1.縄緊縛で蘇る被虐の歓び

「んんっ!」

ーーな、何?

「お目覚めでございますか、奥様」

ーー黒木さん?

 ゆったり深々としたソファで目覚めた私は、長年高柳家に仕えてくれている執事の、落ち着いた低音の渋い声が聞こえても、しばらく頭が働きませんでした。でも、布地で口が塞がれており、声が出せなかったのです。ハッとして、後ろ手に手錠が掛かっている事がわかり、パニックに陥る寸前でした。こんな事があっても良いのでしょうか。いつも沈着冷静な執事の黒木さんが、もう一人その場にいた男性に声を掛けると、おぼろげながら状況が思い出されて来ました。ようやく頭が回って来たのでしょうか。

「金谷君。奥様がお目覚めのご様子ですぞ」
「奥様、このようなご無礼を、どうかお許し下さい。しかしながら……」
「事情は、私が説明致しましょう」

 後ろ手に手錠を掛けられて、ソファーに寝かされ、口も塞がれる。どうしてこんな事になったんでしょう。眼鏡を掛けた、金谷さんの優しげな顔を見てる内に、彼が私に逢うため、この応接間にいらっしゃった事が思い出されて来ました。恐縮しきりな風情のこの青年は、中三で受験生である、長男建一の家庭教師。建一は、主人の跡継ぎに期待されて、小学生の頃から家庭教師を付け、英才教育を受けさせて来ました。

 私の主人は、旧財閥の流れを組む、高柳グループの代表で、高柳商事の代表取締役を、長年務めて参りました。40を過ぎてから私と結婚した主人は、男子の出産を希望しましたが、長女が生まれてしまい、落胆を隠せませんでした。私も申し訳ない気持ちでしたが、2人目の子が男の子だったので、ホッと胸を撫で下ろしたものです。やはり高柳家のような旧家では、直系の男子は宝物で、皆様に大変喜んで頂き、本当に嬉しかった事を、昨日のように覚えています。

 金谷さんはとても優秀な方で、学習塾での評判を聞きつけた主人が、是非にもと頭を下げて、わが家に来て下さる事になりました。大人しくて内気な建一も、物静かで優しい金谷さんとは、じきに打ち解け、彼が来る日を心待ちにしている様子でした。そう、今日が金谷さんの来訪日。学校から帰宅して夕食までの数時間が勉強を教わる時間。そこでお話があるとの事で、金谷さんとお合いしたのでした。

 それはとても嬉しいお話でした。建一の学力が大いに向上したので、目標としている栄光学園の合格は間違いない、特待生選抜を狙ってみては、と言われたのです。でも、それがどうして……

「良美のお出しした、紅茶のお味はいかがでしたか。奥様のお口に合えば、幸いでございます」

 良美さんは、黒木さんの実の娘。高柳家のメイドとして、父娘ともに働いてもらっています。そう言えば、金谷さんとお話している時、良美さんが茶菓子を出して下さった事を思い出しました。先に口を付けた金谷さんに、「奥様もどうぞ」と勧められたので、口を付けて………

ーーあの紅茶に何か入ってたんだわ

「奥様もお気付きでございましょう。良美に言って、睡眠薬入りの紅茶を、奥様にお出ししたのでございます。それと申しますのも、これからお話しする事は、あの子にも大いに関係がございまして」
「それは僕も同じです」
「左様、この金谷君と良美が、結婚を前提で付き合っている事は、奥様もご存じかと。先日、良美が体調を崩して、しばらくお暇を頂いたのを、覚えていらっしゃいますか。元気が取り柄のような子だけに、私も大変心配致しました。何と、あの子は身籠もっていたのです」

 私の口は塞がれています。目はつむる事が出来ます。どうして耳だけは塞ぐ事が出来ないのでしょう。私は聞きたくなかった事実を、しっかり聞かされてしまいます。

「あの子は決して、不用意に男性に身を任せるような、ふしだらな娘ではございません。まして結婚が決まった相手のいる身です。誰の子かと聞かれても、頑として口を割ろうとしない良美を見て、私は確信しました」

 私の耳はまるで死刑判決を受けるかのように、黒木さんの話に釘付けでした。

「大恩ある人の名前を聞かされて、良美は激しく泣きじゃくりました。絶対に口外してはならないと、あの子なりに恩義を感じていたのでしょう。逆らう事など考えられない相手に迫られた良美は、黙って身を任せ、子供を身籠もってなお、健気にその人を守ろうとしたのです」

 いつの間にか黒木さんは感極まって涙ぐみ、声が震えていました。

「私は娘を誇りに思っております。そして、その娘を玩んだ旦那様が、憎いのです。奥様には大変申し訳ございません。金谷君」

 金谷さんがやって来て、口を塞いだ布を外してくれました。ようやく出た私の声は、情けないくらいの小声です。

「あなた達、何がお望みですの? お金なら融通が」
「奥様、滅相もございません。良美の堕胎はお釣りが来るくらい、旦那様が面倒を見て下さいました。十二分なお給金も頂いております」
「僕もビックリするくらい、お金は貰ってますよ」
「な、何を!」

 金谷さんが、両脚に手を掛けて来たので、私は狼狽してしまいました。そのまま人の字に開脚させられると、黒木さんが迫って来ます。その手には紐のようにソフトな縄が。

 私は普段から着物を着用して過ごしているのですが、いつも良美さんに着付けをお願いしています。もちろん一人で着る事も可能ですし、黒木さんだってお手のものでしょう。アッサリ帯を解かれて、肌が露わにされていっても、私は金縛りにあったように、身動き出来ません。とうとう恥ずかしい乳房が剥き出しになると、お二人が声を発しました。

「奥様、見事でございます。何と、お美しい」
「ぼ、僕にはもったいないです」

 お二人は興奮なさってるのでしょう。はあはあと鼻息も荒く、私の大き過ぎて、見苦しい筈の膨らみに、好色な視線が集まるのが痛いくらいに感じられました。主人以外の男性に見られて、凄まじい羞恥が込み上げ、生きた心地もしません。

ーーああ、そんなに見ないで下さいませ……ば、ばかな……

 すると、何と言う事でしょう。私の乳房がふしだらな反応を始めてしまったのです。ムズムズと異様に火照った双乳が、固く張り詰めていき、先端の蕾がピインと勃ってしまうのを、どうする事も出来ませんでした。もちろん見逃してくれるわけはありません。黒木さんの言葉は辛辣でした。

「奥様、いけませぬな。我々しもじもの者に見られただけで、どうしてそのような、はしたない反応をなさるのですかな」
「……言わないで」
「大変失礼でございますが、奥様は欲求不満だとお見受けします。それも深刻な」

 「無礼もの!」と一喝すべきだったでしょう。使用人に欲求不満だなどと言われて、少なくとも強く否定しなくては、示しが付かないと言うものです。なのに私は、乳房が張り詰め、乳頭を固くしてしまうと言う、明らかな欲情を見せてしまった事に、自分自身が狼狽していたのです。すっかり弱気になって、小声で抗議する事しか出来ませんでした。
 
「そんなの、嘘です」
「では、お身体に伺う事に致しましょう」

 後ろ手錠で拘束され、2人の男性に押さえ付けられた私は、抵抗する気力を奪われたのでしょう。着物がはだけられ、秘書を隠した湯文字まで取られてしまうのを、ただ呆然と見送り、裸身を晒してしまいます。とうとう生まれたばかりの姿にされて、大事な部分まで見られてしまうー恥ずかしさを通り越して、悪い夢を見ているような、非現実的なイメージに囚われてしまいました。ですが、黒木さんに、真っ赤な紐縄を首に回されると、ハッとして声が出ました。

「な、何をするのです!」
「旦那様がいつもなさっておる事で、ございましょう」
「……知りません」

 黒木さんに手慣れた手付きで、縄掛けされて、私はつい口ごもってしまいます。本当は良く知っている事を、告白しているようなものでした。

「……凄い」

 黙って見ていた金谷さんが、そう言葉を呟いたのは、胸元から乳房をくくり出すように、縄を縛り付けられ、まるで誇示するように、雄大な膨らみが露わになった時でした。先端の蕾がピンと勃起して、男性を挑発しています。主人はいつもひどく興奮し、縛りが完成するなり、幼児のようにむしゃぶり付いて来たものでした。

「私は、旦那様の道楽に付き合わせて頂いたものでしてな。SMクラブで、技を競ったものなので、ございます」
「後学の参考とさせて頂きます」

 生真面目な金谷さんが、とてもこんな場には相応しくない事を、おっしゃいました。確かに黒木さんの縄捌きは堂に入っており、主人にこう言うのだと教えられた「亀甲縛り」は、苦痛こそ覚えぬものの、絶対に抜けられないと言う、気分が盛り上がるツボを心得たものでした。

「金谷君、奥様の両脚をかかえて、腰を少し浮かせて頂けますかな」
「は、はい。では奥様、失礼致します」

 両脚の付け根に顔を近付けた金谷さんは、純情な少年みたいにドギマギしてる様子でした。そして腰が少し浮いた瞬間に、股間に縄をもぐらせた黒木さんは、手慣れた手付きで、紐縄に結び目を作っていきます。全てサイズが異なっており、大中小の結び目が食い込むように、グイッと縄が引き絞られました。伸縮自在な紐縄を黒木さんが調節してから、更に強烈に引き絞られて、私は「ウッ」と言葉をもらします。

ーー結び目が変なトコロに、食い込んで来る!

 主人と一緒にSMクラブで、修行した黒木さんの腕は確かでした。大きな結び目がちょうどアソコにズボリと埋まり、中くらいの結び目はお尻の穴にめり込み、おまけの小さな結び目がクリトリスを圧迫するのです。もう私は気もそぞろでした。

「奥様。股縄を締められた気分はいかがですかな」

 平然として無表情な黒木さん、そして固唾を飲んで熱い視線を向けて来られる金谷さんに、股縄縛りなどと言う、恥辱極まりないものを見つめられる恥ずかしさに、私は思わず股間をよじってしまいます。その途端ズンと嫌らしい快美感に貫かれて、浅間しい声が出てしまいました。

「アアンッ!」

「今宵の宴には、その縄化粧でお出になって下さいませ」
「な、何をバカな!」
「その上からお召し物を着れば、よろしいのですよ。潤滑油を使いましたので、痛くはありますまい。くれぐれも、先程のような声をお出しになりませぬよう」

 腰を動かさぬよう、じっと身を固めながら、唇をきつく噛み締めます。さらに黒木さんは、恐ろしい薬剤入りのチューブを持ち出して来ました。

「奥様も、よく御存知でしょう。旦那様がご愛用のおクスリでございます。さっき申し上げた潤滑油にも少々混ぜておきましたが、こちらにもサービスしておきましょう」

 それは確かに、いつも主人に使われる「女悦膏」と言う、中国直輸入の高級媚薬でした。縄でくくり出されて、大きく張り出した乳房の先端の蕾に、黒木さんがまぶすように、そのクリームを塗り付けて来ると、両乳首が息を吹き込まれたみたいに、ますます活性化してしまいます。

 その時、応接間をトントンと軽くノックする音が聞こえ、元気なメイドの良美さんが、快活な声を聞かせて来ました。

「宴の支度が終わりました。皆さんもうお揃いですよ」
「後10分したら、そちらに行こう。お嬢様やお坊ちゃまには、待ってもらいなさい」
「わかりましたー」

 良美さんの声が遠ざかり、ホッとしましたが、時間はありません。私は乱れた着物を着せてもらい、縄にきつく縛られたままで、宴に出席する覚悟を決めるしかなかったのです。

「食後に、お嬢様方は皆さんで外出されます。金谷君、頼んだよ」
「良美さんの見たい映画があるそうなので、たっぷり時間を潰して来ます」
「奥様は気分が優れないと言って、わたくしと留守番するのです。それとも、外で恥を晒す方が、お好みですかな」
「……黒木さんに従いますわ」
「ご賢明でございます」

 結婚してから、処女だった私は、主人に縄で縛られて、抱かれる歓びに完全に目覚めてしまいました。用意周到な黒木さんに縄掛けされ、淫薬まで使われた私の身体は、早くも主人を裏切り始めていたのです。もう私はまな板の上の鯉でした。



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作者二次元世界の調教師さんのブログ

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