面を上り下りしての風呂の水汲
みは若い栄治でも結構しんどいからである。
 この隠れ家は子供の頃のターザンごっことは訳が違う。三本の太い楢の木の幹を柱
に利用した東屋で、屋根も杉の皮で葺いてある。壁は細い枝を籠のように編み、床に
は丸竹を並べて垣根を結ぶ黒い縄で一本一本結わえてある。その床を支えているのが
何本もの太い丸太。大人が十人以上乗ってもビクともしない。材料の丸太は全て敷地
に生えていた木を切り倒したもの。竹も麓の農家が間引いているのを見て貰ってきた。
杉の皮も材木屋の処分品を格安で譲って貰ったものである。素人の手作りとしてはな
かなかの出来映えである。
 それだけではない。初めて見た人は皆一様に小屋の高さに驚いた。三本の楢の木は
ちょうど小川の真上にほぼ正三角形にせり出している。栄治は小川から二十メートル
以上高いところにこの小屋を造ったのである。斜面途中の太い木の枝まで一旦梯子で
登り、そこから水平に掛けられた二本の丸太を渡って中に入る。アマゾンの地上数十
メートルには及ばないが、栄治のイメージはまさにそれだった。小川の上はいつも涼
しい風が吹いている。真夏の昼寝には打ってつけの場所だった。
 山小屋には栄治よりも先に姉の靖子が来ていた。九つ歳の離れたこの姉は現在大学
院に通っている。人付き合いが下手で、会社勤めは無理だと判断した親の意向でそう
なった。幸い成績の方は全く問題なく、すんなりと入れた。卒業後も出来ることなら
このまま大学に残りたいと本人は言っている。
 靖子が車で来ているので買い物に不便は無かった。何しろ一番近くの店まででも五
キロ以上、歩いて買い物に行ったら往復二時間はたっぷり掛かってしまう。スーパー
まで行くとなればバスを使っても一日仕事だった。
 何となく騒がしい声に栄治が目を覚ました。はっきりとは聞こえないが、どうやら
姉が何か騒いでいるらしい。放っておこうと思ったが、それにしては切羽詰まった声
のような気もした。
 「なーに。」
 栄治が耳を澄ませた。
 「栄治ぃ、助けてぇ。」
 今度ははっきりと姉の声が確認出来た。
 「今行くよぅ。」
 どうせ大したことではない。車の鍵を付けたままドアをロックしてしまったとか、
そんなたわいもないことだろう。それでも栄治は立ち上がり、丸太の橋を渡って斜面
に降りた。
 「何騒いでんだよ。」
 斜面を登りきって家の前まで行くと靖子が花壇の前にしゃがみ込んでいた。
 「何、用って。」
 振り向いた靖子の顔が真っ青だった。口の端から涎が垂れ、目が吊り上がっていた。
 「どうしたの。具合でも悪いの。」
 栄治がちょっと心配顔になった。普段から冗談を言ったり人をかつぐような性格の
姉ではないのである。
 「へ、蛇。」
 「蛇ぃ、蛇に噛まれたの。」
 靖子が首を何度も振った。
 「どこ噛まれたの。」
 靖子が下を向いて小さな声で言った。
 「言えないとこ。」
 「言えないとこって、まさか、ここ。」
 栄治が自分の股を指さした。靖子が顔を真っ赤にして頷いた。
 「うーん、急いで病院行かなきゃ。もしマムシだったら大変だよ。」
 「脅かさないで。」
 「その辺でおしっこでもしたんじゃないの。」
 「うん。」
 「とにかく、真っ先に毒を吸い出さなきゃ。」
 「無理よ。こんなとこ口が届く訳ないじゃない。」
 靖子は言ってしまってからハッと気が付いた。
 「栄治なら吸えるけど、そんなの死んでも嫌。」
 「俺だってやだよ。とにかく医者行こう。車、運転出来る。」
 「無理よ。足が震えて止まらないの。」
 「弱ったなあ、電話もないし。」
 靖子は珍しく携帯を持っていない。本人が必要ないと言って買わないのである。栄
治は同級生も皆持ってるからと親にねだったのだが取り合って貰えなかった。電話代
も払えないのにと言われて返す言葉が無かったのである。
 山小屋にも電話は無かった。と言うより電気すら来ていないのである。一番近い人
家でも一キロ以上離れている。引くとしたらかなり高額の負担金を払わないければな
らない。だから灯りはロウソクと灯油ランプに頼っている。煮炊きはカセット式の卓
上コンロだった。
 「ねえ、昔、バスガイドさんがやっぱり大事なところ噛まれたんだって。恥ずかし
いからって我慢してたら手遅れになって死んじゃったって。そんな話、聞いたことあ
るよ。」
 「変なこと言わないでよ。」
 靖子が泣き声になった。
 「ねえ、毒、吸い出した方がいいかなあ。」
 靖子が消え入りそうな声で言った。
 「だと思うよ。グズグズしてると体中に回っちゃうから。」
 靖子が立ち上がり、へっぴり腰で家の方に歩き始めた。
 「栄治も、来て。」
 家に入ると靖子が椅子に腰掛け、栄治に向かって脚を開いた。
 「どうなってるか見て。自分じゃ見ることも出来ないから。」
 「手鏡、無いの。」
 「持ってない。」
 「しょうがない、じゃあ見てやるよ。」
 栄治が近づいてスカートを捲った。靖子は両手で顔を隠している。
 「どこ。」
 靖子がパンツの上に指を当てた。それはちょうど股の真ん中だった。
 「パンツ脱がなきゃ、見えないよ。」
 「やだ、そんなことしたら見えちゃう。」
 「だって、見るんじゃないの。」
 「そうだけど。」
 「だったら脱ぎなよ。」
 「でも。」
 靖子はなかなか決心が付かなかった。そんなところを弟に見せたくない。でも噛ま
れたところがどうなっているか心配でたまらないことも事実だった。
 「分かったわ。」
 靖子が唇を噛んで下着に手を掛けた。
 「見たなんて、誰にも言っちゃ嫌よ。」
 「言わないよ。」
 パンツを下ろすとさすがに恥ずかしいのか膝をピッタリと閉じてしまった。
 「これじゃ同じだよ。」
 「わ、分かってるけど。」
 ようやく靖子が膝を開いた。そこには申し訳程度しか毛が生えていなかった。栄治
がじっと覗き込んだが、見ただけでは分からない。下着には何カ所が血が滲んでいた。
噛まれたことは間違いないようである。
 「ちょっと分からないなあ。痛いとこ指で教えて。」
 靖子が恐る恐る指で示した。
 「ここと、ここ。この辺もちょっと痛いかな。」
 それは合わさった唇の部分だった。真ん中が盛り上がって突き出ているので噛みや
すかったのかも知れない。
 「ちょっといい。」
 栄治が指先でその部分を押した。
 「やだ、触らないで。」
 靖子が文句を言った。
 「触らなきゃ分からないよ。ほら、押したら血が出てきた。少なくとも二カ所に牙
が入ってるね。」
 「やっぱり噛まれてたんだ。どうしよう。毒、入っちゃったかなあ。」
 「分からないけど。どうする、吸い出す。」
 「それしか無いんでしょう。我慢するから吸って。」
 「分かった。」
 栄治が靖子の前に跪いて顔を寄せて行った。恐る恐る唇を突き出してその部分に吸
い付く。
 「ああ、」
 靖子が何とも言えない声を上げた。
 吸っては唾を吐き、吐いてはまた吸う。栄治がそれを繰り返す。最初は混じってい
た赤い色が殆ど目立たなくなってきた。
 「痛い。」
 栄治が顔を上げて聞いた。
 「ううん、そんなに痛くない。」
 「念のためもう少し吸っておくね。」
 靖子がさっきから尻をモジモジと動かしていた。栄治に吸われた唇のような襞が厚
ぼったく膨らみ、左右に開いたその中がねっとりと濡れていた。栄治はそれに気付い
たが何も言わなかった。
 「もういいかな。」
 ようやく栄治が顔を上げた。
 「ところで、噛まれた蛇、憶えてる。」
 「チラッとしか見てないけど。」
 「どんな色してた。」
 「薄茶色だったと思う。確か黒い縞模様があったわ。」
 「どんな感じに。」
 「横の方に、頭から尻尾の方まで黒い線があったような気がするわ。」
 「丸い模様は。銭形って言うか、輪っかみたいな。」
 「そんなの無かった。」
 「オレンジ色とかの模様は。」
 「それも無かった。とにかく黒い線だけはよく憶えてる。」
 靖子が脚を開いたままの自分に気付き、慌ててスカートを下ろした。
 「その蛇、マムシじゃないと思うな。」
 「じゃあ、何。」
 「オレンジ色の模様も無かったみたいだからヤマカガシでもない。縞蛇だね。」
 「それって毒蛇。」
 「ううん、とっても大人しい蛇だよ。」
 「間違いない。」
 「うん、間違いないと思う。縦の黒い縞模様が特徴なんだ。」
 靖子がガクッと肩の力を抜いた。
 「じゃあ、大丈夫ね。」
 「うん。でも化膿するといけないから、薬、塗っておいた方がいいよ。」
 「良かった。」
 靖子がホッと胸を撫で下ろした。次の瞬間、靖子の目がまん丸に見開かれ、栄治の
顔をきつい目で睨み付けた。
 「だったら、毒を吸い出す必要なんて無かったんじゃないの。」
 「最初から縞蛇だって分かってればね。」
 「もう、最初に聞いてよ。お陰で変なところしっかり見られて、おまけに散々しゃ
ぶられちゃったわ。」
 「人聞き悪いなあ。そんなこと言うんなら、もう面倒見て上げないよ。」
 栄治がほっぺたを膨らませて出て行った。


第2章 仲直り

 日が暮れて暗くなっても栄治は戻って来なかった。靖子はだんだん不安になってく
る。恥ずかしいところを弟に見られ、毒を吸い出すためとは言え、散々しゃぶられて
しまったのである。この歳になっても男を知らない靖子には天と地がひっくり返る程
ショックな出来事だった。だから、ついきつい言い方をしてしまったが、頼んだのは
自分の方なのである。
 時間だけがどんどん過ぎていった。一人で暗くなった家にいると不安な気持ちに押
し潰されそうになった。どうやら毒蛇ではなかったらしく、噛まれたところも殆ど痛
まないのだが、このまま栄治が帰ってこないと思うと居ても立ってもいられなかった。
靖子は下着を新しいものに替えて外に出た。森の中は殆ど真っ暗で何も見えない。靖
子は荷物の中から懐中電灯を取り出して裏の斜面を降りていった。
 「栄治。」
 梯子の下まで来た靖子が声を掛けた。返事はない。
 「栄治、さっきはごめん。」
 「何だよ、今頃。」
 ようやく不機嫌な声が返って来た。
 「ねえ、降りてきて。ご飯にしよう。お腹、空いたでしょう。」
 「空いたけど。」
 「とにかく謝る。ごめんなさい。気が動転してたの。」
 「もう変な言い方しない。」
 「しない。約束する。」
 「分かったよ。行くよ。」
 東屋から降りてきた栄治はそれでも不機嫌そうな顔でさっさと家に戻って行った。
慌てて靖子も後を追った。
 夕食の支度と言っても簡単なものである。電気が来てないので冷蔵庫は当然無い。
夏場に生ものは無理なのでカップラーメンやレトルトが主体になる。ご飯も炊くのが
面倒なのでレトルトだった。果物と野菜が味気ない食事を少しだけ補っていた。二人
がカップラーメンとレトルトのカレーで夕食を済ませた。栄治がドラム缶の風呂に火
をつけに行く。暫くしてパチパチという音が聞こえてきた。
 「姉貴はやめておいた方がいいんじゃない。」
 「でも、お風呂は入りたい。汗で体が気持ち悪いから。」
 「でも、化膿したら大変だよ。」
 「出てから薬塗れば大丈夫でしょう。」
 「まあね。好きなようにすれば。」
 三十分ほどして栄治が湯加減を見に行った。
 「入れそうだよ。先に入る。」
 「そうね。入っちゃおうか。」
 靖子が少し考えてから言った。
 「ねえ、入る前に腫れてないか見てくれる。」
 「え、やだよ。また変なこと言われちゃかなわない。」
 「もう言わないってば。」
 「本当に。」
 「約束するって。」
 「うん、じゃあ見て上げる。」
 部屋に戻って下着を脱いだ靖子が脚を開いて見せた。ランプの明かりでは暗いので
栄治が懐中電灯で照らした。
 「どこだっけ。」
 「聞かれたって分からない。」
 「じゃ、触るよ。触っても文句言わないね。」
 「言わない。」
 栄治の指先が襞に触れた。周りに殆ど毛が生えていないせいか、何となく幼く見え
る。襞を摘んで広げると小さなかさぶたが見えた。
 「痛い。」
 栄治が聞いた。
 「ううん、痛くない。」
 「かさぶたになってる。血は止まったみたいだから、後は化膿さえしなければ大丈
夫だよ。」
 「ちゃんと見てね。」
 「うん。」
 栄治がもう一度はみ出した唇を摘んで左右に開いた。
 「あ、」
 靖子が小さな声を出した。
 「ごめん、痛かった。」
 「ううん、大丈夫。」
 栄治の指先が襞の中を撫でた。
 「この辺は痛くない。」
 「大丈夫みたい。」
 「ここは。」
 栄治の指が襞の合わせ目の膨らみを撫でた。そっと剥いてみると中から小豆粒くら
いのピンクの頭が顔を出す。栄治の鼻を甘酸っぱい匂いがくすぐった。
 「くすぐったい。」
 靖子の襞はかなり長く、下は尻の穴のすぐ近くまで延びている。その襞を栄治が指
先で丹念になぞって行った。
 「ちょっと、そこは違うんじゃない。」
 靖子が身を揉んだ。
 「こっちは大丈夫みたいだね。」
 「馬鹿。」
 靖子は『もういい』とは言わない。栄治もやめる切欠が掴めぬまま指先を何度も行
ったり来たりさせている。
 「ねえ、栄治。」
 靖子がかすれた声で言った。
 「何。」
 「念のため、もう一度、毒を吸い出した方がいいんじゃない。」
 栄治がびっくりしたように靖子を見た。既に毒蛇ではなかったことが分かっている
し、化膿もしていないようなので薬を塗るだけで済むのである。
 「え、うん。そうかも。」
 曖昧に答えた栄治が確かめるような目で姉の顔を覗き込んだ。靖子がハッとしたよ
うに横を向いた。言ってしまって自分の方が恥ずかしくなったらしい。気まずい空気
が二人の間を流れて行く。堪えきれなくなって口を開いたのは靖子の方だった。
 「ね、その方がいいと思うから。」
 「うん。そうだね。」
 栄治が椅子の方に進み出た。
 「お願いします。」
 栄治がそっと口を付けた。昼間は毒を吸い出すために唇の外側が中心だったが、今
回は最初から濡れたところに舌が潜り込んできた。
 「まだ痛む。」
 栄治が顔を上げて聞いた。
 「ううん、大丈夫みたい。」
 「化膿はしてないね。」
 栄治がもう一度口を付けた。靖子の膝が更に弛んだ。
 「ああ、きも・・・」
 靖子が言いかけて思わず口をつぐんだ。気持ちいいと言いたかったのだろう。栄治
もいつの間にか自分の行為に夢中になっていた。汚いなんて思わない。勢い余って舌
の先が後ろに行っても靖子は平気でそれを受け入れた。
 「き、気持ちいい・・・」
 靖子の口からとうとうその言葉が出た。栄治の口の動きが更に激しくなる。靖子が
思わず栄治の頭を抱えて自分の方に引き寄せた。
 ようやく栄治が顔を上げた。一時間以上しゃぶり続けたことになる。靖子は放心し
たように頭を後ろに垂れ、脚を大きく広げたまま喘いでいた。開きっぱなしになった
紡錘形の唇が何か言いたげだった。
 「もういいんじゃない。」
 栄治の声に我に返った靖子が慌てて膝を閉じた。
 「う、うん。ありがとう。」
 「風呂、入る。湯加減見て来ようか。」
 「うん。すぐ行くから。」
 栄治がドラム缶に手を入れて湯加減を見ていると靖子が裸になって歩いてきた。靖
子の変わり様に栄治が目を見張る。昨日までは、例え相手が母親でも絶対に自分の裸
を見せようとはしなかった靖子なのである。
 「どう、湯加減。」
 「時間が経っちゃったから、ちょっとぬるいみたい。燃そうか。」
 「うん、お願い。」
 靖子が栄治の見ている前で体を流し始めた。胸が小振りで遠くから見ると少年のよ
うな体付きである。もしかしたらそれが靖子のコンプレックスになっているのかも知
れない。栄治がドラム缶の前にしゃがんで薪をくべていると靖子がドラム缶の縁を跨
いだ。
 「ねえ、栄治。」
 「何。」
 「私の胸、小さいと思わない。」
 栄治が薪をくべる手を休めて見上げた。
 「大きくはないね。」
 「どうやったら大きくなるかなあ。」
 栄治がクスッと笑った。
 「やあねえ、馬鹿にしたみたいに笑わないで。」
 靖子が唇を尖らせた。
 「ち、違うよ。漫才ネタを思い出しちゃったんだ。」
 「何、その漫才ネタって。」
 「それがさ、おっぱいと掛けてやくざの喧嘩と解く、って言うんだ。」
 「何なの。」
 「その心は、すったもんだで大きくなる。」
 「すったもんだ、あ、吸った揉んだね。馬鹿。」
 「姉貴も早いとこ吸ったり揉んだりしてくれる彼氏見付けなよ。」
 「彼氏ねえ。そんなに簡単には見付からないし、そのためにも大きくしたいし。」
 栄治が一つ咳払いした。
 「俺に吸えって言うの。」
 「うん。違うとこも吸って貰ったことだし。」
 「意味が違うでしょう、意味が。」
 「そうかしら。」
 栄治が黙り込んだ。靖子も自分で言ってしまって照れ臭いのかドラム缶の中に沈む。
再び顔を出した靖子が栄治の目を真っ直ぐに見つめた。
 「嫌。」
 「嫌じゃないけど。」
 「じゃあ、吸って。」
 「いいよ。」
 立ち上がった靖子の胸に栄治が顔を寄せる。ピンと立った乳首が月明かりの中で光
っている。両方の乳首を代わる代わる吸った栄治が両手で靖子の胸を包み、柔らかく
揉み始めた。
 「いい気持ち。」
 靖子の中で何かが変わろうとしていた。偶然の出来事が弟との垣根を全て取り払っ
てしまったらしい。靖子が栄治に背中を向けた。抱えるように回された手が再び胸の
上に置かれる。
 「毎日揉まないと効果ないわよね。」
 「多分ね。でも、パパとママが来たらそうは行かないよ。」
 「パパは来ないと思う。」
 「何で。」
 「多分、仕事が忙しいって。去年もそうだったじゃない。」
 「そう言えばそうだね。でも、ママは来ると思うよ。同じことだよ。」
 「そうよね。寝る部屋、一つだもんなあ。」
 暫くして栄治が手を離した。
 「ごめん、栄治。お湯が熱くなって来た。うめて。」
 「水、無いよ。ちょっと待って。火を落とすから。」
 慌てて栄治がドラム缶の下から薪を掻き出した。靖子が縁に両手を掛けて体を外に
出し、両足をドラム缶の外に出した。
 「こう言うとき水道があるといいのにね。」
 靖子の開いた脚が栄治の方を向いている。腰を突き出しているので丸見えだった。
 「何て格好してるの。」
 「もう一度吸って。」
 頷いた栄治が靖子の両脚を抱えるようにして顔を寄せた。靖子が喉の奥でクックッ
と笑う。
 「栄治も入っちゃえば。体洗って上げる。」
 栄治が口を離さずに頷いた。
 裸になった栄治がドラム缶の前に立った。真っ直ぐに靖子の方を向いたその部分に
手が延びてきた。
 「固くなってる。」
 「あんなことしたら、相手が姉貴だって固くなっちゃうよ。」
 「栄治もこうしてると気持ちいいの。」
 「擦ってくれれば。」
 「こう。」
 「もうちょっと強く。」
 男を知らない靖子でもこの年になれば男の生理位は知っている。と言うより、栄治
がオナニーしている姿を偶然見てしまったこともある。その時は軽蔑するような目で
見た靖子が今は自分の方から進んで手を伸ばしている。   
 「栄治も吸い出した方がいいんじゃない。」
 「う、うん。」
 「さっきのお礼よ。」
 靖子がドラム缶から出た。代わりに入った栄治がドラム缶の縁に腰を寄せる。足が
熱くないように角材と板で作った簀の子を入れているので上を向いたものがちょうど
縁から顔を出した。
 「男のって、こうして改めて見ると結構可愛いのね。女の方がグロテスク。」
 「そうかなあ。そうは思わないけど。」
 靖子がそっと顔を近付けて来た。最初は怖ず怖ずと唇の先だけで触れてみる。暫く
して唇が僅かに開き、先端が挟まれた。栄治が柔らかいものをそこに感じた。舌の先
らしい。躊躇い勝ちに触れる程度だったその感触がやがてクルクルと周りを舐め始め
た。
 栄治は散々姉の女の部分に口を付けていたのでさっきから爆発寸前の状態になって
いた。靖子の唇で先端を擦られるとあっと言う間に気持ちが高ぶってくる。靖子が思
いきり吸い込んだ途端、栄治が叫んだ。
 「駄目、イッちゃう。」
 靖子が咽の奥で呻いた。瞬く間に口を満たして行く熱い流れをどうしていいか分か
らない。唇をすぼめて外にこぼさないように、それだけを考えているようだった。二
度、三度。栄治はいつまで経っても収まらない自分に腰が震え始めた。
 ようやく栄治の奔流が治まり、凍り付いていた靖子の喉がゴクリと鳴った。全てを
飲み尽くした靖子がようやく口を外す。
 「飲んじゃった。大丈夫よね。」
 「うん。」
 「話には聞いてたけど、実際は凄いのね。」
 ものの一分ともたずに果ててしまった栄治に靖子は幾分拍子抜けしたようだった。
 「もう一度吸おうか。」
 まだ固さを失っていない栄治に触れた靖子が聞いた。
 「うん。お願い。」
 今度は最初から思い切り口に含む。さっきとはうって代わって粘っこい音が何度も
口元から漏れてきた。栄治はそんな姉の表情が見たかったが、暗いからこそ抵抗が無
いのだろう。深くくわえ込まれているので上顎に当たる感触が心地よい。栄治は少し
でも長くその感触を楽しもうと必死に堪えた。
 「ありがとう。もういいよ。」
 二度目も激しく靖子の口を満たした栄治がそっと頭を撫でた。
 「何か、変なことになっちゃったわね。」
 顔を離した靖子が呟いた。声がいつもと違って鼻に掛かっていた。
 「うん。でも、気持ちよかった。」
 「私もよ。何となく抵抗があったんだけど、こんなに気持ちいいなんて。だからみ
んな夢中になるのね。」
 「きっと病みつきになるよ。」
 「さ、暖まって。体洗って上げるから。」
 その晩、靖子は栄治の腕に抱かれて眠った。


第3章 雷雨の中

 翌日、朝食が終わると靖子が栄治の隠れ家に行きたいと言い出した。昨日までは馬
鹿にして見にも来なかったので栄治が驚いた。
 「ねえ、あんたの小屋に登ってみたい。」
 「いいよ。」
 栄治が梯子の下まで靖子を案内した。靖子は梯子になかなか上れなかった。仕方な
いので栄治が下から尻を押し上げる。その手がお尻の間に入り靖子がキャーキャー騒
いだ。
 「エッチー。」
 「上がれないんだから、仕方ないだろう。」
 「嘘。わざと触ったんでしょう。」
 まるで中学生か高校生だな、と栄治は思った。これまで男を知らず、こう言う戯れ
すら経験したことのない姉。兄弟でのこうした戯れは二人きりだからこそ出来ること。
親は勿論、世界中の誰にも知られてはいけない二人だけの秘密。その秘密を共有した
ことが靖子を必要以上にはしゃがせているようだった。
 「ねえ、ここ渡るの。」
 上に登っては見たものの、横に掛けられた丸太の高さに靖子が後込みした。一応手
摺り代わりの細い丸太が横に一本添えられているのだが、先に行くほど細くなってい
るので怖さが先に立って足が進まないらしい。
 「今行くから待って。」
 栄治が梯子を登って横木に辿り着いた。
 「押さえてて上げるから、さ、行ってごらん。」
 「え、二人で乗って折れない。」
 「大丈夫だよ。これだけ太ければ五人でぶらさがっても折れないから。」
 「じゃあ、行ってみる。離しちゃ嫌よ。」
 片手で手摺りを掴み、空いた方の手を姉の胴に回しながら栄治がゆっくりと進み始
める。木が揺れるたびに靖子が悲鳴を上げた。
 「ほら、もう少し。下を見ないで。」
 靖子がようやく隠れ家に辿り着いたが、床の隙間から下が見えるので這い蹲って中
に転がり込んだ。
 「やだ、こんな高いとこによく作ったわねえ。」
 「でも、気持ちいいだろう。」
 「床の隙間が無ければね。」
 「この隙間が涼しいんだよ。」
 話している内に辺りがスッと暗くなった。栄治が横から顔を出して空を見上げた。
 「うぁ、空、真っ黒だ。夕立かなあ。」
 「え、雷。」
 靖子が栄治の手に縋り付いた。靖子は大の雷嫌いなのである。
 「台風でも来てるのかなあ。」
 そう言っているうちに一瞬辺りが白くなった。
 「キャア。」
 靖子が栄治にしがみつく。
 「一、二、三・・・」
 栄治が十二まで数えたところで雷鳴が轟いた。
 「だから嫌だって言ってるのにぃ。」
 栄治が頭の中で計算した。
 「四キロぐらいか。結構近いね。」
 「ね、家に戻ろう。」
 「大丈夫だって。ここに落ちやしないし、落ちたところで中には入ってこない。」
 「入ってこないって、何が。」
 「雷の電気だよ。電気は外側を通るだけなんだ。」
 「そんなこと言って、もし木に落ちたら。」
 「大丈夫。ここは谷間だから。」
 「キャッ。」
 二度目の稲光が走った。今度は三つ数える前に金属的な音が鳴り響いた。
 「お、近くなった。」
 「やだぁ、もう。」
 靖子はますます強く栄治にしがみつく。栄治が姉の背中を何度も撫でた。
 「降ってきた。」
 屋根の杉皮に大粒の雨が当たる。その音がどんどん大きくなってきた。
 「見て、見て。雹だよ。雹が降ってる。」
 無数の白い筋がカーテンのように小屋の周りを包んだ。雹が岩に当たって砕けるピ
シッ、ピシッと言う音が耳を裂く。稲光がしたと思った瞬間、同時に金属音が響き、
辺りが青く輝いたと思った直後、目の前が真っ赤になった。
 「やだあ、死んじゃう。」
 ガタガタ震える姉の肩をしっかり抱きながら栄治が表を窺う。どうやら家の方に雷
が落ちたらしい。その後も何度か雷鳴が轟いたが、稲光と轟音の間隔が少しずつ長く
なって行った。その代わり、大粒の雨が前が見えないほどの強さで降り始めた。下の
小川の水嵩が見る見るうちに上がり、さっき降った雹が水面を覆うように流れてくる。
 「ほら、きれいだよ。」
 「何が。」
 「下、見てご覧。」
 靖子が栄治から離れずに首だけ伸ばして下を覗き込んだ。
 「ほんと、きれい。」
 雹は一センチ以上ありそうだった。それが水嵩を増した水面を埋め尽くして流れて
くる。普段は一メートルも無い川幅が倍以上に膨らんでいた。
 「ほら、雷は行っちゃったよ。」
 「うん。」
 それでも靖子は栄治から離れようとはしなかった。
 「ねえ、誰も来ないよね。」
 靖子が栄治の手を取って胸の上に置いた。
 「こんな雨の中、誰も来ないよ。」
 「ここ。ね。」
 靖子が栄治の手をTシャツの中に引き入れた。両手で包むと靖子が自分でTシャツ
を脱ぎ捨てた。
 「どう、大きくなった。」
 「そんな、昨日の今日で変わる訳ないよ。」
 「そっか。でもいい気持ち。」
 栄治が顔を寄せて右の乳首を口に含む。その間も左手は動き続けている。やがて靖
子が両脚を擦り合わせ始めた。栄治が顔を上げた。
 「下も吸う。」
 「うん。」
 栄治が靖子の短パンと下着を一気に脱がせた。肩の上に靖子の両脚を載せて尻を浮
かせ、目の前に来たところに口を強く押し当てた。相変わらず外は激しい雨で小川の
水が轟々と音を立てて流れ下っている。
 「むぅ。」
 靖子の体に力がこもった。溢れる程の潤いを舌の先ですくった栄治が厚ぼったい唇
を口一杯に頬張った。
 「いい、すごくいい。」
 靖子の足が栄治の首に絡み付く。すぐに乳首より大きな突起が舌の先に触れた。
 「あ、そこ。凄い・・・」
 それは小振りの銀杏を思わせた。ツルッとした感触がそっくりだった。
 暫くして栄治の舌が入り口を探り当てた。そこは思ったより小さい。まだ未経験の
姉には膜があると思ったのだが、舌で探った限りでは分からない。殆ど抵抗無くかな
り奥まで舌を入れることが出来た。
 「何か違う。」
 靖子が呟いた。
 「そこ、違う。」
 靖子にも栄治が舌を差し込んだのが分かったらしい。咽の奥から糸を引くような呻
きが漏れ始めた。
 「素敵だった。」
 ようやく栄治の肩から足を下ろした靖子が胸で息をしている。
 「栄治も吸って上げようか。」
 「うん、それもいいけど。」
 靖子が栄治の目をジッと見つめた。
 「それ、ちょっと、まずいわよ。」
 靖子にも栄治の考えが分かったようだ。
 「姉貴、まだしたことないの。」
 「うん。そう言う栄治は。」
 「とっく。」
 「やだ、誰としたの。」
 「友達の姉貴と。」
 「その人、幾つ。」
 「姉さんと同い年。」
 「ふうん。私と同い年ねえ。」
 靖子が黙り込んだ。二十五にもなって未経験と言う事実が靖子の中で既に重荷にな
っている。何も急いで捨てることはないと言われても、周りがどんどん経験して女に
なり、去年は高校の同級生が大きなお腹でクラス会に来た。みんな自分とは違った余
裕のようなものを持ち合わせていた。
 早く捨てたい。大学時代はその思いが切実だった。コンパの後でさり気なく消えて
行くカップルを見送りながら、きっとこれからホテルにでも行くんだろうなあと内心
羨ましかった。それでも、男の子に声を掛けられるとどうしても後込みしてしまうの
である。手さえ握られたことがない。キスもしたことない。靖子には男との触れ合い
は全て未知の世界だった。
 改めて栄治の顔を見た靖子の心の中に何とも言えない嫉妬の気持ちがむらむらと沸
き上がって来た。ひょんなことから突然親密な関係になってしまった弟の栄治。その
栄治が『とっく』だと言う。自分が未経験と言うことが引け目に思われて仕方なかっ
た。
 「ねえ、その時のこと、教えて。」
 「え、話すの。」
 「うん。どう言う切欠でそうなるのか、知りたいの。」
 「うーん、それがさ、ちょっと普通じゃなかったんだ。」
 「どんな風に。」
 栄治が暫く考えてから口を開いた。


第4章 とんでもない初体験

 中学三年の時、栄治は親友の啓輔にCDを借りようと訪ねて行った。わざわざ電話
してから行くようなことでもないので、いつものように裏木戸から入る。玄関には鍵
が掛かっていることが多かったのである。裏から入ると便所の脇を抜け、その先は風
呂場だった。その風呂場からヒソヒソ話す声が聞こえた。
 「そこ、そこ。」
 それは啓輔の姉、弘子の声だった。
 「もっと強く。ああ、いい。」
 弘子の声しか聞こえてこないが、誰かもう一人が一緒にいることは間違いない。風
呂に二人で入っている。それは何かドキッとするようなことを栄治に想像させた。
 「ああ、啓輔。」
 栄治が思わず声を上げそうになった。風呂場に啓輔と弘子がいる。当然二人は裸だ
ろう。しかも声の様子からすると入浴しているだけとは到底思えない。栄治が足音を
忍ばせて窓に近寄った。窓は網入りの模様ガラスだが端の方が少しだけ開いていた。
息を飲んで覗き込むと弘子がこちらを向いて壁に寄りかかり、足元に啓輔が蹲ってい
る。顔が弘子の腰の辺りに覆い被さっていた。
 (あそこを舐めてる)
 陰になって見えないが、栄治はそう思った。啓輔の頭を押さえていた弘子が目を開
けた。
 「誰。」
 弘子が凄い目で栄治を睨み付けた。啓輔が驚いたように振り返る。その拍子に栄治
の目に弘子の毛深いところが目に入った。
 「栄治、何してるんだ。」
 啓輔が叫んだ。
 「啓輔、知ってるの、あいつ。」
 「同級生だよ。」
 「逃がしちゃ駄目。掴まえて。」
 慌てて啓輔が風呂場から飛び出して行った。
 「栄治って言うのね、逃げちゃ駄目よ。逃げたらただじゃおかないからね。」
 弘子が前も隠さず、窓に駆け寄って凄んだ。
 「別に、悪いことなんかしてないよ。」
 栄治が逃げ腰になった。
 「じゃあ、何で人の家の風呂なんか覗いてるのよ。」
 「だって、啓輔にCD借りに来て、いつものように裏から入ったら声が聞こえて来
たんだもん。」
 「とにかく家に入って。」
 そこに啓輔がパンツ一枚履いて駆け寄ってきた。
 「何で覗いてんだよ。」
 「CD借りに来ただけだよ。」
 「ちょっと来い。」
 逃げ出すつもりは無かったので素直に付いていった。家に入ると居間で弘子が待っ
ていた。ガウン一枚羽織っただけらしい。
 「啓輔、カーテン閉めて。」
 改めて弘子が栄治に向き直った。
 「ねえ、いつから覗いてたの。」
 「ほんのちょっとだけだよ。」
 「何を見たの。」
 「何をって、啓輔が弘子さんの腰に抱きついてた所。」
 「それだけ。」
 「うん、それだけ。」
 弘子が啓輔の方を見た。
 「どうしようか。」
 「ばらされたら、やばいよね。」
 啓輔が栄治を見ながら答えた。
 「うん。口止めしなきゃ。」
 「僕、何も喋らないよ。」
 栄治が弘子に向かって言った。
 「さあ、どうだか。」
 弘子が立ち上がって栄治に近付いてきた。
 「君、童貞。」
 「どうてい、って何。」
 「そう言うとこ見ると、まだ童貞みたいね。女を抱いたこと無いってこと。」
 「抱くって。」
 「いよいよ間違いないわ。啓輔、こいつ押さえてて。」
 「はいよ。」
 いきなり啓輔が栄治を後ろから羽交い締めにした。
 「な、何するんだよ。」
 慌てた栄治に構わず弘子がベルトに手を掛けた。
 「大人しくしてなさい。いい気持ちにさせて上げるから。」
 栄治のズボンがパンツごと下ろされた。飛び出したものを見て弘子がニコッと笑っ
た。
 「へえ、啓輔と違ってちゃんと剥けてるじゃない。感心、感心。」
 いきなり弘子が栄治の前を握りしめた。ムクムクと頭を持ち上げる様子に弘子が満
足そうに頷いた。
 「大きさは啓輔と似たようなもんね。」
 弘子が大きな口を開けて握りしめたものをパックリとくわえた。驚いた栄治が目を
丸くしてその様子を覗き込んだ。
 「どうだ、気持ちいいだろう。」
 後ろから啓輔が得意げに言った。
 「我慢してないで、早いとこ出すもの出しちゃいな。」
 「え、口の中に。」
 栄治も男と女がこう言うことをするらしいとは聞いていたが、まさか口の中に出す
とまでは思っていなかったのだ。
 「出しちゃえよ。姉ちゃん、飲むの好きだから。」
 弘子の口の動きは巧みだった。あっと言う間に押し寄せてくる快感に栄治は最早抵
抗出来なかった。
 「だ、駄目。出る・・・」
 啓輔の言うとおり、弘子はそれを口一杯に頬張り、ゴクリ、ゴクリと飲み込んで行
く。ようやく弘子の口から解放された栄治が胸で大きく息を弾ませていた。
 「よし、じゃあ今度は寝かせて。」
 啓輔が栄治を後ろに引き倒した。その上に弘子が馬乗りになってくる。ガウンがパ
ラリと落ちて弘子が裸になった。
 「栄治って言ったっけ。ようく見てなさい。今からあんた、男になるんだよ。」
 弘子が栄治を導き、ゆっくりと腰を下ろして来た。先端が柔らかい所に触れ、ジワ
ッとその感じが全体に広がって行く。首を起こして覗き込むと赤く濡れた唇の真ん中
に埋まっている自分が見えた。
 「どう、気持ちいいだろ。」
 弘子が腰を前後に揺すり始めた。いつの間にか横に回って来た啓輔が弘子の前でパ
ンツを脱ぐ。弘子の言うとおり、それは半分くらい皮を被っていた。弘子の手が延び
てその皮を引き下ろす。顔を出した赤いところを弘子がスッポリと口にくわえた。
 確かに弘子が言うとおり気持ちよかった。しかし目の前で姉の口に含まれて腰を動
かしている啓輔の姿が栄治をどこか醒めた気分にさせている。
 (姉弟でこんなことしていいんだろうか。)
 栄治は姉の靖子のことを思いだした。目の前の弘子は胸こそ大きいが腹から腰にか
けては肉の塊と言う感じでブヨブヨしている。その肉の塊が揺れるたびにタップン、
タップンと音さえ立てていた。
 (初めてがこんなデブ)
 口にこそ出さなかったが、栄治は内心がっかりしていた。最初の相手はもっと可愛
い子に、と夢を抱いていたのである。
 「あ、いい。いいわあ。」
 弛んだ肉の塊が更に大きく波打った。
 (出せば終わる。)
 初めての栄治にもそれくらいは分かる。栄治は自分から腰を動かして早く終わるよ
うに全神経を集中させた。
 ようやく栄治の上から降りた弘子に啓輔がのし掛かって行った。弘子がそれを嬉々
として迎え入れる。栄治は気色悪いなと思った。今し方栄治の放ったものが弘子の中
を満たしている。そこに平気で突き立てている啓輔の気が知れなかった。もし順番が
逆だったら、そう思った途端に栄治の体が意気消沈してうなだれた。
 「僕、帰ります。」
 夢中で抱き合っている二人は答えない。
 「今日のこと、誰にも喋らないから心配しないで。」
 パンツとズボンを引き上げて部屋から出ていこうとする栄治に弘子が声を掛けた。
 「またしたくなったら、いつでもおいで。」
 それには答えずに栄治は啓輔の家を後にした。二度と来るもんか。心の中で何度も
唾を吐いた。


第5章 キャンプの夜(1)

 「やあねえ、その話し。」
 聞き終わった靖子が眉をしかめた。
 「何か、凄く汚らしいって感じ。」
 「うん。僕もそう思った。セックスって、もっとムードがあってきれいなものだっ
て想像してたんだけど、あのことがあってから、ちょっと女見る目が変わっちゃった
なあ。」
 「馬鹿、一緒にしないでよ。私は栄治とこうしてるの楽しいし、きれいだと思って
るわよ。」
 「僕も。そうそう、初めての時、弘子さんの顔見てると元気が出なかったじゃない。
その時目をつぶったらなぜか姉さんの顔が浮かんで来たんだ。」
 「やだ、私のこと思い出したの。」
 「うん、そうしたらすぐに気持ちよくなってきた。」
 「怒っていいんだか喜んでいいんだか。ところで、栄治の経験って、それ一度きり
なの。」
 「ううん。弘子さんとはそれっきりだったけど。」
 「全部聞かせてよ。」
 「え、ま、いっか。ここまで話したんだもんね。」

 高校生になった栄治には暫くガールフレンドが出来なかった。弘子との初体験以来、
簡単に付き合うような気持ちになれなかったからである。変に勿体付ける女は好きに
なれない。かと言って、弘子のように、まるで雌豚のように貪欲に求められても閉口
してしまう。電車の中で出会った女がその傾向に拍車を掛けた。
 栄治は高校まで電車で通学している。朝の時間帯はラッシュのピークでいつもすし
詰め状態だった。こう言う混んだ電車の中には結構痴漢が多い。実際にそれらしい雰
囲気に出会うこともしばしばだった。
 そんなある日、栄治の前に三十前後の女が乗り合わせてきた。それ程混んでいない
のに栄治の前に来てピッタリと体を寄せてくる。右手に鞄を持った栄治は左手で手摺
りに掴まっていた。
 電車が少し混んできたとき、栄治は下半身に違和感を感じた。前の女が無理矢理体
の間に手を差し込んで来たのである。混んでるんだからじっとしてればいいのに、そ
う思った瞬間、栄治はきつく前を握られて思わず目を剥いた。それは偶然等ではない。
意識的に栄治に触って来たのである。手は自由にならないし、体の向きも変えられな
い。声を出すのもどうかと思われたので栄治は黙って触らせていた。女はそれを栄治
が喜んでいると勘違いしたらしい。またモソモソ手が動いて今度はジッパーを下ろさ
れてしまった。下着の上から探っていた指が前の合わせ目から入ってきた。
 栄治がため息をついた。不本意とは言っても女の手で直に握られれば嫌でもそこが
反応してしまう。女の指先は巧みだった。毎朝こうやって男に触っているんだろうか。
栄治は何故かその女と弘子の姿を重ね合わせていた。
 指の動きが激しくなってきた。まだ終点には間がある。だんだん栄治は落ち着かな
い気分になって来た。このままではズボンの中を汚してしまいそうなのである。もし
そうなると辺りに凄い匂いが立ちこめてしまう。あの匂いは隠しようがない。栄治の
額から脂汗が滲み出てきた。
 「大丈夫よ。」
 女が微かな声で栄治の耳元で囁いた。
 「心配しないで。」
 栄治の目の前が真っ暗になった。我慢もとうとう限界に達したのである。女の手が
強く栄治を握りしめた。最初の一撃が激しく吹き出した。もう駄目、そう思った栄治
だが、不思議と何も匂って来なかった。
 「うふふ。」
 間もなく終点と言うところで女が手を抜き、元通りにジッパーが引き上げられた。
人混みに押されてホームに降りた栄治がトイレを見付けて急いで駆け込んだ。
 下着を下ろした栄治が驚いた。いつの間にかゴムが被せられていたのである。先の
方は白く膨らんでいるが、表には全然漏れていない。気付かぬうちに女がゴムを被せ
てくれたらしい。ゆっくり剥がすようにそれを取るとむせ返るような匂いがトイレに
充満した。後始末に困った栄治はそれをトイレットペーパーでくるんで流した。こん
なものを流してはいけないのだが、他に方法が見当たらなかったのである。
 この出来事は栄治をますます女から遠ざける結果になった。電車の女は体付きも顔
立ちも決して悪くない。もし街で出会ったとしたら、到底そんなことをするようには
見えないであろう。
 そんな栄治に声を掛けてきたのが三年生の麻紀子だった。
 「ねえ、君。クラブは何やってるの。」
 「僕ですか。今のところは何も。」
 「だったら、ワンゲルに入らない。男の部員がやめちゃって困ってるの。」
 「ワンゲルって何ですか。」
 「ワンダー・フォーゲル。本格的な登山って訳じゃないんだけど、山を歩いて楽し
むことよ。部員数が減っちゃって、このままだと同好会に格下げになっちゃうの。」
 栄治は元々山を歩いたり、渓流でイワナを釣ったりするのが好きだった。
 「山は嫌いじゃないからいいですけど、男子部員がいないんですか。」
 女ばかりと言うのがちょっと引っ掛かった。
 「そうなの。三年生が私の他に三人。二年生が十人。一年生は君を入れても七人。
これでやっと二十人確保なんだ。ね、入って。」
 「え、ええ。ちょっと考えてからじゃ駄目ですか。」
 「明日部員名簿出さなきゃいけないの。元々うちは幽霊部員の常習犯だからチェッ
クが厳しいのよ。ね、入るわね。」
 「ええ、じゃあ取り敢えず。」
 麻紀子は感じが姉の靖子に似ていた。男の子のように短く刈り上げた髪。体付きは
やや細身でしなやかと言う表現がピッタリくる。クリッとした目に愛嬌があり、どち
らかと言えば童顔で上級生という威圧感は殆どなかった。
 「じゃあ、これから部室に来て。」
 強引に手を引かれた栄治が『ワンダーフォーゲル部』と書かれた部屋に連れて行か
れた。
 「みんな、ちょっと来て。こちら、新入部員の柿沢君。ええと、名前の方は何だっ
け。」
 「あ、栄治。柿沢栄治です。」
 ちょうど居合わせた女の子が五、六人寄ってきて一斉に拍手した。
 「すぐには憶えられないだろうけど、菊池さん、吉田さん、城島さん、青木さん、
佐藤さん。菊池さん以外はみんな二年生。私と菊池さんが三年なの。」
 「よろしくお願いします。」
 栄治が頭を下げた。
 「柿沢君って、部長の彼氏じゃないですよね。」
 城島と紹介された女の子が聞いた。どうやら麻紀子が部長らしい。
 「違うわよ。さっきスカウトして来たばかりなんだから。」
 「ってことは、よーいドンだ。」
 別の女の子がそう言って舌なめずりする。
 「ちょっとあんた達、そんなんだから男子部員が居着かないのよ。節度を持って行
動してね。キャンプもあることだし。」
 「はーい。」
 栄治はキャンプと聞いて体を固くした。泊まり掛けの山行もあるのだ。そう言う
ときは女の子に囲まれて過ごすことになる。本来なら男子部員が大勢いても不思議な
い筈なのに。栄治はちょっと不安になった。
 「今日は挨拶だけで。そうだ、城島さん、明日提出する名簿に柿沢君の名前書いと
いてね。」
 「はい、分かりました。それじゃ柿沢君、これに生年月日と、住所書いて下さい。
クラスも。」
 「はい、分かりました。」
 「ところで、今度の土曜は誰が行けるの。」
 誰も返事しない。
 「何だ、みんな都合悪いのか。城島さん、残りの人にも予定聞いておいて。ところ
で柿沢君、今度の土日、予定ある。」
 「土曜は授業があるでしょう。」
 「その後の話し。」
 「だったら大丈夫ですけど。」
 「日曜は。」
 「そっちも暇です。」
 「よし、じゃあ決まり。後で予定渡すから。」
 「何ですか。」
 「定例の岩登り訓練なの。と言ってもそんなに危険なところじゃないから心配しな
いで。専門にロッククライミングしようって訳じゃないから。」
 「岩登りって、何級位。」
 「二級位よ。」
 「ああ、それなら。」
 栄治がホッと胸を撫で下ろした。
 「四級なんて言われたらどうしようかと思った。」
 「まさか、ワンゲルじゃそこまでやらないわよ。でも、岩の経験あるのね。」
 「一応、越沢とか三つ峠には通ってます。」
 越沢は奥多摩にある岩登りのゲレンデ、つまり練習場で結構有名なところである。
三つ峠も岩登りの大会が行われたりする有名なゲレンデの一つだ。
 「凄ーい。もしかしてコーチやって貰えるかも。」
 「いえ、自己流ですから。」
 そんな訳で栄治はあっと言う間に部員にされてしまった。
 「柿沢君、寝袋とかは持ってる。」
 麻紀子が部員が解散するのを待って聞いてきた。
 「ええ。スリーシーズン用と、厳冬期のもあります。」
 「今はスリーシーズンで十分ね。山靴は勿論だろうし、雨具は。」
 「一式あります。」
 「じゃあ、土曜日、一式持ってきて。予定は一泊だから。食料はこっちで用意する
わ。」
 「テントは。」
 「まだ人数が確定じゃないから分からないけど、クラブの使うことになると思うわ。」
 「分かりました。ザイルとかは。」
 「ハーネス持ってるわよね。」
 ハーネスとはベルトで体を固定する道具でそれにザイルを結んで万一の落下に備え
たり、懸垂下降に使用する道具のことである。
 「フルハーネス持ってます。」
 「ザイルは何ミリ。」
 「十二ミリと、補助の九ミリがありますが。」
 「じゃあ、補助の方持ってきて。四十メートルよね。」
 「ええ。」
 土曜日、栄治は山道具一式をザックに詰め、着替えと登山靴を紙袋に入れて登校し
た。放課後部室に行くと麻紀子は既に駅に行ってしまったらしい。他の部員から集合
場所と時間を書いた紙を貰い、余分な荷物はロッカーに入れて学校を後にする。駅に
着くと麻紀子がホームの端で手を振っていた。
 「遅いぞ。」
 「すいません。四時間目が終わったところで担任に捕まっちゃって。ところで他の
人達は。」
 「今日は全部で四人の予定だったんだけど、上原さんが用事で駄目になっちゃって、
残るは飯塚さん。もうすぐ来ると思うわ。」
 すぐに始発の特急が入ってきた。今回の予定は甲斐駒ヶ岳の麓で、以前に国体の岩
登り競技でも使われたところらしい。自由席に乗り込んでザックは通路に置く。昼間
の時間帯なのでそれ程混んではいなかった。麻紀子が弁当とお茶を二つずつ買ってく
る。間もなく発車のベルが鳴り始めた。
 「飯塚さんって人、間に合うかな。」
 「いいわよ。来なかったら置いてくだけだから。」
 麻紀子が平然と言い放ったので栄治が首を傾げた。もしかしたら最初から二人だけ
だったのかも知れない。ベルが鳴り終わり、特急がゆっくりと動き出した。
 「柿沢君、今までにどこ登ったことがあるの。」
 「ええと、中学の時に槍ヶ岳と白馬に登りました。富士山も九合五勺まで登ったけ
ど突風が吹いてきて諦めました。」
 「富士山の突風って、いつ登ったの。」
 「去年の十二月です。」
 「ええ、十二月って言ったら冬山もいいとこじゃない。」
 「はい。知り合いが山岳会の冬山訓練に出てみないかって誘ってくれたので。」
 「冬山もやるの。」
 「ちょっとだけ。福島の吾妻とか、栂池スキー場から白馬乗鞍あたりとか行きまし
た。」
 「何かうちのクラブで一番のキャリアみたいね。」
 栄治は麻紀子と二人だけのキャンプというのがちょっと気になっていたが、麻紀子
には弘子のようなギラギラしたものが感じられないので少しは気が楽だった。落ち着
いて観察すると麻紀子は結構可愛い。話すときにジッと目を見つめられると胸が熱く
なって来た。
 (こんな人と二人だったら、キャンプも楽しいだろうなあ。)
 話が途切れると麻紀子が指相撲しようと言い出した。握りしめた麻紀子の手は柔ら
かく、その感触に夢中になっているうちに栄治は立て続けに三回負けてしまった。
 「駄目ねえ、もっと本気出してよ。」
 並んで座ったまま横を向くので膝と膝が擦れ合う。その感触も栄治を夢中にさせた。
今度は栄治が三番続けて勝った。
 「よし、決勝戦よ。」
 栄治は麻紀子のことが好きになり始めていた。
 小淵沢の駅に着き、タクシーに上の様子を聞く。林道は去年の台風で荒れているら
しいが、途中までは行けると言うことだった。
 「じゃあ、行けるところまでお願いします。」
 夕方近くの登山なので運転手がバックミラーで後ろを窺いながら声を掛けてきた。
 「今晩はキャンプですか。」
 「ええ。その積もりです。」
 「焚き火には気を付けて下さいね。場所にもよるけど、確かキャンプは禁止だった
はずだから。」
 「日向山の更に奥まで行きますから、その辺なら大丈夫でしょう。」
 「ああ、その辺なら大丈夫かも知れないけれど、明るいうちに行き着けるかな。」
 「今三時過ぎだから、五時までには何とか着けるでしょう。それより、帰りの予約
出来ますか。」
 「いいですよ。明日ですね。」
 「ええ。四時くらいに今日、これから降ろして貰うところで。」
 「迎車料金掛かりますけど。」
 「いいです。それでお願いします。」
 結局車は岩登り会場の本部が置かれた広場まで何とか上がることが出来た。麻紀子
がタクシー代を払って車から降りた。
 「さて、ここじゃ落ち着かないから水のあるところ探そう。」
 「はい。こっちに矢印があります。」
 尾白川まで下った二人が適当なテント場を探し始めた。なかなかいい場所が見付か
らなかったが、ようやく小さな砂地を見付けた。テント一張りなら何とかなりそうだ
った。ちょっと川に近いが、幸い雨の心配は無い。
 麻紀子がザックからテントを取り出した。見ると二人用の小さなものだ。テントの
何人用と言うのはギリギリ何人寝られるかと言う基準で二人用に二人で寝ると殆どく
っついて寝ることになる。栄治がシュラフを取り出すと麻紀子が自分のものと見比べ
た。
 「あら、同じやつじゃない。これ、つなげると思うよ。」
 麻紀子が自分の寝袋も取り出してジッパーを交互にはめてみる。麻紀子の言うとお
り一つの大きな寝袋が出来上がった。
 「これでよしっと。」
 栄治は知らん顔していたが、麻紀子の態度にドキドキしていた。寝袋がつなげるこ
とは分かったが、これでよし、と言うところを見ると今晩は二人一緒に寝る積もりら
しい。


第6章 キャンプの夜(2)

 夕飯の支度をしながら栄治は麻紀子の考えが分からず、あれこれ頭を悩ませていた。
自分をワンゲル部に誘ったのは麻紀子。今回の山行も麻紀子が言い出したこと。それ
も最初から二人切りと分かっていたらしい。そして今、同じ寝袋で寝ようとしている。
自分は誘われているのだろうか。今までの状況からすれば、そうとしか考えられない。
寝袋に入ったら弘子のように襲って来るのだろうか。だとしたら、ちょっと幻滅だっ
た。淡い気持ちを抱いているだけに、そんな麻紀子の姿は見たくない。栄治は時々麻
紀子の顔を盗み見たが、そんな素振りは全然感じられず、ただ二人だけのキャンプを
楽しんでいる女の子の姿がそこにあるだけだった。
 食事が終わると麻紀子が寝る準備に取り掛かった。着ているものを次々に脱ぎ捨て
て下着姿になるとさっさと寝袋に入ってしまった。自分一人起きているのも変なので
栄治もトレーナーに着替えてテントに入った。テントと言っても高さは一メートルも
ない。寝袋の上に掛かった覆いと言う感じである。
 「入っていい。」
 「どうぞ。」
 麻紀子が寝袋を開いた。体になるべく触れぬように気を使いながら栄治が麻紀子の
隣に潜り込む。よけていた麻紀子が姿勢を戻したので体が密着した。
 「いつもこんな風に一緒に寝るんですか。」
 栄治が居心地悪そうに体をずらせた。
 「大丈夫よ、もっとこっちに来ても。」
 麻紀子がそう言って笑った。
 「男子部員と一緒のシュラフに入ったのは君が初めてよ。」
 「何で。」
 「さあ。自分でも分からない。」
 「今回の予定、前々から決まっていたんですか。」
 「ええ、でも私一人だから取り止めかなって思ってたの。」
 「じゃあ、僕と二人って最初から分かってた。」
 「うん、ごめんね。」
 「いえ、謝って貰うようなことじゃありません。」
 「ねえ、二人だけなんだから、そんな改まった口の聞き方しないで。」
 「は、いえ、うん。」
 「ねえ、こんな形で誘っちゃって、迷惑だった。」
 「全然。でも、ドキドキしてる。」
 「私も。」
 麻紀子が寝返りをうって栄治に顔を向けた。テントの入り口にぶら下げたケース入
りのロウソクが揺らめいている。ロウソクの炎が麻紀子の目に映っていた。
 「寒い。」
 麻紀子がそう言って栄治に抱きついてきた。
 「寒いわ。」
 栄治が麻紀子の肩に手を回した。体の柔らかさが腕に吸い付くようだった。栄治が
麻紀子の方を向くと、どちらからともなく唇が近寄り、そっと触れ合った。初めての
キスだった。
 「誤解しないでね。」
 唇を離した麻紀子が言った。
 「誰彼構わずこんなことしてる訳じゃないの。」
 麻紀子がもう一度唇を合わせてきた。今回は暖かいものが栄治の唇を分けて入って
来た。栄治の舌がそれを受け止めた。
 栄治の手が麻紀子の背中を撫でている。いつの間に外したのか、ブラが無くなって
いた。どこまでも滑らかな肌を手の平がゆっくり下がって行く。栄治の指先がようや
く下着に出会った。
 「栄治君、初めて。」
 栄治が首を横に振った。
 「そう。そんな気がしたわ。」
 麻紀子が栄治の手を胸に導いた。僅かな膨らみの真ん中に乳首がツンと上を向いて
いる。指先でそっと摘むと麻紀子が背中を反らせた。
 栄治の手が少しずつ下がって行った。下着の中に入ろうとしたところで麻紀子が慌
てて押さえた。
 「待って。」
 栄治は一瞬驚いたが、それ以上動かそうとはしなかった。
 麻紀子の体が震えていた。それまでの積極的な麻紀子が影を潜め、体に力を入れて
必死に堪えている。
 「無理しなくてもいいよ。」
 栄治が手を引こうとした。
 「待って。」
 今度は麻紀子の手が縋るように栄治の手を引き留める。訳が分からなくなった栄治
はそれ以上何もせず、黙って麻紀子の様子を見守ることにした。
 「ごめんなさい。」
 麻紀子は泣いているようだった。
 「無理しなくてもいいんだから。」
 栄治が空いた手で麻紀子の髪を撫でる。麻紀子のすすり泣きが一段と大きくなった。
 「本当にごめんなさい。」
 麻紀子が鼻をグズグズにさせてそう言った。
 「もし話して気が楽になるなら、話してみれば。」
 「ありがと。」
 いきなり麻紀子が栄治に抱きついてきた。首に巻き付いた手に力が籠もり、激しく
栄治の唇を求める。栄治もそれに優しく応じた。下着に入りかけた手をそっと抜いて
も麻紀子は何も言わなかった。
 「聞いてくれる。」
 ようやく麻紀子が落ち着いて来た。
 「うん。」
 「私ね、実はバージンなの。それで、栄治君に最初の人になって貰いたいって思っ
たの。」
 別に泣くほどのことではない。栄治はそう思ったが何も言わなかった。
 「でもね、それだけじゃないの。私、高校卒業したら結婚しなきゃいけないの。」
 「え、どう言う意味。」
 思わず栄治が聞き返した。確かに麻紀子は十八になっているのだから親の承諾があ
れば結婚できる歳になっている。でも、栄治にとって結婚は自分とは全く無縁の遠い
先のことだった。
 「私の結婚はもう両親が決めちゃってるの。そりゃあ、嫌だって言えば強制するこ
とは出来ないけれど、今まで通りに暮らして行こうと思ったら親には逆らえない。一
時は自分で働いてとも思ったけど、やっぱり自信ないし。」
 「その相手の人、結婚する人だけど、そんなに嫌な人なの。」
 「ううん。特別嫌って訳じゃない。でも、好きって訳でもない。そんな人と一緒に
なって一生が決まっちゃうのかと思うと、凄く悲しくなって来るの。」
 「何となく分かるけど。でも、何で僕だったの。」
 「だから、ごめんなさいって言ったの。実は、栄治君が入学してきた時から、何か
ドキッとするもの感じてたの。こんな彼氏がいたらいいなって。暫く様子を見てたら、
特別付き合っている人いないみたいだし。それで思い切って声掛けたの。」
 「でもさあ、そんな人がいるのに僕と付き合って、もし今晩このままセックスしち
ゃったら、何か悪いみたいな気がするなあ。」
 「うん。その人よりも、何も言わないで栄治君に抱かれちゃったら、栄治君に申し
訳ないって気が付いたの。」
 「僕のことはどうでもいいよ。」
 「よくない。」
 麻紀子がもう一度栄治にキスした。
 「栄治君って、優しいのね。」
 「さあ、優しいかどうか、自分では分からない。」
 「ううん、優しいの。優しいのよ。」
 麻紀子が首に巻いた腕に力を込めた。
 「ねえ、こんな私のバージン、貰ってくれる。」
 「何かスッキリしないなあ。」
 「ね、お願い。」
 暫く考えてから栄治が頷いた。
 「ありがとう。」
 麻紀子が栄治の首に巻いていた腕を解いた。
 「全部脱いで。私も脱ぐから。」
 「うん。」
 「約束して。私が痛いって後込みしても絶対にやめないで。」
 「うん。でも、それでいいの。」
 「いいの。そうして欲しいの。」
 そう言って麻紀子が寝袋の中で下着を脱いだ。栄治もトレーナーの上下を脱ぎ捨て、
下着も外した。
 「このまま親の言うとおりに結婚しちゃうかも知れない。それとも、栄治君と一つ
になって考えが変わるかも知れない。どっちにしても、今日、栄治君に抱いて貰いた
いの。」
 「分かった。少なくとも僕は麻紀子さんが好き。だから抱きたい。今はそれ以上の
ことは考えない。それでいい。」
 「本当に好き。」
 「うん。」
 「嬉しい。」
 栄治が麻紀子の体に手を伸ばした。滑らかなお腹を過ぎたその手が茂みに辿り着く。
麻紀子が脚を閉じたままなので栄治の手がそこで止まった。
 「ちょっと待ってね。」
 「大丈夫。夜はまだ長いから。」
 表面は落ち着いた素振りを見せてはいたが栄治は内心穏やかでは無かった。経験済
みとは言ってもそれは弘子に半ば無理矢理犯されたようなもの。女のその部分に手を
触れたことはまだ一度もないのである。唯一の頼りは弘子の体に入っていた自分の姿
を憶えていること位だった。麻紀子と弘子が同じかどうかすら自信なかった。
 麻紀子の脚が僅かに弛んだ。栄治が指先を入れると再びその脚がきつく閉じられる。
挟まった指先が柔らかいものに触れていた。暫くしてまた麻紀子の脚が弛んだ。今度
はさっきよりも角度が大きい。栄治の指が奥まで入ってもその脚が閉じられることは
なかった。
 栄治がゆっくりと中を探って行く。麻紀子の襞の中はどこも全て柔らかく、指先が
めり込んでしまうところばかりだった。
 ようやく入り口とおぼしき場所が見付かった。中指がヌルッと入り込んだのである。
更に奥へと指で探って行くと麻紀子が顔をしかめた。
 「痛い。」
 「大丈夫。やめないで。」
 栄治の指が弾力のある部分に差し掛かっている。どうやらこれがバージンの証らし
い。これを越えないと目的は達せられない。案外抵抗が強いので栄治が迷った。
 「う、」
 麻紀子が呻いた。栄治の指が僅かに先へと進んだのである。そこは弘子とは違って
余り濡れていない。このままでは巧く行くかどうか自信が無かった。
 「ちょっといい。」
 栄治が寝袋のチャックを開いた。
 「え、どうするの。」
 「僕に任せて。」
 「え、ええ。何でも。」
 「はっきり言って僕も一度しか経験ないし、それも強引にされちゃっただけなんだ。
だから巧く行くかどうか自信ない。それで、本で読んだんだけど、入れる時に濡れて
なかったら口でするといいって書いてあったんだ。それ試してみるけど。」
 「え、口で。汚いから。」
 「ううん、麻紀子さんだったら汚いなんて思わない。」
 麻紀子もしぶしぶ頷いた。
 「それ、クンニって言うのよね。私も聞いたことある。でも、恥ずかしい。」
 「そうしたい。いいよね。」
 麻紀子が真っ赤な顔で頷いた。
 栄治が口を寄せると麻紀子が反射的に脚を閉じようとした。栄治の口はまだ届いて
いないが、それでも頭が邪魔をして完全に脚を閉じることは出来ない。栄治が麻紀子
の膝を抱えて上に持ち上げた。あっと言う間にそこが無防備な状態になる。すかさず
押し付けられた唇が襞を分けた。
 「あ、嫌。」
 突然の栄治の動きに戸惑った麻紀子が脚を閉じる。それでも押し付けられた唇はし
っかりと襞の中に食い込み、舌の先が更に奥を探った。
 「は、恥ずかしい。」
 栄治はそこから甘酸っぱい匂いが立ちこめてくるのを感じた。自分の唾液だけでは
ない別の滑りが少しずつ中から溢れてくる。舌の先を押し込んだ入り口から更に強い
匂いが沸き上がって来た。
 突然麻紀子が脚を大きく広げた。踵がテントの壁に当たってバサバサと音を立てる。
自由になった栄治の唇が襞の中をくまなく動き回った。
 ようやく起き上がった栄治が麻紀子に脚を振り上げさせたまま上から重なって行っ
た。入り口の在処は分かっていた。後は有無を言わさず押し込むだけ。先端が引っ掛
かり、僅かに入り込んだ。
 「我慢して。」
 栄治が圧力を掛けた。包み込まれるような圧力が栄治を押し戻そうとする。麻紀子
の顔が苦痛に歪んだ。それでも麻紀子の口からやめてと言う言葉は決して出てこなか
った。
 「ごめん。」
 栄治が全体重を掛けた。
 「きゃあ。」
 麻紀子の悲鳴が夜の静寂にこだました。栄治が思わずその部分を覗き込む。半分く
らい入り込んだ自分がロウソクの明かりで光っていた。
 「は、入ったの。」
 麻紀子が喘ぎながら聞いた。
 「うん。全部じゃないけど。」
 「ちゃんと入れて。」
 「痛くない。」
 「痛いけど、ちゃんとしてくれないと、嫌。」
 「うん。もう少しだから、我慢して。」
 栄治がもう一度体重を掛けた。少しだけ進むことが出来た。一呼吸休んでまた体重
を掛ける。この繰り返しを何度も続けると、ようやく全てを麻紀子の中に収めること
が出来た。
 「一つになれたよ。」
 栄治が麻紀子の手を導いて確かめさせた。麻紀子は恐る恐る触って確認すると、慌
てて手を引っ込めて栄治の首にかじりついた。
 「嬉しい。」
 麻紀子の目から涙がこぼれた。それは単に痛さだけから来たものでは無さそうだっ
た。


第7章 一つに

 「ふうん、その子、初めてだったんだ。」
 「うん。僕もそれが初めてだって思うようにしてる。啓輔の姉さんとのことは自分
でした訳じゃないし。」
 「その後、麻紀子さんとはどうなったの。」
 「一週間くらいしてからもう一度二人で山に行ったんだ。」
 「その時もしたの。」
 「うん。まだ少し痛いって言ってた。」
 「今は。」
 「麻紀子さん、随分悩んだみたい。僕とは一年近く付き合ったんだけど、最終的に
親の言うとおりに結婚しちゃった。卒業式の日に二人で泣きながら抱き合ったのが最
後で、それからは一度も会ってない。」
 「その麻紀子さんって子、可哀想な気もするけど、よっぽどいい家のお嬢さんなの
ね。」
 「そうみたい。相手の人も大会社の社長の息子だって。どこの会社だかは教えてく
れなかったけど。」
 「行く行くは社長夫人って訳ね。でも、話し聞いてたら、栄治は初めてでも上手に
やったみたいね。」
 「うん。自分でもそう思う。だから姉貴だって大丈夫。」
 「そう言う訳にも行かないわよ。」
 「どうして。口でするのも、入れるのも一緒じゃない。」
 「違うわよ。口で舐めても何もないけど、入れちゃったら子供が出来るかも知れな
いし。」
 「じゃあ、ほんのちょっと入れるだけ。それならいいでしょう。」
 「入れるだけね。ちょっとだけならいいかも。でも、一度だけよ。」
 栄治がズボンを脱いで靖子に近づいた。膝を開いた靖子が栄治の腰に手を回した。
 「約束して。中に出さないで。」
 「分かってる。」
 栄治が先ほど舌の先で確かめた場所に先端を宛った。少し力を入れて押すとスルッ
と後に逃げてしまう。もう一度試すが、今度は上に逃げてしまった。
 「それ、気持ちいい。」
 靖子が尻を持ち上げた。先が引っ掛かったような感じになる。栄治が覗き込むと三
分の一位埋まっているのが分かった。
 「痛かったら言って。」
 栄治が腰を送り込んだ。抵抗はあるが、少しずつ確実に入って行く。
 「大丈夫。」
 栄治の問いに靖子が何度も頷いた。
 「ちょ、ちょっと痛い。」
 靖子がそう言ったときには既に先端が飲み込まれていた。
 「どんな感じ。」
 「何か引きつってるけど、我慢できない程じゃないわ。入ったの。」
 「まだ。先っぽだけ。でも、そんなに無理な感じはしないよ。」
 「ほんと。」
 靖子が手を伸ばして確かめた。
 「ほんとだ。入ってるわ。」
 「もうちょっと入れていい。」
 「うん。でも、そっとね。」
 いつの間にか雨がやんでいた。小川の水は相変わらず凄い勢いで流れている。雲が
切れたのか、再び辺りが明るくなって来た。
 「あ、」
 靖子が呻いた。
 「ごめん、痛かった。」
 「大丈夫。入ったの、全部。」
 「うん。しっかり根元まで。」
 再び靖子が手で確かめた。
 「ほんと、あんなのが入っちゃうんだ。」
 「痛くない。」
 「ちょっと。でも、大したことない。何だか呆気ない感じ。」
 「血、出てるかな。」
 「そんな感じはしないわ。そうやってじっとしてれば全然痛くない。」
 「姉さん、ほんとに初めて。」
 「勿論よ。ここ触らせたり、舐められたのだって栄治が初めてなんだから。栄治の
方は気持ちいいの。」
 「うん。」
 「私はあんまり感じないなあ。舐めて貰った方がいい。」
 「最初だからじゃない。ママなんか、凄い気持ちよさそうだよ。」
 「やだ、あんた見たことあるの。」
 「うん。何度も。」
 「いつ。」
 「小学校三年までママと一緒に寝てたじゃない。時々夜中にパパが来たんだ。僕が
眠ってると思って抱き合ってたんだ。」
 「ふうん。どんな風にしてたの。」
 「こんな感じの時もあったし、ママが上になってることもあった。」
 「ママ達も舐めたりしてた。」
 「うん。ママが今日は駄目って言った日は、ママがパパのをくわえてた。」
 「ああ、きっと生理だったんだわ。」
 「姉さん、生理はいつ。」
 「もうすぐだと思う。明日くらいかな。」
 「だったら、中に出しても平気じゃない。確か本にそう書いてあったよ。」
 「だと思うんだけど、自信ない。」
 「じゃ、やめて置こうか。」
 「うん。」
 二人は三十分くらいそのままの姿勢で抱き合っていた。動かなくても一つになって
いると言う実感ははっきりしている。ようやく栄治が腰を退こうとした。
 「抜くよ。」
 「うん。そっとね。」
 最後の瞬間に栄治がスルッと吐き出された。
 「あ、」
 靖子が声を上げた。
 「痛かった。」
 「ううん。何だか気持ちよくなりそうな感じだった。」
 「もう一度試す。」
 「一度きりの約束よ。」
 体を起こして栄治の方に口を寄せた靖子が思わず叫んだ。
 「血が付いてる。」
 言われてみると確かに先端にうっすらと赤いものが付いていた。
 「何か違う感じ。」
 靖子が指で自分の体を探った。
 「何が違うの。」
 「出血したんじゃなく、生理が始まったみたいってこと。」
 「だったら、大丈夫じゃない。」
 「そうね。」
 二人が顔を見合わせた。
 「もう一度、しようか。」
 靖子の方がそう言った。
 「うん。」
 「でも、ここじゃお尻が痛いから、おうちに帰ってしない。」
 「いいよ。そうしよう。」
 戻りの方が更に大変だった。雨に濡れた丸太がツルツル滑るのである。たった五メ
ートルの距離を十分以上掛けて靖子が梯子の上まで辿り着いた。今度は栄治が先に下
りて待ちかまえた。
 梯子の下りは案外すんなり行った。下りてきた靖子の尻を栄治が下から撫で上げた。
 「もう、エッチ。」
 家に戻った二人は腹ぺこなのに気が付いた。
 「ねえ、先に何か食べない。」
 靖子がそう言ってカップラーメンを二つ並べた。
 「そうだね。そうしよう。」
 靖子がカップラーメンにお湯を注いぐ。
 「ラーメンもちょっと飽きてきたね。」
 栄治が箸で麺を解しながら言った。
 「うん。明日は何か作ろうか。」
 「そうしよう。」
 あっと言う間に食べ終わった二人が二階に上がり全てを脱ぎ捨てた。
 「ちょっと待って。」
 靖子がシーツの上にバスタオルを敷く。脱いだ下着が赤く染まっていたのである。
 「ひどくなって来たけど、いい。」
 靖子が生理の出血を気にした。
 「全然。姉さんのなら、何だって平気だよ。お尻の穴だって舐めたんだから。」
 「そう、舐められちゃった。でも、お尻でも変に感じちゃうのね。」
 靖子は丁寧にティッシュで拭ってから布団の上に横になった。
 「いいわ。」
 並んで横になった栄治が指先で探る。
 「乾いちゃってる。」
 「今拭いたばかりだもの。」
 「舐めて上げようか。」
 「駄目、汚いから。」
 「平気だよ。」
 「駄目。手で触って。」
 姉弟だから元々気心は知れてる。年頃になって少し離れていた気持ちが一旦近付い
てしまうと後はかなり開けっ広げな空気が二人の間に漂っていた。触り始めてすぐに
栄治の指が滑り始めた。
 「行くよ。」
 靖子が黙って頷き、膝を大きく広げた。栄治が手で宛って前後に滑らせ始めた。
 「うん、それ、いい気持ち。」
 栄治は先端が少し赤く染まったが気にせずに動きを続けた。
 「あう、」
 栄治が滑り込むと靖子が声を上げた。
 「痛い。」
 栄治が動きを止める。
 「ちょっと。でも痛いだけじゃないの。さっきより気持ちいい。」
 「じゃ、もう少し。」
 栄治が更に深く送り込むと靖子が両脚を腰に絡めた。
 「この方が痛くない。」
 「動いていい。」
 根元まで押し込んだ栄治が聞いた。
 「うん。でもゆっくりね。」
 生理の出血のせいかも知れない。栄治はさっきよりも動きやすいと思った。ゆっく
りと腰を退き、先端が外れる直前でもう一度奥まで押し込む。これを繰り返している
と更に動きがスムースになって来た。
 「違う、違う。」
 靖子が思いきりしがみついてきた。
 「何が違うの。」
 「さっきと全然違う。ずっと気持ちいいの。」
 栄治は姉との関係が一生続くかも知れないと思い始めた。すぐに栄治は達してしま
ったが、そのまま動きを止めようとはしなかった。靖子は気付かなかったらしい。目
をつぶり、眉を寄せて自分もぎこちなく腰を動かしていた。
 三度続けて達した栄治がようやく固さを失い始めた。靖子の体が外に押し出す。全
体がピンク色に染まっている姿を見て靖子がティッシュで拭き始めた。
 「凄い色。あんたのも混じったからね。」
 「うん。凄くよかった。姉貴は。」
 「私も。人に聞いた話じゃ、最初から気持ちよくなることなんて無いらしいんだけ
ど。」
 「ねえ、これ。絶対に秘密だよね。」
 「勿論よ。特にママとパパにはバレないように。」
 「でもさあ、僕たち二人きりで何日も一緒に泊まって、こう言うことが起きる心配
しなかったのかなあ。」
 「ここ暫く、あんまり仲良くなかったからね、私たち。」
 「そうだね。姉貴、突っ張ってたから。」
 「認める。確かに突っ張ってた。それに、栄治がだんだん男に見えて来てたから、
そのせいもあったのよ。あんたのオナニー見たときだって、本当はドキドキだったん
だから。」
 両親が来るのは四日後だった。その晩も靖子は栄治を受け入れた。出血は更にひど
くなっていたが、栄治は全く気にせず、風呂上がりの靖子を口に含む程だった。
 明日は両親が来るという二人だけの最後の晩、靖子が栄治の上で体を硬直させた。
出血も殆ど止まり、上から靖子が跨っている時のことだった。
 「だ、駄目ーっ、」
 そう言いながら靖子が激しく腰を栄治にぶつけ始めた。栄治が両手で乳首を摘んだ
直後だった。予期せぬ靖子の動きに栄治は呆気なく登り詰めてしまった。それでも靖
子は狂ったように腰を振り、一際大きく叫ぶと体を目一杯後ろに反らせてビリビリと
腰を震わせた。靖子がリズミカルに栄治を締め付けた。
 「凄かった。男と女が何でセックスするのか、分かった気分。」
 ようやく落ち着きを取り戻した靖子がそう言って何度も栄治に口付けした。
 「そんなに気持ちよかったの。」
 「うん。体がフワーッとなって、ここがジンジン痺れちゃった。」
 靖子がつながっている所に指を当てた。
 「あ、また変になる。」
 靖子が指先を激しく動かし始めた。
 翌朝、靖子は町まで買い物に下りた。ついでに家に電話して両親が来るかどうかを
確かめた。
 「栄治、帰ったわよ。」
 靖子が隠れ家に呼びに来た。
 「お焼き買ってきたから食べない。」
 「うん、行く。」
 小屋から下りてきた栄治に靖子が言った。
 「ねえ、パパ、急に仕事が入って来れなくなったんだって。」
 「やっぱりね。で、ママは。」
 「ママは来たいって。だから、夕方、駅まで迎えに行くわ。」
 「何だ、ママ来るの。」
 栄治は二人とも来ないことを期待したようだった。
 「そうなのよ。ま、暫くお預けね。」
 「何日位いるのかなあ。」
 「来週末にパパが来るみたい。それまでいるんじゃない。」
 「え、一週間以上じゃない。」
 「我慢、我慢。それとも二人でどっか行く。」
 「どっかって。」
 「買い物に行くとか、山に行くとか理由つけてさ。」
 「でも、それじゃ出来ない。」
 「馬鹿ねえ、こっそりホテル行っちゃえばいいのよ。」
 「あ、そっか。」
 「でも、今までみたいには無理よ。」
 「分かってる。」
 栄治が靖子の体を抱き寄せた。
 「ねえ、まだ時間あるよね。」
 「うん。」
 暫くお預け。同じ思いの二人が床に崩れ落ちた。


第8章 三人の夜、三人の明日

 夕方になり、名残惜しそうに栄治から離れた靖子が駅まで母親を迎えに行った。留
守の間に栄治は風呂の水汲みを済ませて火を点ける。昨日の風呂はお湯の中で栄治が
出してしまったのでそのままにしておけなかったのである。
 改札口で出迎えた靖子を見て母親の久美がおやっと言う顔をした。
 「何、ママ。変な顔して。」
 「ううん、何でもない。」
 車の中でも久美は殆ど喋らなかった。靖子はそれが気になって仕方がない。
 「ねえ、ママ。パパと喧嘩でもしたの。」
 「何でそんなこと言うの。」
 「だって、凄い不機嫌な顔してるんだもの。」
 「そんなことはありません。それより、栄治は元気。」
 「ああ、いつもの通りよ。毎日飽きもせず隠れ家とやらに登ってるわ。」
 「そう。」
 靖子は出掛けまで栄治と抱き合ってたのがまずかったかな、と思い始めていた。風
呂に入る暇が無かったので、何となく栄治の匂いがしてるような気もするのである。
 「栄治、来たわよ。」
 車から降りた久美が風呂の薪をくべている栄治に声を掛けた。
 「あ、ママ。もう少しでお風呂入れるよ。ところで、何かお土産ある。」
 「お土産って、食べるもの。」
 「うん。」
 「車じゃないから大して持って来れなかったわよ。ハヤシと肉まんと。そうだ、カ
ツサンドがあるわ。」
 「どこの。」
 「万世のよ。」
 「凄い。ちょうだい。」
 「来る早々、食べ物の話しだけ。いつまで経っても栄治は・・・」
 突然久美が口ごもった。
 「ま、いいわ。向こうのバッグに入ってるから、食べなさい。」
 「はあい。」
 栄治がサンドイッチを頬張っていると久美が風呂に入ると言い出した。栄治と靖子
が家に入ろうとすると久美が靖子を呼び止めた。
 「靖子も一緒に入っちゃえば。たまには背中の垢擦りして頂戴。」
 「はい、ママ。」
 靖子が簡単に承知したので久美はちょっと驚いた顔をした。母親にさえ自分の体は
見せない。そんな靖子だったのである。久美は一通り自分の体を洗った後で靖子に背
中を向けた。
 「お願い。」
 「うん。」
 靖子が垢擦りタオルを絞って背中を擦り始めた。
 「ああ、いい気持ち。もっと下の方も。」
 母親の背中からは白い垢が出てくる。靖子が力を入れて擦ると白い肌に赤みが差し
てきた。
 「靖子もようやく女っぽくなったわね。」
 「え、」
 突然母親に言われて靖子が面食らった。
 「きれいになったわ。駅で見たら見違えるようだった。」
 「そんなこと無いでしょう。」
 「母親だから分かるのよ。」
 靖子が思わずギクリとした。
 「ねえ、何で急にそんなこと言うの。」
 「自分の胸に聞いてみれば。」
 「何のことだか分からないわ。」
 必死でとぼける靖子だが、母の背中を擦る手が震えていた。
 「女はね、男を知るときれいになるのよ。」
 靖子は何と答えていいか分からなかった。
 「ここには男は一人しかいない。私が言っている意味、分かるでしょ。」
 靖子の手が止まった。
 「どうしたものかしらねえ。」
 久美が大きなため息をついた。
 「ママ、変なこと言わないで。私たちが何したって言うの。」
 靖子が最後の抵抗を試みた。
 「栄治じゃなけりゃ、相手は誰なの。」
 「な、何の話し。」
 「とぼけるのもいい加減におし。車の中、プンプン匂ってたわよ。終わった後で風
呂に入らなかったんでしょ。大体、今だって匂ってるじゃない。そう言うときはきち
んと流さないと匂いはとれないものよ。」
 靖子が首をうなだれた。自分でも気になっていた匂い。それに久美が気付かないは
ず無かったのだ。
 「何で避妊しなかったの。」
 「生理だったから。」
 「え、生理で、その最中にしたの。」
 「うん。一番安全だと思って。」
 「そりゃあそうだけど。それで、栄治は嫌がらなかったの。」
 「全然。」
 久美がまた大きなため息をついた。
 「風呂から上がったら三人でよく話さないとね。」
 靖子は返事しなかった。
 「でも、何でまた、そんなことになっちゃったの。」
 「私が蛇に噛まれたの。」
 「え、蛇に。どこ噛まれたの。」
 「恥ずかしいとこ。」
 「まさか。」
 「外でおしっこしたの。そしたら、」
 「それで、大丈夫なの。毒蛇じゃなかったの。」
 「後で栄治にどんな蛇だったか説明したら、縞蛇で毒はないって。」
 「何、その、後で、って。」
 「毒蛇だったら毒を吸い出さなきゃいけないって栄治が言うもんだから。」
 「ははあ、それで栄治が吸った訳だ。」
 「うん。」
 「あの子も悪知恵が働くねえ。」
 「違う、違うの。二人とも気が動転してたから。咄嗟のことだったし、慌てて私が
頼んじゃったの。」
 「そしたら、気持ちよかった訳だ。」
 「う、うん。」
 「分かるわ。恥ずかしいところ吸われたら、そりゃあ、いい気持ちになても無理無
いわね。」
 久美がドラム缶を跨いで湯の中に入った。
 「靖子が女になった。それはとやかく言うことじゃないんだけど、その相手がねえ。
相手が弟じゃ、どうにもならないわよ。」
 「分かってる。でも、栄治だからその気になったの。」
 「あんなに仲悪かったのに。」
 久美がドラム缶から上がった。
 「じゃあ、あんた入っちゃいなさい。私は先に上がって栄治と話してるから。」
 「はい、ママ。」
 タオルで体を拭いた久美がタオル地のガウンを羽織って家に戻って行く。その後ろ
姿を靖子がきつい目で見送った。
 「栄治、ちょっと話があるんだけど。」
 テーブルの脇に座って雑誌を読んでいる栄治に久美が声を掛けた。
 「何、ママ。」
 久美が栄治の隣に座った。
 「あんた、高校二年生だったわね。」
 「そうだよ。何を今更。」
 「と言うことは来年十八か。」
 「うん。」
 「十八になれば一応親の承諾があればの話だけど、結婚も出来る歳だわよねえ。」
 「え、うん。」
 栄治は話しの内容を察したようだった。
 「靖子が上がってきたら、あんたもお風呂に入っちゃいなさい。その後で二人に話
があるから。」
 「う、はい。」
 その時靖子がパジャマ姿で戻ってきた。
 「出たわよ。栄治、入ってきなさい。」
 「はい。」
 手早く体を洗った栄治が戻ってくると二人は既に二階に上がっていた。下のランプ
を一つ持って上がったらしく二階が明るくなっている。残ったランプを消して栄治が
梯子を登っていった。
 「さて、二人揃ったところで、一体何があったのか、聞かせて貰おうかしら。」
 久美が部屋の端に座って壁にもたれながら聞いた。靖子は久美から離れて反対の端
に寝そべっている。仕方なく栄治が真ん中にあぐらを掻いた。
 「話すって、何のこと。」
 「駄目よ、とぼけたって。」
 「別に、話すようなことでもないと思うけど。」
 栄治はあくまでとぼけて通す積もりらしい。
 「駄目って言ってるでしょう。靖子はもう白状しちゃったんだから。」
 「白状したって、蛇に噛まれたこと。」
 「そうよ。その後のことも。」
 黙っていた靖子が両手を合わせた。ごめん、と言うことらしい。
 「確かに姉さんと仲良くしてたけど、それが何で悪いの。」
 栄治が思わぬ反撃に出たので久美が目を白黒させた。
 「だって、あんた達、セックスまでしちゃったんでしょう。」
 「したよ。」
 栄治が平然と言い放ったので暫く沈黙が続いた。
 「困った子。」
 久美が肩を落としてため息をついた。
 「でも、何で姉弟だといけないの。」
 栄治が布団の上に腹這いになった。部屋の隅にいた靖子もずるずると栄治の隣に来
る。
 「法律で決まってるのは、いとこ同士なら結婚出来る。でもそれ以上近い肉親とは
出来ない。確かそうだったと思うけど。でも、結婚とセックスって同じじゃないよね。」
 栄治が一人で喋っている。久美も靖子も何も言わなかった。話が遠いと思ったのか、
久美も栄治の隣に腹這いになった。
 久美は必死で栄治に反論しようとしていた。頭ごなしに『それはいけないことだ』
と言ってしまえば話は簡単なのだが、久美自身、改まって問われるとすぐには答えが
浮かんで来なかったのである。
 「うーん、ママにも何でかは分からないけど、世の中はそう言うことになってるわ
ね。」
 「これって、誰にも迷惑掛けてないよね。」
 栄治が母親に見えないところで靖子の手を握った。靖子もその手をしっかり握り返
した。
 「それに、姉弟仲良くすることって、何にも悪いことないじゃないと思うけど。」
 「仲良く仕方が問題なのよ。」
 久美の言葉が弱々しい。
 「それに、姉弟じゃ子供も作れないし。」
 「それ、変だよ。姉弟で子供作ったら、犯罪になるの。」
 久美がハッとしたように栄治を見た。
 「仮に姉さんに僕の子供が出来たとして、結婚できないから正式な父親にはなれな
い。それは分かるよ。でも、その場合、認知も出来ないのかなあ。多分できないよね。」
 久美と靖子が思わず顔を見合わせた。思いも寄らぬ言葉がまだ高校生の栄治の口か
らポンポン飛び出して来るのに面食らったらしい。
 「別に認知が出来なくても、その子供は姉さんの子供として戸籍には載るよね。」
 「え、ええ。」
 「父親が僕だって秘密にしておけば、特別問題にならないでしょう。」
 「そんなこと言ったって、周りが許してくれないわよ。」
 久美がとうとう本音を言った。
 「そこだよね、一番の問題は。何故かは誰にも説明出来ないけれど、世の中はそう
言う決まりになってる。だからその決まりを破ってはいけない。それだけじゃないの
かな。それに遺伝の話だって、必ずしも悪いことだけじゃないって本で読んだことあ
るよ。確かに病気になる確率は少し高いみたいだけど。」
 「まさか子供作ろうなんて考えてないだろうけど、姉弟でそう言うことしてるって
知られただけで、あんた達はまともに生きて行けなくなるのよ。」
 「それは分かってるよ。」
 それまで黙って聞いていた靖子が口を開いた。
 「ねえ、ママ。聞いて。」
 「何。」
 「私、栄治に大事なところ吸って貰って、そのまま歯止めが利かなくなって抱かれ
たことは確かよ。でも、こうなったこと、全然後悔してないわ。栄治はどう。」
 「僕も後悔なんかしてない。」
 「あんた達、ただ今の気持ちに溺れてるだけよ。」
 「そうかも知れない。でも、私は栄治がいなかったらこのまま男を知らずに歳ばっ
かり取って行ったと思う。だって、栄治以外に大事なところ触って貰おうなんて気持
ちになれないもん。」
 「それは、いい人が出来て結婚すれば自然にそうなるの。」
 「ママ、本当にそう思う。」
 「え、どう言う意味。」
 「結婚すればそうなるって断言出来るの。」
 「そうよ。誰でも結婚すればそうしてるでしょう。」
 「じゃあ、パパとママもそうしてる訳。」
 今度は栄治が姉の気迫に驚いた。久美は何となくばつの悪そうな顔で明後日を向い
ている。
 「ねえママ。何で私がお見合いの話し全部断ってるか、分かる。」
 久美はそれに答えようとはしなかった。
 「私が結婚したくないって思ってるの、パパとママみたいになりたくないからなの。」
 「え、どう言うこと。」
 栄治が口を挟んだ。
 「ママに聞いてごらん。何で今回パパが一緒に来なかったのかも。」
 久美が布団に顔を伏せた。暫くするとすすり泣きの声が聞こえてきた。
 いつの間にか栄治の手が靖子のパジャマの中に潜り込んでいた。お尻の上から伸ば
した指が靖子を探っている。靖子が脚を広げてその指を受け入れた。
 「ねえ、何か知ってるの。」
 栄治が靖子に小さな声で尋ねた。
 「それは後でママの口から聞いて。」
 靖子も栄治の方に手を伸ばしてきた。腰を浮かせた栄治がその手を招き入れる。手
を伸ばせば届くところに母親がいる。その横での戯れが二人をいつになく夢中にさせ
ていた。
 「ちょっと、あんた達。」
 気配を感じたのか、久美が顔を上げずに強い声で言った。
 「何。」
 とぼけた声で靖子が聞く。
 「何じゃないわよ。何してるの。」
 「何してるか、自分の目で見てみれば。」
 いざとなると女の方が強い。靖子が栄治のパジャマを下ろして仰向けにさせた。真
上を向いた栄治を握りしめて手を上下に動かし始める。久美が顔を上げた。何とも言
えない沈黙が三人の上を流れていった。ただ、靖子の手だけが休むことなく動いてい
る。その手元を母の目がじっと見据えている。
 「ママも触って見る。」
 靖子が手を止めた。
 「馬鹿なこと言わないで。そんなこと出来る訳け無いでしょ。」
 「そうかしら。」
 再び靖子の手が動き始めた。栄治の手も靖子のパジャマの中でモソモソと動いてい
る。
 「ああ、来るんじゃなかったわ。」
 久美が再び布団に顔を埋めた。それが合図だったかのように栄治が靖子のパジャマ
を下ろす。靖子の上に移動した栄治が膝を割って重なって行った。
 「あ、」
 靖子が小さな声を上げた。栄治がゆっくりと入って来たのである。久美が顔を上げ
て二人の方をチラッと見た。大きなため息が一つ。そのまま仰向けになった久美が虚
ろな目で屋根裏の天井を見つめている。そんな久美をよそに栄治の腰の動きが速くな
って行った。
 「あ、駄目・・・」
 「す、凄い・・・」
 時折靖子が発する呟きを聞きながら、久美はピクリとも動かずに横たわっていた。
やがて靖子の息が乱れ、咽の奥から押し殺したような悲鳴が漏れ始めた。
 「あ、え、栄治・・・」
 靖子の体が硬直して体が逆エビに反り上がった。辺りに甘酸っぱい香りが漂う。そ
の香りは久美にも間違いなく届いているはずだ。
 栄治がゆっくりと靖子の体から離れた。もう一度仰向けになった体の真ん中に先程
と変わらない逞しさで上を向いたものがランプの灯りを受けて光っていた。
 「ママ。」
 栄治が声を掛けた。返事はない。
 「ママ。」
 もう一度栄治が声を掛けて久美の方に手を伸ばした。伸ばした手を胸の上に置くと
激しく上下している。それでも久美は息子の手をどけようとはしなかった。
 「ねえ、ママ。パパのこと教えて。」
 「え、パパのことって。」
 「さっき姉さんが言ってたじゃない。何でパパが一緒に来なかったのかって。」
 「言いたくない。」
 「そんなに辛いこと。」
 「うん。」
 「分かった。」
 栄治が久美の胸を静かに撫で始めた。薄手のパジャマ一枚なので手の平に乳首が当
たる。隙間から潜り込んだ栄治の指が固くなった乳首を摘んだ。
 「駄目。」
 久美がそう言って嫌々をするように首を左右に振った。栄治がもう一方の手で上か
らボタンを外して行く。
 「駄目。」
 もう一度久美がそう言って目をつぶった。現れた胸は乳首が幾分大きいことを除い
て靖子と変わらなかった。栄治がそっと顔を寄せて片方の乳首を含むと久美が両手で
顔を覆った。
 「え、」
 久美が驚いて顔から手を離した。いつの間にか反対側に回ってきた靖子がもう一方
の乳首を口に含んだのである。
 「や、やめてちょうだい。」
 そう言いながらも久美は両手で栄治と靖子の頭を抱えて自分の方に押し付けた。靖
子の手が先に久美のパジャマのズボンに掛かった。栄治もそれに習う。両側から引き
下ろされ、すぐに久美の白いお腹が露わになった。
 「駄目、私は栄治の母親なのよ。」
 栄治と靖子は久美の乳首から口を離さずにパジャマを引き下ろして行く。とうとう
久美の下半身全てがランプの灯りの元にさらけ出された。
 「だ、駄目。」
 栄治の手が久美の茂みをそっと撫でた。必死に腿を合わせる久美だったが、僅かな
隙間を見付けた栄治の指が更に奥へと潜り込んで行った。
 「駄目だって言ってるでしょう。」
 靖子の手が腿の辺りを優しく撫でている。久美は必死で抵抗しているが、襞の中に
入り込んだ栄治の指は既に濡れ始めていた。
 「あ、栄治・・・」
 久美の膝から急に力が抜けた。最早久美の口からは駄目と言う言葉は出て来なかっ
た。
 「全く、あんた達は。」
 栄治が久美の上に重なった。久美が膝を広げてそれを受け入れる。最早観念したの
か、久美が自分から栄治を握って自分の方に導いた。
 「あんた達と一緒に地獄に堕ちるわ。」
 栄治を迎え入れた久美が自分から腰を持ち上げて大きく回し始めた。迎え入れた久
美の体は靖子と変わりない強さで栄治をキリキリと締め付ける。中の感触も似ている、
栄治はそれを味わいながら久美の動きに合わせていった。
 「あ、そこ・・・」
 栄治の先端が何かに当たった。
 「そ、そこ・・・」
 久美が脚を振り上げて栄治の腰に絡めた。更に深く突き進んだ栄治がそのコリッと
した感触目掛けて突き立てた。
 「だ、駄目・・・」
 久美の『駄目』は意味が違っていた。
 「い、いっちゃう・・・」
 久美の体がガクガク揺れ、栄治は千切れる程の強さで締め付けられた。それは姉に
は無い、激しいものだった。
 「ママ。」
 栄治が慌てて腰を退こうとした。久美の絡んだ脚がそれを許さない。
 「ママ、駄目。」
 一旦退こうとした腰を栄治が反対に突き出した。
 「栄治・・・」
 栄治がグッタリと久美にもたれ掛かった。久美は名残を惜しむかのように数回腰を
息子に擦り付けた。
 「ありがとう。」
 思いがけない言葉に栄治が驚いて顔を上げた。
 「こんなの、何年ぶりかしら。」
 それは栄治や久美が見たことのない母親の姿だった。手を伸ばして栄治がまだ固さ
を失っていないことを確かめると栄治の体を抱えたままゴロンと横になる。そのまま
栄治の上に跨った久美が腰を前後に擦り始めた。久美が栄治の両手を掴んで自分の胸
に宛った。コクコクとまるでタヒチの踊りのように速く動く腰。その動きにリズムを
合わせた淫らな音が屋根裏部屋に響き渡る。
 「ママ、素敵。」
 食い入るような目で二人の動きを眺めている靖子が思わず叫んだ。息子の上で狂っ
たように腰を振り続ける母の姿。剥き出しの欲望だけではない。身も心も、全てが一
体となった二人の間に入り込めない靖子が必死に母親の唇を求めた。長い夜の始まり
だった。
 夜が白々と明けていた。丸太のように栄治と靖子が裸のままで眠り込んでいる。高
校生と言う若さは大したもので、栄治は久美と靖子を交互に抱き、二人を何度と無く
失神寸前まで追い込んだ。自分自身も六回は達したに違いない。二人の寝顔を覗き込
んだ久美が大きく息を吐いた。靖子と栄治の関係を今引き裂くことは不可能だった。
自分と栄治の関係も最早後戻りは出来ない。久美は夫の姿を頭に描いた。今頃どこか
のホテルの一室で女と抱き合って眠っていることだろう。今までは子供達のことを考
えて目をつぶってきた夫の姿だった。
 靖子は既に父親の行状に気付いている。仮面夫婦のまやかしが靖子を男から遠ざけ
てきた。久美にはそれが一番のショックだった。子供達のためにと思って我慢してき
たことが、実は子供自身を傷付けていたなんて。そう思った瞬間に久美の決心が固ま
った。
 (別れよう。靖子も栄治も私に付いて来てくれる。)
 久美自身、決心が付かぬまま、それでも探偵事務所に依頼して夫の不倫の証拠は固
めてあった。今回の逢瀬も全て記録されているはずである。家も預金も、そしてこの
山小屋も全て置いていって貰おう。それで栄治が大学を出るまでの暮らしは十分に立
つはずだった。
 久美は次に靖子のことを考えた。栄治は姉や母である自分に溺れるようなことは無
いだろう。問題はこの歳になって初めて弟に肌を許した靖子の方だ。ここ暫くは仕方
ないとしても、ある程度熱が冷めてきたところで外にも目を向けさせよう。そのため
にも自分と栄治の関係は続けていかなければならない。
 そこまで考えて久美は自分自身に苦笑した。何のことはない。息子との関係を続け
て行く口実を探しているだけではないか。久美は素直にその考えを認めた。息子が久
しぶりに呼び覚ましてくれた肉の悦びを捨てようとは思わなかった。
 (この秘密、夫には絶対に知られてはならない。)
 久美はそう自分に言い聞かせた。
 「そろそろお昼よ。二人とも起きなさい。」
 久美が下から声を掛けた。暫くして二人が裸のまま梯子を降りて来た。
 「ちょっと、誰もいないからってその格好は何。せめてパンツくらい履いてらっし
ゃい。誰か来たらどうするの。」
 「分かってるって。下着が汚れて気持ち悪いのよ。」
 靖子が着替えの中から新しい下着を取り出して身に付ける。その上から栄治のTシ
ャツを着ただけで表に出て来た。栄治はトランクス一枚だった。
 「朝昼兼用よ。早く顔洗ってらっしゃい。」
 二人が手をつないで下の小川に降りて行った。その後ろ姿を見送りながら久美がフ
ライパンに卵を落とす。それはいつもの年と変わらない夏休みの景色だった。
 (来てよかった。)
 食事の支度をする久美の口元がついほころんでしまう。暫くして二人がさっぱりし
た顔で戻ってきた。
 「ねえ、ママ。」
 靖子が悪戯っぽい目で言った。
 「何。」
 「もし蛇に噛まれたら栄治に言うといいわ。きっと優しく吸ってくれるから。」
 「それじゃ、ご飯食べたら吸って貰おうかしら。」
 「まだ噛まれてないでしょ。」
 「噛まれたわよ。昨日の晩、何回もね。お陰で真っ赤に腫れてるわ。」
 靖子がクスクス笑った。
 「私も。」
 「じゃあ、二人並んで吸い出して貰おうかしら。」
 三人が声を上げて笑い転げた。
 少し離れたところを一匹の縞蛇がゆっくりと通り過ぎて行く。笑い声に驚いて一瞬
動きを止めたが、すぐに床下に潜り込んで行った。その尻尾に気付いた靖子がそっと
ウィンクした。















inserted by FC2 system