益荒男 作

官能小説『危ない画像』



第1話

 雅彦が父の遺品を整理していた。本や書類の殆どは既に母親が始末している。残っ
たのはパソコンやオーディオ関係で、特にパソコンは母親の手に負えなかったのであ
る。
 雅彦はまずメールから処理することにした。未読メールの殆どがいかがわしいDM
や得体の知れないウィルス付きと疑われるようなものだった。長く使っているアカウ
ント程この手のメールが勝手に送り付けられて来るものである。雅彦はそう言った数
十通のメールを一括でゴミ箱に捨てた。
 残ったメールの殆どが仕事関係だった。一通り目を通して全てに同じ文面で父の死
を伝える返信を送った。最後に「KK」と言う訳の分からないフォルダが残った。こ
こにも新しいメールが十通以上届いていた。
 雅彦が一番新しいメールを開くと父親の安否を気遣う内容が書かれていた。文面か
ら察するところ、父親とはかなり親しい間柄らしい。差出人は女である。未読メール
を次々に開いて行くと、そこには驚くべきことが書かれていた。

 「愛する賢治へ、
昨日は楽しかったわ。本当に久し振りに逢えて良かっ
  た。戻ったら腰がちょっぴりしんどかったわ(笑)
賢治は相変わらずタフねえ。
貴男の歳で抜か六なんて、そうざらにはいないわよ。
お陰でお○○こがはばったいわ(苦笑)
これで、また当分逢えなくても大丈夫(嘘々)
次の出張はいつ?どこ?
外国出張なんかあればいいのにね。
勿論、付いて行くわよ。
じゃ、また来週。いつものところで。    圭子」

 読み終わった雅彦が苦笑した。あの父親が不倫とは意外だった。そんな素振りなど
毛程も見せなかったからである。そう言えば、毎週金曜日は父親の帰りが遅かった。
恐らくそれがデートの日だったのだろう。もう何年も続いて来た習慣なので特別気に
も留めなかったのである。
 今日は金曜だから、もし、あの事故が無ければ今頃このメールの女とホテルにしけ
込んでいたに違いない。過去のメールは数百通以上ありそうなので、その全てを一度
に読むのは不可能だった。雅彦が一番古いメールを開いた。五年以上前の日付である。
その文面も既に不倫がかなり続いていることを窺わせる内容だった。つまり、雅彦の
父親は随分昔からその相手と不倫していたことになる。暫く考えてから、雅彦がこれ
までの紋切り型とは別の文面を書き始めた。

  「圭子さん、はじめまして、菅沼賢治の息子、雅彦です。
   父が随分お世話になったようで、感謝しております。
(皮肉ではありません、念のため)
   ところで、言いにくいことですが、父、賢治は今週の月
   曜日、高速道路の事故でこの世を去りました。飲酒運転
   のトラックに追突され、車が炎上してしまったのです。
   ニュースでも大きく報道されましたがご覧にならなかっ
   たみたいですね。
   僕は今、父のメールを確認して、必要な方々に父の死を
   お知らせしています。葬儀も滞りなく済み、一周忌に納
   骨の予定です。お寺は豪徳寺、井伊直弼の墓があるとこ
   ろです。納骨当日は無理だと思いますが、お時間の許す
   時にでも参ってやって下さい。父も喜ぶと思います。
   失礼とは思いましたが、圭子さんと父のやり取りは大体
   読ませて頂きました。悪しからず。
   ちなみに、このメールアカウントは当分僕が代行して管
   理します。もし何かご質問がありましたら出来る範囲で
   お答えしますので、ご遠慮無く仰って下さい。
   では、失礼致します。             雅彦」

 一通りメールチェックが終わったところに母親の麻美が顔を出した。雅彦が慌てて
メールを閉じた。父親が逝ってしまった今、母親に嫌な思いをさせる必要は無いので
ある。
 「ねえ、お茶にしない。」
 「うん。降りてく。」
 「そのパソコン、雅彦が使うんでしょ。」
 「うん。」
 「だったら、あんたが使ってるノート、私にくれない。」
 「どうするの。ママ、パソコン使えないじゃない。」
 「そうだけど、ちょっと勉強してみようと思ってさ。」
 「ああ、それならパパのノートで十分だよ。後で探してママが使えるようにして上
げる。」
 「何でもいいわ。お願いね。」
 母親が出て行ったので雅彦がパソコンを終了させた。まだデータの確認が残ってい
る。チラッと見ただけでもかなりの画像と動画ファイルがあったので、その確認にも
時間が掛かりそうだった。父親はパソコンには惜しみなく小遣いを使っていたらしく、
この機械には殆ど全ての機能が装備されている。メモリーもハードディスク容量も全
て十分すぎる位だった。中でも音楽とデジタルビデオの環境は抜群だった。DVDだ
ってパソコンの大画面で見た方が遥かにきれいである。音も昔から愛用してきた山水
の高級コンポからサラウンドで流れて来るので下手なホームシアターよりも臨場感が
あった。
 雅彦は母親が思ったより落ち込んでいないのが驚きでもあり、救いでもあった。こ
れからは母親と二人暮らしになる。いつまでもメソメソされては自分も滅入ってしま
うからである。もっとも、父親は少なくとも五年以上不倫を続けていたのだから、夫
婦と言ってもそれ程の強い結びつきはとっくの昔に無くなっていたのかも知れない。
リビングに降りて行くと麻美がお気に入りのカモミルティーとシュークリームを用意
して待っていた。
 「ねえ、もうすぐ春休みでしょ。落ち着いたら、どっか、旅行に行かない。」
 麻美がシュークリームを頬張りながら言った。雅彦の高校は来週の金曜日が終業式
である。
 「いいよ。少しは気晴らしもしなくちゃね。どこ行く。」
 「そうねえ、スキーって気分じゃないから、温泉かな。」
 「温泉じゃすること無くて退屈しそう。山奥だとインターネットも出来ないし。」
 「じゃ、海辺の温泉にしようか。それなら大丈夫でしょ。」
 「うん、ならいいかも。美味しい魚も食べられるしね。どこか探しておいて。」
 「そうするわ。三泊くらいしてもいいでしょ。」
 「いいよ。ついでにパソコン、教えて上げようか。」
 「あ、それがいい。だったら昼間も退屈しないわね。」
 雅彦は麻美が一生懸命に明るく振る舞っているのを見て目頭が熱くなった。母親と
言ってもまだ三十半ば。父親が生きている間は何となく頼り無いと思っていた雅彦で
ある。
 「じゃあ、もう少しパソコンの整理しちゃうね。」
 「もう行っちゃうの。」
 麻美が寂しそうな顔をした。
 「オッケー、もう一杯お茶付き合うよ。どうせなら、温泉の本とか無いの。二人で
選べばいいじゃない。」
 「うん、探してくる。」
 途端に麻美の顔が明るくなった。父親の本は麻美が片付けたので、その中から探す
つもりなのだろう。


第2話

 「今晩、一緒に寝て上げようか。」
 雅彦がからかい半分に言った。リビングから出掛かっていた麻美が振り返って赤ん
べえをした。
 「だーめ。そんなことしたら襲っちゃうぞ。」
 「あ、言えてる。」
 「こら。」
 麻美が吹き出した。つられて雅彦も笑い出す。
 「ったく、飛んでもない息子だわ。」
 「どっちが。」
 「兎に角、温泉のガイドブック探して来るわね。お茶飲みながら待ってて。」
 雅彦は友人や知り合いから、お前の母親は美人だと言われる。当の雅彦本人は毎日
見慣れた顔なので特別感じたことはなかった。ただ、自分の母親が普通だと言う感覚
はしっかり身に付いているようで、彼女にしたいと思う相手は学校でも飛び切りの可
愛い子ばかりだった。そのせいか、まだ恋人と言える段階まで付き合いが進展した相
手は一人もいなかった。
 「ねえ、こんなのがあったわ。」
 麻美が持って来たのは露天風呂ばかりを集めたガイドブックだった。
 「ふうん、パパにもそんな趣味があったんだ。でも、一度も連れてってくれなかっ
たね。」
 「そう言えばそうね。彼女でもこっそり連れて行ったのかな。」
 雅彦が一瞬ヒヤリとした。あのメールの圭子となら有り得る話しである。
 「ねえ、ここに折り痕が付いてるわ。パパ、行ったのかしらね。」
 それは十和田湖に近い青荷という温泉である。今でもランプの宿らしい。現在は冬
場も雪上車が入るので営業しているが、かつては十二月から四月までは閉じてしまう
文字通りの秘湯だった。宿の周りはイワナ釣りのメッカである。
 「かもね。でも、そこだと山ん中でしょう。まだ雪が凄いんじゃない。」
 「うん。それに青森じゃ遠いしね。じゃあ、こっちならどうかな。」
 麻美が示したのは伊豆の温泉だった。海岸に面しており、露天風呂や岩風呂もある
らしい。
 「いいんじゃない、そこで。伊豆ならそう遠くないし。」
 「明日にでも予約入れてみるわ。金曜の晩からでいい。」
 「どうせ休みなんだから平日に行こうよ。わざわざ土日の混んでる時に行かなくて
もいいんじゃない。その方が料金も安いし。」
 「それもそうね。じゃあ、日曜の晩からにしよう。」
 結局ああだこうだと麻美に付き合った雅彦はそろそろ眠くなって来た。時計を見る
と既に十二時を回っていた。
 「じゃあ、僕、お風呂入って寝るね。」
 「うん。久し振りの旅行、楽しみだわ。」
 雅彦が風呂から上がってくると麻美は既に寝室に行ったらしい。残っていたカモミ
ルディを飲み干して雅彦も寝ることにした。麻美の部屋を通り過ぎるとドアが開いて
おり、中から麻美が声を掛けて来た。
 「ねえ、添い寝してくれるんじゃないの。」
 「え、いいよ、そうしても。」
 「冗談よ、冗談。今度温泉に行ったらそうして貰うかも。」
 「はいはい。いつでもどうぞ。」
 雅彦が苦笑しながら麻美の部屋のドアを閉め、自分の部屋に入った。布団に入って
ウトウトした頃、ドアが微かにノックされた。
 「え、ママ。」
 雅彦が寝惚け声で聞いた。
 「うん。一緒に寝てもいい。」
 「いいよ。でも、こっちはベッドが狭いよ。」
 「いいの。何か寂しくて。」
 布団に潜り込んで来た麻美の肩を雅彦が抱くと、胸に顔を埋めて来た。
 「ごめんね。でも、一人じゃ心細いの。」
 麻美が雅彦の腰に手を回した。麻美の小さな身体を雅彦がしっかり抱き寄せる。母
親の身体はドキッとするくらい柔らかかった。変な気分にならないよう必死に気を逸
らせながら、雅彦が麻美の頭をそっと撫でた。
 翌朝、目覚めた雅彦がドキッとした。腕の中で母親がスヤスヤ寝息を立てていたか
らである。すぐに昨日のことを思い出した。覗き込んだ麻美の寝顔にはあどけなさす
ら漂っている。改めて間近に見る母親は信じられない位可愛い顔をしていた。
 「うーん。」
 麻美が寝惚けて雅彦に抱き付いて来た。半ば覆い被さった麻美の腿が雅彦の腹の上
に乗っている。朝の変化が起きかけているパンツの膨らみが麻美の腿に擦られて固く
なってしまった。弱ったな、と苦笑しながら雅彦が麻美の肩を抱き寄せる。この調子
で毎晩一緒に寝られると困った状態になりそうだった。
 「お早う。」
 いつの間にか麻美が目を開けていた。
 「あ、ママ、目が覚めた。」
 「うん。久し振りによく眠れたわ。こんなにグッスリ寝たの、初めてよ。暫く添い
寝してくれる。」
 「う、うん。構わないけど。」
 麻美が腰を少し動かした。その拍子に雅彦の前がピクンと跳ねてしまった。麻美は
チラッと雅彦の顔を見ただけで何も言わなかった。いつもの調子で冗談を言ってくれ
た方が助かるのだが、今日に限って麻美は何も言わない。何となく居心地が悪い雅彦
が身体をずらそうとした。麻美が追い掛けるように抱き付いて来た。
 「駄目、もう少しこうしてて。」
 困ったような顔をして雅彦がチラッと時計を見た。まだ起きるには三十分くらい間
があった。

 その日、午後遅くに雅彦が土曜日の部活から戻ると麻美は外出していた。ホッとし
た雅彦が父親の書斎に入り、パソコンのスイッチを入れた。麻美がいない方が何かと
都合が良いのである。真っ先に雅彦がメールをチェックする。「KK」のフォルダに
も新しいメールが一通届いていた。



第3話

「雅彦さん、メールありがとう。全然返事が来ないん
   で心配してたんです。
 でも、メール読んだんだから分かってるでしょうけ
   ど、私の方から電話なんか出来ないので困ってまし
   た。
 そうですか、賢治さん、亡くなってたんですね。知
   りませんでした。
 ごめんなさいね。私はあなたのパパと、ずっといけ
   ないことしてました。賢治さんが亡くなる二日前に
   もホテルで一緒だったんです。だから、あんなメー
   ル出しました。まさか、賢治さん以外の人に、まし
   て賢治さんの息子さんに読まれたなんて、恥ずかし
   くて顔が真っ赤になってます。目も涙で真っ赤です
   けど。
 一つだけお願いがあります。私のことはママに言わ
   ないで下さい。今更知ったところで、ママは悲しむ
   だけだし、隠しておいても、別に、もう何も無いこ
   とですから。と言うか、もうママはとっくにご存じ
   かも知れませんけど、今更表沙汰にしても仕方ない
   ことですし。
 もう一つ、ちょっと困ったことがあります。賢治さ
   ん、私の写真とかビデオ持ってる筈なんです。見ら
   れたら困るような、とっても恥ずかしいものなんで
   す。見ないでってお願いしたいけど、無理かしら?
   無理よね。でも、それだけは絶対にママに見せない
   で。一生のお願いです。
 もう少し時間が経ったら、雅彦さんにも会ってみた
   いと思っています。雅彦さんは幾つですか?中学
   生?それとも高校生かしら?文章が上手だから、き
   っと高校生ね。
 無理にとは言いません。もし会って貰えるなら、そ
   の時に連絡先を教えます。
 教えて下さって、とても感謝してます。   圭子」

 読み終えた雅彦がちょっとドキドキした。写真やビデオ、それも恥ずかしいものだ
とすると余計見たくなる。父親も雅彦が使っているのと同じ画像管理ソフトを使って
いた。そのプログラムを開くとサムネイルと呼ばれる小さな画像の見出しが次々と画
面に並んで行った。そのどれもがヌード写真だった。フォルダの名前は「KK」にな
っている。どうやら圭子さんの写真を集めたものらしい。この手のソフトでは最後に
見たフォルダが自動的に表示される。雅彦の父親はデートの余韻をこれらの写真で楽
しんでいたのだろう。
 最初の写真は正面から全身を写したものである。素早くその見出し画像をダブルク
リックすると画面一杯に大写しになった。父親の使っていたディスプレイは二十一イ
ンチなので凄い迫力である。その大画面の中で裸の女がこちらを向いて微笑んでいた。
 雅彦が唸った。やはり親子と言うべきか、顔立ちもスタイルも雅彦好みだった。優
しそうな大きな目が印象的で、歳は二十代後半くらいに見える。胸は大きい方ではな
いが、形がよく、乳首が小さかった。下に目をやると殆ど翳りが無く、僅かに切れ込
みが見えていた。
 雅彦が一旦全身の写真を閉じ、改めて見出しを見ていった。写真の枚数は数百枚に
及んでいる。父親の使っていたデジカメはプロ仕様の一眼レフなのでどの写真も鮮明
に写っていた。雅彦がもう一度全身の写真を開き、スライドショーのボタンを押した。
これは一定間隔で次々に写真を表示させる機能である。色々な角度から写された写真
が段々アップになり、徐々に女の部分が拡大して行く。脚を大きく開いたもの、四つ
ん這いになったところを真後ろから撮ったもの等、どれもその部分が中心になってい
た。
 やや厚ぼったい襞は周りよりも赤みが強い。襞の最上部は頭巾のような形で、その
中からピンク色の、全体のバランスから見たらやや大きめの粒が顔を覗かせている。
中には指先で襞を広げたアップ写真も含まれていた。への字に結んだ入り口。物欲し
そうにポッカリと穴が開いて奥の様子が見えているもの等、インターネットでこの手
の写真は見慣れた雅彦だが、出回っている無修正画像の殆どが外人で、日本人のその
部分がここまで鮮明に六百万画素の高解像度で写されたものは見たことが無い。産毛
の一本一本までがリアルで、湧き出た透明な滴が光っていた。
 雅彦は更にサブフォルダと呼ばれる小引き出しを開いた。フォルダの名前は「PI
PI」になっている。出てきたのは全てアップばかり。開いた襞の間から雫が垂れて
いたり、中には勢いよく放物線を描いて前に飛ばしているものさえあった。雅彦はP
IPIがフランス語でおしっこを表す幼児語だと気付いた。英語ならPEEである。
父親にこんな趣味があったのが意外でもあり、思わずニヤッとしてしまった。まさか
息子が自分のコレクションをこうして覗くなど夢にも思ってなかったに違いない。
 一通り圭子とおぼしき写真を見終わった雅彦が別のフォルダに移った。他の写真の
殆どがインターネット、それもニュースグループと呼ばれるところから集めたものら
しい。やはりアップ写真と放尿シーンが数多く収められていた。それでも、父親のコ
レクションには男女の絡みは全く見当たらなかった。指を入れている写真はあったが、
バイブなどをくわえ込んだものも見当たらない。その辺りに父親の趣味を見た思いが
した。
 雅彦が全く別の場所に「AI」と言うフォルダを見付けた。AIは愛だろうか。何
気なく開いたそのフォルダにもヌード写真やアップ画像が満載だった。こちらはかな
り毛深く、襞の色が黒ずんでいる。広げた襞の中は濃いサーモンピンクだった。これ
らの写真は色調と解像度が他とは違っていた。どうやらイメージスキャナで取り込ん
だものらしい。元は発色の悪いポラロイド写真のようである。もしかしたらデジカメ
が出来る以前に撮られた写真かも知れない。
 このフォルダの写真を見て行くと何となく見覚えのある顔立ちばかりだった。雅彦
が上半身を正面から写した写真を開いてハッとした。それは母親の若い頃の写真だっ
た。母親の旧姓は五十嵐である。「AI」は五十嵐麻美のイニシアルで、これらの写
真は結婚前に父親が撮ったものに間違い無さそうだった。
 麻美は今でも童顔で愛らしい顔立ちをしている。その母親が真っ黒な毛に囲まれた
生々しい女の姿をしていると知って雅彦が思わず生唾を飲み込んだ。圭子のきれいな
その部分にも魅力を感じたが、母親の、どちらかと言えば女を強く意識させる姿も雅
彦には魅力的に思えた。最後の方に麻美が大きな粒を露出させている写真が出てきた。
それは親指の第一関節位ありそうで、直角に襞の中から飛び出していた。
 雅彦がハッとした。今朝、布団の中でパジャマのボタンだと思ったあの突起。実は
麻美の身体の一部に他ならなかったのである。しかも、大きく固くなっていたと言う
ことは、雅彦だけでなく麻美も負けず劣らず興奮していたことを意味している。まだ
未経験の雅彦でもその位の知識は持ち合わせていた。
 そこまで考えた雅彦がもう一度ドキッとした。こんな写真、見なければ良かったと
後悔した。麻美は今晩も一緒に寝る積もりだろう。その生々しいものが自分の腿や、
場合によったら一番敏感なところに押し付けられるのである。冷静でいられるかどう
か、雅彦は全く自信が持てなかった。


第4話

 改めて見る麻美の若い頃はとても魅力的だった。特に悩ましげな視線を送ってくる
その目が雅彦の心を乱した。若き日の母親に恋してしまった自分に雅彦は動揺しなが
らも次々と写真を開いて行った。女の部分の大写しは沢山あったが、流石に放尿シー
ンは一つもなかった。安心したような、ガッカリしたような、複雑な気分で雅彦がも
う一度最初からスライドショーを実行して母親の姿を目に焼き付けて行った。何度見
ても麻美の若い姿は魅力的だった。
 「ただいま。雅彦、帰ってるんでしょ。」
 麻美の声に雅彦が慌てて写真を消した。ドアが開くのと画面から麻美の姿が消える
のが殆ど同時だった。
 「何か面白いの、見付かった。」
 雅彦の慌て振りを見て麻美が意味ありげな視線を送ってきた。
 「え、うん。ちょっとね。」
 「もしかして、エッチな写真でもあったんじゃないの。良かったら後で見せてね。」
 「え、まあね。」
 「ちょっと挨拶回りに行ってきたの。お土産に鶴瀬の豆餅と大福買ってきたから、
食べない。」
 「食べる、食べる。あそこの豆餅、美味しいんだよね。」
 鶴瀬は湯島に古くからある和菓子の老舗で、ここの豆餅にはえんどう豆がビッシリ
入っている。雅彦の大好物だった。
 「大福もよ。さ、降りてらっしゃい。」
 雅彦の脳裏にまだ麻美の生々しい姿が焼き付いていた。短めのスカートの中に、あ
の毛むくじゃならなものが包まれていると思うと、固くなってくるパンツの中を抑え
るのが大変だった。麻美はついでに買い物もしてきたらしい。紙袋からお揃いのカッ
ターシャツを出して並べて見せた。
 「ねえ、今度の旅行、これ着て行こうね。」
 「え、ママとペアルックで行くの。」
 「大丈夫よ。上に着るのはそれぞれ違うんだから。あ、これも。これなら外から見
ても分からないでしょ。」
 麻美が紙袋の底から小さな包みを取り出した。ペアルックの下着だった。どちらも
かなり際どいビキニである。
 「どうかしてるよ、ママ。それって、恋人同士が履くもんだよ。」
 「うん。そうよ。今度の旅行はその積もりで行くの。」
 「困ったママ。」
 雅彦はその下着を見せ合っている二人の姿を想像して思わず顔を赤くした。こんな
小さな下着では麻美の濃い茂みがはみ出してしまうだろう。
 「やだ、顔が赤くなってるわ。」
 麻美がそう言って雅彦をからかった。
 その晩も麻美は雅彦のベッドに潜り込んできた。今日は最初から腰を擦り付けて来
るので、どうしても前が強張ってしまう。麻美の方もそれは同じらしく、二人の固く
なったものが触れ合った。それ以上の気配は見せなかったが、麻美は時々固くなった
突起を雅彦に擦り付けた。その度に我慢が限界に来た雅彦がヒクついてしまう。それ
を感じた麻美が更に強く抱き付いて来る。やがて麻美が静かな寝息を立て始めたが、
雅彦は暫く寝付けず、悶々とした時間を過ごすハメになってしまった。

 翌日、雅彦はもう一度圭子にメールを送った。

 「圭子さん、今日は。雅彦です。
ごめんなさい、写真見ました。凄い美人でビックリし
  ました。
写真、消さないで持っててもいいでしょう?ママは勿
  論他の人にも絶対に見せません。約束します。
インターネットのヌード写真ってわざとらしいのが多
  いけど、圭子さんのは全然そんな感じがしないのでき
  れいだと思います。
この写真、全部パパが撮ったんですね?僕も早くそう
  言うことが出来る相手に巡り会いたいと思います。圭
  子さんにも一度会ってみたいけど、今すぐは無理です
  よね?当分は写真で我慢します。でも、おかずになん
  かしませんから安心して下さい(笑)。約束します。
時々メールしてもいいですか?落ち着いたら、またパ
  パのことを話しましょう。 雅彦」

 その後、圭子から返事が来ることは無かった。怒らせたかなと心配したが、また続
けてメールしても余計に気を悪くするかも知れないので返事が来るまで待つことにし
た。麻美と抱き合って寝る落ち着かない日が続き、終業式も終わり、ようやく春休み
になった。
 「いよいよ明日ね。楽しみだわ。」
 麻美は旅行の準備に余念がない。雅彦にと買ってきたブレザーやズボン、靴まで全
て新調してしまった。それらを身に付けた雅彦は歳よりも上、ちょっと見には大学生
でも通用しそうだった。反対に麻美はラフなジーンズと派手なジャンパーを買ってき
た。束ねていた髪を解くと実際の歳よりも十くらい若返って見えた。
 「ね、これなら恋人同士でも立派に通用するでしょ。」
 はしゃいでいる麻美が雅彦には眩しかった。こんなにハイになった母親を見たこと
がない。何か言ってまた落ち込まれてもまずいので雅彦は何も言わなかった。その晩
の麻美はこれまでに増して腰を激しく擦り付けてきた。
 出発前に雅彦がメールをチェックしたが圭子からの返事は届いてなかった。少し気
になったが、今はどうすることも出来ない。二人分のノートパソコンを用意し、自分
の方にはこっそりと母親の写真も入れてしまった。約束通り圭子の写真をおかずにす
ることはなかったが、実は母親の写真がその役目を果たしているのである。
 東京駅から直通の特急に乗った二人はまるで修学旅行のようにはしゃいでいた。傍
目には仲の良い姉弟か、ちょっと歳の離れた恋人同士にしか見えないだろう。事ある
ごとに身体をすり寄せる麻美に雅彦はずっと緊張しっぱなしだった。列車がトンネル
に入った瞬間、ほんの僅かの間電気が点くのが遅れた。その暗闇の中で麻美がいきな
り雅彦にキスをした。それはほっぺたにする親子のものではなく、唇と唇が触れ合う、
恋人同士のキスだった。電気が点く前に麻美は素早く離れたが、雅彦の心臓が早鐘の
ように高鳴っていた。
 「ね、来て良かったでしょ。」
 麻美が笑いながらそう言って雅彦の肩に頭を載せてきた。髪の甘い匂いが雅彦の身
体を熱くした。
 駅から宿まではタクシーで十分程だった。車に揺られながら、麻美はその間ずっと
雅彦の手を握りしめていた。手の平が汗ばんできても麻美は決して離そうとしなかっ
た。
 宿は古びた木造で、入れ違いに帰る客で玄関がごった返している。部屋に落ち着い
たところで雅彦が様子を見に行ったが、お目当ての露天風呂は結構混んでいた。
 「まだ大勢入ってるよ。女湯の方は分からないけど。」
 部屋に戻った雅彦が報告した。麻美が予約しておいた部屋は内風呂付きだった。
 「露天風呂は夜のお楽しみに取っておくか。」
 そう言って立ち上がった麻美がスルスルと服を脱ぎ始めた。
 「折角二人で来たんだから、一緒に入ろう。」
 あっと言う間に裸になった麻美が風呂場に入って行った。残された雅彦が迷ってい
ると麻美が顔を出した。
 「いいお湯よ。さ、早く脱いで。」


第5話

 一瞬見えた麻美の茂みは写真の通り黒々としていた。仕方ないと言う表情で立ち上
がった雅彦も裸になり麻美の後に続いた。タオルは麻美が持っていってしまったので
隠しようがない。手で隠すのも変なので、なるべく自然に振る舞いながら浴室に入っ
た。案外小さな風呂場で浴槽も家のと大差なかった。
 「全然石鹸が効かないわ。」
 麻美がサッと身体を流して湯船に浸かった。雅彦も簡単に湯を被って続いた。
 「これじゃ、うちの風呂と大差ないわね。」
 一応向き合って入れる広さはあるのだが、膝を曲げないとお互いにくっついてしま
う。
 「ちょっといい。」
 麻美が立ち上がって姿勢を入れ替えた。今度は後ろ向きにしゃがんで来る。雅彦が
脚を開くとその間に尻を入れてきた。
 「いい気持ち。」
 麻美が寄り掛かって来たので雅彦が慌てて両手を上に挙げた。麻美がその手を自分
の腰に回す。二人の肌が密着した。
 「狭いお風呂も捨てたもんじゃないわね。」
 麻美がそう言ってクスッと笑った。固くなった雅彦が麻美の尻を突き上げたのであ
る。ヌメッとした感触が雅彦を慌てさせた。母親の女の部分に違いないと思った。
 麻美が立ち上がって浴槽から出た。腰を屈めた拍子に写真で見慣れた景色が雅彦の
目の前を横切る。その部分は昔と変わらないように思えた。
 雅彦が麻美とは目を合わせずに湯から上がった。コチコチになったモノが真上を向
いてしまっていたが、隠せば余計変な雰囲気になってしまう。麻美がチラッと見て、
慌てて目を逸らせた。
 「立派になったわね。」
 「お陰様で。」
 先に吹き出したのは麻美の方だった。
 「何がお陰様よ。あ、そっか、私を見てこんなになったんだ。」
 「うん、だからお陰様。」
 「く、苦しい。笑かさないで。」
 男と女の間では会話の呼吸がとても大切である。もし、ここで会話が途切れると気
まずい雰囲気は避けられない。しかし、雅彦は麻美譲りの軽妙なやり取りを自然に身
に付けていた。それが今、二人を救ったのである。
 風呂から上がった二人が浴衣と丹前を羽織って宿の外に出た。そろそろ夕日が傾き
山の端に消えようとしている。海辺の道を二人が手を組みながら歩いた。麻美が磯に
降りようとした。雅彦が先に降りて麻美の身体を受け止める。その度に麻美が抱き付
いてきた。有り触れた海辺の景色が一生の思い出になりそうだった。
 陽も暮れたので二人が宿に戻った。あらかじめ食事の時間を遅めに頼んでおいたの
である。まだ表が明るいうちに夕食を出されても味気ないことこの上ない。部屋に運
ばれてきた料理は豪華なものだった。雅彦がちょっぴり宿代を心配したが、麻美はそ
んな様子もなく、また特別料理を注文してしまった。アワビの踊り焼きである。二十
センチ以上ありそうな大きなアワビが火に掛けられてクネクネと動いていた。その黒
い姿が雅彦に麻美のあの部分を連想させた。
 「ふふ、何か嫌らしい動きね。」
 麻美も同じことを考えたらしい。雅彦は浴衣の前の膨らみを隠そうと必死だった。
 麻美は決して箸を取ろうとはしなかった。代わりに口をアーンと開けて雅彦にせが
んだのである。ビールも口移しで飲ませてと甘えてきた。雅彦が抱き寄せて唇を重ね
ると麻美が舌を絡めてきた。
 「何か、新婚旅行みたいで楽しい。」
 ようやく口を離した麻美が雅彦のおでこを指先で突きながら言った。
 「来て良かったでしょ。」
 浴衣の胸元がはだけて白い胸が覗いていた。隣に座っている雅彦が見下ろすと乳首
が二つとも丸見えである。ビールが回って来たのか、麻美が膝を崩した。今度は乱れ
た裾から真っ白な腿が剥き出しになり、動いた拍子に黒い茂みまでがチラッと顔を覗
かせた。風呂場で見た時はさほどでもなかったが、こうして浴衣からこぼれる裸は妙
に刺激的なものである。雅彦も素肌の上に浴衣を羽織っただけなので、動いた拍子に
合わせ目から固くなったものが頭を覗かせてしまった。麻美は横目でそれを見たが、
何も言おうとはしなかった。
 「失礼します。」
 女中が膳を下げに来た。麻美が慌てて居住まいを正す。雅彦も浴衣の前をかき合わ
せて自分の席に戻った。
 「ご馳走様、とても美味しかったわ。」
 麻美が膳の下に用意してあったティッシュの包みを女中に渡した。心付けである。
その女中は形ばかりの辞退を見せたが、麻美が重ねて押し付けると案外素直に受け取
った。
 「申し訳けありませんが、本日は清掃のため女性用の露天風呂はご利用出来ません。
他には後二組のお客様だけですので、時間をずらせて男性用をご利用下さい。」
 女中がちょっと間を置いてから付け加えた。
 「でも、その方がおよろしいでしょう。」
 女中は二人の親密な空気を敏感に感じ取ったようだった。
 「ええ、その方が楽しいわね。」
 麻美がニッコリ笑って相槌を打った。
 「お風呂にいらっしゃっている間にお床を述べさせて頂きます。ごゆっくりどうぞ。」
 麻美がサッと立ち上がった。その拍子に黒い茂みがチラッと見えた。女中が一瞬卑
猥な目で雅彦を見た。

 男用の露天風呂だから脱衣所も男用である。幸い誰も居なかったので急いで裸にな
り、内湯の大浴場を抜けて露天風呂に向かう。露天風呂と言っても屋根付きで岩をく
り抜いただけの浴槽が裸電球の下で湯気を立てていた。目の前は海で波の音だけが聞
こえている。あちこちに漁船らしい灯りがまたたいていた。
 「ねえ、さっきの女中さん、何か勘違いしたみたいだね。」
 並んで湯に浸かりながら雅彦が言った。
 「どう言う風に。」
 麻美が振り向いた。
 「だって、ママ、浴衣の下に何も履いてないとこ見せちゃうんだもん。」
 「あら、見えてた。」
 「うん、ママ、毛深いから目立つんだよ。」
 「そうなの。水着を着る時なんか大変なのよ。お毛々がはみ出しちゃって。」
 麻美が指先で摘んで見せた。つられて覗き込んだ雅彦が慌てて顔を背けた。
 暫くすると麻美と同じような年配の男がタオルで前を隠しながら近付いて来た。す
ぐ後から高校生位の女の子が付いてくる。こちらは全然隠していなかった。浴槽の縁
まで来た女の子が雅彦達に気付き、慌てて両手で前を隠した。その仕草がおかしかっ
たので麻美がケラケラ笑った。
 「失礼します。」
 男が湯を被って麻美の隣に入って来た。
 「どうぞ、ご遠慮なく。」
 麻美が雅彦の方に寄った。女の子もサッと身体を流してから男の横に滑り込んだ。
考えてみたらお互いに不釣り合いなカップル同士だった。
 「お嬢さんですか。」
 麻美が聞いた。
 「ええ。」
 男が面映ゆそうな顔で答えた。
 「これは息子です。」
 麻美が雅彦を指差した。
 「お互いに、親子で混浴という訳ですね。」



第6話

 「ええ、女性用は清掃中ですって。」
 「らしいですね。」
 四人が黙って湯に浸かっていると、また一組、中年の夫婦らしい客が入ってきた。
女中の話からすると、これが今晩の泊まり客全てと言うことになる。雅彦が場所を空
けるために横にずれた。娘と父親も同じように横に移動する。反対側の縁で雅彦と女
の子が肩を並べることになった。お互いに相手の身体をチラチラ横目で窺っていた。
 雅彦達の正面に後から来た二人が入ってきた。一瞬見えた女の股には毛が一本も無
かった。女の子が珍しそうに覗き込んだので女が顔を赤らめて手で隠した。雅彦は女
の子の注意が正面の女に向けられている間にその子の身体を観察した。胸は小さめだ
が乳首は麻美より大きい。女の子も毛は薄く、クッキリ入った溝が印象的だった。
 雅彦の視線に気が付いた女の子がちょっと恥ずかしそうな顔をした。それでも嫌が
っている表情ではない。ニコッと笑った目が雅彦の前に注がれた。今度は雅彦が顔を
赤らめた。
 「お先に。」
 麻美が雅彦を促して湯から上がった。雅彦が湯から出ると女の子の視線が腰の辺り
絡み付き、すぐに顔を背けた。
 浴衣を羽織りながら雅彦は腑に落ちない気持ちで一杯だった。中年の夫婦らしいカ
ップルはともかく、父親と一緒に入ってきた女の子が殆ど自分の裸を気にしている様
子を見せなかったからである。父親の方も娘の裸を他人、それも若い男の子の目に晒
しても平気なものだろうか。そう言えば麻美も、娘の父親も自分の身体を全く隠そう
とはしなかった。偶然出会った同士ならもう少し違った態度を取ってもいいような気
がした。
 首を捻りながら部屋に戻った雅彦がノートパソコンを携帯に接続してメールをチェ
ックした。圭子からの返事は届いてなかった。雅彦が友達にメールを書いていると麻
美が布団から手招きした。
 「もう寝ない。」
 麻美は浴衣を脱いで裸のまま布団に入っていた。二組の布団はピッタリくっつけて
敷かれている。多分、先程の女中が気を利かせたのだろう。
 「まだ八時じゃない。もうちょっと。メール書いてからね。」
 「うん、いいわ。でも、先に寝ちゃうかもよ。」
 雅彦が友人からのメールに返事を書いていると麻美が寝息を立て始めた。起きる様
子がないのを横目で確かめた雅彦が麻美の写真を画面一杯に映し出した。このまま麻
美と一緒に寝ると困った状態になりそうなので、その前に自分で始末しようと思った
のである。その部分が大写しになったものを次々に開き、固くなった前を思い切り握
りしめた。ギリギリまで我慢してトイレに駆け込む積もりだった。
 「ふふ。」
 耳元で麻美の声がしたので雅彦が慌てて振り向いた。いつの間に起きたのか、麻美
が肩越しに画面を覗き込んでいた。
 「雅彦もこう言う写真見るようになったんだ。でも、凄いわねえ。ぼかしも何も無
しで、しかもこんなドアップ。どこで手に入れたの。」
 慌てた雅彦が写真を閉じた。
 「駄目、もうちょっと見せて。」
 麻美が雅彦の肩に手を掛けて揺すった。
 「参ったなあ。」
 雅彦が左手で顔を撫でながら、もう一度写真を開いた。言われるままに開く写真の
全てがその部分のドアップばかりだった。
 「ねえ、これ、同じ人の写真よね。」
 麻美はまだそれが自分の写真だとは気付いていない。雅彦が次の写真を開いた途端、
思わず目をつぶった。開いた脚の向こうに麻美の顔が写っていたのである。
 「ちょ、ちょっと。これって、もしかして、私。」
 雅彦の肩に置かれた麻美の手に力が入った。雅彦は振り返ることが出来なかった。
 「ねえ、こんな写真、どこにあったの。あ、パパのパソコンか。」
 雅彦は何も言えず、じっと画面を見詰めていた。
 「そう言えば、昔、まだパパと結婚する前だけど、パパがポラロイドで恥ずかしい
写真沢山撮った覚えがあるわ。これ、その時のだわ。」
 「これ、ママが幾つの時。」
 「確か二十歳か二十一位よ。」
 「全然変わってないね、ママ。」
 「ちゃんと見てもいないくせに、お世辞なんか言っちゃ駄目。」
 言ってしまってから、麻美がハッとしたように口をつぐんだ。重苦しい沈黙の後で、
麻美が雅彦の両肩に置いた手を揺すった。
 「マーちゃん。」
 そんな呼び方は子供の時以来だった。
 「ねえ、もう一度。最初から全部見せて。」
言われた通り、雅彦が最初から写真を開いて行った。前半は顔が写ったもの多い。
雅彦が上半身の写真が出たところで動きを止めた。
 「この写真のママが一番きれい。」
 麻美が耳元で溜息をついた。
 「本当にそう思う。」
 「うん。」
麻美が雅彦の耳たぶを軽く噛み始めた。
 「そんなこと言われたら、マーちゃんが欲しくなっちゃうよ。」
 雅彦は答えられなかった。下半身は既に母親が欲しくて我慢出来ない状態になって
いたが、心のどこかで、そんなことしたらママがママじゃなくなってしまう、と言う
自制の気持ちが働いていた。
 「マーちゃん、経験ある。」
 麻美が耳元で囁いた。雅彦が首を何度も横に振った。
 「そっか、初めてがママじゃマズイかな。」
 また雅彦が首を横に振った。
 「嘘、マーちゃんはそれでもいいの。」
 今度は首が二度、縦に振られた。
 「経験したいから、それだけじゃないよ。」
 雅彦がボソッと言った。
 「この写真見てから、ママがどうしようもなく好きになっちゃったんだ。」
 雅彦がもう一度麻美の上半身が写った写真を画面に呼び出した。
 「私、もう、こんなに若くないよ。」
 雅彦はほっぺたに生暖かいものを感じた。麻美の涙だった。
 「見せて。」
 雅彦が小さな声で呟いた。
 「え、何を。」
 「今のママが見たい。」
 「本気。」
 「うん。ママが見たい。」
 「これとか、他の写真みたいに、全部見たいの。」
 「うん。」
 「見るなら覚悟してね。見た後で嫌だなんて言ったら、承知しないわよ。」
 「分かってる。」
 「マーちゃんに見せちゃうのか。」
 麻美が雅彦の耳元で笑った。
 「じゃ、ちょっと待って。」
 麻美が雅彦の首に回していた腕を解いた。サラサラと浴衣を脱ぐ音が聞こえた。


第7話

 「いいわよ。こっち向いて。」
 雅彦が振り返ると目の前に麻美の白い身体があった。
 「どう。」
 「ママ、きれい。」
 「ありがと。好きなだけ見ていいわよ。」
 「ちょっと待って。」
 雅彦がバッグからデジカメを取り出した。父親が使っていたものである。これなら
ポラロイドよりもきれいな写真が撮れるはずだった。
 「やだ、写真撮るの。」
 麻美が恥ずかしそうな顔をした。
 「うん。このカメラならきれいな写真が撮れるよ。今日の記念にママの全てを撮り
たい。」
 「誰にも見せないって約束できる。」
 「当たり前じゃない。ママがいいって言っても、誰にも見せないよ。」
 「何か緊張するわね。」
 それでも麻美は楽しそうだった。雅彦が麻美の周りを回りながら次々とシャッター
を切って行く。その度にフラッシュが光った。
 「ねえ、今度は脚開いて。」
 「こう。」
 麻美が両脚を前に投げ出した。白い身体と黒い茂みのコントラストが鮮やかだった。
 「もうちょっと。」
 「やだ、全部見えちゃう。」
 それでも麻美は雅彦が言う通りに脚を大きく開いた。茂みの中で黒ずんだ襞が左右
に割れた。大きめの突起はまだベールに包まれていた。
 「ねえ、ここ。もうちょっと大きくならない。」
 雅彦が指先でチョンと突いた。
 「わ、駄目。感じちゃう。」
 麻美が身体を捩った。
 「大きくって。」
 「こんな感じに。」
 雅彦がパソコンに映し出した写真を見た麻美が顔を赤くした。
 「え、無理よ。」
 「何で。」
 「うーん。」
 麻美が首を傾げて雅彦の目を見詰めた。
 「本当にこうしたいの。」
 「うん。」
 「じゃあ、ママの言う通りにして。」
 麻美が雅彦の手を取って胸に押し当てた。
 「先にここをコリコリして。」
 雅彦が生唾を飲み込みながら麻美の乳首を摘んだ。
 「あ、」
 麻美の身体がピクンと震えた。既に乳首はツンと飛び出して固くなっている。
 「もうちょっと強く。」
 「こう。」
 「もうちょっと。」
 雅彦がカメラを置いて両手で二つの乳首を揉み始めた。写真を撮るため、という建
前はとっくにすっ飛んでいた。
 「素敵・・・」
 パックリ割れた襞から透明な密が溢れ始めた。
 「ねえ、大きくならないみたい。」
 雅彦が割れ目を覗き込んだ。
 「しょうがないわねえ。吸ってくれたら大きくなるかも。」
 「え、吸うって、ここ。」
 「うん。嫌。」
 雅彦が何度も首を横に振った。
 「いいの。」
 「だって、大きくしたいんでしょ。」
 雅彦が大きく頷いて麻美の前に腹這いになった。両手で茂みを分け、現れたベール
にそっと唇を付ける。舌の先でそのベールをすくい上げると固く張りつめた粒がよう
やく姿を現した。
 「素敵・・・」
 麻美が膝を目一杯広げ、心持ち尻を浮かせて雅彦の口にその粒をグリグリと押し付
けた。
 「今晩は、ちょっといいですか。」
 不意に部屋の外から声が掛かった。男の声だった。
 「は、はい。」
 慌てて顔を上げた雅彦が答えた。
 「先程露天風呂で一緒になった者です。」
 「ちょ、ちょっと待って下さい。」
 慌てて飛び起きた麻美が脱ぎ捨てた浴衣を持って風呂場に逃げ込んだ。雅彦も慌て
て浴衣の前をかき合わせ、入り口の鍵を開けた。
 「はい、どうぞ。」
 戸を開けると先程風呂で一緒になった親子が浴衣姿で立っていた。
 「娘が遊びに行きたいと言うもんですから。」
 「は、はい。どうぞ。母は今風呂に入ってます。」
 慌てて取り繕いながら雅彦が二人を部屋に入れた。明るい電気の下で見るその娘は
ビックリする程可愛かった。娘がパソコンの前に座った。その目が一瞬点になった。
(しまった)
 雅彦の頭にカーッと血が上った。さっき麻美に大きくなった突起の写真を見せたま
まになっていたのである。畳の上にはデジカメが転がっていた。
 「ふうん、凄いカメラ持ってるんですね。」
 男がそのカメラを手に取った。ああ、と女の子が納得したような顔をして雅彦に微
笑んだ。雅彦はどう答えていいか分からず、そっと手を伸ばしてパソコンの蓋を閉め
た。女の子がニヤッと笑った。
 「すいません、お風呂使ってて。」
 麻美が出てきた。顔が真っ赤になっていた。
 「こちらこそ、こんな時間にすみません。娘が来たいってねだるもんですから。」
 「きれいなお嬢さんですね。お幾つかしら。」
 「まだ高校生になったばかりです。」
 「あら、雅彦と同い年。」
 「ほう、大学生かなって思ってました。」
 男は相沢進、娘は久仁子だと名乗った。麻美も自分たちの名前を告げた。
 久仁子は大きな目をしていた。雅彦は誰かに似てるなと思った。唇が薄く、真ん中
がちょっぴり突き出ている。そのせいで美人と言うよりも可愛さが目立つ顔付きであ
る。クルクルよく動くその大きな瞳が時々雅彦の目をジッと見据えた。時折視線が下
に行くので雅彦が前を気にし始めた。少しは治まっていたが、それでもまだ半ば上を
向いたままだったのである。
 「ちょっと、お風呂に行ってきます。」
 息苦しくなった雅彦がそう言って立ち上がった。



第8話

 「私も一緒に行っていい。」
 久仁子が父親に聞いた。
 「行っておいで。」
 雅彦は父親が呆気なく許したので面食らった。若い男と女が二人だけで入浴するの
である。しかも、泊まり客は他に一組の中年夫婦だけ。二人っきりの可能性が大きい
のに父親は全然気にしていないようだった。
 「行ってらっしゃい。私たちはもう少しお話してるから。」
 麻美もそう言って雅彦にタオルを投げてよこした。麻美たちも部屋で二人っきりに
なる。二人ともそれを望んでいるように見えた。
 「行こう。」
 久仁子が雅彦の手を引いた。部屋に残して行く二人のことも気になったが、久仁子
と二人きりで風呂に入れるこのチャンスを逃す気は全然無かった。
 雅彦と久仁子が裸になって露天風呂に行くと先程の中年夫婦が入っていた。湯の中
で女が男に跨っていたが、二人が来るのを見て慌てて離れた。雅彦は男のものがしっ
かり上を向いてるのを見逃さなかった。軽く挨拶を交わして雅彦と麻美が湯に入ると
二人がそそくさと出て行った。
 「ねえ、あの二人、エッチしてたみたい。」
 久仁子が笑った。
 「そうみたい。」
 雅彦が照れながら答えた。
 「雅彦くんはエッチしたことある。」
 久仁子が聞いた。
 「ううん、まだ。」
 「本当にまだなの。」
 久仁子がジッと雅彦の目を覗き込んだ。もう一度雅彦が頷くと、うんうんと頷くよ
うに何度も首を振った。視線が湯の中の雅彦に注がれていた。
 「そう言う久仁子ちゃんは。」
 雅彦が逆襲に出た。お返し、とばかりに久仁子の腰に視線を落とす。ちょっと考え
てから久仁子が答えた。
 「私もまだ。どころでさっきの写真だけど、あれ、雅彦くんが撮ったの。」
 「ううん、あれは昔、ママが若い頃にパパが撮った奴だよ。」
 「パパは一緒に来ないの。」
 「ちょっと前に死んじゃったんだ。高速でトラックに追突されて、車が燃えちゃっ
て。テレビで見てない。」
 「あ、あの事故。」
 「うん。」
 「大変だったのね。」
 「うん。ようやく少し落ち着いたんで、ママと二人で気晴らしに来たんだ。」
 「ふうん。でも・・・」
 「でも、何。」
 「さっきの写真、凄かった。」
 雅彦は何と答えていいか分からなかった。
 「ママのあんな写真みても平気なの。」
 「どう言う意味。」
 「エッチしたくならない。」
 ちょっと考えてから雅彦がコクッと頷いた。
 「じゃあ、まだエッチしたこと無いなんて嘘じゃない。」
 「嘘じゃないよ。まだママとエッチなんかしてないから。」
 「ふうん。」
 久仁子が疑わしい目つきで雅彦を見た。
 「じゃあ、さっき私たちが来なかったら。」
 雅彦が答えに詰まった。久仁子の言うとおり、もしあのまま続いていたら、多分そ
う言うことになっていた筈である。
 「ねえ、何してたの。パパが声掛けたとき。」
 「写真撮ってたんだ。」
 「ヌード。」
 「うん。撮る準備してた。」
 「パソコンみたいな写真。」
 「うん。」
 「凄いエッチ。」
 久仁子が可笑しそうに笑った。
 「私もあんな写真撮って欲しいな。」
 「え、」
 雅彦が驚いて久仁子の身体を覗き込んだ。
 「やだあ、エッチィ。」
 久仁子が半ば開いていた足をキュッと閉じた。
 「ね、撮って。」
 久仁子がもう一度閉じた脚を開いて見せた。
 「何で。」
 「記念にしたいの。」
 「何の記念。」
 「ひ・み・つ。」
 「パパに叱られない。」
 「大丈夫よ。だって、こうして二人だけでお風呂入っても許してくれてるでしょ。」
 「うん、僕もちょっとビックリした。」
 「雅彦くんのママだって怒らなかったじゃない。」
 「そう言えば、久仁子ちゃんのママは。」
 「ママは、ずっと昔に家から出て行っちゃったの。パパとは上手く行かなかったみ
たい。」
 「そうなんだ。変なこと聞いちゃって、ごめん。」
 「ううん、全然気にして無いから。それより、雅彦くんのパパの方が可哀想。」
 久仁子が浴槽の縁に腰掛けた。
 「私もさっきの人みたいに、ここ、剃っちゃおうかな。」
 久仁子が自分の毛を摘んで見せた。雅彦が並んで腰掛けると久仁子が自分と雅彦を
見比べた。
 「男の子って面白い。でも、パパとは全然違うのね。」
 「久仁子ちゃんだって、大人の人とは違う。」
 「誰と比べてるの。ママ。」
 「ううん。ママは凄く毛深い。」
 「そうみたい。色も全然違うし。」
 久仁子はパソコンの写真をしっかり見たようだった。
 「見て。」
 久仁子が脚を開いて見せた。色や形がどことなく圭子に似ているような気がした。
 「きれい。」
 思わず雅彦が手を出した。指が触れた瞬間、久仁子がビクッと震えた。
 「私も触っていい。」
 雅彦が返事する前に久仁子の手がサッと伸びて雅彦を握りしめた。



第9話

 「こんなのが付いてて、邪魔じゃない。」
 「普段はもっと小さくなってるよ。」
 「何か、おチンチンって不思議。」
 暫くすると雅彦が慌てて久仁子の手を剥がそうとした。
 「どうしたの。」
 久仁子が不思議そうな目で雅彦を見た。
 「ちょっとヤバイ。」
 「ヤバイって、あ、セイシが出ちゃうんだ。」
 雅彦が力無く頷いた。
 「見せて。」
 「え、そんなこと。」
 「いいから見せて。私、まだセイシがでるのって見たこと無いの。」
 仕方なく雅彦が湯船から足を抜いて洗い場の方を向いた。浴槽の湯を汚したくなか
ったのである。
 「どうしたらいいの。」
 「もっと強く握って。うん、手を動かして。もっと強く。」
 久仁子が言われるままに手を動かした。ぎこちない手の動きに僅かな痛みすら覚え
たが、その痛みすら雅彦には心地よく思えた。
 「イ、イク。」
 雅彦が久仁子の手を上から包み込んだ。次の瞬間、二人の手の間から一塊りの滴が
飛び出した。
 「わ、凄い臭い。」
 久仁子が食い入るような目で自分の手元を見詰めた。
 ようやく落ち着いた雅彦が身体を流して湯船に浸かると久仁子がピッタリ寄り添っ
て来た。
 「気持ちよかった。」
 久仁子がそう言って雅彦の手を自分の方に導いた。
 「私も気持ちよくなりたい。」
 湯の中で探った久仁子の割れ目はしっかりと口を閉じていた。雅彦の指がなぞると
久仁子がスッと脚を開いた。
 「いい気持ち。」
 雅彦は急な展開に戸惑いながらも指先に触れる久仁子の柔らかな感触に我を忘れた。
それでも無意識の内につい先ほど触れた母親の柔肌と比べていた。久仁子の方が幾分
固いような気がした。一番大きな違いが襞に埋もれた粒で、麻美と比べたら久仁子は
無いに等しい。
 流石に露天風呂でのこれ以上の行為は無理である。手を離した雅彦が久仁子をしっ
かり抱きしめ、唇を重ねた。
 「戻ろうか。」
 「うん。パパ達、どうしてるかしら。後から来ると思ったんだけど。」
 「二人だけにして、やばかったかな。」
 「それは私たちの方じゃない。」
 「言えてる。」

 素肌の上に浴衣を羽織った二人が戻ると部屋の鍵が掛かっていた。
 「やだ、パパ達、やってるみたい。」
 久仁子が笑いながらノックすると暫く間があって戸がスッと開いた。開けたのは麻
美だった。何も身に着けていなかった。
 「入って。」
 と麻美が二人を促した。女中でも通り掛かると面倒なことになる。二人が今まで抱
き合っていたのは一目瞭然だった。それを示す匂いが部屋に充満している。それでも
久仁子は嫌な顔一つしない。雅彦には意外だった。
 「暑いわね、また汗でびっしょり。」
 そう言って久仁子が裸になった。雅彦一人が浴衣のままだった。
 「どうせだから、マーちゃんも脱いじゃえば。」
 麻美が笑った。
 「どうだった。」
 久仁子が父親にウィンクした。
 「本人の目の前でそんなこと言えるか。」
 進が顔をしかめて見せた。
 「あら、良くなかったの。」
 「馬鹿、反対だ。」
 「あらあら、ご馳走様。」
 雅彦は二人のあっけらかんとしたやり取りに目を白黒させていた。父親が母親とは
別の女を抱いても気にならないのだろうか。まして、その女が目の前に、それも裸で
全てを見せているのである。父親も裸で、半ばうなだれたモノからは麻美の移り香が
漂っていた。
 「ねえ、パパ、そのカメラ使えるでしょ。」
 「雅彦くんに教えて貰えばな。でも、何を撮るんだ。」
 「私達。」
 「え、私達って。」
 麻美が横から口を挟んだ。
 「うん、私達。これから一つになるの。私はバージン卒業。雅彦くんも童貞じゃな
くなるの。」
 「え、ここで。」
 面食らった雅彦が思わず叫んだ。
 「うん。パパ達が見てる前でそうなりたいの。駄目。」
 麻美と進が顔を見合わせた。
「自分たちを棚に上げて、お前達は駄目なんて言えないか。」
 進が肩をすくめて見せた。
 「そうね。目の前でって言うのがちょっとだけど。」
 麻美も進を真似て肩をすくめた。嬉しそうに雅彦に近付いた久仁子が脚の間に雅彦
の顔を引き寄せた。
 「お風呂じゃこんなこと出来なかったから。」
 雅彦が久仁子の膝を割って露わになった襞に唇を当てた。その口元を麻美がジッと
覗き込んだ。
 「人がしてるの、初めて見たわ。しかもそれが息子と来てる。複雑な気分ね。あな
たはどう。娘が大切な所を舐められてるのよ。」
 進もつられて覗き込んだ。
 「写真に撮っておくか。」
 進がデジカメを構えた。ズームで引き寄せると久仁子の割れた肌が大写しになる。
その中を雅彦の舌が行き来していた。
 「いい画が撮れそうだ。」
 進が続けてシャッターを切った。
 「ついでに麻美も撮っておこうか。」
 進が母親の名前を呼び捨てにしたので雅彦が一瞬ビクッと反応した。この二人、も
しかしたら以前からの知り合いかも知れない。その疑惑が雅彦の胸の中で大きく膨ら
んで行った。麻美が進を睨んだ。久仁子がベーッと舌を出した。
 「そろそろ、かな。」
 進が苦笑しながら雅彦の肩を叩いた。顔を上げた雅彦の口元がベットリ濡れていた
ので麻美が吹き出した。



第10話

 「まさか息子のこんな顔見るとは思わなかったわ。」
 「え、さっき散々見たんじゃないの。」
 久仁子が意地悪く言うと今度は麻美がベーッと舌を出して見せた。
 「あのう、」
 雅彦が口を挟んだ。
 「何。」
 麻美と久仁子が同時に答えた。
 「このままで大丈夫。」
 雅彦が自分の前を指差した。
 「ああ、避妊のことね。どうかしら。」
 麻美の問いに久仁子が頷いた。
 「大丈夫。今日が安全日だって確かめてあるから。」
 「確実は無いわよ。」
 「分かってます。でも最初は付けないで欲しいの。万一出来ちゃったら雅彦くんの
お嫁さんにして貰うから。」
 「一年早いわ。あなた方、まだ十六よ。久仁子ちゃんは大丈夫だけど、雅彦は子供
が生まれてもまだ結婚出来ないわ。」
 「そっか、そう言うこともあるんだ。でも、いいの。パパ達だって結婚できないん
だし。」
 一瞬、麻美が嫌な顔をした。雅彦は二人の会話の中の暗黙の了解が気になった。久
仁子は両親が別れたと言っていたが、どうやら正式に離婚した訳ではないらしい。そ
の辺の事情をなぜ母親の麻美が知っているのか。疑念はますますつのるばかりだった。
 「あ、ごめんなさい。別に嫌みじゃないから。」
 「分かってますよ。ま、そこまで覚悟決めてるんじゃ、これ以上何も言うこと無い
わね。そうと決まれば、私が手伝って上げる。さ、いらっしゃい。」
 麻美が久仁子を布団の上に寝かせた。
 「雅彦も。」
 久仁子が脚を開いて受け入れる体勢になると麻美が雅彦の根元を握って襞に宛った。
すぐには入れようとせず、前後に動かしながら少しずつ力を込めて行く。先端が少し
だけ潜り、すぐに外れた。その繰り返しに久仁子の口から微かな呻き声が漏れ始めた。
 「遠慮しないで。思い切り気持ちよくなった方がいいのよ。」
 久仁子がクスッと笑った。
 「多分、大丈夫だと思うな。私、自分で指入れたことあるから。」
 「指とおチンチンじゃ太さが違うわよ。いいから、任せなさい。」
 雅彦の唾液でベトベトだったところが更に潤って来た。粘っこい音が規則的に続き、
ようやく先端が見えなくなった。
 「今よ。突いて。」
 雅彦が弾かれたように尻を突き出した。
 「キャ、」
 久仁子が奇声を発した。雅彦が久仁子を貫いた瞬間だった。
 「駄目、そのまま動かないで。」
 麻美が雅彦から手を離さずに押し留めた。まだ僅かに先端が入り込んだだけである。
 「今日は貫通式だけ。ここまで来ればもう大丈夫だから、後は根気よく押し込んで。
無理しちゃ駄目よ。ジッと待ってれば久仁子ちゃんの方からお迎えに来てくれるから。」
 雅彦は麻美の言っていることが分からなかったが、それでも言う通りにジッと堪え
ていた。暫くその姿勢で待っていると久仁子の内部が僅かに弛んだ。
 「ゆっくり、優しくね。」
 麻美が握っていた手をそっと外した。その手が邪魔になる所まで雅彦が進んだので
ある。その機を待っていたように進が続けてシャッターを切った。やがてカメラのフ
ァインダーから雅彦の姿が全て見えなくなった。
 「嬉しい。」
 久仁子が雅彦の背中を思い切り抱きしめた。
 「痛くない。」
 麻美が久仁子の頬に手を当てながら聞いた。
 「ちょっと。でも大丈夫。こんな幸せな初体験って無いわよね。」
 「かもね。雅彦はどう。」
 「僕、勿論最高だよ。まさかママ達の目の前でこうなるなんて思ってもいなかった
けど。」
 「今日は動いちゃ駄目よ。後でお口でして貰いなさい。」
 「うん。してくれる。」
 雅彦がそう言って久仁子の唇を塞いだ。久仁子が何度も頷いた。
 「もういいかな。」
 進がデジカメを置いて麻美を抱き寄せた。
 「またするの。」
 麻美が苦笑した。
 「駄目。」
 そう言いながらも進の手が麻美の襞を探り始める。
 「駄目なわけ、無いでしょ。」
 麻美が進をそっと押し倒し、上から跨って行った。その様子を抱き合った二人が見
詰めている。激しく腰を振り始めた麻美の尻を久仁子がそっと撫でた。
 「ビデオに撮って上げたいくらい。麻美さんって凄く嫌らしいのね。」
 「ふん、何とでも仰い。その内あなたもこうなるわよ。」
 雅彦のアンテナが再びピンと立った。麻美と久仁子も打ち解けた親しさを滲ませて
いる。考えてみたら、今日初めて出会った同士が繰り広げている光景としては信じら
れないことばかりだった。久仁子が雅彦の目を見上げた。
 「ねえ、私もパパとしたくなっちゃった。」
 唐突だが、雅彦はなぜかその言葉を予想していた。そして、母親に対する自分の気
持ちも同時に許されそうな雰囲気にホッと胸を撫で下ろした。
 「僕も、ママとしたい。いいよね、しても。」
 「うん。いいわよ。」
 二人の会話に麻美がビクッとして腰の動きを止めた。
 「ちょっと、勝手にそんなこと決めないで。」
 「あら、駄目。」
 久仁子が笑いながら麻美の尻に手を伸ばした。すぐ隣なのでその手が尻の間に潜り
込む。
 「凄い。ヌルヌルになってる。」
 「ちょっと、駄目。そんなことしないで。」
 麻美が嫌々をした。久仁子の指が無防備な後ろを探ったのである。
 「ねえ、駄目。」
 久仁子が意地悪く聞いた。
 「私に聞かないで。進さんに聞いて。」
 「おいおい、俺に下駄預けるなよ。」
 進が麻美の尻から久仁子の手を払いのけた。
 「考えておく。」
 「狡ーい。」
 久仁子が進の手をつねった。
 麻美がようやく動きを止めた。ゆっくり腰を上げると強烈な匂いが部屋を満たした。
 「お風呂に行きましょうか。」
 立ち上がった麻美に進が頷いた。
 「じゃ、あなた達も一緒に行かない。」
 雅彦がゆっくり身体を起こした。離れ際に久仁子が顔をしかめた。麻美がそっと指
先で確認したが、出血している様子は無かった。
 「大丈夫そうね。お風呂に入っても。」


第11話

 浴衣だけ羽織った四人が露天風呂に向かった。もう夜中過ぎなので辺りはシンと静
まり返っている。脱衣所には脱ぎ捨てられた浴衣があった。
 大浴場から最初に出た久仁子が振り返ってウィンクした。
 「またエッチしてるわ、あの二人。」
 久仁子の言葉通り、浴槽の縁に座った男の上から女が跨っていた。四人に気付いた
男が慌てて女を離そうとしたが嫌々をして離れない。四人がそばまで来ても女は腰を
振り続けていた。
 「どうぞ、ご遠慮なく。」
 麻美が声を掛けてから湯に入った。男は困ったような顔をしたが、女はしがみつい
たまま離れなかった。
 四人が湯に入ったところでようやく女がハッと振り向いた。
 「やだ、ごめんなさい。」
 今更離れても遅いと思ったのか、女は男の胸に顔を埋めてしまった。
 「失礼ですが、不倫ですか。」
 進が笑いながら話し掛けた。
 「いえ、そう言う訳じゃないんです。」
 男が照れながら答えた。
 「ちょっと人には言えない関係なんです。」
 ピンと来た麻美が微笑んだ。
 「もしかして、ご兄妹。」
 二人の顔付きがよく似ていたからである。男が麻美をきつい目で睨んだ。
 「大丈夫。心配なさらないで。私達だって親子同士でこうしてるんですから。」
 麻美がそう言いながら雅彦の前を握って見せた。
 「本当に、実の親子ですが。」
 男が疑わしそうな目で二人を見比べた。
 「母親ですから、実の子かどうかは百パーセント分かってますわ。」
 進も苦笑しながら口を挟んだ。
 「うちは百パーセントかどうか分かりませんが、多分これは私の娘です。」
 進も湯の中で久仁子の身体を抱き寄せた。
 「信用します。はい、私達、実は兄妹なんです。」
 男は邦宏と名乗った。妹は和美だと言い添えた。

 邦宏は連れ合いに先立たれて独り暮らしだった。妹の和美は四十を目前にしてよう
やく結婚した。邦宏は妹の結婚相手に余り好印象は持てなかったが、婚期を逃して焦
っていた和美は何が何でもと結婚に邁進した。
 邦宏の予感は当たっていた。妹の旦那に不倫相手がいたのである。それも、和美と
見合いする以前から続いていたようである。相手の女は亭主持ちだった。
 その不倫に真っ先に気付いたのが邦宏だった。それとなく和美に注意したが、嘘だ
と言い張る和美。仕方なく邦宏が私立探偵を雇ってその証拠を和美に突き付けた。
 「悪いことは言わない。あんな男とは別れろ。」
 泣き崩れる和美に言い聞かせ、邦宏が旦那を詰問した。動かぬ証拠を突き付けられ、
その男がようやく頭を下げた。二度と逢わないと土下座までした。仕方なく引き下が
った邦宏だったが、その後も不倫は続いていたのである。最早邦宏は許そうとしなか
った。ローンの残っていた住居は旦那名義なので諦めたが、預金など全てを妹に渡す
ことで協議離婚を承諾させた。行き場を無くした和美は邦宏が引き取った。
 和美は離婚が余程ショックだったようで、そのまま閉じこもりになってしまった。
食事も摂らず、部屋から一歩も出てこない。仕方なく弁当や飲み物を差し入れた邦宏
だが、風呂は勿論、トイレにも出てこない和美に邦宏が業を煮やした。一週間もする
と和美の部屋は凄い臭いで窓も開けられない状態になった。
 「おい、出てこい。」
 溜まりかねた邦宏が和美を部屋から引きずり出した。泣き叫ぶ和美を風呂場に連れ
て行き、着ているものを全て剥ぎ取った。汚れで固まった髪。首の周りにも垢がこび
り付いていた。
 「いい加減にしろ。」
 子供のように頭から足の先まで邦宏が擦ってやると和美が大人しくなった。最後に
湯を浴びせると泣きながら和美が抱き付いて来た。
 「分かってる。好きなだけ泣け。」
 その晩、邦宏は和美を抱いて寝た。兄の腕に抱かれて静かな寝息を立て始める。泣
き腫らして目を真っ赤にした妹を見て不憫に思った邦宏が頬にそっと口付けした。
 「ありがと。」
 和美が邦宏の胸に顔を埋めてきた。
 「あいつのことは早く忘れろ。これからは俺が和美を守ってやる。」
 「うん。もう兄さんから離れない。」
 二人が顔を見合わせた。兄妹が抱き合って寝るのはこれが初めてだった。邦宏がそ
っと顔を寄せると和美が驚いたように目を見開いた。唇が重なっても和美は動かなか
った。
 「忘れろ、あいつのことは忘れるんだ。」
 邦宏の手が和美の胸に伸びた。
 「兄さん・・・」
 和美が戸惑ったように体を退いた。
 「いいから、俺に任せろ。」
 「だって、私達・・・」
 「それも忘れろ。これからは俺たち二人で生きて行くんだ。いいな。」
 和美が顔を赤くして頷いた。
 邦宏の予想通り、和美は男と女のことに関しては全くの無知だった。旦那に抱かれ
たのも数える位、それも一方的に押し入られただけらしい。和宏が脚の間に顔を埋め
ようとすると必死で抵抗した。
 「何するの、止めて。そんなとこ汚いから。」
 「いいから、俺に任せるんだ。ほら、もっと力を抜いて。」
 それでも和美はとうとう脚を開かなかった。仕方なく乳首を口で転がしながら指先
だけの愛撫を続ける邦宏。ようやく潤んできた妹の中に邦宏が押し入ったのは夜中も
大分過ぎた頃だった。
 「大丈夫か。」
 「うん、ちょっと痛いけど、平気。」
 「もっとリラックスして。ここに神経を集中するんだ。」
 邦宏が一つになったところを指でなぞった。
 「恥ずかしい。」
 和美がもう一度邦宏の胸に顔を埋めた。
 その晩、邦宏は一睡もせずに妹を抱き続けた。少しずつ和美の肩から力が抜けてき
た。
 「何か変になりそう。」
 和美が呟いた。
 「ん、痛いか。」
 「そうじゃないの。ここが熱い。」
 和美が初めて手を伸ばして来た。
 「入ってる。」
 「うん。」
 「気持ち良くなりそう。」
 「もっとなれ。遠慮するな。」
 兄妹だからお互いに遠慮はない。一旦堰を切ると和美の気持ちがどんどん和らいで
行った。


第12話

 「それ、凄くいい。あ、あ、」
 和美が眉根に皺を寄せた。
 「こんなの、初めて。」
 夜が明けた頃、いつの間にか眠ってしまった和美の唇に邦宏がそっと口付けした。
和美がそっと目を開いた。
 「これからも、ずっと可愛がってくれる。」
 「勿論だ。そうでなければ抱いたりしないさ。」
 「嬉しい。私、別れてよかった。」
 次の晩、会社から戻った邦宏が二人だけの新婚旅行に行こうと和美を誘った。一週
間の長期休暇を取ったのである。その旅行で選んだのがこの温泉だった。

 「私はもう五十近いし、こいつも四十過ぎてます。お互い張り合いのない余生を送
る位なら、一緒に地獄に堕ちて、目一杯最後の人生を楽しもうじゃないか、ってこと
なんですよ。」
 和宏がもう一度和美を抱き寄せた。
 「しかし、とんでも無いところを見られてしまいました。」
 「大丈夫です。心配しないで下さい。」
 進がそう言って久仁子を自分の方に引き寄せた。麻美も負けじと雅彦の手を引き寄
せる。
 「お互いに似たもの同士の二人組と言う訳けですね。」
 和宏が安心したように笑った。
 「そろそろ寝ようか。」
 風呂から上がったところで進が自分たちの部屋に戻ろうとした。
 「そうね、私も。」
 久仁子が後から付いて行く。自分たちの部屋に戻った麻美が雅彦をギュッと抱きし
めた。
 「マーちゃんが欲しい。」
 「僕もママが欲しい。」
 「さっきは辛かった。」
 「さっきって。」
 「久仁子ちゃんとマーちゃん見てた時。」
 「だって、ママだって進さんと散々してたんでしょ。」
 「それとこれは別。」
 「狡い。」
 「向こうも今頃かしら。でも、今晩は無理かな。」
 「多分ね。」
 浴衣を脱ぎ捨てて素肌になった麻美が雅彦の前に跪いた。浴衣の裾を分け、飛び出
して来たものに頬ずりする。
 「さっき、久仁子ちゃんにして貰わなかったでしょ。」
 麻美がそっと口に含んだ。その動きが段々きつくなる。一度口で果ててさせようと
思っているらしい。
 「ママ、寝て。」
 雅彦が麻美の顔を引き離した。
 「ん、まだよ。」
 「そうじゃなくって、僕もママにキスしたいから。」
 「うん、分かった。」
 仰向けになった麻美の上から雅彦が逆向きに被さって来た。茂みの中の突起が既に
大きく飛び出している。雅彦がそれを口に含むと麻美の口が止まった。
 同じ頃、久仁子も進の上にのし掛かっていた。今日はまだ無理だと進に言われた久
仁子が自分から父親を口に含んだのである。進も娘のきれいな割れ目に舌を差し込ん
でいた。後ろまで動くその舌に久仁子が身を揉んだ。

 次の晩は雅彦と久仁子が一緒に寝た。
 「大丈夫だから動いて。」
 一つになったところで久仁子が腰を揺すった。
 「痛くない。」
 「平気。」
 雅彦が気遣いながらゆっくり腰を回し始めた。昨日の晩、麻美に教えて貰った動き
である。こうすれば少しは痛みが軽くなるらしい。
 「ねえ、昨日、ママとエッチした。」
 久仁子がそう言って唇を押し付けてきた。
 「うん。」
 「どうだった。」
 「良かったって言ったら、怒る。」
 「ううん。でも、ちょっぴり妬けるかも。」
 「久仁ちゃんもパパとしたんでしょ。」
 「お口でね。最後にちょこっとだけ入れて貰った。」
 「どうだった。」
 「分からない。嬉しかったけど。でもさあ、私達って凄いよね。自分の親としちゃ
ってるんだから。」
 「これから先もずっとかな。」
 「勿論よ。私、きっと雅彦くんのお嫁さんになるわ。」
 「まだ分からないよ。」
 「ううん、他の人と一緒になったらパパに可愛がって貰えないじゃない。」
 「そうだね。僕もママと一緒だし。でもさあ、昨日何でママと進さんがしちゃった
んだろう。初めて会ったのに。」
 「さあ、二人に聞いてみれば。それ言うなら私と雅彦くんも同じよ。」
 「うん、凄いラッキーだと思う。初めてが久仁ちゃんで。」
 「私も雅彦くんじゃなきゃ嫌。」
 久仁子が腰を擦り付けて来た。もうそれ程痛まないらしい。雅彦が少し強めに動く
と久仁子が目をつぶった。
 「痛い。」
 「ううん。大丈夫。奥の方が変な感じ。」
 「どんな感じ。」
 「気持ちいいって、こう言うのかな。」
 「良かった。僕は凄くいい。久仁子ちゃんの中に入ってると思うと余計。」
 「あ、動いた。ねえ、それ、わざと動かしてるの。」
 「うん。これ。」
 「それそれ。凄くいい。」
 今日の久仁子は奥の方までかなり潤んでいた。雅彦が動くとつながったところから
粘っこい音がする。その度に久仁子がきつくしがみ付いて来た。
 最後の晩は雅彦達の部屋で四人が一緒に過ごした。邦宏たち兄妹も押し掛けて来た。
雅彦が麻美と、久仁子が進と抱き合っているのを見て二人が目を丸くした。
 「本当に、なんですね。」
 和美が眩しそうに二組のカップルを見比べた。
 「どうぞ、ご遠慮なく。」
 麻美が雅彦の下から顔だけ出して和美にウィンクした。


第13話

 雅彦が家に戻って二日後に圭子からのメールが届いた。雅彦に会ってみたいと言っ
て来た。翌日は麻美が夜まで戻らないことが分かっていたので雅彦が学校の帰りに圭
子と待ち合わせた。お互いに初対面だが、雅彦は既に圭子の顔を父親の撮った写真で
散々見ている。待ち合わせの小田急線梅丘駅に圭子は車で迎えに来た。
 「雅彦くん、よね。」
 「はい。圭子さんですね。すぐ分かりました。」
 「あなたも。パパとよく似てるわ。さ、乗って。」
 雅彦が助手席に乗り込むと圭子が素早く車を発進させた。
 「何時まで大丈夫。」
 圭子が狭い道に車を入れながら聞いた。この辺りはかなり道が入り組んでいるのだ
が、裏道を知り尽くしているようだった。
 「七時までに帰れば大丈夫です。」
 「今、四時か。あんまし時間無いわね。」
 車は世田谷通りを横切って用賀方面に向かっている。どうやら東名に乗る積もりら
しい。雅彦はどこに行くのか聞かなかった。圭子も無言で車を走らせている。
 圭子が躊躇いもなくラブホテルに車を乗り入れても雅彦は驚かなかった。時間が無
い。圭子の言葉がこれから起きることを十分に予想させていたのである。
 「ごめんなさい、いきなりこんな所に連れ込んで。」
 車から降りて部屋に入ると圭子が雅彦の手を取った。
 「パパの身代わりじゃないけど、抱いて欲しいの。いいかしら。」
 「僕もその積もりで来ました。」
 「ママは。」
 「今日は出掛けてます。帰りは多分七時過ぎ。」
 「それで七時って言ったのね。」
 圭子が風呂場に入って湯を溜め始めた。
 「さ、脱いで。」
 圭子が素早く裸になって浴室に消えた。雅彦も裸になってドアを開けた。シャワー
を浴びている圭子の身体は写真そのままに白く、魅力的だった。
 「見て、これが実物の私。」
 圭子がそう言って両手を広げた。
 「写真よりずっときれいです。」
 雅彦が目を細めると圭子が照れたように湯船に入った。
 「嘘仰い。あなたが見たのはもう十年以上前の私。最近はパパも写真撮ってくれな
くなってたし。」
 雅彦も湯船に入ると圭子の手が伸びて前を握りしめた。
 「元気ね。」
 「圭子さん見たら、誰だって元気になります。」
 「お世辞でもそう言ってくれると嬉しいわ。さ、ベッドに行きましょう。」
 圭子が灯りを落とさないので雅彦は身体の隅々までじっくりと鑑賞できた。女の部
分は写真と全く変わらない。そっと口に含むと圭子が溜息を突いた。
 「慣れてるのね。」
 雅彦が更に奥へと舌を差し入れた。写真で見たよりも僅かに襞のはみ出しが大きく
なっている。舐め上げた舌の先がベールを分けて大きめな粒を掘り起こした。大きさ
は松の実大で形はピーナッツに似ている。普段は襞に埋もれているせいか、周りより
も白っぽい色をしていた。そっと唇で挟むとかなりな弾力である。
 「ふふふ。」
 圭子が意味ありげに笑ったので雅彦が顔を上げた。
 「何か。」
 「ごめんなさい、パパそっくりだったから。」
 「何がですか。」
 「感じがね。パパはいつもこうして可愛がってくれたの。」
 雅彦がムッとした顔で上体を起こした。
 「パパの身代わりじゃないって言ったのに。」
 「ごめんなさい、そんな積もりじゃないの。でも、雅彦くんがあの人の息子だって
ことは嫌でも意識しちゃうのよ。」
 「それは何となく分かるような気もするけど。」
 「分かって。さ、今度は私の番。」
 圭子の口の動かし方は独特だった。少なくとも母親とは全然違う。特に舌の動きが
早く、時には狭い入り口を押し広げるように先端を尖らせたり、裏側を集中的に攻め
てくる。圭子は若い雅彦に一度果てさせようと思っているらしい。その必要はないの
で雅彦が圭子の頭を軽く叩いた。
 「ん、」
 圭子が口を離さずに見上げた。
 「時間が気になるから。」
 スポッと音を立てて雅彦が吐き出された。
 「一度出しておかなくても大丈夫。」
 「と思います。」
 「自信たっぷりね。」
 仰向けになった圭子が両足を高く振り上げて雅彦を迎えた。その足を肩に担ぐ形に
なった雅彦が一気に押し入った。
 「す、素敵・・・」
 あっと言う間に先端が奥まで届いた。雅彦にとって三人目の女の身体である。久仁
子はまだきついだけだった。母親の麻美は大分余裕があったが中のザラつきが気持ち
いい。圭子は滑らかだが入り口の締め付けが強かった。雅彦が吐き出されるギリギリ
まで腰を退いてから勢い良く突き戻した。
 「じょ、上手。」
 圭子が喘いだ。雅彦がその動きを繰り返していると今度は先端が何かに当たるよう
になた。ナマコの口を思わせる、柔らかい中にも芯のある感触だった。雅彦が膝を進
めて真上から突き下ろすと先端がそこにはまったような気がした。
 「い、嫌・・・」
 圭子が更に強くしがみついて来た。その『嫌』が本心からでないことは雅彦にも分
かる。同じ動作を続けていると圭子が白目を剥いて動かなくなった。入り口がヒクヒ
クと雅彦を締め付けていた。
 「もう、死ぬかと思ったわ。」
 ようやく黒目が戻ってきた圭子が雅彦の唇にかじりついた。
 「一度きりの積もりだったけど。」
 圭子が雅彦の肩から両足を下ろした。
 「誰に教わったの。」
 「ううん、こう言うやり方したの、今日が初めて。」
 「ふうん、生まれ付き勘がいいんだ。良すぎてどうにかなりそうだったわ。」
 圭子が首を回して枕元の時計を見た。五時近かった。
 「六時には出ないと駄目ね。それまで、いい。」
 「うん。大丈夫。まだイッてないし。」
 「今度は私が上になっていい。」
 「うん。」
 圭子は自分が上になると腰を回転させながら激しく前後に動かし始めた。勢い余っ
て雅彦が飛び出すと慌てて戻す。白い肌に玉のような汗が噴き出し、その滴が雅彦の
胸から腹にポタポタ落ちてきた。
 「イッて。」
 圭子が雅彦の耳元で呟いた。



第14話

 「このまま。」
 雅彦が不安そうに聞いた。
 「大丈夫、このままイッて。」
 「うん。」
 雅彦が下から手を伸ばして圭子の尻を両手で掴んだ。その尻を思い切り自分にぶつ
けると先ほどの感触が戻ってきた。
 「そこ、そこ。」
 圭子が焦れたように身を揉んだ。

 進と久仁子が雅彦の家に引っ越してきた。元々一家三人が暮らして来た家である。
進が麻美の寝室で寝起きすれば久仁子にも一部屋使わせることが出来た。邦宏と和美
の兄妹も家が近いことが分かり、お互いに往き来するようになった。
 ある日、雅彦がパソコンの写真を整理していると久仁子が部屋に来た。雅彦は残っ
ていた画像の整理をしている最中だった。画面を見た久仁子が思わず叫んだ。
 「何でママの写真がここにあるの。」
 画面には圭子が両足を広げた正面からのポーズが映っていた。
 「え、ママって、圭子さんが久仁ちゃんのママなの。」
 雅彦が振り返って久仁子を見詰めた。言われてみれば顔付きもあそこの形もそっく
りだった。
 「そうよ。でも、ママが何でこんな写真を。あ、もしかしてママの不倫相手って、
マーちゃんのパパ。」
 一緒に暮らすようになってから久仁子は麻美の真似をして雅彦をマーちゃんと呼ぶ
ようになっていた。
 「うん。ずっと昔からみたい。」
 「うわあ、何だか凄い関係。マーちゃん、ママと逢ったの。」
 一瞬考えた雅彦がコクッと頷いた。
 「もしかして、エッチ、した。」
 こんな写真を雅彦が見ているのだから当然の質問だった。もう一度、雅彦が頷いた。
 「やだ、ママともしちゃったんだ。」
 雅彦は久仁子がさして驚いた様子でもないのが意外だった。
 「久仁ちゃん、僕がママとエッチしても平気なの。」
 「うん。相手がママなら許して上げる。」
 「変なの。」
 「かもね。自分でも分からないけど、ママなら許せるの。」
 「僕のママは。」
 「仕方ないでしょ。駄目って言ってもするんだから。私の方もパパとするからお相
子よね。あ、狡い、マーちゃんの方が一人多い。」
 「ごめん。」
 「ねえ、私のママと、また逢う。」
 「圭子さんは逢いたいって言ってる。」
 「このこと、パパたちに話した方がいいかしら。」
 「うん、僕も迷ってるんだ。」
 「ずっと秘密には出来ないよね。だったら話した方がいいかも。」
 「でも、うちのママと圭子さん、上手く行くかな。」
 「さあ、その話しは寝耳に水だもんね。」
 久仁子が雅彦の顔を自分の方に向けて唇を重ねてきた。雅彦は久仁子のちょっとし
た言葉も聞き逃してはいなかった。圭子のことは意外でも、その他は全て当然のこと
だったらしい。
 その晩、珍しく四人一緒にベッドに入ったところで雅彦が久仁子に目配せした。
 「話すの。」
 「うん。」
 二人の意味ありげな様子に麻美が顔を上げた。二人が抱き合っているタイミングを
選んだのである。
 「実は、圭子さんのことなんだけど。」
 進が驚いたように後ろを向いた。
 「雅彦が何で圭子のことを知ってるんだ。」
 「そうよ、何でマーちゃんが。」
 麻美もきつい目で雅彦を睨んだ。
 「これで少しずつ糸が解けて来たね。」
 麻美がハッとして目を逸らせた。二人が偶然温泉で出会った訳ではないことを白状
したも同然である。
 「パパと圭子さん、ずっと不倫してたんだよね。ママも進さんも、そのこと知って
たんでしょ。」
 二人が顔を見合わせた。
 「久仁ちゃんもね。」
 三人が黙って雅彦を見た。
 「ママと進さんはいつからこう言う関係だったの。」
 雅彦が二人の腰を指差した。麻美が間に手を差し込んだ。深刻な話しになって進が
萎えてしまったらしい。麻美が諦めたように進の上から離れた。
 「きちんと話す時期が来たのかな。」
 進がベッドの上に座り直した。
 「雅彦の言う通り、俺たちは圭子と雅彦のパパのことは何年も前から気が付いてい
た。気が付かない方がおかしいさ。自分の女房が他の男に抱かれてるんだからな。そ
れも毎週金曜。欠かさずだった。」
 「ママも。」
 雅彦が麻美に聞いた。
 「ええ、初めてパパが浮気、と言うか圭子さんと寝てきた日に気が付いたわ。」
 「それでも別れなかったんだ。」
 「勿論、色々考えたわよ。すぐ興信所に頼んで調べさせたの。そしたら、向こう、
進さんのことね、そっちでも調べてるらしいって。ちょっと微妙だったんだけど、私
の方から進さんに連絡したの。」
 「それって、何年前の話し。」
 「六年、いえ、七年くらいになるわね、もう。」
 「それで、ママと進さんが会ったんだ。ところで、いつ二人が出来ちゃったの。」
 「出来ちゃったはご挨拶ねえ。ま、その通りだけどさ。白状しちゃうと、初めて会
った日なのよ。お互いにビビッて感じるものがあったから。」
 「じゃ、ママたちも七年くらい付き合ってるんだ。」
 「そう。でも、滅多に会えなかったから、雅彦が思ってる程じゃ無いのよ。」
 「久仁ちゃんはそのこと、知ってたんだ。」
 雅彦が傍らの久仁子の肩を抱きながら聞いた。
 「うん。エッチしてるって知ったのはつい最近だけど。」
 「平気だった。」
 「ちょっと妬けたわよ。パパ取られたと思ったし。」
 雅彦が麻美を見た。
 「ねえ、肝心なこと聞いていい。」
 「そう来ると思ってた。この際だから、何でも話すわよ。」
 「何でママ、僕とセックスする気になったの。それと、進さんと久仁ちゃんも。そ
れが無ければ全部納得なんだけど。」
 「当然の質問だわね。答える前に聞いておくけど、雅彦は今のこと、どう思ってる
の。」



第15話

 「どうって。」
 「後ろめたい。こんなことしちゃいけないって思ってる。」
 「それが、全然。僕がママのこと好きになってたのは分かってるでしょ。」
 「私の写真見たからね。若い頃の。」
 久仁子がニヤニヤしながら雅彦の脇腹を突っついた。
 「ねえ、先に話しといた方がいいんじゃない。」
 「え、何を。」
 麻美がいぶかしそうに久仁子の目を見た。
 「実はさあ、マーちゃん、圭子さんと会ってるんだって。」
 「何で。そう言えば、どうして雅彦が圭子さんのこと知ってるの。」
 「本人から説明した方がいいわね。」
 久仁子がニヤニヤしながら雅彦の背中を叩いた。
 「ねえ、もしかして、雅彦と圭子さん、何かあったんじゃないの。」
 「鋭い。」
 久仁子が大声で笑った。
 「女の勘って馬鹿に出来ないわね。」
 「ちょっと、本当にしちゃったの。」
 麻美がきつい目で雅彦を睨んだ。雅彦が素直に頷いた。
 「何てこと。雅彦があの人とだなんて。」
 麻美が進の肩を揺すった。
 「あなたも何か言って頂戴。」
 進が苦笑いした。
 「まあ、圭子は形の上じゃまだ俺の女房だけど、もう何年も会ってないからな。」
 「でも、雅彦が圭子さんと、なのよ。」
 麻美は夫の不倫相手と自分の息子が逢い、セックスまでしてしまったことが我慢出
来ないようだった。
 「しかも、相手は久仁子ちゃんのママなんだから。」
 「あら、私は平気。」
 久仁子がケロッとした顔で言ってのけた。
 「もう、みんないい加減なんだから。」
 代わる代わる三人の顔を見比べた麻美が諦めたように両手を広げた。
 「要するに、私さえ良ければってことね。」
 進が済まなそうに頭を掻いた。
 「ところで、あなたはやり直せるの。」
 麻美が進に抱き付いた。
 「元通りに行く筈はない。それに、俺は麻美も久仁子も手放せない。でも、もし圭
子がやり直したいと言ったら、何か出来ることはしてやりたい。雅彦くんと圭子がそ
う言う仲になったんなら、尚更だ。」
 久仁子は勿論異存無かった。母親は母親である。雅彦までが二人のやり直しに同意
すると麻美が笑った。
 「あんたはもう寝ちゃったんだからね。」
 麻美が萎んだ進の前をまさぐりながら言葉をつないだ。
 「ハッキリ言えば、圭子さんのこと、恨んでたことは確かなの。それを、私がどう
飲み込むか、それだけね。それに、また進さんを取り返されちゃうような気もするし。」
 「それは無い。仮に今、麻美と圭子のどちらかを選ばなければいけないとしたら、
俺は麻美を選ぶよ。」
 「ありがとう。でも、圭子さんには絶対そんなこと言っちゃ駄目よ。」
 既に進と麻美には共に歩んで来た時間がある。一方、圭子との間では別れて七年と
言う長い歳月が過ぎ去っていた。麻美はそんな進の気持ちを疑った訳ではないのだが、
いざ圭子が目の前の現実として姿を現すとなれば話しは別だった。結局、麻美は返事
を保留した。三人ともそれで当然と受け止めた。
 「もう一つ聞いていい。パパが事故で死んだ時、ママはどう思ったの。」
 雅彦がこれまで経緯を反芻しながら母親の気持ちを確かめようとした。
 「これまた難しい質問ね。うーん、ホッとした、と言うのが正直なところかな。行
き場が無い感じだったのよ、もう何年も。パパと圭子さんは私達のこと知らなかった
と思うの。自分たちの方が先だから、後ろめたさが先に立ってたんでしょうね。圭子
さんは家を出ちゃったけど、パパは家にいたし。でも、マーちゃん、全然気が付いて
なかったの。」
 「今になってみれば、ああ、そう言うことだったんだって思い当たることが沢山あ
るよ。でも、男と女のことって、知ってみるまでは分からないことだらけだもんなあ。
それに、ずっと昔から家の中じゃエッチな雰囲気無かったでしょ。」
 「当たり前よ。子供にエッチしてる様子なんか見せないわ。それに、確かに男って
鈍感よね。」
 「ところで、最後の質問。」
 「まだあるの。」
 「肝心なこと。ねえ、伊豆の温泉で進さんや久仁ちゃんと一緒になったの、偶然じ
ゃないよね。ママが仕組んだの。」
 「私一人じゃないわ。一番乗り気だったは久仁子ちゃんよ。」
 「え、久仁ちゃん。」
 雅彦が呆れたように腕の中の久仁子を見詰めた。
 「へへ、」
 久仁子が悪戯っぽく笑って雅彦の唇を塞いだ。ようやく進が口を開いた。
 「久仁子が俺と麻美のことに気付いたんだ。ホテルから出て来るところを見られて、
その晩凄い剣幕で詰め寄られたよ。言い訳けはしなかった。久仁子に泣かれて、その
晩は抱いて寝た。次の晩も久仁子は俺のベッドに来たんだ。」


第16話

 一週間ほどして進が麻美と逢ってきた。その晩も進に抱かれて寝た久仁子が上から
のし掛かって来た。
 「パパ、エッチして来たでしょ。」
 「何で。」
 「匂いがする。その人の。」
 「嘘だろう。ちゃんと石鹸で・・・」
 進がしまったと言う顔をした。久仁子の誘導尋問にまんまとはまってしまったので
ある。
 「やっぱり。」
 進の胸に顔を埋めた久仁子が泣き出した。
 「弱ったなあ。」
 震えている久仁子の背中を進があやすように軽く叩いた。
 「パパも男だ。ママがいなければこう言うことだってある。」
 「どんな人。この間の人。」
 「うん。」
 「きれいな人だった。」
 暫く考えてから進が話し始めた。
 「こうなったら全部話しておこう。その人、麻美って言うんだが、ママの不倫相手
の奥さんだ。」
 「嘘、パパはママの相手の人、知ってるの。」
 「ママの不倫が始まってすぐに調べたさ。麻美の方も別の探偵雇って調べてた。お
互いにそれが分かって、麻美の方から俺に連絡して来たんだ。」
 「やだ、二人とも不倫された腹いせだったの。」
 「いや、そんな積もりは全然無かった。」
 「ふうん、ちょっと信じられないけど。」
 久仁子が身体の間に手を差し込んで進の前を握りしめた。
 「おい、馬鹿なことするな。」
 焦った進が久仁子の手を振り解こうとした。
 「やだ。このおチンチンでその人としてきたんだ。」
 進が諦めたように手を離した。
 「久仁子はもう経験したのか。」
 「ううん、おチンチンに触ったの、これが初めて。」
 「少しは慣れておいた方がいいか。」
 「うん。パパじゃなければヤバイよね。」
 「当たり前だ。この人って思える相手が出てくるまで、軽はずみなことするな。」
 「パパはその人、麻美さんって言うんだっけ。その麻美さんとこれからも付き合う
の。」
 「その積もりだけど、駄目か。」
 「またエッチするんだ。」
 「まあな。」
 「ちょっと悔しいかも。」
 「ごめん。」
 「あーあ、私も早くエッチしたくなっちゃった。」
 いつの間にか進の前が固くなっていた。トランクスなので久仁子が横にずらすと裾
から先端が飛び出して来た。久仁子の手が怖ず怖ずと握りしめた。
 「大っきい。」
 「大したことないさ。普通だよ。」
 「こんなのが入るなんて、信じられない。」
 「その信じられないところから赤ん坊が出てくるんだよ。」
 「あ、そっか。そうだよね。」
 その晩、久仁子は進を握ったまま手を離さなかった。朝、目が覚めてもまだしっか
り握っていた。それ以来、久仁子は一緒に寝ると必ず進の前を握るようになった。ま
だ経験が無いのでそれ以上のことは無かったが、そんな行為が当たり前になって来る
とお互いにその先を意識するようになっていた。
 「ねえ、パパが最初じゃ、駄目。」
 久仁子が握りしめた手を動かしながら聞いた。
 「そう言う訳に行くか。親子でなければ話しは別だけどな。」
 進がちょっと考えてから久仁子を抱きしめた。
 「今度、麻美に会ってみないか。」
 「え、あの人と。それが私とどう言う関係があるの。」
 「実は、ママの不倫相手、つまり麻美の旦那がこの間亡くなったんだ。落ち着いた
ところで旅行に行きたいって言ってるのさ。向こうには久仁子と同い年の息子がいる。
これからのことを考えると、お互いに一度会っておいても悪くないんじゃないかって
思うんだが。」
 「だから、それが私とどんな関係があるって、あ、パパ、もしかして麻美さんの息
子と私がって考えてるの。」
 「いや、そう言う訳じゃないけど、もし気に入ればそうなってもいいかなって。」
 「何だかパパの言い訳みたいな気がするなあ。」
 「多分な。」
 「狡い。でも、会ってみたい気もする。」
 「どっちと。」
 「二人とも。でも、もし私が麻美さんの息子と付き合うようになったら困らない。
だって、パパはいずれママと離婚してその人と一緒になる積もりでしょ。そうなった
ら私と麻美さんの息子は兄妹になっちゃうじゃない。」
 「籍を入れなければ大丈夫さ。」
 「それでも何か変。」
 その晩、結局久仁子はうんと言わなかった。次の晩、進が久仁子に謝った。
 「ごめん、昨日はパパ、変なこと言っちゃった。まだ会ったこともない相手とどう
のこうのなんて、全くひどい話しをしたもんだ。昨日のことは忘れてくれ。」
 「ううん。」
 久仁子が首を横に振った。
 「私も一日よーく考えてみたんだけど、悪い話しじゃないかなって思うの。」
 「いや、パパの都合ばっかり考えて悪かった。」
 「兎に角、旅行には行こう。会ってみて気に入ったらその時はその時。」
 「そうだな。その話しは抜きにして、一度会っておくのも悪くないかも知れない。」
 「ねえ、もし麻美さんの息子が気に入ったら、エッチしても怒らない。」
 「さあ、いざとなると分からんな。」
 「大人って狡いよね。自分のことは棚に上げて娘にだけは厳しいんだから。」
 「そりゃあ、自分の娘が別の男に抱かれると思うと心穏やかじゃないさ。」
 「じゃあ、代わりにパパが抱いてくれるの。久仁子はそれでもいいよ。」
 「そうは行かないところが悩ましいんだよ。ま、麻美と連絡取って旅行の話しを進
めてみよう。」
 「うん、すっごく楽しみ。」



第17話

 「そう言う訳なんだ。」
 話し終えた進が照れ臭そうに頭を掻いた。
 「久仁ちゃんの方も進さんとやばかったんだ。」
 雅彦が二人を見比べた。久仁子が雅彦の腰に手を回しながら頷いた。
 「うん、だから、あのパソコンの写真見た時、凄く安心したの。ほんとはパパに抱
いて貰いたくてウズウズしてたから。」
 「何でパパと。」
 「分からない。でも、マーちゃんこそ、何でママとしたいって思ったの。」
 「ママの若い頃の写真見たからかなあ。」
 「分かるかも。麻美さんって凄くきれいだから。」
 「あら、久仁子ちゃんだってとっても可愛いわよ。雅彦だって一目惚れしたんじゃ
ないの。」
 麻美が雅彦のおでこを突っついてケラケラ笑った。
 「残るは圭子のことだけか。」
 進の言葉に三人が一様に頷いた。
 話を聞いた邦宏が、圭子を自分の養子にしたらどうかと言ってきた。子供のいない
二人。都内でも一等地の家と僅かな蓄えはあると言う。自分たちが緩衝剤になる筈だ
と言うのである。それを受けて、麻美が圭子と正式に別れて欲しいと進に持ち掛けた。
 「私、圭子さんと同じ土俵で進さんと付き合いたいの。それならお互いにわだかま
り無く付き合えるかも知れないから。」
 「もっともだ。圭子の方も今更自分が正式な女房だなんて言わないだろうし。」
 すぐさま進が同意した。別居してもう五年以上になるが、戸籍上、進と圭子は夫婦
のままなのである。
 雅彦が圭子に連絡を取った。もう一度会って話がしたいと告げ、都内のホテルにス
イートを予約して全員揃って圭子を迎えた。進の姿を見て慌てて逃げようとする圭子
を久仁子が必死に引き留めた。
 「ママ、逃げないで。」
 「だって、こんなの、ひどい。」
 圭子が恨めしそうに雅彦を睨んだ。
 「何でそう言ってくれなかったの。」
 「話したら来なかったでしょう。」
 「それはそうだけど。」
 圭子が開き直ったようにソファーに腰掛けた。麻美がお茶の用意を始めた。
 「こちらは邦宏さんと和美さん。圭子に話しがあるんで来て貰った。」
 進が二人を紹介した。いぶかしそうに圭子が形ばかりの挨拶をした。
 「私達六人はこれから一つの家族として暮らして行こうと思っている。もし圭子さ
えよければ、一緒に暮らさないか。」
 進の言葉が圭子にはよく分からないようだった。
 「それって、あなたと麻美さんが一緒になるってこと。だったら私は邪魔でしょ。
それよりも、いつからあなたと麻美さん付き合ってたの。」
 「もう六年以上になる。」
 「それって、私と賢治さんが始まった頃じゃない。」
 賢治は雅彦の父親の名である。
 「そうだ。お前たちのことを俺も麻美も同時に調べようとしたんだ。それが分かっ
て、麻美が俺に連絡して来た。それからだよ、俺たちの付き合いが始まったのは。」
 「それで、私が出て行っても平気だったのね。」
 「まあ、そう言うことだ。」
 「あなた、さっき、私も一緒にやり直すって言ったけど、麻美さんも一緒なんでし
ょ。そんなの無理よ。」
 「勿論、圭子の気持ち次第だ。ただ、圭子が雅彦とそう言う仲になったと聞いたん
で、もしかしたら一緒に暮らせるかも知れないって思ってな。」
 「頭がクラクラして来たわ。つまり、私とあなたがやり直す。あなたと麻美さんも
これまで通りで、私と雅彦くんもって訳。」
 「それだけじゃないけどな。」
 圭子が改めて邦宏と和美を見た。
 「この人たちも一緒、ってこと。」
 「いずれはそうなるかも知れないが。邦宏さんは別のことでここに来て貰ってるん
だ。圭子に養子にならないかって言ってくれてるんだよ。」
 「はあ、養子ですって。」
 圭子は全然話しに付いて行けず、目を白黒させるばかりだった。
 「つまり、これは麻美が出した条件なんだが、俺と圭子が正式に別れて欲しいと言
うこと。麻美も俺の籍には入らない。麻美は圭子と同じ条件になって一緒に暮らした
いと言う希望なのさ。」
 「それと養子の話し、何の関係があるの。」
 「取り敢えず気持ちの上でやり直せるまでのワンクッションと言うところだな。今、
俺と久仁子は麻美さんの家で暮らしてるが、いずれそこも引き払って邦宏さんのとこ
ろで厄介になろうと思ってる。邦宏さんもそう言ってくれてるし、家も十分な広さだ
から、圭子は一足先にそこで待ってると言う寸法だ。」
 「あなた方と邦宏さんはどう言う関係なの。」
 「言いにくい関係さ。圭子が一緒に暮らす決心付いたら、何もかも説明する。」
 「何が何だか分からないけど、今日決めなければいけないの。」
 「出来ればな。」
 「そう言われても、まだ頭の中がゴチャゴチャだわ。」
 夕食の時間になり、麻美がルームサービスを注文した。話しが話しなのでその方が
いいと思ったのである。
 「今晩は勿論ここに泊まるのよね。」
 食事も終わり、圭子が幾分打ち解けた口調で進に聞いた。
 「その積もりでスイートを取ってある。」
 「そこが腑に落ちないの。まさかみんながいるところで。」
 「その積もりだ。」
 「麻美さんがいる前で。」
 「うん。」
 「だって、ねえ。」
 圭子が麻美の顔を見た。
 「私に遠慮しないで。私もその積もりで来てるから。」
 「何だかやばい雰囲気。もし私がうんって言えば、これからずっとこうなのね。信
じられない。」
 「やはり、すぐには無理かもな。」
 それまでニヤニヤしながら話しを聞いていた久仁子が口を挟んだ。
 「そうでもないみたいよ。嫌だったらとっくに帰ってるわ。そうでしょ、ママ。」
 圭子がちょっと気色ばんで久仁子を怒鳴りつけた。
 「子供が口を挟むようなことじゃないでしょ。」
 「あら、私、マーちゃんと同い年よ。」
 「え、マーちゃんって、雅彦くんのこと。」
 「うん。ママ、マーちゃんと寝たんでしょ。」
 圭子の顔が真っ赤になった。
 「それは、そうだけど。」
 「だったら私だけ子供扱いしないで。」
 「まったく、あなた達は全部オープンなの。」
 麻美が久仁子に代わって答えた。


第18話

 「そうよ。隠し事も分け隔ても無し。そうなの、分け隔ては一切無しなのよ。」
 「何か意味深な言い方ね。」
 「圭子さんの想像、多分当たってるわ。」
 「嘘。」
 圭子が顔を赤らめた。
 「とにかく、俺たちはそっちの部屋に行こうか。」
 このスイートは寝室が二つだった。広い部屋にはキングサイズのベッドが二つ、隣
にはダブルベッドが置かれていた。とは言っても二つの部屋の間にドアは無い。間仕
切りはあったが、お互いに顔が見える配置になっていた。
 「ねえ、久仁子も見てるのよ。」
 圭子が文句言ったが、進はお構いなしに服を脱いでベッドに入ってしまった。それ
を見た麻美と雅彦も寝支度を始める。圭子が様子を見ていると、まず邦宏と和美が同
じベッドに入った。続いて麻美と雅彦が隣のベッドに潜り込む。いつの間にか裸にな
った久仁子が隣の部屋のベッドサイドにしゃがみ込んでいた。
 仕方ない、と言った表情で圭子も服を脱いだ。慌てて毛布を剥ぎ、進の隣に滑り込
んだ。
 「こんなことなら、別の下着にしてくれば良かったわ。」
 圭子が恨めしそうに進を睨んだ。圭子は雅彦と過ごす積もりで前開きの下着を身に
着けていたのである。
 取り敢えずベッドには入った圭子だが、どうにもぎこちない風情で進とは距離を保
っていた。業を煮やした久仁子が進の後ろからベッドに潜り込んで背中を押した。進
の身体が圭子の上に半分重なった。
 「パパの意気地なし。」
 久仁子がそう言って手を伸ばした。その手が圭子の下着に触れた。
 「ママ、凄い下着履いてる。」
 「え、あんたなの。やめて、変なところに触らないで。」
 圭子が慌てて身を退こうとすると進が抱き寄せた。
 「親子三人、水入らずだな。」
 「ちょっと、茶化さないでよ。まさか久仁子と三人でなんて考えてるんじゃないで
しょうね。」
 圭子が必死に抵抗した。その間に久仁子の指が下着の合わせ目から中に滑り込んで
きた。
 「いや、駄目。」
 必死に抵抗する圭子の耳に麻美の含み笑いが聞こえてきた。圭子が首を回してそち
らを向くと、雅彦が麻美の上からのし掛かっていた。
 「まさか。」
 圭子の身体からガクッと力が抜けた。
 「あなた達って、とんでもない人達なのね。」
 もう一つのベッドからも絡み合う気配が聞こえてきた。
 「兄さん。」
 和美が小さく喘いだ。
 「頭がおかしくなりそう。」
 最早抵抗しなくなった圭子の下着を久仁子がそっと下ろした。久仁子の唇が露わに
なったところに触れても圭子は足を閉じようとはしなかった。
 「私って、やぱりお邪魔虫。」
 圭子がポツリと言った。
 「そんなことはない。圭子次第だ。」
 進が圭子の上になった。久仁子が進の前を握って圭子に擦り付ける。
 「七年振りだな。」
 進が少しずつ圭子の中に沈んで行った。最後に挟まった手を久仁子がそっと外した。
 「これで、私もお仲間なの。」
 圭子が進の首に手を回した。進が答える代わりに腰を動かし始めた。久仁子が進の
手を自分の方に引き寄せても圭子はその様子をジッと見詰めているだけだった。
      
 久し振りに二人きりになった雅彦と麻美が抱き合っていた。進と久仁子は圭子の引
っ越しを手伝いに行ったまま向こうに泊まると言って来た。
 「まさか天国の、いえ地獄かもね。パパも、マーちゃんと圭子さんがあんなことに
なっちゃうなんて、思ってもいなかったわね。」
 「それもこれも、パパの写真が全ての始まりだよ。」
 「そうね。あれが無かったら圭子さんとマーちゃんも出会って無い訳だ。」
 「ところでママ、圭子さんとは上手く行きそう。」
 「うん。最初はちょっと心配したけど、何とかなりそう。圭子さんの方はどうかし
ら。その辺はマーちゃんの方がよく分かるんじゃない。」
 「自分が無理矢理割り込んだんじゃないかって気にしてるみたいだよ。邦宏さんた
ちがいるんで少しは気が楽みたいだけど。」
 「確かに進さんとはまだぎこちないわね。一度醒めちゃった夫婦だから無理無いん
だけどさ。私だってパパともう一度って言われても、きっと無理よ。」
 「そんなもん、夫婦って。」
 「そうなの。何故かしらね。ところでマーちゃんと久仁子ちゃんは上手く行ってる
の。」
 「うん。最近凄く感じるようになったみたい。」
 「進さんと二人掛かりだからね。」
 「ううん。」
 「違うの。」
 「邦宏さんも。」
 「あ、もしかして、あんたも和美さんと。」
 「うん。」
 「そっか、そうだよね。」
 雅彦が麻美の膝を割って顔を埋めた。何度見てもこの景色は飽きないな、と雅彦が
思った。















inserted by FC2 system