1.欲情

「やあ」
「ごめんね、遅くなっちゃった」

 さっきまで最悪の気分で、人を待たせてるのに足取りの重かった私ですが、現金なもので街頭に浮かぶ彼氏の顔を見たら嬉しくなり、足早に駆け寄って行きました。私山下千寿は大学4年生。彼田岡正一君も同じ大学で、今日から一緒に母校で教育実習を受けに来てるのです。正一君と私は小学校時代から同級生の幼なじみで、高校の時にコクられてお付き合いを始めました。ずっと同じ学校で教育実習まで一緒だなんてウソみたいですけど、二人とも真剣に学校の先生を目指しています。彼は数学、私は生物が専門ですが、夢が叶ったらいいね、そしたら結婚しようか、と話しています。もう彼からはプロポーズされて私もオッケーしてるので、正式ではありませんがフィアンセみたいなものでした。

「先生に残されたの?」
「そうなの。マジで最低、あの先生」
「千寿ちゃんがそんな事言うなんて、よっぽど酷いんだね、あの先生」
「うん。せっかく正ちゃんとゴハン食べる約束してたのに、しつこくって」

 気を許してる彼の前で、私はつい汚い言葉で先生を非難してしまいました。人の悪口を言うのは好きじゃないんですけど、実習の担当になった町田先生には初日でもうウンザリだったのです。この春転校して来られたそうですが、身長170センチくらいの私より頭一つは背が低くとても太っています。後頭部はハゲ掛かってるしボタボタ汗を垂らしていて、女子からはキモイとか陰口を叩かれて嫌われてると、仲良くなった生徒から聞かされてしまいました。だけど何と言っても嫌だったのは物凄くキツイ体臭をされている事で、近寄ると生ゴミみたいな悪臭が鼻に付いて本当に吐き気を催してしまうくらいだったのです。

 でも人を外見だけで判断してはいけません。町田先生は教員としてもどうなのか、とその資質を疑ってしまう先生でした。やる気のない無気力な授業で、生徒は居眠りしたり私語をしたり、全然授業が成立していないのです。そのくせ放課後教員室で私を一対一で指導する時は妙に丁寧で時間が掛かり、なかなか帰らせてくれませんでした。それに私は嫌なのに体を伸ばして話されるので体臭が酷く、本当に鼻を摘まんでしまいたいような気分だったのです。

「だけど熱心な先生なんじゃない? 俺の先生なんかスゲえアッサリしてて、え、これでもういいの? って感じだったけどね」
「その方がいいって。マジで勘弁して欲しいよ、あの先生」
「おかしいな? 実習は大変だろうけど、先生の言う事をよく聞いて真面目にしなきゃ、って俺に説教したのは千寿ちゃんの方だけど」
「……」
「とにかくこの2週間は嫌な先生でも我慢しなきゃ。いい成績貰わなきゃ先生になれないぞ」
「そうだね」

ーーとても正ちゃんには言えないよね、あんな事

 町田先生の外見や体臭についても愚痴をこぼしてはいけませんが、彼には絶対言えない一番嫌だった事は、彼氏はいるのかと先生にプライベートについて聞かれた事。おまけに、いませんとウソを吐いたら、何と夕食を誘われてしまったのです。それも、まだまだ話したい事があるから付き合いなさい、と立場を利用した強引なものでした。もちろん体よく断り何とか逃げて来たんですけど、私の気分は最低で彼に愚痴をこぼしたくなるのも仕方がないと思います。 

ーーえ!? な、何コレ……体が熱いよ

 正ちゃんと話しながら夜道を歩いている時でした。何だか妙なズキッと言う甘い感触を下腹部に覚えてしまった私は狼狽してしまいました。そして思わず彼にしなだれ掛かり腕を組もうとしたのですが、正ちゃんはなぜかそれを拒否します。

「駄目だよ」
「どうして」
「生徒に見られてるかも知れない」
「そんな……考え過ぎだよ」
「千寿ちゃんカワイイからさ、男子の中じゃきっと評判だぜ。跡を付けてる奴がいてもおかしくない。俺と付き合ってるなんてバレたら、一大スキャンダルになってまずいだろ」
「まさか。それなら正ちゃんだって」
「残念ながら俺はまるでモテないから大丈夫だ。千寿ちゃんはもっと自分を知って気を付けなきゃ。俺は心配なんだよ」
「うん、わかった」

 いつもはひょうきんな正ちゃんが真剣に言ったので、私も素直にうなずき彼から離れました。彼との関係は誰にも知られてはいけないと、大学の先生にも注意されてましたし。自惚れだと言われそうですが、私の容姿は人並み以上だと思います。色白で黒髪ロングストレートヘアなので、よくお人形さんみたいだと言われますし、背も高い方で今着てる黒いスーツも似合ってると思います。

 それに比べて正ちゃんは男としては小柄だし、スーツがつんつるてんで場違いに見えてしまいました。顔もお笑い系でモテそうにはありませんけど、面白いし優しいし、それでいて根は真面目で頼りがいのある、私にとっては最高の彼氏なんです。

ーーああ……私のアソコがキュンキュンしてる! 正ちゃんを欲しがってるのかしら? 信じられない……

 さっき感じた下腹部の異常がますます膨らんで、そんなはしたない事が頭に浮かんだ私は赤面してしまいました。私はまだ正ちゃんに体を許していません。それどころか、実は男の人と経験した事すら一度もないんです。なのにどうして、アソコが彼を欲しがってる、なんて思ってしまったんでしょう?

「何だか顔が赤いよ。トイレに行きたいんじゃないの?」

 食事屋に着いた時そんな事を言われた私はますます真っ赤になって、逃げるようにトイレに向かいました。正ちゃんは、顔を赤らめモジモジと腰を揉んでる私に気付いてしまったのです。でも私はオシッコしたかったわけではありません。困った事に店のトイレは使用中。もう人目をはばかる余裕もなく、まるで小学生みたいにスカートの上から両手で押さえてモジモジと地団駄を踏みながら、こんな場所で「アソコを弄りたい」と言う信じられないエッチな欲求に突き上げられた私はパニック寸前でした。一人切りならすぐさまオナニーしちゃったに違いありません。

ーー私って、こんなエッチな子じゃないのに、どうして? ああ、早くう! 我慢出来ないいっっ!!

 ようやく開いた女子トイレに脇目もふらず飛び込んだ私は、ジャーッと水を流すと即座に胸とアソコに手を忍ばせていました。まず下着越しに敏感な部分に触れた瞬間、私は余りの心地良さでアーッと大声が出てしまいます。いつの間にかカッターシャツをツンと突き上げてしまうくらいコリコリに固まってた乳首は、布地越しでもビンッと電流みたいな快感の矢に貫かれたみたい。そして夢中でショーツの上から探ってしまったクリちゃんの気持ち良さと来たら本当に飛び上がってしまうくらい強烈で、私はエッチな声を上げながらピインと背筋を弓なりにそらしていました。

ーーアン、正ちゃん、キモチイイよ! こんな、こんな……あ、いくうっ!

 私恥ずかしいんですけど、彼の事を思い浮かべながら指を使ってしまう事が時々あるんです。でもいつもは下着の上から感じる部分を指でゆっくりとスリスリしてると、とても気持ち良く幸せな気分になって十分満足でした。ところが今は経験した事のない猛スピードで指を動かしてしまい、すると生まれて初めての強烈な快感で頭が真っ白になったんです。

ーー私、こんな所でオナニーして、初めてイッチャッタんだ。恥ずかしい

 それが私が「イク」と言う感覚を知った初めての経験でした。その瞬間オシッコも出ちゃったようでショーツが冷たく、ようやくモヤモヤが晴れてスッキリした私は、今度は酷い罪悪感と羞恥に苛まれ、心臓がバクバクしていました。でもショーツを脱ぐわけにもいかず、そのまま戻って彼と食事を取るよりなかったのです。

 食事中口数が少なくなってしまった私を気遣ってくれたのか、正ちゃんは実習の事には一切触れず、他愛のない馬鹿話で笑わせてくれました。実は冷たいショーツの情けなさで落ち込んでいた私ですが、彼の思いやりが伝わって来てとても嬉しかったです。今日一日嫌な事が沢山あったけど、正ちゃんなら分かってくれるし、話をすれば楽になる。そう思うと、イケ面にはほど遠いし私より小柄で貧相な彼が、とても頼りがいのある素敵な人に見えて来て、私は自分の選択に間違いはなかったと確信しました。

ーー正ちゃん、ありがとう。私、明日からも挫けずに実習頑張るよ。だから絶対一緒に先生になろうね。そしたら……私、あなたのおヨメさんになるんだ

 こうして久しぶりに彼にときめいて、胸がキュンとなった私。だけど困った事に、さっきオナニーでスッキリした筈のアソコまで又もやキュンとなってしまいました。一体今日の私はどうしてしまったんでしょう? このエッチなモヤモヤを振り払おうと、脚を組んで腰をよじり、太股に爪を立てたり爪先を踏んでみたりしたのですが、どうにもなりません。体の奥からドクンと熱いものが溢れて来るのがわかり、ショーツがさらに酷く冷たくなりました。さっきオシッコだと思ったのは、この嫌らしい汁だったのかも知れません。

 歩いて送ってもらった夜道で、スカートの中の熱い彼への想いが耐え難くなって来た私が腕を組もうとすると、もうかなり遅くなっていたためか、今度は許してくれました。さらに街灯が途切れて暗くなって来た辺りで、勇気を出した私が、チューしよ、とおねだりすると、それにも応じてくれた正ちゃん。ホンのわずか唇が触れ合っただけですけど、彼の温もりが伝わって来てこれまでにない幸せなキスでした。

ーーああ! あなたが欲しいの。お願い、襲ってよ、正ちゃん

 とうとう私は激情に任せて、彼の手を取りスカートの中を触らせると言う暴挙に出ていました。私がショーツを濡らしてるのがわかれば、正ちゃんが襲ってくれるんじゃないかと思ったのです。もちろん彼が理性を失ってしまったら、喜んでバージンを捧げるつもりでした。

 だけど異常に欲情して見境がなくなった私と違い、やっぱり正ちゃんは冷静でした。

「駄目だよ、こんな所で」
「ごめんなさい」

 確かに人通りのない夜道と言っても街中なのです。誰に見られてるかわかりません。諫めてくれた彼に素直に謝った私ですが、やはりまともではなかったんでしょう。正ちゃんの次の言葉が、あまりにも衝撃的に聞こえてしまいました。

「明日からはもう会わない事にしよう」
「えっ、どうして!? う、ウソ……」
「ち、ちょっと千寿ちゃん! 何か勘違いしてるんじゃない?」

 私は正ちゃんの言葉の真意が掴めず、いきなり別れを切り出されたように感じて、子供のようにしゃがみ込むとメソメソ泣いていたんです。

「あのさ、実習の間は、って事だよ。ホラ、やっぱバレるとヤバイしさ」
「でも」
「気を散らさないで、実習に打ち込もうよ」
「二週間長過ぎ」
「しょーがないな。じゃさ、週末はデートしていい事にしよう。千寿ちゃんが一週間真面目に頑張ったら、どこでも好きな所に連れてったげるよ」
「ホントにい? じゃあ見つかんないように遠出して、海行こ、海!」
「ははは、今泣いたカラスがもう笑ったな。遠くの海に連れてったげるから、千寿ちゃんのハイレグビキニ、期待してるよ」
「コラ! 調子に乗るな」

 結局私のとんでもない勘違いだった事がわかり和やかに別れたのですが、家に帰っても体のモヤモヤは晴れてはくれません。家族の目を盗むように早々と自室にこもり、ベッドの上で指を使ってしまいました。

 今度は学習してたので枕を口に噛み、エッチな声を押し殺します。大好きな正ちゃんを思い浮かべながら敏感なしこりを下着越しに指で擦り上げると、頭の中が真っ白になるくらい強烈に感じてしまい、まもなく訪れた絶頂にビクビク体を慄わせるとショーツが冷たく濡れていました。どうやら恥ずかしい事に私は「イク」と同時にエッチなお汁が沢山洩れてしまう体質のようです。乳首はともかく、股間の感じ易い部分を直に触る事はまだ怖くて出来ませんでしたが、それでも十分過ぎる快感で私は夢中になってしまい、何度もイッてしまってショーツの替えが足らなくなりそうでした。

 正ちゃんにはおあずけを喰らってしまいましたが、きっと海に行った時に襲ってくれるのではないでしょうか。そう思うとワクワクした私は、ますますはしたないオナニーに熱がこもります。とめどなくエッチなお汁を出してしまうアソコの奥がざわめいて、正ちゃんを、いやもっとダイタンに言ってしまうと正ちゃんのおちんちんを狂おしく求めているのをハッキリ自覚してしまいました。

 こうして私はこの夜、初めて正ちゃんと結ばれるであろう時の事を想像しながら、彼に抱かれる期待で処女なのに欲情してしまった体を繰り返し指で慰めて、いつしか心地良い疲労と共に眠りについたのでした。




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