7.自白剤と催眠術

 次の日に掛かって来た電話で、俺はより詳しい話を佐々木から聞き出した。やはり佐々木は、海外では主に軍隊や警察が使用していると言う自白剤と自分が研究習得した催眠術を併用する事により、カフェで働かせている女性達を無意識に操り淫行を繰り返すと言う悪事を働いているらしい。それを明かしても、千恵利を人質に取られているに等しい俺には何も出来ないだろうとタカを括られたわけで、随分舐められたものだが、事実そうなのだから仕方ない。

「これまでチェリーちゃんを調教して来た動画も全部送ってやるよ。お前さんにサービスだ」
「いや、いらない。もう十分だ」
「カッコ付けんなよ。AVなんかバカらしくなるぜ。あんな美人の嫁さんがどうやってどスケベビッチに生まれ変わったのか……」
「いい加減にしろ!」

ーーくそう! コイツ、俺に手出しが出来ない事がわかってて好き勝手な事を……千恵利の調教ビデオだと……

 千恵利だけでなく自分をも良いように弄ぼうとする佐々木に腹を立てて怒鳴ったが、それは俺の心理まで正確に見破っているやつに対して、虚勢を張って最後のプライドを保とうとする行為に過ぎなかった。何しろ俺は、(千恵利が佐々木にエロ調教される様子を見てみたい)と言う悪魔の囁きを聞いていたのだから。

「欲しくなったらいつでも言ってくれ。とても大きな子供を産んだ人妻だなんて思えねえよな、チェリーちゃんは。お前さんみたいなボンクラ亭主に操を立てて、えらくエッチを嫌がるもんだから、あそこまで仕込むのに一月も掛かっちまったぜ」
「ボンクラで悪かったな」
「嫁さんを抱いてやらずエロビ鑑賞に精を出して、チェリーちゃんを欲求不満にしちまったんだ。あの時、お前に譲ってやったのは大間違いだったな」
「……」

 夫婦生活の細かい所まで知られている佐々木に対して、俺は何も言い返す言葉がなかった。

「初めは俺に触られただけで大泣きだぜ。お前生娘かっつーの。おかげで、ギチギチに縛り上げてやる必要があったな。そうやって、根気良く、丁寧に、優しく、セックスの気持ち良さを一から教えてやったんだぜ。毎日少なくとも5回はマジイキさせてやったよ。チェリーちゃん、お前に抱かれてこんなに気持ち良いアクメに達した事なんか一度もないって、白状してたぜ」
「そんな筈は……ない……」
「演技してたんだってよ。でも、ホントは物足りなくて、オメエがぐうぐう寝てる側でオナニーしちまった事も何度もあるそうだ」
「……もう……やめてくれ」
「おい、そんなに落ち込むなよ。それでも彼女はお前を愛してるんだぞ。お前とは一緒になっただけで幸せなんだって、言ってたじゃねえか。それに、これからはチェリーちゃんの方が積極的に、自分も気持ち良くなれるように愛してくれるからな。この間彼女を抱いた時、最高だっただろ?」
「教えてくれ。あのビデオでお前が言ってた言葉は本当なのか?」
「全部、嘘偽りのない本当さ。一体何の事を言ってるんだ?」
「千恵利を、俺から奪うつもりはないのか、と言う事だ」
「そうだな。ただし、彼女の方が望むなら、考えないでもない」
「そんな事はあり得ない」
「だな。お前が余計な事をしでかしてチェリーちゃんの記憶を戻したりしなきゃ、大丈夫だ」

 釘を刺されてしまった。やはり打開策は見つからないのか。

「催眠術なんて嘘っぱちだと思ってただろう」
「ああ」
「無意識の部分を聞き出す自白剤と同じ理屈なんだぜ。催眠術ってのは、嫌がってる行為をさせるわけじゃねえんだ。だからチェリーちゃんがお前との結婚生活を望んでるなら、それを無理に別れさせるなんて出来やしねえ。だが、彼女がお前さんに愛想を尽かしたっつうなら、遠慮なく受け入れてやるぜ。俺にも女房がいるから、性奴隷として、だがな」
「奴隷だと!」
「ビックリしたような声を出すなよ。チェリーちゃんの本性はすっげえどMみたいだからな。俺をご主人様と呼んで何でも従う、あれは彼女自身が持ってたマゾの願望を引き出してやっただけなんだぜ。てか、大抵の人間はMの欲望もSの欲望も心の奥に隠し持ってるもんだ。だからその欲望をうまく解放してやれば、チェリーちゃんは喜んで俺の奴隷になってくれるだろう。催眠術ってのは、そんなもんだ」
「眠ってる欲望を解放するのか」
「例えば、根っから望んでないやつに、死ね、とか人を殺せ、とか命令しても操る事は不可能だ。だが、そんな危険な欲望をソイツが心の底に少しでも持ってるとすれば……それを目覚めさせて催眠術で操る事は理論上可能だな、簡単じゃないが」
「難しい話になって来たな」

 千恵利は、俺と離婚したいと言う欲望を少しでも隠し持ってるのだろうか。そう言えば、佐々木との関係を俺に知られたら、もう俺の妻ではいられないなどと言ってたではないか。

ーー駄目だ。千恵利の記憶を取り戻すなんて、そんな危険な橋を渡る事は出来ない

 佐々木の催眠術に付けいるスキを与えてはならないのだ。

「チェリーちゃんは俺と会って、お前さんよりずっと気持ち良いセックスを教えられちまった事を、全部忘れろ、と言ったら、すぐにキレイサッパリ忘れちまうみたいだな。催眠術に掛かり易い場合と難しい場合があるんだが、そりゃもう術に掛けてやる必要もねえんじゃないか、ってくらいすぐに、全く何事もなかったかのような顔に戻っちまう。俺は羨ましいぜ、増田、お前がよ」
「人の妻に好き勝手な事を働いて、何が羨ましいんだ。からかってるんなら、やめてくれ」
「チェリーちゃんはな、お前の事を愛してて、なのに俺に抱かれて歓んじまう自分が嫌で嫌でたまんねえんだよ。だから俺とのセックスでイキまくっちまった事を、心の底から忘れてしまいたいと思ってるんだろうがっ! 身体はとうに裏切ってるくせに、チェリーちゃんの心はまだお前の事を……」
「当たり前じゃないか」

 珍しく感情を露わにした佐々木の言葉は、わずかながら俺にとっての救いであった。千恵利の身体は佐々木に屈しても、心まで催眠術で操る事は出来ないのだ。俺はやつの言葉を遮り、さんざん嘲笑されたお返しのつもりで、ハッキリと言い切った。

「千恵利と俺はもう長年愛を育んで来た、夫婦なんだ。いきなり現れたお前とは年期が違うよ。身体はともかく彼女の心までお前になびくなんて事はあり得ない」
「ほう、えらい自信だな。だけど、一体お前に何が出来る?」
「今は方法を思い付かないが、いつか必ず千恵利の術を解いて……お前に復讐してやる」
「そうかい。それは楽しみにしてるぜ」

 だが、再び人を小馬鹿にするような余裕綽々の口調に戻った佐々木に対して、空元気に過ぎない俺の挑発は虚しいだけだった。一か月の調教で、佐々木に絶対服従する性奴隷のように堕とされた千恵利が、これからもずっと心を折らず俺を想い続けてくれるのか? そもそも俺が、いつか佐々木の術を破る方法を思い付くという見通しもありはしないのだ。

「だけどよ、増田。チェリーちゃんの調教はまだ準備が終わっただけなんだぜ。本番は来週から……まあ良い、かかさず報告してやるから楽しみにしてろ。じゃあな」
「待ってくれ!」

 佐々木に聞きたい事はまだ山ほどあった。

「本当に望んでない事は、催眠術でも操れないと言ったな」
「その通りだ」
「じゃあ千恵利はあんな事……心の中じゃ望んでたって事か?」
「初めは間違いなく望んじゃなかったさ。だから縛り付けてかわいがってやったって言っただろ。だけど、毎日望んでもねえアクメを繰り返し味わわされてるうちに、チェリーちゃんの中に眠ってたわずかな欲望が目覚めちまったんだろうな。今じゃお前さんも見ての通りさ」
「結局、お前が千恵利をあんなにしちまったって事じゃないか」
「俺を責めるのは筋違いじゃねえのか。俺がこんなにマメにチェリーちゃんを抱いて歓ばせてやってた間、お前さんと来たら、彼女に指一本触れもしなかったんだろ? あんなスゲエ身体してる奥さんなのに、かわいそうだな、ハハハ……」
「……千恵利は欲求不満だったって言いたいのか」
「さあな。とにかく初めは無理矢理イカされるだけだったチェリーちゃんも、一週間もたって潮吹きを覚えた頃だったかな。だんだん素直に快感に身を任せるようになって、そのうち縛らなくても操れるようになった。だけど、俺はいろんな女を調教して来たけど、あんなに時間が掛かったのはチェリーちゃんが初めてなんだぜ。セックスは下手くそだし、この頃じゃ抱いてもくれねえボンクラな夫なんぞに義理立てしてよ。やっぱ最高の女だな、チェリーちゃんは」

 人妻として固く貞操を守ろうとした千恵利を賞賛する佐々木の言葉はしかし、俺の絶望をどんどん深めていくばかりだった。コイツは多くの女性を薬と催眠術で籠絡して来た、その道のプロなのだ。

「マジでいらねえのか、チェリーちゃんの調教ビデオ。良いズリネタになるぜ、へっへっへ……」
「それはいいと言ってるだろ! どこまで人をバカにしたら気がすむんだ!」

 妻が寝取られる動画をズリネタに自分を慰める事しか出来ない惨めな俺の立場を見透かされて、語気が荒くなってしまう。佐々木にからかわれている事はわかっても、感情がコントロール出来なかったのだ。そして俺は気になっていたもう一つの疑念をぶつける。

「もう一つ聞かせろ。どうしてこの事を俺に知らせるんだ? 黙ってりゃ、俺は全然気付いてなかったんだぞ」

 そうだ。千恵利は完璧に催眠術に掛かり、佐々木に淫行を働かれた事を覚えていないのだ。やつがわざわざ知らせてこなければ俺が勘付くわけはなかったし、これからも極秘に千恵利を好き勝手に弄ぶ事が出来た筈ではないか。

 だが予想していた「お前を苦しめるためだ」とか「別れさせるためだ」のようなハッキリした答は返って来なかった。

「んなもん、自分で考えな。まあ、これからも逐一動画を送って、チェリーちゃんの様子を知らせてやるから楽しみにしてろ。着信拒否なんてするんじゃねえぞ」
「千恵利をお前の店にはもう行かせない、と言ったら?」
「チェリーちゃんはこれからも俺に会いにやって来る。そう暗示してやってただろう? 俺の命令は絶対だからな、下手に説得したりしねえ方がいいと思うぜ。何なら試してみなよ。後悔したって知らねえぞ」
「そうしたら……どうなるって言うんだ」
「命令を妨害されたら、忘れてたチェリーちゃんの記憶がいっぺんに戻っちまうかも知れねえな。彼女はそれに耐え切れんのかな? ハハハ……」

 俺は暗澹たる気分で電話を切った。下手に抵抗すれば破局を早めるだけなのだ。いっそ佐々木の軍門に降ってしまえば良いではないか、と悪魔の囁きが聞こえる。このまま千恵利自身全く覚えていない、一日2時間の忌まわしい佐々木との密通を黙認していれば、少なくとも表面上は彼女との幸福な生活を維持する事が出来るのだから。

ーー幸福なのか? 本当にそんな生活が……くそう! 俺に何か出来る事はないのか、何か……、

 幸い、明日から週末2日の猶予が与えられている。俺は何とか打開策を探ってみるつもりだった。




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作者二次元世界の調教師さんのブログ

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