6894 作

官能小説『少女シズク』



第1話

「ん…、んん……」

コンクリートの床の感触の冷たさに、目を覚ます一人の少女。
眼鏡の奥のぱっちりした瞳をぱちくりさせながら、彼女なりに必死に現状を把握しようとする。
「……あ、そういえば。」
確か数時間前、クラピカとか言った少年の〝念の鎖〟に捕らわれて締め落とされたこと。
緊迫感のカケラもない調子でそれを思い出す少女。
それからまわりをキョロキョロと見回す。
鉄格子に囲まれた空間。何をどう考えても牢獄以外の何者にも見えない。
「ふう。」
ためいきをつく少女。
この状況において、その面差しには不安のカケラすら見えない。
「……みんなのところに帰ろう。」
ひょい、と立ち上がり、無造作に精神を集中させる。
少女の脇に、コミカルながらも異様なデザインの掃除機が現れる。
「お願いね、デメちゃん。」
次の瞬間、鉄格子は跡形もなく消えてしまっていた。

――少女の名はシズク。あの悪名高き〝幻影旅団〟の構成員の一人である。





「おい、あの女逃げたぞ!!」
シズク脱獄の知らせは、クラピカ達のグループにも伝わってきた。
「チ、どうやって逃げ出したんだ、一体!?」
「相手はあの〝蜘蛛〟だ。女とはいえ、あの程度の牢獄でどうにかなる相手な訳がないだろう。」
ダルツォルネのうろたえた声にもあくまで冷静に返すクラピカ。
「こんなことなら、ずっとお前の〝鎖〟で縛っておくべき――」
「計算通りさ。」
まわりのざわめきをも断ずるような一言。
「これであの女は念能力を使わざるを得ない。」
唖然とする一同を尻目に立ち上がるクラピカ。
「さて、蜘蛛をつまみに行こうか。」
そのクラピカの雰囲気は、まるで冷酷な加虐心を全身に漲らせているかのようだった。





「――んっ!」
また一人、マフィア構成員の男が頭を潰される。
次の瞬間、別の男の内臓がえぐられる。
「撃て!撃て!幻影旅団とはいえ相手は女だ、ひるむな!」
マフィアの男の叫びが響く。
が、この期に及んでシズクを女と侮っていた愚かなその男は、その一瞬後、シズクに脳天を砕かれる。
廊下に響く銃声。
しかし、それらの全てが空しく響くだけ。
シズクの凄まじいまでのスピードと、掃除機さばきの巧みさで、次々と倒されて行く男達。
「……きりがないよ。」
とはいえ、あとからあとから湧いてくるマフィアの群れに、さすがのシズクも疲労の色を隠せない。
本来彼女は、旅団の中でもウボォーギンのような主戦闘タイプではなく、
どちらかというと、サポートやバックアップが主な役割。
とはいえ、彼女の戦闘能力が旅団外部の人間と比べて桁外れに高いことには違いはないが。
「はっ、はっ、はっ、はっ…」
それでもこの多すぎる人数は、彼女一人では重荷だったようで、
ここにきて息を乱しかけているシズク。
まさにそんな彼女の一瞬のスキを逃さず――



「――あっ!?」
〝念の鎖〟が、彼女の動きを封じ止めた。



「逃げられると、思ったのか?」
その細い身体を念鎖で巻き付けられているシズクを、クラピカは冷酷な視線で射抜く。
「……卑怯だよ。」
きつく縛られ、細身のラインが浮き彫りになっているシズクが、拗ねた調子でクラピカを見上げる。
「あうっ!!」
次の瞬間、シズクの身体がさらに締め付けられる。
苦痛で思わず声をあげるシズク。
「……貴様等蜘蛛が〝卑怯〟なんて言う資格があると思うのか?」
「…………さ…あ?」
念鎖にきつく締められながらも、額に汗を滲ませながらも、クラピカの問いにとぼけるシズク。
その態度が更にクラピカの怒りを煽ることを知ってか知らずか。
「……どうやら貴様には痛みでは駄目のようだな。」
「一応〝蜘蛛〟の端くれ…だからね……っく!」
蜘蛛の一言が、さらにシズクに巻き付いた念鎖の拘束をきつくする。
「私は敵といえども、女性には最低限の礼を欠かさなかったし、これからもそのつもりだ。
しかし、貴様等蜘蛛には女なんてことは関係ない。
――痛みとは違う、死んだほうがマシだと言う目にあわせてやる。」
めったに見せないクラピカの歪んだ笑みに、シズクは不覚にも寒気を覚えた。





異様なざわめき。
怒涛のような男達の野卑な歓声。
それらによって、眠りからシズクは覚まされた。
「ここ…は…?」
すぐさま今の自分の状況を把握しようとするシズク。
黒いセーターとGパンという、彼女のラフな服は脱がされていずそのままになっていて、安堵のため息をつくシズク。
しかし、両手を括られて宙づりの状態にされていることを考えると、あまり喜ぶこともできず。
普通の鎖なら彼女でも軽く引き千切れるのだが、あいにく彼女の手首に巻きついているのはクラピカの念鎖。
それにもう一つ、なにやら小舞台の上で縛られていることに気づく。
マフィアの顔役ともいえるメンバーの、自分の身体を服を透かせて見るかのような視線に、シズクは身震いを隠せない。
「さて、幻影旅団の女。」
何時の間に自分の目の前にいたのか。自分を念鎖で拘束している男、クラピカが話し掛けてくる。
ちなみに、シズクを捕らえた際に、マフィア達は自らの溜飲を下げるべく、
シズクを嬲り尽くし、その様を楽しむ〝拷問ショー〟をこの場に設けたのであり、
直接シズクを捕らえたクラピカのグループが、彼らの希望もあり、尋問官として立つことになったのであるが。
「名は何と言う?」
「………シズクだよ。」
クラピカの問いに、素っ気無く、しかしながら素直に答えるシズク。
「では次だ。貴様等蜘蛛の構成員の人数、拠点、主力の名前と念の特徴を喋ってもらおう。」
「嫌だよ。」
即答。
顔色一つ変えず拒否するシズクに、冷徹な笑みを浮かべるクラピカ。
「予想通りの答えだな。それならば、白状しやすいようにしてやるまでだ。
まず、邪魔っけなものを剥ぎ取ってやるよ。」
瞬間、クラピカの念鎖がシズクの身体に巻きつき――



「――!!」




第2話

純白のショーツ一枚残し、シズクの衣服が四散した。
わきあがるため息、作動するビデオカメラ。
スレンダーなシズクのショーツ一枚の半裸を照らすカメラのフラッシュ。
自分の肌を這いまわるおぞましい視線の数々に、顔を紅に染め唇を噛み締め耐えるシズク。
「どうだ、白状する気になったか?」
歪んだ笑みでシズクを眺めるクラピカに、
「………変態。」
侮蔑の言葉を吐きかけるシズク。
その彼女の背中には、大きな蜘蛛の刺青が施されている。
蜘蛛の刺青。幻影旅団の証。
可愛いと言って差し支えないほどの小さな背中に彫られたその蜘蛛が、
なんともいえないコンストラクションを醸し出している。
しかしながら、その蜘蛛の刺青は、一層クラピカの怒りと憎しみを煽る結果となる。
しゅる!
「きゃ!?」
クラピカの操るチェーンがシズクのただ一枚残されたショーツの縁に侵入する。
もう片方の縁にもチェーンが絡み付き、思わず悲鳴をあげるシズク。
「さて、せめてこれ以上の女の辱めを受けぬためにも、旅団の情報を喋ったらどうだ?」
「……知らないよ。」
宙づりにされた状態で、身体中に淫靡な鎖が絡められていて、
そんな状態で、今まさに最後の砦が破られようとしてる時でも、
クラピカから顔を背け、きっぱりと拒絶の意を表すシズク。
「どうやらよほど恥ずかしい目に遭いたいようだな。」
「別に、そんなことはないんだけどね。」
あっさりと答えるシズク。
しかしながら首筋の染まり具合や、鎖を通じて感じられる震えは誤魔化せない。
そしてクラピカの念鎖が煌き――



「――っ!!」



瞬間、そのつぶらな瞳を固く閉じ、真っ赤な面差しを強張らせるシズク。
シズクを守っていた最後の砦は、今やただの布切れと化し、
あわてて両膝を閉じ両脚を丸め高く上げ、股間を隠そうとするシズクであったが、
「えっ!?」
即座に鎖が両脚に絡みつく。
「見てもらえよ、蜘蛛女の大事なところを。マフィアの連中に――なっ!」
口元を歪め、鎖に念を送るクラピカ。
「あっ、ダメっ……!」
鎖に絡め取られたシズクの両脚が徐々に開かれてゆく。
とたんに巻き起こる観衆の歓声とカメラのフラッシュ。
「くうっ……っ!」
必死に脚を広げられまいと、歯を食いしばり脚に力を入れるシズクであるが、
念の鎖は、それをはるかに凌駕する力で、シズクの秘部を晒しにかかる。
「ダメ、ダメっ……!」
首を左右に振りたくり、歯を食いしばり、脚を震わせながらも必死に閉じようとするシズク。
しかし、そんな彼女の想いを嘲笑うかのように弄ぶクラピカの念鎖。
「(悔しいよ……っ!)」
屈辱。
最凶最悪の盗賊団の名を欲しいままにした幻影旅団の一員たる自分。
しかしながら、そんな自分がいいように弄ばれている。
しかも最も晒されたくない女の部分を、こんな形で。
殺してやりたい。
この鎖使いの少年も、いやらしい目で自分を見ているマフィアの男達も全て。
人を殺すことに、特に何の感慨も湧かなかった自分。
しかし今ばかりは、明確に思える。
――みんな殺してやりたい、と。

そんなシズクの想いも虚しく、ついに両脚は大股開きに広げられ、女の花園が衆目に晒されたのである。



「へぇ、まだ毛が浅いようだな。」
「幻影旅団ったって、ソコの部分はまだガキだなオイ!」
「可愛いアソコしちゃってまぁ……」
マフィアたちの、身を切り裂くような論評が耳に入る。
スポットライトが自分の裸身に照らされて、しきりに焚かれるカメラのフラッシュ。
「おい、この写真を全黒社会に回してやれよ。」
「そうだな、幻影旅団の一味の恥ずかしい姿を、思いきりバラまいちまおうか!」
自分の裸身を、胸を、お尻を、そして恥ずかしい部分まで晒されて、こんな会話を聞かされて、
悔しさと恥ずかしさで、顔を俯かせて閉じた瞳を震わせるシズク。
「恥ずかしいのか。蜘蛛にも羞恥心なんてものがあったとは意外だな。」
せせら笑うクラピカを、眼鏡越しのつぶらな瞳を潤ませて睨みつけ、
「……ぜ、絶対に殺してやるんだから……」
震える唇で呪詛を紡ぎ、そのまま震えながらも睨み続けるシズク。
そんな彼女を歪んだ笑みで見据えるクラピカ。
「……………ククッ……これからが本当のお楽しみだぞ、女。」

ギィィィィィィィ………ッ。

「え……?」
動揺するシズク。
なんと、宙づりにされている彼女の足元の床がなくなり、底すら見えない穴か口を開けていた。
そう、まるでシズクを呑み込むかのごとく。



瞬間、シズクを縛っていた手首の鎖が解かれた。



「――くっ!」
間一髪。
垂れ下がった鎖に掴まり、なんとか落下を免れたシズクであったが。
「さて、本番はこれからだ。果たしてどこまで耐えられるかな?」
仲間には見せたことすらない憎悪と偏執性を込めたクラピカの歪んだ笑みに、ゾッと寒気を感じるシズク。
そして、クラピカが鎖に念を送る――



「な、なに? ――あぁっ!」



第3話

クラピカの念を注入された鎖が、シズクの細身の裸身に絡みつく。
そしてなんと、シズクの首筋、小さいが形のよい乳房、小さく咲いている乳首
蜘蛛の刺青を彫ってある小さな背中。折れそうな細い腰、可愛くて張りがあるヒップ、
これまた張りがあるカモシカのような太股、そして――
「ん!……っく、ううっ!」
ありとあらゆる彼女の性感帯に鎖が巻き付き、ネチネチと愛撫を始めたのである。
先程のような冷たい感触ではない。
そう、念によって創られた、まるでフサフサの柔毛のような感触をもった鎖が、
オッパイに絡みつき、乳首を引っ掻き、脇の下を擽り、
背中をさすり、腰に纏わり付き、ヒップを撫で回し、太股を這い回る。
股間に食い込んだ柔毛の鎖が、前へ後ろへと擦り付けられ、
「ぐ……っぐ……ん……ふぁ!」
次から次へとシズクに〝女の衝動〟を送り込む。
最凶最悪の幻影旅団の一員とはいえ、性的にはウブのシズクには、この責めはかなり効いているようだ。
「くうっ……んぁっ……はぁはぁぁ…………ひゃうっ!!」
裸のカラダにアリが這い回っているかのような寒気のする感触に、全身鳥肌を立てて悶え苦しむシズク。
鎖を掴む両腕にも力が入らない。
身体中を愛撫され、思うように力が込められない。
なによりも、全身をいやらしく撫で回すこの鎖を、今すぐ振りほどきたい。
しかし、それで手を放せば、彼女は奈落の底に落ちてしまう。
「ダメ……ダメだよっ……!」
離したくても離せない状態に、悶え苦しみ喘ぐシズク。
「は………ぁ……ん、ぁっ………!」
シズクの〝女の弱点〟を嬲りまわす念の鎖の前に、感じたくなくとも感じさせられる。

「!………ダメぇっ!!」
突如、絹を裂くような悲鳴を上げるシズク。
そう、彼女は気づいたのだ。
自分が、確実に絶頂に向かって押し上げられていることを。
「っく……はぁ……ぁぁ………はぁっ……」
スレンダーなシズクの裸身が火照ってきているのが傍目にもわかる。
ネチネチと、じわじわと嬲りにかかる柔毛の鎖の感触は、まさにシズクにとって死への誘い。
絶頂に達してしまうということは、間違いなく鎖を掴む手から力が抜ける。
「ダメ……ダメ……ふぁ……ダメ!」
胸を、尻を、股間を愛撫する柔毛の鎖に、どんどん追い込まれるシズク。
快感を振り払うように首を振りたくり、歯を食いしばり必死にイクまいと堪えても、女の弱点ばかりはどうしようもない。
「もうダメ……っふ!………助けて………ふぁぁ…ぁ!
………たすけて……っ…………はぁはぁはぁはぁっ………」
全身には球のような汗が滲み出、瘧にかかったかのように痙攣する裸身、潤む瞳の焦点すら合わないシズク。
来るべく〝女の衝動〟に必死に抗うも……
そんなシズクの耳に囁くように、クラピカが最後の忠告を促した。
「これが最後だ。旅団の情報を白状したら、お前だけは助けてやる。」
今までが嘘みたいな優しい声。
地獄のような快感責めに遭い、息も絶え絶えの彼女には、まるで天使の誘いのように聞こえただろう。
「あ………」
優しく微笑むクラピカの顔を見、シズクの瞳から意図せず涙がポロリとこぼれ出す。
救われたような表情で、唇を弱々しく開き、そして――



「――ダメぇぇっ!!」



会場に絶叫が響き渡る。
首を左右に振りたくるシズク。まるで誘いを振りほどくかのように。
そしてクラピカを眼鏡の奥のつぶらな瞳でキッと睨み据え、ハッキリと言い放った。
「いくら最悪の盗賊蜘蛛でも、仲間まで裏切るほど落ちちゃいないよっ!!」

「ククククク………ッ!」
クラピカが笑っていた。先程までの邪な笑みを満面に浮かべて。
「蜘蛛にも仲間意識はあったとはな……
情報を聞き出すだけ聞き出してから、嬲り殺してやろうと思ったのに……!」
そして、快感に耐え続けてフラフラのシズクに向かって吐き捨てた。
「いいだろう、なあに、寂しがることはない。
――すぐにお仲間全員送ってやるからよっ!!」
瞬間、シズクの秘部を今までにない衝撃が襲った。
「だっ……ダメぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」



絶頂に達してしまったシズク。全ての力が抜き取られて、抗う術ももはやなく、奈落の底へ――



シュルルルルッ!

と、その時、どこからか飛んできた〝念糸〟が、シズクの手首に巻きつき、一気に引き上げた!
『な、何!?』
憎き蜘蛛を仕留めたと思ったクラピカも、会場にいた全てのマフィア達も、一瞬、完全に虚を衝かれた。
そして、次の瞬間、
「俺の両手は機関銃(ダブルマシンガン)!!」
フランケンを彷彿とさせる男の指から放たれる念弾で、次々と撃ち殺されるマフィア達。

「チ……少しばかり感情に流されすぎたか……」
念鎖で念弾を弾き飛ばし、舌打ちしながら脱出するクラピカ。
「(まあいい……、次だ。次こそ蜘蛛どもに死にも勝る苦しみを……!)」
この騒ぎでコンタクトが取れ、露になった紅き瞳が、終わらない死闘を凄絶に物語っていた。





「マチ……」
「よく頑張ったね、シズク。」
小さな裸身を優しく包みこむ毛布にくるまれ、マチと呼ばれた念糸使いに力無くもたれかかる。
「あ、シズクさんの恥ずかしいビデオテープやフィルムは、多分念弾で跡形も無く砕けてるはずですから、ご心配なく。」
運転手の優男のセリフに、可愛いとさえ思えるあどけない顔立ちを赤く染めて俯いてしまうシズク。
「俺的には見たかった気もするけどな。いやあ残念残念!――ってっ!」
「全くアル。なんてもったいないコトするアルか――ったっ!」
揶揄するウボォーギンとフェイタンの頭に、シズクのゲンコツが炸裂する。
「………ばかっ。」
そのまま、 毛布に顔を埋めてしまう。
「ま、とにかくこれからですよね。この借りはたっぷり返してもらいましょうね、シズクさん。」
「………うん。」

じきに朝日が昇る頃。
最凶最悪の集団を乗せたワゴンが、静かに地平の奥に消えていった。















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