1.たった一人のかるた部員

「失礼します。2年生、あ、間違えました、3年生の小池です……アイタッ!」
「あら、そんなに緊張しなくてもいいのに」
「し、失礼しましたっ!」

 校長室に礼儀正しく深々とお辞儀をして入ったのはいいが、緊張していたのか頭を上げた時、物にぶつかって再び頭を下げた長身の女子生徒を見て、僕はついクスッとしてしまったようだ。

「吉村先生が笑ってらっしゃるわ」
「あ、ごめんなさい」
「それじゃ頼みましたよ、吉村先生。わしはこのくらいで」

 貫禄十分の坂東理事長が退室するのを「失礼します」と皆で見送ると、誰からともなく安堵のため息が聞こえ、緊張の解けた室内は空気が和んだ。初めてお会いした僕はもちろんだが、女分校長と女生徒にとっても、理事長は特別の存在らしい。

「理事長は苦手だわ」
「そのようですね」
「吉村先生、ごめんなさいね。来て早々にこんな大役を押し付けちゃって……あ、ごめんなさいね、小池さん。こんな事聞かせちゃって」
「いえ、私もわかってます。理事長先生、怖いですよね」
「そうなのよ」

 女同士のおしゃべりに割って入るのは勇気がいった。何を隠そう、僕は女性が大の苦手なんである。失礼ながらその筋の人と言われても、納得しそうな強面の理事長と話してる方がまだ気楽なくらいである。

「あのう、すみません」
「あら、ごめんなさい、吉村先生。この子が部長の小池です」
「ああ、かるた部の」
「競技かるた部3年、小池柴乃と申します、どうかよろしくお願いいたします!」

 又しても長身を折り曲げるように深々と下げた、今時珍しいストレートなロングヘアが印象的な少女の髪の生え際をぼんやり見ながら僕は思う。

ーー「しの」ってのは随分古風な名前だな。亡くなったうちのばあさんと同じだ……

 快活で礼儀正しいが、すこしそそっかしい。そんな第一印象そのままだが、同時に名前が示すように古風で奥床しい面も持っている。そんな小池柴乃と僕は、こうして運命の出会いを果たしたのだ。

「私、先生を部室に案内して来ます!」
「吉村先生。小池さんとてもいい子ですから、よろしく頼みますね」

ーーもしかして、僕の事って知られてないのか?

 とても嬉しそうに校長室を出て、校舎の離れへと向かう小池柴乃の後ろ姿を追いながら、僕は自分の事をどう切り出したものか、迷っていた。まだ学校は始まっておらず、大卒の新米教師である僕は生徒達に紹介されてもいないのだから。

「先生こちらです。スリッパでも大丈夫ですから」
「知ってるよ。部室、変わってないんでしょ?」
「え!?」

 校舎を出て離れのプレハブ小屋に行こうとするので、知ってると言うと、案の定怪訝そうな顔をされた。やはり黙っておくのは無理なようだ。

「僕、ここの卒業生だから」
「そうだったんですか!」

 マンガみたいだが、本当に細い目を丸くして驚いて見せている。長めのスカートの前を両手で押さえて、いかにもおしとやかで真面目そうだが、表情は豊かな子らしい。小池柴乃はそれきりしゃべらず後ろを向くと、プレハブ小屋までスタスタと歩を進め、「ここです」と引き戸を開けた。

「鍵掛けてないの?」
「あの、その………ごめんなさいっ!」

 不用心を咎められたと思ったのか、又しても深々と頭を下げる。僕はつい余計な言葉を掛けてしまった。

「頭気を付けて。そこ、入口が低いから」
「どうして、ご存じなんですか」

 小首をかしげて、キョトンとして見せる。やっぱり表情豊かで分かり易い子だ。仕方ない、僕の正体を明かさねばならないだろう。

「実は僕、かるた部だったんだけど」
「ええ~っ! 先輩だったんですか?!」
「そうだよ。背が高い人はよくやるんだよ、そこ安普請だからさ」
「はい。私なんかしょっちゅうですから慣れてます」

 僕がOBとわかり遠慮がなくなったのか、さっさと中に入って行く小池さんと会話しながら、僕は自分に驚いていた。初対面の若い女性とこんな気軽に話しているなんて。実際高校時代は女子と雑談したと言う記憶がないんだから。

「変わってないね」
「そうなんですか!」
「5年しか経ってないんだもんな」

 低い鴨居に辟易としながらくぐって入ると、中は勝手知ったる畳敷きの和室である。かなりの広間で、僕がいた頃は5人くらいいた部員が余裕で入り稽古していた記憶がある。顧問の先生も含めて、僕以外は全員女性。僕は詠み手専門だった。

「先生が来て下さって、私本当に嬉しいです!」

 喜色満面とはこの事か、目を輝かせて素直に喜びを表現する小池さんを見ていると、僕まで嬉しくなる。そして彼女に請われるまま、僕は当時の部の様子を話し込んでいた。

「へえ、先生がいらっしゃった頃は、沢山部員がいたんですね。いいなあ」

 聞けば、彼女が1年生で入部した時は、引退間近の3年生部員が2人いただけ。去年は彼女1人だけで、実質的にほとんど活動も出来なかったらしい。

「指導して下さる方がいれば、私1人でもやれます!」
「いや、指導と言っても……」

 口ごもってしまう気弱な自分が情けない。本当は指導出来そうな部活動は競技かるたしかなく、運動部に回されたらどうしようかと恐れていたので、1も2もなく顧問を引き受けたのだ。

「個人戦なら、大会にも出られますよね」
「そうだけど………まず部員を増やすことを考えましょう」

 実を言えば、競技かるた部はここ夕陽ヶ丘学園島田分校の看板クラブである。いや、だったと言うのが正しい。何せ少人数の分校で僕がいた頃はまだ2クラスあったが、今は1クラスになってしまった。これでは人数を要するメジャーな部活動で実績を上げるのは難しく、坂東理事長の肝入りで指導出来る先生を引っ張って来て競技かるた部を発足させた。その甲斐あって、この学校で唯一県大会に出場する部活動となり、僕がいた時は女子団体で優勝したくらいなのだ。

 ところが、僕が卒業した時恩師であるその先生が定年退職。指導者を失い一気に廃部寸前まで衰退した部の再建が、新米教師の僕に託されたと言うわけだ。小池さんが熱心なのは頼もしいが、大会に出た事もない彼女がいきなり個人戦で通用する程甘くはない。とにかく1年生を勧誘して部員を増やし、団体戦出場を目指す事を小池さんと約束してこの日は解散となった。

 寄り道もせず、歩いて10分程度の実家に帰ると、まだ5時前だった。僕はさっさとスーツを脱ぎ母に頼んで、まだ早いが風呂に入らせてもらった。ずっと感じてたんだけど、入浴の前用を足す時、股間が異常に張り切っており、一寸ビックリ。怖い理事長と面談してとても緊張したためだろうか。いや、実のところ原因は分かっている。

 体を洗い終え、湯船に浸かりながら、僕は改めて凄まじく勃起して、ドクドクと脈動してる包茎チンポに困惑していた。

ーーもう1週間、出してないもんな。これが僕の限界か……

 幸運にも母校への就職が決まり、下宿先から実家に帰ったのが1週間前。僕は中学の頃父親を亡くし、以来母親と二人暮らし。持ち家から安アパートに越して、自分の部屋などないのである。女性が苦手と言ったが人並みに性欲はある。もちろん彼女などいるわけがなく、高校時代はトイレや風呂で処理したもんだった。何しろ夜は母親と枕を並べて寝るのだから。

 同じ県内の国立大学に進学して下宿してからは、いわゆるエロ本やビデオのお世話になるようになった。ただ僕は、性器がモロに出て来るような、あまりドギツイのは好みじゃない。実は不謹慎だが、女学生の下着やブルマ、水着などを鑑賞しながら性欲解消に励むのが常だった。実家にもいくつか持ち帰ってるんだけど、残念ながらまだ使う機会は得られていない。

ーーやっぱり昔と同じか。情けないなあ……

 1週間ぶりと言うのは、記録的かも知れない。これは男の生理上仕方ないことなんだ、と言い訳しながら、僕は異常に硬化した股間のモノに手を掛ける。余った包皮の上からシコシコと始めるとすぐに射精欲求が訪れて、僕は一時手を休め、尻穴に力を入れて湯船の中で射精してしまうのを防いだ。そ知らぬ顔をして、母に汚染された湯を使わせるわけにはいかない。

ーーいきなり出したらもったいないぞ。何か好きな女の子のイメージを思い浮かべるんだ………セーラー服がいいかな.……

   分校も女子はセーラー服なんだけど、始めた時は少しもそんな事は考えなかった。でもゆっくりと加減してチンポをしごく快感を堪能しながら、一旦湯船を上がりいよいよスパートを掛ける頃には、僕の脳裏に長身でストレートなロングヘアの少女がハッキリと浮かんでいた。

ーー出すよ、小池さん……


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作者二次元世界の調教師さんのブログ

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