官能小説『乳房』

amane 作



 手の中の白い塊。
 ぐっと指先に力を込めればそのままずぶりと受け入れられ、じんわりと脂が滲み出すのではないかと思われた。
 仰向けに寝た女の長い髪がペットから床へ、象徴的な波形を描いて垂れ下がり、その露わな胸は重力には耐えられないと言う様にやや外向きに流れている。
 とは言っても、若い女の胸だ。
 確かな弾力と大きさで、その歪みすらをも官能的に見せる。
 包み込むように外側からぐっと引き寄せれば、確かな重みとまだ微かな温みが感じられる。
 花の蕾のような薔薇色の突起物は静脈の浮き出た白い花弁に守られ幾らか誇らしげに上を向いていた。
 暫くじっと見詰めてみた。
 ムードライトの薄暗い光が幽玄郷を思わせる。
 その斑な光と影は判断力を鈍らせるには十分な効果を演出した。
 開いた窓から不釣り合いなほど爽やかな風がさっと室内を駆け巡り、躍り上がったカーテンが微かにその顔を撫でた。
 掌に力を込め、女の乳房を揉みしだいてみた。
 指先が上等のラードを捏ねているような錯覚に囚われる。
 あんなに憎んでいたはずなのに、何とした事か恍惚とした快感が脳髄を痺れさせた。
 知らず知らず、掌を通して今までこの女が感じて来たであろう全ての快楽を貪ろうと愛撫していた。
「たくさんの男の中の一人。遊ばれただけなんだ」
 そんな事が頭の片隅に浮かんだ。
 が、それがなんだと言うのだ?
 今、この女はその肉体すべてを投げ出し、自分の下にいるではないか?
 手はまるで水面を泳ぎ渡る蛇のように、するすると難なく下半身の秘所へと滑り込んだ。
 湿り気を帯びたそこは乳房などよりずっと温かく、絡み付くようなその感触はいささか不快でもあった。
「此処でいったい何人の男を誑かしてきたのか」
 そう思うと、まるで今までの罪を暴露してやりたいような意地悪な気持ちになり、吸い付くような乳房の感触を捨て、女の細い足を押し開いてみた。
 幽玄の光に映し出されたそれは、どんな花弁よりも複雑で、どんな貝よりも醜く蠱惑的だった。
「一体、私のそれとどこがこの女と違うと言うのか。彼はなぜこんな女に狂ったのか」
 女の足首に食い込む爪、その爪先から流れ込む憎悪と一つの誘惑。
 耳には囁くような風の音。
 彼女は、冷たく、更に冷たくなる恋敵の花園にそっとキスをしていた。

 窓からは初夏を告げる風が吹き、ベットに横たわる女の首に巻かれたスカーフに無邪気に戯れると、まるで何事も無かったかのような静寂を残して消えた。
 残された光は、二人の女の淫らな影を静かに映し出していた。






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