覆面太郎 作

官能小説『妻・沙希』



最近、この近所で連続殺人が行われている。
家宅侵入された上で、棒状の物で滅多打ちにされていたらしい。

金品が盗まれた形跡は無く、怨恨の線が高いらしい。物騒な話だ。
そういう事情もあり、家でもセキュリティ対策を行った。
鍵は三段階別方向に3つ、抑止力として目に見える様に玄関と裏側に巨大なダミーカメラを計3台、目立たぬ様に、外と内に本物の監視カメラを数台設置。
家内に侵入された場合に備え、赤外線センサーも用意、ボタン一つで警備会社が駆けつける様にもした。
これも全て沙希の為だ。
沙希は俺こと河嶋光彦の妻で、ショートヘアーで背が高く、胸は大きく、腰はくびれた、モデル体型。
近所の奥さん連中は羨望の眼差しを向け、褒め称えるのだ。実に誇らしい事ではないか。
だがここ数ヶ月、近所の金持ちのジジイが、何を考えてか、せっせと俺の沙希に色目を使いやがる。
件のジジイの名前は黒山平蔵と言い、口はひん曲がって下がり目、髪は少なく、貧相な体型にビール腹、とどこにでもいる親爺体型だ。
だが、こいつはここいらでは比べ物にならない程の巨大な屋敷に住んでいる。
何でも株で成功したとの事で、一生遊んで暮らせる程の財産を手に入れた、とは近所の主婦の話。
その為、暇をあかせて、俺が仕事に出ている間、毎日欠かさず家に訪ねてきてるらしい。
沙希は基本的には黒山の事を嫌っており、訪ねてくる度、蹴りを入れて追い出すのだとか。
そもそも以前から彼女は、男に対して嫌悪感を抱いており、俺が結婚にこぎつけたのはまさに奇跡と努力が幾重にも重なり合った結果であった。
そう、沙希と俺は、信頼関係に結ばれているのだ。そこいらの男になびく様な尻軽な女とは訳が違う。
「いってらっしゃい」
と沙希が言い、俺が
「行ってきます」
と頬に口付けをする。頬を赤く染め、にこやかな笑顔で手を振って、俺を見送る。
どこからどう見ても幸せな家族だ。そう、この日までは。


仕事が中々片付かず、結局深夜遅くまで残業を終え、帰宅すると、家の灯りは全て消えていた。
夜遅い事もあり、沙希が寝ているのかと思った。実際これは珍しい事だ。どんな夜遅くても、いつも沙希は寝ないで俺を待っている。
俺は物音を立てぬ様、慎重に鍵を開け、ドアを開ける。
家の中はしいんと静まり返っており、人の気配が感じられなかった。
どこかに出掛けているのだろうか。しかし、それならば、俺に一言断りも無いまま、外出するのは考え難い。
部屋の電気を次々と付けていく。中が一目瞭然になっていく。
カーテンは開いたまま、掃除機も放り出したまま、洗濯物もかけたまま。
違和感があった。彼女は完璧主義な所があって、何事も終らせないままではいられないのだ。
しかし、明らかに全て、中途である。
「沙希ーっ! 沙希ぃーっ!? いないのか? 」
大声を上げて、家内を探して回る。しかし、人の気配は相変わらず感じられない。
ふと、炊飯器の蓋を開けてみる。中は空であった。
家は確か午後五時ぐらいに飯を炊く。となると、彼女がこの家から消えたのは、それ以前と考えられる。
そうだ、監視カメラだ。あれは、一日回しっ放しにしており、深夜問題が無ければ、データを消す。
内容を確かめてみよう。カメラに映し出された記録は全て、自室のHDDへ転送される。俺は、HDDに保存したデータを確認すべく、自室へ赴く。
パソコンのスイッチを入れ、OSが起動するのを待つ。気が逸り、机の上を何度も指で叩く。
ようやく立ち上がり、俺は動画ソフトを起動させ、データの確認を急いだ。部屋内と外に設置した監視カメラの動画ファイルを同時に起動させる。
午前十二時半から記録されていた、部屋内の様子を、早送りしながら確認していく。
そうしていると、外で、午後三時頃、変化が起きた。明らかに不審な男が近付いてきている。こいつは……。
「黒山……」
だらしない表情を浮かべ、花束を手にせかせかと、向かってくる。目の前にいれば、殴ってやりたい、そんな顔だ。
家のチャイムを鳴らしたが、反応が無いのか、そわそわしている。五分程、入ったり来たりを繰り返して、その内苛々してきたのか、何度もチャイムを鳴らし始めた。
ストーカーかこいつ。セキュリティを設置して置いてよかった。


だが安堵したのもそこまで。黒山が庭に入り込んでいくのだ。そちらのベランダから侵入するつもりか。
「それは犯罪だろう……」
段々気が焦ってくるのか、手の中に汗が滲んできた。先を見るのが怖い。
黒山は、ゆっくりと庭をねめまわし、大きく頷くと、ポケットから、リモコンの様な物を取り出した。
リモコンには様々な大きさのボタンがあり、その内の一つを、監視カメラに向け、押した。
すると、突然画面が消えた。外の監視カメラの記録が終了している。つまり、先程のリモコンは強制停止する機能なのか。
頬に汗が流れてくる。やばい。俺は慌てて、もう一つ、家内に設置した動画の方に注目する。
黒山が土足で家の中に入り込んでいた。窓ガラスは割れている。嫌らしい笑みを浮かべながら、周囲を見渡す。
セキュリティが働いていない所を見ると、どうやら先程のリモコンで全て無効化されてしまったのだろうか。
黒山は、大きく目を見開けると、満面に歪んだ笑みを貼り付けて、走り出す。
カメラの視認範囲から外れ、しばらくは部屋だけが残っていた。
そうすると、走り寄る女性が現れた。
(沙希っ……!)
黒山はその体格に似合わず、敏捷で、あっさりと沙希を捕まえた。
嫌がる沙希の体を押し倒し、服を脱がせようとする。
抵抗するのに嫌気がさしたのか、思い切り何度も頬を叩く。
その内、恐怖の為か、沙希の体が震えた。泣いているのだ、あの気丈な沙希が。
俺は怒りのあまり、歯をがちがちと鳴らしながら、画面を睨みつけた。
ようやく抵抗が無くなり、満足そうな黒山は自らのズボンのファスナーを降ろし、下半身を露にする。
その時、黒山がカメラの方に目を向ける。喜色満面だ。そうして、リモコンを向け。
映像が途切れた。
「ぐあああああああっ!!!!!!」
俺は怒りの余り、そこら中に当り散らした。マウスが、キーボードが、小物が、乱れ落ちる。
(沙希……沙希ぃ……沙希ぃっ!!!)















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